【負炎】離奔急行
マスター名:白河ゆう 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/09 19:18



■オープニング本文

●遭遇戦
 運船の森に面した大船平原。
「囲まれたか‥‥」
 目の前でまた一人、配下がアヤカシの餌食となった。
 開拓者の同行により無事理穴の戦場に潜入。独立独歩で先に布陣していた陰殻の一部隊。
 あくまでも独自の別働隊として、戦場の片隅で撹乱を行なっていた寒河の里の少数精鋭。当初は二十一人居た数も激戦に数を半数近くに減らしている。
 アヤカシもまた数々の別働隊により活動していた。互いの大将から離れた箇所での小競り合い故、周囲に展開する大きな軍は居ない。
 ここは魔の森にあまりにも近く、敵は濃い瘴気を纏い‥‥アヤカシは通常知る同じ姿よりは強い存在となっている。
 陰殻に再び援軍要請を送ったとの伝令を里に潜入したシノビより伝え聞いていたが、その直後にこの戦闘となった。
 その伝えた者はすでに屍となり、アヤカシの群れに踏み越えられている。

「数が多すぎるな。ん‥‥?」
 鎧を纏った鬼に雷刃を打ち放ち退路を見極める寒河李雲の目に、別の集団が映った。
 同じように、孤立した部隊。どこの旗の所属からはぐれたのであろうか。不揃いの格好から見るに開拓者と思われる。奮闘しては居るが、このままではそちらも数の波に呑まれてしまうように見受けられる。
 見捨てて退却しても良いが、一人よりは二人、十人よりは二十人。逃れるなら、互いに協力したほうが良かろう。
 アヤカシの身体を壁に見立て、蹴ると同時に空中を舞い開拓者達の元へと駆け寄る。

「寒河推参。脱出するぞ」
 アヤカシの壁の中から突如現れた助っ人に一瞬戸惑いを見せる開拓者。
「集結、炎!」
 声を枯らすほどの怒声。炎を纏い吹き上げる合図に、一斉に同様の炎を纏ったシノビ達が群がるアヤカシ達を焼き払い除け、隊長を囲むように集合する。
「我らが盾になり後を追いかける。突破しろ」
 言い捨てるなりアヤカシに切りかかる彼の背中には大きな傷が覗き、血が滴り流れていた。
 数々の鬼、狂骨、屍人。一行を囲む分厚い壁。僅かな穴を開けた所ですぐに左右から回り込み塞がれてしまうであろう。
「とにかく行くしかないだろう‥‥生き延びるぞ!」
 決意を固める開拓者。
 この数では相手にならない。突破して後、追跡を振り切って緑茂の里に一時退却する事となる。


■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
貉(ia0585
15歳・男・陰
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
香坂 御影(ia0737
20歳・男・サ
天雲 結月(ia1000
14歳・女・サ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ


■リプレイ本文

●平野の円陣
 前方に広がる運船の森。そこから次々と姿を現すアヤカシの数は見当もつかない。先の苦戦の跡が傷ついた大地に残る大船平原。修凱骨の配下はかなりの数が失われたとはいえ残党と思われる者もまだこの魔の森の奥には潜んでいるのであろう。瘴気のある限り、アヤカシは沸き続ける。‥‥戦いはまだ終わらない。
 そして総大将、炎羅との決戦がまだこれから待っている。一人でも多く生き残り、挑まねばならない。

「多勢に無勢。是まさに喧嘩の花道やで」
 不敵に笑う斉藤晃(ia3071)が大斧を振るい狂骨の鎧が耳障りな音を戦場に響かせる。手負いのシノビを後ろに下がらせ、剛勇を振るう。
「ふん、妙な意地を張らんで、さっさと傷を手当てを受けてこい。ここはひとまず引き受けるで」
 払いきれない数々の攻撃、その身に纏う大鎧は本領を発揮して斉藤の身体を刃から阻む。双方の雄叫びが戦場の音を呑み込んでゆく。斉藤の咆哮が一際大きく響き、激しい攻撃がそこへと集中する。
 表情を隠し覆したまま戦い続けるシノビの手に弾き流されるアヤカシの刀が袖を切り裂く。避けきれぬ斬撃が気力のみで戦う男を次第に弱らせていたが、飛び込んだルオウ(ia2445)の鮮やかな刀が目前の鬼を討ち取る。
「俺がここは持ちこたえてやる‥‥」
 十手を添えた刀が次の攻撃をがっしりと受け止めて反撃に乗じる。
「そいじゃ‥‥行くぜぃ」
 金色の瞳が迫り来るアヤカシの群れを睨み返し、銀閃が再び舞う。
「不動!」
 漲る力が天雲 結月(ia1000)の全身を駆け抜ける。純白のサーコートを翻し恐れる事無く刃を振るう。突き出される槍を盾で弾き返すが、同時に側面から打たれた棍棒が肩を強打し鎧の下の華奢な肩に衝撃を伝える。
「‥‥っ。白騎士の名にかけて‥誰も死なせないんだからっ!」
 盾役を引き受けるとは言われたけれど、傷だらけの彼らに甘えて任せては犠牲者がきっと出てしまう‥‥。僕なんか子供だけれど、でも僕が加わって全員が脱出できるなら。気迫を込めた結月が次の攻撃を完璧な防御で受け止める。
「一緒に‥‥脱出するよ」
 円陣の隣に居たシノビがその果敢な姿に危惧を取り消し、側面を気にせずに次の攻撃を繰り出す。彼の脇は結月が守る。

「志郎、これも使ってくれ」
 樹邑 鴻(ia0483)の投げた包帯が手持ちの水で傷口の砂を洗い落とす菊池 志郎(ia5584)の手に収まる。
「カズラさん、次この方をお願いします」
 葛切 カズラ(ia0725)の放った蛸のような生き物が怪我人の脚に触手を絡みつかせ、長く伸ばされた舌が肌を這いずるように舐めて消えてゆく。癒しきれなかった傷を志郎が包帯で飛び散る土埃から隠し、次の怪我人の傷を確かめる。
 膝をつく彼らを守るようにして香坂 御影(ia0737)が樹邑と共に立ちはだかる。両手に構えた大薙刀が弱い者を討とうとするアヤカシの行く手を阻む。
 大振りの獲物を振り被ろうと一歩退いた香坂の隙を樹邑の足払いが補う。力を込めた斬撃が鬼の胸から大きな血飛沫を上げ、引き戻す動きを兼ねて石突で樹邑を狙う狂骨の脇腹を叩き、その攻撃の軌道を逸らす。
 一番弱いのは屍人か‥‥樹邑の叩き込む手甲が腐肉を抉る嫌な手応えを伝える。甲冑を纏った巨体の鬼には打撃がなかなか致命傷を与えない。
「御影、倒すから頼む」
 気力を込めて放った拳がその大きな重い身体を弾き飛ばす。転倒して重装備に立ち上がる動作が遅れた鬼の頭に香坂が武器を振り下ろす。
「そろそろ突破口‥‥見つけないとな」
 森側の敵は厚く、増え続ける。囲むように里側へ向かう方向も塞がれてはいるが、駆け抜ければその向こうは味方の陣。脱出すれば希望の道は開けるであろう。
 横を守る香坂を信頼し、次々と繰り出す攻撃。倒す事よりも一斉に掛かってくる攻撃を減らす事に専念し、脚部への攻撃や脳震盪や視界のブレを狙った頭部への強打を優先する。香坂の刃が一体また一体と確実に討ち果たしてゆき、反撃を阻止してゆく。

「成敗!」
 刀を鞘に一旦収めたルオウに複数の槍が突き込まれる。
「うわっと‥‥と」
 戦功が何匹かなど数えてる暇はない。後方から手裏剣を飛ばし戦線復帰したシノビがルオウの横に並び立ち、その一体を自分の方へと引き付ける。
「あんがとな!」
 態勢を取り戻したルオウが再びアヤカシに打ち掛かる。

「‥‥あとどんだけ持つか、ね」
 仮面に巫女袴という異相。手に持つ采配の飾りがひらりひらりと揺れる。貉(ia0585)の身体が命賭けの状況を楽しむかのように円陣の一端を舞う。時折湧き上がるように現れる式がアヤカシの動きを阻み、仕込み杖の薄い刀身がその隙間を衝いて繰り出される。
「一匹一匹がちぃと強いが連携をきっちりして倒していけば問題あらへん」
 大男を更に凌駕する巨体から叩き付けられる攻撃を斧で受け止めた斉藤が背中で答える。息を吸い直した渾身の一撃を振るい、狭められかけた円陣の輪を押し返す。その間も鋭い眼光が敵の薄い場所を探す。

 回復させる為に下がらせたシノビの穴を開拓者が埋めている。それでも円陣を抜ける敵は存在する。手当てに専念するカズラを狙おうと迫ったアヤカシに気が付いた志郎の手から撃たれた手裏剣が骨だけの身体に雷光を浴びせる。刀を抜いて立ち上がる志郎に向き直ったその背中を樹邑の放った気功波が打ち砕く。浴びせかけた刀が魔の手が癒し手を傷つける前に討ち果たす。

「んもう、あんたが一番傷深いじゃないの。そんなに死にたいなら帰ってから私の寝床で尻の上で死になさい!」
「‥‥っ!!」
 崩し加減に着た胸元から零れ落ちそうな豊かな双丘を押し付けるようにして、血に汚れた上衣を引き剥がした寒河李雲に圧し掛かったカズラは口に含んだヴォトカを背中の傷に吹きかける。
 酒が沁みる刺激的な痛みと、それよりも屈辱的と言える態勢と言われ草に李雲は漏れそうになる呻きを押し殺して耐える。てきぱきと揉み解した薬草を当てて包帯を巻く腕は確かだ。
その包帯の上から舐め這いずるようにして赤くぬめるような異形の式が舌先から背中に溶け込んでゆき傷を塞ぐ。

●一転突破
「ちゃんと付いてくるんやろな」
 カズラの手当てを受け、力を取り戻したシノビ達は円陣を交代し、敵の攻撃を喰い止める。斉藤の言葉に李雲は是と答える。
「突破口を開いたら全員で一気に行く、案ずるな」

「おらぁ!道開けなぁ木偶の坊ども!」
 振り下ろされる采配。狢(ia0585)の面貌と対を成す仮面の狼を模した式。炎の毛皮を燃え立たせた獣が一直線に駆け抜け、触れる者全てに火炎の洗礼を浴びせかける。屍人の肉の焼け焦げる臭
い。槍の柄が引火しても尚繰り出してくるアヤカシも居る。
「突貫やっ!!」
「ここは一つ、派手にいくとしようか」
 正面に残る邪魔な敵を薙ぎ払い香坂が一番に飛び込む。続く樹邑が振り向く事なく背面から追いすがろうとする鬼に拳を浴びせる。
「悪いな。面倒な相手に時間を掛けてる場合じゃ無いんでね!」
 カズラの投げ込んだ焙烙玉がアヤカシの背中へ破片を突き立てる。彼女を守りながら志郎が牽制しつつ後に続く。
「退却!!」
 李雲の号声に一斉に円陣の防御を敷いていたシノビ達が突破口へと駆ける。脇から寄るアヤカシに手裏剣を一斉に浴びせかけ、その道が塞がるのを防ぐ。最後尾の李雲の横に斉藤が駆け寄り、後方から押し寄せるアヤカシを牽制する。結月とルオウもその側につき、斉藤を援護する。
「急げ!この数だとまた囲まれるぞ!」
 突破した香坂が薙刀の先を地面に触れそうなほど下ろし、逆袈裟切りに狂骨を鎧ごと後ろの敵に弾き飛ばす。
 人間の首のような姿をした岩が上空に出現し、まだ抜けぬ者を殺めようとする敵に叩き落ちる。
「ゆく者を守るための守り盾や。砕いて通る以外の代金は命や!」
 斉藤が斧で寄ってくるアヤカシを叩き伏せ、ルオウが全力で放った突きに屍人が倒れる。
「捨て身は許さないんだからね。帰ったらたっぷり返してもらうわよ、全員の身体で」
 切り抜けてくるシノビ達の背後に焙烙玉や撒菱を包んだ符を投げ込んだカズラが微笑み待ち受ける。
「さてと、もう来てくれんなよコンチクショー」
 再び狢が打ち放つ岩首。撒菱での足止め、術を駆使した撹乱。通り道にあった樹木を斉藤が斧で薙ぎ倒しアヤカシの進路を妨害する。
「今回は逃げの一手だ、怖いのがまた追いかけてくる前にケツまくって逃げようぜ」
 折りよく吹き付ける風。戦場の砂塵に紛れ一行は平原を駆け抜ける。

「なんとか突破したな!」
 身体はへとへとだが疲れてるからって暗くしてたらやってられない。元気よくルオウが明るい笑顔を皆に向ける。赤い髪がアヤカシの血に汚れ、本来の輝きとは違う色合いになっている。
「敵が追ってこないうちに急いで緑茂の里へ戻りましょう」
 香坂の言葉に、礼を告げた李雲がシノビを引き連れて別の方向へ歩もうとする。
「一緒に行くのではないのですか?」
「否、私達は伏して忍び行動する者‥‥大勢の開拓者達の前に姿を晒すのは、任務に在らず」
「おいおい、ここは戦場。この人数でどうやって生き残るってんだ?そんなボロボロになって‥‥どこでまたアヤカシが出てくるかわからないんだぜ?」
「何でだよ。訳わかんねえ、任務ったってこのままじゃ死んじまうじゃねえか!」
 呆れたような口調で言う樹邑を押し退けるようにしてルオウが勢いよく李雲の肩を掴む。力の入りすぎた指が喰い込むが李雲は顔色を変えない。
「‥‥部下の命を預かっているのに意地を張るのは良くないぞ」

「‥‥ふーん、それって命令かなんか? そりゃまた律儀なことで」
 狢が怒りを抑えた言葉を投げ掛ける。
「そんでくたばるときは命令だからしょうがないって言うのかい、おめーら死ぬほどかっこわりいな。まだあの死体もどき共の方がよっぽどマシだ、皆生きるために戦ってんのに、な」
 屈辱的な言葉を突きつけられたシノビ達が唇を噛み締め、面を伏せる。それを見た李雲が無言のまま、狢の仮面がまた口を開くのを見つめる。道化の仮面は冷たい言葉を更に浴びせる。
「言っとくけど、ここで死んだって何にもならんぞ、犬死にだ、世界はおろか誰のためにもならん。それでもいいなら、好きにすれば?」
 無言で様子を眺めていた斉藤を促して背を向けて里へと歩み始める道化の男。深く被り直した編笠が陽射しや風からもその表情を遮る。

「何の為に戦場へやってきたのですか」
 温和な志郎が真っ直ぐに眉根を寄せた李雲の横顔を見つめ静かに問う。
「それが任務だからだ。行動を共にしろとは言われていない‥‥さきほどは生き残る為だ、それは感謝している」
 澄んだ眼差しに李雲は反対側へ瞳を逸らす。情を映さないはずの冷たい瞳に惑いが生じている。それは狢の容赦ない言葉の故か。
「感謝しているんなら、全員の身体で返してよね。たっぷりとお礼して貰わないといけないわよ」
 カズラが妖艶な笑みを浮かべ、その逸らした瞳をすくい上げるように覗き込む。
「僕も陰殻の出自ですが。任務も大事ですが同郷の士の為にも協力するのが使命ではないですか?」
 拾う養い親が違えばシノビの道を歩んでいたかもしれない。今はサムライの道を歩む事を決めた香坂だが、氏族という血縁地縁、どこよりもその結束が固いのが陰殻という国ではないのか‥‥。

 強くなってきた風が戦場を抜け、土埃を舞い立たせて彼らの姿を霞ませる。
「あのね‥‥僕達こうして協力できたから生き残れたよね。李雲さん達が緑茂の里に来てくれて、これからも僕達と協力する事ができたら。きっと、どんな事も生き残ってやり遂げる事ができるよ」
 轟々と平原を吹き抜ける風が彼らにも迫る。
「だから、一緒に‥‥きゃあ!」
 突風がまるで狙ったかのように結月のスカートを巻き上げて抜けてゆく。一瞬目を丸くした皆の視界に過ぎった純白。
 先を行き後ろを振り返っていた斉藤と狢がげらげらと腹を抱えて笑う。
「ち、違うの‥‥今のが白いから白騎士じゃなくって〜っ」
 真っ赤になって否定する結月の姿に、表情を抑えていたシノビ達も一緒になって笑い声を上げる。
「今は生きようぜ。死んじまうよりも絶対いいって。な?死ぬより生きてアヤカシどもを倒してやろうぜ」
 共に戦ったシノビの肩を両の腕で抱えて笑顔を振り撒くルオウ。部下へ頷いてみせる李雲に全ての者が里へと歩み出す。
「‥‥まだ駄々こねるなら、担いで緑茂まで連れて行きますよ?」
 志郎もふっと笑みを漏らして李雲の背中に手を回した。

●緑茂の宴
「狢、約束通り酒をおごったるから今晩は飲み明かそうや」
「おぅ、そういえば、前に酒奢ってくれるって言ってたよな?仕事のあとの一杯はいいもんだよな、奢りなら尚更♪」  
 嬉しそうに笑いながら、鎧装を解く斉藤を小突く狢。
「葛切、天雲、てめぇらも一緒に飲もうや。当然、寒河も一緒やで?」
 一行が収まれそうな空き屋敷を一晩確保し、ようやっと疲れ切った身体を落ち着けたカズラが香坂に背を預けて膝を崩す。
「僕の背中などで宜しければ幾らでもどうぞ」
 大鎧を脱ぎ下ろした香坂が、傷と血に塗れた装備を点検する。
 戦の癒しに酒は付き物。大戦に備える里には開拓者達が持ち込んだ物やなんとか届いた援助物資が有償無償で購われている。駆け回って人数分を調達してきたルオウと志郎が腰を下ろし、徳利の封を解く。つまみは戦場の糧食と貧弱だが、そこはそれ毎日の活力は欠かせない。腹に収めれば何でも美味い。
 斉藤が持参したヴォトカを酌み交わした酒宴が既に始まっている。初めは寒河と行きの戦について語らっていた斉藤も面白い話があればそちらに首を突っ込み、狢と足を連ねながら宴席を飄々と渡る。

「約束忘れてないわよね」
 酔って火照った身体を寄せて李雲にしなだれかかるカズラ。互いの体温が布を通してはっきりと伝わってくる。
「う、うむ‥‥まだ戦の最中だから、落ち着いてからいずれな‥‥」
 珍しくたじたじな隊長の姿に偲び笑いを堪えながら、離れて見守る部下達。うかつに近寄れば自分が餌食。嬉しい餌食だが、ここは日頃見られない隊長の様子を眺めるのが楽しい。無骨に胡坐をかき、背筋を伸ばしたまま酒を舐める李雲の首がほんのり赤く染まっている。シノビ達は意気投合した開拓者達と酒を酌み交わしながら、今宵は疲れた身体を酔いに任せる。
 明日からまた命を賭けた駆け引きが待っているのだ。アヤカシとの戦いはまだ終わらない。少なくとも炎羅の軍勢を討ち理穴の危機を救うまでは。
 うとうとと板床に青い髪を散らした結月が眠りこける。
「このまま雑魚寝だな」
 風邪をひかぬよう毛布を掛けてやった樹邑が少し離れてごろりと自らも毛布に包まって転がる。斉藤の豪快に笑う声が眠りの向こうへと遠ざかってゆく。宴席はもしかしたら朝まで続くのかもしれない。