【迎春】かるた絢騒乱舞
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/17 00:54



■オープニング本文

「ふふ、開拓者かるたがとうとう完成しましたのね〜」
 黒漆塗りの読み札。朱漆塗りの絵札。昨年の暮れに開拓者に無理を言って立派な物が用意できた。下ろしたての振袖に身を包んで彩堂 魅麻は幸せそうに包みを抱える。
 特注の桐箱に収められた二対のかるた。蓋には彩堂屋の焼印が施され、鮮やかな紅の組み紐に松の葉を飾って正月らしさを醸し出している。
「お父様〜、神社に行くのはまだですの?」
「待ちなさい。待ちなさい。皆の支度ができたら出発するから」
 恰幅の良い店の主も今日は紋付袴の正装だ。神楽近郊の神社まで家族から使用人まで一同を引き連れて新春参りと奉納を行なう。
「それより開拓者ギルドの方はいいのかね。あそこは年始も関係なく随分と忙しいようだが」
「私は裏方だから当番には入っていませんのね。書類整理はいくらやっても追いつかないから同じですのね」
 魅麻の業務は主に書類の整頓分類とそれを管理する帳面作り。事務的な物から依頼の記録書まで次から次へとひっきりなしに紙は増えてゆく。
 人手が足りなくなれば受付の方に駆り出される事もあるが、基本的には開拓者ギルドの奥に引き篭もっている。

 日々天儀の為に戦い続ける開拓者への尊敬と感謝の念を込めて、奉納した桐箱を前に膝をつき深々と頭を垂れる。
「どうかアヤカシを討ち果たし、天儀に平和と繁栄が訪れますように」
 一対はこのまま神社へ納め、開拓者自らが描いたもう一対は再び屋敷へと持ち帰られ、兼ねてより入手を望んでいた好事家の元へと納められる。
 だが開拓者かるたはこれだけではなかった。漆塗りの立派な物ではないが、それを手本として同じ物が職人の手により数対作られていた。これからもまだ作る予定である。
 商魂豊かな彩堂屋は庶民が手軽に遊べるような質素なかるたの装いで変り種としてこれを売り出そうかと考えていた。

「宣伝も兼ねて、皆さんと遊びますの!」
 魅麻はさらさらと筆を走らせギルドから貰っておいた依頼書に必要事項を埋めてゆく。

『新春かるた取り大会!』
 神楽都内の彩堂屋所有別邸大広間にて開拓者の皆様の新年懇親会を兼ねて、かるた取り大会を開催致します。
 開拓者ギルドに登録されている方ならどなたでも参加できます。
 朋友も屋内へ連れられる者は大会にご同伴可能です。
 屋内が無理な場合は庭にご案内しますが、広さには限りがございますので龍の同伴はできればご遠慮ください。
 当方でもご用意致しますが飲食物の持ち込みは自由です。和やかな場ですので武器類の持ち込みは制限させて戴きます。
 日頃頑張っていらっしゃる皆様に彩堂屋よりお年玉もご用意させて戴いております。晴れ着姿でお越しくださいませ。

「これお願いしますのね〜」
 ぺたりと依頼の掲示が並ぶ板へ貼り付けて受付係へ笑顔を振り撒く魅麻。
「わかりましたから仕事してくださいよ!」
 正月も途絶えない来訪者の応対に追われながら、他の職員が声を張り上げる。
「はいですのね〜。さぁ、今年も頑張りますの!」


■参加者一覧
/ 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 小伝良 虎太郎(ia0375) / 天河 ふしぎ(ia1037) / アルティア・L・ナイン(ia1273) / 巴 渓(ia1334) / ルオウ(ia2445) / 斉藤晃(ia3071) / 赤マント(ia3521) / 平野 譲治(ia5226) / 倉城 紬(ia5229) / 御凪 祥(ia5285) / 神鷹 弦一郎(ia5349) / ペケ(ia5365) / 深凪 悠里(ia5376) / 設楽 万理(ia5443) / 景倉 恭冶(ia6030) / 雲母(ia6295) / からす(ia6525) / 与五郎佐(ia7245) / 木下 鈴菜(ia7615) / 天ヶ瀬 焔騎(ia8250) / 濃愛(ia8505) / 舞賀 阿月(ia8658) / 和奏(ia8807) / 〜紅〜(ia9138


■リプレイ本文

「さて初仕事、初仕事〜」
 遊びとは聞いているが開拓者がその能力を全開に駆使して執り行われるという今回のかるた取り大会。
 飛んでくる札を避けたり防御したりする等、武芸にも通ずる良い特訓になるのではないか。そう考えて喜び勇んで参加を申し出た〜紅〜(ia9138)。
「お、可愛い猫だな。おい何処行くんだ〜?」
 ついつい路上の野良猫に気を取られて道順を外れてしまったら、迷子になってしまった。
「うわ、やっべ〜。どうやって行けばいいんだ!」
 大げさに頭を抱えて仰け反る〜紅〜だったが、そこへ上手い具合に会場へ向かうロングコート姿の天河 ふしぎ(ia1037)が通り掛かった。
「良かった人が来た〜!おまえ彩堂さんちってわからないか?今日かるた大会が開かれるんだけどさ!」
 明らかに年下な初対面の少年から礼儀も何もない口を利かれて面食らったが、彩堂家でかるた大会というのなら目的地は一緒だ。爽やかな笑顔でボクもそこに行く所だよとふしぎは答える。
「あのさ、俺道に迷いやすいから一緒に行っていいか?」
 迷いやすいというか既に迷っているのではないか。そんなツッコミはさておき無事に案内人は確保できた。さあ会場に向かおうか。

「焔くん、その格好は‥‥」
 仲良く肩を並べて彩堂家の別邸に向かう四人。紋付の直垂姿でびしっとキメて凛々しい御凪 祥(ia5285)とアルティア・L・ナイン(ia1273)に対して天ヶ瀬 焔騎(ia8250)は長い髪を手拭で纏めて洋装めいた身体にぴったりとした普段着。思惑あっての格好だ。真紅の短シャツから剥きだしの腕が冬空の下で見てるほうが寒くなりそうだ。
「礼装じゃ動き難いからな。この格好が一番だ」
「俺は何にも考えて来なかったなぁ。何やら楽しそうな行事だからとしか聞いてなかったわ〜」
 友人が面白そうな事に参加するのに自分だけ家に篭もっているのは損。せっかくだからお祭騒ぎに加わってみようと景倉 恭冶(ia6030)は特に深く考えず普段通りの格好で来た。
「皆で楽しく騒げれば充分やけど。血が滾るやね‥‥やるからには、勝ちてぇやね」
「ああ、楽しむ事にしよう。俺は札を詠む事にするよ」

●それも確かに縁起物
「これは正月用の破魔弓です」
 武器はお預かりをと両手を差し出した使用人に向かって微笑みを崩さない設楽 万理(ia5443)。何か問題でも?という調子で強引に押し切って弓を会場内に持ち込む。
 勝つ為ではない。全てこれは儀弐様愛のプライドの為である。愛の成果を達成するにはどんな手を講ずる事も辞さないつもりだ。
(弓が無ければ鷲の目が使えんだけだが‥‥そうか持ってきても良かったのか)
 神鷹 弦一郎(ia5349)がそれを見て苦笑する。
(まぁ俺は暴れにきた訳ではないし、普段通り振舞うとしよう)
 淑やかに遊ぶ組があるはずだ。そちらに参加すれば良いだけの事だ。

「正月は正月らしくか。歌留多もまた楽しむのもええやろ」
 既にからす(ia6525)が茶道具を出して支度している一席の傍らで斉藤晃(ia3071)が酒瓶の配られぬうちから持参した酒を嗜んでいる。
 休日くらいは技も使わずにのんびりと過ごそうか、巴 渓(ia1334)が穏やかな表情で年末の苦労の成果、出来上がったかるたを眺めて寛ぐ。
(甲斐があったよ‥‥俺なんか微々たるもんだが。皆、感謝しているぜ)
 詠み人を申し出た舞賀 阿月(ia8658)は一口大の紅白饅頭が並べられた重箱を皆さんもどうぞと勧めている。

「それでは皆さん、始めましょうか」
 茶を喫し、酒を味わい。時々饅頭をつまみながらの和やかな席。他の組の喧騒から離れここは琴の音でもあれば似合いそうなほどゆっくりな時間が流れる。
 そんな穏やかな席を守るようにからすの連れ、土偶の地衝が背を向けて礼儀正しく正座していた。命令に従って不動の状態はまるで置物のようだ。
「もふらさま、ああもふらさまもふらさま――」
 耳で味わい目で味わい。そういえばおやっさん何してるかな‥‥渓が一緒にくるはずだった相棒に想いを馳せる。代わりに今日は傍らにその姿を模した人形が置いてある。魅麻にお年玉でもと思ったが、彼女は今は始まったばかりの大会の仕切りに忙しいようだ。
「さて、どこまでやれるかな」
 観察力を生かして自分の手が届く範囲の札を機敏な仕草で取る弦一郎。姿勢は崩さない。遠い札には手を出さず、積極的に札を取る者があれば茶を啜りながら眺めている。
「やはり風情も大事だよ、うん」
 阿月の抑揚をつけて詠む韻を楽しみながら、からすも様々な個性に溢れた絵札に手を伸ばす。

●畳の上をシノビ舞う
「あけましておめでとうございます。いやぁ風流な催しに参加できて楽しみですねぇ」
 するりと頭巾を外した禿頭の若い男、与五郎佐(ia7245)がにこやかに玄関で挨拶を告げる。黒地に流水模様の着物、薄紫の羽織と弓術師というよりは何処かの寺から来た僧かという雰囲気である。晴れ着姿で魅麻が出迎えてさあどうぞ中へと案内する。
「そうそう与五郎佐様はお誕生日を迎えられたばかりでしたね。せっかく皆様が集まってますから後で一緒にお祝いを致しましょう」
 一瞬はたと止まる与五郎佐。そういえばギルドに提出した書類に書いた事があったか。依頼者でありながらギルドの職員でもあるので魅麻は一応そこまで目を通しているようだ。
「どうぞお好きな組へ。あちらは静かに遊ぶ組ですが他はご自由ですから」
 襖を全て開け放した大広間には既に到着した開拓者達がめいめいにかるたを囲んでいる。正月らしい和やかな空気のようで、中には妙に真剣な目をしている者もいる。
「賞金でも出るんですか?皆さん目が本気ですけど‥‥」
 火鉢の横に席を定めて煙管をふかす雲母(ia6295)の傍らには艶めかしく藍色に光る理穴弓が置かれている。
「あれ弓の持ち込みはいいんですか?今日はただの歌留多取りだから僕は弓は置いてきましたよ」
 その代わり懐には、と目を細めたところではたと気付く。無い‥‥携帯してきてないではないか。そう手裏剣を忍ばせてくる予定だったのだが、それを忘れてきては技が使えないではないか。しまった!
「設楽が破魔弓と言い張って持ち込みを許可させたからな、私もお咎めなしだ」
 雲母の指差す先で万理がにっこりと微笑む。儀弐王の札を作った人だと与五郎佐の事はしっかりと覚えている。その手に確かに梓弓が握られている。
(そうですか‥‥正面から堂々とという手がありましたか‥‥)
 少々がっくりとしながら雲母の向かいに膝を落とす。
「同じ組よろしくなりっ!」
 元気良く綺麗な歯並びを見せて平野 譲治(ia5226)が雲母の隣に並んでいる。
 自分の作った札をどれかな〜としきりに探している。鍋の蓋が描かれた札は真ん中に置かれていた。あの時描いた絵柄が忠実に模写されて再現されている。

「ここ空いてますか?」
 天儀式の屋敷に大輪の花を持ち込んだかのような真紅。いつもの忍び装束と全く違う格好のペケ(ia5365)。
「私こういう服を着るのは、は、始めてなんですけど、その、もの凄く勇気がいりますね」
 裾丈を気にしているが、あまりにも短い。座っている者からしたら目のやり場に困るほどである。かといって上に目をやれば最大限に開いた胸元から溢れそうな‥‥。
「まあいいから座ったらどうだ」
 この組にはあと一人、黒い忍犬の二葉を連れた深凪 悠里(ia5376)がこちらも仕事着とは打って変わった大島紬の着物。これに羽織を重ねていたが遊びの邪魔になりそうなので今は後ろに行儀良く控えた二葉に預けている。屋外で行なわれる可能性も考えてきたが、どうやら全組この広間で行なうようだ。
(暴れそうな顔ぶれが揃っているようにも見えるが‥‥)
「私の相手は貴様らかぁ」
 静かに雲母が闘志を燃やしている他はここは割と安全――ペケの服装を除いては――そうな組と見える。

「お酒にお茶、お饅頭もありますのね〜」
 詠み人の席には主催者の魅麻。飲み食いしながら気楽に遊ぼうという趣旨だ。少し身体を温めてほぐそうかなと酒を舐める悠里。乾杯というわけじゃないのにぐいと呷るペケ。雲母は腕を組んでまだ煙管をくゆらせている。この札が詠まれたらこう行こうと作戦を様々に頭の中で組み立てる。
「さてやるか‥‥!」
 袖にたすきを掛けて半膝立ちで待ち構える悠里。勝負が始まる。

「戴くぜよっ!‥‥んぐっ」
 悠里の手から飛んだ饅頭が、正面から飛び込んだ譲治の口に見事に命中。その隙にシノビの瞬発力が駆使され札は悠里の物となる。
「あぁ、すみませんお茶を」
 気を逸らそうと与五郎佐。しかし茶をこぼして気を取られたのが魅麻では意味がない。違う機会には左右の手を駆使して相手を惑わす。
「私の札は取らせないぞ。覇道を求めただ築くのみ!」
 早駆で飛び込んだペケの手を叩き払い、雲母が自分の作った札を取得する。傍らの弓に触れて精霊力を集めた瞳が遠くの札の絵も間違う事なく見極める。

「ペケ、この勝負本気で勝ちにいきます!」
 傍にあった柱を蹴り三角跳びを華麗に披露するペケ。高く跳躍して脚も惜しみなく開いた彼女の格好はミニスカートである。
「おやおや、絶景」
 煙管を咥えたままニヤリと笑う雲母。隣で釣られて上を見上げかけた譲治の頭をぽふりと撫で、目的の札を指差して気を逸らす。まだまだお子様の譲治には目の毒だ。下着が見えて当然のはずだが、あれ‥‥ペケ、それは大胆すぎるぞ。ご主人様に見せてはいけないと本能で悟ったわけでもなかろうが、偶然にもタイミング良く二葉が悠里にじゃれついて気を逸らしていた。
「ん、どうした二葉?」
「いや眼福のご開帳‥‥」
 与五郎佐はちゃっかりと見ていたようだ。周囲の唖然とした様子に何も気が付かないペケは札をとれてご満悦。何が起きたか自分でわかっていたら恥ずかしさのあまりに卒倒してしまうかもしれない。大きく開いた胸元にまた一枚が加わって差し込んで、さあ次の札はどれだと楽しげに見回している。

「さあいくぞ」
 最後の詠みの発声と共に譲治が飛び出した。勝ち負けよりもこれだけは取らねば!
「――勢い気張って万屋へ結果変わらず台所品」
 上から来るペケを畳返しで阻止するのは悠里。それにより与五郎佐も制され結局譲治を援護する形になった。
「よぉし〜、取れたぜよっ!これが取れれば満足なりっ!」
 札を数えてみると、かるた大会この組は悠里の勝利となった。
「平和な勝負というのもいいものだな‥‥」
 全力を尽くして遊ぶのも正月気分の身体に良い興になった。

●激しさに一矢
「読み手ってのも面白いかもしれないからなぁ」
 やる気満々の面々を見て〜紅〜は嬉しそうに詠み札を手に取った。同伴の入場となったふしぎは大紋姿で凛々しく両手を膝に置いて端座している。
 持参した古酒を徳利から直接口に運ぶ水鏡 絵梨乃(ia0191)は一見動作が危なっかしいようにも見えるが、それは計算された物であって全く隙が無い。
 強敵に傍には座らないと決めた赤マント(ia3521)はその正面で油断なく同席の者達の動きを見つめる。横に座っているのは弓術師の万里、同時に飛び出せば身体ひとつの動きに慣れている自分の方が有利だ。

「悪戯にはげむ人妖捕まえて、しかし憎めぬ可愛い笑顔」
 第一歩!素手に炎魂縛武の幻炎を纏わせたふしぎの後ろ襟を絵梨乃が掴んで力一杯に押し出す。
「炎精招来‥‥炎のコマって、うわわっ」
 正面からの激突を華麗に回避して免れた赤マントの一瞬の遅れをついて絵梨乃が人妖の描かれた札を奪う。
「ちょっと、いきなり‥‥!」
 頬をむくれさせて余計に可愛らしい顔になったふしぎが態勢を戻して自分の席へと座り直した。もちろんここは無礼講の暴れ放題の席だ。次はやられないからな!と気合を入れ直す。
「僕の妙技を見せてやるんだからなっ!」
 お互いの技を駆使して次々と場の札は減ってゆく。自分の膝前にある札は鉄壁の防御で譲らない。

「緑茂にて」
 〜紅〜の言葉が『り』から始まった途端に万理の瞳がキラリと輝く。無意識に握り締めていた梓弓、ここで使わずして他に使うべき時がいつ在らん。同時に動き出した絵梨乃、ふしぎ、赤マントの手が札に届くその刹那、理穴王が描かれた札を守るようにして瞬速の矢が畳の目地に突き刺さる。一瞬の生まれた隙をついて渾身の気迫で万里が札を奪う。
 余勢で三人の目前に揺れる矢羽根‥‥。一瞬でも速ければ手を貫かれたはずだ。三人の顔が並んで同時に万里を見る。
「一天四海に名を上ぐる、儀弐の弓術天下一かな」
 うんうん、天下一かな。深く頷いて〜紅〜の詠み上げる句の続きを味わう万里。ようやっと我に返って三人の視線を浴びている事を意識する。
「ほほ‥‥ごめんあそばせ。儀弐様の札だけは何とあろうとも譲れません」
 口元に手を当てて取り繕う笑いに三人はくいと同じ動作で振り向き、未だ残る『れ』の絵札を見やる。凛々しく弓を引く理穴王の姿。
(あれは危険だ‥‥)
 その一枚は万里に譲った方がいいだろう。殴り合いならともかく生身に矢は洒落にならない。

「速さでは負けない!」
 泰拳使い同士の熾烈な争い。酔っているかのような振る舞いから即座に攻撃の手を打つ絵梨乃が狙う札を赤マントが気功波で弾き飛ばす。端から見れば何が起こったかも見えないような瞬速の出来事だ。
「取らせないっ!」
 〜紅〜が一息呑む間に二人は次の動作に入る。空中でぶつかり合う牽制の手。そして第三撃、お互いの空いた残りの手が札に伸びる。二人の速さは一緒、同時に札を掴んだ指が引き合う。耐えられなかったのは‥‥紙だ。今回の遊びに使っているのは量産の安物である。びりっと音を立てて裂かれた札は、着地した二人の手の中にあった。
「あ‥‥」
「この場合、点数はどうするのかな」
「その前にこれ弁償?」
 札が飛んで来たら全力で避けようと思っていた〜紅〜だが、この勝負にはただ口を空けて見守るのみであった。速い、速すぎるっ。これが歴戦練磨の開拓者の実力なのか。詠み人を選んで良かったと少しだけ思ったりした。本当に札が自分に向かってこようものならそれこそ本気で全身全霊を賭けて避けなければならない。が、逆に心が燃え立つ。自分もいずれこのような開拓者達と渡り合える存在になるのだ。
「こういう暴れ劇はいいねぇ。よし、俺も本気でやるぞ!特訓だぁ!」
 単衣の裾をからげて片膝が立つ。新人ならではの気概に溢れて思わず次の札を読む声にも力が入る。
 誰よりも速くが身上の赤マントは対抗心に燃えて輝く目で絵梨乃を見つめる。次の勝負はボクが勝つよとゆらりと上体ごと首を傾げて絵梨乃が口元に静かな笑みを浮かべる。
「山狩りでアヤカシ追って駆け回り!倒してみても――」
「はいっ!」
 座敷払いで立ち上がると同時に抜き手を放ったふしぎが札を叩く。晴着の袖がはらんだ風が周囲の札を浮き上がらせる。
「お座敷遊びで、志士に勝てると思っちゃ駄目なんだからなっ!」
 勝負は泰拳士二人だけではない、こちらも強敵。正座から刀を抜き放つ動作を応用しての日頃の訓練の賜物だ。

 マントの風で振り払った札が空中に舞う。誰もが手を伸ばしたその先を更に気を放って打ち上げて天井近くを絵札がくるくると回る。飛び込んできた赤マントに身を沈めて避ける〜紅〜。その肩を踏みつけて二段目の跳躍が誰よりも高く、落ちてくる札を手にする。
「やったね」
 着地したその場でくるりと回ってマントを靡かせるて全身で喜びを表す。空中戦なら負けない!

「鬼灯の提灯点すパンプキン――」
 絵梨乃とふしぎの並んで座る膝前の中間点に居る、鬼灯と南瓜がコマを割られて対照的に描かれた札。二人の手が同時に飛ぶ。
 目にも留まらぬ速さで絵梨乃の両手が札を入れ変えて、ふしぎの掌の下になったのは眠そうなジライヤの絵。泰練気法の極意、三倍の速さで動いた手は歴戦の志士すら欺いた。
 既に正解の札は絵梨乃の手の中にある。
「お手つき‥‥?」
「どっちが早かったのか見えなかったな」
「うーん‥‥」

「歴史的、魔の森焼いた理穴王。凛々しき姿、その名は重音」
 皆が警戒して見守る中、嬉々としてその札を取る万理。札も決して敬愛する理穴王の姿を叩くなどしない。丁重に自分の元へと寄せて頭上に掲げて押し戴く。
「持ち帰ってもいいですか?部屋に飾ります」
 既にこの組札は一部が傷物になっているからいいのではないだろうか。二枚しか存在しない理穴王の札を取れて大満足の笑みを浮かべる。
 そう、これさえ取れれば本日の目的は叶ったのだ。あちこちの席で同じ札が詠まれている事も想って、嬉しさと誇りが胸に満ち溢れる。
 さて全ての札が無くなって勝負の結果は赤マントの勝利。札を扇のように広げて仰ぎ、余裕の笑みを浮かべる。実際はかなり際どい勝負であったが僅差でなんとかモノにした。

●縁の下の功労
「勝ち負けじゃないのさ。楽しく遊ばせて貰ったからな。これは俺が受け取るもんじゃないよ」
 終わってみれば札が手に集まっていたが組優勝の祝儀は働いた者に渡そう。詠み役を引き受けてくれた阿月と途中から代わった上にあちこちお手伝いにと動き回っていた倉城 紬(ia5229)に祝儀を受け取ってもらう渓。
「そ、そんな‥‥少しでもお役に立ちたかっただけです」
 客でありながら座布団運びまで手伝って働いていた紬が頬を染める。
「倉城様ごめんなさいですのね。使用人も居ますからそんな事なさらなくてよろしかったですのに。この後の席はゆっくりと寛いでくださいませね」
 阿月から報告を受けた魅麻がやってきて頭を下げる。詠み役もやっていたので、終始淑やかに催されていて心配の一切要らなかったこちらへの挨拶は遅くなってしまった。
「舞賀様もありがとうですのね。他の席のご心配まで戴いて。皆様手加減を知ってらっしゃる方ばかりで大丈夫なようでしたの」
 元気がありあまって多少の激突なんかもあったが、鍛えられた身体同士だ。魅麻は特に気にしてない様子である。
「風情をぶち壊しにする無粋な輩がおれば放り出そうかとも思ったんやけどな」
 晃が笑う。武器が無くともその筋骨隆々とした身体は迫力がある。座敷内で弓を射た者が居た時は思わず酒杯を置いて立ち上がってしまったが、それきりの事だったので割って入る事もなかろうと考えて座り直した。
「まだやってる組もおるな。見学でも行こか」
「そうですね俺もご一緒してよろしいですか?」
 晃と阿月が連れ立って杯や茶碗を片手に他の組を冷やかしに行く。

●甘味も遊びも無礼講
「女性が居ない組で良かった‥‥」
 連れ立ってきた四人は同じ組になったので男が多いのは必然だが、女性が居て手と手が重なろうものなら固まってしまうかもしれない恭冶。焔騎は違う意味でホッとしている。勝負の為には格好悪い姿も厭わないが、できればそんな姿は見られない方がいいに決まってる。
「さあ、楽しむぞ〜!暴れるぞ〜っ!」
 両腕を頭上に伸ばして、小伝良 虎太郎(ia0375)が爛漫な笑みを浮かべる。このかるたには虎太郎が考えて作った札も入っている。自分達が作った物を知らない誰かが遊んでくれるというのは格別な気分だ。このお披露目遊びが終わったら市井に売り出されるというのだから楽しみである。
 キョロキョロと周囲を見回して思ってたよりは晴着姿ばかりではない事に安心。長持をひっくり返して一番綺麗な服を選んできたけど、場違いじゃなくて良かった。
「面白い札が一杯ありますね〜」
 愛用の双刀を丁重な手つきで預かって貰った和奏(ia8807)がのほほんと畳上に並べられた絵札を鑑賞する。
「これは何かのお祭の絵ですか?」
 指差したのは『ひ』の札。虎太郎が手掛けた原画を元に製作された絵だ。
「それアヤカシ退治してるところ、ここに居るのが小さいけどアヤカシでね〜」
 明らかに嫌味でも皮肉でもなく素でボケてる様子なので、ここがこんな感じで〜と張り切って絵の内容を説明する虎太郎。ふんふんとその説明を素直に嬉しげに聞く和奏。
「で、これが小伝良さんですね」
 思いっきり髪の色から違う陰陽師を指差す和奏に見ていた者達がずっこける。誰がどう見てもそれは違うっ。まあ札を覚える分には中身は関係ないはず。
「ん〜、お汁粉とかないの?」
 配られた饅頭をさっそく頬張っているアルティア。まだ始まったばかりなのに何個目?と言われようとも、それでも物足りない様子だ。
「そろそろこちらも始めるか」
 座布団の位置を正して居住まいを崩さずに端座した祥が告げる。背筋を伸ばして最初の詠み札を持った姿勢が美しい。

「例え遊びでも本気で行く志士、天ヶ瀬だ」
 一句目から全力で飛び出し、全く無防備な姿勢で身を乗り出した和奏を直撃して跳ね飛ばす。
「おいおい大丈夫か?悪いな、まともに入ると思わなかった」
「いえ〜何ともありませんよ」
 そうか開拓者の能力全開無礼講かるたとはこういう物なのか。普通のかるたのつもりでは札は取れないのかと今頃始まってから納得する和奏。おっとりした感じはそのままだが、すっと雰囲気が変わる。意識を本腰に切り替えれば一人前の志士だ、そう簡単にはやられない。

「景倉くん、あっちの女の子が君の事を見つめてるよ」
「えっ‥‥」
 そんな事を言われて無意識に身体が硬直してしまう恭冶。その隙を利用してアルティアが彼の膝の前の札を取る。
「あーっ!それ作戦やったんか!?」
「ふふ、簡単に引っ掛かったね」
 ついでにと恭冶の饅頭をひょいと一個戴いて口に運ぶ。もぐもぐしながらも目は油断なく次の札はどれかと狙っている。
「大鎧、買ったが最後金がない――」
「きたああああっ!」
 轟き渡る恭冶の咆哮が対戦者の意識を引き付けて札から自分へと向ける。
「よっしゃ、取れたで」
 札が詠まれる度にそれぞれの本気がぶつかり合う。

「元泰拳士の封印を解く時が来たようだな‥‥」
 焔騎が燃える勝負に指を組んで鳴らす。
「ふふ、僕の一撃は風よりも速い事を忘れたのかな?」
 アルティアの覚醒した身体が紅く染まる。泰拳士の修行で得た能力、気を練り体内を巡らせる事によって体力は著しく消耗するが、どのような動きをされようとも逃さないくらいの集中力を得る。

 札一直線に飛び込んだ虎太郎。半瞬先を越されたアルティアの手技が空を切る。こちらも勢い余って足元が踏み切れず、札を手にした虎太郎を突き飛ばしてしまう。
「おわっとっと」
 避ける間合いを既に失ってしまった翔がカウンターで足払いを掛けてしまい、そのまま畳へと顔から滑り込んでしまう虎太郎。札を手放さなかった為に受身を取り損ねた。
「すまない。つい条件反射で脚が出てしまった」
 助け起こした顔が擦り剥けてちょっと赤い。
「このぐらい、へっちゃらさ!」
 そうは言うものの身体には結構な打撃を受けている。背中と足首がちょっと痛むが、そんな事は全くおくびにも出さぬ虎太郎であった。

 座った姿勢から志士の技を駆使して瞬時に攻めに移る和奏。スパーンとその軌道上にあった焔騎の頬を打ったのは‥‥ねこのて。
「くっ‥‥何だろう、この喰らったのに微妙に嬉しいような不思議な感覚は」
 つい使ってみたかったと頬を掻く和奏。
「やはり素手じゃないと、遊びにはそぐわないですね」
 懐に仕舞われたねこのて。他にも使い道があればいいのだが。いや、本来は孫の手の代わりなんだけれど。

 息を大きく吸い力を溜める動作で場に警戒の色が走る。表情を変えずに淡々と次の詠み札を取り上げた祥がさりげなく大紋の右袖を片肌脱ぎにする。正面に位置する恭冶の行動は容易に予測できる。
「戦陣のうたた寝に見ゆ里の夢――」
 恭冶の手刀から衝撃波が一直線に迸り、絵札が乱舞する。狙いの札はその軌道から逸らしていてすかさず反対の手を伸ばす。アルティアの伸ばした腕は返す手刀で遮った。
 全く‥‥という表情で衝撃波を半身でかわした祥が詠み札を手裏剣のように投げて恭冶の額へ無言のツッコミを入れる。命中するとは思っていなかったが、やはり残念な事に避けられる。
「翔なら絶対避けれると思ってたから、ええやろ?」
「‥‥景倉ならやると思った」
 まともに地断撃を友人に向けたのも信頼の証だ。

「閃攻の元泰拳士、天ヶ瀬‥‥尋常に勝負ッ」
 興に乗ってきて精霊の炎を拳に燃やして邪笑する焔騎。輝きを照り返す紅色の瞳は案外本気である。
「結い結び、一期一会のこの今生――」
 そんな焔騎の熱い闘志を淡々と受け流して札を詠む祥。この友人が何事にも熱い男なのは慣れ親しんでいるので別段今更驚かない。
「よっしゃあ〜!」
 運良く目の前の札が詠まれ、すかさず手を出す恭冶の顔の前を焔騎の炎の拳がよぎり思わず仰け反る。本来は手にした武器を強化する技である、拳に纏った所で実害は無いとわかっていても視界に至近に飛び込めば身体が反射してしまう。焔騎の伸ばした足先が『よ』の札を間違いなく踏んでいる。
 手足を変な態勢で突き出した見た目には滑稽な状態だが、勝負は勝負!
「うわ、笑える姿勢」
「勝負にはあらゆる技を使う!」

「ああ、疲れた‥‥甘いもの補給しなきゃね」
「充分食べただろっ」
「だって泰練気法はすっごく体力消耗するんだよ〜。さっき食べた分は全部使っちゃった」
 結局札を一番取ったのはアルティア。‥‥食べた饅頭の数でも。

●遊び疲れた後
「与五郎佐様、お誕生日おめでとうですのね」
 かるた大会の後片付けが終わった後に開かれた慰労の交流会。魅麻の言葉に酒肴の膳を前にした一同が祝いの拍手をする。正月遊びを一緒に楽しんだ開拓者達は和やかに初対面の者も関係なく、とにかく目出度い空気を味わう。
「いや〜、どうもどうも」
 甘味組は縁側で羊羹を茶と一緒に味わっている。
「なぁなぁ、甘刀正飴を持ってきたんだけど。皆で食べようよ!」
 虎太郎が掲げた素晴らしい品にアルティアと赤マントの眼が輝く。夕日に燦然と輝く飴。
 甘い物に目がない者達が一斉に群がる。
「このままだと皆で食べにくいね。勿体無いけど割っちゃうよ」
 敷紙を借りて、その上で拳を叩き込んで人数割にする。美味い美味いと楽しむうちに飴はあっという間に無くなった。

「ふむ、これもなかなか‥‥」
 大会中はゆっくり見れなかった札を鑑賞して茶を楽しむからす。
 それぞれに遊びの後を満喫している様子を眺めて晃は酒杯を傾ける。
「正月らしい風景を見ながら酒を飲む。いいねぇ」
「そやなぁ〜。晃も飲んでばかりおらんで、騒がんのか?」
「わしはこれがいいんや」
 恭冶と酒を注ぎあって酌み交わしながら口の端を緩める晃。

「新しき年の初めの歌留多取り 今年も都は賑やかなりや」
 与五郎佐が興に乗って吟じた句が、この風景を的確に表していた。今年一年、皆にとって良い年になりますように。