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■オープニング本文 石鏡。 三位湖の北部、伊堂からさらに西の位置。 武天との境界線となっている河川。そこにほど近い場所。そこには、検問所がある。 その場所は、武天、それに理穴からの境界とも近い。両国からの旅人や商人を迎え入れるのみならず、逃亡してきた犯罪者、それに瘴気が濃く魔の森に極めて近い場所でもあるので、それらを見張る役割も持っていたのだ。 そして、そこは昨今になって、問題を抱える事となった。謎のアヤカシが、出現していたのだ。 その日、武天へと赴く商人がいた。 蒲生商店の、若き商人。面矢羽という名の彼は、武天にて新たな販売網を開拓すべく、一人赴いていたのだ。 石鏡の国内、ないしは伊堂にて商店を出し、そこそこ繁盛させた彼は、店主から命じられた。「武天へと行って、どんなものが売れているか調べて来い」と。 かくして意気揚々と向かったのだが、彼は武天の境界でそれを阻まれる事となる。 面矢羽は、検問所に赴くのを楽しみにしていた。そこには、警邏隊に勤める友人が勤務しているはずだ。あれから連絡がとれず、会う機会もめっきり減った。いきなり会ってびっくりさせてやろう。きっと驚くぞ‥‥。 そんな事を考えつつ、面矢羽は馬に先を急がせた。今日は、検問所の近くにある宿にて一晩を過ごすつもりで。 だが、夕方に検問所にたどり着いたところ。面矢羽は目を疑った。 「これは?」 いない。 誰も居ないのだ。かわりにあるのは、襲われた痕跡。窓は破られ、扉は壊され、検問所の小屋には血痕が多数。 その血痕は、まだ乾ききっていない。おそらく襲われてから数刻ほどしか経っていないだろう。検問所の内部に残されていた茶が、まだ湯飲みの中でほのかに温かい。 検問所のすぐ近くには、宿泊施設がある。そこに向かってみたが、結果は同じだった。 宿は壁が叩き潰され、内部には血痕。そして、おそらく殺されただろう住民や従業員の姿は見当たらない。 アヤカシか? だが、アヤカシにしても相手はどんな奴‥‥あるいは奴ら‥‥か? 少なくとも、生半可な相手ではあるまい。そして、それに襲われた者たちがどんな運命をたどったのか。それを想像すると身震いするのを禁じえなかった。 宿泊所の周囲を、更に探す。 ちょっとした商店や、茶店がそこにはあった。そして、そこで‥‥遺体を見つけた。 遺体は、剣を握っていた。この様子からして、警邏隊の隊員が何かと戦い、そして傷つき倒れたといった状況なのだろう。まだ死体は暖かく、鮮血はかたまっても居なかった。 ふと見ると、死体の近くには、別の死体が。それもかなり多くが倒れていた。血の匂いが強くなったと思ったら、さもありなん、 皆、身体に深い切り傷を負っていた。なかには手足を切断された遺体もあった。 何かの群れに、間違いなくアヤカシの群れに襲われて、戦い殺されたのだろう。なぜなら、その戦った相手の死体らしきものが見当たらなかったからだ。 徐々に強くなる血の匂いは、面矢羽に吐き気をもよおさせた。それを我慢しつつ、彼は友人の姿を探し続ける。子供の頃に面矢羽は、戦場を横切り脱出したことがあった。今のこの状況は、その時にかいだ匂い‥‥死の匂いを思い出す。ここには、死が充満している。それも新しい死が。 できれば、まだ死と関わりたいとは思わない。護身用の小剣の柄を握り、誰か生き残りがいないかと面矢羽は探し始めた。できれば、友人もどうなったのか知りたいところだ。彼は無事だろうか? 「? おい、お前、雪雄だろう!?」 その疑問の答えは、すぐに得ることができた。近くの建物の壁に、背を預けている男を見つけたのだ。 それは、面矢羽の友人、雪雄だった。 「‥‥つ、面矢羽か?」 雪雄は、息も絶え絶えといった状態だった。体中にひどく切り傷を負い、生きているのがやっとという様相。 「どうした? 何があった? 誰に襲われた?」 「や、山から‥‥大勢の、あ、あいつらが‥‥」 それだけ言って、彼は血を吐いた。まずい、急がねばならないだろう。 友人を背負い、面矢羽は馬の待つ場所まで戻った。伊堂まではだいぶかかるが、ここに居るよりかはましだ。近くに村か人家があれば、そこに行って手当てしてもらおう。 友人を馬に乗せ、自分も乗ろうとしたその時。 夕闇の中に、巨大な影を見た。それは、夕日の逆光で良くは見えなかったが、確かに巨大な人の影めいたもの。 それは面矢羽の存在を知ったかのように、襲い掛かってきた! 「わたしは、すぐに逃げました」 ギルド、応接室。面矢羽はそこに赴き、依頼内容を話していた。 「そして馬を走らせて、なんとか一番近くの村にたどり着きはしましたが‥‥」 面矢羽の友人、雪雄はすでに帰らぬ人となっていた。 「伊堂まで戻ると、わたしは彼を荼毘に付し、そして墓地へと葬りました。もちろん、死因などを警邏の方々に調べてもらったうえで、ですが」 聞くところによると、彼は剣による切り傷がひどかった。死因はまず間違いなく、剣で傷を負わされたから違いない‥‥との事。 「ですが、わたしの見た影は、確かに大柄で武器を持ってはいましたが‥‥剣というより棍棒のような武器でした。それだけでなく、奇妙な事に‥‥頭らしきものが無かったのです」 見間違いでは、という質問には、面矢羽はかぶりをふった。 「見間違いかもしれません。でもあの時、確かに頭は見当たらなかったのです。ちらりとしか見ませんでしたが‥‥」 警邏隊の話では、あの周辺ではここ最近、大柄な鬼めいたアヤカシが、数匹の小鬼を引き連れて目撃されている報告を多く受けている。おそらくはそれがこの犯人なのだろうが、ならば棍棒をもったこれは何か。 「皆様方に、依頼したく思います。どうかこのアヤカシどもを倒し、雪雄の仇を取ってください」 |
■参加者一覧
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ
宗久(ia8011)
32歳・男・弓
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
将門(ib1770)
25歳・男・サ
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
牧羊犬(ib3162)
21歳・女・シ |
■リプレイ本文 「なるほど、ここが」 風鬼(ia5399)の第一声が、静寂を破る。 すでに人がいなくなって久しい、その検問所。そこにたどり着いた開拓者たちは、ぐるりと見回し、破壊された痕跡をじっくりと検分し始めた。 検問所には、警邏の詰所、そして生活するための寝所や部屋などが、粗末ながら備え付けられていた。 「ふむ、見事なまでに人の気配が無いですわな」 シノビの女性は、聞き耳を立てていた。今のところは、生き物の、否、動くものの気配も、物音も伝わってこない。 超越聴覚を用いて聞いてみても、それは同じ‥‥ではなかった。 「! ‥‥どうやら、すぐにでも戦いを始めなきゃあならないようですね」 その口調と、武器を構えるその行動から。仲間たちは察した。 彼女が、何を聞いたかを。 「面矢羽さん。ひとつ聞いておきたいのですがね」 出発前に、風鬼は依頼人に話を聞いていた。 「見た『影』とやらですが‥‥そいつは、どのくらいの大きさですかね? 家の中に入る事が出来るくらいなんですかな?」 「大きさ‥‥。ええ、あの時は無我夢中でしたから、少しばかり印象が異なっていたかもしれませんが、それを差し引いてもかなりの大きさとは思います」 「というと? 建物に入れないくらいには?」 「いえ、そこまでは。ですが少なくとも、普通の人間をはるかに上回るほどの大きさはあると見てよいかと」 「‥‥この足音からして、鬼と小鬼の群れ、それに間違いないかと」 風鬼の言葉が、皆に戦闘態勢を取らせた。 呪弓「流逆」を取り出し、矢をつがえるは宗久(ia8011)。 「敵さん、ずいぶんと大慌てのようで。ま、矢を射るこちらとしては関係ないがね。へへっ」 怒りの感情を、目に見えるほどに露にしているのは、魔術師・オラース・カノーヴァ(ib0141)。 「見せてくれよう。奴らに、この俺の怒りをな」 珠刀「阿見」の柄を握り、いつでも抜刀できるように準備するは、若きサムライにして剣士、将門(ib1770)。 「倒す相手がはっきりしないのは気に入らないが、少なくとも敵の方から出向いてくれたのはありがたいぜ。探す手間が省けたってもんだ」 手甲・霊拳「月吼」を締めなおし、戦いへ赴こうとする泰拳士の少女は石動 神音(ib2662)。 「まかせて、おにーさんたち! 初音がもう誰も殺させないよっ!」 忍拳使いのシノビにして、犬の神威人である牧羊犬(ib3162)も、両手に装着した鉄爪をあらため終わった。 「悪の臭い、逃しません!」 そして、風鬼もまた自身の武器、バトルアックスを構えた。 「皆さん、打ち合わせどおりに。いいですね?」 最初に見えたのは、ゆがんだ短躯の影。 そいつらは、短躯にふさわしく、小さな剣を手にしていた。それを掲げ、嬉しそうに、気に障るほどにはしゃいだ態度で、検問所に迫ってくる。 いつしか、夕闇が周囲に訪れていた。そして、赤が世界を染めていきつつあるその時。「そいつら」が、徐々に接近してくるのを開拓者たちは見た。 短躯のアヤカシが十数匹、そして、その後ろに立つは、巨大にして畏怖を固めたかのような、大きな影。 小鬼の群れに、その首領たる鬼に相違あるまい。 鬼が、立ち止まった。それとともに、小鬼たちも何事かと立ち止まる。 立ち止まり、鬼はその顔を検閲所の、廃墟と化した小屋や建物へと向けていた。何かをまるで検分するかのように、目をしばたかせている。 やがて、開拓者の存在に気づいたかのように‥‥大声を上げた。 「どうやら、見つかったようですなあ」 風鬼が、その声を聞いて呟いた。 そして、彼女の言うとおり。鬼が吼えた後、小鬼の群れが武器を手に、突撃してきたのだ! 「任せてもらおう」 わめき散らす小鬼の群れが突進してくる。徐々に近づくそいつらに対して、オラースが立ち上がり、彼らを迎え討たんと立ちはだかった。その手に携えるは、魔杖ドラコアーテム。勇壮な龍の彫刻が、それには刻まれていた。 小鬼どもは、彼をまったく驚異には感じていないようだ。獲物に食らい付こうとする野獣のように、よだれをたらして駆けてくる。何らかの手段を打たないことには、数秒後には手にしている小刀や粗末な武器の餌食になってしまうだろう。 が、オラースは目を閉じ、神秘の力を呼びだしていた。彼は恐れていない。どんな相手が恐怖を植えつけようとも、彼にはそれを跳ね除けるだけの呪文があるのだ! くわえて、彼は危険を好む男でもある。そして何より、彼自身が危険な男。 その力の一端が解き放たれるのを、仲間たちは見た! 「‥‥ブリザーストーム!」 オラースが構えた魔杖の先より、強烈な吹雪が放たれた。それはまるで、青き流星。 そして、その吹雪の直撃を受けた小鬼は、完全に不意を付かれていた。最前にいたものはもろに氷を受け絶命し、直撃を免れた者も半身が凍り動きが取れない。 直撃が来ず、無傷で済んだものもいた。が、そいつらは自身の身の危険を感知したのか、逃げようとする。 「おおっと、逃がさないぜえ?」 それらの小鬼には、矢が射掛けられた。宗久の呪弓、「流逆」の一射が、小鬼を貫いたのだ。 グエッグエッといったつぶれたヒキガエルのようなうめき声とともに、小鬼は倒され、霧散していった。 六節により、すばやく装填された矢は、全ての小鬼に反撃の暇を与えずに放たれ、貫き、地獄へと送り続ける。一掃されるのも時間の問題だった。 残る四人の開拓者は、鬼へと突撃していった。 鬼は大柄で、たくましい四肢と凶悪な面構え、そして長く大きな剣を手にしていた。 が、剣は錆びており、ところどころが刃こぼれしている。それを力任せにふりまわし、鬼は手近な獲物へと、牧羊犬と風鬼へと向かっていった! 地面へと、刃を叩きつけるように振り下ろす鬼。だがそれを難なくかわし、風鬼は自身の刃を、バトルアックスの刃を鬼へとたたきつけた。 「破っ!」 なめし皮のように硬い胴体に、斧の刃が食い込みダメージを与える。その隙に、牧羊犬の拳の一撃が鬼へと放たれた。 「くらいなさいっ! たあっ!」 忍拳により、命中率と攻撃力が上がり、さらに拳には鉄爪を装着している。三本爪の篭手による拳の一撃は、鬼に更なる痛手を与えていた。 傷みにうめきつつ、鬼は手の大太刀を、今度は横薙ぎに払う。が、その粗雑な動きは簡単に見切られ、更なる追撃を喰らう羽目に。 「やあーっ!」 「はっ!」 神音の拳が鬼に食い込み、将門の剣が鬼に切り込む。 更なる止めを牧羊犬と風鬼が食らわし、鬼が断末魔の悲鳴を上げて、そのまま倒れ、霧散していった。 「さて、と」 戦い終わり、風鬼、そして皆は息を整えていた。整えつつ、風鬼は頭の中で考える。 おそらくは、ここからが本番。そして、予想ではまだ「頭無し」は出ていない。 間違いなく、襲撃してきたアヤカシはこいつら。ならば、別にいるアヤカシ、頭の無いやつは、まだこれから出てくるはず。そいつを突き止めて倒さねば。 検問所に隣接する村、そこに一行はたどり着いた。 「それでは皆さん、申し合わせた通りに」 「へいへい、まあせいぜい頑張りましょうかね」 「任せよ」 「ああ、そうしよう」 「任せてくださいっ、風鬼おねーさん!」 「はっ、天地天命に代えましても!」 風鬼の言葉に、宗久はいいかげんに、オラースは重厚な口ぶりで、将門は冷静に、神音は無邪気に、牧羊犬は真面目に、それぞれ答え‥‥探索を開始した。 「ふむ‥‥?」 村内部。そこで、何軒かの家の中を調査していたオラースだが。彼は疑問を覚えていた。 「どうかしたか?」 宗久が尋ねる。 「これを‥‥」 オラースは、そこで発見したそれらを、彼に見せた。 「ずいぶんと叩き折られているようだが、こいつがどうかしたか?」 それは、「剣」。それも、数本の剣の成れの果てが、そこに散乱していたのだ。 「気づきませんか? 血痕がない事に」 確かに、言われるとおり血痕がない。刃こぼれしたり、折れたりしているが、血痕らしきものはほとんど全く見当たらない。 「確かに、そうですな」 外を調べていた風鬼もまた、そこに入り込み会話に加わる。 「それに、どの剣もみな『刃こぼれする』か、『折られている』ってのも気になりますな。何か、強烈な力の『鈍器』で叩き折られたようにも見えます」 そして、先刻のアヤカシこと鬼の中には、そのような武装は無かった。これは、どういうことか。 「少なくとも、さっきの奴とは異なる奴の仕業、なんだろうな」 宗久が、そのことを言い表した。 「おかしいなー? これがさっきの奴らだとすると‥‥」 神音もまた、困惑していた。 彼女は外を調べていたが、そこに足跡を発見したのだ。 小鬼のものらしき、浅く小さな、しかし多量につけられた足跡。 そして、大きな鬼の、若干大きく深めの足跡。 だが、それらとはまた別の、大き目の足跡も見つかっていた。それは、鬼のそれに似ていたが、もっと大きい。さらに、何かを引きずったような跡も残されていた。大きくて、重い何かを。 ともかく、次はアヤカシをおびき出す作戦を。そう思っていた矢先。 小屋の一つから、いきなりそれが現れた。そして、そいつは巨体をゆるがせつつ、手近な開拓者へと襲い掛かった! 「将門おにーさん!」 村の中央広場にて。将門、そして牧羊犬は泥濘を作っていた。泥にして脚をとらえ、そのまま倒す仕掛けを作っておけばと思っていたのだ。 それは、現れたそいつ‥‥首の無いアヤカシに対しても、十分に対応できるはずだ。 そいつは、先刻の鬼よりもさらに一回り大きく、自分の身長と同じくらいの、巨大な棍棒を持っていた。それを地面に引きずるようにして、それは持ち歩いている。 首が無いというのに、そいつ‥‥首無しは、将門と牧羊犬の事を知ったようだ。胴体を二人の方へと向けると、棍棒を引きずりつつ近づいてくる。 「ちっ、随分とでかい棍棒を持ってるな。地面に打ち込んだら、地震が起こせそうなくらいだぜ」 将門がつぶやく。その呟きに、大真面目に牧羊犬は返していた。 「地震を起こす? やつは自然現象も操れるって事ですか?」 「‥‥いや、それくらい凄そうだって事だ」 首無しは、どんどん近づいてくる。が、その歩みを止めた。 「はーっ!」 神音が、脇から攻撃を仕掛けてきたのだ。 拳と蹴りの一撃をまともに喰らったというのに、そいつはさして堪えた様子を見せない。首が無いため、どちらに注意を向けているかわからないのだ。 逆に、巨大なその棍棒を軽々と持ち上げると、両手で構えた。 ガッ。 「‥‥ぐっ!」 音がした。棍棒の一撃が、神音を襲ったのだ! 「こっちだ!」 咆哮を用い、将門はそいつをおびき寄せる。 神音は何とか無事らしい。かすっただけの様子で、近くの人家、ないしはその壁に叩きつけられるだけで済んでいた。 が、それでもダメージは大きいようだ。神音は傷みに顔をしかめている。 「大丈夫ですかい? 災難でしたね」 駆けつけた風鬼、オラース、宗久から介抱され、彼女はなんとか目を覚ました。 「痛! ‥‥な、なんとか大丈夫です、風鬼おねーさん」 「これを」 オラースが差し出した符水により、なんとかなった神音は、すぐ立ち上がった。 「ありがと、オラースおにーさん! あいつが犯人のアヤカシに違いありません! いそぎましょう!」 ずぶりと、そいつは泥に脚を踏み入れた。 そして、作戦通り。足元に泥が踏み込むとともに、足首まで、ふくらはぎのあたりまで沈み込み、動きを阻害する。が、そいつの馬鹿力の前では、阻害できているとは言いがたい。 「新陰流!」 将門は、阿見の刃をそいつに打ち込んだ。棍棒の間隙を縫っての攻撃は見事に命中したものの、首無しはそれだけでは堪えない。 うめき声一つ上げず、夕日を浴びて影を伸ばしながら更なる一撃を放たんとしていた。 まずい、やられる。そう思った次の瞬間。 宗久が放った矢がそいつに突き刺さり、注意をそらさせた。 「忍法、影縛り!」 続き、風鬼の影がのびて、そいつの動きを封じ込めた。 そして、更なる呪文が、オラースの手により紡がれ、唱えられ、放たれたのだ。 「アークブラスト!」 放たれた電撃が直撃し、悲鳴をあげたような、気がした。 そのまま、泥の中へと倒れこむ。 「大丈夫ですか?」 風鬼たちが、牧羊犬、そして将門の下へと走り寄る。 だが、次の瞬間。 首無しは再び棍棒を手にすると‥‥起き上がり、それを投げつけたのだ。 棍棒は、あまりに巨大、かつそれに見合うだけの重量を持つ。皆は伏せ、あるいはのけぞり、脇に飛びのいて、そいつをかわした。 そして、泥の中から脚を引き抜き、首なしは再び立ち上がった。 棍棒が無くとも、両手の拳だけで十分に強力。が、それに立ちはだかったのは、体を赤に染めた神音。 「もー誰も、家族を失う人を出させないよ!」 泰練気法・壱にて身体を覚醒させた神音は、構えつつ新たなる攻撃を放たんと突撃した。 「極神点穴!」 そして、そいつの足へ、点穴へと気を集中させた拳を叩き込む! 首無しの股を通り過ぎ、そのすれ違いざまに放った一撃。一瞬の後、膝頭が破裂し、首無しは倒れて再び立つ力を失っていた。 膝を突いたところに、もう一撃。もはやそいつは、歩行能力を奪われた。そして、仲間たちが復帰する。 「神音、後は任せろ!」 将門が新陰流で切り込み、牧羊犬が忍拳で打ち込み、宗久が矢を打ち込む。 「とどめ!」 オラースが、アークブラストを再び唱え、電撃がそいつを貫く! 苦しげに地面を掻きつつ、アヤカシは消滅していった。 「調べたところ‥‥やはり二種類のアヤカシに検問所が襲われた‥‥という事でよいかと」 面矢羽へ、事後報告する風鬼。アヤカシを倒した後、調査を続けた一行は、調べ上げたこの事件の真相を報告していたのだ。 「では、自分が見たのと、友人や皆を襲ったものとは別だと?」 「間違いなく。遺体が見つからなかった時点で、殺されて運ばれたのか、そこでまだ死なずに移動してから死んだのかを確かめたのですが、前者だったようでしてね。そしてほとんどの犠牲者は、あの鬼と小鬼の群れにより惨殺されていたのです」 「そして、そこへ首無しも住み着いた、と」 面矢羽の言葉に、風鬼は頷いた。 「小鬼の襲撃を退け、やれやれと思ってた矢先に、また別のやつが現れた。しかもずっと強力なやつが。そして、不意を付かれて‥‥」 「‥‥わかりました。皆様、ありがとうございました」 開拓者たちへ、面矢羽は頭を下げた。 アヤカシの手による悲劇。だが、今回はなんとかその仇を討てた。 「どーか、安らかに‥‥」 悲しみにくれる面矢羽を見て、その悲しみを乗り越えてほしいと。 そして、亡くなった人たちが浮かばれることを。そう祈らずにはいられない神音であった。 |