殲滅すべき顎の群れ
マスター名:塩田多弾砲
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/14 21:10



■オープニング本文

 五行の三陣へと、とある隊商が向かっていた。
 その隊商は、五行の黙々店舗に属していた。五行の陽天を出発し、遷都を横切り北面までたどり着き、そこの港から出向、海路を南下して五行へと入ったところ。船には、陽天にて仕入れた商品がぎっしりと積まれていた。
 あとはいつもの通りに海路を南下、そして三陣へと船を乗り入れ、三陣の商店へと商品を運び入れるのみ。
 だが、残念ながら今回はそう簡単には話は進まない。なぜなら、船にちょっとした問題が起こってしまったためだ。

 その問題とは、空を飛ぶアヤカシの群れ。それが得物とばかりに船を強襲したのだ。
 眼突鴉の群れは次々に船に襲いかかり、船員を餌食にした。が、船長の羽流は船に油をまき、それに火をつけることで大多数の鴉を焼き殺し、あるいは追い払う事に成功。
 生き残った船員と隊商の人間達は、救命用の小船に乗り込んで海岸までたどり着いた。

「俺は生きている‥‥他に生き残りはいるか?」
 海岸にたどり着いた彼らは、人数を確認した。残念ながら、そう多くはない。
「なんて災害だ、なんて災難だ。船を失い、積荷も失い、何より人命も失ってしまった。くそっ、なんて不幸で、なんて不運なんだ」
 目連が、ぐったりした口調で呟いていた。無理もない、今回の仕入れた品々‥‥大安売りしていた絵描きの絵やら(絵描きは死んだため、もう二度と手に入らないらしい)、石鏡の古美術品やら珍品やらを、苦労して手に入れたのだ。その苦労は、全て無駄となってしまった。ぼやきの一つも口にしたくなるというもの。
 羽流は、そんな目連にかける言葉も無かった。彼とは長い付き合いであるが、このような意思消沈した様子を見るのは多くはない。
「さ、行くぞ。怪我人もいるし、俺は疲れている。何よりみんな疲れている。ここで一休みしたら、俺は人家のあるところまで向かう。みんなも一緒に向かおう」
 羽流の言葉に、目連はようやく立ち上がった。
「そうだな、立ち直り、立ち上がろう。不運に負けて不運にくじけるのは御免だ、願い下げだ」

 彼らは疲れきった身体を酷使し、海岸沿いに歩き出した。わずかに船から持ち出せた商品も担ぎ、彼らは海岸線に点在する小さな漁師の村にたどり着き‥‥そこで、何とか急場をしのぐ事が出来たのだ。
「主人殿、ありがとう。あんたは俺の命の恩人だ。それ以上にみんなの命の恩人だ」
「全くです、同意です。我々は感謝しています、ありがたく思っています。どう礼を言ったものか、どう礼を尽くしたものか。何なりと言ってください、申し出てください」
 食べ物と水、それに休む場所を提供してくれた村人達に、羽流と目連は何度も礼を述べた。
「なあに、気にするな。こんな誰も寄り付かない田舎の漁師村に、こんなに大勢の客が来ること自体珍しいからな。それより、怪我人の具合はどうか?」
 毬棘と名乗ったその老人は、この寂れた小さな猟師村の村長。医療の心得があり、わずかな村人達とともに、時折少しばかりの魚を捕ったり、小さな畑を耕したりして生活していた。
「三陣には、海岸沿いに進んでいけば突き当たるはずだ。しかし、怪我人はちょっとばかり薬草が必要だな。どれ、上の村から取ってくるから待っていてくれ」
 そう言った毬棘は、川をさかのぼり、森へと入っていった。それが、この気のいい老人を見た最後となった。

「ご老人が森へと入っていったのは昼です、正午です。我々には『夕方までに戻る』と言っていました、言い残していました。しかし、それっきり戻ってこなかったのです、帰ってこなかったのです」
 ギルド、応接室。
「俺は心配した。皆も心配した。ご老人、毬棘殿は、『川沿いに、上の村がある。そこでは兄が薬草を捕っては薬に加工して蔵に保管している』と俺に、みんなに言っていたのでな。それで俺は、皆は待った」と、羽流。
 この、海岸の下の村と、川沿いにある上の村。二つの村は名前はないが兄弟村で、それぞれ海の幸と山の幸とを捕っては、交換したりしてうまくやっていたという。
 が、ここ最近上の村では、アヤカシらしきものの目撃が多い‥‥と、上の村の村人たちは言っていたらしい。
 目連が続ける。
「らしい、というのは、下の村の人々の言った事、伝えた事です。ですが、その言った事、伝えた事が、最悪の状態で現実になってしまいました、本当の事になってしまいました」
 夕方になり、夜になっても。上の村から毬棘は戻ってこなかった。遅くなったために泊まったのだろうと思いきや、次の日の昼になっても戻ってこない。
 下の村から上の村までは、大体徒歩で三時間ほど。何かあったのかと、案内人の初老の村人とともに、目連と羽流は自ら向かっていったのだ。
「俺は見た、目連も見た。そこには確かに、村があったが‥‥人はいなかった」
「無人でした、人の気配はありませんでした。しかし、何か嫌な気配は漂っていました、嫌な気配は感じました」
 羽流と目連は、その村に感じた。何かの嫌な気配を。強烈な生臭さが、気配とともに漂うのを感じた。
「そして、俺の目の前に、目連の目の前に、そいつは、そいつらは姿を現した」
「それは、紛れも無くアヤカシでした、間違いなくアヤカシでした。巨大なカエルの姿をしていたのです、カエルのごとき容貌をしていたのです」
 それが、川からどんどん上陸してきたのだという。まるで、迷い込んだ餌を見つけて食らおうとするかのように。
「俺は襲われた、一緒に来てくれた村人も襲われた。俺はなんとか逃れたが、村人は捕まってしまった」
「カエルのアヤカシが、舌を絡めたのです、巻きつけたのです。そして‥‥村人は悲鳴をあげるまもなく、巨大なカエルに一飲みにされました、丸呑みにされました」
「俺は助けようとしたが、助けられなかった。目連も助けられなかった。俺は持ってきた刀で切りつけた、突き刺した。だが、やつらには効果がなかった。逆に襲ってきやがった」
「それだけでなく、奴らは数が多かったのです、多数いたのです。こちらが逃げなければ、逃走しなければ、確実に殺されていた事でしょう、食われていた事でしょう」
 二人はその後、下の村に戻り、事情を説明した。そして、残ったわずかな村人と、船員や隊商の人間たちを連れて三陣へと向かった。
 そして、ギルドに依頼したわけだ。上の村を襲った、巨大なカエルのアヤカシを退治して欲しいと。
「俺が思うに、おそらく皆も思うに、毬棘殿は生きてはいないかもしれない。だが、もし生きていたら俺はなんとかして助けたい。皆もそうだろう。」
「ここに少しですが、私が貯めた銭があります、貯金があります。これを支払いますので、どうか毬棘さんの仇を取ってください、仇を討ってください。お願いします、よろしくお願いします」


■参加者一覧
正木 鏡太郎(ia4731
19歳・男・サ
ジェシュファ・ロッズ(ia9087
11歳・男・魔
ベルトロイド・ロッズ(ia9729
11歳・男・志
エシェ・レン・ジェネス(ib0056
12歳・女・魔
央 由樹(ib2477
25歳・男・シ
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓
ドン・シルクハット(ib4106
19歳・男・シ
夢幻草 瑠音(ib4178
15歳・女・吟


■リプレイ本文

 晴天の下。
 その沼地は不気味な雰囲気をかもし出していた。周囲には、やかましいくらいに虫の鳴き声が響いてくる。
 腐りかけた水の臭い。それが漂い出てくるのを、開拓者たちは感じ取っていた。
 沼を臨む場所にある、上の村。今まさに開拓者たちは、そこへ足を踏み入れつつあった。

「‥‥イヤな風が吹いてますな‥‥漂っている、とも言いますか‥‥」
 ユリ子‥‥と命名した己の刀を手にしつつ、正木 鏡太郎(ia4731)は呟いた。薄笑いを浮かべてぶつぶつとつぶやく様子は、あまりお近づきになりたくない雰囲気を、彼の周囲に作っている。
 村には、人の気配は全く無い。白昼なのに、不気味な空気を漂わせている。建物は、他の場所にあるそれと同じ‥‥簡素かつ、目立たないそれ。しかし、そのどれもが壊れていた。見たところ、外側から壊されたかのよう。
「あ、こっちには血がいっぱいついてるねー。きっと誰かがここに頭打って、ぐちゃってなったんだろーねー」
「‥‥って、そんな事まで説明しなくてもいいんだよ!」
 魔術師の弟、ジェシュファ・ロッズ(ia9087)の言葉を、志士であり双子の兄、ベルトロイド・ロッズ(ia9729)がさえぎった。
 弟の言うとおり、周囲は乾いた血痕のために凄惨な風景になっている。かの老人‥‥毬棘が生きているとは到底思えない。
「ううんっ、それでも希望をすてちゃだめっ! ぜったいにおじいさんを見つけて、カエルみたいなのをやっつけて、戻ってみせる! がんばるぞっ!」
 ジェシュファと同じく、魔術師のエシェ・レン・ジェネス(ib0056)は、自身に言い聞かせるように呟いた。
「ガマは人間を丸呑みにできるくらい、ごっつう大きいらしいからな。出てくるに越した事はないんやが‥‥」
 央 由樹(ib2477)もまた、村を、そして沼を見つつ呟いた。
 犯人は、巨大なガマのアヤカシ。問題は、そいつがどこに潜んでいるか。そして、どのくらいの数があるのか。
「ともかく、ガマのアヤカシが出てきたら、とっととやっつけて爺さんの探索が出来りゃあ良いんやけど」
 うまく行くかどうか。それはこれからの行動にかかっている。
「ふふ‥‥大量のアヤカシか。楽しみじゃのう」
 朱鳳院 龍影(ib3148)は、笑みを浮かべていた。豊か‥‥と言うには足りないほどに巨大な胸が、彼女の歩みとともに揺れていく。
 それと対照的な、華奢な身体つきの吟遊詩人、夢幻草 瑠音(ib4178)。
「‥‥おじいさん。助けられればいいのだけれど」
 いや、助けてみせる。彼女は心の中で言い直した。
「助けられる命は、なんとしても助けなくては」
 用意した松明と包帯が、その命を助けるのに役立てばいいのだけど‥‥と、心の中で付け加えた。

 村は、本当に人影が無かった。いや、人どころか、何かの生き物が存在する証‥‥生命の気配すら感じさせない。
 そのような中で開拓者たちは、互いの姿が見える程度に距離をとり、村を捜索している。
「ふむ‥‥? 出てこないのう?」
 龍影が、失望したように呟いた。
「ダメだよ龍影さん、まずはおじいちゃんの保護を優先でしょ? アヤカシと戦うのはそのあと!」
「分かっておるエシェ。ちと拍子抜けしたまでじゃ」
「うーん。でもさ、アヤカシが出てこないって事は、ひょっとしたらおじいさんも食べられたんじゃないかなー? もし生きてたら、出てきてもおかしくないわけだし」
 二人の会話に、ジェシュファが口を挟んだ。
「な、ちょ、ちょっと! ジェシュ!」ベルトロイドが、弟のその言葉を止めようとする。が、それに構わずジェシュファは続けた。
「それにさっきから、何も聞こえないしねー。つまりこの村には、生きてるものはもう何も無いんじゃない? ‥‥むぐぐ」
 兄に口をふさがれ、ジェシュファは強制的に黙らされた。
「‥‥まあ、もうちょいと探してみようやないか。結論を出すのはまだ早いやろ」
 央の言葉で、再び探索が始まった。
 そして、物陰から。開拓者たちを伺うように潜んでいた「それ」は、のっそりと動き出した。

 二時間経過。村の中心部にある広場までたどり着いたものの、何も生き物の姿は無かった。
「‥‥ちょっと妙ですね」
 瑠音が口にした疑問に、一行は耳を傾ける。
「ジェシュファさんじゃないけど、確かに気配が無さ過ぎます」
「あ、あはは。ごめんよ瑠音ちゃん。ジェシュってばいつも変なことを言っててさー」
「いや、それもあるけど‥‥人の気配だけじゃなくて、って事ですよ」
 今度は逆に、瑠音がベルトロイドの言葉をさえぎった。
「確かに人の気配はないし、静か‥‥でしょ? それが問題なんですよ。虫の声が聞こえない。なぜです?」
「‥‥‥‥‥‥!」
 瑠音の答えに、疑問がわき‥‥それは、戦慄と化した。沈黙がその場に現れる。
 虫の声がやんだのは、何かが近くにいるから。では、その何か、とは?
「‥‥何か、いるのかな?」
 エシェがその沈黙を破るとすぐ、音がした。
 ずるり‥‥といった、湿っぽい音が。
 途端に、その場の空気が変化した。その変化は背中合わせに円陣を組んだ、悪臭が、開拓者たちにも伝わってくる。
「‥‥臭うのう、腐った水草の臭いが漂ってくるのじゃ」
「‥‥ソウ、ですねえ。においます、ねえ」
 龍影と鏡太郎が、それを口にした。
「‥‥来るで!」
 央の言葉が終わるとともに、悪臭を放つ存在が姿を現しつつあった。

 それが動くさまは、まさに悪夢。そいつの全てが嫌悪感を刺激するもの。
 そいつらは、村の小屋の内部、物置や家畜小屋や、そのほか物陰になるところから、のそのそと巨体をゆすぶって現れたのだった。
 見ると、周囲にそいつらは‥‥アヤカシ・大蝦蟇は、広がって開拓者たちを囲んでいた。周辺に逃げる道を作らない算段だろう。
 周辺を見たところ、一匹や二匹ではない。十匹‥‥いや、それ以上の数がいることは間違いない。
 滑稽にも見えるその顔、その口。そいつの一体が近づくと、舌を伸ばした。
 鞭のように放たれる、そいつの舌。だが、開拓者たちも無力ではない。舌の一撃をかわし、全員が武器を、装備を構える。
「今日はお客サマが多いからね‥‥目一杯歓待しなくちゃね‥‥」
 再び、舌を鞭のようにのばすガマ‥‥アヤカシへと、鏡太郎は「ユリ子」を、愛用の業物を振るう。
 鞘から抜かれた「ユリ子」の刀身が、振るわれる。鋭い切っ先が空気とともに、大蝦蟇の舌へと切りつけられ、それを切断した。
 傷みを感じたかのように、大蝦蟇がつぶれた声で泣き喚く。それと同時に、他の蝦蟇もまたそのまま、いやらしい鳴き声の合掌を行い‥‥一斉に襲い掛かってきた!
 だが、開拓者たちもまた戦う準備はできている。ルーナワンドを携えたジョシュファに、槍「猛」を携えたベルトロイド。
 エシェは精霊の小刀とともに呪文を唱えんとやはり身構え、央は苦無を握り締める。龍影は殲刀「朱天」を、瑠音はバラライカをその身に構えていた。
 すでに、瑠音がバラライカを奏で放たれた、武勇の曲と霊鎧の歌。それが、周辺を取り付いていく。武勇の曲は皆に勇気を与え、霊鎧の歌は皆の抵抗力を高めていた。
「‥‥行くで!」
 央の言葉とともに、皆の瞳の中に、絶望を超えた戦いへの光が宿る。光とともに、開拓者たちは攻撃に転じた!

 先ず、数匹の大蝦蟇がアヤカシどもの先陣を切って進行する。無様な肉塊が飛び跳ねるようにして接近し、その大口を開き、鞭がごとき舌を放って絡み取る‥‥はずだった。
「「フローズ!」」
 ジョシュファとエシェ、魔術師二人が放ったのは氷結の呪文。それぞれが持つルーナワンドと精霊の小刀より発生した冷たき呪文は、迫って来た蝦蟇どもの空間を凍らせ、そいつらに冷気による痛手を与えていた。
 寒さに、アヤカシの動きが鈍くなる。すかさず、開拓者は新たな攻撃を放った。
「はーっ!」
 まず進み出たのが、ジョシュファの兄。ベルトロイドが持つは、槍「猛」。その長柄を構えつつ、彼は冷気を浴びた蝦蟇、そしてそれを目の当たりにして警戒している蝦蟇の群れへと攻撃を仕掛ける。
 幻惑するように槍を回転させ、そして柄を脇にかかえ、鋭き穂先を叩きつけるようにして薙いだ。
「手ごたえ‥‥あり!」
 槍の穂先、刃が蝦蟇の冷たい肌へと口付けし、そのまま切り裂いたことを感触で知った。
「アハハハハハ‥‥ハァーッ!」
 ユリ子‥‥と言う名の刀の鞘を払い、続けて追随するは鏡太郎。ベルトロイドの槍が切り裂いた相手に、さらに追撃を食らわせんと刀で猛襲したのだ。
 ユリ子の刃が、蝦蟇の一体に更なる口付けを放つ。それは槍の一撃より深く大きな傷と化して、蝦蟇の体を切り裂いた。
「まるで‥‥ヘビになった、気分だ‥‥だよネ? ユリ子?」
 霧散するアヤカシを見つめつつ、鏡太郎は愛刀へと問うた。
 別の方向からも、アヤカシが迫る。が、それはたちまちのうちに、餌食となった‥‥。龍影の持つ、殲刀「朱天」によって。
 巨大な胸を揺さぶらせつつ、赤き瞳の赤毛の美女は、濁った目を持つ醜き蝦蟇の襲撃へと切りつけていたのだ。朱天‥‥名のある刀工に鍛えられた名刀は、その名の通りうっすらと朱色を刀身に浮かばせていた。まるでそれは、神秘的な力が具現化したかのよう。
「さあ来い化け物!」
 言いつつ、朱天の刃を一閃。それとともに大蝦蟇は倒れ、霧散した。
「はっ! はっ! はーっ!」
 クナイを投擲するは、央。ベルトロイドの槍により痛手を受けた蝦蟇に対し、そいつの体にクナイを打ち込んでいた。針刺しのような姿になり、三匹目が滅した。
「‥‥まずいな」
 だが、やっつけたというのに、央は若干の焦りを感じつつあった。
「えらい数や‥‥クナイ、足りるんかな」

 央の懸念は、現実のものとなった。
 数刻が経ち、蝦蟇は更に数匹が倒された。が、きりが無い。
 アヤカシは、全方位から迫ってきているのだ。円陣を組んでいるとはいっても、このままではそれが破られるのも時間の問題。
「糞っ、次から次へと! 忌々しいカエルやでほんま!」
 毒づく央だが、それが一瞬だけ隙を作った。その隙をついて、蝦蟇の一匹が鞭のような舌を放つ。
「なっ! しまっ‥‥たっ!」
 それは、央の腕に硬く巻きついた。ぬるぬるして悪臭を放つ蝦蟇の舌は、解こうとしてもほどけるものではない。
 引っ張られ、バランスを崩しかけたその時。
「ホーリーアロー!」
 アヤカシを討つ、聖なる矢。エシェの唱えた呪文は、央を捕らえた蝦蟇を強襲した。先刻のクナイよろしく、ホーリーアローはアヤカシへとダメージを与える。
「おおきに! エシュ!」
 クナイで、絡みついた舌を切断し自由の身になった央は、すかさずクナイを投擲。蝦蟇の目へと命中させた。
 しわがれた鳴き声の断末魔とともに、そいつもまた倒れ、霧散し果てた。
 だが、それでも事態は好転してはいない。
「‥‥まだ、こんなにいるの?」
 瑠音が、やや焦りを含んだ声でつぶやく。まだ負けてはいない。くじけてもいない。
 しかし、敵の総数がまだわからない。それが焦りを生み、焦りは絶望を育てる。
 どうする、どうする。
「‥‥私にまかせるのじゃ!」
 事態の好転をはかるべく。龍影が駆け出した!

「来るがいい、アヤカシども!」
 開拓者たちの円陣から逃げるように離れると、龍影は咆えた。
 彼女の放った「咆哮」が、蝦蟇どもを注目させ、そちらへと注意を向けさせた。全てではないが、残る蝦蟇の多くは、龍影の方へと方向を変え、そして‥‥彼女へと向かっていったのだ。
 たわわに実った、汁気のある果物を狙う虫のよう。逃走する龍影へと、蝦蟇どもは無様な跳躍で追跡した。
「さあ、どうした! 私はここにおるぞ?」
 追いついた一匹が、舌を放ち絡めとろうとする。が、それは難なくかわされた。
 つづく二匹目、三匹目の攻撃も、同様の結果に。アヤカシを嘲笑うかのように、龍影は挑戦的に言い放った。
「その程度か? ならば、今度はこちらから参る!」
 朱天を腰の鞘に収めた彼女は、背負っていた別の武器を構えていた。
 それは、鎌。怪しき雰囲気を漂わせた、自身の身長ほどもあるそれは、まさに死神の鎌そのもの。
 龍影は、その鎌で切り付けた!
 蝦蟇の首が薙ぎ払われた。続きもう一体。自身にかけた「隼襲」の効果も手伝い、龍影の攻撃は的確に、そして見事に決まる。
 このまま自分を囲ませ、そして回転して切り払おう‥‥と、考えていた龍影だが、しかしそのもくろみは外れてしまった。
 蝦蟇どもが逃げ出したのだ。もっと楽な獲物を狙うべきと本能で感じ取ったに違いない。
「‥‥だからって、逃がしはしないよ‥‥!」
「逃がしませんっ!」
 ジョシュファとエシュが、それぞれアヤカシに向けて言い放ち‥‥同じ呪文を、アヤカシの群れへと唱えた。
 強大な高熱の炎。それが二人の掌に集い、可燃する存在を燃やし尽くさんと赤い舌で空間をなめる。
「「ファイヤーボール!」」
 呪文により生じた火球が、蝦蟇の群れへと放たれた。それはアヤカシを飲み込み、そのおぞましい体を焼く。
 なんとか、炎を浴びつつ逃れても。
「往生、するがいいっ!」
「アハハハハハハ! 切り捨てマス!」
 龍影の鎌と、鏡太郎のユリ子が、アヤカシに容赦なく襲いかかる。
「直閃!」
 最後の一匹に、鏡太郎によるとどめの一撃が放たれた。

「そうですか。俺は残念だ、皆も残念だ」
「本当に、お気の毒です。遺憾に思います」
 アヤカシの群れを殲滅し、仇は取れたものの‥‥。毬棘を救出することまではかなわなかった。
 それを聞き、羽流と目連は心底残念そうにうなだれていた。
 毬棘は、村の、沼から最も離れた場所の土蔵‥‥の地下に居た。央が超越聴覚を用いても見つからなかったのだが、代わりに足跡を発見。それをたどっていったところ、足跡を発見したのだ。そして、足跡の先には鍵がかけられた土蔵があった。
 なんとかこじ開けると、そこには大量の薬と、死体が一つ。死体は死後数日が経ち、毬棘の人相書きにそっくりであった。
「おそらく、薬を取りにいったその日に、村ごとアヤカシに襲われて、それで‥‥。ほんま、気の毒に思います」
 央の説明を、下の村の村人たち、そして今回の依頼人も聞いてはいない様子だった。

 悲しみに暮れつつも、依頼は終わった。が、アヤカシを倒しても、あの村の人々は戻ってはこない。
 瑠音は、村に手向けた花の事を思った。全滅という悲劇に襲われた村だけど、生き残った人たちには、今後できるだけ、そのような悲劇が起こらないでほしい、と。
 上の村。今はもう、誰も住んでいない。