鶺鴒鼓翼
マスター名:東雲ホメル
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/21 22:44



■オープニング本文

「はぁ〜‥‥私に頼み事、ですかぁ〜?」
 間延びした声。
 女は唇に指を当てながら、首を傾げる。
「あぁ、コレを根来寺に居る、私の友人に届けて欲しいのだよ」
「御友人ですかぁ〜、友と言うものは良いものですよねぇ〜」
 縁側に座り、足を大きな木桶に張った水の中に突っ込んでいる。
 そして、差し出された手紙を受け取る。
「私や、私の部下が直接行ければ良いのだが、任務が有ってな‥‥すまんが、頼む」
 生真面目そうな男が女の正面、立ったまま頭を下げる。
 その姿を見て、あらあらと声を上げる女。
「いえいえ〜、私で良ければぁ〜」
 女は微笑む。
「ありがとう、鶺鴒」
 男はもう一度、頭を下げる。
「あぁ〜、そんなに頭を下げなくても〜」
「親しき仲にも礼儀有り、と言うじゃないか」
「相変わらず真面目ですねぇ〜、連雀さんはぁ〜」
 連雀と呼ばれる男は、仏頂面のまま顔を上げ、そそくさと振り返る。
「途中、アヤカシが出るやもしれん‥‥君なら問題は無いだろうが、くれぐれも気を付けてくれ」
 そして、そのままその場を後にしてしまった。
「仕事熱心ですねぇ〜‥‥折角、西瓜が有ったんですけどねぇ〜」
 先程まで、鶺鴒が足を突っ込んでいる桶で冷やされた西瓜。
 其れを切り分けながら、鶺鴒は呟く。
「さてぇ〜、どうしましょうかねぇ〜‥‥皆さん、夏のお休み中ですしぃ〜」


 自身の村から歩いても、半日程度の所に在る根来寺。
 しかし、情報に拠れば道中、確かにアヤカシが出るらしい。
 連雀の言う通り、一人で行っても問題は無いのだが――
「もしもの事が有ったら、嫌ですしぃ〜」
 そういった訳で、鶺鴒は開拓者達に護衛を頼む事にした。


■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
フェルル=グライフ(ia4572
19歳・女・騎
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
チョココ(ia7499
20歳・女・巫
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
九条・亮(ib3142
16歳・女・泰
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰


■リプレイ本文

 小枝を踏み鳴らし、鶺鴒は頭上を見上げる。
 先程まで降り注いでいた木漏れ日は、既に僅かなもの。
 昼前だと言うのに、辺りは薄暗かった。
「この辺でしたよね‥‥?」
 チョココ(ia7499)は鶺鴒のすぐ後ろから声を掛ける。
 シノビとは到底思えないゆっくりとした所作で、鶺鴒は振り向き頷く。
 アヤカシの出ると言われている場所が、この辺だと言うのだ。
 朽葉・生(ib2229)はそんな鶺鴒を尻目に辺りの警戒を怠らなかった。
 自己紹介の仕方からも伺える、真面目さ故だろうか。
 確りと、仲間との位置関係を把握しながら、進んでいた。
 それより先を行く、酒々井 統真(ia0893)。
(「依頼人の力量がどうあれ、不甲斐無い所は見せられない相手も居るし――」)
 グッと拳を握り締め、フェルル=グライフ(ia4572)をチラリと見る。
 護衛対象である、鶺鴒とは別に守るべき相手。
 所謂、恋人である。
 気合は十分だった。
 そんな統真の心を知ってか知らずか――
 フェルルは小さく、小さく呟く。
「‥‥やっぱりあのぐらい綺麗で胸が有った方が喜ぶのかな‥‥?」
 鶺鴒のモノと自分のモノを見比べる。
「んでね〜、ボクのもおっきいんだ〜」
 そして、そんな鶺鴒の胸に顔を埋めているプレシア・ベルティーニ(ib3541)のモノとも。
 軽い溜息しか、出てこない。
 九条・亮(ib3142)の胸は見なかった事にしたい気分になる。
「あらあらぁ〜、御手紙がぁ〜」
 何処から落としたかは御想像にお任せするが、鶺鴒は落ちてしまった手紙を拾う。
 設楽・万理(ia5443)は鶺鴒が拾った手紙を見て、呟く。
「どっちでも良いんだけど‥‥あの手紙、重要な物かしらね?」
 単純な疑問。
 重要か、どうかは置いておいて。
「俺達は、無事に届けられるよぉに手伝う」
 そうだろ、と万理を振り返りつつ犬神・彼方(ia0218)は笑う。
 万理は軽く頷くと、肩を竦める。
 そして、樹上を見上げる。
 やはり、日の光は糸ほどにしか届いていなかった。
 地面も大分湿っている。
 歩き難い理由は獣道だからだけではなく、そういう所にも有った。
「一旦、休憩などは如何ですか?」
 この時点で、行程の半分以上は終えていた。
 時間も十分有る。
 フェルルの提案は特に問題無かった。
「気は抜けないけど、リラックスも必要だしね〜」
 亮は一旦辺りを見回し、丁度良い大きさの石に腰掛ける。
 其々、手頃な場所に落ち着き、暫しの休憩――
 と、言いたい所だった。
 僅かなニオイ。
「暑くなるのはイヤなのですが‥‥」
 チョココは立ち上がり、その白い扇を広げる。
 それだけで、十分だった。
「後ろからも来てるわ」
 徐に万理が樹上に飛び乗る。
 辺りには目視出来るソレは確認できない。
 しかし、全員が臨戦態勢に入る。
「あらぁ〜‥‥アヤカシですかぁ〜?」
 当の護衛対象は、朱塗りの杖を膝の上に置いて座ったままだった。


 相変わらず、アヤカシの存在は目では確認出来ない。
 しかし、チョココの瘴気結界に掛かった気配は明らかなものだった。
 万理は素早く樹上に上り辺りを見回す。
 そして、得物の弦を鳴らす。
 普通の人間では聞き分ける事の出来ない、共振音の差異。
 進行方向から複数。
 木々に隠れた泥人形がゆっくりと近付いて来ている。
「前、来るわよ」
 万理の声に、彼方は長槍の柄で肩を叩き、ゆっくりと前進する。
 そのすぐ後ろについた亮は、指を鳴らす。
 それとは別に、ざりざりと湿った砂利の音。
 人の形を何とか保っている泥人形。
 それらが、一体。
 二、三、四、五と姿を現す。
 そして、一行の前に姿を現すと同時に一斉に走り始める。
 泥を撒き散らすその手には刃毀れが激しく、所々錆びてしまっている刀が握られている。
 危うい造形とは裏腹に、意外と素早い。
「オオオオォォォォォォ!!」
「アアアアァァァァァァ‥‥!!」
 彼方とフェルルの声に、森が鳴動する。
 その中で、彼方の槍は何よりも早く敵の胸に突き刺さった。
 ずぶり、と沈み込む感触。
 手応えを感じるその前に、更に万理の矢が同じ泥人形の頭部に突き刺さる。
 確かに感触は有るのだが――
 未だ動いている所を見ると、ダメージの程が良く分からない。
 槍を差し込んだ時点で大分鈍ったので、効いてはいる様なのだが。
「だから嫌いなのよね」
 そう言って、万理は二射目の矢を抜く。
 フェルルはその間に、彼方とは別の泥人形に近付き、大きく踏み込む。
 彼方の槍と同じ様にフェルルのレイピアが敵の胸に深く突きこまれる。
 違いは、その刃に纏った炎。
 突き刺さった箇所が少し乾燥して色が変わっている。
 フェルルは刃に襲われる前に、レイピアを引き抜き、間合いをとる。
 ボロボロと落ちた土片は、動く事も無ければ、再生する気配も無い。
 単純な物理攻撃でも押せない事は無いのだろうが――
「さぁ、燃えちゃえ〜」
 無邪気な笑顔で、式を飛ばしたのはプレシアだった。
 一体の泥人形の身体を中心に炎の華が弾ける。
 泥人形は得物を落とし、悶える様にしていた。
 その背後、亮は炎を物ともせずに高速の拳を打ち込む。
 乾いてしまった身体には、少しの衝撃でも十分だった。
 亮の拳は泥人形の背中を割る。
 血の代わりに飛び散る砂。
「こっちの方が、楽に片付けられそうだね〜」
 亮は、彼方の足元に広がる水溜りの様に崩れてしまった泥人形を見る。
 二本の矢が浮いている。
 やはり、力尽くでも何とかなる様である。
「ちっとぉばかし、効率はぁ悪いけどな」
 呟いて、彼方は槍に式を奔らせ、振るう。

 気を練り、拳をゆっくりと引く。
 鋭い眼光が射抜くのは、自身の恋人に斬りかかるアヤカシ。
 ただただ、寸分の違い無く拳を空に衝く。
 泥人形の身体が撥ね、泥が弾ける。
 フェルルは統真の方を振り返ると、軽く微笑んで頷く。
 少しでも前衛に居る仲間が楽になる様に。
 統真はもう一度、気を練ろうと息を吸い込む。
 が――
「後方、アヤカシです‥‥」
「あらぁ〜」
 チョココと鶺鴒のおっとりとした声が響く。
 些か気が抜ける。
 フェルルは気掛かりだけども、決して負ける様な相手ではない。
 統真は振り返り、鶺鴒達の下に駆け寄る。
 数は三体。
 幾ら弱いからと言って、数が多いのが面倒だった。
「お任せ下さい」
 どうしようか、と考える前に生が一歩前に出る。
 そして、美しい装飾の施された杖を翳す。
 暫しの詠唱の後、泥人形達は壁にぶつかる様にして前進を止めた。
 石の壁が泥人形の機動力を一瞬だけ奪ったのだ。
 その間に、統真は壁を越えて、泥人形のすぐ後ろに飛び降りる。
 巫女の応援を受けた拳は、空を裂き、泥人形の頭に減り込む。
 残りの二体が、統真に反応し、刀を振り上げるが、集中するのは一体で十分だった。
 生の詠唱した文字列が片方の泥人形の周りの空気を凍てつかせたのだ。
「もうちょっと来ますよぉ〜」
 鶺鴒はゆっくりと壁の向こう側を指す。
 その言葉に、生は壁を登って確認する。
 追加で二体。
「良く気付きましたね‥‥」
「気持ち悪い音が、聞えましたのでぇ〜」
「確かに不恰好で、気持ち悪いですけども‥‥」
 チョココの言葉に、ニコニコと微笑みながら鶺鴒は答える。
「皆さんが頼りになるので、私は抜かなくても大丈夫ですねぇ〜」
 そうして、大きく頷く。

 短く息を吐き、肘を強く泥人形の中に沈み込ませる。
 亮は何体目かの敵を倒し、進むべき方向を見やる。
 続々と増える泥人形を相手しつつ少しずつ、少しずつ進んで来た。
 正直、埒が明かないと誰しもが感じたからだ。
 あくまでも、根来寺までの間、鶺鴒の護衛が目的。
 根絶やしにする必要は無いのだった。
「ごーごー♪」
 プレシアの放った式が容赦無く炎を作り出す。
 泥人形は乾燥し、皹の入った身体で鈍らの刀を振り回す。
 それ目掛けてフェルルのレイピアが捻じ込まれる。
 引き抜いて、今度は炎を纏わせて一突き。
 泥人形が崩れ落ちるのを確認して、息を一吐き。
 進行方向に残っているのは残り三体。
 内一体は、彼方の槍に見事に叩き潰されている所だった。
 式の宿った一撃は、それは重いもの。
 その攻撃は、槍には相応しくないであろう、潰すという表現が正しいと思われた。
「よし、前は残り一体だよ〜」
 亮は豊満な胸を揺らし、拳を構える。
「後ろはさっきよりも増えたわよ」
 万理は呆れの混じった声で答える。
 生が自身のスキルで敵の胸などを凍らせ、其処にチョココの応援を受けた、統真が全力で拳を振り抜く。
 炎とは真逆の性質を持った生のスキルだが――
 ただ一点「固めて砕く」と言う、発想は良かった。
 乾燥とは違って、本当に泥を固めてしまうので、中々砕く事は難しいのだが。
 それでも、効率はさして悪くなかった。
 はずなのだが、進むにつれ後方から追ってくる数の方が多くなってしまっていたのだ。
 取り合えず、難無く近くの敵を屠り、拳を下ろす統真。
「また来ますよぉ〜」
 間延びした声に、思わず天を仰いでしまった。
 気付けば、日の光が先程よりも随分多く感じられる。
 出口が近い証拠だ。
「既に隠れる事すらしませんね。 思ったよりも知能は高くないみたいですね」
 そう呟くと、光の矢を放ち、敵の足止めを図る。
 それに続けて、万理が衝撃波を伴った矢を射る
 光の矢は先頭の泥人形の足を止める。
 それでも後続は怯まずに前に出ようとするのだが――
 衝撃波がそれらを薙ぎ払う様に、吹き飛ばす。
「よし! 走ろう!」
 統真はそう叫ぶと、前を見る。
 其処には彼方達四人の攻撃を集中的に受けて、崩れてしまった泥人形の残骸が転がってていた。
 前進を阻むモノは今の所、見受けられない。
 そして一斉に走り出す。


 少し走った所で、視界が一気に開ける。
 途中、万理が追手に向かって衝撃波を伴った矢を放っただけで、十分逃げ切れた様だった。
「暑いのはイヤだと言ったんですけどね‥‥」
 肩を弾ませたチョココがぽつりと呟く。
 薄暗い森の中と言えども、幾分か涼しい、と言った所。
 一行は其々、額に薄っすらと汗を掻いていた。
「皆さ〜ん、根来寺に着くまでがぁ〜護衛ですよぉ〜」
 相変わらずの調子で鶺鴒は先を指差す。
 森を抜けて目と鼻の先。
 目的地である、根来寺が其処に在った。
「それじゃ、行こうか〜」
 地面に座っていた亮は立ち上がり歩き出す。
 それに合わせてゆっくりと歩き始めた鶺鴒に、生が一つ提案をする。
「帰りの護衛も引き受け様と思うのですが」
「ありがとうございますぅ〜。 けど、これをお渡ししたら少し滞在しようと思ってるのでぇ〜」
 鶺鴒は、ひらひらと手紙を揺らす。
「結局、どういった御手紙なんでしょうか?」
 そんな様子を眺めていた、フェルルはふと口にしてみる。
 鶺鴒はニコニコと言うよりも、心なしかニヤニヤしている様にも見えたからだ。
「いやんっ‥‥それはですねぇ〜、こ・い・ぶ・みですよぉ〜」
 こっそりと中身を読んだのだろう。
 鶺鴒の答えにフェルルは苦笑するしかなかった。