そんな茸に御用心
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/27 07:10



■オープニング本文

 天儀内各国を巡業して料理パフォーマンスを魅せる集団『飯華』。
 地元の材料と天儀伝統の調理に拘り、近年交流も深まった各儀の多様な料理は学びはしても、あえて我が道を行く集団である。
 宣伝も行なわず、突然無名の村にやってきてはどちらかというと見世物じみた公開調理を行い、ひっそりと去ってゆく。
 なので行動範囲は広いにも関わらず、地味で知名度は低い。知る人ぞ知るといった程度。

「誰ですか、この茸が食用とか言った人は……うぐ」
「毒茸と外観はそっくりだが、全く別種で地元でよく賞味されているという話だった」
 組み立て式の移動小屋の屋根の下、苦悶の表情で転がる少年少女達。一番年長の者でも二十歳に満たないと思われる。
「気休めかもしれませんが毒消しを皆さんお飲み下さい。痛みは穏やかになります。その代わり副作用で下り具合が余計に激しくなりますが」
「おい、それは余計に苦しむと言わないか」
「でも激痛からは早く開放されますから。兄上の虎の巻によりますと、毒茸が私の想定通りの種類でした場合は――」
 消化され体内に取り込まれた毒素が完全に自然中和されるまで七日から十日。
 その間全身に激痛が続き、体質によっては神経にも影響を及ぼして長期に渡って五感、特に嗅覚や味覚に違和感が残る。
「料理人として味覚が狂うというのは耐え難いな」
「匂いも大事ですよ。それに彩りを味わう視覚、調理中に響く快い音を愉しむ聴覚、材料を厳選するに手触りも大事な感覚です」
「自分達が良いと判断できない物を人様に提供するだなんて、そんな事できませんっ!」
「ならば覚悟して飲むか。ところで……その薬は美味しいのだろうな」
「兄上が自分で書いた調合ですよ」
「美味しいに決まっているな」
「でしょう?ただ材料が都に行かないと入手できない物も含まれているので、有り合わせで代用しましたが」
 使った材料を書き記した手帳を開いて、俯く犬耳の少女。普段ならピンと立っている耳が元気なく垂れている。
「見せてみろ……おい、何でこれを使った!?」
 同じ毛並みで姿形もよく似た、どうやら双子の兄らしき少年の顎が呆けて垂れる。
「風味は似ているかな……と思ったんですけど」
「火で炙った時の香りは確かに似ているが、煎じて煮込んだらエグみ爆発だ馬鹿者っ」
「ええっ、そうなんですか!?」
「仕方がない。調理した物を捨てるなぞ言語道断。判った……お前ら覚悟して飲め」
「えっと効果が期待できる最低量は椀で二杯ですね」
「うわああ……」
 天幕の外より、円匙を杖にしてよろめきながら戻ってきた鉢巻に襷姿の少年が皆に告げた。
「厠用の穴を掘ってきたぜ……ちょっと離れてるが、お前ら途中で漏らすなよ」

 ぽつんと野の道傍に建てられた小屋を通り掛かった開拓者達。

 頼まれたのは簡単な荷運びの用事。依頼で訪れるのは此処よりちょっと歩み進んだ先の農村。
 都で乾物屋を営む商人より、この季節限定で作られる村特産の茸を調味乾燥させて作った珍味の仕入れを頼まれた。
 人気の品ではないが独特の風味を好んでこれが無いと酒が進まぬという常連客も居て、売り先が既に決まっていた。
 評価は賛否両論という珍味だが、とにかく辛口の天儀酒によく合うという。
 たいした報酬も出せないが駄賃代わりにこれも持っていけと、その珍味と相性が良いという酒徳利をひとつ戴いた。
 行程的にどうせ何処かで一泊せねばならぬのだから、ちょっと味見がてら酒盛りをするのも悪くないか。
 どうせなら、人数分くれればいいのに。
 まぁ、足りない分は自腹で用意して持っていけばいいか。

 このような場所でどうしたのか。小屋と草叢茂る場所を往復する顔色の悪い少年少女達に、事情を尋ねた。
 全員がたらふく賞味した料理に使った茸毒に当たったので、治療中という。
 恥ずかしいから、村人達には絶対言わないでくれ。俺達の矜持が。
 気にせず通り過ぎて欲しい。ただ……頼みがあるんだ。
「茸と合わせて使おうと思っていた卵や肉魚、野菜が結構あるんだ。すぐ使うつもりだったから日持ちのしない材料が多い」
 村人達に振る舞うつもりだったから、とても俺達だけで消費できる量じゃないし。それに今はあんまり食欲もない。
 だけれど食材を腐らすなんて『飯華』の矜持にかけて許せない。
 そんな事になれば俺達は今すぐ引退を表明して解散する。絶対に許せない。一生悔やみ続ける。
「それに村人達には華麗な技を見せると言ってしまった。……俺達はずっと料理の為だけに志体を磨き鍛錬してきたんだ」
 腕も磨き舌も肥えた開拓者と見込んで、お願いする。俺達の目に狂いはない。お前らならきっとできる。
 どうか、俺達の代わりにこの食材達を昇華させて想いを全うさせてくれないか。
 こいつらは、華麗なる調理をされる為に俺達の元へ集まってきたんだ……。
 我侭を言って済まないが、どうか天儀伝統の調理法でこいつらを美味しい料理にしてやって欲しい。
 憔悴した少年少女達の目は、それでも彼らの追い求める夢に輝いていた。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
からす(ia6525
13歳・女・弓
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ


■リプレイ本文

「奇遇ですね。あたしは一応泰料理の料理人ですが、一応他の料理もできますので〜」
「できるもふ〜。もふ龍は食べる専門もふ〜」
 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)とそのお供。ころころふかふか、もふらのもふ龍。
「根菜の類は保つにしても、使い切らぬと日持ちのしない食材は全部我々が使う事になるか。見せて貰えるかな」
 しかし派手に武具の行使を交えてといっても、調理に用いるのは私は全くの門外だからな。
 矢以外の物は飛ばせぬ弓はあまり向いてなかろうな。微かに首を傾げるからす(ia6525)。
「沙門、演出は任せるから考えておけよ」
「ウチのアドリブか。任せてぇな」
 ニヤリと笑ったかどうかは定かでない。元より笑ったような形をした顔付きの猫又だ。
 教えられた荷物は筵が掛けられている。
 移動時は手分けして担ぐが、野宿時は食料番が扱い良いように集めて置いてあった。

 その前に。
「蓮華、解毒の術で治療する事はできないかな」
「ふむ……結構時間が経っているようじゃからの。まだ残っている毒素を打ち消すくらいならできるが」
「だったら頼む。少しは早く楽になるだろう?」
「構わぬが……羅喉丸、後でその。依頼人が言っていた辛口の酒が余計に美味くなる珍味とやら。妾にも寄越せ。労賃じゃ」
(いや、何も肴が無くても蓮華はいつも美味そうに酒を飲んでるだろ……)
 心の中の呟きは聞こえなかったはずなのに。手にした瓢箪で羅喉丸(ia0347)の頭をコツリと小突くと、蓮華は大きな肩から飛び降りた。
 この人数なら全員に術を施しても、まあこれから戦う訳でもなければ平気だろう。

「つーかさぁ、毒キノコ食って悶絶ってな。オメーら料理人だろ」
「マスター、傷口に塩摺り込んじゃダメだって〜!」
 ありえねーとゲラゲラ笑う村雨 紫狼(ia9073)と、嗜める彼の連れ、土偶のアイリス。
 言われた少年の方は、自尊心を抉るような言葉だろうに具合の悪さに少ししかめた眉根は動かさず。
「……反論しようがないな。見た事ない種類だから村人の言葉通りに汁物にしたのだが」
「は?村人が食用って言ったの?もしかして騙されたって奴?」
「そんな、騙したとは思えない。おそらく調理法が間違ってたんだ」
 俺達、天儀の調理法を研究し尽くしたつもりでいい気になっていたが。未熟を思い知らされた。
「村の奴ら本当に普段それ食ってんのかよ。適当に渡したんじゃねーのか」
「先触れで村に行ったのは俺自身だ。いきなり大所帯で行ったんじゃ迷惑だからな」
 その時、確かに同じ茸を使った汁を馳走になっている。
 味噌なんてないから、茸の出汁で菜っ葉をちょっと足しただけの質素なものだったが。
「あれは普通の大根葉だったし、それで毒消しになってたという事もないと思うんだが……」
「ま、いいや。他の食材もあんだろ。それで料理するわ俺は」
 ともかく。
 食材を無駄にしたくないって気持ちは同じだもんな!

●鑑定と下準備
「ほう、新たな情報が書き入れられて充実しているのだな」
 互いの手にした野草図鑑。羅喉丸の手元に見慣れぬ図版が幾つかあり、自らのと比べて興味深く覗き込むからす。
「新装でなく僅かに加筆されただけの版はなかなか手に入らないからな。足繁く通った甲斐があったよ」
「そちらには載っているか?」
「これがそうじゃないかと思う。見た目も毒の特徴も一致している」
「図鑑上でも食用とは記載されているのだな……十日水に晒してから、天日でよく乾燥させてから使用か。なるほど生のまま調理したから当たったか」
「村人の間では下処理が習慣になっていて、渡す時に注意するのを忘れたのかもしれないな」
「自分達の間で常識でも、他人にはそうとは限らないからな」
 儀内各地を渡り歩く料理人集団と聞いて、当然そのくらい知ってるものと村人に思われたのかもしれない。
「手間は掛かるが味は独特の風味が好ましく、魚醤や香草を混ぜて作った汁に漬けて乾燥させた物が隠れた珍味としてあるらしい」
「……その解説、我々が依頼された珍味の事を指してるように思える。しかし、らしいとはまた曖昧な記述だな」
「別の地方で採取したんじゃないかな。珍味はこの先の村の特産って話だし。吸い物の具に使ったのは筆者も味見した感想を書いている」
「まあ、下処理に十日以上掛かるなら今回は使えないな。除けておこう」
「さて他に怪しい茸は……」
 調べてみれば村から貰ったという茸の半数以上が、調理方法に注意を要する代物であった。

「どうする?俺は魚中心に片付けようと思うが。後は筍御飯を作ろうかなとも」
「ふむ……材料を見て鶏釜飯が浮かんだが、飯物で被るかな」
「米は余裕あるから問題ないんじゃないか。具の一部は被るが調理の時どうする?まとめて切った方が見栄えがすると思うが」
「見せ場は任せよう。ソーヴィニオン殿と村雨殿は?」
「俺、鹿肉使ってハンバーグ!後、オムライスかな」
「……天儀伝来の調理法でと言われたが」
「ちゃんと味噌や醤油で天儀風にアレンジするって」
「まぁ、止めはせぬが」
「片栗粉とか小麦粉とかツナギに使えそうな物ないんですかね〜。海老で蒸し物作ろうかと思うんですけど」
 無い。
 使う時もあるのだろうが。今回は荷物に含まれていない。
「村の人に借りれないでしょうかね?」
「無理じゃね?だって味噌もなくて、茸と菜っ葉だけの汁を出されたとかさっき言ってよーな」
 茸に目を付けた商人が買い付けに来るくらいで、普段は細々と土地の食材で暮す村か。
 『飯華』はそういう辺鄙な村落を好んで、修行を兼ねながら食を題材にした娯楽を提供して回っている。
「米粉で代用するにも、ここで準備していった方がいいですかね」
「地味で時間の掛かる作業だからな」
「すみません、粉挽きの道具なんて持ってたりしますか〜?」
 尋ねられた少女は別の少年を振り返る。
「胡麻とかに使うでっかい摺り鉢ならあるけど」
「う〜ん、気合入れれば何とかなりますかねぇ。って本当に大きいですね」
「見世料理に使う奴だからな。棍とか突き立てても壊れやしないぜ。いやあんたらなら壊せそうだが」
 搗くのなら、俺の棍を使うといいよ。すりこぎ風にちゃんと丸くなってるから。
 尚、借りはしたものの即席米粉の出来はいまいちであった。
 無い物を用意するには時間的な問題も生ずる。
 問わぬなら何も開拓者に頼まずに『飯華』自ら回復してから赴けば済む事なのだ。

「道具も使わせて貰うよ。『飯華』の想いが込められた品だからな、きっとより美味しく作れるだろう」
 重く頑丈な鋳物の釜。歴戦の傷を物語る使い込まれたまな板。よく研がれた山刀。
「己の道を貫き修練を続けるその心意気が、他人とは思えなくてな。全力を尽くさせて貰う」
 羅喉丸が差し出した大きな掌。固く交わす握手。武の鍛錬を積む者に似た彼らの手の感触に胸が熱くなる。
 棍を振るい、山刀を握り締め、冷たい水に赤くしながらも弛まぬ求道を続けてきた若き掌達。
 道具にも彼らの想いが染み込んでいる。

●いざ見世料理
 頭数こそ聞いていたのとさほど変わらぬが。予想を超える姿の訪問者達に村人は度肝を抜かれる。
「こ、こ、これが土偶……?土偶?」
「もふらさまじゃ、もふらさまがこの村にもやってきたぞ!」
「子供じゃないのか。ほわあ……人妖って本当に人間そっくりな姿してるんだなぁ」
「喋る猫!?この猫喋るぞ!」
「沙門いいますんや。よろしゅう懇意にしてな」
 かくかくしかじかと事情を述べ、代わりに自分達が調理実演を見せると伝えると村は大騒ぎ。
 余程楽しみに待っていたのか、村中の老若男女が作業を放り出して寄り集まってきた。

「危ないから前に飛び出したらあかんで〜。火や刃物を使うさかいな」
 子供達の伸ばす手をひょいひょいと避けながら、声を上げ練り歩く沙門。支度に掛かるまでの僅かな時間も、所々ネタも交えつつ愛嬌ある喋りで間を飽きさせない。
「まずは派手にドーンと。本当にドーンと来るから、心臓ぽっくりいかんよう構えてぇな?」

「行くぞ、蓮華」
「抜かるなよ、羅喉丸」  
 中央で大地を練気を込めて踏み、円状に広がる衝撃波が土埃や草きれを舞い上げる。
 観衆が驚きから我を取り戻すと、石や薪を次々と放り投げて寄越す蓮華と受け取り素早く組み立てる羅喉丸の組み合わせが一番の注目の的。
 見る見る間に複数の即席竃が造られて、釜底の形と合わせられる。一緒に川魚を焼く時に使う丈の低い囲炉裏めいた物を。
 火が直接移らぬように、しかし確実に蒸せるように考えて石を配置する。筍皮で包んだ物を此処に挿せばほどよい熱が伝わるはずだ。

「アイリス、俺も〜」
「はぁい、マスター!」
 どごぐふぁ。
 大きな石をパワー全開の直球投げで喰らい、紫狼が笑いを取っている。狙ってやったのではないが。ウケてるならいっかと気にしない。
 アイリス、加減、加減!

 調理場製作のお膳立ての間も沙門のお喋りで。湯を沸かしたりなど動きのない間も、調理や素材にちなんだ小話なぞ蓄えた知識を披露。
「ああ美味そうやなぁ〜鰹節。じゅるり。ちょいと、うちにも味見ひとくち。いい風味でるか鑑定するで?」
 鰹節の塊を小刀で削るからすにちょっかいを掛けに行き、しっしと追い払われてみたり。
「駄目だぞ」
「わかっとる」
「削り切った芯なら別に構わぬが」
「よっしゃ」
 目合図を見計らってまた舞い戻り、泥棒猫の勢いでしゅぱっと跳んでからすの手から鰹節の残り物を奪う。
 くわえたまま着地と同時に口の端ニヤリ。拍手まで受けてしまったり。
(せや、今のは結構キマってたやろ?)
 ふむ、何処で買い付けたんか、なかなかの上物やないか。おっとと、仕事せな。

「舞茸の天ぷら食べたいもふ」
「う〜ん、油も小麦粉も無いですからね。お野菜と一緒に煮物にしますか」
 紗耶香の手元は丁寧だが、細かい動きが多いのでいまいち観衆の反応は薄い。
 どうも派手な方ばかりに目が行くようだ。調理としては正統派なのだが、もちろん。
 雑駁に肉を取り除いた鶏の骨を煮てスープに。肉質の良い部分はからすの釜飯の具に取り分けてある。
 海老の殻を外して、淡白な身を包丁で細かく刻み。卵と塩を加えて粘りが出るまで混ぜ。
(胡椒もあればいいのですが……)
 柄を除いた椎茸の笠裏に塗り盛って、見栄え良く形を揃える。
 蒸籠は泰国式とは違い四角い物だが『飯華』の道具の中に噛み合う大きさの鍋と一式で有った。
 米粉でとろみが付くまで煮たスープを後で盛り付けの時に掛ける。

「二刀包丁の乱舞、行くぜ〜っ」
 師匠、こんな事に使ってマジですんません!
 タタタタ、タタンと数えられぬ刻み音が小気味良く。鹿肉の塊が見る間に挽肉状に細かくなってゆく。
 桶に汲みおいた水に汚れた包丁を突っ込み、アイリスが用意していた漬け汁の中に混ぜ込む。
 生姜汁と醤油と塩で臭みも抑えるように調味した汁の中で、よく捏ねる。
「さあて火加減はどーかな?」
 ジュッ。指先に残った肉粒がほどよい早さで焼ける。
「ノンオイルヘルシー!ここで焦がさないのが腕の見せ所!」
 鍋底にこびり付かぬように焼いて、出た肉汁は昆布出汁で薄めて味噌を溶きソース用に整える。

 羅喉丸の速さには目も付いてゆけぬ程。瞬きする間に捌かれ、静止と同時に蓮華が入れる合いの手がぴたりと見せ所を伝える。
 素材をひとつ切る度に拍手の嵐。最初は座って見ていた者も魅入るうちに力が入って立ち姿が並んでいる。
「おい、前の奴座れっ。見えねーぞ」
「おめぇ、ちっこいんだから最初から前に行けや。見逃したら損だぞ、損」
「おうよ、代わりにうちのガキさ肩車してくれよ。おめぇ、でけえんだから」

 沙門は忙しい。今度はからすの傍で助手というより主役を務める。
「切って」
「あいよ」
 シャーちゃん、モンちゃん、影分裂の術で一人二役。どっちが本物?いやどっちの鉤爪も野菜を捉える。
「調子に乗って切り過ぎないようにな」
「包丁みたいに薄切りは無理やで」
「一口大になればいい。そっちは私がやる」
 火芸もお手の物。沙門の眼が赤く輝き、前足がくいっと竈を指す。
 眩い閃光が一瞬姿を掻き消す。
「やりすぎ」
「いやあ、派手にやれと言われてたしなぁ」
 皆が背を向けてる位置から放ったし、観衆はそれなりに離れているから被害は無いが。
「残りも同じ手順でいくぞ。ただし最後のはいらない」
「火はもう付いてるから、やらないで」
「それもそうだな」
 誰も使わぬ芋類は蒸し、南瓜は煮、蓮根と牛蒡は醤油と唐辛子で煮付けてきんぴらに。
 青物類は紫狼がオムライスの餡に使った残りを全部鍋に放り込んで白系の根菜と一緒に辛汁仕立ての鍋に。

 出来上がった品々は数も豊富。
 筍御飯に鶏釜飯、どちらでも好きな物を選べる。茸と青菜の餡が掛けられたオムライスも提供された。
 蒸かし芋は、単純ながら里芋、山芋、馬鈴薯、甘薯どれも違った食感をほくほくと楽しめる。
 筍の皮で包んで味噌塗りで蒸し焼きにした物、塩を振って皮がパリパリに炙られた物と川魚も趣向が凝らされて。
 海老のすり身蒸しの椎茸詰め鶏スープあんかけ。味噌風味ハンバーグ。
 これだけの物ができた。
「一緒に茶も如何か?」
「こっちに三杯!」
「器さ足りっか?無かったら家から自分の茶碗さ持ってくるが。欠けちゃいるが漏りゃしねえ」
「大丈夫、数はあるよ」
「そっか。んとシャーちゃんだったか、焼き魚一匹どうだ。いやいや光る猫とかびっくりしたわ」
 じゅるり。
「沙門、よだれ」
「シャーちゃんと、モンちゃん。二人分貰ってもええで?あいたたっ、そないけったいな鉄扇で叩く事ないやんか」
「欲の皮を突っ張るのが悪い」
 即妙なツッコミに笑いが起こる。
「皆さんの料理‥‥美味しそうですね♪」
「美味しそうもふ〜」
「そこのお嬢さんと可愛いもふらさま。こっち来て一緒に食べんか」
「ご相伴するもふ〜」

 開拓者達が片付けも終えて、本来の依頼の目的である品も受け取り帰った後。
「だけど何か聞いてたのと少し違ったのう……」
 見世物を楽しませて貰って、普段村では食せないような材料まで使った馳走を振る舞って貰って。何も文句は無いのだが。
 味だって、自分達の舌に判る違いなんて知れたもの。特に芸もない者も混じっていたのも、役割が別なのか。
 ただ、先触れの少年がしていた話と違うというのはどうも釈然としない。代役だから仕方ないのかもしれないが。

 尚、『飯華』の手元に残った茸については。正しい下拵えを開拓者から学んだのでそのうち何処かで提供されるのだろう。