忘年の強襲
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/15 06:47



■オープニング本文

 年の瀬も近付く小さな村。農作業も今年は終いにし、冬を越すべく支度する。
 そして正月を前に村の一大行事。今年一年頑張って働いてくれたもふらさま達をもてなそうという祭。
 なんとこの村は崇めるご神体も木彫りのもふらさまという。村中のもふらさまに赤いちゃんちゃんこと帽子を被せ、ごちそうを食べさせる。
 忙しない正月準備を前に、ゆったりと寄り合って語り合う村人達の楽しみの日だ。
 神輿もないし派手な事もしないが、皆それはそれは楽しみにしている。
 老婆も娘もにこにこと笑いながら、もふらさまに着せる衣装を縫い、今年はどんな形にしようかと笑いあう。

 しかしアヤカシはそんな村へも悲しき涙をこぼれさせる。狼藉を尽くす小鬼共。
 幼き子の首を齧り、逃げ遅れた老爺の背中を切り裂く。襲撃は一刻も無かった。家々に押し入った小鬼共は目に付いた者を喰らい尽くすと引き上げていった。
 満腹したのだろう‥‥。それ以上の探索はせず、餌食となった者の死骸を残して彼らは森へと消えた。
 小さな村にとってはかなりの被害といえる十二人の尊い命が喪われた。何が気に召したのか、村祭りの為に用意された赤い布類まで持ち帰ったようだ。
 家々から咽び泣く声が漏れる。誰もが家族を、親戚を、友達を、愛する者を喪って涙に暮れる。

「せめて仇を取ってほしいのです‥‥」
 もう誰も着る事のない小さな着物を抱いて、そう語る女。
「またあいつらが来たら、村が滅びてしまう‥‥」
 呟く老爺。しかし全ての基盤となる愛着のわいた土地。先祖代々ここで暮らしてきた。
 そして逃げたところで事態は変わらない。アヤカシはいつまでも、どこでも現れる。
「どうか助けてくだせぇ」

 依頼を受けて村を訪れた開拓者は打ちひしがれる村人達の姿を目の当たりにする。
 小鬼ごとき、人数さえいれば駆け出しの開拓者ばかりだとしても何とかなるはずだ。
 退治はそう難しくない。きっと村の傍の森の中に根城を築いているのだろう。
 だがそれだけでは‥‥。

 彼らに笑顔を取り戻させられるだろうか。まだ来年も、再来年も村人達に未来はあるのだ。
 祭を執り行おうという気力が残っている者はいない。
 どうにか、生き残った彼らの為に夢を与えてやりたいが‥‥。


■参加者一覧
北条氏祗(ia0573
27歳・男・志
深山 千草(ia0889
28歳・女・志
こうめ(ia5276
17歳・女・巫
頼明(ia5323
35歳・男・シ
榊 志竜(ia5403
21歳・男・志
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
鶯実(ia6377
17歳・男・シ
瑞乃(ia7470
13歳・女・弓


■リプレイ本文

「まさか、美しい方と一緒にできるとは。一人まだお子様ですが」
 瑞乃(ia7470)のほどよい位置にある頭を撫でてご婦人方に微笑み掛ける鶯実(ia6377)。
 深山 千草(ia0889)が困ったようにおっとりと微笑みを返す。
「アヤカシ退治のご同行、宜しくお願い致しますね」
 初対面ではないのでその人柄は心得ているつもりだ。こうめ(ia5276)はこれは鶯実の軽い挨拶と受け流して頭を下げる。
「ちょっと、お子様って」
 瑞乃が抗議の拳を振り上げるが、笑ってその腕を握る。
「先は楽しみにしていますよ」
 戯れはこのぐらいと、すっと真面目な表情に戻る鶯実。精悍な緑の瞳が静けさに包まれた村を見やる。
 夕餉も終わり夜の団欒という頃合だが、どの家からも笑い声は聞こえない。
 自分も対象に含まれていた事に気が付いていない新咲 香澄(ia6036)は北条氏祗(ia0573)の静かに燃える瞳を確認し、その滾る胸の怒りを留める。
 許せない‥‥自分もかつて同じ苦しみを与えられた。兄がアヤカシに殺された時、自分に今と同じ力があったなら。
 せめてこの村では笑顔を取り戻したい。仇討ちにしかならなくても‥‥襲ったアヤカシ達は絶対に、絶対に許せない。

「折角の祭りを‥‥酷い事をする‥‥」
 主の居なくなった家。狼藉の痕跡がそのままに残る。壊れた家財。拭われた血の跡が床板にこびりついている。
 榊 志竜(ia5403)の瞳が暗く沈む。
「この無念は‥‥きっと晴らして差し上げよう」
 膝を付いた北条が血の跡に一礼し、黙祷を捧げる。死者に敬意を表すべく膝前に並べた二振りの名刀。これは彼の魂である。弱者を救済する為にこそ、この天儀の刃は存在する。
「今宵の宿をお借り致します」
 亡き家主に榊も手を合わせ礼を尽くす。老輩の一人暮らしであったのだろうか、質素な佇まい。
「何があってもあたし達が守るからね」
 分宿した民家のひとつ。瑞乃は子供の手を握り、そう語り掛ける。
 悲しみに沈む村であったが、心強い開拓者達の逗留に安心を与えられ久しぶりの深き眠りに落ちた。

●小鬼退治
「先に根城を調査してしまいたいところだけど‥‥」
 アヤカシの行動は夜間とは限らない。個別に遭遇する危険を考えれば殲滅と並行した方が良いだろうか。
「根城が見つかれば、突入する前に皆で合流しましょう」
 早朝。そう広くはない森をくまなく探索したとしても日は暮れまい。
 三班に組を分け、冷気の漂う森へと足を踏み入れる。

「なんで赤い着物なんて持ち去ったんだろね」
 鶯実と歩を並べる瑞乃が小首をかしげて呟く。
「目に付いたから‥‥かな。着ている物を剥ぐのも面倒だったろうし、赤は暖かそうだ」
 適当に言ってはみたものの、アヤカシが身に纏ったりしてなければ良いのだが。
「残念ながら、着ているわ」
 先頭を歩いていた千草が立ち止まる。森の中に目立つ赤。一匹の小鬼が視界に現れた。
 弓を構える瑞乃。向こうも動きが見えたのか慌てて逃げ出そうとする。
「逃しません!」
 目印に木々を結わえていた糸を手放し刀を抜いた千草が走り、鶯実がその後ろを追う。瑞乃の牽制の矢が行く手の樹の幹に突き刺さる。
 木々が邪魔で小柄なアヤカシが逃げるに有利だが、こちらは三人。瑞乃に経路を狭められた逃げ惑う小鬼を二人掛かりで切り伏せる。
 汚らしい血が、纏っていた赤い着物を濡らす。
「駄目ね、この着物は‥‥」
 やはり戻ったら新しく縫わねばならないか。
「とりあえず剥いで持って行こう。このまま野に晒しては‥‥後で村人が目にしたら可哀想だ」
 刃を受けて血を吸った無残な布。悲しみの目に晒すくらいなら、焼いてしまおうか。
 いや‥‥村に戻ってから供養しようか。

 別の方角より森に踏み入るは、頼明(ia5323)、榊、こうめ。
 頼明が黒い糸を木の枝に結わえながら進む。もし別の班と交差したなら色違いの糸でわかるはずだ。長身が低く張った木の枝をくぐるように進む。
 淡々と冷たい表情をしているが、その胸の奥にはかつて失った故郷と一族が刻まれている。他人事と突き放して考えるには、身に重なる部分もある。
 殲滅したところで尽きる事のないアヤカシ‥‥だが討たなければ何も変わらない。村が滅びる前に手を打てた事は、良かったのだろう。
 手遅れになる前に。紫水晶のような瞳が静かに冷たく輝く。探る気配、囀る鳥の声。何も変わらぬような森。
 榊とこうめも肩を並べ、無言で進む。

 北条とその数歩後ろを進む香澄。二人と数は少ないが歴戦の戦士たる北条が放つ気は頼もしい。陰陽師の香澄がそのサムライを補うはずだが、何故か手には藁人形。小鬼相手に何をするつもりか。
 小動物を食い荒らした死骸。まだ新しい。血の生臭さがまだ漂っている。
「この先だろうか」
 慎重に歩を進める。

 榊の用いた心眼が数多い小柄なモノの気配を捉える。
 人型。この森には開拓者と野生の動物、そして小鬼しか居ないはずだ。
「見つけました‥‥ずいぶん数が居るようですが、根城でしょうか」
 声をひそめて頼明とこうめに囁く。
「合流した方が良いですね」
「私とこうめが見張りに残ろう」
 人の気配を頼りに探せる榊が離れ、他の者を呼び寄せるべく歩く。

「黒い糸‥‥」
 仲間の歩みの印を見つけた千草が周囲の気配を探る。まだ近くに居るなら見えるはずだ。動かない二名‥‥脇に動く一名?
「何かあったのだろうか」
 鶯実が糸を指で弾く。途中途中で結わえられているので伝達には使えない。
「そちらに向かおう」

 人魂で様子を探る香澄。小動物の姿に宿した式はアヤカシに遭遇すれば食べられてしまうだろうか。しかし先に見つけたのは榊の姿。足元に纏わりつかせ、ぐるぐると仲間の放った式である事を伝える。
「香澄殿か‥‥?」
 繋がった聴覚。榊の声は離れた場所に居る香澄にも聞こえた。肯定を示すように式を伏せさせようかと思ったが時間の切れた式は消えてしまう。
「あっ‥‥」
 もう一度駆けさせても同じだろうか。
「北条サン、榊サンが一人で歩いてるのに会ったよ。どうしよう、合流しようか」
「何か言っていたか」
「いや、その前に式が消えちゃったんで‥‥」
 そろそろ時間的にも合流してよい頃合か。この森、三手で探索すればもうある程度見回っただろう。
 式を行かせた後を辿る香澄の案内で北条も合流に向かう。

「こっちはアヤカシには遭わなかった」
「私達は一匹だけ‥‥」
 千草の視線の先には鶯実が手に掲げる赤い布切れ。村から持ち去った物のようだが、刃の痕に無残なボロ布と化している。
 今のところアヤカシ達に動きはないようだ。その辺の小動物を喰らって小腹も満たしたので休んでいるのだろうか。
 数が居るようなら全員で一気に掛かった方が良い。村の被害に遭った人数は十二人。同じ数だけのアヤカシが居るかもしれない。
 静かに寄り、そして一気に殲滅しよう。頷きあった一行は武器を携えて、その気配へと向かう。

 視界が遮られ、遠距離攻撃での奇襲は難しい。見える程寄った時には相手にも気付かれるだろう。
「同時に行くぞ」
 瑞乃と香澄を守りに残して、気配の中央へと飛び込む。赤い色彩を纏うモノを避け、立ち上がり奇声を上げる小鬼達と刃を交える。こうめが前衛の者を援護すべく宝珠を嵌め込んだ腕輪をゆったりと動かして精霊の力を願って舞う。両手首を繋いだ細い鎖が動きに合わせてしゃらりと鳴る。

 両手に携えた刀で北条が二匹を同時に相手する。同時故に受けきれなかった攻撃もあるが、その弱き刃はかすり傷程度にしかならない。手数で消耗する前に鬼神のごとく振るわれる二振りの刀がアヤカシを討ち倒す。返す刃で二匹が一人の手によって倒れる。
「北条二刀流が刃、小鬼ごときには破られぬ」
 榊も一匹を屠りながら、後衛へと抜かれぬよう警戒し、堅実に物見槍を振るう。至近に寄ったモノは反対の手にした脇差で払って後退する。こうめの応援で受けた加護がその腕に力を漲らせている。小鬼は大柄な榊の半分位の背丈。攻撃が低くなりがちでやりにくい。
「数が多い‥‥鶯実、そちらへ行った。頼む」
 香澄の放った呪縛符を受け瑞乃の矢を受けてなお進む小鬼。身体の空いた鶯実がその後ろ首を薙ぐ。血飛沫が降りかかる。
「赤いのはできるだけ汚さずに‥‥って無理かな」
 弾丸のごとく香澄の手から飛んだ式が小鬼の頭を叩く。
 乱れる小鬼の間をすり抜けるような影。黒き衣装が動きに舞う。撹乱しつつ頼明が片手棍を小鬼の頭部へと叩き付ける。舞う木の葉の中から素早く繰り出される攻撃。
 炎を纏わせた刀を振るう千草。小鬼の刃は腕に括り付けた盾で弾き飛ばす。黒い瞳は優しく微笑む常と違って厳しく容赦のない攻撃をアヤカシに向ける。

「数は居たが‥‥あっけないか」
 刀に屠られ、槍が貫き、突き刺さる矢。そして式。小鬼達の死骸が散る。
「‥‥こちらは同族を殺されましたし、恨まないでいただきたいですね」
 惨状を直視したまま鶯実が呟く。圧倒的に強い開拓者に対して非力な小鬼。数の利は敵にあったとはいえ結果は一方的に近い。
 血糊を拭い、愛刀を鞘に収めた北条が肩を叩く。腹が空けば人を襲う存在。倒さなければまた誰かが犠牲になる。
 瑞乃と千草が丁寧にアヤカシの死骸から赤い着物を脱がせてゆく。血に汚れてはいるが、開拓者が身に刃を受けてでも頭部に攻撃を集中したので綻びてはいない。刃を多く受けた者にはこうめが治療を施す。

「まだ残っているアヤカシが居るかもしれない。一晩くらいはもう少し探索しましょう」
 榊の言葉に反対する者は居ない。確実な殲滅を目指して更に森を調べる事にする。
「私は先に戻って村に報告するわ。万が一村の方にアヤカシが現れる事も考えられるので」
 千草に従い布を受け取った香澄も先に村へ戻る。

●帰還〜祭
 開拓者が持ち帰った血に濡れた赤い布。過ぎし日の悲劇を思い出して涙ぐむ者も居る。
 何と言っていいかわからない気持ちも込み上げるが村人達は感謝に頭を垂れる。
「残りの者は完全に掃討した事を確認する為、森に残っています。あらかたは既に倒して参りました」
 千草は丁寧に告げ深々と頭を下げる。
 沈黙。退治した歓声で終われるような依頼だったなら、どれほど気楽であったろう。母親の裾を握り締める拳。隠れた背中から覗く不安な目。言葉を何度も噛み締め、結びなおし、自分を納得させる大人にはまだ遠い。悪夢終わったという時間の区切りを‥‥この子達に与えられるだろうか。村の大人達にはまだ自分を立ち直らせる時間が必要である。
 胸に手を当て、瞳を閉じる。そう、私達に少しでもできる事があるのなら。
「あの‥‥」
 村の代表と思われる、精一杯に毅然と立とうとしている老爺に声を掛ける。
 村には何人の子がいるのか。亡くなられた子も含めて。
「では、それを作り終えるまで村に滞在させて戴きましょう」
 さあ皆さん、暮らしにお戻りください。明日には、森の安全を確かめた仲間が帰ってきますから。
「こんな時だからこそ、いつも通りがんばろう、ね」
 香澄の明るく輝く瞳。こんな時だから、笑顔だ。祭の話は言い出せなかった。明日でもいいじゃないか。

「森中歩き回ったけど、アヤカシはもう居なかったよ!」
 だいぶん昇った朝陽の照らす中、駆けて来て元気よく手を振る瑞乃。
「良かった。もう大丈夫だからね」
 村の者と一緒に井戸端で洗濯や水汲みを手伝っていた香澄が、側に居た子供を抱き締める。
「お祭‥‥やろうよ、ね。みんな楽しみにしてたんだよね。亡くなった人も楽しみにしてたんだよね」
「アヤカシの為に亡くなった者の慰めにも、弔いの儀の意味も込めて、どうか手伝わせてください」
 瑞乃の言葉に、榊が続ける。北条もぜひ慰霊の碑を、ご許可戴けるのならと毅然と願い出る。
「この村の為にそのような‥‥」
 嬉しさと共に、そこまでして貰っていいのだろうかという戸惑い。しかし何をしたら良いか、悲嘆と途方に明け暮れていても先には何も見えない。何でも良いから動く目的を与えられる。何かしよう。それが村人の心を揺り動かした。

 北条と鶯実が村人と共に立てた小さな慰霊碑。真新しい土饅頭が並ぶ前にぽつりと影を落とす。
 戦場に挑むような真剣な眼差しで碑を見つめ、野花を供え手向ける北条。
「無念であったろう‥‥村のため命を落とした戦士達に敬意を表す」
「あなた達の分も、この村の人は生きて繁栄します。見守ってあげてくださいね」
 鶯実が静かに言葉を添える。土の中に一緒に、残る者の笑顔まで埋めてはいけない。

 仕切り直された村祭の準備。開拓者はそれぞれに家の修復を手伝ったり、子供の世話をしたり、村の人々の間を歩いて回る。
 少しでも心身共に温まれるようにと、こうめが作ったお汁粉を家々に振る舞う。
「どうぞお召し上がりになって下さいませ」

 子供達一人一人の手に渡される小さなもふらさまの縮緬人形。千草が退治より戻ってより一生懸命縫っていた物だ。村のご神体に清め洗った赤い布と共に供え、ひとつひとつ祈りが込められている。
 祭の当日。亡き者が身に着けていた品を纏うもふらさま。その前にはこうめが率先して村の者と一緒に作り上げたごちそうが並ぶ。村人達の気持ちを察してか、一緒に仲良く暮らしてきた失われた人々を思ってか、もふらさま達も神妙にしている。
 頼明の唇を当てた横笛が、まずは亡き者に捧げようと鎮魂曲を奏でる。
「‥‥お辛いでしょうが、村の皆様には切に笑顔を取り戻して頂きたいです。きっと、お亡くなりになった方々も、それを願っていると思います」
 こうめの言葉が終わり、曲は音色を変え、一年の感謝を告げる物へと温かみを帯びる。
「さ、食べよう。もふらさまも一年頑張ったし、みんなも頑張ったんだよね。来年の笑顔の為に、今年もあと少し‥‥がんばろっ」
 本来は感謝の祭。瑞乃の明るく振る舞う声が宴の開始の合図となる。
「悲しいこともこうやって乗り切っていけるんだよ!すぐには無理でも未来を見てがんばっていこうね」
 もふらさまがごちそうに口を付けたのを見て香澄が、側にある料理をよそって子供達に手渡す。こうめと榊も老いた者達の世話を焼き、村人達の会話が少しずつ増えてゆく。笛の音色が止んでも、静寂は訪れなくなった。
「命ある限り、生き続ける事‥‥それが逝った者への供養だ‥‥」
 笛を袂に仕舞った頼明が誰にともなく呟く。

「始まったようですね‥‥」
 鶯実は祭の場所から離れ、慰霊碑の側で静かに酒を口に運ぶ。穏やかな陽射しが土を少しは暖めてくれている。
「あちらに行かないんですか」
 横で空を眺めている北条に問う。
「ここでいい」
 アヤカシを討ち、それで誰かが救われた。村の人々の哀しみを断ち斬れたなら、今はそれだけでもいい。
「村人の声が聞こえるか‥‥」
 死せる者の眠る場所。碑を撫でる北条の掌は温かい。