略奪者の館
マスター名:塩田多弾砲
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/03 07:58



■オープニング本文

 石鏡、陽天。
 石鏡にて、各地の特産品をそろえた商業都市にして、観光名所。
 しかし、ここは人が多い分、犯罪もまた多かった。治安維持活動、またはそれに携わる人々は決して無能でもなければ怠慢でもなかったが、それでも対応しきれない現状ではあった。
 陽天に店を構える、とある商会。
 その女主人は、探しているものがあった。‥‥ある人物が作り出した、刀剣。以前から、彼女はそれを探していたのだ。
 商会の名は、「遁甲商店」。女主人の名は遁甲桃虎。
 そして、探している刀を打った刀匠は、桃虎の父親であった。

 桃虎の夢。それは亡き父親が作り、奪われてしまった武器を買い戻すこと。
 桃虎はかつて、幼くして母親を亡くし、刀匠の父親の背中を見つつ育った。腕は良かったが商才が無く、損な目に合った事も少なくは無い。しかしそれでも、様々な商店へ卸した刀剣は見事なできばえで、評判も良かった。彼は自分の打った刀の刃には、先端に矢印、柄に丸に入った星印を署名代わりに入れており、自らの署名代わりとしていた。
 しかしある日。父親は、ある武家へと献上する予定だった剣を盗まれてしまった。
 意気消沈した桃虎たちだったが、彼女を救ったのは以前からの知り合いの商店‥‥遁甲商店と、そこの店主であった。

 その後、桃虎は遁甲商店に嫁いだが、父親は病に倒れ亡くなった。しかし死の間際まで、奪われた刀の事を父親は気にしていた。
 そして、桃虎の夫もまた、アヤカシにより殺された。後に残った桃虎は、仕事に打ち込み、さらに商店を大きくしていった。そうする事が、夫へのなによりの供養だと信じ。

 やがて、商店の経営も軌道に乗り、平穏な毎日が過ぎたある日。彼女の耳に、ちょっとした噂が飛び込んできた。
 陽天の郊外にある、今は廃墟となっている屋敷。そこに、値打ちものが溜め込まれているのを発見した‥‥という噂だ。なんでも、盗賊たちがお宝を盗み出し、その隠し場所としてもぐりこんだところを発見した、というのだ。
 もとは、商人だか資産家だかが持っていた屋敷だというが、彼が死した現在は空き家となっている。中には値打ち物はほとんど全てが持ち去られているが、件の盗賊たちは、屋敷の奥の奥に隠し扉を発見したのだ。
 そして、その中に発見した。屋敷の主人が溜め込んだと思われる、数々の品物を。
 その多くが、壊れて値打ちの無い二束三文なものばかり。壊れかけた人形やら朽ちた剥製やら、本当に呪われていそうな拷問器具やら銅像やら、そんな不気味なものが所狭しと置かれていたのだ。
 が、盗賊たちは片隅にある武器の山に目を引かれた。その中にあった、刀剣の一つ。
 それには、奇妙な彫刻が刀身に施されていたのだ。刀身の先端には矢印が、柄の部分には丸と星の意匠が刻まれていた、という。

 それを聞いた桃虎は、最初に自分の耳を疑った。が、刀身に刻まれた奇妙な彫刻の話を聞き、確信した。
「間違いない、父様の打った刀だわ」。
 かくして、すぐに人を雇い、その陽天の郊外にあるという屋敷の場所を調べる事にした。
 一月ほどして、雇った密偵が情報を携えて戻ってきた。屋敷の場所の情報を。
 
 確かに屋敷は、資産家が有していたもの。だが非常にケチで強欲な彼は、資産を分け与える事を良しとしなかった。屋敷内で孤独に死した彼は、死後に資産は周囲の人間にむしりとられ、遺体は墓すら作られずに放置された、という。
 が、屋敷には人は入らなかった。最近になってアヤカシが現れたため、それを恐れて人は離れ、やがて屋敷は人が近づかないようになり、次第に忘れられていったという。
 街道から離れ、ちょっとした森の奥にあるために、屋敷は言われなければその場所は分らない。件の入り込んだ盗賊たちは、たまたま偶然に迷い込んでしまった、と。

「で、アンタはあの屋敷に行こうってのかい」
 密偵は、噂の出所である盗賊も突き止めていた。
 かくして桃虎は直接その盗賊の元へと向かい、話を聞いていた。しかし彼は死に掛けていた。自宅と言うのもはばかる部屋で、病気になり寝込んでいたのだ。片目は刀傷を受けて潰れており、もう片方の目も霞んでいる。おそらく視力はほとんど残っていないのだろう。
 彼の話によると、屋敷のお宝を盗まずに逃げ帰ってきたのは、見つけた直後にアヤカシに襲われたからだという。不意をくらい、盗賊たちは血祭りに上げられた。たった一人、彼だけが運よく逃げ延びる事が出来て、この話を酒場で話したのだという。
「どんなアヤカシだったのか、それだけでも教えてはもらえないかしら」
「‥‥わからねえ。暗かったからな、回りには人の姿は無いし、近づく奴もいないだろうと油断していた。だが、少なくとも複数は居たはずだ」
 彼は息を引き取った。そしてその直前、彼は桃虎に知っている事を話してくれた。

「‥‥夕方ごろ、そろそろ角灯に火を入れようと思っていた矢先だ。‥‥仲間の一人が、いきなり何かに殺された。そいつは槍に突き刺されておっ死んでいやがった。その後ろには、なんかの影みたいなもんが見えたな。大慌てでそいつから逃げようと、隣の部屋に駆け込んだら‥‥そこにも人影があった。
 薄暗かったが、そいつは人間の形をした影、それも片腕の影だった。そいつは腕にでかい棍棒みたいなのを握ってた。そいつからもなんとかして外に逃げ出すも、今度は小さな女の影が、自分へと襲ってきやがった。そいつは高く飛びはね、俺の目に切りつけた。この目の傷はその時にできたもんだ。俺は自前の刀を振り回し、必死こいて逃げたわけさ」

「そういうわけで、私は刀を取り戻したいと思います。ですが、アヤカシが出てくる事は必至。そこで、皆様を護衛として雇いたいと思い、こうやってお願いに参りました」
 開拓者ギルドにて。桃虎が訪ね、君たちに仕事の依頼をしていた。
「どんなアヤカシかはわかりません。死んだ盗賊も、ひょっとしたら見間違いをした可能性もあります。ですが、それを考慮しても三体以上は存在する事は間違いないかと思われます。同じ種類か、それとも違う三種なのか、それもまたわかりません。素人の私たちでは、おそらく対処できないでしょう」
 彼女の口調には、熱意と、そして願いとが込められていた。
「‥‥刀などにこだわる事が、間違いと思われるかもしれません。ですが‥‥病に倒れ、無くなった父のあの顔が、どうしても忘れられないのです。そして、刀を取り戻し父に報告するまでは、私も死んでも死に切れません。どうか、皆様のお力をお貸し下さい。お願いします」


■参加者一覧
緋桜丸(ia0026
25歳・男・砂
月夜魅(ia0030
20歳・女・陰
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
千王寺 焔(ia1839
17歳・男・志
透歌(ib0847
10歳・女・巫


■リプレイ本文

 森そのものが、警告を放っているかのよう。
 依頼人を囲んだ開拓者たちは、現場へと進むにつれ、次第に濃密な気配めいたものを感じずには居られなかった。
 それはまさに、瘴気。アヤカシを構成する邪悪なる気配。魔の森が漂わせている、怖気のする妖気。桃虎はその妖気に当てられたように、冷や汗をかいていた。
 目前には、屋敷があった。父の刀があり、そしてアヤカシが徘徊している廃墟。その建物はさらに濃密な殺気に邪気、妖気を漂わせ、来訪者を拒み続けている。
 一人で来なくて良かった。桃虎は改めて、仕事を依頼した開拓者たちへと視線を向けつつ思った。
 開拓者たちは、桃虎と違っていた。それに対し警戒はしていたものの、ほとんどの者たちが恐れなど抱いてはいない。
「‥‥心配なく、お嬢さん。俺たちがしっかりと守っているからな」
 緋桜丸(ia0026)、赤髪のサムライが、飄々とした口調で請合った。
「そうですっ! かならずや、とりもどしてみせますよっ」
 銀髪の美少女にして、陰陽師の少女、月夜魅(ia0030)。元気そうな口調は、桃虎に対しても元気を分け与えたいとしているかのよう。
「しっかしまあ、辛気臭い屋敷アルなあ」
 目前の屋敷を目にして呟くは、梢・飛鈴(ia0034)。泰国生まれの奏拳士の少女は、退屈そうな口調で言った。しかし言葉と裏腹に、油断無く抜け目無く、屋敷の周辺、そして内部へと目を凝らす。
「ほんと、怪しさ大爆発っぽい屋敷だねっ。早速中に入って調査、始めるとしましょっ!」
 少々小柄で細身な少女が、仕切るように言い放った。彼女の名は鴇ノ宮 風葉(ia0799)、ありあまる巫術の才能を有するが、その分背が低く胸も小さめな、巫女の少女。
「とりあえず、松明の火は起こしておく。内部は暗いし、火や明かりがあって越した事はなかろう」
 ぶっきらぼうな口調の青年が、松明の準備をし始めた。真面目そうな態度と雰囲気をかもし出すその男は、口数も少なく物静か。そしてその分、研ぎ澄まされた鋭い気迫をも漂わせている。
 男は志士、男の名は千王寺 焔(ia1839)。
「だ、大丈夫です。怖がる事はありませんよ、桃虎さん。わ、私たちが、お父様の刀を取り戻してみせます」
 巫女・透歌(ib0847)が、少々言葉につまりつつも言った。その言葉と裏腹に、目前の屋敷に恐怖を感じているのは、桃虎から見ても明らかではあったが。
「‥‥それでは、皆様。お願いします」
 頼もしい気持ちとともに、桃虎は一礼し‥‥屋敷へと向き合った。

 屋敷の大体の間取りは、死に掛けた盗賊と、元の持ち主の関係者からのぼろぼろになった絵図面で判明していた。
 建物内部には大きな居間がいくつかあり、それに隣り合わせで庭園となっている中庭が存在している。肝心の隠し部屋は、本殿の居間の一つ‥‥そこにすえつけられた床の間の、隠し扉から入り込めたという。
「けど‥‥思った以上に、広そうですね」
 月夜魅が、桃虎の後方を警戒しつつ言った。
 開拓者たち六名は、三名が前衛、残りが後衛として、桃虎を守るように配置されていた。前衛は千王寺、梢、透歌の三名が受け持ち、後衛として緋桜丸、風葉、月夜魅の三名が受け持っている。全ての方向に注意を向け、どこからアヤカシが襲ってきても対処できるように‥‥と考えての事だった。
 だが、屋敷に入ってからと言うものの。アヤカシはその姿を現さない。相変わらず瘴気は濃密で、何時襲い掛かってきてもおかしくない状況ではあったが。
 屋敷内部は薄暗く、千王寺が掲げる松明の炎があちこちに光を投げかけていた。
「‥‥今のところ、怪しいものは無さそうだが‥‥」
 千王寺、勇敢にして手練の志士は、心眼にて周辺を探っていた。彼の視線は冷ややかにして鋭い。彼の様子を見て、桃虎はそのように感じていた。
 扉を開け、広間へと続く廊下を通る。かつて壁を飾っていただろう絵や美術品の成れの果てが、ぼろぼろになってへばりついている。
「‥‥ちょっと、ぞっとしないですね」
 居間に入った前衛の透歌が、今の気持ちを口に出した。桃虎も透歌と同様に、ぞっとしないと思っていた。屋敷の内部は、まるで巨大な獣の体内のようなのだ。
「‥‥まったく、アタシはこういう便利系の術は苦手なんだってば‥‥」
 風葉がぶつくさ文句をこぼす。先刻より彼女は、瘴索結界にてアヤカシの居場所を読み取ろうと試みていたが、いまだそれは叶わなかった。
「あーっ、もう! 館全部燃やしちゃえば楽なのにっ!」
 風葉の口から、過激な言葉が沸いて出る。
「まあ、思った以上にこの屋敷は広いからな。探すのはちと骨かもしれん」
 緋桜丸もこぼす。とはいえ、風葉の気持ちに同調‥‥というより、単に自分の感想を述べただけのようだと、桃虎は感じた。
 この屋敷は思った以上に広く、アヤカシが隠れる場所には困らなかったのだ。加えて、瘴気が集まり空気そのものが濁っているかのよう。アヤカシを見つけるのも一苦労だろう。
「風葉さん、緋桜丸さん。ご苦労ですが、どうかよろしくお願いします」
 桃虎が、風葉を励ます。加えて、月夜魅も言葉をかけた。
「ほら、風ちゃん。もうちょっとだけがんばって!」
「ま、まあ。桃虎さんと月姉ぇがそう言うんなら、もうちょっとだけ‥‥」
 月夜魅の言葉に、しぶしぶ彼女は瘴索結界を改めてかけなおす。
「‥‥っても、やっぱり感じられないんだけどなあ‥‥」
 しかし、やはりアヤカシの気配は感じられない。床に転がっている人形の壊れた顔が、まるで嘲笑っているかのように風葉を見ているのを、桃虎は見た。
「‥‥今んトコ、怪しい物音も聞こえんアルなあ。一体どこにいるやら」
 梢が、やれやれと言わんばかりに肩をすくめぼやいた。

「!」
 更に数刻後。
 手振りで、透歌は皆へ止まるように合図した。それを察し、開拓者たちは立ち止まる。
「何を」見つけたのかと、桃虎はたずねなかった。
 通路を進んでいる途中、やはり風葉の変わりに瘴索結界をかけた透歌が感じ取ったのだ。
「‥‥この奥に、います。少なくとも、五体‥‥いや、六体?」
 桃虎が目を転じると、居間へ至る通路には、壊れた扉が蝶番に引っかかるようにしてぶら下がっている。その先には、広い空間があるようだ。
 そして、それを聞いた開拓者たちは‥‥戦闘態勢をとった。
 前衛の二人、千王寺と梢は握り締めた。千王寺は長巻「焔」の柄を、梢は戦篭手「迅鉄」を装着した両の拳を。透歌は松明を千王寺から受け取り、桃虎の近くへと下がる。
 後衛の三名もまた、戦いの準備は万端のようだ。緋桜丸は両手に業物と脇差、二刀流で構える。月夜魅は符を取り出し、風葉はウイングイワンドと木刀をそれぞれ両の手に取った。
 小刀を身に付けているのみの桃虎は、改めて開拓者たちの武装にも頼もしさを覚えた。その頼もしさが、アヤカシどもにも通用すればいいのだが。
「いくぞ」
 目で合図し、視線で会話し、開拓者一同は居間へと入り込んだ。
 そこは、凄惨なる有様。
 まず最初に漂ってきたのは、腐臭。そして目に飛び込んできたのは、腐臭の源。
 床に腐敗しかけた人間の死体が数体、転がっていたのだ。
 家具らしき物は、中心部にある机くらい。だがそれは、既に叩き壊されている。そして、壊れた箱や、壊れかけた道具や像、がらくた、人形、小物などが、部屋のあちこちに散乱していた。
 反対側の壁には、別の出入り口の扉。床の間には、片腕が無い等身大の人形や鎧が立てかけられており、その後ろには大きく暗い開口部が開いていた。
 戸惑いを、桃虎は覚えた。この中に、アヤカシが隠れているというのか?
「下がって!」
 梢の声に我に帰ると、桃虎は見た。
 壊れた家具や道具にまぎれ、人の形をしたものが転がっていた。それが幽鬼のごとく立ち上がり、命無き作り物の瞳で桃虎を、開拓者たちを見つめ返す。
 それは、『人形』だった。壊れた人形。先刻の部屋に転がっていたような、薄汚れて捨てられた人形。それが、立ち上がり襲い掛かってきたのだ! その一体‥‥人間とほぼ同じ、もしくはそれ以上に大柄な一体が切りかかる。桃虎は、それが持っていた錆びた斧の一撃を食らうところだった。
「‥‥ッ! 依頼人に、怪我はさせられないからな。ましてや‥‥」
 そいつの攻撃から桃虎を守ったのは、緋桜丸。両手の剣で、人形の錆びた斧の刃を受け止めていた。
「ましてや‥‥それがお嬢さんなら、尚更だ。喰らえ‥‥我が牙‥‥」
 刹那。緋桜丸の業物の剣が、人形の剣を後ろへと受け流し、流れるような動きで脇差にて切り返す。
「緋剣零式‥‥神影!」
 切り返した脇差の刃が、人形の懐に切り込まれ、薄汚れた身体を抉りとる。そいつの胴体がほぼ両断され、きりきり舞い、倒れた。
 その攻撃が、まさに開戦の合図になった。
 周囲のがらくたから現れた人形は十体。うち二体は人間とほぼ同じかそれ以上の、大柄なそれらを、桃虎は『大人形』と呼ぶ事にした。一体はたった今、緋桜丸の刃の一撃を食らい果てたが、もう一体は片腕で腕に棍棒らしきものを持っている。
 残る二体は、同じく大きさから『中人形』‥‥子供と同じくらいの身長で、二体とも得物は剣。
 残る六体は、幼児が立ち上がったくらいの大きさしかない小さな人形。しかしその分、邪悪さが凝縮されたかのよう。皆が皆、顔が崩れ、壊れ、歪んで汚れ、あたかも邪悪な表情を望んで作り出しているかのようにも見えた。それら『小人形』は長柄の武器、槍や棒や、鎌や鋤などを携えている。
 邪悪なる瘴気をまとわせつつ、人形どもは開拓者たちへと攻撃を開始した。
 そして、そのアヤカシ‥‥付喪人形に対し、開拓者たちも闘志をまとわせつつ、迎撃を開始した。
 瘴気の満ちた室内だが、桃虎はそこに見た。戦いにて道を切り拓く、開拓者たちの闘志と、魂とを!

 棍棒を持った片腕の大人形の一撃をかわし、梢は拳を叩きつけ、強烈な蹴りを浴びせる。よろけたところに掌底での一撃を食らわせ、床へと強く叩きつけた。体が砕け散り、一体目が始末された。
 が、そこに中人形の一体が剣で切りかかる。篭手でそれらの攻撃を受け止めた梢は、中人形の持つ剣の刀身に奇妙な模様が刻まれているのを見た。
「‥‥暗勁掌!」
 中人形の、武器を持つ腕へと攻撃し、更に連続して掌底を叩きつける。腕をちぎられ、胴体へと強烈な一撃を食らい、それでもまだ、そいつは迫り来る。
「ちっ! 危ないアルね。黙って、寝てろ!」
 こしゃくな中人形の攻撃を受け止めた奏拳士の少女は、逆に懐へと飛び込むと、その人形へと必殺の一撃を放った。
 小気味の良い破壊音とともに、二体目の人形が破壊された。

 梢のすぐ隣にて奮戦するは、千王寺。
 勇敢にして有能なる志士は、紅葉のごとき燐光をまとわせた長巻「焔」を振り回し、二体の小人形と戦っていた。
 その刃より赤き燐光が散り乱れ、美しき光の線を空間に描き出す。紅蓮紅葉の力が込められた長巻は、一閃するたびに空間の瘴気も切り裂き、勝利を少しでも呼び寄せているような錯覚を生じさせる。
 その一撃をかわしつつ、小人形二体が千王寺の両脇から飛びかかった。
 どちらを先に、倒すべきか? その答えを、千王寺は一瞬にしてはじき出し、そして実行に移した。
「盗賊とは言え、貴様らは人の命を奪った。ならば‥‥」
 一陣の暴風がごとく、千王寺は目前の空間を薙ぎ払った!
「ならば‥‥それ相応の報いを受けろ」
 二体の小人形は、まさにその報いを受けた。刃に両断され、柄により強烈に打ち据えられ、二体は引導を渡されたのだ。ばらばらに砕け散り、更なるアヤカシが消滅した。
「? 危ないっ!」
 いや、もう一体。
 桃虎へ知らぬうちに近づいてきた、小人形。それが桃虎の前で真っ二つになる。
「きゃあっ!?」
 千王寺が放った、桔梗‥‥カマイタチの風刃が、こしゃくな人形へと小気味良い一撃を放ったのだ。首を切断され、そいつもまた倒された。

 緋桜丸が切り結ぶは、残った中人形。
 だが人形は、剣を握っていた。刀身の切っ先と根元に、特徴的な透かし彫りが施されているそれを。
「間違いは‥‥無さそうだ!」
 確信した彼は、己が剣を一閃させる。
 横に真っ二つとなり、またしても瘴気が込められた人形は、ただの朽ちた人形、壊れた人形へと戻り霧散した。

 残る人形が矛先を向けるは、二人の少女。
「わわ、おばけっ‥‥じゃない! きましたねッ! アヤカシ!」
「来るなら来い! 月姉ぇには指一本触れさせないよっ!」
 月夜魅と風葉へと、邪悪なる二体の小人形は散開し、左右より襲撃した。それに対し、月夜魅が術をかける。
「呪縛符!」
 しかし、小人形の攻撃はそこまで。小さな人形の足元に、小さな式が現れると、組み付いたのだ。
 動きを束縛された二体の小人形は、その場に縫い付けられたかのごとく動きを止める。
「魂喰!」
 そのうちの一体へ、月夜魅は更なる式を放った。
 瘴気を食らう式。それは、地面に捕らわれた瘴気の宿りし人形へと襲い掛かる。襲撃者と獲物の関係は、いまや完全に覆されていた。
 瘴気を喰らわれ、小人形の一体は付喪人形からただの人形へと戻り‥‥最後には朽ち果てた。
「このまま、地獄へと堕ちるがいい」
 緋桜丸が、新たに束縛されたもう一体の小人形を介錯する。崩れ落ちた付喪人形だったものは、ただの人形となりやがて同じく朽ち果てていった。
「‥‥ふー。どうやら、アヤカシは退治できたとみていいのかしら」
 最後のアヤカシと思われた付喪人形を倒した後、安心した口調で月夜魅が言った次の瞬間。
 隠れていた最後の小人形が、突如としてその姿を現した! 携えていた刀を上段にふりかぶり、まさに縦に真っ二つにせんと切りかかる。
 だが、それは届く前に阻まれた。
「淨炎!」
 風葉の放った、淨炎。精霊の力を借りて生み出した清浄なる炎が、アヤカシへと襲い掛かったのだ。炎はアヤカシを、付喪人形を包み込み燃えていく。小さな恐るべき人形は、そのまま倒れて炎に巻かれ、霧散した。
「お姉ぇ、大丈夫?‥‥お姉ぇはいつもボーっとしてるんだから、気をつけなさいよね」
 風葉の言葉とともに、戦いは終わり、そして、刀が残った。

「皆様のおかげで、私もようやく安心ができます」
 店に戻った桃虎は、遁甲商店にて、感謝の言葉を述べていた。
 あれから、屋敷の中を探し続けたところ。刀を発見したのだ。
 ちゃんと矢印と星と丸の彫刻が刻まれ、見つける事はかなわないだろうと思っていた刀。
 それが手元にあるというのは、何たる幸運だろうか。
「皆様のおかげです、本当に、ありがとうございました」
 開拓者たちへと、感謝の言葉とともに深く礼を述べる桃虎。その顔つきには、今までのそれとは異なる、希望が生まれているのを一行は見るのだった。