帰らぬ仕事人
マスター名:東雲八雲
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/16 19:11



■オープニング本文

●仕事帰りの男たち
―――武天の国、とある鉱山。
 いつものように数名の男たちは仕事を終え帰宅しようとしたが、結果として帰宅することができなかった。
 夕暮れの道中に幽霊が現れたのだ。
「いかん。これでは帰れそうにないぞ。仕方ない、みんなでそこの洞窟に身を潜めよう」
男たちは見つからないようにと鉱山の洞窟に隠れ身を潜めたのだ。そしてそのまま日の出を待った。男たちは夜が過ぎれば幽霊は消えるだろうと考えていたのだ。
「そろそろ日の出だな。あれは幽霊だ。日の出とともに消えるだろう‥‥」
一夜を過し疲れきった男が1人洞窟から顔を出し幽霊を確認する。
「な‥‥!?」
「どうしのだ?」
「ま、まだいるぞ。」
男たちは嘘だと思い次々顔を出し幽霊を確認する。そこには浮遊する鎧兜がいくつか浮いて動いている様子が見て取れたのだ。
「くそっ!俺たちはどうすればいいんだ!」
希望を失った男たちは落胆し策を練ろうとするがどう考えても一般人が幽霊のアヤカシに敵うはずがなかった。
「こんなときに開拓者が来てくれれば助かるのだが‥‥」
「それを待つしかないな」
「それまで俺たちが生きていることを祈るしかないのだな」
策が浮かばない男たちは落胆し、幽霊のアヤカシが自分たちに気が付かないことを祈り開拓者を待つことに決めた。

●不安を覚える女たち
「おかしいわ」
村の女たちは鉱山に行った男たちが1日を経過しても帰ってこないことに不安になったのだ。そうは言っても鉱山のどこにいるか検討が付かなかった。
「こういうときは開拓者に依頼するしかないわね」
「でも、私お金に余裕ないわよ?」
「大丈夫よ。みんなで出せば十分な額になるわ」
「そうね。それでは急いで行きましょう」
女たちは意を決して開拓者ギルドへ向かった。

●依頼の受付
「いらっしゃいませ。ご依頼でしょうか?」
開拓者ギルドの受付の青年が丁寧に声をかけた。
「ええ。私たちの旦那たちが鉱山に仕事に出かけたっきりもう1日も帰ってこないのよ」
「それは大変ですね」
受付の青年はまるで自分のことのようにとても心配そうな顔をした。
「だから開拓者の人たちの力を借りたいのよ。お金はこのくらいで大丈夫かしら?」
「はい。十分ですよ。それでは開拓者たちを募集しますね」
受付の青年は手馴れた様子で手続きを済ませ開拓者を募った。


■参加者一覧
千王寺 焔(ia1839
17歳・男・志
九竜・鋼介(ia2192
25歳・男・サ
星風 珠光(ia2391
17歳・女・陰
 鈴 (ia2835
13歳・男・志
安達 圭介(ia5082
27歳・男・巫
かえで(ia7493
16歳・女・シ
宗久(ia8011
32歳・男・弓
千王寺 心詩(ia8408
16歳・女・陰


■リプレイ本文

●開始
 時は夕暮れ。
 同時に2箇所から呼子笛の音が鳴った。

 道の幅はそう広くないが、横に5人ほどギリギリ並んで歩けるほどだった。分かれ道で乙班と別れた甲班は、男たちが帰れなくなった原因である浮遊している鎧、そうアヤカシらしきものを発見した。
「あれが原因のようだな。浮遊している鎧‥‥さながら亡霊武者と言ったところか」
 先頭を歩く千王寺 焔(ia1839)は、後ろを続く安達 圭介(ia5082)、かえで(ia7493)、宗久(ia8011)の3人と共に気づかれる前に物影に隠れた。
「そっかぁ。じゃぁまずは倒さないとね」
 宗久はにやにやと笑いながら弓に矢をかけた。
「俺が前に出る。援護してくれ」
 焔は影から亡霊武者を見据えながら言うと両手で柄を握り刀と剣を抜いた。
「わかったわ」
 かえでは短刀を構え、
「しっかり応援しますよ」
 圭介は真剣な面持ちで頷いた。

 一方、乙班。
「これは危険だよ‥‥」
 人魂の式で模った可愛い小悪魔を飛ばして千王寺 心詩(ia8408)が見たものは5体の幽霊アヤカシの姿だった。
「危険って何があったの?」
 星風 珠光(ia2391)が心詩に心配そうに訊ねた。
「武装をした幽霊が1体と怨霊のようなアヤカシが4体だよ」
 心詩がお母さんと慕う珠光にありのままを答えた。
「だったらボクと心詩の2人で怨霊をどうにかするから2人で武装した幽霊をお願いしてもいいかな?」
 珠光が意見すると、
「わかりました‥‥」
 鈴 (ia2835)と頷き刀を握った。九竜・鋼介(ia2192)は刀を抜き頷いた。

 そして、両班とも戦闘は始まった。

●出発
 時は夕暮れ前。
 8人の開拓者は依頼主たちに、旦那たちの食事は私たちが作って待っているので連れ帰ることに専念してください、と言われすぐに出発することになった。
「鉱山から旦那さんが帰らない‥‥事故にでも合われたんでしょうか?」
 圭介が心配そうに呟く。
「事故にしても、アヤカシにしても、山賊にしても帰ってこれないって言うのは心配だよね。みんな家族がいるから、悲しませないように早く助けてあげないとね」
 心詩が呟きに答える。
「何かあったのかな何かあったに違いないね何だろうね事故かな災害かなでも災害なら遠目でも分かるから違うねじゃあ何があったんだろうね」
 宗久はややいやみっぽく笑って言う。
 それぞれ心配そうな面持ちで歩いていると、分かれ道があった。
「ここからは班に分かれて進む方がいいですね‥‥」
 鈴がそう言うと甲班と乙班に分かれて進むことになった。
「二人とも無茶はするなよ。‥‥ケガにも気をつけて」
 心配そうに焔は、妻である珠光と未来から来た愛娘だという心詩とに声をかけてから、甲班の先頭を歩き出した。
「乙班も頑張ってね」
 かえでが乙班の全員に声をかけてから焔のあとに続いた。
「さて、俺たちも行こうか」
 鋼介を先頭に、乙班も歩き出した。

●奮闘
「こいつ、意外と厄介だな」
 亡霊武者に先手を打った焔だったが鎧の隙間を縫うように斬り込んでいくが、亡霊武者はそれを気にする様子もなく大きな鎌を軽々しく、まるで自分の身体の一部かと言わんばかりに振り回す。しかし焔も亡霊武者の一撃を先読みし、一瞬で納刀し回避しながら首に雁金の斬撃を入れてゆく。が、しかし亡霊武者も甘くない、斬られながらも身を翻し、焔の首を狙い大鎌を振り下ろす。そこへ宗久の全精神を集中させて放った矢が亡霊武者の手首に当たり大鎌の軌道が変わり、焔の頬を掠めただけになった。
「すまない。助かった」
「礼はいいからさっさと攻め込みな」
 にやにやと笑いながら亡霊武者の関節のあたりに次から次へと矢を射ていた。
「完全な姿は見えませんが、当たるようですね」
 圭介は攻撃が当たることに安堵し、舞い続けいた。圭介の舞を背に力が湧いたかえでは更に気力を込めて亡霊武者の後方から首を狙って切りつける。かえでは早駆で駆け回るため、亡霊武者はかえでを捉えることができないまま、首や関節といった鎧の隙間に攻撃を受け続けることになった。だが、亡霊武者はそれでもお構いなしで大鎌を振り続けていた。
「痛ぅっ!」
 かえでは大鎌の一撃を回避しきれず肩口を捉えられ、崖の方へ吹き飛んだ。
「いけない!」
 焔が腕を伸ばすも、その腕は空を切る。
 圭介は神風恩寵でかえでの傷を癒しはするが、落下を止めることはできない。そこへ荒縄で作られた輪が飛びかえでを捉えた。
「俺だけじゃ持ち上げるの無理そうだな」
 宗久は全力で荒縄を支えていたが持ち上がらないようだった。その間に亡霊武者に攻撃させまいと、刀と剣で焔は大鎌の動きを封じていた。
「ありがとう。これなら自分で登れるから大丈夫よ」
 崖に垂直に立ち崖を足場に見立て早駆で駆け上がり、亡霊武者への攻撃を再開した。かえでの無事を確認した圭介は素早く軽やかな舞を始めた。
 焔が攻撃を受け止めては、かえでの斬撃が、宗久の射が確実に決まっていく。しかし、亡霊武者はそれでも倒れることなく大鎌を振るい続けている。

「鉱山だけに降参して‥‥くれる訳無いか」
 乙班の鋼介はもう1体の亡霊武者に駄洒落で問いかけていたが、当然ながら亡霊武者は手を緩めなかった。
「人間の言葉は通じないようですね‥‥」
 鈴も涼しい顔をして剣戟を続けた。
 珠光と心詩は満遍なく4体の怨霊に斬撃を入れていく。しかし、生かさず殺さずを続けて誘導していた。すると怨霊は呪声で珠光と心詩に攻撃していた。
「大丈夫?」
 耳を押さえて顔をしかめる心詩を心配そうに声をかける。
「だ、大丈夫よ。それよりもうそろそろかな?」
 怨霊に黒く禍々しい鬼火を放ちながら珠光に返答。鬼火は心詩に戻って身体に溶け込んだ。
「そうだねぇ。それじゃいくよ!」
 心詩が頷くと珠光は人形を掲げ、
「召還!蒼き炎を纏いし九尾よ‥‥」
 瘴気が蒼い九尾を模っていく。
「眼前の敵を焼き払いなさい!」
 蒼き九尾は火炎放射を放ち4体の怨霊が燃え上がった。
「成功だね。お母さん」
 燃え上がる怨霊から心詩の注意が一瞬、一斉に怨霊は心詩を道連れにしようと自爆した。
「いけない!」
 珠光は心詩を爆発から守ろうと庇うように抱きついた。珠光は心詩の代わりに爆発を背に受けてた。
「お母さん大丈夫?!」
 心詩は珠光の顔を心配そうに見た。
「これくらいなら大丈夫だよ。我が式よ‥‥蒼き炎となりて傷を癒しなさい」
 珠光は人形を掲げそう言うと、背の傷から蒼炎があがった。そして蒼炎が消えると傷も跡形もなく治っていた。
「次は武装した幽霊だねぇ」
 珠光は微笑むと鋼介と鈴に合流した。
 鋼介は十手で亡霊武者の一撃を受け流し、刀を亡霊武者の首を目掛けて突きの一閃を放つ。すかさず鈴の刃が亡霊武者の喉下を確実に捉えた。続いて鋼介が足があろう場所を薙ぐと、手ごたえがあった。
「こいつ本体は見えないが足あるみたいだ」
 鋼介はそういうと亡霊武者の足があろう場所を狙い続けた。すると明らかに亡霊武者の動きが鈍り始めたのだ。もうすでに限界が見え始めている亡霊武者は振り被り、鈴を目掛けて振り下ろした。しかし、その瞬間を納刀し鈴は待っていたのだ。
 雁金による抜刀。
 そこに続けて珠光が蒼炎を纏った剣で斬撃を加える。もちろん狙うは首だ。
「最後だっ!」
 鋼介の突きが亡霊武者の喉下を貫いた。すると、亡霊武者が消滅し鎧兜や得物だけが音を立てて落ちた。
「大変でしたね‥‥」
 鈴が短く息を吐いて一言。
「さてと、早く探さないとね」
 心詩は少し息を整えると微笑み、出発を促した。

 一方甲班。
 亡霊武者は全身の関節に矢を受けた上、右腕は先ほどかえでの斬撃で切り落とされたような状態だ。
「しぶといな‥‥だが、もう終わりだ」
 焔が呟き、納刀。亡霊武者の大振りの一撃を見切る。
 身を低くし前方へ進め亡霊武者とすれ違う瞬間。
 亡霊武者の上半身と下半身が外れた。そして、鎧のみが通路に落ちた。
「思った以上に時間が掛かりました。少し急いだ方がいいようです」
 心配そうな面持ちで圭介は言うと、甲班の全員が自ずと休むまもなくと歩を進めた。

●救出
 時は日が完全に落ちた頃。
 呼子笛の音が鳴った。今回は甲班の圭介が鳴らしたものだけだった。
「お、おお‥‥か、開拓者ですか?」
 疲弊した男の1人は先頭の焔に訊ねる。
「そうだ。あんたたちの妻たちからの依頼で連れ帰りに来た」
 焔がそう答えると男たちは安心した面持ちで息を吐いた。
「ますは飲み物だ。2日近く何も飲んでいないだろ?」
 各自、持参した飲み物を差し出すと、男たちはお礼を言い飲み干していった。
「少し食べれるようでしたら、軽食がありますので召し上がってください」
 圭介が干飯と梅干を渡した。ちょうどそこへ乙班が到着した。
「元気そうですね。よかったらこれもどうぞ‥‥」
 鈴は小さく微笑み干飯と梅干を差し出す。
「ありがたい。頂こう」
 男たちは軽食を口にすることにした。
 思いのほか元気なことに開拓者の不安は吹っ切れ微笑んだ。

 洞窟の入り口付近に護衛も兼ねての3人。
「珠光と心詩は怪我はないか?」
 焔が心配そうに妻と愛娘に怪我がないか確認し始めてすぐに、浴衣の背が破れているのに気が付き、自分の袖のない外套を着せた。
「ありがとう」
 珠光は微笑んだ。
「心詩は特にないな」
「守ってもらったからね」
 心詩はチラッと珠光の方を見てから微笑んだ。

 男たちは軽食を食べ終え、帰ろうと立ち上がった。
「では、帰ろうか」
 微笑んだ鋼介は歩を進めた。

●事後談
 鋼介を先頭に無事帰還した。途中でかえでは暗視を生かし周囲を何度か見渡したが、他にアヤカシらしきものは見当たらなかった。
「これで一安心ですね‥‥」
 鈴は帰還した男たちを見て安堵した。
 仕事を終え早々に立ち去ろうとした宗久を依頼主は呼び止めた。どうやら開拓者の分の食事も用意してくれていた。
「ありがたいね」
 宗久はにやにやと笑いながらお礼を言っている。
「俺たちも頂きませんか?」
 鈴は小さな笑みをこぼし開拓者に訊ねる。返答の仕方はそれぞれ異なったが、開拓者は全員頷いた。
 開拓者も含めた大勢で小さな食事会となったのあった。


    了