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■オープニング本文 陰殻の山奥、語るほどの名も無き里である。連日の集中豪雪で一面銀世界となった小さな集落。 シノビの卵として修行を積む銀汰は背丈ほども降り積もった雪に大いにはしゃぐ。 「よし、雪中訓練だ!」 そろそろ引退を考える祖父より譲り受けた友、土偶の黄鈴を連れて外へと飛び出す。 もこもこの綿入れに身を包んだ銀汰は喜び勇んで雪の中へと飛び込むが、すぐに埋まり身動きが取れなくなる。 「銀汰‥‥修行するのはいいンが、深すぎて動けないのは意味ないンでないかね。雪かきでもして筋肉使ったほうがいいべ」 のんびりとした口調で時々妙なイントネーションを付けて喋る黄鈴。のっしのっしと土偶の足に合わせて特別に編まれたカンジキで雪を地道に踏み固めて進む。 「早くこっち来て引っ張り上げてよ〜」 「急いでも、わしゃあ重いンだから。大人しくそこで待ってるべ」 雪掻きに励む集落の者達がその呑気な二人のやり取りを見て笑う。 「それ以上行くと危ねえべ」 「大丈夫だよ、黄鈴はそっちね」 素焼きの肩をかちかちと鳴らしてすくめる黄鈴。注意はするが銀汰の言う事には甘い。素直に従う。 「本当に大丈夫なンだべかな」 ザザザッ。黄鈴の足元が崩れてその姿が消える。 「あっ黄鈴!」 慌てて崩れた辺りを覗きに行く銀汰。雪煙に呑まれて黄鈴の姿は見えない。そこは雪庇になっていて崖だったのだ。かなり深いのか声を掛けても返事が無い。 「ど、ど、どうしよう〜」 爺ちゃん、爺ちゃん〜と転げ雪まみれになりながら家に飛び込む。 事情を聞いた祖父は何をしておるかと眉をしかめる。黄鈴も黄鈴だ危ないとわかっていたなら行かねばいいものを。 どっこいしょと重い腰を上げて銀汰を連れて落ちた崖の様子を見に行く。 「ふむ。ここは昔わしも修行した崖じゃのう‥‥落ちたぐらいじゃ何ともないわい」 深い谷の底には落ち葉が厚く降り積もり、危険な岩も無く怪我はしたとしても死ぬほどの事はない。今は更に厚く雪が積もっている。 幅は狭いが横長に伸びる窪地。崖に囲まれた地形の為、崖を這い登る以外にそこから抜ける手段はないが下に小さな洞窟もあり非常用の備蓄がしてある。簡単な山篭りの訓練ができるように地形を利用して作ってあるのだ。縄を下ろしてやるまではそこに入れられた者はまず自力では上がってこれない。 「いい機会だ。お前も行って来い」 「ちょ、ちょっと爺ちゃん!」 容赦なくドンと谷へ突き落とす祖父。雪煙を上げて銀汰も落ちてゆく。 「これも修行じゃ」 幾日か平穏に過ぎる。時々焚火の煙が上がっているのが見えるので無事に過ごしているのだろう。銀汰達の事はさほど心配する者も無く単調だが鍛錬は怠らぬ日常へと戻っていた。 激しいものではないが更に静かに降り積もる雪。そこにアヤカシ発生の知らせ。雪と区別のつかない姿のアヤカシが里の周辺に大量に出現した。 「総員、応戦せよ!」 戦える者全てが里の防衛に雪の中を駆け回る。ひとつひとつはたいした強さではない。 だがカッとその紅い双眸を開くまで辺りの雪と全く区別ができず不意の方向から攻撃を仕掛けてくる。宙を舞う姿は漬物石大の雪玉だ。次々と撃ち出してくる小さな雪玉で攻撃してきたかと思うと本体ごとぶつかり鈍器のような衝撃を与える。見た目は雪だがその質感は氷のように硬く重い。それが異常と言える大群で里を襲っている。 連日降った雪の中に大量の瘴気でも混じっていたのだろうか‥‥。 「あっちにも発生してたら手が回らぬな」 崖下の銀汰達。黄鈴も付いているから洞窟内で応戦していれば持ち応えるだろうが、こちらでも持久戦になる以上に苦しいだろう。 「アヤカシだ、構わん。人を呼べ」 村には冬季の緊急斥候用に竹製の雪の上を滑れる板が一組ある。複雑な地形を進むにはかなりの技量が要るので扱いは難しいが専門に訓練させた者が居る。 一人のシノビが山を滑り降り、急いで連絡は為された。 陰殻国内の開拓者ギルドにその連絡が届いた。 「雪玉アヤカシですか‥‥」 里の緊急事態、出動の依頼が掛かる。 |
■参加者一覧
神町・桜(ia0020)
10歳・女・巫
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
奈々月琉央(ia1012)
18歳・男・サ
乃木亜(ia1245)
20歳・女・志
露草(ia1350)
17歳・女・陰
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓
久我・御言(ia8629)
24歳・男・砂
和奏(ia8807)
17歳・男・志 |
■リプレイ本文 「雪玉のアヤカシですか‥‥。集落の方々も大変ですけれど崖下に取り残された銀汰君達も心細いでしょう。早く助けにいってあげないと」 すっぽりと雪に包まれた陰殻の山地。乃木亜(ia1245)が神町・桜(ia0020)と共に登路を急ぐ。 前を行くミズチの藍玉が滑るように浮遊して先導し、時々後ろを振り返っては首を傾げ足取りを見守る。本気を出せば結構な速さで上がれるが乃木亜の姿が見えない所まで行く気はないらしい。外套のように纏った白い羽根がふわりふわりと雪景色に溶け込んでいる。 「く、流石に寒いのじゃ。じゃがアヤカシを放っておくワケにも。まあ、いざとなったら湯たんぽもおるしの」 「何故そこで我を見るにゃ!」 小柄な身体で雪道に難儀している猫又の桜花をひょいと抱き抱える桜。何をするんだと一瞬暴れ掛けるが、いやこの方が良いかと思い直して桜花は身じろぎして腕の上の居心地を修正する。色鮮やかな秦流の刺繍が施された毛布に包まれていて地上を進む一行で一番暖かそうに見える。 「ああ、暖かい炬燵に帰りたいにゃ〜。我は寒いのが嫌いなのに何故連れてくるにゃ」 それでもぶつぶつと不満を垂れる桜花。桜の腕にぽふりと顎を置き、半目で純白の景色を恨めしそうに見つめる。 「寛がれると意外と重いの。別に歩いていってもいいのじゃぞ桜花」 そう言いながらも桜の腕はしっかりと抱いている。うん、これは暖かい。 そんな一人と一匹のやり取りに乃木亜が笑いを漏らす。路程は大変だが藍玉も今日は一緒だし、到着まで楽しい行路になりそうだ。 「私の名前は久我・御言(ia8629)。志士をやっている。諸君、よろしく頼む」 「琉央(ia1012)と相棒のブラウケーニギンだ。よろしくな」 真冬の空中行とあって念入りに防寒装備を整える龍組。念の為にと露草(ia1350)が鬼薊の予備品を持参していたが、それぞれにしっかりと装備を整えてきていたので心配は無いようだ。降りた時の行動に備えて足元はカンジキを準備している。 予め熱しておいた石を懐に、宵闇に騎乗する設楽 万理(ia5443)。手綱を握る袖にも石を忍ばせて指先が冷えて動かなくならないよう気をつける。 「指の感覚は弓術師の命ですからね」 冷え性だから本当は戦いを前に寒風には晒されたくないのだが。 「寒いけど人助けですから我慢してくださいね」 和奏(ia8807)が颯の首を撫でて労わる。暖かい食べ物や飲み物を用意と思ったが‥‥着く前に冷え切ってしまいそうなので材料だけを持参してきた。 「窪地への救助に行く者達も心配だ。急がねばならぬな」 「ああ。行くぞブラウ!」 六騎の龍が一斉に羽ばたき、空へと飛び立つ。 「空も馬鹿みたいに寒いじゃない!」 万里の悲鳴が澄み切った冬空に響き渡る。 ●豪雪に包まれた村 雪がちらつき始めた地上では人影がアヤカシ退治に追われている。龍の到着に気が付いた者が合図の手を振るが飛んでくる雪玉に再び身を伏せる。 万里が騎上で弓を構え、衝撃波を伴う矢で雪玉が飛んできたと思われる地点を吹き飛ばす。それを目標に龍が一斉に降下する。 「颯は下がっていてください」 雪煙が収まらぬ中、意識を研ぎ澄まして生命の存在する位置を見据える和奏。その間にも飛んでくる雪玉を交差させた刀で弾いて叩き落とす。 傍に降り立った露草がその見つけた位置に呪縛符を飛ばしてアヤカシの動きを鈍らせる。 「大丈夫か!?」 琉央は疲れを見せ始めている現地の者達に駆け寄り、両手に構えた斧を襲い来るアヤカシに叩き付ける。胴丸にぶつけられる雪玉は通常人が投げた物とは比べ物にならない衝撃だ。数を受ければ結構堪えてくるかもしれない。大きな標的であるブラウケーニギンにも雪玉が次々と飛んでくる。自ら体当たりしてきたモノは前足に装着した鋭い棘の餌食となって砕け散る。 「こっちだ。来るなら俺の方に来い!」 高らかに咆哮を上げた琉央には更に熾烈な攻撃が集中する。避け切れなかった冷たい氷の衝撃が頬を切る。瞳を熱く燃やして持ち堪える間に士気を持ち直した村の戦士達が反攻の態勢に躍り出る。琉央の周囲に集まった標的は次々と退治されてゆく。 「急ぎて律令の如く成し、万物悉くを斬り刻め」 鉄葎を従えて唇を妖艶に吊り上げた葛切 カズラ(ia0725)が滑るような光沢を宿した式を飛ばす。鏃のように牙を左右に並べた触手が雪の衣を撒き散らして風を巻き上げてアヤカシを切り刻む。敵の姿さえ捉えてしまえば必中の式は次々と実体化して、景色に同化して隠れようとするアヤカシを飛散させる。鉄葎の強力な援護もあり、この辺りのアヤカシを一掃してゆく。 物見槍を両手に構え、敵がどれほど見極め難いかを持ち前の視力で確認する御言。深い雪に身を潜めたアヤカシは一体どれほど居るのか。ひらひらと舞い降る雪はそれほど視界を阻害しはしないが、その中で動かぬモノを見つけるのは難しい。攻撃してくる個体については雪玉は直線状にしか飛んでこない為、発射元を見極めれば容易に見つけられる。雪の中に紅く光る双眸がカッと開いている。再び擬態に眼を閉じた瞬間に固めた足元を蹴り、雪山の中に深く槍を突き込む。その瞬間に隠れていた他の個体が眼を開き、攻撃を仕掛けてくる。深く沈む足元に態勢が整わず雪玉の直撃を喰らう。 「‥‥っ。そこか。逃さんぞ貴様!」 秋葉が羽ばたいて御言の背中を雪煙で隠す。周囲を吹き飛ばされて露になったアヤカシを万里が遠方から狙撃する。万全の援護を受けて御言は再度の不意打ちを喰らう事無く前方のアヤカシを仕留めに集中できた。柄を握る掌に固い氷を貫き砕く手応えがはっきりと伝わりアヤカシは再びただの瘴気となって消えた。 ●いざ救助隊! 「ふぅ、なんとか着いたの」 雪玉アヤカシとの戦いに入り乱れる光景に、桜が間に合った事を確信する。例の窪地の方まではまだ手が回っていないようだ。 「私達は先に下の救助に向かいましょう」 状況は殲滅戦という感じで優勢に進んでいるようだ。後は時間さえ経てば里の周辺からアヤカシは一掃されるであろう。乃木亜はそれらしき地形を探して足を急がせる。緊張の為、まだ疲労は感じていない。銀汰達がまだ無事だといいのだが。正確な位置を銀汰の祖父に確認してからと思ったが、この状況では彼に会うのに時間を取られるであろう。外に出ている者に手が空いているようなのは居ない。戦場を迂回してそのまま崖に向かうのが得策か。 「藍玉、お願い。窪地になっているとこまで連れていって」 きゅいと首を傾けた藍玉が頷いて、道なき雪の上を浮遊してゆく。その後ろをかんじきで転ばぬよう慎重に進む二人。楼花は足跡の上をひょいひょいと跳ぶように付いてゆく。はぐれてアヤカシと単独で戦うはめになるのは嫌だ。 手回しの良い露草が戦闘の合間を縫って長い縄を鬼薊に担がせて運んできてくれた。和奏は目に付く傍からアヤカシを叩き切り、露草の代わりにカズラが援護に付いて存分に戦っている。龍も戦闘に加わっているのでアヤカシは急激に数を失いつつある。 桜花は自力で縄を使って降りるのは無理なので、桜の巫女装束の襟元の中に押し込んで一緒に降りる事にする。 「桜の胸元はたっぷり隙間があるので大丈夫だにゃ」 「こら〜っ。桜花、ここから下まで受身を取れるか試してみたいのかの?」 「それは嫌にゃ」 ひんぬーどんぐりという称号は伊達じゃないのか。顔を隠して深く胸元に潜り込む桜花。さらしを通して温もりが伝わってくるがヒゲがちくちくと素肌を掠めてくすぐったい。 崖下へ先行した藍玉を追って乃木亜が縄を頼りに滑り降りてゆく。露草は昇降の拠点の安全を確保する為、ここで鬼薊と共に待機する。アヤカシが近くにくればいつでも応戦する構えだ。 降下する乃木亜を狙って積もった雪の中から固い雪玉が飛んでくる。藍玉が身を翻して鎧でその攻撃を受け止めて乃木亜を庇う。温厚な瞳がキッと飛んで来た方向を睨みつける。太い 水柱が崖下から吹き上げるように迸り、巻き込まれたアヤカシが宙を舞い、自ら弾丸のようにこちらへと向かって藍玉へと突撃する。為す術もなく滑り降りる乃木亜が雪の中に着地するとアヤカシの身に鴉丸を喰い込ませた藍玉が勢いよく落ちてくる。制動が間に合わずもろとも降り積もった雪に突っ込んで盛大な雪煙を上げる。あおりで乃木亜も粉雪にまみれて真っ白になる。 「藍玉っ!?」 慌てふためき抜いた白鞘に精霊の力を宿して、友の姿を探す。心眼を使った方が早いのだが動揺のあまり順番を違えてしまう。ぶるぶると首を振って藍玉がその姿を現すと力が抜けそうになった。アヤカシはしっかりと仕留めたようで雪に埋もれて見当たらない。 「だ、大丈夫?」 今すぐ抱き締めたいところだが別の方向からまた雪玉が撃たれる。盾で反射的に受け止め、呼吸を整えつつ心眼を使い敵の位置を見極める。小さな反応が点在している。銀汰達は見えないようだ。洞窟の奥に篭もっているのか。露草が飛ばした小鳥が傍に舞い降りてきたので敵の位置を知らせ、相棒と共になんとか攻撃を持ち堪える。窪地まで降り注いだ瘴気は少なかったのかそれほどの数ではない。桜が降りてくるのに備えて位置を移動する。露草も上方から可能な限り援護する。 「ち、それ以上はやらせぬ!去るがよいのじゃ!桜花、援護を頼むのじゃ」 降り立った桜と背中を合わせ、雪玉を切り払い身を守る。二人と二匹でもなんとかやれそうだ。 「めんどくさいが、まあやってやるのにゃ。風よ、悪しき闇を切り裂くにゃ!」 毛を逆立てた桜花の瞳が淡い緑色の光を帯びる。鎌鼬が桜を狙うアヤカシを包み込むように表面の雪を払いその氷のような身を切り刻む。桜も負けじと姿を見極めたアヤカシを力の歪みで捻りつぶす。 掃討に一段落をつけた万里が宵闇の背に乗り上方から援護の矢雨を周囲に降らせる。狙い定めるのは難しいが撹乱の効果はあるようだ。 「空からでは基本見えないから他の人が戦っている所の援護になるわね。ああもう、寒い寒い」 雪から飛び出したアヤカシが身を翻し、再び潜り込む。矢が降り続けては身動きができないので、一度手を止めて空中を旋回して様子を伺う。その間に下の一行が洞窟らしき入口を探す。足跡は無く積雪後に歩き回った様子はない。 火を焚いていればすぐわかるのだが今は煙も上がっていない。露草が再び飛ばした式で見つける方が早かった。上方には戦闘を終えた仲間達が集まってきていた。琉央が合図の笛を鳴らし、御言から渡された鮮やかな柄の毛布を目印代わりに重りをつけて落とす。 「私も下へ降りよう」 槍を預けて御言も縄を伝い降りる。爪に槍を掴んだ秋葉が上空を旋回して真上から心配そうに見守る。 張り出した岩に積もった雪の陰に洞窟はあった。入口の付近には焚火の跡がある。深く積もった新雪に沈み沈み向かったので辿り着くのに難儀した。銀汰と黄鈴の互いに掛け合う声が反響して入口まで聞こえる。 「お〜い、大丈夫かの?」 他の者を入口の警護に残し、桜が洞窟に足を踏み入れる。砕け散ったアヤカシが足元に転がっている。洞窟の中まで突撃してきたアヤカシは少数のようだ。二人だけで充分なんとかなったらしい。 「誰?」 男の子の呑気な響きの声が返ってくる。がちゃがちゃと音がして土偶――黄鈴――がのっそりと姿を現す。彼が背後に守るようにして銀汰が居た。 「銀汰と黄鈴じゃの?わしは神町・桜。里がアヤカシに襲われたので応援を頼まれたのじゃ。大変な事になってこちらまで手が回らないから二人の救助もの」 「へぇ〜。こいつら上にも居るんだ」 全く緊迫感の無い銀汰。黄鈴ががしゃりと肩を竦める。困った主人だ。 「上もそろそろ片付いた頃じゃし一緒に戻ろうかの」 洞窟の外に残っていたアヤカシも御言の加勢があって片付いたようだ。 ●瘴気を退けた後 「力技は好きだけど、力仕事は‥‥ね」 何故か里の者を下僕のように使役して除雪を指揮しているカズラ。高圧なわけでもないのだが、彼女の命令は不思議と下っ端の者を従えさせてしまう雰囲気がある。 「カナちゃん、あれ捨ててあげて」 がっしりとした体躯の鉄葎が積まれた雪を身体で押しやって崖下に落とす。もう下には今冬には降りないだろうという事だから遠慮なく落としてしまっていいだろう。無論、救助に向かった者達は既に里に上がっている。強力で縄を引く琉央の号令で、龍達の手伝いもあり下の者達は次々と引き上げられた。登る必要もなく縄に捕まるだけで良いくらいであった。 除雪を先に終えた場所に焚火を燃やして露草が白湯を配って里の者達を労っている。かなり疲労しているがそれでも彼らの一部はまだ里の周辺の確認にも回っているようだ。時折鬼薊に指示しては除雪組の手伝いもさせている。 和奏は民家を借りて持参した食材の調理をする。折りたたんだメモを見ては書いてある通りに料理を仕上げてゆく。 「こんな感じかな?」 書いてある通りだから味は間違いないだろう。温かい食べ物で戦い終えた皆で身体を癒そう。 大人しく民家の前にちょこんと座っていた颯の背中を撫でる。 「運ぶのは無理ですよね‥‥一緒においで」 甘えたような鳴き声で返事をする颯。籠を抱えた和奏の後ろを尻尾を振り振り付いてゆく。 「銀汰君、里の人達と離れてよく頑張りましたね。黄鈴さんもお疲れ様でした」 一緒に火にあたりながら乃木亜が微笑む。 「銀汰は洞窟の中でほとんど寝て居たンべさ」 黄鈴がぼそりと呟く。救助までの間、本当に呑気に過ごしていたようだ。銀汰が恥ずかしそうに顔を背ける。 「爺ちゃんに言わないでよ‥‥」 「さあ、どうすンべかな」 表情が変わればにやりと笑うところだろうか。素焼きの顔は特に変化はない。 「宵闇もお疲れ様。寒かったわね〜。龍も入れる温泉とかあったら一緒に行きたいわね」 火の温もりに心地良く眼を閉じて体躯を伸ばす宵闇。万里も暖まってやっと落ち着き、うんと伸びをする。 この里の近くに温泉でもあれば良かったのだが。残念だ。 「やる事はやったし、後は勝手にするにゃ〜」 一仕事終えた桜花は、焚火の傍に丸まって幸せそうな顔で眼を閉じる。相方の桜の事はそっちのけだ。 桜はまだ怪我人の確認の為、皆の間を声を掛けて回っている。巫女の癒しの力を必要とする程にひどい怪我を負った者は居ないようだ。周辺の巡回を終えた者達も続々と帰ってくる。ちらちらと降っていた雪もいつの間にか止んでいた。 さあ、後は皆でゆっくり休もうか。 朋友達も交えて開拓者達は里の者達と労いあいながら、戦を終えた一時を過ごした。 明日は駆けつけてくれた開拓者達を里が歓待する番だ。今宵はまずたっぷりと眠って疲れきった身体を休めよう。 |