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■オープニング本文 貫抜鬼丸。 石鏡、陽転の「蒲生商店」の主人、蒲生譲二朗がその名剣を手に入れたのは、偶然であった。 きっかけは、「濁屋」、偽瑠からの贈り物。 ‥‥というか、在庫処分。 少し前に偽瑠は、吸血鬼による騒動に巻き込まれ、養子の亜貴、その下働きの多希、その他諸々の人々が誘拐され監禁された。 が、その主犯たる吸血鬼は開拓者に討伐され解決、現在に至る。 しかし、この事件で「濁屋」は多くの出費を余儀なくされてしまった。巻き込まれた人質や、せっかくまとまった商談も、多くがご破算に。そこから、関係各方面に弁償代や迷惑料を支払う羽目になり、一気に財政状況が悪くなってしまったのだ。 かくして、濁屋主人・偽瑠は、その状況を打破せんと行動を起こした。彼が以前に集めていたお宝‥‥値打ちものの骨董品や宝石、金銀細工などを蔵から持ち出し、それらを売りとばしたのだ。 加えて、商品たる人形の在庫。それらもすべて持ち出し、少しでも金になるならと格安で売り始めた。 そして偽瑠は、蒲生商店の蒲生へと、なんとか買い取りしてもらえないかと打診してきた。彼らはお互いに付き合いがあり、顔見知りでもあったため、偽瑠は少しでも金にならないかと買い取りを願い出ていた。 「うちもそれほど、景気が良いわけではないので、あまり助けにはならないと思いますが‥‥」 「わかっておるとも、蒲生殿。だから可能な限りで構わんです。言い値で良いので、なんとか買ってはもらえんか」 商談の結果、互いに損が出ない程度の値切りがなされ、売り買いの取引は終了した。 「まあ、古物商部門にとってはちょうどいい仕入れだったろう。品物もこの値段ならば、そう悪くはなさそうだし」 偽瑠が去った後。壺や細工物、絵画や掛け軸、巻物や武具の山を目前に、譲二朗はこれをいかに売ろうか思案していた。少なくとも、状態はそう悪くはない。買い取った金の半分くらいなら、儲けは出そうだ。 それらを店員たちに運ばせ、譲二朗は、何本かある刀の一つを手に取った。 「これは‥‥?」 それは、見事な作りの刀剣で、刃には漢字で銘が彫られていた。斬撃より刺突に向いたその銘は、こう読めた。 『貫抜鬼丸』 「これは、見事な‥‥」 ひょっとしたら、刀剣収集家などの好事家に売れるかもしれない。そう予想させる刀剣だった。 商店を営んでいる者は、客を含む多くの人と知り合いや懇意になる。鑑定士の縊首比も、その一人。譲二朗にとっては比較的新しい友人で、これまで何度か鑑定を依頼していた。 「縊首比、どうかな?」 「いや、これは珍しい。おそらくジルべリアの刀剣を真似て作ったのだろう。なかなか他では見られない意匠であるな」 『詳しく調べてみたい』と言い出してきたので、一週間後に尋ねることに。 そして、一週間後。 譲二朗は人を連れて、再び縊首比の屋敷がある森林へと赴いた。 「すまんが‥‥あんたに手渡せなくなってしまった」 縊首比から、そのような言葉が出る。荒れた屋敷の様子から、何かが起こった事を予想させた。 縊首比が言うには、つい先刻にとある男たち三名が訪ねてきた、という。 その男たちは、蒲生商店の客で、「既に話をつけて金を蒲生商店に支払ったから、剣を受け取りに来た」と申し出てきた。 しかし、その証拠を見せろと言ってみたのだが、彼らは応じなかった。そればかりか最後には、逆に襲いかかってきたのだ。 縊首比はなんとか屋敷の奥の部屋に逃げて立てこもり、事なきを得た。が、件の貫抜鬼丸は奪われ、ついでに屋敷内にあったいくつかのお宝もまた奪われてしまった、という。 「くそっ、泥棒め! 旦那様、あたしが追います!」 それを聞いた、同行した蒲生商店の若き店員の一人・奈良無が、外へと駆けだした。 奈良無が馬に乗り追っていった先を、譲二朗らもまた追っていく。やがて山道に差し掛かった、その時。 「!? これ、は‥‥?」 人間の死体が二人分、そこに転がっていた。 「こいつら‥‥」追いついた縊首比たちもまた、それを見つけ近づいた。 「縊首比、知っているのか?」 「あ、ああ。三人の男たちのうち、二人だ。間違いない」 死体の喉元には、何かの刺し傷らしきものが付いていた。それが背中まで貫通している。 やがて、がさがさと近くの藪が揺れ、中から出てきたのは‥‥顔に、網のような傷が付いた男。 「お前‥‥? くそっ、そいつらを連れてきたのかよ!」 「おい、泥棒!」男へと、奈良無が語気も荒く言葉を投げつける。 「先生に預けた、旦那様の剣はどこにやった!」 「‥‥はっ、あいつらに聞いてみな!」 顔に網状の傷をつけた男は、そのまま森の中へと逃げ、消えた。 入れ替わり、出てきたのは‥‥アヤカシの群れだった。 「‥‥最初に見た時、まるで猿のようだと思いました。が、そいつの背中には翼がついていたんです」 ギルドにて。譲二朗が奈良無を連れて依頼に来ていた。 森林の、木々の間を縫う様に、アヤカシは群れで現れたというのだ。そして異様なことに、そいつらの何匹かは、手に武器を持っていたという。 「見たところ、十匹ほどはいたと思います。そいつらの半分くらいは、手に武器を持っていました」 その多くが手斧や短刀、棍棒の類だったが、中にはちゃんとした刀剣を握っている個体もあった。そして、群れの首領らしき個体が手にしていたのが、かの貫抜鬼丸だったというのだ。 「アヤカシから剣を取り戻すこともですが、あの盗賊も気になります」と、譲二朗。 「おそらく、あやつは偽瑠殿が言っていた、『網面』という奴かと。なぜわざわざここまで追ってきたのかは存じませんが‥‥値打ちものらしい、あの剣を狙っているかと思われます」 そして、彼らは依頼内容を切り出した。 「あのアヤカシを討伐し、剣を取り返してください。そして‥‥おそらくはあの網面とやらもまた、再び剣を狙い、現れるやもしれません。その際には、奴を捕まえてください。よろしくお願いします」 |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
梓(ia0412)
29歳・男・巫
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
和奏(ia8807)
17歳・男・志
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
明神 花梨(ib9820)
14歳・女・武 |
■リプレイ本文 「‥‥なァんか、裏がありそうだなァ」 ま、やる事は変わらないだろうがな。言葉に出さず、鷲尾天斗(ia0371)は心中で付け加える。 蒲生と奈良無とを加え、開拓者たちは作戦会議を開いていた。アヤカシ退治と、剣の奪取とを。 「あたしが思うに、絶対に網面とかいうあいつが関係してるに違いないですね! 間違いないですよ!」 奈良無‥‥蒲生商店の新人女子店員が、鼻息も荒く断言する。しかし、蒲生はかぶりをふった。 「奈良無、いつも言っているだろう。根拠も証拠もないのに、自分の思い込みだけでしゃべるなと」 「ま、今ンところは現場行って調べんだろ? 考えるより、とっとと行こうじゃあねェか」 見た目も、言動も豪快なるたくましい巫女の男‥‥梓(ia0412)が、立ち上がった。これで巫女だと聞き、蒲生はいささか驚きを隠せなかった。 「じきに、不破様が戻ってこられるはずです。そのあとで、すぐに赴きましょう」 「偽瑠さんお久しぶり〜。元気そうで何よりだねぇ」 「おお、これはこれは。その節はお世話になりました」 不破 颯(ib0495)。弓術師は、少し前の依頼主と面会していた。資金繰りのため、偽瑠は本日も来店していると、不破は聞いていたのだ。 「‥‥時に、あんたが売った貫抜鬼丸について知りたいんだが、ちょいと時間貰えるかい?」 「ええ、よろしいですとも。あの剣は‥‥」 「借金のカタに手に入れた、屋敷の中に保管されていた、と?」 バロン(ia6062)、ジルベリアの弓術士が、戻ってきた不破の言葉に問いかける。 「その通り。今は改心してるけど、偽瑠さんも昔は金もうけ一辺倒でねぇ。で、ちょうどあの、付喪人形の騒動が起こる少し前あたりに‥‥手に入れた屋敷の中にあった‥‥って事らしいねぇ〜」 屋敷は資産家・宇摩が、死した親から譲り受けたもの。 宇摩は偽瑠に借金をして商売を始めたが、あっさりと失敗。偽瑠はその借金のカタとして、彼の財産全てを取り上げた‥‥との事だった。 「宇摩はその後、事故に合ったらしいけど、どうなったかは詳しくは知らないってさ〜。で、とりあげた屋敷内には結構なお宝が貯蔵されてて、その中に‥‥」 「あの、『かんぬきおにまる』があったわけやね。ほんま、舌噛みそうな名前やなあ」 明神 花梨(ib9820)、狐の獣人にして、武僧の少女が不破の言葉に続き言った。 「‥‥あの、花梨さん。あれは『つらぬきまる』と読むって、蒲生さん言ってましたけど‥‥」 「‥‥え? ホンマ?」 和奏(ia8807)の言葉に、彼女はきょとんとした顔を浮かべる。 「失礼します、皆様」 そこに、一人の男が訪ねてきた。 「警邏隊が保管していた、二人の盗賊の遺体検分の準備ができました」 男は、蒲生商店の幹部で、多忙な蒲生譲二朗の代理として来たという。 「私は、蘭厨といいます。以後よろしくお願いします」 彼の案内で、遺体安置室の台に寝かされた遺体の前に、開拓者たちは赴いた。 「では、失礼します」 和奏が進み出て、二人の盗賊の身体を見る。確かに、喉元から背中へと向かい、斜めに傷がついていた。 「食べられた跡は無し。傷痕は‥‥おや?」 「どうした?」 「バロンさん、これを‥‥こちらの喉の傷痕、これは‥‥」 和奏が指示した喉の傷痕は、確かに何かにより貫かれた痕に相違なかった。しかし‥‥。 「この傷痕。丸いし、太いねぇ。これは剣じゃなく‥‥槍で貫いたもんだろうよ」 不破が指摘し、バロンが続ける。 「この傷の角度。喉から刺したにしたら、空中からでもなければこうは刺さるまい」 「やはり、アヤカシの仕業でしょうか?」 二人に続き、和奏もまた思いを巡らせていた。 沈黙が流れ、結論は‥‥出なかった。 「‥‥ともかく、現場に行って調べてみなあかんな。でも、その前に‥‥」 花梨は、手を合わせ‥‥祈った。 「‥‥どうか、成仏したってや‥‥」 現場は昼なお暗く、高く太い木々が空を覆い隠すように、枝を多く茂らせている。 薄暗いこの場所ならば、アヤカシはおろか、人間が隠れようとしても、隠れる場所には事欠かないだろう。 「さてと‥‥」 仲間たちとともに現場に到着した鷲尾は、眼光鋭い隻眼で周囲を見回した。 現場は藪に囲まれ、そして‥‥二体の遺体が転がっていた場所は、広場のようになっていた。 仲間たちは、心眼や瘴索結界で周囲を探索している。が、瘴気は感じるが、何かの生物、人間、あるいはアヤカシの気配は感じられない。 鷲尾自身も、心眼を用いてあたりを警戒しているが‥‥やはり、何かがいる気配はない。 「ちっ、どうもいけ好かねェな。なんなんだ、ったくよォ」 「‥‥おい。これを見てみろ」 バロンが、鋭い眼差しを地面に向けた。不破とともに、鷲尾はそれを覗き込む。 「‥‥なんだ。こりゃ?」 土の表面に足跡が付き、その中心に‥‥小振りな短剣が転がっていた。柄の部分の作りから、道具か何かの一部に仕込まれた、隠し武器のようにも見える。刃は細く、まるで針か千枚通し。 「短剣‥‥に見えるな」 「確かに、短剣だねぇ〜‥‥ん?」 バロンと不破が、何かに感づいたかのように、周囲を巡らす。 それとともに、全員の間に緊張が走った。 間違いない。この肌に感じるピリピリとした感触。術を用いずとも、誰もが即座に理解できた。 ‥‥これが戦いを予感させるものであり、戦いの前兆であることを。 「‥‥!」 「‥‥‥!」 全員が円陣を組み、あらゆる方向へと警戒の目を向けた。 「見えた! あれだ!」 鷲尾の視線の先。そこには、いた。 樹間を飛びつつ、近づいてくるものどもの姿を。 それらはアヤカシには違いなかったが、見た目は猿のようだった。 しかし、それは虎や狼や小鬼その他に比べ、幾分か猿に似ているに過ぎないだけの事。爛々と輝く双眸と狂乱する死霊を思わせる顔面、そして背中に広がる歪な翼。あきらかにそれら禍々しい特徴が、猿ではなく、アヤカシ以外の何物でもない事を‥‥アヤカシ・羽猿である事を示している。 そいつらは群れを成し、時には枝を器用に手足で握り、時には翼を広げ空中を飛びあがったり滑空したりして、徐々にこちらへと、開拓者たちの方向へと向かっていた。 そして、半数以上が得物を手にしている。そのほとんどが、粗末な剣や槍の類。 「‥‥! 見ろ、あれを!」 バロンが、群れの中心へと視線を向け促した。そこには、ひときわ大きな個体‥‥頭頂部が赤く、まるで赤く禿げているような個体が、細長く優雅な得物を手にしている。 ジルべリア風の細身の剣。柄部分には装飾が施され、持ち手には防護版も取り付けられている。 それを持った大柄な羽猿‥‥「赤禿」が、太い枝に立ち止った。それとともに、仲間の羽猿たちも枝や木の幹にそれぞれ立ち止る。 そして‥‥にやりと笑みらしきものを浮かべると、「赤禿」は手にした剣を振り上げ‥‥振り下ろした。 それを合図に、羽猿どもは一斉に、開拓者たちへと強襲した! 「‥‥はっ!」 先陣を切るは、バロンに不破。 互いに勝るとも劣らぬ腕前の弓術師二人は、それぞれの持つ弓‥‥「幻」に「レンチボーン」より、鋭き矢を放った。 狩射で、正確に矢を放ち、目標を打ち抜くバロン。 ガトリングボウにて、矢の雨を降らせ、接近させない不破。 空を切り、鏃が次々にアヤカシへと突き刺さると、そのたびに不快で小癪な化物どもは地面に落ちて行く。一矢がアヤカシを貫くごとに、羽猿どもの群れを徐々に削り取っていった。 しかし羽猿どもも、その攻撃を受けるだけではない。 投槍を持った個体が反撃に転じ、次々に手の武器を投げつけてきたのだ。稚拙だが、勢いだけはある。次々に槍が地面に突き刺さり、それは開拓者たちへとつけ入る隙を作り出した。 地面に降り立つは、両手に短い刃を握った小柄な個体。それが両手の得物を振り回しながら、地面を蹴りつつ迫りくる。 再び飛び上がった、その刹那。 「はァーッはーッ! 食らいなエテ公がァーッ!」 「ベイエルラント」‥‥名剣の刃を一閃させた鷲尾により、羽猿の一体が切り捨てられた。 二体の羽猿が引導を渡され、瘴気を霧散させつつ果てた。 「おらおらおらおら! どうした猿ども、その程度かっ!」 鷲尾に続き、神威の木刀を振るい、梓が羽猿の脳天へとそれを振り下ろす。神聖なる力を秘めた木刀が打ち込まれるたび、瘴気が払われ、羽猿の穢れが浄化されていく。それを鼓舞するは、「神楽舞・攻」の力。 羽猿どもの顔に、焦りらしき表情が浮かぶのを、後衛の二人‥‥和奏と花梨は見た。 「‥‥この槍。やはり‥‥」 名剣「鬼神丸」を手にしている和奏は‥‥周囲に突き刺さった槍へと目をやる。 間違いない。遺体は、この槍で殺されたに違いない。 思慮は、すぐに戦いの空気によって中断された。太い鎖を手にした羽猿が降り立ち、それを振り回したのだ。 「ちっ!」 不破が舌打ちし、そいつに矢を放つ。が、振り回した鎖が矢を弾き飛ばした。 それを目の当たりにした羽猿どもは、群れ全体で叫び声をあげていた。それはまさしく、嘲笑の声に他ならなかった。 「「!?」」 それとともに、和奏と花梨は、後方に気配を感じ、振り返った。 そこには、後方に回り込んできた数匹の羽猿。空と地上から、同時にそいつらは襲い掛かる! 「‥‥『瞬風破』!」 和奏の鬼神丸が薙ぎ払われ、風の刃が羽猿を迎え撃った。風が吹き抜け、一刀両断の風道が切り開かれる。 が、その一撃をかわした羽猿の数体が、花梨へと迫った。 彼女もまた、大槍「シャタガンター」を手にしている。しかし、数匹をその穂先で突き刺し、その柄で薙ぎ払うも、次から次へと襲ってくる。 「くうっ‥‥ッ!」 「花梨さん!」 防御が間に合わず、羽猿の一体が振るった棍棒を花梨は受けた。 が、その足は一歩たりとも下がらない。仁王如山‥‥打ち付けられた足と、仁王がごとき姿勢が、彼女を不動の存在としている。 「はっ!」 それに驚いたかのように動きを止めた羽猿へ、花梨はシャタガンターを一突。再び一体の羽猿が滅ぼされた。 「へェっへっへっへ‥‥来いよ、糞どもがァ‥‥」 剣を構えた鷲尾へと、「赤禿」‥‥貫抜鬼丸を構えた羽猿が、挑戦するかのように空中より降下する。 それとともに、鎖を持った羽猿‥‥「鎖野郎」もまた、鎖を振り回し地上から迫る。 加えて、残りの羽猿も空中と地上から、同時に攻撃せんと広がり‥‥襲撃した。 羽猿どもが手にする得物が、開拓者へと襲いかからんとする。 その刹那。 「食らいなァ‥‥『ファクタ・カトラス』!」 ダナブ・アサドを同時に発動し、鷲尾の剣が「赤禿」を捕え、切り裂いた! 小気味の良い斬撃音が響き、瘴気が霧散する。真っ二つになった「赤禿」を見つつ、凶悪な笑みを鷲尾は浮かべた。 穢れしアヤカシの手から、貫抜鬼丸が離れ、地面に転がった。 同じく、「鎖野郎」もまた鎖を振り回し、地上を踏みしだきつつ迫る。 「‥‥『月涙』!」 が、バロンはそれの進撃に一歩も引かず‥‥引き絞った弓より、必殺の一矢を放つ! 鎖をすり抜け、羽猿の眉間に矢が命中すると‥‥深く、深く突き刺さり、後頭部へと突き通った。 きりきり舞いした「鎖野郎」だが、まだ倒れず‥‥突進してきた! 「させません‥‥『秋水』!」 それに立ちはだかるは、和奏。鬼神丸を構えた彼は、その刃で敵の一撃を受け止め‥‥逆に、その一刃を深く、深く切り込んだ。 今度こそ「鎖野郎」は倒れ、霧散した。 残りの羽猿は、それを見て後ずさりをし始める。数が減り、不利になった事を理解したのだろう。 「おっとっと、逃がしはしませんよっと」 だが、不破の放つ矢がそれらを追う。猟射兵を以て打ち出された矢により、羽猿どもは後頭部を貫かれ‥‥そのまま果てた。 「どうやら‥‥全部やっつけたみてえだな」 荒い息を整えつつ、梓は周囲を見回す。 すでに倒れ、倒したアヤカシどもは、霧散し瘴気となって消滅している。後に残るは、そいつらが用いていた武器のみ。 花梨が、怪我をした仲間へと浄境をかける。そして梓も、神風恩寵を以て、傷を負った花梨へと治癒を施していた。 「‥‥こいつが、『貫抜鬼丸』かよォ‥‥」 地面に転がっていたそれを、鷲尾は慎重に左腕でつつき、触り‥‥問題が無いと判断すると、拾い上げた。 確かにそれは、ジルべリア式の細身の剣に相違ない。ふと、持ち手の部分を見てみると‥‥握りの一部と柄頭、その部分の色が異なっていた。 「なんだこりゃ? なんでここだけ、色が違うんだ‥‥って、なんだァ?」 柄頭と絵の一部が、いきなりぽろりと取れた。どうやら、この部分に新造した部品を取り付けていたようだ。 そしてそこから、握りの内部の空洞があらわになり‥‥そこから、何かが出てくる。 「おい、それはなんだ?」 「見たところ、小さな巻物みたいやね‥‥?」 梓と花梨が、それを取り上げ丹念に調べる。確かにそれは、小さな巻物。紐で固く結ばれ、蝋で封じられている。 「おい、さっき拾った短剣、あるか?」 それを見ていたバロンが、何かに気付いたかのように不破へと言葉をかけた。 「はいはい、ここにありますよっと」 不破が取り出したさっきの短剣。それを柄へとはめ込むと‥‥ぴったりと合った。どうやら貫抜鬼丸の隠し剣として、ここに内蔵していたのだろう。 「‥‥その短剣は、貫抜鬼丸本来の部品だった。そして今までは、偽の部品がつけられ、柄の部分には巻物が隠されていた‥‥どういう事でしょう?」 皆の心を代弁するかのように、和奏が生じた疑問を口にする。 「‥‥まあ、ここで悩んでいたってしょうがないですからねえ。アヤカシは退治したし、剣はこの手に取り戻したし、とっとと帰って‥‥」 そこまで言った途端。 「!」 不破はいきなり矢をつがえ、ある方向へと放った。バロンもそれに続き、放つ。 矢は、比較的遠くの藪の中に吸い込まれるようにして消え、後に残るは沈黙のみ。 「‥‥逃げた、な」 「‥‥ええ、逃げられましたねぇ」 「‥‥な、なんや!? どうしたんや?」 花梨の問いかけに、バロンは答えた。 「おそらく、網面とやらだろう。奴らがこの剣を狙っているのは、間違いなく‥‥」 「‥‥この巻物でしょうねぇ」 バロンに続き、不破が言葉をつなげる。 やれやれ、また厄介ごとになりそうです。心の中でつぶやきつつ、彼はため息をついた。 「事情はわかりました。その剣には、なにやら秘密がありそうですね」 依頼達成の報告と、取り返した剣を持っていくために、開拓者たちは蒲生の家へと赴いた。 「これに関しては、偽瑠さんと相談し、処分するつもりです。もしその際に何か問題がありましたら‥‥」 その時には、またよろしくお願いします。 蒲生の結びの言葉が、その場に響く。おそらくその日は、そう遠くはないだろう。そんな予感を禁じ得ない開拓者たちだった。 |