とある噂からの物語
マスター名:東雲八雲
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/01 21:21



■オープニング本文

●噂
 とある集落に1つの噂が流れた。
『行方不明だった青年が最近廃村で暮らしている』
 といった内容だった。
 そもそもこの集落はもともと今は魔の森に侵食された場所に住まう人たちだった。その中に行方不明になった青年がいたのだ。彼が行方不明になったことで、急いで開拓者の護衛の下、避難してきたのだ。そのため行方不明の青年が少なからず心残りだったのだ。
「まさか生きているはずはないだろう」
「でも、彼は志体持ちよ。もしかしたら生きてるかもしれないわ」
 と、意見は大きく2つに分かれていたが、大多数を占めるのは死亡している方だった。それでも出所も真偽も不明な噂だが、もし生きていたら救出したい、アヤカシに身体を奪われているのであればせめて解放してあげたい、という想いは非常に強かった。そこで以前集落の全員の避難をやってのけた開拓者なら青年も助けられるだろうということで、開拓者ギルドに依頼しようとなったが、
「だが、報酬はどうするんだ?」
「俺たちだけじゃ到底払えないぞ」
 そう、避難してきて間もないためあまりお金がなく、自分たちの生活でぎりぎりなのだ。
「少なくてもいいからみんなで出し合って集まった分だけで依頼するのがいいんじゃないか?」
 そして、塵も積もれば山となると言わんばかりに集まった。
「意外に集まったわね。これなら申し分ないわ。じゃあ私が依頼してくるわね」
 そういうと1人の女性が報酬を持って開拓者ギルドへ向かったのだった。

●開拓者ギルド
「‥‥依頼か?」
 ちょうど交代でやってきた無愛想な受付の男性が声をかけた。
「は、はい。うちの集落である噂があるのでその真偽を確かめて欲しいのです」
 女性は依頼の内容を告げた。
「噂‥‥どんな?」
 受付の男性は詳細を問うた。そして女性は噂の内容とそれに関する過去を話した。
「‥‥なるほど。わかった」
「ありがとうございます」
 女性は深々と礼をした。


■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
祁笙(ia0825
23歳・男・泰
鬼啼里 鎮璃(ia0871
18歳・男・志
剣桜花(ia1851
18歳・女・泰
水津(ia2177
17歳・女・ジ
隠神(ia5645
19歳・男・シ
かえで(ia7493
16歳・女・シ
鷹王(ia8885
27歳・男・シ


■リプレイ本文

 ―――不可解だった。ただ不可解だったのだ。
 ―――鬼に囲まれている状況が不可解だった。
 ―――青年の現状が不可解だったのだ。

 青年を助けに廃村までやってきたものの、そこに待ち受けていたのは開拓者を廃村ごと囲む鬼の群れと、その鬼を統括する青年―暁―だった。その青年こそ噂の青年だ。
 暁は完全に狂っているようにしか思えなかった。人の身でありながらアヤカシの群れを率いているのだ。
「暁は瘴索結界に反応しないですよ‥‥」
 水津(ia2177)は瘴索結界で青年を調べたが、紛れもない人間だったのだ。瘴索結界は瘴気から敵を探るというその性質上、魔の森に潜むアヤカシを索敵するのは難しいが目に見えるものを判断するには十分だった。結果に間違えはないだろう。
「嘘だろ?暁は完全にアヤカシに取り込まれているようにしか見えないぞ」
 樹邑 鴻(ia0483)はその結果と状況の食い違いに疑いを隠せなかった。
(「これは謀られたのやもしれんな」)
 先行し、木に登り隠れていた隠神(ia5645)は不吉な考えを胸に、確認の意を込めて首を切る仕草をし交戦回避不可を伝えるのと同時に、
「殺セ殺セ殺セ殺セ‥‥復讐ヲ果タスノダ‥‥」
 という声が暁の喉から発せられた。いや、声と言うには少しの疑問が残った。むしろ音と言うべきものであった。
 その音が発せられた次の瞬間、60体ほどいる小鬼、35体ほどいる鬼、5体ほどいる鉄甲鬼が殺意を剥き出しにして開拓者に襲い掛かった。
 囲まれている鴻、祁笙(ia0825)、鬼啼里 鎮璃(ia0871)、剣桜花(ia1851)、かえで(ia7493)は駆け出した。水津はもしもの時のために控えた。隠神と鷹王(ia8885)はシノビらしく援護をするため息を殺して状況を窺った。
 そうして、戦いは幕を開けた。


 時は遡り、出発して間もない頃だ。
(「まだ我らには気づいてないようだが、アヤカシがいるな」)
 隠神は合図を後方に知らせた。鴻は合図を返し回避していった。
 次はかえでから、その次は鷹王からと次々合図が送られ戦闘の回避を続けた。
「気づかれましたね」
 鎮璃は周囲を囲む10体の小鬼を確認すると、両手に持つ長槍はすぐさま小鬼の身体を貫いた。もちろん鴻と祁笙の拳、桜花の斧、水津の放つ浄炎も小鬼を次々霧散させていった。戦いは先行していたシノビが手を下すまでもなかった。小鬼は攻撃を仕掛ける間もなく次々倒れていったのだった。
「巫女が斧を持って戦っても当たるものなのですね‥‥」
 一旦戦いが終わり桜花は巫女の身でありがなら、斧でアヤカシを薙ぎ払った感触を確認していた。
 その後も何度か小鬼と遭遇はしたものの、開拓者からすると時間の無駄としか思えないほど戦力差は圧倒的だった。
 少し疑問が残った鬼の群れを出来るだけ回避していく道順は確実に、廃村に近づいていくものだった。開拓者が道を少し大きく回りすぎたときに限り小鬼の群れは現れ、道を修正していったのだ。まるでアヤカシが廃村に開拓者を呼び込んでいるかのようだった。しかし、開拓者は当然気づくことはなかった。もし気づいていても結果は同じことだったが。


 時は戦いの最中。
「これは限がないな」
 円月輪を補充しながら鷹王は呟いた。そして、補充を終えると即座に駆け出した。鉄甲鬼の相手をする前衛を援護すべく、円月輪を投擲した。狙いは腕や足だ。仕留めるのではなく、確実な援護を目的とした一撃は鉄甲鬼の狙いを狂わせ、致命的な隙を見せていた。そこへすかさず祁笙の拳が最も装甲の薄い腹部の鎧の継ぎ目を貫いた。
「まずは1体だ!」
 祁笙が振り向いた瞬間、4体の鬼が拳を振り上げて襲い掛かった。
(「まずい」)
 一瞬顔を歪めた瞬間、鴻の拳が1体を仕留め、かえでの刀がもう1体を仕留め、桜花の斧が更にもう1体を仕留めた。残り1体の鬼の攻撃を回避し、次の瞬間その鬼に目にも止まらぬ一撃を与え仕留めた。
「助かった。とは言えないようだな」
 いくら戦闘能力が開拓者が上だといっても100体にも及ぶ鬼の数は容赦がなかった。だが、圧倒的な開拓者の前では小鬼や鬼は一撃の下で立ち伏せられていた。敗走していく鬼の姿もあったが、開拓者の目には留まらなかった。
「さすがに弱いといえど数が多すぎですね」
 鎮璃が長槍で次々鬼を崩しているが囲いは崩れなかった。むしろ開拓者を追い詰めるかのように輪が小さくなってきていた。
「サッサト殺セ!無能ナ人間ナド滅ボスのダ!」
 暁は残り25体を切った鬼と残り2体の鉄甲鬼に向けて音を発した。すると鬼と鉄甲鬼は慎重さを欠かして一斉に襲い掛かった。
「これはまずいが、突破するしかないか」
 鴻は飄々とそう言うと、拳を強く握り締め鬼に向けて走り出した。そして鬼を次々殴り倒していった。
「全く無茶をしますね‥‥」
 水津は淡く輝くと周囲に光を開放した。その光に触れた開拓者は見る見るうちに傷が癒えていった。そして1体の鉄甲鬼を浄化の炎に包み焼き払った。
「ただ噂の確認に来ただけなのに大事になったね」
 かえでは苦笑しながら水柱で鉄甲鬼の感覚を鈍らせ斬撃を入れた。その瞬間、鉄甲鬼は無我夢中で棍棒をかえでに向かって振り下ろした。だが、軽い身のこなしで掠り傷に抑え、次の瞬間一瞬で鉄甲鬼の背後に回りこみ斬撃を入れた。隠神が鉄甲鬼の前に姿を現した。それに気を一瞬逸らしたのが鉄甲鬼の運の尽き、桜花の斧が鉄甲鬼の上半身と下半身を分断した。
 鴻と鎮璃は次々鬼を瘴気に返していった。とてつもない数だが徐々に壊滅していった。
「オノレ!オノレ!オノレ!オノレ!」
 暁は喉を壊すかのごとく音を発した。そして、禍々しい肉眼でも確認できそうなくらい濃密な瘴気を纏った鬼神の魔刀のようなものを構え開拓者に向けて駆け出した。
「暁は人間だったが、今や人間とは思えない状態だ。殺めてしまうのも仕方ないことだ」
 鴻はそう言うと全身の気を掌に集中させ、
「苦しまぬ様に逝け。それが、せめてもの情けだ――!」
 集中した気を全力で放った。狙いは暁―――否、暁の手にする鬼神の魔刀だった。
「ヨク気ガ付イタモノダ‥‥ソレハ賞賛ニ値スルガ、ソレモココマデダ。モトヨリ生カシテ返スツモリモナイ。コノ人形モ腐リ果テルマデ手放スワケニハイカヌ」
 暁はそう音を発すると本体である鬼神の魔刀を振りかざし向かってくるが、正体が知れている以上最早敵ではなかった。斬るのも自分だが受けるのも自分になってしまうアヤカシは開拓者にとってのいい的だった。
「ヤハリ知ラレテハ勝機ガナイヨウダナ」
 瘴気で模った矢を放つが、開拓者にとって意味を成さなかった。巫女である桜花もあっさり回避した。そして、水津の浄化の炎が鬼神の魔刀を燃やした。
「今回ハ勝チヲ譲ロウ」
 そう暁が音を発するとアヤカシである鬼神の魔刀を全力で森の深みへ投げた。そして、暁は息絶えたのであった。
「あのアヤカシに生かされていたんだな‥‥」
 鷹王はそう言うと暁の亡骸を見下ろした。
「仕方あるまい。亡骸でもあっただけましだ」
 隠神は暁の亡骸を抱え上げて背負った。
 開拓者は投げられたアヤカシの行方には気になるものがあったが、依頼の本筋は噂の真実を確かめることだったため、深追いは避けることにした。
 これ以上深追いをすると死者が出るかも知れないと思ったのかもしれなかった。


 帰りは実に単純だった。アヤカシは出ても行きと同じく小鬼の群れだ。数も廃村で戦ったほどではないため、あっさりと戦闘を済ませ最短の道を進んでいった。そのため戦闘数だけは行きよりもやや多かった。
 そして魔の森を抜け隠神は集落に亡骸を届けた。悲しむ人もいれば懺悔する人もいたようだった。それでも開拓者には感謝してくれていた。風の噂に1つの結果をもたらしてくれたのだから。

「あ、そういえば水津殿と一緒の依頼で胸ネタ口にしなかったのは初めてです」
 桜花は水津にこう告げことで全て終わった。

 噂は本当に風の噂で出所は最後まで掴めなかった。もしかしたらこれもアヤカシによる陰謀の一旦であったのかもしれないが、人間である限り知る由もないものだった。



    了