海に漂う怨念:壱
マスター名:塩田多弾砲
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/10 22:00



■オープニング本文

 五行、矛陣。
 この周辺の一部海域では、ここしばらく小型の船の行き来が禁じられていた。

 きっかけは、船幽霊が出現してからのこと。
 このアヤカシが出現し、周辺の住民何名かが犠牲になってしまった。
 かくして矛陣の封陣院がこれに対応。警邏隊が出動してこのアヤカシは討伐、この件は済んだものと思われていた。

 しかし、しばらくして。
「これで安心して漁ができる」と、船を繰り出した漁師が戻ってこなくなった。
 それだけでなく、家畜や荷物を運ぶ海上運搬船も、ことごとく船ごと姿を消してしまったのだ。かの船幽霊が退治され、脅威は無くなったはずなのに。
 封陣院から依頼を受けて、討伐に赴いた警邏隊の隊長・轟現。彼は再び討伐に赴く事となった。
 轟現は、責任感の強い男だった。多少無理をしても、頼まれた仕事は必ず完遂し、やりとげる事では定評があったのだが、今回自分の見落としで新たな犠牲者が出たことに、少なからず動揺していた。
 彼は昼夜問わずに船に乗り込み、倒し損ねた船幽霊の姿を求めて水辺や海岸付近の海に漕ぎ出したのだ。

 が、どんなに探したところで、それらしいアヤカシは見つからない。否、轟現を避けているかのように、アヤカシそのものが姿を見せなかったのだ。
 轟現は、昼夜を問わずにアヤカシを、船幽霊の姿を探した。時折、小型の水棲アヤカシを‥‥貪魚の小さな群れや、1〜2体の土左衛門に遭遇し、それを倒したが、それらが原因とは思えなかった。
 それらは確かに危険ではあったが、少なくとも人が行方不明になるほどのものではなかった。貪魚の群れにしても、十匹程度。土左衛門も一度に二人、多くて三人以上は出てこなかった。
「なぜ、なぜだ?」
 轟現は、アヤカシと交戦し、これを倒すたびに疑問に思っていた。ひょっとしたら、船幽霊ではないのか?

「隊長、今日はそろそろ引き上げましょう」
 海岸にて。
 部下の頼無が、轟現へと言葉をかけた。周囲を見ると、じきに日が暮れる。
「だめだ」頼無の予想通り、轟現は返答した。
「俺の見落としのせいで、船幽霊をしとめ損ねたため、新たな犠牲者が出てしまったんだ。そんな事は二度と起こしてはならん。そう、二度とな」
「けど隊長、俺もあの時一緒にいましたけど、確実にあいつらはやっつけたじゃないですか。きっと別のアヤカシか、あるいは別の船幽霊が出たに違いないですよ。隊長に責任はありませんって」
「いいや。俺の仕事は、この周辺の人々の安全を守ることだ。仮に、あのアヤカシは倒せたとしても、犠牲者が出た事には変わらない。ならば、直接ではなくとも俺の責任である事には変わらん」
「でもここ数日、まともに眠ってないんでしょう?」
「この仕事が終われば、その分眠るさ。お前は戻ってもいいぞ。お前は十分働いた、今日は戻って休め」
 これだ。まるで死に急ぐように、危険な状況に自らを追い込んでいる。
 この間も、鎧鬼が出現した時に一人で立ち向かい、そして倒した事もあった。一体、何のためにそこまでするのか。
「‥‥わかりました、それじゃあ」
 頼無は、小船で海に漕ぎ出そうとする轟現に返答した。

 そして次の日の朝。轟現がいまだ戻ってこなかった事を彼は知った。

「で、俺の依頼なんですが。どうか轟現隊長を探し出し、もし生きていたら助け出して欲しいんです」
 頼無は、君達に対して依頼内容を話していた。
 轟現は、一日経っても戻ってこなかったのだ。それどころか、アヤカシの被害も止まっていない。
 そして頼無が取り出したのは、簡単に海岸付近を描いた絵図面。ところどころに、印が付けられている。
「これは、隊長が船幽霊と戦った場所と、その周辺を記したものです。で、この印は、船幽霊を退治したあとに、漁師や船が襲われたと思われる場所です」
 本当に、轟現は船幽霊を倒したのかという質問には、頼無は力強く頷いた。
「もちろんでさ。俺もその場所にいましたが、確かに倒したところは見ました」
 それによると、確かに轟現は船幽霊と戦い、止めをさしていたという。もっとも、船幽霊は複数出現し、そのうちの一体は致命傷を与えたのみで霧散するところまでは見なかったのだが。
「でも、腕を切り落とし、胴体をほとんど真っ二つにするまで切りつけたんですよ。水中に没して見えなくなりましたが、あれは確実に死んでいると思って間違いないです」
 しかし、だとしたら船幽霊が出た後に出現したアヤカシは何なのか?
「わかりません。けど、おそらく隊長が倒したのとは違うアヤカシじゃないかと思うんですが。土左衛門や貪魚なら何度か出くわしましたけど、一〜二体程度でした」
 遭遇して生き残ったわずかな人間からも、証言を得ていた。それによると、水中からいきなり手が出てきて引きずり込んだり、何か話しかけられて返答すると幻を見たり‥‥といったものらしい。
「封陣院の方でも、いろいろと調査してはいるみたいなんですが‥‥どうにも分からないそうで」
 船幽霊とは違うのか、あるいは船幽霊以外の何か、たとえば土左衛門や貪魚が原因なのか?
「ともかく、隊長の生死だけでもはっきりとさせたく思います。どうか、よろしくお願いします」


■参加者一覧
澄野・歌奏(ia0810
15歳・女・巫
ラフィーク(ia0944
31歳・男・泰
鳴海 風斎(ia1166
24歳・男・サ
セシル・ディフィール(ia9368
20歳・女・陰
日御碕・かがり(ia9519
18歳・女・志
盾男(ib1622
23歳・男・サ


■リプレイ本文

 矛陣の海岸。
 その一角には、岩場が多く存在し、そこから海を臨むと岩で出来た小さな島が点在しているのが見える。
 そのほとんどは、鳥や海の生き物の巣になっている。また、貝などの海産物が採れるので、漁師たちが小船を駆っては素潜りで採取する様子もよく見られた。
 が、今となっては漁師の姿は見られない。なぜなら件のアヤカシにより、漁に出る者がいなくなってしまったのだ。近場の釣り好きな者たちも、最近では釣り糸を垂らそうとはしない。
「まあ、でかい船ならともかく。漁師の船や、小さめの船はちょっと危ないんでね。ここ最近ではまったく漁をしなくなった次第さ。まったく、こんな時にいなくなるとは、轟現隊長もいいご身分だよ」
 慇懃な態度を消そうともせず、彼女‥‥警邏隊の副隊長、そして現在の隊長代理である女性、座羅は、面白くなさそうな口調で言った。浅黒い肌に、たくましい体つき。並み以上の男でも、彼女の前では屈してしまいそうな印象を受ける。
「ともかく、あんたたちには面倒な事が起こる前に、とっとと探し出してもらいたい。そのためには協力は惜しまないから、何でも言ってくれ。私は封陣院の人と打ち合わせがあるから、ちょっと失礼する。頼無、あとは頼むよ」
 言いたい事を言いまくると、座羅はそのまま去っていった
「ま、そういうわけなんで。‥‥ああ、隊長代理のことは悪く思わんで下さい。ちょいと態度は悪いですが、悪人ってわけじゃあないんで。それで、ええと‥‥」
「ああ、そういえば紹介が遅れたねっ! あたしは澄野・歌奏(ia0810)、よろしくねっ」
 巫女の装束に身を包んだ黒髪の少女が、素直そうな口調で元気良く挨拶をした。それに釣られるように、他の五人も自己紹介をしていく。
「ラフィーク(ia0944)だ。よろしく頼む」
 金の髪と瞳を持つジルベリア人は、秦拳士だという。見るからに実直かつ頑強そうで、頼りがいがありそうだと頼無は思った。
「鳴海 風斎(ia1166)、まあ大した事はできないだろうが、ひとつよろしく」
 槍を手にしたサムライは、口調にどこか卑屈な響きを含ませつつ挨拶する。
「私はセシル・ディフィール(ia9368)。それで、海図や襲ったアヤカシの証言など、確認したい事が色々とあるのだけど、いいかしら?」
 陰陽師の女性は、やはりラフィークと同じジルベリア人。
「はいはい、もちろんですとも。何でも聞いてくださいな」頼無は請合った。こんな美人と話せるなら、なんだって話しますとも。
「あたしは、志士の日御碕・かがり(ia9519)と申します。それでは早速、よろしくお願いしますね」
 礼儀正しく、少女は会釈した。
「ミーは、盾男(ib1622)。まあ精々がんばるアルね」
 こちらは、態度が良いとは言いがたい。それどころか、服装も色々な国の特徴が混ざり、奇妙な印象を与えている。
「はあ。それじゃあ皆さん、こちらへ」
 六人の開拓者達を連れ添い、頼無は警邏隊の建物へと案内した。

「奇妙ね」
 何度目かの疑問を、セシルは口にした。
 警邏隊の、宿舎。その一室。大きな机を囲み、開拓者達は手がかりの書類を前に悩んでいた。
 かがりもまた同じく、疑問符が頭に浮かび離れない。
「どうも‥‥なんていうか、整合性が無いですね」
「セシルさん、かがりさん、どこがおかしいですかっ?」
 歌奏の問いかけに、セシルが一枚の書付を取り上げた。
「これは、襲われた人たちの証言を集めたものだけど‥‥襲った相手がどんなものなのか、共通するものが無いのよ」
 確かに。あるものは海中から多数の手が伸びてきた、あるものは幽霊のように海上を漂い近づいてきた、別のものは大岩から這い出てきた人間みたいな姿、または空中を漂ってくるいびつな鳥みたいな形‥‥。
「少なくとも出没するアヤカシは、一種類のみではなかろう。二種類、あるいはそれ以上の複数のアヤカシの仕業なのかもしれんな」そこから何かを読み取ろうと、ラフィークは書類へと鋭い視線を向けていた。
「へっへっへ、まあなんだっていいですな。その分戦えそうで、楽しみではありますよ」
 ぺろりと、鳴海は唇を舐める。
「‥‥まあそれはおいておくとして、その隊長についての情報はどうアルかね?」
「ああ、それなら座羅さんが用意してくれたわ」
 盾男の言葉に、セシルは別の書類何枚かを手に取った。
「こちらが、轟現さんの似顔絵。背景に関しては‥‥あまり書かれて無いわね。ここに来る以前は、何か傭兵みたいな事をしていたらしい‥‥とはあるけど」
 ひげ面の、粗暴な印象を与える人相だった。傭兵というより、どこかの山賊団の頭のようにも見える。
「ふむ‥‥」
 どこか、ラフィークは引っかかった。何かがありそうな気がするが、それが何なのか。
「ともかく、この地図によると。アヤカシが最も出現しているのは、あの岩礁の周辺海域。あの辺りを船で漕ぎ出し、探してみるとしよう」
 ラフィークの言葉に、一同はうなずいた。

 次の日。
 警邏隊から借り受けた船の持ち主は、この事件のアヤカシにより殺された漁師。それは、六人を乗せても十分に余裕があるほど、大きく頑丈なつくりをしている。
 漕ぎつつ、ラフィークは海原を見つめていた。この海のどこに、アヤカシが潜んでいるというのだろう。
 今、船は岩礁が多くある海域を進んでいた。とりたてて何も感じず、何も見えない。波も穏やかで、見るからに平和そう、平穏そうな光景が、目の前には広がっていた。‥‥この海の下に、恐るべきアヤカシの群れが潜んでいるなどと思わないくらいに。
 昼過ぎあたり、船は岩礁が多くある場所に差し掛かっていた。黒々とした岩が屹立する様は、まるで海から怪物の群れが立ち上がっているかのよう。
 このあたりは、狭いところになると船底を岩がこすってしまい穴を開けてしまうことから、船はあまり近づかないとの事だった。
 轟現が最後に見回っていただろう場所から計測するに、もしも船が転覆したり、船の乗員がおぼれたりした場合。潮の流れの関係から、この辺りに流されるだろうという事も確認してある。
「ならば、ここを探れば手がかりがつかめるかもしれん」
 ラフィークがそれを考えていた、その時。
「‥‥来ますっ!」
 瘴索結界をかけていた歌奏が、その存在を感じ取った。
「数は?」
「四つ‥‥いいえ、五つ! あの岩礁から近づいてきます!」
 見ると確かに、そこには水中に潜む黒い影が。それは徐々に水面に近づき、その黒っぽい身体を露にしつつあった。
「‥‥見えました! アヤカシが五つ、水の中から泳いで近づいてきます!」
 心眼を用いたかがりも、その存在を察知する。そして、歌奏とかがりにその存在を感知されたそれらは、もはや水面を泡立てて存在そのものを知らしめるかのように、水上近くへと浮上していた。
「あれか?」
 それを確かめる暇は無い。そいつは、水中からおぞましい手を、そして醜い頭部を、腐りかけた上半身をさらす。
 全員が、そいつを見て、全員が、それに備え立ち上がり構えた!

「‥‥!」
 最初の攻撃は、鳴海による弓「水姫」による射撃。放たれた矢がそいつの頭部に突き刺さり、引導を渡した。
 腐った身体より漂う濁った血液が流れ出し、悪臭とともに海水を濁らせた。再び水中に没したアヤカシは、そのまま沈み、浮かんでこない。水中で、霧散し消滅したのだろう。
「はっ!」
 セシルも白弓で、ラフィークも弩「火牛」で海面めがけて掃射する。腐りかけた人体が波間に漂うかのごとき「それ」は、潮の香りに腐臭をもって汚染しているかのよう。数本の矢が突き刺さり、二体目のアヤカシが海中へと没した。
「これが、今回の事件の犯人? ‥‥はっ!?」
 アヤカシ‥‥土座衛門。そいつらがまた、別の方向から迫ってくるのを見て、歌奏は戦慄した。
 船の反対側、そこから手をかけて這い上がろうとする二体の土座衛門。だが、かがりと盾男がそれに対して立ち向かった。
「はっ!」
 かがりの、志士の美少女が携える武器は、木刀「安雲」。聖なる加護が授けられた木刀の一撃を受けて、三体目の土座衛門の額が割れた。そして、その隣の四体目の土座衛門には、盾男が迎え撃つ。
 腕に取り付けた盾、ガード。それを巧みに操った彼は、船上に這い上がった土座衛門の鼻面に強烈な一撃をたたきつけた。そして、それもまた海中へと没し、見えなくなる。
「来るなら、来てもらいましょう‥‥かっ!」
 鳴海は「水姫」の矢を再び放ち、五体目の土座衛門の眉間を射抜く。ごぼごぼいう音とともに、最後の土座衛門もまた、地獄へと送り返され、果てた。
「ふう、中々大変だったアルネー」
「待って、まだ何かが居る!」
 盾男の言葉をさえぎり、かがりが視線を回りに向けた。
「‥‥いない?」
「おい、そいつはどこにいる?」
 ラフィークが、弩を構えてあたりを見回す。が、かがりの言葉が示す「何か」は見当たらない。
「あそこです、あの岩礁の近く!」
 が、かがりが指し示した先には。岩礁と、数名の人の姿と、一そうの船。そして、それに襲いかかるアヤカシの姿があった。

 焦る気持ちとも戦いつつ、開拓者達は襲われている者たちの元へと急ぐ。襲われているのは、警邏隊と思われる者たちと、一般市民らしき数名。そして襲っているのは、アヤカシ。
 幽霊のように見えるものが三体、そして、黒い不定形ななにかが四体。後者はいびつだが鳥めいた姿へと己を変化させると、空に飛び立ち‥‥開拓者達へと強襲した!
「来るか! 来い!」
 ラフィークが火牛を構え、撃つ。それとともに、鳴海の水姫、セシルの白弓の矢が、黒いそれ‥‥アヤカシ、雲骸を貫く。
 四体のうち、二体が斃れ滅した。だが、二体がその攻撃をかわし船上へと迫る。
「きゃあっ!」
 歌奏は咄嗟に、その攻撃を紙一重でかわした。月歩がなければ一撃を食らっていたことだろう。
「歌奏さん! いま助けます!」
 かがりが、安雲の刀身に炎をまとわせつつ、雲骸へと切りかかった!
「炎魂縛武!」
 炎の剣と化した木刀が、雲骸へと振り下ろされる。赤き炎が、黒き邪悪を打ち据え、叩きのめした。
「ふんっ!」
 もう一体には、ラフィークが迎撃にあたっていた。ラフィークの身体から、湯気のように気が立ち上っている。
 接近戦に持ち込んだラフィークは、両拳を握り締め、雲骸へとたたきつけた。まるで苦痛にうめくかのように、そいつはゆらりと揺れる。
「往生、してもらいましょう!」
 払い抜けで己の攻撃力を高めた鳴海が、ラフィークに続きその雲外へととどめの一撃を放つ。鋭い槍、双戟槍の穂先をアヤカシへ突き刺し薙ぐと、それは断末魔のごとく身体を震わせ、消滅した。
 やがて、岩礁へとたどり着く。彼らはすぐに、行動に移った。
「呪縛符!」
 セシルが式を放つ。彼女が放った式は、アヤカシへと絡みつき、動けなくした。
「斬撃符!」
 とどめの一撃を放ち、そのアヤカシもまた消滅した。
 残る二体が襲い掛かるも、それら‥‥船幽霊は、開拓者達にとっては敵ではなかった。

「それで、なぜお前達は、あのような場所にいたのだ?」
 助け出した後、開拓者たちは彼らに質問していた。ラフィークが質問したところ、頭の漁師は疲れきった口調でそれに答えた。
「なぜもなにも、このあたりは俺たちの漁場だからだよ。最近アヤカシが出るからって、商売上がったりなんだけどよ、この岩礁の貝や海草を採るくらいなら大丈夫かと思ったら‥‥」
 あのアヤカシが現れ、襲われたということだ。
「あれ? ラフィークさん、これを」
 調べていたかがりと歌奏に呼び止められ、ラフィークは二人の元へと向かう。そこには、穴があった。
「自然に出来た、小さめの洞穴みたいなものと思いますけど‥‥」
 セシルの言葉どおり、侵食した跡が見られる。が、奥からは強い腐臭が漂い出てきて、吐き気をもよおさせた。
 だが、そこは人の手が加えられているのは間違いない。なぜなら‥‥。
 その洞穴の入り口には、扉が付けられていたからだ。石を貼り付けたり、コケを生やしたりしてはいたが、それは明らかに人造の扉だった。
「‥‥なんだか、人の目から隠そうとしてるみたいアルね」
 盾男が、それを見て呟いた。確かにそれは、偽装されているように見えた。

「本当か、それは」
 警邏隊の、副隊長室。そこで、隊長代理・座羅を前にし開拓者達は今回の報告を行っていた。
「はい。結論から申し上げますと、あの中には‥‥死体が積まれていました」
 セシルが、忘れたいことを思い出しつつ言った。
「‥‥つまり、こういう事か? お主らは、アヤカシが出て退治はしたが、岩礁に、扉が付いた洞穴を発見した。そして、それを開けて中に入ったら、死体の山がそこにあったと」
 開拓者たちから一通りの説明を受けて、座羅がその内容をまとめ言った。
「その‥‥それでですね、その死体の中には、轟現隊長さんの姿はありませんでした。ただ、ちょっと気になるものが」
 かがりが、おずおずと申し出る。
「気になるもの?」
「はい、これです」
 かがりは、自らが携えていたそれを、座羅へと渡した。
「書付なんですけど、それにはこう書かれていました。『轟現は、別の場所に移す。あの悪党には、もっと苦しみぬいてから死なせるべきだ』とね」
「つまり‥‥轟現隊長は既に誰かに助けられたが、拉致されてどこかに軟禁されている‥‥という事か?」
 座羅が質問を口にして、開拓者達はそれに頷いた。
「ああっと、それからもう一つ。『土座衛門をもっと増やせないか。材料はこの通り集まっているのに』といった記述もありましたね」
 鳴海が付け加える。が、それを聞いて座羅はさらに混乱するかのように、考え込み突っ伏した。
「‥‥わからん。なぜ轟現隊長を拉致したのか。というか、復讐ならばすぐに殺す方が手っ取り早いだろうに、どうしてわざわざこんな手の込んだことを。‥‥土座衛門を増やす、というのも気になるな」
 しばらく考え、そして座羅は顔を上げた。
「いいだろう、この事件はどうやら裏がありそうだ。おそらくまた、仕事を頼むことになるかと思う。その時には、またよろしく頼みたい」
 そう言って、彼女は頭を下げた。
 この事件は、ただの行方不明人捜索や、アヤカシ退治とは異なる何かがある。開拓者達もまた、それに気づき始めていた。
 そして、皆が思っていた。次には、この事件を解決してみせる。どこかに居る隊長さんを、助けてみせると。