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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 亜貴は、泣いていた。 仇討をするつもりが、その仇そのものに騙され、道化のごとく滑稽に翻弄されていた自分の情けなさに、泣いていた。 五行の北へ武天を通り、石鏡の南側。安雲へと向かい、戻る予定だった商店の隊商。 商店「濁屋」の隊商であったそれには、濁屋店主・偽瑠の娘、亜貴の婚約者・甚六が参加。しかし、その帰り道。山道で迷った彼はとある村に迷い込んだ。 そこは「主人」を名乗る何者かが支配。どうやら通りがかった旅人たちや、近隣の村の村人など、適当な人間を拉致しては、自分の奴隷にしているらしい。 唯一正気を保っていたのが、木葉という娘。最初、開拓者を引き連れて村を調べに行った時。亜貴たちは木葉と出会った。彼女は人質を取られており、逃げられない。助けようとしたが、迫りくる村人……アヤカシ・食屍鬼と化した村人たちと、現れた「主人」により、その場は撤退。 後日。話を聞いた近隣の村々は偽瑠の呼びかけに応え、村を囲み大規模に火を放ち相当する計画を立てた。が、その前に木葉と人質を助け出さねばならない。 木葉と人質を助けんと、亜貴は開拓者とともに再び訪れたが……そこで彼女は、自分たちが残酷な冗談に付き合わされていた事を知った。 亜貴は直接見ていなかったが‥‥直接見た開拓者たちによると、「そうであって幸運だった」とのこと‥‥とらわれていた「人質」は、両手足を切り取り、目を抉り舌を抜き、畜舎の壁に鉄鉤で生きたまま引っかけられ、死ぬまで放置されていた、という。 その中には、本物の木葉もいた。そして、「主人」は等身大の人形。本物の主人は、自分が木葉だと思い込んでいた、あの娘。 それは、「タガメ」と名乗っていた。気に障る嘲笑とともに、彼女は事実を暴露。自分こそが本当の主人であり、木葉の名前をかたり、拉致されこき使われていた哀れな娘を演じていたというのだ。 それに、自分たちは‥‥いや、自分は、完全に引っかかってしまった。 莫迦の親切心につけこみ引っかけて、それを笑いものにするためだけに、タガメはこれを行ったという。自分も喉を食いちぎられ、死にかけた。が、なんとか助かり、現在ここにいる。 ‥‥許せない。 人の尊厳を踏みにじり、自分の楽しみのためだけに他者を傷つけ貶める。事故でも、怨恨でもなく、娯楽のために命をもてあそぶ。これが許さずにいられるか! だが、憤る亜貴とは裏腹に‥‥事態はより血なまぐさい方向に向かっていた。 この事件がきっかけで、周辺の住民たちは、かの村‥‥「恐怖村」と呼ばれるようになった村と、その住民を掃討する事に。 が、ことは簡単にはいかない。これを聞いて、一番近くの村が大金を出し、夜盗や野武士たちを集めて攻め込んだが‥‥戻ってきた者は、誰もいなかった。 後日。村へ届けられたのは、二つの大きな瓶。 中に何かが入っているようだが、蓋がぴったりと閉じられ、どうしても開かない。割ってみると‥‥それぞれの中には、依頼した夜盗たちの長と、彼らに依頼した村の村長が、畜舎に入れられていたのと同じ、手足と目と舌を切り取られた状態で、生かされて入れられていた。‥‥まだ血の滴る臓物と、他の夜盗たちの切り落とされた首も詰め込まれて。 『タガメから進呈:殺しを望む血も涙もない人たちに、血を分けてあげます。生かしておいたのは、命は大事だと考える私の優しさから。わたしに感謝なさい』 変わり果てた村長の胸には、そう刻まれていた。 こんな事があり、村では女子供を逃がそうと考え、それを実行に移したが‥‥。タガメはそれに対しても容赦はなかった。 せめてもの情けと、村長と夜盗の長にとどめを刺したのち、副村長は村の孤児院とその経営者、職員たちを馬車に乗せ、近くの村へと逃がした。もちろん、護衛も付けて。 が、次の日。『タガメから進呈:モズの早贄始めました』と書かれた矢文が届く。それに書かれた地図に向かうと、そこに『モズの早贄』‥‥鳥のモズが、カエルや虫などの獲物を、鋭い枝に突き刺し放置したもの‥‥があった。 問題は、大木の枝に突き刺されたその獲物が、孤児院の子供であったこと。 さらに大木の幹には、こう書かれた手紙が短剣で留められていた。 『泣く子供がうるさいから、黙らせました。あしからず。職員たち? そのあたりにいるかもよ?』 それを読んだ村人たちの前に、食屍鬼と化した孤児院の職員たちが現れ‥‥襲い掛かってきた。 「‥‥これらは、一部にすぎん」 偽瑠が、やつれた様相でギルドに赴き、君たちへと事態を説明していた。彼は既に掃討作戦‥‥大量の人員で恐怖村を包囲し、大量の火矢をいかける‥‥を立てていたものの、タガメの所業に皆が皆、怯えてしまい思うようにことが進んでいなかったのだ。 だが、偽瑠も手をこまねいていたわけではない。できるだけ遠く‥‥恐怖村から離れた村から希望者を募り、この作戦を実行するべく奔走していた。準備はほぼ完了、あとは実行に移すのみ。 とはいえ、実行したら必ずタガメは逃げ出すだろう。食屍鬼はともかく、あの邪悪なアヤカシ‥‥おそらくは吸血鬼‥‥を討たない事には、またも別の場所で惨劇を起こすに違いない。 「そこで、あんたたちにはタガメを迎撃してもらいたい。あのくそったれは、今現在は村の連中を恐怖に陥れ、何もできないだろうと油断していると思われる。その隙を突いて、逃走すると思われる場所に待ち伏せて‥‥奴と直接対決してほしいのだ」 食屍鬼の群れならば、苦しいがなんとかなる。が、あの残忍卑劣なタガメ相手では、普通の人間では荷が重すぎる。普通の人間が相手したら、それこそ犠牲者を増やすのみ。 偽瑠たちは独自に調査し、もし村から逃れるとしたら、三つの逃げ道がある事を調べあげた。おそらく逃げるなら、その三つのうちどれかを用いるだろう。そこに待ち伏せていれば、タガメを先回りできるはずだ。 「‥‥タガメを、あいつを殺してください。本来は、わたしが自分で手を下したいですが‥‥口惜しい事に、それだけの力をわたしは持っていません」 偽瑠の隣にいた亜貴が、告げた。 「‥‥みなさんへのお願いは、わたしを同行させて、あいつの最後をこの目に見せるという事だけです。わたしの婚約者と、罪なき人たちの命と尊厳とを弄んだあの外道を‥‥叩き潰してください!」 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
海神 江流(ia0800)
28歳・男・志
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
ルエラ・ファールバルト(ia9645)
20歳・女・志
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)
15歳・男・騎 |
■リプレイ本文 「火攻めに参加?」 「はい。他の仲間たちは、逃走経路に二人づつで張っています。俺と彼女の二人は、一緒に火矢攻撃に同行して、射手のみなさんを助力します」 今回、初参加の海神 江流(ia0800)が偽瑠にそう伝えるのを、梢‥‥に変装している鴇ノ宮 風葉(ia0799)は、隣で見ていた。外套を羽織り、髪を帽子の中に入れ、一見すると梢に見えなくもない。 本物の梢・飛鈴(ia0034)も、自分の・・‥鴇ノ宮の服を着て、面を外し、同じく外套を羽織って真西の丘にいる。 変装は小手先のごまかしだが、やらないよりかはましだろう。この事は、仲間の開拓者たちにはもとより、恐怖村討伐団たちにも内密にしている。 「‥‥それはよろしいのですが、この作戦は、大量の火矢を撃ち込み、タガメを追い出すというものです。その間お二人には、やってもらう事はありません。お言葉ですが、その‥‥お仲間と一緒に、村の近くで張らなくてもよろしいので? やつは力押しだけでは、勝てないと思いますが‥‥」 「もちろん。その際には、呼子笛で仲間たちのところに急行します」 海神が返答する。その点に関しては、鴇ノ宮もまた心配ではあった。 とはいえ、自分を退屈な負け犬呼ばわりした事を、タガメに後悔させてやらなきゃ気がすまない。が‥‥努めて冷静に。 あの外道を殺してやるわ。楽しみに待ってなさい、タガメ! 早朝、恐怖村。 火攻めが開始されていた。 鴇ノ宮‥‥の姿になった梢は、ルエラ・ファールバルト(ia9645)とともに、真西の丘に潜んでいる。 「‥‥? 鴇ノ宮さん、どうかした?」 ふいに、ルエラから問われ、梢は驚いたように反応した。 「いや、なんでもナイ‥‥わ」 この変装は依頼人たちにはもちろん、仲間たちにも秘密。ルエラにも、それを教えるわけにはいかない。 今のところ、食屍鬼も、タガメらしき姿も、村から何かが出てくる様子は見られない。 ふたりは、待った。ひたすらに。 「‥‥今回で終わりにしたいもんだぜ。こんな裏ばっかかくような事件ってのは、正直面倒くさくてかなわん」 沼で見張っている不破 颯(ib0495)は、隣のペケ(ia5365)へと言葉をかけた。 大量の火矢が撃ち込まれ、村は火炎地獄に。目前の沼も、その熱にあてられ沸騰している様子を見せていた。 「‥‥不破さん、食屍鬼が」 ペケが指示した先には、村の塀を上った人影が。落ち着き払った不破は、それに矢をつがえて撃ち落とす。 「‥‥っと、命中! どうもさっきから、食屍鬼が何匹も出てくるねえ」 すでに不破は、即射で何体もの食屍鬼をその矢の標的としてきた。だが、肝心のタガメ本人らしきものはいまだ出てこない。 「タガメの奴も、ここから逃げるかな?」 「いいえ、私の予想だと‥‥きっと村の中に潜んでいるはずです」 タガメは予想を破る事が得意。ならばおそらく、村の中に潜み‥‥火が収まった後で出てくるはず。その時こそが、タガメとの真の決着。 その前哨戦とばかりに、炎は村を燃やしていた。 「‥‥タガメ本人は、結局出てきませんでしたね」 鳳珠(ib3369)が、村の真北、大量の射手とともに村へ視線を向けつつつぶやいていた。 そう、食屍鬼は何匹も出てはきた。が、そのたびに射手が遠くから大量の火矢を射かけ、倒していたのだ。 「‥‥となると、ペケさんの言った通りになりそうですね。はうっ♪ 腕が鳴るのです」 狐の獣人にして、隻眼のサムライ。ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)が、鳳珠の隣で張り切る。 「鳳珠殿、ネプ殿」 偽瑠が、亜貴とともにやってきて声をかける。 「あらかた、矢は射ち尽くしました。ですが、タガメ本人はまだ出てきてはいません。ペケ殿が言っていたように、村の中にて待構えているのなら‥‥」 「ええ。おそらく‥‥食屍鬼の残り、そしてタガメ自身も、村に残っているに違いませんわ」 「うんっ! 僕らにまかせるですよ!」 鳳珠に続き、ネプが元気な口調で請け合った。 そして、炎とともに日が暮れ、夜になり。 村が鎮火した頃には、薄暮の早朝になっていた。 同刻、真北。 「みなさん‥‥よろしいですか?」 亜貴が、鳳珠、ネプ、海神、梢‥‥に変装した鴇ノ宮のもとへとやってきた。 射手たちは、それぞれ交代で見張りつつ、休憩と監視とを行っていた。偽瑠もまた、本部で休憩をとっている。 海神が、亜貴の言葉を受けて立ち上がった。 「他の仲間たちには?」 「すでに人をやって、連絡しました。伝えたら四人とも、すでに内部に入ったそうです」 「よっし! ならば僕らも! 行きましょうどぐーの人!」 ネプが口にした奇妙な呼び名に、亜貴は目を丸くした。 「どぐー?」 「ああ、気にしないでください。こいつは僕の事をそう呼ぶんですよ」 それに、と、海神は付け加える。 「何かあって、皆が狙われたとしても‥‥僕らがいます。臆さずにいきましょう。亜貴さん」 「ええ、海神様、それに皆様。頼りにしています」 ペケと不破は、沼の方向から村内部へと入っていた。何度も『鏡弦』をかけ、隠れているアヤカシの居場所を突き止めんとしているが、それでもはっきりしない。 「‥‥『鏡弦』で亜貴さんや射手のみんなが、吸血鬼の手の者じゃあないってのはわかったが‥‥」 「それでも、タガメが村のどこに潜んでいるのか。それがわからないのは困りますね‥‥」 村内部は、ほぼすべての建物が燃え尽きていた。が、石や金属で作られた建物のいくつかは燃え残っており、白い煙をあげている。 「‥‥また、霞が濃くなってきましたね」 煙に、徐々に霞が混じってきている。それをペケは確認した。 「‥‥しっ‥‥」 が、不破が彼女の言葉を制した。燃え尽きた建物の床、それがわずかだが、動いていたのだ。 次の瞬間、わずかな動きは、明らかな動きに。熱でもろくなった床板を跳ね飛ばし、無数の食屍鬼が這い出てきた! 「‥‥います、よ」 心眼「集」にて、「それ」の存在を感知したルエラ、そして隣の鴇ノ宮‥‥に変装した梢は、身構えていた。 だが、目前には地面のみ。そして燃え尽きた建物の残骸が、地面に散乱しているだけ。食屍鬼が隠れられそうな場所は、見当たらない。 なのに‥‥何かが目前に、すぐ近くに潜んでいる。そんな不安が、彼女らを苛む。 「本当に、このあたりにいるのカ‥‥?」 「はい、鴇ノ宮さん。感知はしました、なのに‥‥!」 梢の言葉に、ルエラは困惑気味に答える。が、どんなに目を凝らしても‥‥食屍鬼は、アヤカシらしき存在の姿は見えない。 恐る恐る、一歩づつ用心深く歩く二人。だが‥‥次の瞬間。 「「!」」 出現した食屍鬼の、無数の腕。それらが、二人に掴みかかった。 亜貴を連れた、鳳珠、海神、ネプ、そして梢‥‥に扮した鴇ノ宮。が、先刻から海神は、己が何度かかけた心眼「集」の反応と裏腹に、周辺に何も動く者の気配すらないのが気になっていた。 「‥‥反応はあるのに、どうして姿が見えない‥‥?」 じきに、村の中心部‥‥井戸がある場所にたどり着く。が、井戸の周囲の広場には何もない。何かが隠れられる場所もないし、仮に隠れていたとしても、その気配はまったくない。 「なぜ、姿を見せない?」 「隠れてる? ‥‥どこに?」 海神は武器‥‥太刀『阿修羅』を構え、油断なく周囲へと視線を向けていた。ネプも手の得物‥‥戦鎚「ゴーレムバスター」をしっかりと握り、すぐにでも食屍鬼を叩き潰せるようにしている。 鳳珠は、剣を構えた亜貴を守るように、トネリコの杖とベイル「翼竜鱗」とを構える。 どこから来るか‥‥? どこから‥‥? 「なっ、なんですかっ!」 いきなりネプが驚愕の叫びをあげ‥‥皆は見た。彼がその足首を、地面から生えた「腕」に掴まれているのを。 「腕」は、一つや二つではない。おぞましく空を掻くそれは、ネプを、そして周囲にいる彼の仲間に掴みかかった。 「ええいっ、これでも食らえっ!」 ネプはすぐに立ち直り、腕の本体、地中に埋まったままの本体へと、ゴーレムバスターを叩き付ける。重く巨大な戦鎚の頭が、地中のそれを、おぞましきアヤカシへ一撃を食らわせ、引導を渡した。 「‥‥『浄炎』!」 鳳珠が、ネプを助けんと清浄の炎を放つ。それはアヤカシどもの腕を包み、燃え上がらせた。 「食屍鬼は‥‥地中に潜んでいたのか!」 海神のその言葉を肯定するかのように、次々に周囲の地面から、「腕」が、食屍鬼が姿を現す。 「この‥‥うわっ!?」 切りかかろうとした海神のすぐ近くに、大柄な食屍鬼が這い出てきた。 だが、海神は臆することなく、己が刀を構え、その刃を振り下ろす。 「『雷神剣』!」 雷をまとわせた、海神の剣の刃。それが切り付けられると同時に、食屍鬼は切り捨てられ、霧散し‥‥果てた。 が、食屍鬼は次から次へと地面から這い出てくる。 その時。 「‥‥笛の音?」 鴇ノ宮は聞いた。タガメ発見の笛の音を。 ペケは、疲れていた すでに奔刃術にて数体の食屍鬼を倒したペケだが、さらに数体が地面から現れるのを見て、疲れを隠せない。不破の放つ矢もまた、一射ごとに食屍鬼を一倒するも、状況は変わらず。 そして、それにともない。離れた場所の、小さな小屋の跡。二人は見た。その地下から這い出てきた人影‥‥白い衣装姿の少女の姿を。 そいつは二人を一瞥し、あの耳障りな笑い声をあげたのだ。 「‥‥ぎゃはぎゃは、その程度の食屍鬼にてこずるなんて、かわいいわねえ。負け犬のお友達」 不破が矢を射かけるも、そいつに当てる事はできなかった。 追わんとしたペケだが、その前に立ちはだかる食屍鬼の群れ。 少女‥‥タガメは、霞の中に消えて行った。消えた先は、村の南西‥‥沼のある方向だった。 鴇ノ宮らがかけつけたそこは、村の南西。 そして、ルエラと梢とが、多くの食屍鬼につかまり猿ぐつわをかまされ、身動きが取れない状態になっていた。 「はぁ〜い、ご無沙汰〜♪」 そして、塀を背中に。タガメがそこにいた。 彼女の周囲には、先刻の食屍鬼と同じ姿‥‥白衣姿に、仮面をかぶった数名が囲んでいる。 鴇ノ宮は、ほくそ笑んだ。あの変装に引っかかってくれている。ほえ面をかくのはどちらか、思い知らしてやるわ。 「みんな‥‥いくぜ!」 海神が叫び、突撃する。それとともに、他の仲間たちも突撃した。 「‥‥『トルネード・キリク』!」 それを支援せんと、鴇ノ宮が竜巻と烈風の呪文を放つ。それが問答無用で、タガメへ、そしてタガメの周囲を囲う人影もろとも襲い掛かった。 「‥‥なっ!?」 タガメの面食らう顔を見て、鴇ノ宮は心躍った。ここしばらくの間で、実にいい気分。 「‥‥『風葉』、思いっきりやってやれ!」 海神が、有していた杖‥‥鴇ノ宮のカドゥケウスを、投げてよこす。 扮装を取り払い‥‥鴇ノ宮は、さらなる攻撃を解き放った。 「『トルネード・キリク』! 『アイシスケイラル』!」 力だけでは勝てない? それすらも力でぶっ飛ばしたげるわ! 解き放たれた氷の矢が、タガメへと突き刺さり‥‥炸裂した。 他の皆は、ルエラと、自分に化けた梢とを助けに駆け寄っている。鴇ノ宮は地に伏したタガメへと迫り、杖を向けた。 「もう一度、聞くわ。『あたしを、誰だと思ってんの』?」 勝利を確信し、鴇ノ宮は問いただす。 それに対し、タガメは予想外の答えを‥‥予想外の反応とともに返した。 「‥‥くっくっ‥‥アンタが誰か? 答えてあげるわ」 「?」 「‥‥アンタは、『わたしの同類』。殺しを楽しむ殺人鬼よぉ〜♪ ぎゃはぎゃは!」 「はあ? 何言ってるの? 負け惜しみ? 誰が殺人‥‥?」 その時、鴇ノ宮は気づいた。 自分が最初に、トルネード・キリクを放った時。巻き添えにした周囲の「白衣の人影」が誰か、を。 「こ‥‥れは‥‥!」 仮面が吹き飛び、顔が見える。それは‥‥まだ年若い、少年少女。 「まだ‥‥人質が!?」 「そ。『モズの早贄』にしてなかった、孤児院の子供たちの残り。確認せずに、アンタはいきなりやっちゃったわけよ。あのルエラとかいう女たちは、人質のせいで捕まってくれたのにねぇ〜」 放ったトルネード・キリク。敵を、タガメを力技でぶっ飛ばせば、それで済むと思っていた。 なのに‥‥人質を、子供を殺してしまった!? 「そ、そんなつもりじゃ‥‥」 「つもり? 嘘だね。アンタにとっちゃ、わたしにコケにされた事が重要で、誰が死のうが苦しもうが、知ったこっちゃないんでしょ? 英雄気取って罪のない子供をブチ殺す、それがアンタ♪」 「ち、違う! あたしは‥‥あたしはっ!」 次の瞬間。 「自分が殺した子供たち」が、「いきなり動き出し、鴇ノ宮に掴みかかった」 「!?」 身体中に、爪が食い込み、牙が沈む。激痛が彼女の全身に襲い掛かり、鴇ノ宮を混乱させた。振り払おうとしたが、すでに手遅れ。 「でも安心なさ〜い、その子たちは、食屍鬼になって永遠に生きるから♪ 安心して‥‥食い殺されろ!」 タガメが嘲りとともに‥‥鴇ノ宮に襲い掛かった! 鴇ノ宮が一人で相対していたら。間違いなく殺されていだろう。 だが、幸い今回は仲間がいた。 「‥‥鴇ちゃんに、手を出すなぁっ!」 ネプが戦鎚の重い一撃をもって、タガメに襲い掛かり弾き飛ばす。 「風葉!」 更に、海神がまとわりついた子供の食屍鬼を切り捨てる。 「‥‥この‥‥外道がぁっ!」 更に更に、ルエラの降魔刀が‥‥前回に食らわせそこなった一撃が、タガメへと食い込んだ。白梅香による一撃が、タガメの邪悪な瘴気を浄化する。だがそれでも、タガメの嘲りは止まらない。 「今度こそ‥‥くらえっ!」 アイシスケイラスが、再びタガメへと放たれた。氷の矢が突き刺さり、炸裂するとともに‥‥タガメの身体は粉砕され、霧散した。 だが、タガメの「ぎゃはぎゃは」という笑い声は、しばらく開拓者たちの耳から消えなかった。 それからしばらく。 村の各所に潜んでいた食屍鬼の群れを、皆はそれぞれ一掃し‥‥開拓者たちは仕事を終えた。 負った傷や怪我は、鳳珠が閃癒にて治癒してくれる。鴇ノ宮もまた、閃癒を受けていた。 「鴇ちゃん‥‥大丈夫ですか?」 「あんまり大丈夫でもないけど、ま、大丈夫よ。くそっ、最後の最後まで、ほんっと屑なゲス野郎だったわ」 しかし、鴇ノ宮の脳裏には強く残っていた。食屍鬼にされた、あの子供たちの顔が。 「‥‥けれど、少なくとも奴は倒せタ。それは僥倖だナ」と、梢。 「ええ。もう二度と‥‥この村で、こんな事が起こらないようにと祈るばかりです」 鳳珠が、目を閉じ祈る。犠牲者たちへの冥福の祈りを。亜貴もまた、甚六の事を思ったのか。目を閉じ、祈っていた。 タガメという邪悪を倒した。それが重要。 村にしばし、鎮魂の空気が流れていた。 その後。犠牲者たちが弔われ、慰霊碑が建てられた。 この村には、今はだれも近づかない。 |