絶対障壁のタテ子
マスター名:東雲ホメル
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/05 16:27



■オープニング本文

 姓はタイラに、名はジュンコ。漢字で書けば、平良と盾子と書く。
 そんな女、平良 盾子は街を行く。所用が有り、神楽の都まで出向いてきた友人と共に。
 この友人、鶺鴒と言う女は憎たらしい程の大きさの胸を持っていると言う。
 盾子は、鶺鴒に会う度に抗えない現実に打ちのめされ、己の矮小さを実感していた。
 今回も例に漏れず、勝手に、肉体的、精神的な敗北を喫していた訳なのだが――
 酷暑が盾子の思考を鈍らせ、あらぬ方向へと導いたのだ。
「西瓜が食べたい」
 鶺鴒は唐突な言葉に口を開けて(この女は常時そんな感じだが)小さく頷いた。
 そうして、何やら思い出そうとして低く唸っていた。
「でしたらぁ〜、私の里からぁ〜、西瓜を取り寄せてくれているお店が在るはずですよぉ〜」
 間の抜けた、緩い雰囲気の声が上がると、盾子はよしと立ち上がった。
「じゃ、早速行こうか。 すいかっぷ、いやいや、鶺鴒」
「? はぁ〜、そうですねぇ〜。 確か、都の外れの方に在ったと思いますぅ〜」
 ふらふらと、しかし妙に素早く歩く鶺鴒の後を盾子は歩く。
 まぁ、今日の所は美味い西瓜で許してやろう、などと上から目線も甚だしい事を思いながら。
 そうして、暫く歩いた頃であった。

「SUMOUTORIが出たぞ!」

 騒々しい。そう思うと同時に、何かから逃げ惑う人々が向かって駆けてくる。
「すもうとり‥‥? 御相撲さんですかねぇ〜」
「いや、普通はこんなに全力で逃げんだろ」
 開拓者故の余裕か、はたまた、二人の気質の所為か。逃げる事、歩みを止めるという事は一切無い。
 そうして、通りの角を曲がった時だった。此処で初めて盾子と鶺鴒は後ずさった。
 確かに相撲取り。力士なんて呼び方もあっただろうか。
「ありゃあ、負けに負け続けた相撲取りの怨念が瘴気と一体化してアヤカシと化したみたいだ」
 説明的な台詞を吐きながら、若い男が逃げてくる。
「悪い事は言わねぇ、姐さん達も逃げな。 後は開拓者に任せるんだ」
 そう言うと、若い男はとっとと何処かへ走り去ってしまった。
「賞金は出るのでしょうけれどもぉ〜‥‥暑さに対する手当ては出ませんよねぇ〜」
 若い男の言う開拓者である、盾子と鶺鴒。
 一般的な開拓者であれば、此処は緊急的に対処するのだろうが、この二人はそうはいかない。
 労力に見合った金が出なければ動かない鶺鴒と、そもそも自己中心的で怠惰な盾子。
 正義感とは何とやら。こういう場合は他人任せになる事、間違い無しな二人なのである。
「どうしますかぁ〜? 面倒ですけどぉ〜、迂回しますぅ〜?」
 そう言って、鶺鴒は隣に立っていた人物に声を掛けるのだが――
 彼女の姿は、既に其処に無かった。
「DOSUKOI!!」
 気合と共に打ち出された張り手は、軽々と民家の壁を打ち抜き、崩壊させる。
 もう一発、もう一軒。そうこうしている内に、逃げ遅れた人が標的になる。
「DOSUKOI!!」
「おのれ、アヤカシめ‥‥男のくせに、私より胸が有るとは何事だこの野郎!!」
 その間に割り込んだのは、盾子、その人だった。
「あぁ! 絶対障壁のタテ子だ! 皆! 絶壁のタテ子が来たぞ!」
 逃げ惑っていた人々から次々と声が上がる。
「ジュン子だよっ!! つーか、誰が絶壁だよ!! 有るよ、申し訳程度は!!」
「絶壁のタテ子!! 絶壁!! 二つ以上の意味で!!」
「オィィィィ!! 絶壁のタテ子って絶対に胸意識して呼んでんだろ!! お前等もかかって来いやぁ!!」
 アヤカシの張り手を防ぎ、更に押し返しつつ、盾子は叫ぶ。
 そんな様子を眺めつつ、鶺鴒は気付く。盾子の持つ大盾の形状と、盾子の胸の形状が似ている事に。
「人気者ですねぇ〜、絶壁のタテ子さん」
「すいかっぷこの野郎!!」


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
ラクチフローラ(ia7627
16歳・女・泰
マーリカ・メリ(ib3099
23歳・女・魔
鹿角 結(ib3119
24歳・女・弓
泡雪(ib6239
15歳・女・シ
魚座(ib7012
22歳・男・魔
ナキ=シャラーラ(ib7034
10歳・女・吟


■リプレイ本文

 SUMOUレスラー。噂のそいつが今、自身の目の前に居る。
 はちゃめちゃが押し寄せてきそうで、わくわくが十割増しくらいになっている。
 ナキ=シャラーラ(ib7034)は単身、アヤカシの前に立ちはだかっていた。
 褌と海苔。己もSUMOUスタイルに合わせて、幼女らしくコーディネイト。
 海苔の装着方法なんて、規制する如く正方形の物が二つ貼られているだけだ。
 逆に駄目な気もしなくはないが、まぁ、それはそれとして置いておこう。
 しかし、買い物の途中で偶然にもこの状況に陥るとは誰が考えただろう。
 偶然にも洗濯を頼まれていた褌を持って、海苔と糊を買い物に行くだなんて――
「下にも貼ってるからな」
 渾身のどや顔である。
 そうして、ナキは人ごみの中から歩を進める。
 すもうろりとSUMOUTORI。両者の雌雄を決する為に。
 タテ子は振り返ると、半開きになった口を押さえる様にして呟く。
「おぉ‥‥何か目一杯セウトな奴が来たぞ‥‥」
「開拓者だ。下にも貼ってるからな、安心しろって!」
 安定のどや顔である。

 やいのやいのと喧騒が辺りを支配する中、魚座(ib7012)が其処へ辿り着く。
「な、何だ‥‥あれ‥‥」
 野次馬根性丸出しで、背伸びをしてみたが、見なければ良かったかもしれない。
 明らかに面倒そうな光景が目の前に広がっていた。
 ぶよぶよしたアヤカシと二人の女の子。片方に至っては、半裸。
 一瞬、裸になっても靴下だけは脱がない紳士スタイルを思い出したが、どうも違う。
 と言う事は、あれは異国に伝わっていると噂されるそれではない。
 退散する人を捕まえて聞けば「ありゃ、SUMOUFIGHTだ」の一言。
 違う。何となくそう思いながら、魚座は渦中の現場へと近付く。
 どっちにしろ、自分は開拓者としてアヤカシと闘わねばならぬ。
 何より、開拓者とは言えども女の子二人を放っておく訳にもいかない。
 人ごみの間を縫う様にして、魚座は進む。そして、其処から路地裏に逸れた所。
「え、いや、路地裏とは言え白昼で、天下の往来ですよ?」
「しかし、何となくさらしが緩過ぎる様な気がしまして」
 秋桜(ia2482)は名家の元女中として、空気を読んだのだ。
 このままでは一人、もしかしたら何人かの心に傷を残す事になると。
 泡雪(ib6239)の制止を聞かずして、秋桜が上着を脱ぐ。
 何という事でしょう。
 さらしを解けば、更に何と言う事でしょう。
 その光景を偶然にも目撃してしまった人は、後に「鉄壁すぐるだろ、木の葉」と言っていたそうだ。
 泡雪の素晴らしい、かつ浪漫を叩き潰す様なフォロー。使い方を間違っているとも言える術。
 そのフォローを受けながら、秋桜はさらしを巻き直していく。
「泡雪様」
「仕方が無いですね」
 泡雪は嘆息すると、全身全霊でさらしの端を引っ張り上げる。ぎりぎりと音まで鳴っている。
 酷使すべきは、己の肋骨。秋桜の肋骨は胸と共に押し潰されていく。
「あ、ありがとう、ございます」
 秋桜の言葉の端々に妙な空気音が混じっている。が、泡雪は気にしない様にした。
 これも彼女の意思だ。妙に背筋が良いのも気にはなるが、好きにやらせよう。
「では」
「は、はい」
 そうして、二人は路地裏から戦いの場へと躍り出たのであった。
 持ってきていた西瓜は、突っ立っていた鶺鴒に預けて一安心と言った所であろう。

 息を吐き、目を瞑り、円を描く様に手を内側から外側へと。精神を統一させる。
 ラクチフローラ(ia7627)の取った行動は、四股にも似た雰囲気を持っていた。
「荒鷹陣!」
 荒ぶるラクチフローラの構え。その気迫がSUMOUTORIを気圧した。
 何時如何なる時でも、これだけは忘れてはならない。
 相手が汗で充分加湿されていてもだ。もう、雪国の結露レベルである。
 そんな事を考えたら、接触を避けたくなってきた。鼻息も荒いし。
 そうも言ってられないので、如何しようもないのだが――
 同時に駆けつけた鹿角 結(ib3119)の事が羨ましくなった。二つ以上の意味で。
 何と言っても彼女の得物は弓なのだから。
 先程からSUMOUTORIが近付く前に矢を射って、上手く立ち回っている。
 矢が偶に汗でぬるんとなったり、刺さってるのか、減り込んでいるのか分からない時もあるのだが。
 兎に角、あれに触らないで済むのは僥倖であると言える。
「‥‥なぁ、同士‥‥」
「‥‥あたしのが有るわよ、一緒にしないで‥‥」 
 タテ子とラクチフローラは一緒になって目を背けた。しかし、現実は非情である。
 結の胸は弓掛鎧で押さえられているのにも関わらず、揺れるのだ。
 後ろに跳び、着地と同時に揺れる。横に転がり、立ち上がった拍子に揺れる。
 駆けつけてきた秋桜が肋骨を犠牲に、普通の乳を召還していなければ、挫けていた。
「絶壁のタテ子さん! 援護は僕に任せて下さい!」
「上手投げられろ!」
 言っておくが、結に悪意は微塵も無い。
 その証拠に、タテ子の一言に心底不思議そうに首を傾げたのだから。
 不幸な事は、彼女の素直さが仇となった事だろうか。
「時代は、すす、すいかっぷじゃないですよ!」
 マーリカ・メリ(ib3099)は両手を握って、励ます様に声を上げる。
「美かっぷですよ、ね?」
 恐らく自分自身にも言い聞かせているのだろう。最後は疑問系になってしまった。
 迫り来る敵に、マーリカは鬱々とした気分で術を一つ仕掛ける。
 植物の蔦に足を絡め取られるSUMOUTORI。
「どすこーい!」
「GOTTYANDEATH!」
 突撃するナキの姿を見て、あのくらいの年齢の頃が懐かしくも、羨ましいとも思う。
 糊と海苔で隠す事はなかったかもしれないけれども。
「いやぁ、眼福ってやつかな。 彼にとっても、ボクにとっても」
 鶺鴒の横で戦いを見つめていた水鏡 絵梨乃(ia0191)が笑う。
「そうですかぁ〜? あの男性の方はそうかもしれませんけどぉ〜」
「いやいや、そうだよ」
 通り掛かりで、知り合いも居るとは言え、こんなに女子率が高い現場に遭遇するなんて。
 絵梨乃の嗜好としては、充分に幸せな事態である事は間違いなかった。
「さて、西瓜も拝んだ事だし、そろそろ退屈してきた頃だし」
 そう言って、絵梨乃自身も戦場へと赴く。
「見るだけですかぁ〜?」
 鶺鴒の両手に乗せられた二つと、頭の上に器用に乗せた一つ。
 絵梨乃の言う西瓜はそれではない事は、明白だった。
 もう一つ笑うと、絵梨乃は魚座の前に出て、SUMOUTORIを挑発し始めるのであった。
 そして、此処で魚座は今更重大な事に気付く。
「ん‥‥? ‥‥全員、女の子ー!?」
 自分以外の開拓者が女子であると言う事に。
 これが古より伝わりし、女子会なるものかと思ったがそんな事はなかった。偶々である。
 但し、幾つかハッキリした事がある。
 一つは、サンダーやファイヤーボールの類が使い難い事。
 もう一つは、男社会で育ってきた自分にとって、現状が未知の世界であると言う事。
「ぐ‥‥こ、こいつで叩く事にしよう」
 自分はあれに近付く事は特に嫌ではない事が、唯一の救いであろうか。
 そう考えながらも、絵梨乃に気を取られたSUMOUTORIを杖で殴るのであった。

 飛んできた小石を避けて、秋桜は刃の切っ先をその方角へと真っ直ぐに向ける。
 彼女はシノビではあるが、志士やサムライの様でもあった。
 正眼。絶対に正眼の構え。が、現実はそんなに格好の良いものではなかった。
 何せ、両脇を締めて胸を押さえつけていなければ、さらしが切れてしまいそうだったのだから。
 それ即ち、豊満な何かの気配を察知しているタテ子に噛み付かれる可能性が有るという事だ。
 そう言った訳で、秋桜の動きはイマイチである。
 その隙を衝いてSUMOUTORIはグイグイと前へと出てくる。
 手裏剣を投げて、泡雪は訝しむ。果たして本当に効いているのか、と。
 おまけに独特のステップが妙に早くて、苛立たしい。
 そんな事を思っている内に、秋桜を切り抜けて、此方へやってくる。
「うぅ‥‥近寄らないで下さいませっ!」
 張り手を見事に避けると、泡雪は定点の間を省く様に移動する。
 張り手と言うか、そのまま捕まって鯖折りにされそうで怖い。
 その場合、怖いのは痛みではない、もっと不快な思いをすると言う事だ。
 生理的に受け付けない敵に対して、気疲れが激しいのか一瞬の気の緩みが有った。
 其処を後ろから狙われたのだ。
「泡雪様っ」
 秋桜は仲間の危機に咄嗟に動きだす。さらしの事はすっかり頭から抜けてしまっていた。
 Hカップの肉弾に突き立てられた忍刀。確かに、それは手傷を負わせていた。
 が、さらしは犠牲になったのだ。
 拙い。タテ子が此方を半目で見つめている。背を向けている今しか誤魔化せない。
 そう思うと、奥義を使う為の消費を厭わなかった。何も其処まで必死になる事はないのだが。
「ん? ‥‥メイド忍者の姿が消えた‥‥怪しい‥‥」
 無駄に聡いタテ子であった。しかし、考える暇が無いのが戦場の常。
「うわぁ!?」
 三体の内の一体と果敢にも組みに行ったナキが投げられた。
「?!」
 マーリカの視線は彼女の行く末を追ったが、土煙の先には褌のみ。
 流石に十歳と言えども、これは拙い。マーリカはそう思って頭を抱える。
「タテ子!」
「じゅんこ!」
 ラクチフローラは追撃しようとする、SUMOUTORIのバランスを崩す。
 弱っているのか、思ったよりも簡単に転がる。しかし、ぬるっと元の態勢に戻る。
 意地でも転ばないらしい。足を狙ってはいるが、本当に転ぶのか怪しくなってきた。
 時間を稼げた事だけは良かった。
「海苔が無かったら即死だった!」
「書いてる奴がな!」
 新しい褌を締め直している間、タテ子はナキの姿を隠す様に防御している。
「流石! 流石、絶壁のタテ子だ! 良いぞ、規定には引っ掛かっていない!」
 そんな声が未だ残っていた野次馬から上がる。
「皆さん、胸以外‥‥胸以外の事で応援して下さいね!」
「今のは胸じゃねぇだろ!?」
 マーリカのフォローはある意味で完璧だったのかもしれない。
 自身とタテ子の精神に微妙なダメージを残したのだった。
「ふん、そんな事は大した問題じゃないのよ」
 ラクチフローラは半笑いで、SUMOUTORIを転がす作業に打ち込んでいた。
 何となく鬱憤を晴らす為に、力が篭っていた様に見えたと言う。

 意外と粘り強いHカップの肉弾アヤカシ。
 時間の掛け過ぎは、いくら相手があれでもよろしくない事は分かっている。
 絵梨乃は、向かってくる一体を見据えて一つ呟く。
「やってみたかった技が有ったんだ」
 そうして息を吸い、吐く。
 目の前のSUMOUTORIの頭上には死を告げる星が輝いていた。
 先ずは腹の肉が邪魔なので退ける。
 絵梨乃の脚は高速で飛ぶと、衝撃で波打つ肉をどんどん凹ませていく。
 張り手なんて何のその。これでもかと蹴りを放つ。
 しかし、これが試したかった事ではない。
 そして、人間の知覚出来る最小の間隙を縫う。
「天儀柔破拳!!」
 またの名を極神点穴。それを伴った手刀である。
 気の通路である経脈に、その入り口の点穴を介して気を流し、内部で炸裂させる技。
 正に世紀末状態。
 処刑用BGMを未だ未だ残る見物人が口ずさむ。
「お前はもう、消えている‥‥」
 絵梨乃の言葉と共にSUMOUTORIは奇声を上げ、そして無残にも破裂した。
「おい、あいつの作画崩壊してないか!? 別人だよ、もう!!」
 くどいくらいの漢らしさを放つ絵梨乃の顔。劇画タッチは骨格すらも変えてしまう。
「解せませんね」
「お前もなってるよ!?」
 焦ったタテ子が振り返った先には、魚座が居たのだが――
 彼もまた世紀末に生きていた。
「周りが女の子ばかりで緊張してしまって‥‥では、杖で殴る作業に戻りますね」
 あれなら魔術師の魚座と言えども本当に殴ってアヤカシを瞬殺してしまいそうである。
「野次馬の避難が終わりましたよぉ〜」
 相変わらずの鶺鴒の声が響くと結が頷く。これでやっと見物人を気にせず戦える。
「絶壁のタテ子さん! 一気に行くので、退いて下さい!」
「悪意は無いんだな!?」
 ラクチフローラが躍起になって転がした瞬間を狙って結は弦を引く。
 キリキリと音を鳴らし、張られたそれを指が弾く様に離す。
 桜色の燐光が舞うと、三射。
 彼ら(?)にとって、不服な負けではある可能性は高い。
 しかし、瘴気と散ればそんな事も言っていられないだろう。
 こうして為す術も無くまた一体、霧散してしまった。
「うおぉぉぉおおお!」
 残る一体を前にして、ナキが舞う。くるくるナキの海。
 フェイトを織り交ぜ、頭突きに対して頭突きを返す。
 普通ならば気絶ものだが、頭に巻いておいた鉢金は飾りではない。
 怯んだSUMOUTORIに泡雪の手裏剣が幾つも吸い込まれ、魚座の杖が顔に減り込む。
 マーリカの支援を受ければこその威力である。
 そうして遂に、SUMOUTORIは倒れて動かなくなってしまった。
 背中に土を付けてしまったのだ。ぬるっと元に戻る事もなく、瘴気として消える事もない。
 負けを悟ったのだ。
 もう、ちゃんこ鍋が食べられない。もう、お茶漬の宣伝が出来ない。もう、横綱にはなれない。
 悲しさと切なさ、そして何よりも悔しさが――
「還れ」
 無慈悲過ぎるタテ子の槍が突き立てられると、黒い瘴気が微かに広がり、消えた。


 冷えた西瓜は美味いもので、鶺鴒が連れてきてくれた店の味は確かだった。
 折角なので、泡雪の西瓜も切り分けてその中に並んでいる。
「タテ子さんも見事な絶壁ぶりでした」
「じゅんこだよ! それに、やっぱり悪意を感じる!」
「はて?」
 首を傾げる結の胸はそれに合わせて、歪になる。鎧を外しているから余計に分かる。
 頭を抱えてタテ子は溜息を吐く。胸囲の格差社会なんて良く言ったものだ。
「ま、まぁまぁ」
 真っ青な顔のまま秋桜がタテ子を諌める。
「ボクは盾子の胸も可愛らしくて‥‥なん‥‥だと‥‥!?」
「‥‥‥‥」
 絵梨乃は、タテ子の後ろから忍び寄って胸を確認するが――
 幸せな現実へと戻ろう。うん、と頷くと秋桜の肩をぽんと軽く叩いて泡雪の隣へ。
 これがいけなかった。
 肩を叩かれた拍子に、さらしがまたも切れたのだ。今度は不意にも程が有った。
「おのれ‥‥やはり、そういう事か‥‥」
「あ、いえ、これは‥‥」
「同士、ラクチフローラ! 私の槍を持てぇ!」
「一緒にしないでってば! あたしのが有るってば!」
 他人事ではないが、既に疲れ切ったマーリカは乾いた笑みを漏らすだけだった。
「呑気ですねぇ〜」
 そんな光景を眺めつつ、鶺鴒は隣に座った魚座に声を掛ける。
 はぁ、と魚座は応える。
 良く分からないが、此処が巷で流行の桃源郷である事は間違いないと思った。
 ナキが西瓜を食べ尽くす頃には既に日が暮れていたと言う。