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■オープニング本文 師匠も走るという忙しい季節。あちこちでアヤカシは出てるわ、楼港の方はきな臭いわという時勢に呑気な依頼が張り出された。 『開拓者かるた作り、お手伝い求む』 酔狂な商人がせっかくここは神楽だ開拓者を題材に作って売り出してはどうかと思いつきを披露したところ、乗った職人が居たらしい。 どうせなら価値の高い物を。漆塗りの立派な木札で一揃い。一組は神社に奉納しよう。 高級で市井に広く売る物ではないので二組しか作らないが、作ったら買うという好事家がもう手を挙げているという。 「志士も歩けば棒に当たる、とか、うーん」 僕、そういうの考えるの苦手なんですよね〜と開拓者ギルドの職員はぼやく。 そしてよくよく事情を聞くと。 「うっかりしてまして漆の樹液がよく採れる時期は過ぎてしまったんですよね」 そりゃあ、もう冬です。 「買い付けに行ったら余分は無いと断られまして」 仕方ないですね。採りに行けと。 「ははは、しかも見星をつけていた場所が雪に埋まっているとか」 つまり掘れと。 どうもそこから開拓者に頼むようだ。 雪山に行って寒い中で漆を採取して来いという事ですね。はい、それからそれから。 「絵心に自信のある方には描いて戴きたい。読み札の方もお願いしとうございます」 職人は何をするんですか。 「漆の加工と木札を作ります」 そうですよね。ところで漆塗りの立派な木札で失敗したら、それはまずくないですか。 「できあがってから漆は塗りますから大丈夫ですよ。木札の方は多めに用意できます。開拓者自身が作ったという事で好事家の方には大変喜ばれます。それに奉納の方にはきちんと絵師と筆達者な者を雇いますから」 ああ、それならいいんですが‥‥。 「正月の予行演習という事で皆さんには少し遊んで戴いて構いませんよ」 予行演習って、本番もあるのだろうか。また妙な依頼が来そうな予感に職員は頭を抱える‥‥。 |
■参加者一覧 / 天津疾也(ia0019) / 小伝良 虎太郎(ia0375) / 俳沢折々(ia0401) / 佐上 久野都(ia0826) / 鳳・陽媛(ia0920) / 巴 渓(ia1334) / ルオウ(ia2445) / 斉藤晃(ia3071) / 平野 譲治(ia5226) / 神鷹 弦一郎(ia5349) / ペケ(ia5365) / 深凪 悠里(ia5376) / 設楽 万理(ia5443) / 桐崎 伽紗丸(ia6105) / 雲母(ia6295) / からす(ia6525) / 与五郎佐(ia7245) / 青禊(ia7656) / 濃愛(ia8505) |
■リプレイ本文 ●漆を採りに 辺り一面雪化粧を施された山麓の村。漆採りでの現地の拠点にと依頼主が借りた空き民家で作業の準備に勤しむ開拓者達。 「この時期に漆取りなんてな‥‥」 年も押し迫ってから無謀な依頼だと苦笑いしつつも藁沓にかんじきを確りと結びつけ雪中の行動に備える深凪 悠里(ia5376)。 「道具はあるのか?」 「ふん、雪ぐらい私が全部飛ばしてやる。心配するな」 煙管を口の端にくわえた雲母(ia6295)が愛用の弓を手に取り不敵な笑みを浮かべる。戦うだけが開拓者の能ではないが武器を持って何しに行くのか、小柄な体に自信が満ち溢れてい る。 「結構来てくれましたのね。現地集合で誰も来なかったらどうしようかと思いましたが、桶に小刀、鍬に円匙、道具はこちらで用意しましたのね」 依頼側よりやって来たのは子供にしか見えない小柄な娘。使用人ではなく商家の娘自らが出張ってきたようだ。上等な羽織を何枚も重ねもこもこに着膨れている。 「防寒具は用意していないのですかね。いやぁ僕としたことが家に頭巾を忘れてきましてね、この通り寒風に吹かれるとちょっと辛いのですよ」 与五郎佐(ia7245)がつるりと滑らかな褐色の禿頭を撫でる。 「それは着てくると思ってましたのね。羽織なら私のを貸してもいいけど小さいですのね」 見回すと着れそうなのはからす(ia6525)と平野 譲治(ia5226)くらいか。俳沢折々(ia0401)でも少し小さめに感じるかもしれない。 「私は皆が冷えて帰ってきた時の支度をしてるから要らないよ」 持参してきた茶道具の荷を解きながら、からすが答える。 それではと三枚脱いだ羽織を譲治に着せかける娘。女の子向けの可愛らしい色合いの花柄だが譲治は素直に親切と受け取り満面の笑みを浮かべる。 「おいらが着てもいいの?ありがと!これ着てがんばるぜよ!」 「借り物だ、破ったりするなよ」 脅しつけるようにわざと意地悪い笑みを浮かべて雲母が肩を叩く。 「佐上 久野都(ia0826)です。どうぞお見知りおきを」 深々とお辞儀をする色白な眼鏡を掛けた男。側に居る黒髪の娘も倣って今回同行する者にはにかんだ会釈をする。 「鳳・陽媛(ia0920)です。よろしくお願いしますね」 仲睦まじい義理の兄妹。二人揃っての参加だ。 「陽媛は風邪を引くから身体を冷やさない様に。外の作業は止めてここで手伝ったらどうかな」 他にも残る人が居るようだし。空き家となって以来使われていないらしい竃周りを点検しているのは青禊(ia7656)。冷えた身体で帰ってきた後は温かくて甘い物が一番。鍋等台所用 具はそれなりに残っているようだからすぐ作れるだろう。 「お汁粉の支度をしてきたのですぐに身体を暖められるようにして待ってるよ。陽媛さん手伝って貰ってもいいかな?」 では義妹を宜しくお願いします。更に丁寧に頭を下げる久野都。無理をしないでねと陽媛が袂を掴んで見上げる瞳に優しい笑みを返し、その手を取って柔らかな仕草で外す。 「それじゃ漆を取ってくるね。青禊の兄さんお汁粉楽しみにしてるよ〜!頑張るぞ〜!」 桐崎 伽紗丸(ia6105)が先頭に立ち元気一杯に駆け出してゆき‥‥雪に滑って派手に転ぶ。 「駆け出して、雪にまみれる、元気者。ほらほら、足元は注意だよ〜」 後ろからのんびりと歩く俳沢折々(ia0401)。仔犬のように一直線に走って転がる伽紗丸の姿を見て笑う。 「やっぱり雪に埋まってるね」 積もって以来誰も足を踏み入れてないので漆の木がある周囲は埋もれている。 「触ったらかぶれるから気をつけてな!」 小伝良 虎太郎(ia0375)が皆に注意を促す。森の中で育ったので木の特性は心得ている。皮膚が弱い者だと直接触れなくても揮発した成分に負ける場合もあるが、今来ているのは志 願してきた者達だけだ大丈夫であろう。 鍬を担いだ面々を制して雲母が進み出て、真剣な眼差しで矢をつがえる。 「作業の中心はあの辺だな。どれ一気に吹き飛ばしてやろう」 練力を込めた矢が木々の間に放たれ衝撃波が辺りの雪を豪快に吹き飛ばす。雪煙が収まった後には周辺の枝や幹を叩きつけられた雪の粉が覆っている。 勢い余って表土まで少し吹き飛んで、根が姿を表している部分まである。 「すげえなー!よし、おいらも行くよ!」 身に炎を纏い雪に勇んで飛び込む伽紗丸。瞬間の熱が冷たい塊を水へと変える。 「漆まで燃やすなよ!」 小刀で幹に深く楔形の傷を入れた虎太郎が零れず滴るように気をつけて用意された手桶を設置する。季節も過ぎて染み出る樹液の量は少ない。 「いっぱい傷つけてごめんよ」 「ふん甘っちょろい事を言っていては効率が悪い。私は好きにさせて貰うぞ」 漆の木の肌は的にし難く何度か外したが深く突き刺さった矢の一本を引き抜いて、雲母がその傷を大きく抉って広げる。 「たくさん生えているんだ。一本くらい弱って枯れたところで大した事ではない」 非情の面がこんな時にも現れる。が、確かに待っていても通常のやり方では樹液は必要量が集まらない。開拓者達は思案する。 「こういう作業も面白いものだね」 寒さの中に居るのも忘れて、夢中で作業に没頭する折々。様々な依頼を受けているのがこのような作業は初体験だ。 待っているだけじゃ集まらないから積極的に樹液を掻き出そうと虎太郎が提案したので皆が漆の木を相手に奮闘している。 「頭上注意、だ」 かさりと聞こえた小さな音に耳聡く悠里が、近くに居た譲治の襟首を掴んで引き寄せる。緩んだ雪塊が頭上よりさっきまで居た場所に落ちる。 どさりと重い響きに次々と周囲の木からも枝にはらんでいた雪塊が落ちてくる。 「うわぁ〜!」 「漆の桶を守れ!」 「雪が入らないようにして!」 慌てて手桶を抱えて落雪を逃れる面々。衝撃で舞い上がる雪煙で辺りが真っ白で見えなくなる。 「ふぅ〜皆真っ白だね」 「無事だったみたいだな。また雪避けしないと作業できないな〜これ」 雲母に皆の視線が集まる。先程の腕前、あれは便利だ。 「ではまた吹き飛ばすか」 頷いた雲母が弓を構える。 「ま、ま、待ってください〜。誰か助けてくださいよ〜」 雪山の中から聞こえたのは与五郎佐の声。褐色の腕が伸ばされ必死に振っている。そういえば居ない。 「そのまま吹き飛ばせば簡単に助けてやれるぞ」 雲母の冗談は冗談に聞こえない。そのまま与五郎佐ごと吹き飛ばすのも面白‥‥いや可哀想だ。鍬や円匙を構えた救出隊が雪を掘る。 「散々な目に遭いました‥‥」 雪から掘り出され頭を振る与五郎佐。その肩に手を置き久野都が慰める。 「帰ったら温かい茶と汁粉が待っていますよ。さあ頑張りましょう」 とんだ受難もあったが開拓者達の奮闘あって無事漆は採取された。帰り道もせっかくの収穫物を零す事もなく拠点の民家へ帰還する。 「お疲れ。茶の用意はできてるよ。どの茶がいいかな?」 からすが落ち着いた声で出迎える。既に湯も沸かし準備万端だ。手馴れた仕草で人数分の茶を振る舞う用意をする。 「お汁粉も出来てるよ、寒かっただろう‥‥お疲れ様」 楽しげに青禊が椀に盛り付けていく。陽媛が真っ先に久野都へと持っていき、冷たい指先に渡しておかえりなさいと言う。 「ありがとう、陽媛」 ずっと抱いていたもふらさまのぬいぐるみを脇に置いて、譲治が胸一杯に甘い匂いを嗅いで堪能する。伽紗丸は全身で喜びを表す。 「青禊の兄さんのお汁粉!頂きまーす!」 ●かるた作り 商家の別邸、畳敷きの大きな広間。かるた作りに協力を申し出た開拓者達が集まった。漆採りに参加しなかった者もここには来ている。 「先日採って戴いた漆は専門の職人さんに任せましたのね。今日はかるた作り!で行きますの」 まずは句の選定。実際に木札に書いてもらうのはそれからだ。 「依頼の時ちょっと間違えてお父様に後で叱られましたのね。本当は五七五らしいけれど今回は特別版だから七七も加えて三十一文字で行きますのね!」 犯人はお前か‥‥という視線を浴びせた者が居たかは定かではない。皆依頼の文面通りに三十一文字で一生懸命考えてきてくれた。良かった‥‥天真爛漫な笑顔を浮かべる娘だが内心はちょっと汗をかいている。 その分情景は深く表現されて趣深い仕上がりになるだろう。 「俺はサムライのルオウ(ia2445)!よろしくな!」 元気いっぱいの赤髪の少年がさあやるぞと腕まくりで気合たっぷりに半紙にでかでかと文字を連ねてゆく。 「あれ入りきらなかった。まあいいや、もう一枚!」 半紙五枚を使ったある意味大作。豪快な字が黒々と躍っている。本番は小さな木札に全部の文字を書けるだろうか。ルオウは首を捻る。 『山狩りでアヤカシ追って駆け回り 倒してみても食えはしなそう』 「う〜ん、全力で書いたら腹減ったな〜」 頭を使っても腹は減るのだ。よし一生懸命考えたぞ。 「知り合いにもルオウ様と同じ事言ってる開拓者が居ますのね〜。あんなの瘴気の塊だから食べちゃだめですのね」 大振りの字にくすくすと笑いながら娘が通り過ぎる。ルオウの元気が字にも現れていて清々しい。 「『わ』と「え』はせっかく作ってくれましたけど‥‥」 少ない人数で四十七文字全てを詠む。見事なまでの連携だ。だが今回の選から残念ながらその二文字は漏れた。 「私が代わりに考えさせて戴きますのね」 青禊の詠んだ気持ちはよくわかる。その開拓者の印象は確かに有名人といって良いかもしれない。様々な場面で目立っている。 「今日はその方も参加していらっしゃいませんし、この句はお返し致しますのでどうぞその方にお渡しくださいませなのね」 「今回の選には使えない句もありましたけど‥‥本当にたくさん作ってくれてありがとうですのね、巴様」 個人の名前が前面に出る物は今回は採用し難い。選の前に除外された句もある。 「自分の名前が入ってる物もあって嬉しかったですのね」 他の職員に頼みましたし名乗るつもりはなかったのですが‥‥と頭を下げる娘。頬を染めて書いてくれた者に礼を述べる。 「いいんだ、気にするな。俺が書きたかっただけだ」 乱暴な口調で照れ隠しにぞんざいに言い放ち背を向ける巴 渓(ia1334)。神楽で名前を見掛けるだけの本人がここに居るとは思わなかった。 「シノビの方にもギルドに立ち寄りましたら、この紙を渡して宜しく伝えておきますのね」 集められた半紙、六十一句。この人数で良くこれほど集まったものだ。 「ここから選ぶのは悩みますのね」 「私のはこれひとつだ。採用しないとは言わないだろ」 煙管をくわえた雲母が自信ありげに選句の様子を見守る。 『忍ぶれど築く屍数多なり 覇道を求めただ築くのみ』 雲母の開拓者として生きてゆく抱負とも言える。開拓者も生き方は様々だ。 「つまらん句が多いな」 「そんな事ないですのね。一生懸命作ってくれた句は全部素敵ですのね」 選句も終わり、畳一面に広げられた木札にそれぞれの筆を滑らす開拓者達。 設楽 万理(ia5443)は思わず拳を握り締め、胸に募る熱い想いをどう表現しようかと趣向を凝らす。他愛の無い遊びだと言ってこの契機を逃す手があろうか。 『歴史的魔の森焼いた理穴王 凛々しき姿その名は重音』 先の合戦で弓を引く理穴国王の凛々しき姿。敬愛する国王への想いが筆の毛先一本まで集中させる。的の中心を狙うかのような真剣な眼差しで細かい所まできっちり描く‥‥そして。 『農業が盛んな理穴名産は 砂糖原料美味唐辛子』 うってかわってほのぼのした可愛らしい雰囲気の絵柄。土地の特産の宣伝も忘れない。 「うふふ、理穴の国威掲揚!そして儀弐様への愛!」 完成させた品を見てにんまりと頷く万里。本当はもうふたつ用意したのだが採用されていれば更に理穴への愛が語られていただろう。 「いいわ機会はまたあるもの。これと同じ句が神社に奉納されるのね‥‥ああ絵師様どんな風に描いてくれるかしら。それを見にお参り行かなきゃっ」 『緑茂にて一天四海に名を上ぐる 儀弐の弓術天下一かな』 与五郎佐の書いた札を見て思わず握手を求めてしまう万里であった。 『肩並べ戦場(いくさば)に行く妹の 伸び行く背丈に細める瞳』 本当に時が経つのは早いものですね。隣で木札を前に真剣な顔で筆を走らせる妹を眺め微笑む久野都。気が付けば随分と先を歩むようになったが姿が眩く思えるようになった。無理はしないで欲しい、可愛い妹だから‥‥。最後の一画まで万感の想いを込めて筆を入れた陽媛が顔を上げる。兄の視線を受けて思わず頬に朱が差して俯く。 『近くあり共に事件を追う中で 知らぬ横顔胸を貫く』 久野都は何も言わず微笑む。 「『も』はやっぱりもふらさまだよな!」 虎太郎の書いた句も良いが、俳沢折々(ia0401)もそのもふもふぶりをたっぷりと三十一文字に込めて詠んだ‥‥が斉藤晃(ia3071)の詠んだもふっぷりも負けていなかった。 『もふらさまああもふらさまもふらさま もふらどうしてもふもふなの?』 句の分とは対照的に添えられた渋い水墨画の絵札。無彩色の世界に転がるもふらさま。 『ラブリー朋友みんなの友達 癒しのもふもふもふらさま』 こちらは同じ対象でも色彩豊かに可愛らしく描かれている。渓の作品だ。 『釣り上げた大物狙い飛び掛かる 猫ともふらに勝てる者無し』 深凪 悠里(ia5376)の描いた札では三毛猫と一緒になって目を輝かせて釣り糸の先の大きな鯛を狙っている。 そして朋友はもふらさまだけではない。からす(ia6525)の描いた札がそれぞれの個性を表現して並んでいる。 『悪戯にはげむ人妖捕まえて しかし憎めぬ可愛い笑顔』 『冬景色忍びの犬は駆け回る 炬燵丸まれ二尾の持ち主』 『そびえ立つ戦土偶は盾を持ち 我を造りし主護らん』 『眠りたい元々蛙なジライヤは お構いなしに冬も働く』 『逃げるなよ意外とあるんだ人気がさ 格好いいだろぼくのジライヤ』 一枚は青禊の作品だ。家へ戻ればそのジライヤが待っている濃愛(ia8505)がその仁王立ちした姿を見て強く同意に頷く。 「抜け出して朋友(とも)と見上げた冴え空に 広がり渡る満天の星』 夜空に広がる無数の星空の下、龍と並んで座る開拓者の影。悠里の丁寧な字が品良く納まっていて美しい一対の札となっている。 『天を地を共に駆けよう 我が朋友たち』 そのように詠まれた句もある。 「龍ならこんなのを書いてみたよ」 『名乗り上げ凩浴びし寒禽よ 儀天貫き彼方へ彼方へ』 流暢な声調で韻の抑揚をつけて読み上げる折々。龍を駆って空戦へと臨まんとする開拓者達が緊張感を持って描かれている。 「ふと急に参加してみたくなってな‥‥」 神鷹 弦一郎(ia5349)が一枚だけ詠んだ句。 『鬼灯(ほうずき)の提灯点(とも)すパンプキン 次こそ作る南瓜ランタン』 光る鬼灯と泣いている南瓜がくっきりと明暗に割られて描かれている。 「何で失敗談を詠んでいるんだ俺は」 自分で書いておきながらがっくりと肩を落とす弦一郎。不思議だ‥‥どうして参加したくなったんだ俺は。上手くいった仮装の話を書こうかと思ったのに筆は気が付くとこんな物を書いていた。いやいいんだ、これも想い出だ。 「失敗談なら負けませんよ」 濃愛がその肩をぽんぽんと叩いて作り終えた札を扇のように広げる。 『大鎧買ったが最後金がない 武器が買えずに意味がない』 『ヴォトカ飲み酔ってしまって依頼ミス あげくに自棄酒またミスる』 『苦しいね今の陰殻苦しいね 合戦やって立て直そうか』 「あ、一枚は時勢を詠んでみましたけどね」 『帷幕にて百里の先に勝ちを得る 慕容の鬼謀逃るる者なし』 「このようなのは駄目ですかね〜」 与五郎佐も同じように自分の作った札を広げる。枚数が多かったが絵筆は慣れているのかすいすいと書き上げた。 『老人も若人も皆誉めそやす 都の花形さむらいのゼロ』 『流転せし己が宿命を歌にして 呼ぶ声あらば西へ東へ』 『怨霊を使役して世を救うなり これぞ妙法陰陽の道』 『絵草子に鬼ひしぐ手の開拓者 嫁に勝てぬとは誰ぞ知るらん』 『戦陣のうたた寝に見ゆ里の夢 親は泣くとも人の世の為』 「うわ〜難しいのばっかりすげ〜な〜」 ルオウが感嘆の声を上げる。 「渓の姉さんもたくさん作ってすごいな。おいらも一生懸命考えてこれ作ってみたよ」 『危機と聞き火急に駆ける九里の道 かようにこの道長かろうかと』 『結い結び一期一会のこの今生 明日の笑顔を護るが為に』 「格好いい句ができたじゃないか」 力作を畳に並べニカッと笑う伽紗丸の声に渓が覗き込む。その横に自分が作った札も順に並べてゆく。 『轟かす豪腕一閃技の冴え 闇を滅ぼす開拓者たち』 『無理を通して道理を蹴飛ばす たまに暴走開拓者魂』 『困った事件は何でも解決 相談窓口開拓者ギルド』 『拳を極めて心を正す 秦国の猛者だ泰拳士』 『明日を夢見て日々精進 いつか極める開拓者道』 『面倒事もあるけれど やっぱり楽しい開拓者暮らし』 『みんなの幸せ笑顔を守る 頼りになるぞ開拓者』 「ま、字数は指定通りというわけにはいかなかったが中身が良ければいいだろ」 「私はそれぞれの開拓者の特徴を詠んでみました」 本当は全部と言いたいところだが実際の札になったのはみっつ。並べようと屈んだペケ(ia5365)の胸が零れ落ちそうでそちらに目が行きそうな気がする。 『平穏の裏に生き行く忍び花 語ることなし影の宿命』 『丹田に漲る力必殺の 五体烈風秦国拳士』 『真直ぐな瞳に宿る志し 迷う事なし志士の生き様』 「おいらのはこれなのだ!」 『さあいくぞ勢い気張って万屋へ 結果変わらず台所品』 「そ、それは身に沁みるな〜」 譲治の置いた札に身の覚えがある者も多かろう。 「あれ、もしかしておいらが最後かな」 かなり写実的に描かれた本職かと見紛うような絵札。虎太郎が真剣に描いていた間に札はかなりの数が畳に既に並べられている。 『速さなら誰にも負けない泰拳士 鍛えた技と肉体(からだ)で勝負!』 『独りでは敵わぬ敵も皆となら 力を合わせアヤカシ退治』 なんと小さな札に人物がしっかりと二十人近くが描かれている。しかも一人一人の判別が付く仕上がり。 「今日集まってる皆じゃないか。こんな小さいのによく特徴が出てるな〜」 秦拳士が技を放ってる様子が大きく描かれている方は虎太郎の養父だそうだ。 「へへ。これでもおいら、絵は結構得意なんだぞ!」 「最後じゃないぞ、まだこれもある」 『夜入りに依頼終わりて樹に上る 神楽の都は光の海に』 『すす払い再び戻る緑茂の地 再会を待つ戦いのあと』 からすと青禊の札が並べられて、開拓者かるたは完成した。 ●試し遊び 「完成しましたね」 「あ、完成記念でカルタ取りやる人、挙手!一緒にやりましょう!」 青禊の声に元気の余る者達が一斉に手を挙げる。 「正月にはまだ早いが、予行練習とでも思えばええやろ」 さあ一仕事終わったと晃が酒を懐から取り出し胡坐をかく。 「私は茶でも飲みながら見物しようかな」 からすは茶道具を取りに立つ。広い座敷に散らかった道具を片付ける面々。遊ぶ者に寛ぐ者それぞれに自分の場所を定めて句の思い入れを語らいながらお互いに慰労する。 「今日はおとなしく遊びましょうね」 「今日は!?」 札の全部乾いている事や誤字が無いのを確認して集めた札を混ぜる娘の言葉に開拓者達のつっこみが同時に入る。 「新年は派手にやりますのね、ふふっ」 邪笑とも言える笑みを幼い顔に浮かべる娘。さて正月は立派に漆塗りを施されたかるたで何をするのやら。 他愛ない遊びに興じる開拓者達。今日はしばし憩いの時間。 「歌詠みの頼みを受けて詩句発句 さても手強きされど楽しき」 与五郎佐がふと呟く。 「四苦八苦するのはアヤカシだけで充分やで」 横で聞いた晃が返して、酒をぐいと呷る。その隙に膝の前にあった札が素早く取られる。 「はい!ペケが取りました〜」 「次行きますよ〜」 和やかな空気が満ちて時が過ぎる。このように天儀中の皆が笑えるような日々をいつか迎えられますように。だが来年も開拓者はきっと‥‥忙しない事だろう。 開拓者かるた四十七句 綺堂魅麻 選 |