【陰影】踊る凶影…壱
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/25 16:54



■オープニング本文

 里を出て駆け出しながら開拓者として氏族の命を為す女。開拓者の仕事もこなしながら時々密偵としての役割を果たす。
 思わぬ金が入ったので年越しを前に故郷を訪れ、年の離れた可愛い妹を連れ出して訪れた歓楽の街。
 幼い上に身体が生まれつき強くない。シノビには向かぬ身体を絶えず修行で傷つけるこの子。生きる為に選べない道。
 せめて、たまには安らぎを与えてやりたい。幸い、懐は今温かい。
 楼港のように派手な街は故郷の傍には無い。貧困な国、人の集う根来の里でさえこのような華やかさは見当たらない。
「温泉で暖まって、ゆっくり見物して回りましょうね」
 姉は妹の華奢な手を引き柔らかく微笑む。道ゆく人は活気に満ち溢れ、土産売りが陽気な声を上げている。

「紫亜、ちょっとあの風車を買ってきてくれないかなぁ。私は紫のがいい、あなたの名前と同じ色よ?」
 姉、倉田 紅亜は何か鬼気と迫る嫌な気配に、妹を二つ先の辻の物売りまで使いに出した。人ごみの中を小さな身体が擦り抜けてゆく。
 修行の成果か身のこなしも上手になってきているようだ。浮かびかけた微笑はすぐに緊張の中に仕舞われる。
 そう命のやり取りをする時のようなこの冷たい感じ。
 ‥‥何処だ。
 擦れ違い様、脇腹に走る冷たい気。咄嗟に逸らした身体が隣を歩く男にぶつかる。
「おっと大丈夫かい」
 うなじを貫く鋭い刃物。紅亜の目が見開かれる。息を呑む事しかできなかった。毒が急速に身体中の血を巡る。
「違う‥‥別人だ」
 男がそう小さく漏らした言葉は喧騒に掻き消されて誰の耳にも届かない。
 どさり。
 誰かの甲高い悲鳴が大路地に響き渡る。たちまちに混乱が訪れた。野次馬に紛れて男達は何処かへと消える。
 右手に紅い風車。左手に紫の風車。
 姉の喜ぶ顔を期待して戻った紫亜には何が起きているかわからなかった。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!?」
 探し惑う少女を見かねた誰かが事情を聞くと、その保護者はもしかしたら今倒れている女ではないのか。
 親切な者が人ごみを掻き分けて、小さな娘を騒ぎの中心へと連れてゆく。
「‥‥‥‥!?」
 さきほどまで微笑んで一緒に歩いていた姉。紅色の瞳が輝きを失って、ただの石のように。見開かれたまま。
 受け入れがたい状況と、受け入れなければならないという理性が幼い身体の中でせめぎ合う。
 いつかこのような日が訪れるかもしれないとは、忍びの心得として姉から懇々と聞かされては居た。
 でも早過ぎる。そして理不尽だ。任務でもないのに何故姉が殺されなければならないのだろう。
 呆然と立ち尽くす紫亜。

 白粉の匂いがふわりと香る。紫亜の肩に白い手が乗せられている。形の良い唇が紫亜の耳元に囁く。
「わたくし見ましたわ。殺した男達を知っております」
 長い睫に彩られた黒い瞳が振り向いた紫亜の目を見つめる。潤んでいるのに何処か乾いたような、吸い込まれる瞳。
「仇を討つ手配、わたくしがして差し上げます」


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
香坂 御影(ia0737
20歳・男・サ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
紅蜘蛛(ia5332
22歳・女・シ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
鷹王(ia8885
27歳・男・シ


■リプレイ本文

「‥‥何か。上手い事駒にされているようですね、私達も含めて」
「いろいろ不可解です」
 珠々(ia5322)と鈴木 透子(ia5664)の呟き。言葉には出さないものの、それはこの依頼を受けた者にとって共通の想いだ。偶然居合わせた女性は紫亜とは無関係の通りすがりだ。であるにも関わらずたった数日で犯人の特徴と足取りが既に掴まれている。事件が起きる前からこの女性は何か知っていたのではないか。そして色々と手配を済ますなり女性は姿を眩ましている。
「手掛かりはこれだけ。他に情報が無い以上、誘いに乗ってあげるしかないわね」
 挑戦的に挑むような瞳を静かに燃やす紅蜘蛛(ia5332)。
 幼い少女の仇討ちを手伝って何の利があるというのか。義憤や同情なら判る。しかし不可解な女性の行動は淡々と実に徹している。

「犯人を‥‥見つけたらどうするおつもりですか」
 別れて動く前にどうしても聞いておきたかった。朝比奈 空(ia0086)は包みを抱えて俯いた少女を見つめる。
 その腕に抱かれているのは、肉親の骨が収められた箱。ずっと見上げていた姉は、今このような小さな姿となっている。姉を突然に理不尽に失って込み上げる感情の波に溺れる間、見知らぬ女が犯人捜索の仇討ちから火葬まで素早く手配してくれた。
 街中での刺殺と駆けつけた町役人はやる気のない体たらくで調べもいい加減であった。どうせ余所者同士のいざこざ。遺骸の引受人も居たのでおざなりの聴取を行なっただけでその後は音沙汰もない。
「仇討ちとかは、真実を知ってから決めても遅くないだろ?」
 どう答えていいかわからない紫亜の表情を見て恵皇(ia0150)が言葉を返す。
 悲しみを癒すことは出来ない。だが真実は探せばきっと見つかる。
 
●開拓者ギルド
「人相風体でございますか」
 受付を担当した者をと呼び出された職員は鷹王(ia8885)の問いに首を傾げる。名義となっている倉田 紫亜には妙齢の女性が確かに同行していたような記憶がある。
「なんかあった時の為に連絡先とか身元確認はちゃんと控えとくもんやろ?」
「はぁ‥‥倉田様の連絡先についてはさきほど説明を受けられてると伺ってます。ご同行の方は特に控えを取っておりませんが」
 楼港の開拓者ギルドは今慌しく人が出入りしていて一人一人記憶してはいられない。
「あかんなぁ‥‥まあいいや。忙しいとこ邪魔して済まんかったな」

●陽光の色街
 遊女達もこの時間は自由な者が多く買い物に歩いたり支度に雑事、夜とはまた違った顔を見せている。並ぶ建物を彩る格子も昼の太陽の下では平凡に映る。
 紅髪の剣客とやらはこの時間にはうろついてはいないか。一見ぼうとしてるように危なっかしく見える透子を守るようにして荷物持ちといった態の恵皇が並んで歩く。
 鷹王は少し離れて眠そうな目でのんびりと散歩を装う。時折客筋かと品定めをする視線が追う事もある。会釈した女性には冷やかしがてら声を掛けて立ち話をする。
 旅の薬売りですが御入用はありませんかと透子は各店を訪ねて歩く。雑談がてら聞き込みをする間に恵皇は掃除に勤しむ下働きの子に声を掛ける。特に自分達の様子を伺っているような不審な気配はない。
「あの店‥‥頻繁に来ているらしいな。夜にでもまた来てみるか」
「私も一緒には、いけませんか」
 実はそれを口実に遊んでみたいのでは。ちょっと疑わしげな視線で恵皇を見上げる透子。
 紅髪の優男が出入りしている店。当たりがあった。指名の娘――恋華はあいにくと外出中だったが同僚が男を良く覚えていた。上手くすれば今夜あたりに捕まえられるかもしれない。
「夜に女の子の一人歩きは危ないぜ。俺は客として上がってみるつもりだしな」
 どう見ても夜の色街の潜入には問題のある外見。
「捕まえた時に備えてボクが店の近くに潜んでるから透子君は宿で依頼人の側に。年の近い子が多い方が落ち着くやろ」
 渋々かもしれないが‥‥了承させて夜は男二人で再びこの通りを訪れる事にした。

●殺害現場
 幾日か前の事件が嘘かのような喧騒。道端に立ち尽くせば邪魔になる程今日も変わりなく賑わっている大路。
 紫亜と共に事件当日の様子を聞いて回る香坂 御影(ia0737)と白野威 雪(ia0736)。そっと繋いだ華奢な手から動揺が伝わる。あの日を思い出しているのであろう、気丈に唇を結んでいるが呑み込んだ嗚咽の震えに雪は胸を痛める。紫亜は決して雪の目を見ようとはしない。紅色の瞳、姉と同じ色。背丈も同じくらいだ‥‥姿は似ていないがこうして手を握って歩いていると姉と街を見物していた続きのような錯覚に陥るのかもしれない。
(同じ道を目指し‥‥覚悟はあったとしても)
 立ち止まった紫亜の手を引き、そっと道端で小さな身体を袖で包むかのように抱き寄せる。一時も離れたくないからと抱えた亡骸の箱の角が布越しに雪の身体に当たる。
 土産売りの中にはその日もこの通りで商売を行なっていた者も居る。居合わせていそうな者に片っ端から尋ねてゆく御影。雪もできる限り声を掛けて歩く。
 事件の時に駆けつけた町役人の詰所も訪ねてみたがおざなりに追い払われ収穫は無かった。
「目撃者は居ても歩いてるのを見掛けたくらいで、何の手掛かりにもならないな」
 大丈夫かと紫亜の瞳を覗きこむ御影。自分の生まれも重なってその表情は優しくなる。拾われた親が違い故郷がそのままだったなら彼女と同じように育ったのであろうか。

●博打の拠
「尋ね人だぁ?白髪交じりの職人体ってね、そんなのここらにはごろごろ居るぜ」
 屋内に篭もる煙管から吐き出される独特の匂い。銭のじゃらりとした音が喧騒の中に混じる。
「有名な男では‥‥ないのかしら?」
 掛け札をすいと押しながら、しどけなく肩のあたりを着崩した素肌の身を寄せて少し甘ったるい声色で問いかける紅蜘蛛に男は鼻の下を伸ばす。
 後ろに控えている楚々とした巫女装束の女も神秘的な透明感のある雰囲気が野卑なこの店には場違いだがなかなかの上玉だ。空は遊びに連れられた風にして、物珍しげな顔をして店内を見回している。
「せめて通り名くらい判りゃあな、ここ最近遊び歩いてるってのかい。ならアイツに聞いてみたら判るかもしれねぇな。今時分なら、油売ってる頃合か」
 男の特徴、名前を聞いて紅蜘蛛は男を蕩けさせるような笑みを浮かべる。空にも会釈されて男はすっかり有頂天だ。
「人探しが終わったらまたこの店に遊びに来なよ。ここは良心的で素人さんが小さく遊ぶにはいい店だぜ」

 文字のかすれた看板。小汚い小さな賭場。火鉢の前で煙管をふかしている男がどうやらその人物のようだ。
「なんだ。この時間は勝負しないぜ?」
 コツリと火鉢に煙管の灰を捨てる。尋ね人だと言うと男は顔をしかめる。
「人を生き字引か何かだと思ってる輩が多くて参るな。ああ、金はいいよ、いいよ。そんな物は楽しむのに使っちまえ」
 投げやりに言ってぼさぼさの頭を掻く。
 そんな感じの新顔は確かに遊んでいた。遊女みたいのを連れていた事はないし、ここ数日は見掛けていない。無口なようで誰かと話していたような覚えはない。足しにもならないような情報だが、そのような男が賭場に出入りしていた事実は確認できた。

●宵昏の色街
「あら昼間のお兄さんじゃない。嬉しいわ、来てくれたの」
 連れは宿に落ち着いたんで遊びに来たよ。昼に透子が情報を聞き出した同僚の娘がちょうど店に出ていたので好都合の嬉しさも相まって爽やかな笑顔が自然に出る。
「恋華さんは居ないのかい?」
 恵皇の言葉に女――瑞蘭はわざと頬を膨らませて拗ねて見せる。
「あらあら昼も連れの薬売りさんに恋華の事ばかり聞かれたけれど。あいにくね、先を越されちゃったわよ」
「紅髪の奴かい。今日も来てるのか」
「そうそう、すっかりお気に入りみたい。羨ましいこと。でも私は貴方のような逞しい方が好みね」
 私ではお嫌かしら。商売気を出して恵皇のがっしりとした肩の筋肉に指を添わせしなだれる瑞蘭。着物を通した温もりと共に白粉と肌の混じった甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「俺もあんたみたいな娘が好みだよ」

 香の焚き染められた小さな座敷。酒の膳を届けた小女が顔を上げぬまま静かに下がり襖を閉める。
 このまま流れに任せても悪くないなと酒気を帯びた他愛ないやり取りに寛いだ空気になるが、さて仕事は仕事だ。
「いや、実は俺はとある良家の御子息を捜してくれと依頼されてな――」
 身体を寄せて侍る瑞蘭の耳元に囁く。
「お代を戴いたのにこれだけで帰しちゃうなんて悪いわねぇ。ま、あの子ならちゃんと知らせてくれるからまだ寛いでなさいよ」
 小女を呼んで動けば知らせるよう手筈は用意した。
「こっちこそ済まないな、また瑞蘭に逢いに来るからその時はゆっくりするさ」

 件の男が店を上がる頃合に暇を告げ後を付ける。鷹王も既に前を歩いている。男が人目に付かないあたりへ差し掛かった辺りで距離を詰める。
「兄さん、ちょっと話があるんやけどね」
 素早く回り込んで小路に立ちはだかった鷹王に腰の刀へ手を伸ばす紅髪の男。
「こんな場所じゃ何だからな」
 遊びにうつつを抜かした背中に恵皇の気功波が叩き付けられる。膝を崩した男の腕を鷹王が捻り上げる。酒臭い反吐が路上に散る。
「一緒に来てもらうぜ」

●温泉の宿
 それらしき男が逗留しているという宿は部屋数も多くなく、男女二組に大部屋に分けられた。
 後から仲間が合流するからと手配を済ませ先に宿に入った珠々は物珍しげに観察して歩く。温泉も付随しているので宿内をうろうろしていても不自然ではない。
 仲間を待つ間に宿の間取りを簡単な絵図にする。従業員の来ない時を見計らって部屋の天井を確認すると案の定押入れの上が開く。出入りには布団が邪魔だが、敷いた頃合を見計れば行けるだろう。
 一度遊郭街を探った者達が先に来たが、透子を残して男連中はまた出て行った。
 街を探索していた者達が続々と到着する。人数が居れば情報交換をしながら色々と動ける。紫亜は安全を期して女部屋に留めて雪が側に付いて世話を焼いている。
 情報に一致する男が現れた。ちょっと部屋に戻るねと珠々が離れ、男の案内された部屋を確認して通り過ぎる。透子も部屋に戻った。そろそろ仇討ちの是非を問うべきか。

 紅亜は果たして可愛い妹が仇討ちをする事を望んだだろうか。膝を正した雪は気遣いながらその考えを述べる。
 仇討ちの手配をした女性の思惑に乗せられるがままにここまで来たが紫亜の本当の気持ちはどうなのか。真相を聞いた後、男達を殺す事に意味はあるのか。
 紫亜は俯き畳の目をなぞるように見つめる。死には死を以って返せ、里ではそう教わってきた。だが開拓者達の言う通り復讐の結果は何になるのか。

 街の中心から外れたこの宿は恵皇達の向かった店からは都の反対側になり、夜も更けたがまだ戻らない。
 食事も終え布団も敷かれた。厠へ行くのか月見風呂と洒落込む者も居るのか廊下の足音は静かながらも途絶えない。
「私は紫亜様と一緒に残ります」
 雪は紫亜の肩に手を掛けて落ち着いた表情で身体を寄せる。少女は素直にそれを受け入れて座っていた。

 透子が式を使い不意に人が現れぬよう警戒する。連れ立って男の部屋に行けば目立つ。先に押し込むのは御影一人。同時に珠々が天井から侵入する。紅亜はその後に行く。隠密に済ませられるなら一人相手それで充分だろう。
「もし何かあれば私も参ります」
 空は部屋に居残る。
 見咎められればまずいので薙刀は持って行けない。珠々も物音を立てない為に武器は部屋に置いてゆく。紅蜘蛛が懐に忍ばせた飛苦無だけが頼りになる武器か。男は毒を仕込んだ刃物を持っているはず、気を引き締めてゆく。
 騒がれずに無力化する事に成功した。忍ぶ戦いは不意をつかれた者が負ける。
「殺すつもりはないけど騒いだら‥‥仕方ないわね」
 武器を奪い、喉元に刃を当てた紅蜘蛛が唇に妖艶な笑みを浮かべる。この状況では凄みがある。
 叫び声を上げない程度に後ろに手首を捻った御影が立つ。珠々が男を静かに睨む。
「話して貰いましょうか」
 尋問に男は屈した。
 楼港で情報を探るうちにこの度の動きに詳しい女と接触した。その風体は聞くと紫亜を導いた女と一致する。
 遊郭の経営者らしく店には居るが客は取っていないような話をしていた。仲間が何度か探りに言ったが女の店は突き止められなかった。
 本来狙っていた人物の名前は中々明かさなかったが、最後には朧谷氷雨を狙ったものと口を割らせた。殺した女がそうだとあの場で告げられたが、よく見ると違ったので逃げたようだ。本物の挙動を探る為にそのまま楼港に滞在している。
「ふぅん、その女に嵌められたのね」
 男が悔しそうに顔をしかめる。
「とりあえずは朝までお付き合い願うわね」
 部屋にある手拭や敷布を使って白髪交じりの男を拘束する。珠々が頷いて再び天井裏より部屋へ。御影も恵皇達が到着した時に部屋が留守ではまずいので透子と交代して一度戻る。

「遅くなってすまない。連れが一人増えたんだが泊まれるかな」
 紅髪の男の両脇から肩を支えた恵皇と鷹王が宿に到着する。途中途中ちょっと痛めつけてお眠り戴いた。酒と嘔吐の微かな臭いがするので泥酔した男に見える。
 玄関を叩く音に戸を開けに来た従業員は困惑を営業の笑顔に押し込めて部屋へと案内する。どうせ団体部屋だ一人増えたところで敷く布団が一組増えるだけ。
「あ、布団は僕が敷くからいいですよ。こんな時間まですみませんね」
 目的の男を抱えてきた二人に御影は一瞬目を見張るが、にこやかに従業員を労い下がって貰う。
 目を覚ましたら話を聞こうか。先に尋問した男が知らない事も話してくれるかもしれない。とりあえずはこの男も拘束しておこう。

「これで終わりでは無さそうですね」
 男達は夜明け前に拘束を解くなりそそくさと何処かに消えた。表沙汰にすれば自分達の殺害の罪が問われる。
 紫亜はこれで故郷に帰るというから、他の誰かに護衛させれば心配はない。女は充分過ぎる報酬金をギルドに預けていたので一人二人雇う余裕は充分にある。
「これもその女性の筋書き通りなのかしら」
 紅髪の男も仲間と同じような程度しか知らなかった。女は何を狙っているのか‥‥。

●何処かにて
「あら、失敗したの。そう」
 つまらないわねぇと笑う狐妖姫。どうでも良かったのかさほど残念そうでもない。
 差し向かい形程度に酒に唇をつける女は淡々としている。髪の色は違うがどことなく風貌は狐妖姫に似ている。
 開拓者達はどうするか知らないが踊らせた男達が自分を狙い始めたのは聞こえている。だが狐妖姫が撒いた火種が今は楼港で激しく燃え盛っている。男達も巻き込まれる事だろう。まぁ来たら来たで返り討ちにすればいいだけの事。
 そう思いうっすらと笑みを浮かべる。さあたくさん血を流せ、憎め、苦しめ。