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■オープニング本文 店と自慢の漬け物の名を大きく掲げた重い荷車を引いて町内を競争する。市井の楽しみと店の宣伝を兼ねて漬け物屋達の寄り合いが毎年行なっている催しである。 ご町内のお年寄りから子供まで、見物人からはやんややんやの喝采が飛ぶ賑やかな光景の中に、あの薫りがぷんと漂う。 「今年は誰が勝ちますかねぇ」 寄り合いの会合。茶を啜りながら店の主人達が和やかに催しの次第を話し合っている。 全員が同じ商売で自分の店が一番だと思っているからお茶請けは無論漬け物である。平等に各種揃っていて膳は漬け物だけであるにも関わらず、見た目鮮やか品数豊富で意外に華やかだ。 毎年三組の店を籤で決めて十二台の荷車が大路を激走するという行事、催す側も非常に楽しみにしている。 「さてさて走る店は決まりましたかな」 組合長といった格の老舗の主人、初代から守り続けているという年代物の糠床が自慢のご老体が年に似合わぬ揃った丈夫な歯で大根をいい音を立てて噛み千切り、茶を美味そうに呑む。 「寒梅屋さん、秦味屋さん、黒乃屋さんと決まりましたようで」 ほう、という声にざわめき、ひそひそ話が混じる。寄り合いに所属はしてはいるものの何かと仲間内でも評判の悪い黒乃屋が出場するのか。 味はそこそこ、梅干には紫蘇ではなく何か別のもので着色してごまかしているとか、酸味の効いた新商品とかいって腐った漬け物を売ったとか。 凄みのある兄ちゃんを雇って年寄り世帯に強引に押し売りしただと、商売敵に密かに嫌がらせを仕掛けるとかよろしくない評判が何かと年中沸いているが。 しかしあちこちの小役人と密着した関係で、無下にもあしらえない。 「今年の開催場所は黒乃屋さんのご町内で」 ざわめきが更に大きくなるが、睨まれて小いびりされるのも嫌である。なよっとした中年男が立ち上がると一斉に皆口をつぐんだ。 「ひょーほっほっほっ。あたしが今年は取り仕切るんでございますね。張り切ってこの黒乃屋、務めさせて戴きますよ」 扇子を口元に当てて甲高い声で笑う男。黒乃屋の主人、黒田帥匡(くろだもろまさ)。 妙にくねくねした仕草といい、よく舐め回される薄い唇といい、何というか見てるだけで人を苛立たせる雰囲気を持っている。 顔立ち自体は気品がある作りなのだが、表情が厭らしいせいで卑しく見える。 「あの黒乃屋さんが真っ当な勝負で済ませるとは思えないねぇ」 「絶対何か仕掛けてくるよ、事故に見せ掛けて職人に怪我でもさせられた日にはたまったものじゃない」 暗い顔をして帰路でぼやくのは今年の出場に決まった他の二店、寒梅屋と秦味屋の主人である。 寒梅屋は壷漬けやべったら漬けなどを主力商品として扱い、歯応えと絶妙な甘さ加減が評判。 店の奉公人達は皆熱気むんむんと活気があり若衆は何故か皆褌一丁で作業、いつも目尻を下げて笑顔を絶やさない主人はご近所にも好かれている。 秦味屋は名前の通り、舶来の一風変わった漬け物を提供する店である。 最近では秦の一地方での特産として知られる白菜の大蒜唐辛子漬けを神楽の庶民向けに売り出していて、ちょっと離れたご町内からもその味を求めて買いに来る固定客までついているという。 他にも天儀ではあまり作られていない野菜を使った保存食を仕入れて常備しているので、秦出身者が故郷の味を求めて店を訪れたりして活況だ。 「どうもきな臭いから、走る人間はちょっと雇ったほうがいいかもしれませんねぇ‥‥」 「無事に終わればいいんだけどなぁ〜」 何はともあれ、支度を始めましょうか。 肩幅よりちょっとあるくらいの幅の狭い一人引きの荷車。 出走店自慢の漬け物が入った樽にでかでかとそれぞれの店の屋号を書いて。 漬物石を一杯用意して‥‥。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
荒屋敷(ia3801)
17歳・男・サ
三嶋笙(ia5171)
77歳・男・サ
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
趙 彩虹(ia8292)
21歳・女・泰 |
■リプレイ本文 「俺はサムライのルオウ!よろしくな〜」 邪気のない笑顔からキラリとこぼれる白い歯。綿製ドンブリから頭と手足が生えている愉快な姿のルオウ(ia2445)。 「これか?珍しいだろ。なんか面白いものないかと探して回ったら見つけてさっ」 秦といえば秦風の蕎麦も美味いよなっ。渦巻く朱の線模様がドンブリの縁にぐるりと刺繍されているこれを見てピンときたのだ。 「もこもこしてるけど、結構動きやすいぜ」 さも当然のごとく、自前のまるごととらさんを着込んで家から歩いてきたのは趙 彩虹(ia8292) 。 道行く子供達から指を指されたり囲まれたりしたが、それも存分に楽しんでいた。 「堂々ととらさんを着て仕事できるっていいですね♪」 一体誰ですかという周囲の顔。愛嬌のある虎の頭を外して出てきたのは銀色に輝く髪。 「あ〜顔がひんやりします。やっぱり被っておきましょう」 ぬくぬくふかふかの顔に戻り、くるりと周囲を見る。 「亀さん☆」 「よっ、同じチームよろしくな」 亀の着ぐるみを借りて参加するのは天津疾也(ia0019) 。もっこもこの甲羅が可愛い。 「沿道の皆さんも大喜びで。こんな格好までお願いしてすみませんね。どうか本日はよろしくお願いします」 秦味屋の主人が丁寧に頭を下げる。熟練の開拓者揃い、これなら黒乃屋が何をしてきても心配ないとほっとする。 「いっちら〜に〜らり、さんららん♪」 踊るような節をつけて準備運動をする平野 譲治(ia5226)。とても楽しげである。 「やるからには勝つわよ」 すらりとした脚を観衆に見せ付けるように伸ばしているのは葛切 カズラ(ia0725)。 褌チームの紅一点。最低限の布だけを身に付けて勾玉を首に下げた姿、見事な肢体は助平達の注目の的である。 「あぁ、さっすがに寒ィなー!」 荒屋敷(ia3801)が身に付けた白地の褌には墨で色々な文字が躍っている。腰の脇には更に木刀が差し込まれている。 『漬物第一』『漢見参』『寒梅魂』‥‥寒梅屋の職人衆に落書きして貰った。 「まったく、らしすぎるぜ。まぁ盛り上げならこのぐらいしないとナっ」 懐手をした羽織姿の役人がふらりと見物がてら、秦味屋の荷車に近寄る。 「こんにちは!どうかしましたか?」 「い、いや‥‥私でも引けるような物なのかなと‥‥これはまた随分と重そうだな、うむ」 無邪気な声でずいとせまった愛嬌のある虎に、身を仰け反らせた男の袖から『強力糊』と書かれた小箱が落ちる。 「あらこれ落とされましたよ。糊なんかどうするのです?」 「ん‥‥ああ、これの見物を終わったら家で、しゅ、修理をしたいものがあってだな‥‥」 「そうですか♪」 小箱を受け取った役人の目が泳いでいる。 じーっと表情が変わらない虎の目がそれを見つめている。 「重くて大変だろうが頑張るのだぞ。それでは私は見物席に戻る、失礼」 足早に去る役人。通り過ぎる時ちらりと黒乃屋を睨んでいた。恥をかかせおって! (ひとまず一難排除‥‥っと) ●とらさん拳士と白褌っ子 「一番星〜っ!頑張るぜよっ!」 積荷が一番少ないのは譲治。漬物石の量は黒乃屋チームの方が多い。 黒乃屋が雇った走者はシノビ姿の覆面に顔を隠し、誰が誰だかわからない。 体つきや身のこなしから見るに、本当にシノビを雇ったのかもしれない。このハンデならそうだろう。 「譲治くん、頑張りましょうね!」 ぐいと拳を握り締める彩虹。 合図の旗を持ったご老体がにこにことその様子を眺めている。 「それでは始めましょうかの。漬物屋対抗荷車競争‥‥開始じゃ!」 「今こそ白褌の力を見せる時なのだ〜っ!」 元気な掛け声で全力前進、荷車を引いて駆ける小さな身体に声援が飛ぶ。やるからには真剣勝負というか全力でこの遊びに没頭している。懸命に走るのは楽しい。 「ん〜なかなか早いですねっ」 彩虹の後ろをぴったりとつけてくるシノビ。なかなか突き放せない。あえて抜かさずに風除けにされてるような気もしないでもない。 背後を気にしながら走るというのも神経を使う。黒乃屋だから何を仕掛けてくるか‥‥。 (――来ましたね!) 飛んできた手裏剣を背後を見ずに進路を変えて避ける。開いた進路にシノビが速度を上げて割り込もうとする。 片手を離して返礼の気功波が放たれる。狙った足元、跳躍して避けられた。一瞬で荷車の上に立ち、再び地面に戻って走り出すシノビ。 その間に手を戻した彩虹が再び速度を取り戻す。位置関係は元通りになった。 「きゃ〜可愛い〜☆」 「ねぇあの子名前なんていうの?」 「平野様だって、聞いておいたわよバッチリ」 「いや〜ん、平野様〜頑張って〜☆」 白褌姿の男の子の可愛さが沿道のお姉さん方の人気を集めている。 「そ、そのっ、『様』と言うのは‥‥その‥‥」 お願いだからやめてとは言えない。頬を薄く染めて俯きながら荷車を引いて走る譲治。そこがまた可愛くてたまらないとおばちゃん達が盛り上がっている。 「追っかけちゃおうよ」 テンションが最大限に上がったお姉さんが仲間を連れて声援をしながら袖を振り振り後ろを駆ける。 「平野様〜☆」 「だ、だから『様』は‥‥!」 追っかけお姉さんから逃げるように全身全霊を込めて速度を上げる譲治。 いくらしっかりハンデが付いていて荷台が軽めとはいえ肉体的能力の差でシノビと秦拳士に遅れを取ってしまっていた。前に出ないと後ろのお姉さん達が‥‥! そういう必死さは予想外の力が出るものである。 シノビに呪縛符を放ち、兎の式を走らせて前を走る二人の足元を惑わそうと試みる。 振り向いた彩虹が真後ろに気功波を撃つ。進路を変えるシノビ。 「うわわっ」 その後ろに居た譲治が餌食になりそうになる。なんとか避けれた。 最後の角を曲がり、待ち受ける疾也の姿が見えた。 「ラストスパートです!」 身体中の気を巡らせ、全身を真っ赤に染める彩虹。あの、でもそれ着ぐるみの中なので誰からも見えません。 はっと無駄な消耗に気付いたのは疾也の元に辿り着いてからだ。 僅差の勝負。積み替えの速さが重要となる。 ●銭亀と落書き褌 積み替え作業のないシノビが真っ先に飛び出していったが、交代時に荷車の影でその脚に小さな触手のような虫が噛み付いたのには誰も気が付いていない。 胸元の符に指を絡ませたカズラが待機場所で密かに笑みを浮かべていた。一枚が式に変貌して消えている。 差の少ない疾也が先に踏み出した。荒屋敷も僅差で後を追う。 調子を崩したシノビへ荷車ごとぶつかるかのように追い抜きを掛ける疾也。背後で樽と漬物石が揺れる。 角を曲がった瞬間に荒屋敷が距離を詰める。三台が擦れ合いながら駆け抜ける。 シノビが懐に手を入れたのを見て吼え、注意がこちらに向いた。次の瞬間にはまた強力で地面を蹴る。 間一髪、手裏剣が漬物石に当たり硬い甲高い音を立てる。 「ふははは、銭への情熱が足りない!」 疾也がその前で何とか先頭の位置を取っている。そうそう、優勝チームには賞金も待っている♪ 次の走者は人手が足りなかったので一般人だ。何とか遅れなければいいのだが。 要領よく積荷を降ろして背中を叩き、気合を入れる。 ●第三走者 「あっ!」 並び立ったシノビの手から黒い物が放たれた。秦味屋の走者の前に撒かれた撒菱。 気功波を撃とうととっさに手を伸ばした彩虹の腕をルオウが止める。 「手出ししちゃいけない規則だ。心配するな、俺がラストで挽回してやるよっ!」 格好いい台詞だがドンブリ姿だ。止められているのはとらさんだ。真面目なのになんとも間の抜けたように見える光景。 ここで見物席から助力してしまっては失格負けになってしまう。それは秦味屋の面目を失墜してしまう事になる。 荷車を引いた状態では迂回もままならない。覚悟を決めた熊猫の着ぐるみは思い切り踏まないように注意しながら撒菱に突っ込む。 ガタガタと揺れる荷車。車輪に撒菱が幾つも刺さる。 卑怯かもしれないが、シノビらしさを演出した手技の披露に沿道の観客は快哉している。 ●触手の女王とドンブリ少年 順番を変えて一番を取っていた寒梅屋もその差を僅かまで狭められた。交代近くなってシノビの脚が急に早まった。 早駆――扮装だけではなく本当に本物のシノビが走っているらしい。 「来させないわよ」 白墨で引かれた線の前に待機していたカズラの手から呪縛の式が飛ぶ。細くうねる触手がシノビの身体を這い回り、観客から悲鳴が上がる。 「ふふ、ちょっと刺激が強すぎたかしらね」 髪をかきあげて唇を妖艶につり上げる。三嶋笙(ia5171)のハンデは少ない。急いで漬物石を積み上げなければ。 「その前にもうひとつ時間稼ぎね」 (妨害上等だもの、やらせて戴くわよ――♪) さらしで引き締められた大きな胸の谷間。そこに挟んでいた符を指の間に取る。おぉっと野次馬の男達に違うどよめきが沸く。 大路を占拠するかのような巨大な龍の幻影。鱗を剥いで粘膜に包まれてテラテラと光り、無数の触手が生えてそれぞれに細かく動いている。 口中から長く伸びる舌がまたそれも太い触手である。それがべろりと頬を撫でる。ついでに身体をベロベロ舐め回す。 ぐ、ぐろいっ――。これにはシノビも怯んだ。 何してるんです早く交代しなさい!黒乃屋が甲高い声を上げる。 怯んだ男一人以外には見えていないのだから何が起こったかは誰にもわからない。カズラが何か術を使ったという事以外には。 まさか、そんな物見せられているとは思わないだろう。見えてたら失神者続出だ。 「何をした、ひ、卑怯者めっ!」 上ずった声で叫ぶ黒乃屋に、お前がな‥‥と思った者が一斉に視線を浴びせるが、そこは厚顔無恥。自分の事は完全に棚に上げている。 「ええ、良いわよ。卑怯卑劣は敗者の戯言!いくらでも泣き叫ぶといいわ!」 啖呵を切る褌姿の美女に喝采が飛ぶ。いよっ姐さん勇ましいぜ。 黙々淡々と石を荷台に積み上げる三嶋。小柄な者の体重一人分はハンデが違う。カズラも急いで石を積む。 何とか先手の一歩を取れた。 何やらまだガミガミと文句をつけている黒乃屋の帥匡。それを聞き流しながら交代したシノビは遠い目をしている。 今夜、夢に見そうだ――。 「よぉし、よく頑張った。後は俺に任せろっ!」 ハンデ差は激しいが疾也が先ほど降ろした漬物石をものすごい勢いで積みなおしてゆく。腕の筋肉が普段より更に隆々と盛り上がり、結構な重量の丸い石を片手に一個ずつ持ちひょい ひょいと投げる。熊猫の走者は荷台が傾かないように支えているだけだ。手伝えばむしろ邪魔になりそうで。 自慢の体力、積み終えるなり勢いよく走ってゆくルオウ。ドンブリから生えている脚の筋肉を増強させて、豪快に荷車を引いていく。 前を走るカズラはシノビに抜かせないよう牽制しながら、これも懸命に走っている。青い髪が後ろに長くなびいている。 観衆に紛れて誰かが水桶を倒した。 「ふぅん、それぐらいの水、気にしないわっ」 バシャンと派手に水飛沫を上げて突き抜ける。身体に泥水が掛かったがお構いなしだ。濡れた素肌に風が当たりひんやりとするが、運動の熱がそれを上回る。 むしろ直後に居たシノビの方が荷車の車輪に弾き飛ばされた泥水を派手に被っている。わざと掛かるようにしたんだけどね、ふふ。 「避けないと掛かるぜぇっ」 ルオウも豪快に水たまりを突っ切る。かなり盛大な飛沫が上がったが二回目は予期していた観衆はちゃんと避けている。 とうとうルオウが射程に前を走る二人を捉えた。 「うおおおぉぉ!!」 全ての観衆の耳目が雄叫びを上げるルオウに集中する。土煙を上げて爆走する綿ドンブリ。 体当たりでもっこもこのドンブリが前を走るシノビの荷車を弾き飛ばす。大量に詰められている綿がいい感じに弾力があってぶつかった衝撃は本人には感じない。 勢いがあるものだから、弾き飛ばされた方は沿道の観客の方まですっ飛んでいっている。悲鳴を上げて逃げ散る観客。 幸い怪我人は出なかったようだ。荷台から崩れた漬物石にシノビの男が埋まって悔しげな顔をしている。 後ろに迫る土煙に振り返ったカズラが呪縛符を放つ。効いたと思ったがお構いなしに筋力を増強して走る脚を止めないルオウ。 「かけっこだったら負けないぜぃ!」 カズラも全力で走る。最後は純然たる体力勝負、そして脚力勝負の競り合い。発動する隼人! ルオウの脚が勝った――。 ●黒乃屋完敗の巻 一位、秦味屋チーム。着ぐるみ軍団! 「やったな!」 彩虹とぽふっとハイタッチして勝利を祝う疾也。 「よし、ドンブリ神輿や。そっち持てるか?」 「大丈夫ですよ。行きましょう天津様☆」 「みんなで力を合わせたお陰だぜ!秦味屋チーム勝利〜!」 ドンブリを左右から担ぎ上げて虎と亀が凱旋だ〜!と笑顔で練り歩く。運ばれるルオウが両手を振って観衆の拍手に応えていた。 二位、寒梅屋チーム。褌軍団! 「はうぅ‥‥惜しかったなり。でも一歩の差で凄かったなりっ」 「ああ〜、もう少しだったのに!」 やっぱり勝ちたかったわ。でも二位だし、まぁいいかしら。 触手の悪夢にすっかり脱力しきっている一人のシノビを見てカズラはほくそ笑む。 今夜は慰めが必要かしらね? 三位、黒乃屋チーム。シノビ軍団! 「ああ、何という事です。お前達充分な報酬を約束したじゃありませんか!」 「‥‥真面目にやったぜ黒乃屋さんよ。相手が強すぎたんだ諦めな」 約束の金の分は働いたからちゃんと払いな‥‥じゃないとあんたが後悔する事になるぜ。 冷たく光るシノビの眼に、帥匡は慌てて汗を拭く。 相棒の広嗣は何処にいったかなと探し回っていた荒屋敷が戻ってきた。案の定、広嗣は綺麗なお姉さんのとこに擦り寄っていてちゃっかり鰹節まで貰っていた。 褌姿で歩いている荒屋敷を見てあの男の子を紹介して〜と集まってくるお嬢さん方にも囲まれたが、役得としっかり侍らせてきている。 「紹介してやるから一緒に行こうか。あ、ちなみに俺は荒屋敷って言うんだよろしくな」 お嬢さんの一人の肩に手を回しながら、反対の手を陽気にぶんぶんと振る。それを見て及び腰になった譲治を、がしっと彩虹が抱き締めて捕まえた。 「行きますよ、譲治くん。秦味屋さんが優勝祝いにお店の珍味を奢ってくれるんですって〜。一緒に食べましょ☆」 「いやあの、ちゃんと行くから‥‥離してくださいなり‥‥」 いくらもふもふでも、女性に路上で抱き締められている状態は恥ずかしいと顔を赤くする。 「さてみっちりと商売の話でもしよか。言いたい事が一杯あるんや。この銭亀さんがた〜っぷりと語ってやるで」 銭は清く正しく!疾也が帥匡の細い首に腕を回してニヤリと笑う。 今宵の銭談義はきっと今後の商売に影響を与える事だろう。 もしかして帥匡も心を入れ替えるかもしれない? |