とある生存への物語
マスター名:東雲八雲
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 不明
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/04 16:47



■オープニング本文

●滅び行く集落
 ここは魔の森が小さな集落に迫り、冥越に呑み込まれようとしている小さな集落だ。その集落は理穴の端に位置しているため、急いで理穴の首都に向かおうとしていた。だが、その集落は森に隠れてはいるが、すでに近くに魔の森があり囲まれているのだ。
「この集落にあるグライダーはこれだけしかないぞ。どうやって全員避難するんだ?」
 グライダーを整備していた男がため息をついた。この集落にはグライダーは3機だけ、そして集落の住人は250人ほどだ。
 つまり、グライダーだけで行くのは無理があるのだ。
「開拓者に道を開いてもらうのはどうだろうか?徒歩でも魔の森を抜けるまでであれば、そう時間は掛からないだろう」
「そうだな。グライダーで依頼をに向かえば時間を短縮できるな」
 そもそもここまで集落の住人たちが切羽詰っているのには理由があった。魔の森付近に見張りに行った志体を持つ青年が、決められた時間を過ぎても一向に帰ってこないからである。そうして、生き延びる道を探したのだ。

●飛び行くグライダー
「それでは行ってくる」
 2人の青年がグライダーに依頼の報酬を乗せて飛び立った。1つの小さな集落の未来を賭けて。
「もっとたくさんグライダーがあればよかったのですが、今はこれしか方法がありませんね」
「ああ、そうだな」
 2人の青年はため息をつきながら理穴を目指した。
 短時間の飛行を終えると理穴に到着した。
「うぇっ‥‥気持ち悪ぃ‥‥」
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねぇ‥‥こ、これを渡すから開拓者ギルドへ向かってくれ。お、俺のことは気にするな‥‥」
 そう言うと1人の青年はぐったりと倒れた。
「あ、ああ」
 心配そうな顔をしていた青年は報酬を纏めて開拓者ギルドへ向かい駆けていったのだった。


■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
北条氏祗(ia0573
27歳・男・志
空(ia1704
33歳・男・砂
神無月 渚(ia3020
16歳・女・サ
佳乃(ia3103
22歳・女・巫
橘 楓子(ia4243
24歳・女・陰
各務原 義視(ia4917
19歳・男・陰
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰


■リプレイ本文

●開拓者出発
「大丈夫、ボクたちが住民をしっかり脱出させるよ‥‥絶対に。」
 と新咲 香澄(ia6036)が依頼をした青年に声をかけ出発した。
「村まぁでは、急がないとなぁ」
 犬神・彼方(ia0218)は呟いた。
「同感だ。アヤカシなんぞに時間をとられたくないところだ」
 北条氏祗(ia0573)を始め全員の気持ちは同じのようだった。一団となって村を目指して先を急いだ。その中でも帰りのことを考え空(ia1704)が、木に目印をつけていっていた。
 人間の匂いに釣られて来たのか小鬼の群れが開拓者に向かってきた。と、同時に神無月 渚(ia3020)は笑いながら向かっていった。続いて彼方、氏祗、空が走った。その後ろから弓で援護する各務原 義視(ia4917)と、術で援護する橘 楓子(ia4243)と香澄がいた。そして、周囲を警戒する佳乃(ia3103)の姿もあった。
 渚の容赦のない攻撃や氏祗の力強い連続攻撃が小鬼を瞬殺していった。負けじと彼方が術と槍での攻撃で遠近問わず的確に攻撃していった。突きで次々小鬼を貫く空の姿もあり前衛陣がものの数秒で小鬼の数を半分ほどにした。
 後衛陣も劣らず、的確な射撃を中心に援護する義視の姿、火炎獣で小鬼を焼き払う楓子の姿、霊魂砲で次々アヤカシを射抜く香澄の姿、加護法や神風恩寵で前衛陣を助ける佳乃の姿があり、前衛陣を援護するには申し分なかった。
 そして1分もかからず小鬼の群れは全て瘴気へ還っていった。
「さすがに魔の森なだけあって数が多いね」
 楓子が呟いた。
「でも、まだまだこれからだよね。でも、この調子だったら簡単そうね」
 佳乃が返答。
「どうでもいいけどよォ。今回は数は多いけど大したアヤカシじゃなかったが、次からはどうなるか分からないぜ」
 空が続けた。もちろん木に目印を付けながら。
「どんなの出てきても全部倒せばいいだけのことよ」
 渚が簡単に言ってのけた。
「そうだぁね」
 彼方がやや苦笑いしながら返答。
「これは‥‥もう森のようだな」
 空が心眼を使用し周囲を確認すると察知した数がとてつもない数だった。 いくら話しても開拓者だけだと魔の森も割りと短時間で通り過ぎたようだった。
「もう一息のようだな」
 氏祗はそう言うとやや速度を上げた。
 そして少しの間森を進むと集落に到着した。

●出発
「一般市民を護るのぉも開拓者の務め、生きる為ぇの力を貸すよ」
 彼方は集落の長にそう告げた。
「ねーねー。無事避難を終えたらお茶しない?」
 と渚はへらへらと集落の娘に声をかけていた。そして、返答は拒否だった。
「あら、残念」
「ねーねー。‥‥‥‥」
 懲りずに次の娘に声をかけていっていた。まるで緊張感の欠片もないような行動に集落の娘が引いていただけなのだが。
 香澄を筆頭に集落の住人を全員一箇所に集め避難するための陣形を指示していった。住人たちは開拓者が到着しての安心感からか、割りと落ち着いて並んでいった。さすがに250人もいるだけに長い列になっていた。
「ボクたちが絶対に守ってみせるから、みんな落ち着いて行動してね!アヤカシが出たら身を守ることだけ考えて!」
 と香澄は住人に声をかけていた。それを聞いて住人もより安心しているようだった。
「やーれやれ、250人とはまた随分と大所帯だこと」
 空が呟いた。
「生きたいと願うなら全力で応えてやろうじゃないか。村が無くなろうが、生きていれば何とでもなるからさ」
 楓子も住人に意志を伝えていた。

「北条が責任を持って、お送り致そう」
 氏祗がそう言うと先頭を歩き出した。
「みんな落ち着いて私たちについて来て下さい」
 義視は氏祗の横を歩いていた。
 集落に向かうときに空がつけてきた目印を頼りに進んでいった。
「250人の護衛か…中々難しいがぁやり甲斐はあるな」
 右翼の彼方は呟いた。
「うん、絶対成功をさせる!」
 同じく右翼の香澄が彼方の呟きに返答。
 そして、左翼。依然へらへらとしている渚の姿があった。動き出しても懲りずに娘に声をかけていた。
「面倒くさいねぇ」
 と口癖を呟く楓子の姿もある。口ではそう言っているが、周囲への警戒は怠っていなかった。
 最後尾を進むのは空と佳乃の2人だ。空と佳乃は後方や左右全体に気を配っていた。これもアヤカシに避難を邪魔されないために、だ。

●魔の森
 250人全員の避難が開始してから数十分経っただろうか、ようやく魔の森に入り、開拓者たちはより警戒を強めた。
 やはり魔の森を進むとなるとアヤカシに出会ってしまうものだ。案の定、アヤカシの群れは現れた。最初は左翼の方から小鬼の群れだった。集落に向かうときに出会ったときと比べると数は圧倒的に少ないため、渚と楓子の2人でも圧倒していた。渚は即気持ちを切り替えて容赦なく小鬼を斬り裂いていった。楓子は人魂の小蟲を召還し、数を確認し斬撃符で攻撃していった。
 そしてあっさりと決着がついた。その後、列の左側と前方を小鬼の群れが攻撃してくるが、先導の氏祗と義視、左翼の渚と楓子がアヤカシを攻撃し、右翼の彼方と香澄、後方の空と佳乃が避難中の住人の混乱を抑えていった。
「このままだぁと左翼が疲弊しそうだぁなぁ」
 彼方は左翼の2人を心配していた。が、それも束の間だった。
「こっちからすごい数の鬼と1体大きいのがいるよ!」
 香澄は人魂で確認した情報を彼方に伝え、呼子笛で援護を乞うが援護に回れたのは後方の2人だけだった。先導と左翼の4人はとてつもない数の小鬼と交戦中だった。
「北条二刀流、冥土の土産に致せ!」
 氏祗の連撃が小鬼を次々瘴気に還していく。
「すまない!こちらの数が多すぎる。援護にはいけそうにない」
 氏祗が声を張り上げた。
「あれぇを4人で倒すしかないようだぁな」
 彼方は空と共に駆け出した。できるだけ避難中の住人から戦闘を遠ざけるためにだ。
 彼方と空の2人の攻撃が鬼を次々倒していった。霊魂砲で香澄も援護射撃を行なった。鬼の攻撃は小鬼より強力だが、彼方も空もそれ以上に強いため鬼の攻撃は軽々受け止め反撃を決めていった。しかし、鬼も数が非常に多いのだ。攻撃を受け続けるのにもやはり限界があった。空の背中に鬼の棍棒が直撃した。
「痛ッ‥‥」
 攻撃を堪え、反撃に転じた。が、突くのは鬼ばかりで鉄甲鬼はすでに少し離れていた。
「みんな落ち着いて下さい!大丈夫です。ここは開拓者に任せてください」
 佳乃は開拓者全員が戦闘状態に入っているため避難中の住人ができるだけ、混乱しないように声をかけ続けていた。そうしながら背に傷を負った空の治癒も怠ることはなかった。
 彼方の霊青打が鬼を次々突き破っていた。それでも圧倒的な数を誇る鬼の群れ、いや最早、鬼の軍はまだ衰弱することはなかった。
「俺ぇでも、これはさすがぁに厳しいなぁ」
 彼方はそう呟くが、まだ余裕を残して後退は全くしなかった。
 香澄も負けじと霊魂砲で攻撃し続けた。
「限がないね‥‥」
 香澄の表情に焦りが見えた。
 そしてしばらく攻め続けていると、残るは鬼の軍は鉄甲鬼だけになった。
 状況を確認し、空は左翼の減らない小鬼の群れを倒すため加勢に向かった。
 一向に小鬼は減らないようだった。
「まだまだ多いようですね。しかし、私たちは死力を尽くすのみ」
 義視は意気込むと、射撃を続けていた。

●終局
「我輩は鬼々丸。我輩の兵を壊滅するとは中々やるようじゃな。じゃが、そこの人間は我輩が全ていただ‥‥ぐわぁ!」
 鬼々丸と名乗った鉄甲鬼は巨大な棍棒を構えようとしたとき、香澄の霊魂砲が鬼々丸の眼に直撃していた。
「アヤカシになんざぁくれてやる命は1つも無いんだぁよ」
 彼方はそう言うと走りだし、鬼々丸を斬りつけた。 
「卑怯じゃぞ!」
鬼々丸は文句を言いながら巨大な棍棒を振り回し彼方の行動を制限していった。
「戦闘に卑怯も何もないよ!」
 香澄は霊魂砲で鬼々丸の眼ばかりを狙っていった。
「そうだぁよ」
 霊青打で鬼々丸の腹を裂いた。
「貴様らぁ!」
 鬼々丸は憤怒し、彼方に巨大な棍棒を叩き付けた。しかし、彼方は槍できっちり受け止めた。
「小癪な!」
 鬼々丸は連続で彼方に向けて巨大な棍棒を叩き付けた。香澄の霊魂砲を鬱陶しく思いながら。
「さすがぁにこれは危なぁいねぇ」
 彼方は片膝を付いて顔をしかめた。
「これで終わりじゃ!」
 鬼々丸は巨大な棍棒を両手で握り直して振りかぶり叩き下ろした。しかし、巨大な棍棒は彼方に当たることはなく、彼方のすぐ後ろに落ちた。
「詰めがぁ甘い」
 彼方の斬撃符によって鬼々丸の右手が肘から先を切断されていた。
「残念じゃが我輩の負けじゃ。しかし、第2第3の鉄甲鬼が‥‥」
 左手で避難中の住人の方を指差した。
「もううるさい!」
 彼方の霊青打が香澄の霊魂砲が鬼々丸の頭を吹き飛ばした。そして、鬼々丸の身体は瘴気に還っていった。

「あっちは終わったようだな。拙者たちももう終わりだ」
 氏祗は小鬼の殲滅を続けていた。
「あはははは。最後まできっちり斬り刻んであげるわ!」
 渚も小鬼を容赦なく殲滅してた。
「っとこれで最後ですね」
 楓子の斬撃符が最後の小鬼を瘴気に還した。

「怪我している方はいませんか?」
 義視が避難中の住人全員に問いかけた。返答は怪我は何一つなかったようだった。ただ、圧倒されて呆然としていたが。
「もう時期魔の森を抜けるます」
 佳乃が後ろから避難中の住人に伝えた。

●事後談
 開拓者を除く全員が無傷で魔の森を抜けることができた。結果として行方不明の志体持ちの青年に出会うことが出来なかったのが気掛かりだが、もうこれだけ大きく動いても気づかないとなると、もう生きてはいないだろうと集落の長も告げた。そして、その青年に全員で黙祷を捧げた。
「これからが大変かもだけど、みんなで力あわせて頑張ってね!」
 香澄が最後に住人全員に声をかけた。住人からはもちろんだとの声が返ってきていた。
 渚は何人かの娘とお茶する予定が出来たのかとても上機嫌だった。

 そうして、とある集落の避難は無事成功した。その翌週、集落のあった場所は魔の森に侵食していったのであった。




   了