特産品守護物語
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/03 01:28



■オープニング本文

 とある山奥に、農耕には適さない土地ながらも山の幸に恵まれのんびりと食いつないでいる村があった。
 絶やさぬように採れば、近隣の有力者へ献上した分を差し引いても村人達が生きるには困らない。獲れた獣肉や山菜を塩漬けにすればなんとか冬も越せる。
 だがそんな村にもアヤカシの魔の手は近寄り、山は安全な食料庫としての役割を果たせなくなってきた。
 欠けた茶碗に野草から煮出した薄い茶を啜りながら、村の者達は暗い顔を突き合わせる。
「村へ降りてくるのも時間の問題じゃな・・」
「あの場所も獣が喰い散らかされた後があったそうじゃ。山の獣にしては尋常じゃない量が喰い荒らされ始めておる」
「人に被害が出ないうちに開拓者を呼んで退治して貰ったほうがよかろうのう」
 このままでは冬が越せないどころか、飢えたアヤカシが里に下りてくる可能性もある。もう村人の活動地域を収束するだけでは限界にきていた。

 村には小さな秘密があった。
 数が採れないので決して村の近隣には出すことのない極上の茸。この村では語源は定かじゃないがショロという名で呼ばれている。樹木の根に生えて黒褐色の丸い姿をし、成熟した物は木の実のような匂いを発している。腹の足しになるような物ではないので村では重視されていなかったのだが、なにやらジルベリア風の料理で重宝される食材の近縁種だとか。
 都から来た行商がたいそうな珍種だと高値で買っていき、それは村の素晴らしい収入源となった。時々都からやってくるその行商に任せ、現金は蓄え程度あればいいので鍋や質の良い猟具等、村では供給できない物を見繕って換えてもらってきている。
 できれば有力者の耳に入れて掠め取られるような事にはなりたくないので大騒ぎにはしたくない。村の大切な宝だ。
「隣の村で風信機を借りるのはまずい。あれは他所にも聞こえる事があるとか言うからのう。ほれあのいつもの行商がそろそろ来る時節じゃ。都を訪れたついでにそっと依頼してこれんかのう」
「秋成さんなら自分の商売がかかってるからきっと秘密裏に運んでくれるに違いない」

 開拓者ギルドに人の良さげな下がり眉の顔をした旅装の男が訪れた。行商人の小西秋成と名乗ったその男。
「実はできるだけ内聞に伏したいお願いがあって参ったのですが。あまり噂が広がると私の商売にも悪影響があるものですから、実際に依頼を受けてくれる者以外にはご内密に願いたい」
 他の居合わせた者に聞こえないようにゴニョゴニョと職員に耳打ちする。
「あの村には大変お世話になってますから、報酬は私の懐から出しますよ」
 太っ腹なように見せかけているが、実際は村人が無欲で無知なのをいい事に相場で売った収入を村には微々たる還元しかしていない。彼の懐はこの独占商売で結構に潤っていた。他の商品でもそれなりの収益を上げてはいるが、この取引の旨みとは比べようもないというのがこの男の胸の内。供給源を守る為なら多少の出費も痛くなかろう。

 さてさて村人から聞いた情報では、本来山には居ないはずの二足歩行の大型の獣の足跡が残されていた。
 喰われた獣は牙や爪でやられたようで血が飛び散りひどい有様だったようだ。
 一匹ではないようで、大きなのや小さなのや幾種類かの足跡が目撃されているが、毛等は落ちていた事がない。
 次第に行動領域を広げてきてるようで、最近は村の者が採集する山裾まで出没してるようだが未だ姿は目撃されてはいない。最近はどうも例の村の宝が採れるあたりを根城に荒らしている節がある。
「幸い、というか村の人は実際には遭遇してませんでしてね。熊かとも思いましたが、あの辺ではそういうのは今まで見た例がないのだそうで。アヤカシだとすれば手遅れになる前に、との事でお願いしたいのですよ」

 引き受けた君達は他言無用という事で山に関する必要な場所は村人が教えて案内するし、有ればだが、必要な道具も貸してくれるだろう。
 村人が無事収穫の秋を迎えて冬を越せるように、どうか山を徘徊する危険なものを退治してもらいたい。


■参加者一覧
俳沢折々(ia0401
18歳・女・陰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
遠藤(ia0536
23歳・男・泰
ヘレナ(ia3771
20歳・女・魔
朝倉 影司(ia5385
20歳・男・シ
ロックオン・スナイパー(ia5405
27歳・男・弓
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
流星 六三四(ia5521
24歳・男・シ


■リプレイ本文

●鄙びた茸村
「これが俺様の初陣!クールにキめるぜ〜」
 妖艶な気品漂わすヘレナ(ia3771)に、豊満な胸元が目を引き思わず抱きしめたくなるような紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)、自由奔放にコロコロと変わる表情が何とも愛らしい俳沢折々(ia0401)。
 華やかな同行者達にロックオン・スナイパー(ia5405)は陽気に浮かれる。
 少し離れて遠藤(ia0536)と朝倉 影司(ia5385)、雪斗(ia5470)が静かに続き、流星 六三四(ia5521)がどうやって目立とうかとニンマリしている。ここでスナイパーとのお喋り争いに加わるのも悪くないが、戦場で格好よく決めて、女性陣の心に一歩リードするのだ。

「早々と 秋の村背に 紅葉散る。ほんと小さなとこだね」
 俳沢の言う通り、早くも紅葉がちらほらと山々を彩り始めた谷間に寄り添うように民家が並んでいた。
 これといって茸以外は珍しい物もない山奥の小さな村。土地は痩せているのか畑は申し訳程度しかなく、家畜の姿は見られない。それぞれに戦いの装束で固めた姿の開拓者達は物珍しい存在で、村は諸手を上げて歓迎した。
 案内を請われると誰もが怖気づいたような顔を見せたが、一人の老人が頷いた。
「そうじゃの、わしが山の入口まで案内いたそう。登り道は草を刈った跡を辿れば大丈夫じゃろう」
 ショロの採れる場所は決まっていて、そこへ至るには道から脇に入る事になるが、老人は詳細に目印となる地形を伝えた。
 流星がそれを入念に手帳に絵地図も交えて書き取り皆に示した。

 罠を張るために使える物を貸してくれるよう頼み込むと、村人がそれぞれ家の中から雑多な物を持ってきてくれた。
 脚の速い獣をひっかける刃のついた鉄枷。魔物の気を逸らすくらいには使えそうな投網。山の中で上手く使えそうな物が納屋に眠っている。
 荒縄に薪。煮炊きに使う調理器具。村人に指示して、組み合わせて使えそうな物を集めた雪斗は器用に鳴子を作り上げてゆく。縄を揺らして木片や金属が打ち合うと、ガラガラと騒々しい音が響き渡る。

●血降る草葉
 木の葉もちらりはらりと落ち始めた山は歩くにもさほど苦労しない地形で、草が大分伸びてわかりにくくはなっていたものの村人が使っていたらしき道跡は見分けがつく程度に残っていた。山道はくねりながら続いていた。
「ここから沢に下りていくんだな」
 村の老人が示した風景がやがて現れ、アヤカシの気配を慎重に警戒しながら一行はゆっくりと高い草の生い茂る斜面を下る。
 帰りに迷う事がないよう流星が墨筆で通り道に生えている木々に目印を入れてゆく。

「ここに出てくるとしたらあの辺りを通るかな。あたしが鳴子を設置してきますね」
 出来るだけ足下の方で引っかかるように、下生えに隠すようにして木々の間に紗耶香が縄を張り巡らしてゆく。草丈が高いので、設置した位置は少し離れただけでもう記憶でしか区別がつかない。
「ここなら足場が悪くないか」
 朝倉の言葉に一同が同意する。
 なるべく木の根や潅木の少ない平坦な地形を待ち伏せの場所に選定する。多少の草は承知の上で動けば大きな障害にはならないだろう。ここに引き寄せれば視界は充分にある。膝を落とせば丈の高い草むらにも潜む事ができる。
 鉄枷や投網を地形に合わせ設置し、一番突進してきそうな場所には陰陽師の術を施す。
「本命の罠はここに張るよ。うっかりひっかからないでね」
 俳沢の手から放たれた式が地面に引きずり込まれるように消えてゆき、封印された。
 待ち伏せ組は罠の周囲に気配を忍ばせ身を隠し、じっとアヤカシを待ち受ける。

 大勢が踏み込んだ気配を聞きつけてきたのだろうか。仕掛けの鳴子が激しく打ち鳴った。囮役となる流星が、緊張を漲らせて滑るように動き出す。
 グルル・・。
 黒い毛皮の巨体。爛々と光る目。半ば開いた口からは狂犬のように涎が。最も長身の朝倉より頭ひとつほどはあろう大きな身体がのっそりと木陰から踏み進む。
 野生の熊ともおぼしき姿だが、尋常の獣とも思えない凶暴な気配が身を包んでいる。
 食欲に喉を鳴らした気配に釣られたのか、腹を空かせたアヤカシ達が次々と姿を現した。
「うお!こいつは意外と怖ェ!」
 圧倒的な気配を目の前にした流星は、数の多さに武者震いする。
「いくぜ!」
 素早く正確な狙いで放たれた手裏剣が先頭のアヤカシの毛皮に突き刺さる。
 グォォ・・。
 分厚い毛皮の前に深く傷つくには至らなかったものの、先制攻撃を受けたアヤカシの目が怒りに燃える。
 次々とアヤカシ達が唸り声を上げ歩調を速めて迫る。
 上手く誘導にかかった事を確認し、流星は仲間の待つ罠のほうへと速度を合わせながら駆け出した。
 流星を追いかけるアヤカシを更に朝倉、紗耶香、遠藤が囲むように追い込み、罠を仕掛けた地点へと集団を巧妙に誘導する。

 足枷に嵌り、動きを鈍らせるモノ。投網を被せられ、無闇に爪を振り回すモノ。突然地から湧き上がった式に悶えるモノ。同類の苦悶など気に留める様子もなく後続のアヤカシは更に迫る。
「わたしが右の奴を撃つよ」
 討ち漏らしのないよう声を掛け、俳沢が符から強力な式を呼び出し雷撃を迸らせる。雷を纏わせたまま苦痛に悶える獣の毛皮の焦げる不快な臭気が風に乗り、ムッと押し寄せる。
 木陰から狙いを定めたスナイパーが威嚇射撃を繰り返し、まだ接近していないアヤカシを撹乱する。
 集団が動きを乱したところへすかさず後ろから紗耶香が飛び込み、目にもとまらぬ速さで蹴り倒し、立ち上がる隙も与えずに急所へと二連撃を叩き込む。
 突進してきた一匹を引き受けた雪斗が、外套に精霊を纏わせて振り下ろされた爪の攻撃を逸らす。踏み込んで凪いだ剣が、確かな手応えでその肉に喰らい込み、噴き出す血潮と共に抜き取られる。
「ほら、遊んでらっしゃい。誰も逃げていいなんて言ってないわよ?」
 ヘレナの手から放たれた無数の蝶のように舞う式が優雅な弧を描きながら、毛皮を無数に切り裂き鮮血を周囲に飛び散らせる。
「おっと、お嬢さん危ないぜ」
 スナイパーの放った瞬速の矢が、ヘレナに襲い掛かろうと別の方角から迫ったアヤカシの目に突き刺さる。
 雄叫びを上げて足を止めたそこへ遠藤の拳が突き込まれ、重い身体が勢いで地面へと叩き伏せられる。遠藤の見事な体躯から繰り出された重い蹴りが、再び地面から立ち上がる事を許さなかった。
「名付けて、マッハ・ショット!ふっ、クールだ俺様」
 自画自賛のスナイパーへ遠藤が一瞥をくれるが、ヘレナは微動だにせず眼前のアヤカシへ再び斬撃符を打ち込みトドメを刺す。
「ありがとう、助かりましてよ」
 敵の完全に息絶えた事を確認してから、銀色の髪を靡かせてヘレナは余裕の笑みを浮かべ振り返った。

 計五体のアヤカシが倒れ、静かな沢には凄惨な光景が残った。入念に練られた作戦が功を奏し、鋭い牙や爪の餌食になる者は一人も出なかった。
 摂理を超えた存在は、やがて血肉を失い瘴気となって再び山に漂い消えてしまうのだろう。
「そうだね・・・・きっとキミ達は運が悪かったんだよ」
 無残な屍をさらすアヤカシ達にぽつりと雪斗が弔いの言葉を漏らす。

「なあ、少し食料を調達して村に持って帰ってやらないか。腹も減ったしな」
「そうね、しばらく誰も山に入ってないのだから、きっと食べ物は不足してるわね」
 朝倉の提案にヘレナが頷く。今は秋の味覚の収穫が真っ盛りの時期で、ここから見渡せる限りでも食材が豊富と見える。
 スナイパーは薬草の知識を活かして調理の素材に使えそうな野草を探に行く。
「おっとそれは毒茸だぜ」
 食用と似た茸を手に取った紗耶香に微細な見分け方を教え、逆にスナイパーは紗耶香からは意外と美味な食用草を教えられる。
「これはね、癖が強いからあまり市場に数が出回ったりしないけれど、料理に入れるといいアクセントになるんですよ〜」
 どさくさに紛れて触れられた手をさりげなく払いながら、紗耶香は朗らかに説明する。
 都では『食材の格闘者』とも称されるだけあって、珍しい食材には特に目が無い。この山は村人が必要な物しか採らないから、意外な食材がそのままに残り、繁殖しているようだ。
「あ、卵料理をしようかと思うので鳥の巣を見つけたら卵も少し戴いてくださいね」
 ショロの調理方法として道すがら卵あんかけにでもしてみようかと考えていたが、村では鶏を飼っているようには見えなかった。
 その言葉に駆け出した朝倉と流星が、これはと目をつけた木に登り、見つけた鳥の巣から取り過ぎないように気をつけながら幾つかの卵を調達してくる。
「紗耶香ちゃん、新鮮な卵取ってきたぜ。料理、期待してるぜ!」
 囮役で乱戦には加わらなかったものの地味に一番危険な役をこなした流星が、誇らしげに卵を懐に舞い戻って声を掛けた。
 遠藤と雪斗が回収した罠と先ほどの戦いで息を掴んだ連携で一匹の鹿を仕留め、俳沢とヘレナはのんびりと山菜摘み。
 充分過ぎる量の山の幸を担いで一行は、平和を取り戻した山を後にした。

●異国のかほり
 開拓者が持ち帰った食材を使って、村の危機を救った英雄達をねぎらう祝宴がその夜は開かれた。
「わしらは採って食べる分と蓄えさえあれば充分だから」
 と、新鮮な食材は全て今宵の宴の為に使われた。広場に火を焚き、村の全員が集まってまるで祭りのような喧騒だ。
 女達が村伝統の山菜と茸を煮込んだ鍋を作り、男達は鹿を解体し野趣溢れる炙り肉を用意する。
 腹の虫を刺激するような匂いがたちまち村中に溢れていった。

 民家の台所を借りて、紗耶香がジルベリアの食知識を駆使してメインとなる松露・・・・この村では聞き伝えから訛ったのかショロ、の調理に取り掛かっている。
「匂いがすごいから、茸はかなり少量にしたほうがいいかな?」
 村人は普通に焼いたり煮たりしてもあまり美味しい物ではなかったというので、思いついた方法で時々首をひねりながら調理を進める。
 遠藤が手伝い、他の家で炒めてきた蕎麦を運び込む。その上に刻んだ松露を散らすと、茸というより身近な食べ物に例えるなら青海苔のような・・・・独特の濃厚な香りが広がる。
 卵料理のほうは油と混ざったのが効を奏したのか、より動物的な魅惑的な香りを漂わせている。
「あら・・・・この匂いは昔お父様に食べさせて貰った物に似ているのね」
 ヘレナは恵まれた家で生まれ育ち故郷では当たり前のように食卓に並んでいたが、久しく旅暮らしでこのような物は食べていない。
「ハァ、高級品が懐かしいわ」
 贅沢な溜息が唇から漏れる。

 粗末ながらも酒が用意され、豪勢な料理と異国風の珍味に宴は盛り上がった。村人はしきりに本日の冒険譚を聞きたがり、口も滑らかになる。
 遠藤はスナイパーが薬膳と称す野草の和え物に挑戦し、風味は微妙だが身体に良いと聞き、良く噛み満足げに味わう。
 紗耶香が作った松露料理は大好評で、村人達はこんなに美味しい物だったのかと目を瞠らせている。
「噛み締めて 言葉にならぬ 珍味かな」
 ぺこぺこに空かせた腹に饗応を収め、松露に舌鼓を打つ俳沢が飄々と謳い上げた言葉に、一同が舌を喜ばせながら頷いた。