とある決闘の物語
マスター名:東雲八雲
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/25 19:22



■オープニング本文

「面白うない!そんなことでは我は満足できん!」
 声を張り上げるのはとある有力な組の頭だ。
「もっと血肉沸き踊るような物出なければならぬ!」
 旅芸人などを金に物を言わせて連れ込むが不満を募らせるばかりだった。
「困ったぞ。お頭があれではいずれ組の資金が底を尽くぞ‥‥」
「全くだ。この分だとあと3回も呼べば生活費すら切り詰めねばならんな」
 影で頭への不満の声は少なからずあった。もちろん組の資金への心配も募らせる者も多かった。
「次こそは我を満足させてくれるのだ?」
 お頭の一言に空気は凍りついた。いつものことだがさすがに限界だ。
「で、ではお頭。次は開拓者に1つ依頼してみるのはいかかでしょう?」
 1人が恐る恐る提案した。強張るのはここでお頭に却下されると、お頭の機嫌を損ねて組の中で出世できなくなるという噂まであるからである。
「ふむ‥‥面白い。開拓者同士の戦いを見せてもらうのも一興やもしれぬ。御前試合とやらもやっていると聞く。引き受けてもらえるだろう」
「ではお頭?」
「うむ。依頼してくるといい。精々我を満足させてくれよ」
「分かりました。ではいって参ります」
 その男は礼をすると開拓者ギルドへ向けて歩を進めた。

「すまない。開拓者ギルドの受付はこちらだろうか?」
 たまたま受付の近くを通った有川信武に男は訊ねた。
「なんだ?客か。受付なら向こうだ」
 信武は受付の方を指差すが、そこは無人だった。
「席を外しているのか‥‥仕方ない俺が伝えてやる。用件はなんだ?」
 信武は受付代理することになり、男は用件を全て話した。

「なるほど、全く珍しい依頼だな‥‥まあ、いいだろう。俺がその試合の審判をしてやる」
「引き受けてくれて、ありがとうございます」
 男は一礼し去ろうとした。
「まあ、珍しいものが見れそうだからな。だが、この依頼を受けるかは開拓者次第だから安心するのはまだ早いぞ」
 信武がそう言い小さく手を振ると、男は小さく手を振り返し去っていった。


■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
太刀花(ia6079
25歳・男・サ
藍 舞(ia6207
13歳・女・吟
雲母(ia6295
20歳・女・陰
からす(ia6525
13歳・女・弓
趙 彩虹(ia8292
21歳・女・泰
久我・御言(ia8629
24歳・男・砂
キァンシ・フォン(ia9060
26歳・女・泰


■リプレイ本文

●開幕
「待っておったぞ。開拓者の諸君」
 10人の開拓者が到着すると組の頭は待ち遠しそうな顔で迎え入れた。そして、すぐに舞台へと案内した。
 舞台は本当に広いだけの空間で戦闘の邪魔になるものは一切なかった。互いに地の利は得られないということだ。ちなみに舞台にはきちんと観客席が設けられてあり、観客はそちらに入るようになっているようだった。
 しばらくすると、観客が集まってきた。組の関係者が殆どだが、一部一般客も入っているようだった。珍しいもの見たさからか意外にも客数は多かった。
「さて、そろそろ試合を開始するぞ」
 審判である信武が開始を宣言した。

●決闘
―――先鋒戦
 チーム1の先鋒は泰拳士のキァンシ・フォン(ia9060)と忍犬の簡福。
 チーム2の先鋒はシノビの藍 舞(ia6207)と土偶ゴーレムの獅猩。

「よろしくお願いします」
 キャンシはおっとりとした口調で告げた。
「見せたげる。うちはこの黄巾を脱いだ時の方が圧倒的に強いという事を――!」
 舞はおもり仕込んだ外套脱ぎ捨てながらそう告げた。直後、ドサッと見た目以上の重量感のある音は響いた。

 両者中央からの開戦だ。開戦の直後に水遁の水柱がキャンシを襲った。同時に獅猩に簡福のクロウが炸裂するが、獅猩は頑強で殆ど傷を負わせることはできないが、同時に舞の援護に回ることもできない様子だ。
 舞は水遁で動きが鈍っているキャシンに飛苦無を止め処なく投擲した。しかしキャシンは紙一重で回避しながら間合いを詰め泰練気法・壱で覚醒状態になり旋風脚で攻め込んだ。舞は木葉隠で直撃の回避を試みたが、回避しきれず受け続けることになった。
「くっ!‥‥限界かっ!!」
 と、舞はいい圧されていった。それでも舞は出来るだけ回避を続けて後ろへ下がりながら水遁と投擲を繰り返した。
 獅猩が隙を見て簡福から逃れ、キャンシを目指し飛び上がった。
 その瞬間、キャンシに水遁が命中したが、同時に投擲された飛苦無を紙一重に回避した。しかし、その瞬間、獅猩の踏みつけが炸裂した。キャシンはそれでも背拳でギリギリのところで対応し回避したが、掠めて転倒した。
 舞は早駆で間合いを詰め、キャシンの足を掴むと場外を目指して放り投げた。簡福が阻止しようと向かうが、獅猩が道を遮断したため間に合うことはなかった。キャシンは華麗に着地を決めたが、そこは舞台の上ではなかった。
「キャシン・フォンの場外だ。よって勝者はチーム1の藍舞だ」
 信武が勝敗を判定した。
「まずは一勝。脇役としては盛り上がりも上々、かな?」
 舞は歓声に応えながらチームの待機している席に向かった。
「残念です」
 キャシンはチームの待機している席に向かっていった。

―――次鋒戦
 チーム1の次鋒は志士の久我・御言(ia8629)。
 チーム2の次鋒はサムライの太刀花(ia6079)と忍犬の現八。

 御言は炎龍の秋葉を連れてきてはいるが、試合の制限のため秋葉は戦闘に参加できなかった。
「宜しく頼む」
 と御言は礼をした。
「お互い全力を尽くそう」
 と太刀花は礼をした後、眼鏡をクイッと動かした。

 開始の合図と共に御言は物見槍に炎魂縛武で火を灯し、フェイントを合わせて現八を狙った。現八は火の灯った物見槍を受け止め、後方へ回り込んだ。そして、現八は方向を一瞬のうちに変え、御言に向かって駆け出した。御言は太刀花に物見槍でフェイントを含んだ突きを放つが、大斧「白虎」で受け止めた。そしてその力を乗せて太刀花は大斧「白虎」を豪快に振るった。なんとか御言は物見槍で受け止めたが、後方からは現八がわふという鳴き声と共に向かってきた。2方向からの攻撃は受け止める術がなく体勢を崩したが、物見槍をおもむろに振るい、太刀花の足を払いにかかった。
 太刀花にとっていきなりの攻撃で受け止めることも回避することもできず両足に直撃し転倒した。そこに御言の物見槍が太刀花を襲った。それを現八が身を挺して受け止めるが当たり所が悪く即退場となった。現八は即座に場外で治療を受けていた。
「現八。助かりましたよ」
 太刀花は現八にそういいながら大斧「白虎」で両断剣を放った。御言は反応しきれずほぼ完全に一撃が決まり、少しの間宙を舞っていた。気絶しながら。
「勝負ありだ。太刀花の勝ちでこれで振り出しだな」
 と判定。
「後は任せましたよ」
 太刀花は眼鏡の位置を直し、席へ戻った。

―――中堅戦
 チーム1の中堅は志士の九法 慧介(ia2194)と鬼火玉の燎幻。
 チーム2の中堅は泰拳士の趙 彩虹(ia8292)と猫又の茉莉花。

「んじゃ、そろそろ覚悟決めて行こうぜ燎幻。久々に全開だ」
 慧介は燎幻と言葉を交わしてから死神の鎌を携えて舞台に上がった。
「泰拳士の趙彩虹です、よろしくお手合わせ願います」
 彩虹は抱拳礼した。
「あたし茉莉花。よろしくぅ」
 茉莉花も続いて挨拶した。
 そこに、
「さいぽん!今こそ『とらのお姉さん』と呼ばれた貴女の強さと愛らしさを魅せる時よ!」
 と、舞の応援が一際目立って聞こえた。

 開始位置は慧介はやや中央、彩虹はやや下がった位置だ。燎幻は慧介の隣に、茉莉花は彩虹の後方に構えた。
 開始の合図と同時に彩虹が走りこんだ。慧介は牽制しながら正面から迎え撃った。
 燎幻は左右に移動し、茉莉花の鎌鼬を放ち互いに牽制しあった。燎幻が角突進を隙を見て時折放つが、茉莉花は回避し、距離を置いた。この繰り返しでパートナー同士の戦いはほぼ膠着状態だ。
 彩虹はわずかの俊敏さを生かし、先手に出た。疾風脚を放った。慧介はなんとか捌き直撃を回避し、そこから巌流で反撃をするが、彩虹の身のこなしは軽く当たらず、布を纏った死神の鎌は空を切った。その隙に彩虹は正拳突を放った。慧介は瞬時に回避できないと判断し、直撃に合わし後方へ弾けるように飛んだ。最小限に当たりを抑えたが、転倒してしまった。それを好機とみた彩虹は、
「必殺疾風!と・ら・ぱーんち!」
 と叫び、泰練気法・壱で覚醒状態になり、全力の疾風脚と正拳突を流れるように打ち込んだ。慧介は起き上がることができず、死神の鎌の柄で受け止めるが上手く受け止めることが出来ず続けざまに受けることになった。
 茉莉花は追撃しようと思った瞬間、燎幻の角突進を受けてその期を失うこととなった。
 慧介は正拳突の勢いに乗り、飛ぶように立ち上がった。そして、精霊剣を発動し、彩虹に一撃を入れた。更に彩虹が怯んだ隙にもう1度青白い精霊剣の刃で薙いだ。ように見えたその瞬間、泰練気法・壱で覚醒状態になった彩虹の正拳突が慧介の鳩尾に入り、慧介は倒れていた。
「勝負ありだな。これでチーム2の2勝だ」
 慧介は立ち上がり、
「あー、楽しかった!」
 と笑顔で燎幻を労いながら席に戻っていった。
 彩虹は謙虚な姿勢で抱拳礼をし戻っていった。

―――副将戦
 チーム1の副将は弓術士のからす(ia6525)と土偶ゴーレムの地衝。
 チーム2の副将は弓術士の雲母(ia6295)と土偶ゴーレムのマスター。

「お手柔らかにお願いするよ」
 挨拶すると、雲母からできるだけ距離を取るべく一番隅に移動した。
「さぁ、楽しませておくれ」
 雲母は強気の笑みをこぼした。

「命ず、私を『護れ』」
 と、からすは地衝に命じた。地衝はからすの前に立ち刀を構えた。
 雲母の前にマスターが自ずと立っていた。
 完全に陣形は両者同じだった。
 そして、開始の合図と共に両者、射を開始した。止め処なく放たれるからすと雲母の矢は、硬質化した両者の土偶ゴーレムが次々弾いていった。
「将を射んとすればまず馬を射よ、という」
 からすの狙いは始めから雲母ではなく、マスターの方だった。影撃でマスターを狙い打った。が、その瞬間、瞬速の矢がからすに命中した。
「楽しいなぁ‥‥とても楽しいなぁ」
 余裕の笑みを見せながら、からすが出て来れないように容赦なく射を繰り返した。しかし次第に、射の数が減ってきた。練力の底が見えつつあるようだ。
 からすはそれを好機と感じ、影撃でマスターを行動不能にした。
 いつの間にか雲母の表情からは笑みが消え、紅く光る眼差しを向けていた。そしていつも銜えていた煙管をいつの間にか仕舞っていた。
 からすは雲母を狙い射を開始しようと構えるが、
「さぁ、舞の時間だしっかり避けてくれよ?」
 と、射を繰り返した。盾がなくなるということは自分の攻撃を遮るものもなくなるということだ。盾に隠れながら射を行なうより効率がいいのだ。
 からすは地衝の背から出ると影撃を放った。雲母は回避する素振りも見せず受け止めた。攻撃に徹し守りを捨てているようだった。雲母の射の前に地衝がからすを隠すように立ち回った。そうしてからすは雲母の回りを回るように射を繰り返した。その間、雲母の射が収まることはなかった。自分を軸とし外側へ薙ぐように射を繰り返しているのだ。つまり、移動をしながら射を繰り広げるからすより、常に先手を打てるということになるのだ。
 しかし、雲母の射は地衝に防がれからすに届く数は思うほど多くはなかった。それでも、からすを狙う射を受け続けることで地衝も行動不能となった。
 地衝が行動不能となった瞬間、からすの影撃が雲母を射抜いた。
「勝負あり。大将戦に委ねられたな」
 雲母は、負けはしたが実に楽しかったぞと、尊大な態度で踵を返した。
 からすは、ありがとうございましたと、一礼し戻っていった。

―――大将戦
 チーム1の大将は陰陽師の犬神・彼方(ia0218)と忍犬の黒曜。
 チーム2の大将はサムライのルオウ(ia2445)と猫又の雪。

「なんともまぁ強い奴が‥‥油断ならねぇなぁ。気ぃ引き締めてぇいくぞ、黒曜!」
 チーム1の大将、彼方は黒曜を連れて颯爽と舞台へ上がった。
「俺はルオウだ。よろしくなっ!」
 チーム2の大将、ルオウは自分の調子を崩さないよういつもの調子でいた。
「へへっ…俺は彼方の姉ちゃんとか!おもしれえ、よろしくお願いするぜぃ!」
 ルオウは尊敬している彼方の胸を借りるつもりで挑むと内心考えているが、戦うからには勝つという表情をしていた。

 2人の開始位置は中央で互いに少し距離を置いてある。とはいっても数歩で届く距離だった。
 開始の合図とともにルオウは隼人で加速し、払い抜けを放った。それを彼方は長槍「羅漢」で受け止めた。
 その間に黒曜は雪を目指してダッシュからクロウで仕掛けた。雪も反撃したが、次の瞬間ルオウの一撃を止めた彼方は砕魂符を放ち早々に雪を行動不能にした。
 ルオウは雪が行動不能になったことを残念に思ったが、それで手を緩めるわけにはいかなかった。ルオウの猛攻は彼方を襲った。彼方は長槍「羅漢」で的確に対応するが、やはり軽い身のこなしで次々攻撃を放つルオウを止めることは出来ても距離を離すのは至難の業だった。しかし、彼方は至近距離での戦闘に長けているとは言え、陰陽師だ。呪縛符を放ちルオウの動きを制限し、砕魂符を放った。ルオウは何とか耐えたが防御を貫通し、魂に直接攻撃を仕掛ける術は堪えるようだった。
 ルオウは耐えると即座に間を詰めた。その間、攻撃を仕掛けた黒曜を一撃の下に行動不能にした。もちろん、それでルオウの猛進は止まることはなかった。術を使わせまいと間合いを詰め連続で攻撃を仕掛けた。
 彼方は猛進から離脱することは叶わなかった。霊青打で応戦したが、あくまで牽制だ。そして隙が出来れば呪縛符で動きを封じ、砕魂符の一撃を決めていった。
 負けじとルオウの払い抜けを放つが破壊力に欠けた。手数を優先することで防御に徹する彼方を突破するは出来なかったが、それは百も承知。通じないのであれば数を重ねて強引に隙を作った。繰り返し放たれる攻撃に彼方の対応がやや遅れたのだ。
 ルオウの両断剣が彼方に通じたのだ。その隙に付け入りルオウは連続で攻撃を入れていった。
 彼方には焦りが生じたが、猛攻に徹していたルオウが刀を引くわずかな瞬間に呪縛符を放った。それは殆ど賭けのようなものだったが、成功したのだ。そして続けざまに砕魂符を放った。
「勝負ありだな。よってチーム1の勝利だ」
 信武がそう告げた。
 歓声が沸きあがった。
 ただただ歓声が沸きあがった。
 もとより模擬戦だ。勝敗なんて関係はないのだ。頭さえ満足すればよかったのだ。それは今達せられたようだった。

●事後談
 報酬とは別でお礼がしたいと組員が、素晴らしい試合を披露した開拓者10名と審判を務めた開拓者ギルド職員1名を、食事に招待したのだ。もちろん怪我をした開拓者とそのパートナーの治療は済んでいる。
 食事というより宴会のようなものだったがそれぞれは十分に楽しんだようだった。
 そして明け方、いずれまた見たいと組の頭と組員たちは開拓者たちを見送ったのだった。




      了