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■オープニング本文 「ぐはっ、み、水ぅ〜水をくれ!」 男が苦悶の表情を浮かべ、汗をだらだらと流しながら喘いでいる。 珍しい料理と釣られて入ってはみたが、ここで扱う『すぅぷかりぃ』なる物は超激辛。しかも値段は高い。 もう来るものか‥‥と心に誓い、男は店を去っていった。 ここは神楽の小道に面した、ちいさな料理屋。ジルベリアから流れてきた若い男が経営する店である。 「レオニール殿、今月も赤字ですぞ‥‥」 筆を舐め舐め帳簿をつける男、料理は美味いが経営の才など全然ないレオニールを手伝っている穣二が苦言を申す。 元はうだつのあがらない商家の者であったが、それなりの心得はできている。独立する根性もないので、共同経営者募集の句に一も二も無く飛びついたが、店主こだわりの料理は商売として全く起動に乗っていない。しかし美味い物は美味い‥‥穣二はこの店主の作り出す独自の味に魅せられていたので辞める気はない。なんとかしたいものだ。 「ジルベリアの香辛料がベースなのは外せないとしても‥もう少し地域密着というか、材料の単価もあるしな。神楽で簡単に入手できる物が良いな」 「まぁ神楽と言わず天儀本島であれば充分流通も良いから各地の特産物を利用した物も良いのでは」 店仕舞いをした宵入り時、明日の仕込みも終えた店主は客席にぐったりと座り、頭を悩ませる。 「ところで汁はどうだ?」 「さすがレオニール殿の味。ただ万人受けを狙うならもう少し辛さを抑えたほうが‥‥」 「ならぬ!そこは外せぬ!辛さを抑えては我が師匠の研究した旨みが引き立たないのである!」 「では、せめて品揃えの幅を考えねば商売にはなりませぬぞ」 むぅ、と唸り食卓に頬杖をつく店主。何度も首を振るあまり頭から手拭いがはずれて豊かな金髪が振り乱される。 「浮かばぬ!浮かばぬ!我はこう‥‥新しい物を創造するというのには弱いのだ。職人気質故、工夫を凝らし改善するのは燃えるのだがな」 「魚の出汁を使ってみるとかどうですかね」 「それはやってみた。鰹の風味は悪くないと思うのだ。しかしどうも具材がそれに合っていない」 「具材の研究が必要ですな」 再びむぅ、と唸り店主は浮かぬ顔をする。 「宣伝も兼ねてちょっと案があります。まぁ今日は店を閉めて帰って寝ましょうや」 店主の肩をぽんぽんと労い叩き、穣二は前歯の一本抜けた愛嬌のある顔で笑った。 「開拓者ギルドに依頼?」 「ここは神楽、開拓者の多く住まう都ですから。彼らの意見を取り入れれば、良い案も浮かぶのではないかと」 「金はどうするのだ‥‥」 「なぁに彼らが仲間内に宣伝してくれれば口込みで客も増えます。投資と思ってと‥‥前の店の者から少しずつ借り入れてきましたよ」 「色々と済まぬな‥‥」 「さ、とにかく支度しましょう」 『求む、新お品書き!‥‥と試食者』 米は北面産。汁は超激辛。これは店主のこだわりである。そこは譲れない。 客を少しでも幅広くと考えると肉の入ってない品も考えておきたいとは穣二の談。 |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
まひる(ia0282)
24歳・女・泰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
瀬崎 静乃(ia4468)
15歳・女・陰
蒼葉(ia5589)
16歳・女・サ
葉隠・響(ia5800)
14歳・女・シ
桐崎 伽紗丸(ia6105)
14歳・男・シ
九条 乙女(ia6990)
12歳・男・志 |
■リプレイ本文 『本日貸切につき休業』『近日新作入荷!』 早朝からぺたりぺたりと張り紙が入口に掲げられた裏通りの料理屋。外は朝冷えに身体を震わすというのに戸を開けると既に熱気が店内に篭っている。 「依頼を受けてくれた開拓者さんですね、ようこそ来てくださいました。私めはこの店を手伝っております穣二と申します。ささ、上着はこちらに掛けてどうぞ中へ」 『かりぃ屋麗雄』と白く抜いた紺染めの前掛けをした男が愛想良く迎え入れる。一本欠けた前歯が笑った顔に更に愛嬌を増している。 「ん、そういえばお店の名前も聞かずに依頼を受けちゃったね。私の大好物なすぅぷかりぃだっていうから飛んできちゃったよ!店主さんの名前がレオニールだったから、それで麗雄かな。麗しく煌めくすぅぷに雄雄しくドンっと転がる具材!いい名前だね〜」 元気いっぱいに先頭を切って入ってきたまひる(ia0282)、既に頭の中はすぅぷかりぃ一色に染まっている。胸に豚バラ肉の塊の包みと米粉の袋を抱えて、他の面々が持ち寄った素材をキラキラと光る青い瞳が辿ってゆく。今日は依頼のついでに幾種類もの味が一度に試せるとあって楽しみが止まらない。 ここに来ればタダで飯が食えると受付の人が哀れみの目で見ながら教えてくれた‥‥と手ぶらの蒼葉(ia5589)がそろりと最後に入る。食欲をそそる匂いの染み付いた食堂に腹がぐぅーと鳴る。 店に一時にこれほどは入った事のないという人数。厨房から出てきたレオニールが大勢でやってきた開拓者に目を丸くする。 今日は客を入れないという事で愛用の刺繍が散りばめられた桃色エプロン。眉がきりりとした端麗な顔立ちにあまりにも似合わない格好に九条 乙女(ia6990)が思わず吹き出しそうになり慌てて口を押さえる。豊かな金髪を無造作に縛って手拭いですっぽりと覆っているので地味な感じになっているが、普通にして外を歩けば町娘の視線を奪うような類の青年なのではないか。あまりにも違和感のあるエプロンが全てを台無しにしている。 「店主のレオニールだ。忙しい中わざわざ我の店に来てくれてありがとう。少しでも神楽の皆に味わって貰えるよう努力したいと思っている。何か気が付いた事があったら言ってくれ」 見慣れてはいるが人前を憚らない格好に苦笑いする穣二が側に寄って耳打ちをする。 「うむ、基本的な食材はある程度揃えてある。生物は普段使う鶏肉と馬鈴薯と人参くらいだがな‥‥」 今のところ店主が基本と信じるたったひとつのお品書きだけで営業している。ジルベリアから輸入している野菜の一部は、今日は天儀風を研究との事で置いていない。 「まずは皆で手ぇ洗おう!」 人様に食べさせる物を作るんだから衛生は大事といそいそと持参した真っ白な割烹着を身に着ける桐崎 伽紗丸(ia6105)。 「それじゃまず店のテーブルを拭いてくるよ、雑巾はこれだね!」 せっかく洗った手も雑巾掛けではあまり意味もないような気もしないでもないが。朝から店の中を駆け回ろうとする姿はまるでころころ転がる元気な子犬のようだ。 「あ、そうだ牛乳はたくさん買ってきたんだ。試作品だけじゃ使いきれないから良かったらさ、こ、これ飲んで!」 手桶に一杯に満たされた生乳。入れ物も持っていかなかったから、これ全部!と気前良く買ってしまった。練乳もたっぷり徳利一瓶ある。 「これだけあれば、甘味や飲み物も作れそうですね〜」 料理の研究には余念のない紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)、文献を漁ってすぅぷかりぃにとても合うという『らっしぃ』なる飲み物を作ろうと考えてきていた。 かりぃにはうどんが合うだろうか、泰蕎麦が合うだろうかと昨夜から思案を練って、自分の店で打った柚子を練り込んだ麺を持参してきていた。天儀風と聞いていたので今回はうどんにしてみた。懐からごろりと丸々太った甘薯がレオニールが用意していたザルに並べられる。 「僕は南瓜と豆腐を選んできたのですが如何でしょうかねぇ。無難な品なので味をちょっと変えてみようかと思うんですがどうでしょう?」 都内のあちこちの料理屋に顔を出しては助っ人をして歩いている井伊 貴政(ia0213)、試作品募集という依頼に喜んで飛びついたのはこれも自分の腕を更に磨く為であった。料理の勉強はいくらしても飽き足らない。初めは腸詰肉なんか入れてはどうだろうかとも思ったのだが、一個ずつ手間の掛かる加工品で仕入れの商人が限られる事から店で扱いやすそうな豆腐を選んでみた。日持ちのする材料ではないが、安価でどこででも手に入り定期的に仕入れるのも容易だ。 「味噌とか醤油とかも合うか試してみたいなぁ〜と」 すぅぷかりぃの汁に合うかはわからないが、天儀の基本的な味!せっかく天儀風に作りたいというのだからこれを試してみない手はないだろう。 「ほう、味噌と醤油か‥‥風味がずいぶんと変わるがな。我はまだこれという味を見つけていない‥‥。これはという味ができるようだったら是非教えてくれないか」 レオニールも目を輝かせる。まだ日は浅いが天儀独特の食材には興味津々である。ごそごそと商売用に使わない物を入れている棚から蓋をした甕を取り出す。 「穣二に教わって味噌汁とか煮付けとかいう物も作ってみたりしたのだがな、面白い香りだな。良かったら使ってみてくれ」 出汁を取っていたスープの味を見て頷き、一抱えはある大きな鍋を後ろの鉄板へと移す。優男な見掛けの割に力は結構あるようだ。 鍛冶屋に特注で頼んだという大きな一枚物の鉄板。城砦の石垣から取ってきたかと思うような見事な長方形をした礎石を積んだ上に敷かれている。その下では四個も置かれた火鉢が炭を赫々と燃やしている。 「鉄板は熱いから気をつけてくれよ」 一見澄んだ汁だが、覗き込むとその底には手折った赤唐辛子が大量に沈んでいる。 「これ、出汁‥‥ですか?」 「うむ、これが全てのベースになる。これに鶏がらや鰹節から取ったスープを調合してスパイスを加えてゆく。材料の味も加わるから、ここから千差万別になる」 「なるほど、辛味を出しているのは香辛料の粉だけじゃないのですね」 それは絶大な辛さを発揮するわけだ。ふむふむと頷きながら貴政は頭の中に書き留める。味をあまり変えずに辛さを醸し出すには使えるかもしれない。こんなに過激なのはともかく隠し味には使えるかもなぁ〜と、合いそうな食材がその頭の中を駆け巡る。 「竃が二つしかないからな、スープが出来るまで具材や調味はちょっと待っていて欲しい」 スープから改造を試そうと、玉葱やトマトや牛乳やと色々持ってきている面々も居るので、火の順番はなかなか空かないようだ。 横では今、瀬崎 静乃(ia4468)が玉葱と人参を使ってブイヨンスープの製作に没頭し根気良くあくを掬う。煮立つ湯の上を糸で縛った香草が気持ち良さそうに浮いていて、お玉を入れる度にあっちへこっちへと泳いでいる。 仕込みが終わった物から順に加温した鉄板に移され、厨房内を様々な匂いが絡み合う。鉄板の上では開拓者達がかりぃの研究に余念がない。 「せっかくですから、どんどん辛くしちゃいましょう」 辛味追加用と調合された粉を遠慮なく放り込む紗耶香、彼女の小鍋の中は真っ赤に染まってゆく。 乙女が苦瓜の調理方法などをレオニールに説明しながら、考案してきたかりぃを作る。卵と一緒に油炒めした苦瓜をかりぃに載せて。 「う‥‥沈んだ」 かりぃを準備する間に葉隠・響(ia5800)が牛乳を利用して他の者の意見を聞きながららっしぃや甘味を作る。 白い御飯の他に紗耶香の提案した『ばたぁらいす』、こちらはレオニールが助言して香辛料も混ぜて炊き込まれ、鮮やかな黄色が目に眩しい。どちらも盛り付けられた中央にぱらりと乾燥したパセリの粉が振り掛けられ、食卓へと運び込まれた。 ブイヨンベースに角煮ともちもちの米粉団子を中心にした具材。そしてつけ麺用にザルに盛られた柚子練りのうどん。じゃがいもの代わりに甘薯が転がる手羽肉を使った真っ赤なかりぃ。牛乳と練乳をたっぷり入れた白いかりぃ。トマトベースで作った海老かりぃ。苦瓜と卵の油炒めが沈んだかりぃ。南瓜と豆腐を主体にした味噌風味のかりぃ。もし良ければどうぞと、店の基本かりぃも一緒に並べられた。 水の他に牛乳や苦瓜茶。濃厚な緑茶、らっしぃ。甘味としては抹茶羊羹が並ぶ。試作品が大卓の上を所狭しと並べられた。 「さあ、試食だ!」 出来上がるのを今かと待ち受けていた蒼葉がさっそくスプーンを手に取る。手持ちが無くて三日ほど何も食べていなかった腹は最高にへこんでいる。試作何それと言わんばかりに果敢にがっつく。 「美味しい、うんなかなか美味しい。これは結構美味しいな。おお、こっちはかなり美味しい」 まだ湯気もうもうと立つ食卓一杯に並べられた皿へ次々と匙を突っ込んでは口に運び感想を述べる。合間に甘味や飲料も口に含んで前の味を打ち消して挑む事も忘れない。何を口に入れても幸せそう。極度の空腹に激辛の刺激は身体に毒だと思うのだが、全く動じる様子はない。 「これ全部味見していいんだね」 御飯の皿を手にほくほくの笑顔で卓を回るまひる。手にした匙をくるりと器用に指先で回し、卓に並べられた作品を物色する。どれから行こうか目移りがする。 「ごほっ‥‥ん〜、美味い!」 まずはとレオニールのスープに匙の御飯を浸して口に運び、ちょっとむせる。とびきりの辛さに一口目は身体がちょっとびっくりするのはお約束だ。ごろんと半分に切っただけの芋を匙で割り、汁の沁み込んだそれを堪能する。溶けきらなかった香辛料に化粧を施された味が舌を喜ばせる。匙で崩れるほどに煮込まれた鶏肉もほろろとしている。 「お次はトマト〜」 ぷりぷりの海老がトマトの酸味とぴったり合っている。乙女の苦瓜かりぃにも匙を入れ、相性を確認する。 「ん〜、卵は茹でて丸ごと入れたほうが、すぅぷかりぃにはいいかな〜」 ふわふわの卵はスープの中でバラバラになってちょっと残念な事になっている。とろみのない系統の汁だから細かくなった具は散漫になって存在感が薄くなる。 「いや、御飯の方に乗っけるという手もあるね」 ばたぁらいすを指差して、あれとは合うんじゃないかと意見を述べる。その分スープの方をシンプルにすればいい感じの品になるであろう。他にも食べた事があるのか、なかなかにかりぃ通な意見である。 牛乳と練乳によって引き出された甘さが鶏肉と絡んで口の中にふわりと広がり、柔らかなそよ風が抜けたかのような瞬間の直後に現れた耳まで突き抜けるかのような烈火の衝撃。 「うっ‥‥」 乙女の上体を滝のように流れる汗。茶をごくごくと飲み干し、それでも足りずにらっしぃも一気に喉へと落とす。衣を諸肌脱ぎにさらし一丁になってもまだ汗は引かない。穣二が渡してくれた手拭いで身体を拭きながらも手は羊羹に伸び、燃える口中を甘味で中和する。 「は、はぁ。こ、これ以上食べたら辛さで馬鹿になる‥‥それならっ!私は馬鹿で一向に構わないっ!」 紗耶香の作った甘薯入りの真っ赤なかりぃへと挑戦。 懲りずに匙一杯に頬張った乙女の赤い瞳に炎が駆け抜けたかのように見えた。見開いた目が焦点を失う。 「‥‥なんだろう、かりぃと言う名の世界の果てが口の中に拡がって往く」 暗転。‥‥花畑はないのか河は見えないのか‥‥虚空を彷徨う乙女の意識に遠い声が呼びかけてくる。 「乙女さん、乙女さん、気をしっかりっ!」 「ん、どうしたんだ。悶絶するほど美味かったのか?」 周囲の喧騒を見向きだにせず顔色ひとつ変えずに試作品を全部食い荒らしつつあった蒼葉が顔をやっと食べ物から上げる。介抱される乙女の姿を見てぼそりと呟く。その手は匙を握ったまま全く動じていない。 「戦場で何が起きても最後まで立っていられるのが本当の強者だと育ての親に教わりましたが」 食卓という名の戦場‥‥ことごとく撃破した彼女の言葉は妙に説得力がある。 「全部美味しかったぞ」 その内臓は全部胃なのか!と突っ込みたくなるくらいの量を平らげて満足げな蒼葉。食後の茶‥‥食中にもたっぷり牛乳やららっしぃやら手を出していたような気もするが‥‥をずずりと啜る。 「一皿だけ注文するなら‥‥もう少し全体的に量があってもいいかな」 別の卓で様子を伺っていた穣二が、ふむふむと生真面目に感想を手帳に書き取る。 (いや、それは一般的な意見ではないと思います‥‥) こめかみから汗を足らして心の突っ込みを入れたのは誰であろうか。通常の胃袋なら充分に満腹感を抱く分量である。 恐る恐る匙を入れた響が少量ずつ試してかりぃの味を楽しむ。割と平気な辛さだ、超激辛の一皿を除けば。貴政も皆とのお喋りを楽しみながらこちらも少しずつ味わう。 「辛いのをたぴぇ過ぎて、味が判らなくなってぴゅよ」 全部を食べまわった静乃の呂律が回らなくなっている。顔は平静を保とうとしているが水の摂取量が半端じゃない。貴政が差し出した茶の湯呑をたちまち飲み干す。 「これぞ天儀風」 貴政作の味噌風味かりぃがレオニールのお気に召したらしい。これはそのまま採用して店で出してもいいだろうかと打診している。 麺は難しいので紗耶香の店で使ってくれればとの事だ。種スープの配合は明かせないが必要があれば小分けで提供するとも約束する。 まひるの提案した米粉団子も変わり種として採用された。トッピングとして好む客に提供したいと言う。 飲み物は簡便性と風味を考慮してらっしぃと緑茶が提供する品書きに加わったようだ。甘味はどこかから仕入れたほうがいいかなと、これから神楽内の店を巡ってみるそうだ。提案されていた果汁を固めた寒天というのも興味をそそられたようだ。実は店主が果物類は苦手で扱っていない。 皆が後片付けをしてくれている間に、穣二は鋏を動かして何やら券を作りレオニールに署名と拇印をさせていた。時々レオニールが筆を誤って叫んでは穣二が眉尻を下げて手書きの券を作りなおしている。自分の名前という一番簡単なとこだけ書かせているのに。小筆でさらりさらりと穣二が画数の多い文字も綺麗に並べてゆく。 『御優待割引〜券一枚につき一品半額〜』そう書かれた小さな紙。一人につき五枚、ぜひ通ってほしいと開拓者の手に渡された。 「ようし、さっそく宣伝してこよう!激辛極旨すぅぷかりぃ!これを食べなきゃ男じゃない!っこんな感じかな?」 券を握り締めた伽紗丸がさっそくと店を飛び出して駆けてゆく。 「あ、陣羽織を忘れてってるし」 響が慌てて追い掛ける。 皆の吐く息が熱い。寒空の下ぽかぽかに暖まった身体。次来る時は開拓者達によって考えられた新しい品書きも並んでいる。これはまた店に来るのが楽しみである。 |