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■オープニング本文 瞳を閉じて。呼吸を整えて。ゆっくりと墨をすり続ける。あの人への想いを込めて。 流れるように紙の上を滑る筆。 「お倫、居ないのか‥‥?」 遠慮がちに戸を叩く音。手が止まる。黒い染みがじわりと広がる‥‥。 「居たのか。雨戸まで締め切って行灯なんかつけて。外は天気いいぞ?」 くしゃりとまだ墨も乾かぬ紙を丸める。白い手が汚れる。 顔を上げたお倫の邪魔をしないでという瞳に、清助はたじろぐ。 「そろそろ最後の桜が散る頃だからさ。一緒に花見でもしないかと――」 声は尻すぼみになり、途切れてしまう。 「行かないわ」 冷たい声。清助はお倫の気持ちを知っている。だから遠慮はしていた。 お倫も清助の気持ちを知っている。彼が自分の事を想ってくれていると。 でもお倫が違う男を想っている事を彼は知っていると。それを知っている事も知っている。 清助も彼女がそれを知っている事を知っている。 知っている、知っている――。堂々巡りしながら、二人の間の壁はずっと続いている。 「‥‥帰ってよ」 「う、うん。邪魔してわるかったな‥‥」 (あいつ‥‥馬鹿野郎) 草履の先が道端の石ころを蹴る。 眩しい太陽は心の中までは明るく照らしてはくれない。 ダチだった翔平が村を出ていってからもう一年が過ぎた。志体持ちで、平凡な清助がどう逆立ちしても敵わない男。 開拓者として生きるべくちっぽけなこの村から飛び立った力強い翼。お倫の想いを振り捨てて。 どうしてもついていくと泣き縋ったお倫に、戦いの道に女は要らないと言い捨てて突然に旅立った。 約束した恋人ではなかった‥‥でも、あいつだってわかっていたはずだ。 翔平を見るお倫の瞳は一途で想いに満ち溢れていて‥‥清助はだから諦めていられた。 絶対に敵わないから。どんなにお倫を想っていたとしても。彼女の瞳に自分は映らないから。 だけど翔平は居なくなってしまった。お倫はそこに残っている。 (お倫も諦めきれない。俺も諦めきれない。翔平‥‥) 木の幹に叩き付けた拳。はらはらと薄紅色の花びらが地面に落ちる。 「アヤカシが出たって?」 「ああ、山で昨日遭ったそうだ。幽霊みたいのが、木陰から追いかけてきたらしい」 いやいや振り切って逃げれてよかったよな。 村の一軒一軒全部に周知しとかなきゃな。人里に降りてくる前になんとかしないとねぇ。 「村長が開拓者に退治依頼の手配に行ったからお前も家を訪ねて回るの手伝ってくれよ」 ああ、それぐらいお安い御用と清助もぽつりぽつりと散る村の家々に山へ近付かないように知らせて歩く。 「お倫‥‥?」 幾ら戸を叩いても出てこないのはいつもの事だ。 翔平が居なくなってから誰とも人付き合いをしないので、今はわざわざ訪ねるのは清助くらいである。 村人達もあまりの扱いにくさに煙たがって、用事があっても全部清助に仲介を頼むようになっている。 「ん‥‥珍しいな、出掛けたのか?」 文机代わりに使っていた粗末な卓の上に一枚の手紙が開かれたまま置かれている。 脇に置かれた小箱には今まで書いたと思われる手紙が束になって重ねられて。 つい、清助は畳に上がり覗き込んでしまった。勝手に見てはいけない物だと思いながらも。 お倫の手筋だ。 毎日毎日、翔平宛にまるで日記のように想いや日々の出来事を書き連ねていたようである。 行方の知れぬ人に出すあてもなく――。 一番新しい手紙。その文面。 『山の上に咲いている最後の桜を見に行ってきますね。まだあの木だけは満開なはずです。来年は二人で見たいけれど――』 「‥‥!」 アヤカシが出たという知らせを聞く前に。お倫は行ってしまったのか‥‥! ちょうど到着した開拓者に血相を変えた清助が袖を掴んで唾を飛ばす。 「山へ退治に行くんだろ。頼みがあるんだ!俺も連れていってくれ!」 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
司摩六 烈火(ia1022)
26歳・男・陰
紅咬 幽矢(ia9197)
21歳・男・弓
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
ブローディア・F・H(ib0334)
26歳・女・魔
猫宮 京香(ib0927)
25歳・女・弓 |
■リプレイ本文 「おいおい随分鼻息が荒いじゃねえか。自分で退治したいのはわかるが、無理はいかんぜ」 アヤカシを討伐に行くだけの依頼のはずだった。特に足手纏いを連れていかなくてはならない必然性もない。 必死に縋る清助に一瞬は困惑した司摩六 烈火(ia1022)。 だがよくよく事情を聞けば、既に目指す山の上には警告が間に合わなかった村娘が一人居ると。 「そいつぁ、急がないとな」 「危ないけど、ボク達が付いてるからね。大丈夫、一緒に行こう」 ついでだから花見気分で行くのもいいよね、と立派な弁当などこしらえてきた水鏡 絵梨乃(ia0191)。話を聞いて表情が引き締まる。 「倫様とおっしゃるのですね、その女性は。あなたがその人を助けたい気持ちも判ります。でもアヤカシは私達に任せてくださいね」 ブローディア・F・H(ib0334)が手にした杖を示し、自分は魔術師だから何があってもフォローはできると請け負う。 山へ女性一人で登っていった事情。詳しくまでは述べないが清助の表情や言葉の表現から二人の関係がおぼろげながら察せられる。 「お倫さんの救出が最優先になりますね」 強く頷くコルリス・フェネストラ(ia9657)。 アヤカシをできるだけ早く発見せねば。強い決意。研ぎ澄ます心。 深く息を整えて掻き鳴らす弓弦。瘴気を捕らえるべく響かせる目に見えぬ共鳴の波動が山中に広がる。 「‥‥まだ上の方に集まっているのでしょうか。急ぎましょう」 もう少し登ってから、再度鳴らしてみよう。この網の中へアヤカシを捕らえてくれん――。 警戒を続けながら登る山道。懐にふと手をやる絵梨乃。道中酒でも飲みながら、というのは癖みたいなものである。 (あれ‥‥まぁ、いいか) 腰に下げてきたつもりだったけれど、お弁当に気を取られて家に忘れてきちゃったかな。 別に酒を飲まなければ得意の酔拳が使えないというわけではないけれど、そこは気分の問題として。 (ん〜、無ければしょうがないよねぇ。素面で行きますかっ) ●無粋な輩を散らせ 桜の花びらが風に乗って舞い寄せる。 山頂近くにぽっかりと開いた空。満開に桜色に彩られた一本の梢。佇む黒髪の乙女。 しかし無粋な輩がいる――恨み、憎しみ、空虚。蒼白い肌を透かせた幽霊アヤカシ。六体のそれが乙女を囲む。 これは良き獲物を見つけたと忌まわしげな歓喜を唇に浮かべ、喉をひゅうひゅうと鳴らすような笑い声を上げている。 後ずさる乙女の背中に当たったのは桜の梢。はらりと花びらを落とすだけで、木は護ってはくれない――。 反応を見つけたコルリスの助言に導かれて、山道を駆け上がってきた開拓者一行と清助。 「アヤカシはボク達でなんとかするが、もしもの時はお倫を守ってやれよ、清助」 ぽんと肩を叩いて更に走り出す絵梨乃。実際にアヤカシを目にして一瞬ひるんだ清助も、愛する娘を助けたさに一心に駆ける。 「無茶だと分かっていても‥‥見栄を張りたい時がある‥‥ってか」 ニヤリと片頬で笑った烈火の手から飛び発った式が透けるようなアヤカシの身体に絡みつく。 「俺も無茶と言えば無茶なんだけどな‥‥」 人の事は言えたもんじゃないと苦笑めいた想いも胸から込み上げる。 武器さえ持たずにアヤカシの中に飛び込む陰陽師ってのは、ちょっと無理がないかと自問自答したくもなるが。 「女を護るのも男の役目ってなぁっ!」 その言葉に紅咬 幽矢(ia9197)がちょっと眉間に皺を寄せたのは、自身もその数に含まれたように‥‥。気にしすぎだな、と反応しすぎてしまう自分に対して眉を吊り上げる。 怒っても綺麗な美人顔、というところである。 「お倫、今助けるからなぁっ!」 「‥‥清助?」 勝気なお倫も囲む幽霊アヤカシ達の姿に怯えて、今にも崩れそうに顔を蒼白にしている。足が強張って自力では動けない。 進路を邪魔だてするアヤカシに絵梨乃の蹴りが叩き込まれる。 清助を攻撃しようとした別の手は幽矢の放つ即射が払う。 「おまえたちの相手はこちらだよ」 コルリス、猫宮 京香(ib0927)と連携して矢の雨が絶え間なく降り注がれる。耳を塞ぎたくなるような不愉快な井戸の底から響くような声を上げる幽霊達。 お倫の元に辿り着くより先に‥‥間に合わないかと思われた一体の動き。 「聖なる矢よ、悪しき魂を貫きたまえ!」 ブローディアのホーリーアローが迸った。 瘴気を貫く聖なる力にアヤカシが苦悶に仰け反った時、清助の手が届いた。手首を引いた勢いでお倫の身体が清助に抱き止められる。 絵梨乃がすかさずアヤカシとの間に割り込んで庇い、その鋭く伸びた爪を受け止めた。 「護りながらは‥‥埒が明かないかな」 避ければ後ろの二人に攻撃が当たってしまう。この状態では動きにくい。速度を活かした攻めに転じれば蹴散らしてくれるのだが。 アヤカシの半数が後衛達を標的とした攻撃に向かったので、幸い今なら清助達を逃がせられる隙がある。 「下手にバラバラにならない方がいいが‥‥精神攻撃ってのは厄介だしな」 互いが互いを守り、弱き者を囲んでアヤカシには抜けさせない。物理的な手段しかもたない敵ならそれだけで楽なのだが。 残念ながら開拓者の傍だからといって安心していられるような敵ではなかった。 時折幽霊達が放つ呪詛の声が頭蓋を割らんばかりに、苛む。志体を持たない清助やお倫ではとても耐えられたものではない。 蒼白い顔をして今にも倒れそうな二人にすかさず治癒の符を当てる。 「清助、ここじゃ無理だ。お倫を連れてもっと下がるぞ」 敵もこれ以上余計な数は居ないはずだ。居たとしても単体なら、俺が牽制して振り切ってやる。 「じゃ、後は頼んだぜ絵梨乃。行け、清助」 お倫を抱えて走る清助の背中を守るように、烈火が注意を払いながら後を追った。 後衛達がまとめてアヤカシに狙われているので別の方向に走る事となる。 「新手が出てきたら‥‥俺が盾になってやらぁ」 「さあて、反撃開始ですね〜」 清助達が戦場から離れたのを見届けた京香。これからが本番と重機械弓を構えながらにっこりと微笑む。 「それ以上近づくのは禁止なのですよ〜」 弓と魔法による集中砲火が一体のアヤカシを瘴気へと還した。 至近の迫られれば弱い、そんな互いの弱点を補って襲われる者あればそこを撃つ。一体また一体とアヤカシは着実に数を減らされていった。 「遊びの時間は終わりだね」 絵梨乃の動きに本来のキレが取り戻される。攻撃を次々とかわし、一時たりとも同じ場所に静止はしない。 ふらりと揺らめいて倒れるかと思われた身体が突然跳ね上がる。不規則な動きにアヤカシの攻撃がついていかない。 空振りした透ける背中に回し蹴りを叩き込む。空気のようで空気でない何か存在している手応え。反動で絵梨乃の身体がまた妙な方向にゆく。 余裕ができたブローディアの雷が飛んできてアヤカシの身体を走り抜ける。すかさず入る絵梨乃の強烈な蹴り。 薄く‥‥なったと思ったら瘴気は霧散して消えた。 「あと二体‥‥逃げようとしても無駄な事だ」 幾重もの攻撃を受けて逃走を図り始めたアヤカシ。淡々と言い放った幽矢が弦を強く引き絞って狙いを定める。 コルリスと京香の矢に追われて、すいと幽矢の射線を横切る形になったアヤカシ。一直線に風を切った矢、こちらを向いた瞬間その眉間を射抜く。 弓術師達から死角になった木陰。 絵梨乃の身体が気の波動により横滑りするような残像を描いて後ろ回し蹴りの体勢を象ったままアヤカシへと迫る。と同時に迸る青い閃光。 他の者に見えたのは龍のような形をしたそれだけだったか。決着は瞬時に着いた。 その攻撃を我が身に受けたアヤカシすら何が起きたか認識する間もなく踵の一撃に砕かれて散った。 ●仲良く桜下で宴を 「お倫、無事で良かった‥‥」 「‥‥は、離してよっ。あの、助けて戴いてありがとうございました」 我に返って頬を紅く染めながら清助の手を振り解くお倫。ぷいと背けた顔の眉根は厳しいが、命を張って助けにきてくれたのだ嬉しくはあろう。 清助に背を向けて丁寧にこちらにお辞儀をする姿に烈火は思わず苦笑を浮かべてしまう。 「礼なら俺より清助にするんだな。お前さんが危ないって真っ先にアヤカシの中へ飛び込んでいったのは開拓者顔負けだ」 後ろで複雑な表情をしている清助を慮って、そんな言葉を掛ける。恋敵登場って訳じゃねえから安心しな。 「あ、居た居た〜。お二人とも大丈夫ですか〜?アヤカシは全部退治してきましたよ!」 討ち残しの捜索は他に任せて、彼らの行方を捜しにきた京香とコルリス。三人の姿を見つけて大きく手を振って駆けつける。 「走って喉が渇いたでしょう。これ良ければ飲んでくださいね」 差し出された岩清水。言われてみればカラカラに渇いている。 「あ、ついでにお花見もしたいな〜と思って杯も持ってきましたから。どうぞどうぞ」 手際よく荷物から取り出して簡素な杯を二人に手渡す京香。コルリスが注いだ清く澄んだ水が臓腑に染み二人の心をも落ち着かせる。 息を吐いたところで、さてと。先ほど逃れてきた方向に目を向ける。割と離れてしまったので桜の木はここからでは見えないが。 「良かったら二人とも少し山で花を愛でてから帰らないか。さっきはゆっくりと見る余裕も無かったが、見事な桜だったじゃないか」 清助の肩を抱き、一緒に花見でもしていこうと烈火が勧める。顎をしゃくった先にはお倫が京香達とほぐれた表情で会話している。 「桜の下の眩しい花達を眺めるのも乙ってもんだ」 細めた隻眼。冷たい青も今は和んで優しい。 「満開の桜を目の前にして、花見もせずに帰る訳にゃあ行くめぇよ。なぁ」 「お帰りなさい。先に準備を始めてましたわよ」 黒地に燃え上がる炎をあしらった模様。一見では巫女袴と思わないような色彩の衣装だが真紅の膝裏まで流れる髪にそれがまた良く似合う。 透き通るような蒼白い外套、それさえも炎のゆらめきの一部に見えるから不思議だ。 艶然とした微笑を浮かべたブローディアが桜を背景に立って待っていた。 正面から見るあまりの胸の豊かさに清助が驚いて目を逸らしてしまっている。 「本当、サクラって綺麗な花ね。ジルベリアにも全く無い訳じゃないけどここまで見事に咲いてるのはまだ見た事がないわ」 天儀に戻ってきて良かったわ。振り返り、嬉しげに満開の桜を見上げる。一本だけだから余計に周囲の緑、空の蒼に映えて美しく。 元々ジルベリアの出身。戦乱の為に一度故郷に戻っていたが、こちらに渡って来てしばらく経つ。だけれど春を天儀で迎えるのは今年が初めてだ。 「さあ、宴の開始ね」 杖の先から迸る魔法の火球。瞬時にして積み上げられた薪が燃え上がる。 「うわわ、火力強すぎじゃない!?」 「これで炙って焼くのがいいのですわ。故郷の伝統料理を皆様にご馳走致しましょう」 既に下準備はして持ってきている。串に刺したソーセージを炎にかざし、脂がはじける音と共に香ばしい匂いが立ち昇る。 「お二人とも座って楽しもうよ、ほらこっち空いてるよ〜」 敷布が広げられて中央には絵梨乃が用意してきた弁当が一杯に広がっている。 京香がさらりと清助とお倫を有無も言わせず隣同士に座らせて、自分もお倫の隣に落ち着く。 「おにぎりに唐揚げに玉子焼きっ。たくさん作ってきたから遠慮なく食べてね。食後の甘味には芋羊羹もあるから」 芋羊羹は自分の大好物。そこは用意を欠かさない。料理を勧めながら絵梨乃もさっそく玉子焼きを頬張っている。 あれだけがっつり立ち回りを演じたので腹も空いている。う〜ん、我ながらいい出来。美味しいっ! 「清助、よく頑張ってくれたね。戦いは初めてなのにあの状況で迷わず飛び込めるなんてすごいよ!」 会話を途絶えさせる事なく、清助とお倫の間にぎこちない空気が流れればすかさず話題を与えて顔を綻ばさせる。 時々相槌を打ちながら幽矢はそんな二人の様子を微笑みを浮かべて見守る。 自然、村から開拓者になるべく旅立った翔平も口の端に上がった。今頃何処で何をしてるんだろうね。 清助の懸命にお倫を気遣う様子。ふっと遠くを見る時のお倫の瞳。 (片想いか‥‥。報われないかもしれないのに‥‥でも) 頑張れよ、清助。 できる事なら目の前に居るこの二人が結ばれて、慎ましくこの村で幸せを築けたなら。そう応援してやりたい。 今、ボクが二人にかけてやれる言葉は上手く見つからないけれど。 「綺麗だね、桜」 ぽつりと言葉が洩れる。 幽矢の声につられて清助とお倫も一緒に桜の枝を見上げる。ふと吹いた風が桜吹雪を巻き起こして一同の頭上を覆う。 「ほんと綺麗ね‥‥」 「うん綺麗だ‥‥お倫と見れて良かったよ」 一瞬の沈黙。お倫が言葉を返すかと思ったが何も言わずに顔を背けてしまう。 「あ、お肉が焼けたみたいですよ〜。うわぁ〜美味しそうっ♪」 止まりかけた空気を和ませる京香の声。こんがりと焼けて食欲をそそるソーセージ。 「お好みの調味料をつけて食べるといいわ。私のお勧めは胡椒ね、素朴だけどこれが一番好き」 「コルリスもこっちにおいで。一緒に食べなよ」 賑やかにお話するのは苦手ですからと、甘酒を提供して自分はふらりとその辺を警護がてら散歩していたコルリス。 酒といえば烈火が持参してきた、桜の花びらを漬け込んだこの席にぴったりの酒もある。つまみには梅干も。 「清助もお倫もいける口か?遠慮なく飲んでくれよ、せっかくの宴だ」 「はい私がお注ぎ致しますよ〜。ああ〜美味しいお酒にご飯。なんて幸せ〜」 もう満面の笑顔で幸せ一杯そのものという感じの京香に二人も笑い転げる。 おおいに食べ、おおいに飲み。また場は賑やかに戻り、青空と桜の下に楽しげな皆の声が響き渡る。 「よし腹もくちくなったし、皆で花札でも遊ぶか!」 「私は少し散歩したくなったのでぷらりと歩いてきますね〜」 会話に加わるのも疲れて、ほんの少し困った顔をしているコルリスを誘って京香が立ち上がる。 「はい私もご一緒させてください」 気遣ってくださってありがとうございます。そんな物静かな微笑に京香はにこにこと返す。 「若いっていいですね〜。私も昔はあんな感じでしたけど〜♪」 「あなたも若いではないですか、そんな」 (こう見えても一児の母親なんだよね〜実は) 惚れた腫れた、そんな時代も想い出となっている。あの二人を見てると何だか懐かしくなる。 「そうだ、コルリスさんは好きな人は〜?」 「え‥‥そ、その‥‥」 助け舟を出したはずが酔った勢いで余計にコルリスを困らせてしまっている京香であった。 「片想いする女に片想いする男‥‥後は二人の問題さな」 宴の後、ほんの少しだけ歩み寄った感じのする二人を村へ送り届けての帰り道。 恋路の行方はどうなるか、わからないが。 (上手くいけば、いいね――) |