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■オープニング本文 しとしと降る細い雨。焚き火もままならぬ夜、旅人は木陰に震える身体を寄せる。 冷えた干し飯を噛み、竹筒の水で喉を潤す。明日には故郷に着くだろうか‥‥。 幾年月も忘れていた村。もっと広い世界を見たいと飛び出したのは、遠い昔である。 かつて何かの仕事に訪れた志士達の姿を見て夢と希望を抱いた少年だったあの頃。 自分も同じ姿になれると信じていた。 ‥‥志体。 それを持って生まれた者と、無き者には努力だけでは埋められない歴然とした差がある。 下働きをしながら道場へ通い、その心を学び、技を得んと鍛え励んだとしても。 『チチ、キトク』 余計な言葉は何も書かれない素っ気無い手紙が、村の名と宛名だけでどう探し当てたものやら壱也の元へと届いた。 村の者が都へ来た際に見掛けていたのかもしれない。長屋の戸に差し込まれていただけで、届けた者は誰なのか知らない。 差出人の名は里耶。 あの時幼かった妹は、今はもう村の誰かと縁を結んで何人かの子の母親にでもなっているのだろうか。 ある日何も言わずに村を飛び出した兄の事をどう思っているのだろうか。 ただ一言しか書かれなかった手紙からはその思いを知る事はできない。 闇夜に黒い影が舞う。しんと獣の声も静まるなか、バサリバサリと不安をそそる音が辺りに響く。 うとうと古い記憶の夢を彷徨いかけた壱也の身体を激痛が襲う。 「‥‥っ!?」 鳥の鋭い嘴に腕の肉が大きく抉り取られて血が滴っている。痛みを堪えて立ち上がる壱也を更に別の鳥が襲い掛かり背中の肉を抉る。 必死に闇夜の中を逃げ惑う。雨の冷たさと無我夢中の想いが傷の痛みを麻痺させる。 二羽の大きな怪鳥は獲物は自分の物だと言わんばかりに争い始め、絡まるように暴れている。 逃げなければ‥‥。 闇夜に飛ぶ鳥がいるのか。人を喰らう鳥がいるのか。そんな事を考える余裕も無かった。 雨上がりに濡れた道。朝陽を照り返す露がきらきらと葉を輝かせる。 傷だらけで大量の血を流した男が倒れている。 通りすがりに発見した君達が助け起こした男はまだ息があった。意識はない。 行き倒れを見捨てるような開拓者達ではないだろう。 ‥‥さて君達はどうするのか。 |
■参加者一覧
神流・梨乃亜(ia0127)
15歳・女・巫
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
桔梗(ia0439)
18歳・男・巫
貉(ia0585)
15歳・男・陰
露草(ia1350)
17歳・女・陰
奏音(ia5213)
13歳・女・陰
黒森 琉慎(ia5651)
18歳・男・シ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250)
25歳・男・志 |
■リプレイ本文 「なんか今回は肩透かしだったなぁ」 「私も着替えが必要かと思いまして、こんな大荷物でしたが‥‥必要ありませんでしたね」 抱えた風呂敷包みを見やり、溜息をつく露草(ia1350)。 雨上がりの北面の道を歩む開拓者達。どうもその依頼は開拓者ギルドの手違いによるものだったらしい。向かった先では既に解決していた。 「戻ったら文句言ってやらないとな〜」 「ちょっと‥‥倒れてる人が居る!」 血塗れで明け方までに降り続いた雨にぐっしょりと濡れて倒れている男。 真っ先に駆け寄った天ヶ瀬 焔騎(ia8250)が手を触れ、まだ胸が動き吐息が微かにある事を確認する。呼びかけても意識は無いようだ。 「大変!」 濡れて肌に纏わりついた衣服を剥ぐのに苦労しながら露草が男の負った傷痕を調べ、詳細はわからぬがまずは回復を、と巫女の神流・梨乃亜(ia0127)がその小さな手をかざして癒しの風を男の身体へと送り込む。 「依頼帰りになんだってぇこんな事に‥‥だが、これぇも何かの縁か。命がかかってるなぁら何とかしねぇとな」 露草に被さるように怪我の具合を見た犬神・彼方(ia0218)が、これはアヤカシの仕業だろうかと呟き顎に手を当てる。 「まだそこら辺に居るかもしれんな。手当てする間、俺ぁ見張ってるぜ」 辺りに点在する木立、朝陽に煌めく木の葉の影に怪しい影は無いかと鋭い視線で見据える。桔梗(ia0439)も男の側に膝を付き露草と梨乃亜の処置を手伝い始めたので、焔騎も男の側から立ち、周辺を警戒する。無辜の通行人を傷つけた者はアヤカシに違いないと憎しみを燃やし、研ぎ澄ました意識で木立の中を探る。現時点では心眼の届く範囲内には不穏な気配を持った生き物は潜んでいないようだ。傍らに立つ奏音(ia5213)も大粒の金色の瞳を凝らして、見張りの死角を減らそうと真剣な眼差しを送る。 「あそこに〜地縛霊さんを〜埋めておくの〜」 「いや道は止めておけ、誰か関係ない人が通り掛かるかもしれない。あの木立の手前あたりがいいんじゃないか」 焔騎が指差した方角にこくりと頷き、秦音の腕に抱かれた愛らしい猫の姿を模した人形から式が飛び、雨に濡れた地面に吸い込まれてゆく。 「のんびりしてる暇もねーみたいだな、まったくついてねぇ」 ぼやいた貉(ia0585)がばさりと羽織を払い、懐の止血剤を放って桔梗に提供する。 「んなとこでくたばられちゃあ邪魔だしな」 「別に置いていっても良いんだけど‥‥だめ?仕方ないなあ」 別に依頼外だし放っておいてもいいんじゃないのと適当な声を上げた黒森 琉慎(ia5651)だが、真剣に容態を見る者達から冷たい視線を浴びて肩をすくめる。 「皆でやるんなら、もちろん協力するよ」 また雨が降り出さないといいんだが。この季節の冷たい雨は濡れては元気な者でも身体が冷える。怪我人を動かせるなら、木立の陰で休ませたほうがいいだろうか。 「まだ日も高くならないし‥‥暖を取りたいね」 緊急時だからと躊躇もなく露草は男の衣服を脱がし、表情も変えずに桔梗の手を借りて治療を続ける。 「抉るような傷‥‥刃物ではありませんね。牙や爪というよりもまるで鳥に突かれたような‥‥」 乾いた布で血を拭い、手持ちの道具でてきぱきと止血を施す。梨乃亜の癒しで少しは息遣いが楽になったかのように見える。 「もう大丈夫、だからね。梨乃もみんなも側にいるから」 目を開けぬ男に声を掛け、梨乃亜も一生懸命に身体を擦る。ちょうど露草が持っていた着替えも丈は合わないが濡れた衣服よりはましと身を担ぎ上げて皆で着せ掛ける。 「身体‥‥温めないと」 触れればこちらの熱も奪われてしまいそうな程にずいぶんと冷え切った身体。長い時間雨に濡れたのだろう。血もかなり流れているので自力で体温を取り戻すのは難しい。 「動かせるかな‥‥でもここよりは乾いた場所に移したほうがいいな。風もここじゃ吹き晒しだ」 大柄な彼方と力のありそうな焔騎に運ぶのを任せて、狢が安全を確認した樹木の下に濡れてない地面を探し男を安全に横たえる場所を確保する。 「火を焚きましょう。濡れてない枝、集めてくれませんか?」 松明を焚き付けに火打石を打つが急ぐ手つきのせいか中々点かない。桔梗が火種を術で用意して炎はすぐに上がる。手の空いた者があたりの枝を薪に供し、炎は次第に安定しはぜりながら煙を上げて燃える。 「これを使うといいよ」 自らの着ていた外套を脱ぎ、琉慎が丈の足りない単衣に手足を剥き出しにした男の身体を包み込む。 「包帯でも包めば少しは温かいですから‥‥」 露草が厳重に丁寧に、その腕や脚にも傷は無くとも包帯を巻いてゆく。その間も桔梗は身体を擦り続け、男が少しでも回復する事を待つ。 男の唇は紫から次第に血色を取り戻し、容態はどうやら安定したかのように見えた。 交代で男の様子を見る者、辺りを警戒する者。男が目を覚ますまで正確な事態はわからない。アヤカシがこの辺りに居るのであれば退治してゆかねばなるまい。運ぶにも男は何処から来て何処へと向かうか手掛かりはない。荷物の中に携えていたらしい手紙はあった。他人の便りを無断で読むのは憚られたが濡れて中の文字が滲みながらも透けて見える。『チチキトク』男は待つ家族の元へと向かっていたのか。宛名の方には村の名が書かれていたが、これだけではどの方向に向かっていたのかわからない。男はこの村から来たのかもしれない。幸い命は取り留めたようであり、事情を聞くのは彼が意識を取り戻してからでも遅くはなかろう。 この場で戦う事があってはと梨乃亜が長槍を携えた彼方を護衛に共に地形を把握するべく歩き回る。岩や茂み、いざ戦う場合の足場となる地面のぬかるみ具合。木は散立して視界が悪いわけでもなく、奇襲を受けない限りは問題なく思われる。男を囲んで守りきれるはずだ。 秦音が自分達の通り道を確保した上で地縛霊を防衛線代わりに設置する。固定位置の周囲を守るだけなら数を設置しなくても充分な迎撃範囲を確保できる。 「囲んだから〜急に来ても〜きっと大丈夫なの〜」 喋りはのんびりおっとり、本当に大丈夫かと言いたくなるような気の抜け具合だがやるべき事はしっかりとやる。口調も見た目も幼いがそれなりの経験を積んだ陰陽師ではある。 「待ってる間も〜無駄にはならない〜のね〜」 待てどアヤカシは襲撃の気配はない。本当に居るのだろうか。 「‥‥っ」 ぼんやりとした視界。次第に焦点を取り戻したそこは悪夢の中ではなかった。武装した者も混ざる見慣れぬ男女が自分の様子を伺っている。 身を起こそうとした壱也の背に優しい手が添えられた。 「目を覚ましましたね」 静かに微笑む小麦色の肌の少年。穏やかな瞳には慈愛の色が湛えられている。桔梗が彼の正面に座り、壱也の背中はそれよりは年長の白銀色の髪を垂らした少女、露草が支えていた。 「あ、あの‥‥」 「怪我をして倒れていらっしゃったので、手当てをさせて戴きました。服はあの、そのままではひどい状態でしたので‥‥」 今は焚き火に当てられて乾かされているが、元着ていた服は染み込んだ血でごわごわになり、あちこち破れてひどい有様になっている。 「助けて戴き申し訳ございません‥‥」 「気にしない、気にしない。たまたま通りすがったんだ。倒れてたらお互い様さ」 さっき別に置いてってもいいと言ったのは誰だったか。張本人の琉慎がどこにでもいそうな人良さげな風貌で笑う。男は礼儀正しく頭を下げ、名を名乗りもう一度礼を告げる。街の道場志士のような格好をしていたが、振る舞いを見るにそのままの素性のようだ。 「その傷、アヤカシにやられたんだろ。良かったら話してくれないか。悪いけど手紙の文字が見えちまったんだ、急いでるのは察するけどまだ動けないだろ‥‥できればそいつも片付けてしまいたい。歩いてるうちに襲われたんじゃ、今度こそお前さんやられちまうぜ」 焔騎が真剣な眼差しで男に告げる。そうですね、と男は頷き喉が張り付くのか空咳をする。 「無理しないで。これ良かったら飲んでくださいね、話すのはそれからでいいです」 露草の手渡した飲み物を受け取るが力はまだ無く、桔梗が手を添えて男の喉を湿らせる。みかんの新鮮な味が沁み渡る。 「かなり消耗してますから、水分はしっかりと取ったほうが」 これで充分と返されたが露草は尚心配そうに男の横顔を覗き込む。ぽつりぽつりと話す内容に開拓者達は大体の事情を把握した。 「闇夜を飛ぶ漆黒の鳥か、厄介だな」 「夜目が利くならこちらが不利になりますね」 「だいたい、あまりゆっくりもしてられないだろう。早く村へ連れてってやらなきゃ」 日はまだ天頂にも昇らない。夜を待つには長すぎる。 「動けるか‥‥?」 上空に響く凶鳥の声。背丈のほどよく釣り合う露草と桔梗が肩を貸して立ち上がった時、それは来た。 「向こうから来たんならぁ、おあつらえでぃ」 彼方と焔騎が三人の視界を塞ぐごとく立ちはだかる。 「ここから動かない方がいいな」 前衛を任せ、残りの者は壱也を庇うように背を向けて囲む。空いた側の手に桔梗は霊木の杖、露草は護符を携えて構える。動きもまだ鈍い壱也を座らせるよりはこのままの態勢で迎撃した方が回避の対応もしやすい。逃げる選択肢もある。仮屋根とした木の太い幹がその背後を守っている。 梨乃亜が無骨な片手棍を舞いの具であるかのように使い、見る者の心を暖かくするような動きでゆったりと舞う。 餌の存在を嗅ぎ付けて急降下した漆黒の鳥。しかしそれは秦音の施した罠が阻む。地面より飛び立った式がそれぞれの標的を襲う。悲鳴を上げた鳥が離れた樹木の枝へと飛び、態勢を整えようと試みる。 「犬の神に従い、我が敵に喰らいつけぇ!斬撃符!」 「食われる怖さでも教えてやるかね、仕事だ、鴉」 彼方と狢の手から放たれた式が木の葉と共に黒い羽根と鮮血を撒き散らす。傷ついて怒りを向けた鳥は再び急降下して前衛を狙う。露草の呪縛に動きを鈍らせた一羽が梨乃亜の術に翼を捻られて地面に落ちる。が、意外と体力があるのか、再び飛び立って振り下ろされた片手棍の一撃を避ける。 「お化けきらーい!アヤカシ大っ嫌い!どっかいけ!」 一羽は攻撃に成功し、嘴から血を滴らせて旋回する。後ろの者を庇うべく身体で攻撃を受け止めた焔騎の左腕から血が流れている。 「漆黒の翼を剥ぎ取る志士、天ヶ瀬だぁ!これ以上、この人を傷つけさせる事はさせん!」 前に踏み出た焔騎は愛用の刀に紅蓮の炎を宿し、照り返す瞳でアヤカシを睨み叫ぶ。美味そうな新鮮な血の匂いを滴らせた男を狙い二羽が同時に彼を狙う。 「この鳥共!焼き鳥すんぞ!」 琉慎の放つ飛苦無が一羽の軌道を逸らし、標的を彼方へと変える。狢の放った魂喰がその瘴気を喰らい、速度を落とした鳥は彼方の正面から舞い上がるような軌道を描いて頭を狙う。その胸は彼方の腕から好都合な高さだ。 「犬の神に従い、我が牙ぁに其の牙を重ねよ!霊青打ぁ!」 鳥の嘴よりも槍の間合いが先に相手を捕らえる。真っ直ぐに突き入れた長槍の速さが相手の回避を上回り、その肉を抉る。桔梗の放つ術が更に苦しめ、地に落ち伏した鳥を長槍が地面に縫い付ける勢いで貫き柄を握る手を紅く染める。 焔騎に翼を焼かれると同時に秦音の式も喰らった鳥。更に露草の毒蟲まで受けた一羽は瀕死の身体を飛び込ませようとするが、琉慎の手裏剣の餌食となり、炎の刀が大きな身体に喰い込んでその生命を確実に断つ。 「こんなでかい的、外すほうが難しいさな」 一対一ならかなり脅威と思われる図体の凶鳥。群れを成す小鳥の群れよりは手数で一斉に討てる分、開拓者が有利であった。 呆然とただ支えられながら戦いの様を見ていた壱也。志体を持って生まれた者達の凄まじさを目の当たりに体験する事となった。足手まといを抱えて尚圧倒的な強さ。怖気は微塵もなく、怪我をしようが燃える瞳で討つ心。 そう、このようにはなれない‥‥。 桔梗の手から爽やかな風が放たれ、焔騎の傷を癒す。 ただ感動するばかりであった。ここまで違えば悔しさも通り越す。 脚に力を入れ、しかと地面に立つ。まだふらつくが歩けない事はない。生気を取り戻した壱也の顔は何か振り切れた決意を固めていた。 その表情を見て狢がさきほど言おうとしていた事を、彼に改めて告げる。 「‥‥俺は初対面の人間にあれやこれや言えるような人間でもねーけど」 いい顔してるじゃないか、と包帯に覆われた腕を優しく叩く。 「できる事、できない事はあるが、充分に立派になってると思うぜ」 開拓者のように精霊の力を我が身の物とできなくても。人は生きる過程で積んだ苦労の分だけ大きく成長している。 「どんな経緯で飛び出したんであれ、最後までてめえの帰りを待ってくれて迎え入れてくれんのは、やっぱりてめえの家族しかいねえんだよ、例え口でどんなに悪くいってても、な」 道化めいた仮面の奥の表情は伺いしれないが、狢は照れくさげな口調で続ける。 「‥‥家族ってな、そういうもんだと思う‥‥まぁそんだけ」 天涯孤独の身、まだ幼き頃に肉親を失う悲しみを知った桔梗が面を伏せる。離れていても‥‥まだ縁が、手紙が結んだみたいに残っているのなら。 「壱也はいつでも、まだ戻れると思う。会える縁がこうやってできたなら‥‥再び結び直せるから」 修行で鍛えられた手を握り、ゆっくりと壱也を誘導して歩き出す。 「さてと。お前さんも絶対父親に会わせてやるかぁらもう少し踏ん張れな。俺ぇ達に任せておけ、村まで一緒に行こうや」 家族の絆。それは肉親である事を問わない。それを実践する者の力強い言葉だ。女ながらに任侠の親分といった風貌の彼方が鷹揚な頼もしさで請け負う。 「せっかく近くまで来たんだしな」 言うべき事は言ったと笠を傾けて、狢が先を歩く。 「僕は先に行って、村に用意をお願いしてくるよ。きちんと手当てができたほうがいいからね」 駆け出した琉慎の背中に露草の声が飛ぶ。 「あまり大げさに言っちゃだめですよ。壱也さんは久しぶりの村なんですから!」 了解、と手を振った琉慎はシノビの脚を駆使して遠ざかる。 「お兄ちゃん‥‥」 知らせを聞いて、赤ん坊を抱いた娘が村の入口で待っていた。何と最初に言っていいかわからない表情。 「里耶か‥‥?」 添う開拓者から離れよろめきながらも娘の顔をまじまじと見ながら進む壱也。 成人した娘の瞳から涙がぽろりぽろりと零れ落ちる。額を濡らした滴に赤ん坊が目を覚まし、母親の顔を見上げる。 「ごめんな」 それしか言う事ができない。積もる話はそれから後になる。自分の事よりも今は父の心配が先立つ。 手を取って家へと向かう兄妹を一行は静かに見送った。 「後は出る幕じゃない、かな」 「少し落ち着いてからご挨拶して帰りましょうか」 一度は離れた者の絆、きっと結ばれるはずだ。 |