絶壁穿ちの瑠璃子
マスター名:東雲ホメル
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/01 03:53



■オープニング本文

 楼港の北には王子田流槍術の道場が在る。
 門下生は専ら遊郭で働く遊女、温泉旅館や料亭の女将、仲居――つまりは女ばかりなのだ。
 それについては、王子田流の師範が若い女である事が起因しているのかもしれない。
 師範の名は、王子田瑠璃子(おうしでんるりこ)と言う。
 彼女は子供の頃から槍の技を磨き、独りでに王子田流を極めていた。
 何時の間にか師である父を越してしまう程にだ。
 病弱な母親の代わりに飯を炊き、洗濯をし、掃除をし、そして槍を振るった。
 瑠璃子の記憶には、友達と遊んだ事よりも、そうしていた事の方が多く残っていた。
 世間を知るよりも、槍を知り、家を守る為の生き方を選んだのだった。

 話は変わるが、そんな彼女にも弱点と呼ぶべきものが存在している。
 瑠璃子には利々千代と言う弟が居るのだが、年は八つも離れている。
 瑠璃子は今年で二十と二。その八つ下の利々千代は、未だ十四だ。
 彼は母親に似たのか、病弱で姉の様に槍を振るう事ばかりか、同い年の子供と走り周る事も出来なかった。
 それ故、と言うべきだろう。
 瑠璃子は、そんな弟を度が過ぎる程に可愛がり、過保護に過保護を重ねて構う様になっていた。
 弟の利々千代は、かなり聡明であるが、それ以上に優しい少年であった事も拍車を掛けたのかもしれない。
 姉に弟離れを促そうにも、そう出来ないでいた。
 一度だけ「遠まわしに」構わない様に言った事が有ったのだが……
 あの時の瑠璃子の絶句した表情は二度と見れたものではなかったからだ。


 そんな姉と弟が居た。


 時は遡り、一つ、二つ、三月も前になるだろうか。
 北面の何処かで「貧乳一揆」なるものが起こった。
 貧乳、貧乳派が、巨乳、巨乳派を排除しようとし始めたのだ。
 瑠璃子は所謂、巨乳の部類であるのだが、利々千代の好みはそうではなかった。
 その噂を聞いた利々千代は飯時にも関わらず、思案し続けていた。
 素晴らしい思想じゃないか、と。
 そして、迂闊にもそれを口にしてしまったのだった。
「いやぁ、やっぱり貧乳じゃないかな」
 がちゃんと耳障りな音を聞き、振り返った後、利々千代は眉を顰めた。
「姉、上……?」
 天井を仰いだまま、何かをぶつぶつと呟く姉の姿からは恐怖以外の何も感じられなかったと言う。
 そういった感の無い利々千代でも分かる殺気。父親が物陰に隠れてしまう程の怒気。
「噂には聞いていたけれど……利々千代が、まさか……」
「いや、姉上! これは、その、別に……流石に僕だって、排除なんて――」
「待ってて、利々千代!! お姉ちゃんが……お姉ちゃんが解放したげるからねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
 疾風怒濤とは正にこの事。
 父と弟が呆気に取られている間に、姉は家を出て行ったと言う話だった。

 そして、現在。
 北面某所の巨乳派の塒は窮地に晒されていた。
 貧乳派は伝説の妖刀「巨乳殺し」を模した、妖刀「巨乳派殺し」を大量に投入していた。
 巨乳派の人間に対して何かしらの効果を発揮する様な気がする代物だ。
 しかも、アヤカシ「牛頭女」がその一団を率いているのだから、性質が悪い。
「大は小を兼ねる! 大は小を兼ね――ぐわあぁぁぁぁぁ……!」
「ヒャッハー! 根絶やしだぁ!」
 劣勢……圧倒的劣勢……!!
 巨乳派はこのまま潰れてしまうのかと思われていた。
「ほら、小は大を兼ねるって……言ってみなぁ!」
「巨乳道とは死ぬ事と見つけたりぃぃぃぃぃ!!」
「馬鹿め……では、死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
 巨乳派の男の耳には、刃が空気を裂く音が届いた。
「これ以上」
 しかし、痛みは無かった。
「これ以上、踏み込めば……死ぬのは貴方の方です」
「な、何者だっ……!?」
 貧乳派の振るった「巨乳派殺し」を軽々と折り、その槍の穂先を突き付けているのは女だった。
 槍の穂先はジルベリアに在る十字架の様な形をした、風変わりな十字槍だ。
「こ、こいつぁ……まま、まさか!?」
「私は王子田瑠璃子と申します。王子田流槍術の極意、味わってみますか?」
 貧乳派の男は目を白黒させて、そして、その場に尻餅を突いて叫んだ。
「ぜ、絶壁穿ち……!! 絶壁穿ちの瑠璃子が出たぞぉおおおおおおおお!!」
(「利々千代……お姉ちゃん、頑張るからね!!」)
 瑠璃子は鉄砲玉の様に戦場に飛び出していった。


■参加者一覧
雪ノ下 真沙羅(ia0224
18歳・女・志
斑鳩(ia1002
19歳・女・巫
水月(ia2566
10歳・女・吟
風鬼(ia5399
23歳・女・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫
熾弦(ib7860
17歳・女・巫
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎


■リプレイ本文

 正に鬼神の如き活躍を見せる瑠璃子の頭上から、一つの影が落ちる。
 瑠璃子よりも6寸ほど小さなその人物は、それでも瑠璃子に負けないくらいに主張が強かった。
 着地と同時に豊かな胸を揺らすと、貧乳派の面々に向かって声高に叫ぶ。
「みんな、やめて! どうしてそんなに争うの? 大きいとか小さいとか――」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)は自身の胸を、形が変わるほど抑えて叫ぶ。
「そんな事より愛が詰まってるかが重要だと思うの……」
 先に動いたのは、当然の如く貧乳派の人間だった。
「キェェェェェェェェイ!!!」
「きゃあっ!?」
 その鬼気迫る形相には何とも言えない迫力がある。
(「アヤカシにそそのかされちゃってるし、妖刀まで持ち出してくるなんて……」)
「ニンジャの力で、バッチリ鎮圧しちゃいます!」
 巨乳派の攻撃を易々と回避をしているルンルンを見て、瑠璃子は非常に頼もしく思うのであった。
「けど、人の悩みや嗜好と言うのは色々有るんですねぇ……」
 まさか、胸の大きさでここまでの争いに発展しまうとは思っていなかった。
 しみじみと呟いた斑鳩(ia1002)には、どうも今日の夕餉の方が気になっている様だ。
「わたしとしてはおっぱいがおっぱいであるだけでも素晴らしいと思うのですが……」
「ですよね!! そうですよねぇ!!」
 水月(ia2566)の言葉に物凄い勢いで賛同しているファムニス・ピサレット(ib5896)。
 水月はこの無益な争いを止めさせたい思いでおっぱ――いっぱいだ。
 しかし、それに賛同しているファムニスはどうだろうか。

 ドンッッッ!!

 と、そんな音が頭の中に響いている様だ。
(「右おっぱい! 左おっぱい! 手を伸ばせば即揉みおっぱい!」)
 おっぱい星のおっぱい村で生まれた彼女としては、今の状況下は天国。
 大きさについて特に何とも思っていない斑鳩ですら、かなりの大きさなのだから。
「な、何だか色々な視線が痛いですよぉ……!?」
 自身の肩を抱く様にして身震いしているのは雪ノ下 真沙羅(ia0224)、その人だ。
 貧乳派の攻撃的な視線、巨乳派の半ば信仰に近い視線、それとファムニスの視線。
 どうもそれを感じ取ったらしく、胸が強調される様なポーズをとって怖がっている。
 ファムニスや巨乳派に至っては、悩ましげに見えるその姿は垂涎物である。
「……」
 風鬼(ia5399)は表情を崩さず、密かにまた別の事を思っていた。
 その視線は、真沙羅から斑鳩、最前線で舞うルンルン、瑠璃子、水月とファムニスを華麗に飛ばして――
「まさか、巨乳殺しの派生品が出ていたなんて……しかも、大量生産だとか……」
 風鬼の視線は、呆れ気味の熾弦(ib7860)のはち切れんばかりの胸部に移る。
「……」
「しかし、流石にこれは放っておけないし、いきましょう」
「……そうですな」
 熾弦の言葉に半ば上の空で返事をして、風鬼は自身の胸に視線を落とす。
 絶望的な戦力差である。
「悔しくないですからね」
 こっち見んな。
「何の話だ?」
 風鬼の独り言が聞こえていたのか、思わずラグナ・グラウシード(ib8459)が振り返る。
 しかし、風鬼は首を振って、彼と目を合わせ様とはしない。
 背負ったぬいぐるみの額に巻かれた鉢巻には、こう書かれているのだ。
『つるぺたに価値無し!!!!』
 貧乳派じゃなくとも、誰かに殴られてもおかしくない主張である。
 風鬼の対応に首を傾げるラグナで、やはり彼の心には悪意は微塵も無かった。


 斑鳩にとって何が煩わしかったかと言えば、やはりその視線だった。
 斑鳩の持つマフラーは特別なものであるのだが、元々の魅力に加えて、更に艶やかさがそこに加えられる。
 ゆったりとした演舞だが、時たま揺れるその乳は巨乳派の人間の心を奪っていたのだ。
(「き、斬られたりしないといいけど……」)
 貧乳派の人間に目を着けられて、妖刀で斬りつけられる可能性も有る。
 巨乳派殺しは、巨乳派には効果が有ったとしても、巨乳には効果が有るのか無いのか。
 そんな疑問も浮かんでくるが、恐らく、貧乳派にとっては関係無いのだろう。
(「ど、どちらにしても斬られるのは嫌……!」)
 そんな訳で演舞を終えて、仲間に精霊の加護を付与した所で、斑鳩は迫り来る貧乳派に備えたのであった。
「お、おい! あそこに居るのは魔神牌紋のおっパイをモンだって噂の斑鳩じゃあないか!?」
「!?」
 確かに牌紋との戦いには臨んだが、おっパイをモンだ覚えは全く無い。
「迂闊に手が出せないな……どうする……おっ灰にされる可能性が有る、な……」
「!?!?」
「どうやら事前に流しておいた作り話が功を奏している様でさ」
「か、風鬼さん……!」
 失敬失敬、と言いつつ、風鬼はその場から戸惑っている敵陣へと切り込んでいく。
 そうして、勢いの落ちた貧乳派は余計に開拓者達に太刀打ち出来なくなってしまっていた。
 風鬼に足を踏みつけられて、次々と悶絶していく様子が斑鳩にも見て取れたのだった。
「えーっと、こう、かな?」
「ふぅ……良いと思いますよ」
 熾弦はわざと胸元を緩めて、白く美しい谷間を晒す。
 どうやら、貧乳派の注意を引く為らしい。
 そんな谷間の具合を背伸びをして一頻り確かめたファムニスは、急に冷静になって答えていた。
「来ましたよ! お二方!」
 そんな二人の前に滑り込んできたのは瑠璃子だった。眼前には貧乳派が大量に押し寄せてきている。
 熾弦は瑠璃子に言いたい事が有ったが、今は飲み込む事にして、その攻勢に備える。
 ファムニスも瑠璃子と熾弦のたわわな胸を交互に眺めながら、無言で刀を抜く。
「す、吸い込まれそうな谷間だっ!?」
「……やり辛い」
 貧乳派と言えども、流麗な動きの谷間に釘付けとなってしまい、斬撃を上手く当てられない。
 しかも、熾弦は感知出来ないほどの速度で貧乳派の懐に潜り込んで――
「何……だと……!?」
 貧乳派はその柔らかな感触の代償にその意識を手放す事になってしまった。
 熾弦は巨乳殺しの一件の際もそうだったが、その胸を存分に使って活躍をしてくれる。
 しかも、その後に続いて出てくるのがおっぱいを愛して止まないファムニスだ。
 彼女の手に握られた業物は殺人剣と呼ばれるもので、如何に妖刀と言えども峰で軽々と折る威力を誇っている。
「そんな物、羊羹と変わりませんよっ!」
 巨乳派殺しを折られた貧乳派の面々は、戦意を失ったのか項垂れたままである。
「ぐぅ……小は大を兼ねると言うのに……」
「どうやら、愚か者が揃いも揃って阿呆面を晒している様だな……」
 徐に前線へと進むラグナがそうして声を上げた。
「小が大を兼ねる、か。馬鹿者がっ!!」
 貧乳派を拳で殴り飛ばして一喝。項垂れた貧乳派は勿論、倒れ行く巨乳派の面々にもその喝が届く。
「諦めるな! まな板好き共にたゆんたゆんでぷるんぷるんな神の領域の良さを教えてやるのだっ!」
 もう既に何を言っているのか分からない、が、しかし、巨乳派はその喝で立ち上がる者も居る。
「左様です! さぁ、利々千代――もとい、我々の勝利の為に戦うのです!!」
「王子田殿! 貴女は全くに正しい!」
 にっちな騎士とアレな槍術道場師範が無駄に通じ合った瞬間だった。
 そうして一際激しい衝突が起こり、乱戦に次ぐ乱戦で場が支配されていた。
 そう言う訳も有ってか、他の仲間の支援を受けて、水月がその戦場のど真ん中に飛び込む事は然程難しい話ではなかった。
 貧乳派は牛頭女に魅了されていると言う話でもあった。
 その目を覚ますには、この方法しか無い。彼女はそう思い、危険を承知で渦中に飛び込んだのだ。
 皆が争う理由なんて無いんだよ、と。歌で伝える為に。
 戦いの理由が理由なら、正に聖女の様な行動であるが――
「大きくとも小さくとも、其処は母なる聖域。赤子の頃は誰しも包まれた場所」
 戦場を高速で駆け巡っていたルンルンは思わず足を止めて、耳を疑った。
「も、もしかして、これ……」
「暖かな優しさと安らぎに満ち溢れた、そんなおっぱいをどうか思い出して」
「おっぱいの歌だよコレー!?」
「くっ……!」
 ルンルンと同じ様に足を止めた風鬼は胸元を掴んで、目を逸らしている。
 貧乳派の人間、特に女の方も同じ様な反応を示している。
「だ、騙されるものか! おのれ、幼女であると言うのに何と恐ろしい魔女か!」
「おっぱいは争いを生む為に在るのではなく、平和をもたらす為にあるのです」
 巨乳派の攻撃をするりと避けると、水月は反撃すべく闘布を舞わせて、相手の頬をぺちぺちと叩き始める。
「な、何だ、ご褒美か!?」
「目を覚まして」
「ぐわぁぁぁああああ浄化されるぅうううううう!?」
 最早、何も言う事は有るまい。熾弦は頭痛のする思いで溜息を吐いたのだった。

 水月の活躍(?)により、貧乳派の勢いが一気に落ち、元凶である牛頭女の眼前まで迫る人影が在った。
 真沙羅だ。足元には何人もの貧乳派が倒れている。
 紅い燐光を辺りに漂わせて、邪魔をしたならば片っ端から気絶させてしまっている。
 貧乳派も、巨乳派も彼女に釘付けだった。そう、彼女のおっぱいに。
「皆さん、無理はせず、ご自身の身を守る事に集中……して……」
 貧乳派は駆け出しの開拓者よりも弱く、真沙羅にとっては然したる相手ではなかった。
 傍から見れば、無双の如き働きであったのだが……彼女はそれ以上に無双しているものに気が付かなかった。
「って、え、な、何で皆さん、私の胸をそんなにじろじろ見つめてるんですかぁー!?」
 A、B、C――思わず指折りで数えてしまうほどの脅威のカップ数、Mカップ。
 それがゴツゴツとして鎧に押さえ込まれて、ちょっと触ったら氾濫してしまいそうなのだ。
「わ、私のおっぱいは、こ、心に決めたあの方だけのものなんです! 見ても触っても良いのは――」
 頬に手を当てて、あれやこれやと言いつつ、体を悩ましげにくねらせている真沙羅。
 巨乳派、貧乳派関係無しにどよめきが広がっていく。
「アィェエエエエエエエエエエエイ!!!!!!」
 奇声と共に真沙羅に斬り掛かったのは件の牛頭女だった。
 鋭い踏み込みと共に、刃を胸元へと滑らせる様にして切り込んできたのだ。
 甲高い金属音が響き渡った直後、からんと何かが転がる音。
「だから、あの方なら存分に揉んでもらっても……って、きゃーっ!? いやぁーっ!?」
 おっぱいダム決壊。ぽろりも有ったら、この報告書は自動的に削除される。
 真沙羅は咄嗟に胸を隠し、残った手で刀の切っ先を走らせる。
 火花を散らしながら、牛頭女は飛び退き、そして悔しそうに地団駄を踏む。
「お前達ぃ!! こんな牛乳女なんか斬り捨ててしまえ!! あの幼女の歌に惑わされるんじゃあないよっ!!」
「皆さん、牛頭女です。確り援護致しますので頑張りましょう」
 斑鳩がゆさゆさと揺らしながら舞って、仲間に精霊力を付与し、その攻撃力を上げていく。
 が、牛頭女にとって、斑鳩おっぱいの攻撃力の方が問題だ。
「グギギ……」
「ははっ! 牛で在りながら、何だそのまな板っぷりは! まるで大平原だ! 私と変わらんではないか!」
「キィイイイイイイイイ!!」
 ボインちゃん好きのラグナにとって、牛頭女の様なまな板の神経を逆撫でする事は造作も無い事らしい。
 次から次へと挑発的な言葉が湧いては出てくる。
 そして、ラグナは備えた。ボインナイトとしての誇り、信念を剣と共に掲げ、その一瞬に備えたのだ。
「そんな考え! 修正してやるぅううううう!!」
「甘い!!」
 深紅の両手剣が閃いて、牛頭女の握った刀を跳ね除け、そして勢いそのままに牛頭女を押し返す。
 その傷口からはオーラと共に瘴気が溢れ出してきている。
「ま、未だだっ!! 巨乳、巨乳好きに負ける訳には……」
 しかし、巨乳派の猛攻は止まらなかった。
 気が付けば足元にはファムニスの姿が在ったのだ。
 そんなに巨乳を堪能したいのか、兎も角、ガンガンいく巫女である。
「あははは斬れろ、斬れろぉ!!」
「チェェェェイ!」
 刃と刃を交え、牛頭女が何とか腕力だけで押し返す。
「ぐ、このままでは……」
 牛頭女は薄い胸の前で謎の印を組んでいく。前情報に有った防御結界の印だろうと、開拓者達は直感した。
 そして、それと同時にルンルンは動いていた。
 僅か三.三秒の間隙を縫って、牛頭女に接近すると、牛頭女の背後を取り、全力で地面を蹴って飛び上がる。
 牛頭女は自身の視界が何時の間にか逆転している事に気が付くのだが、時既に遅し。
 背中からは桃源郷の様な暖かさと柔らかさ、そして良い香りが漂ってくる。
「ルンルン忍法、ニンジャドライバー!!」
 牛頭女は、見事にその「牛頭」を地面に突き刺したまま瘴気として霧散したのだった。
「哀れなアヤカシよ……次はボインちゃんに生まれてくる事だな……」
 雰囲気を出しているものの、言っている事は下らないラグナだった。


「瑠璃子さん! 弟さんが貧乳派に堕ちたのは、貴方がアレやコレやとさせてあげなかった反動です!」
「っ!? な、何の事でしょうかっ!?」
「全面開放しましょう! さぁ! そうと決まれば私と予行演習です! ウオォオオオオ!!」
「ファ、ファムニスさぁぁぁぁっぁん……!」
 場が収まるや否や、ファムニスが強引な理由で捲し立てて、瑠璃子の胸に飛び込んだ。
 ぐりぐりと顔を埋めて、幸せそうな顔でニヤついている。
「な、なぁ、瑠璃子君」
「はぁ、はぁい……」
 緩めていた胸元を正しながら熾弦は、瑠璃子に助言をしようと寄ってきた。
「弟君に好かれたい気持ちも分からなくもないんだけれど、こういう事してたら「巨乳怖い」なんて思われるんじゃないかしら」
「う……ぐぐ……そう、ですよね……」
「まぁ、一応覚えていてくれると……」
 瑠璃子はうんうんと頷くと、ファムニスを引き剥がしに掛かるのだが、全然引き剥がせない。
 そんな瑠璃子の隣では真沙羅が盛大に溜息を吐いている。
 斑鳩やルンルンに手伝ってもらって、何とかおっぱいダムの修繕が施されたのだが――
「はぁぁぁ……わ、私ったら何を……」
 大勢の前で恥ずかしい告白までしてしまったのだ。仕方がない。
 瑠璃子は何とかファムニスを引き剥がしながら、真沙羅の大胆告白を思い出して自分まで赤くなって目を逸らす。
 そして、じっと此方を見つめている水月と目が合ったのだった。
「どうかなさいましたか?」
「ん……」
 短く答えた水月は首を横に振って、少し懐かしい気持ちになっていた。
 彼女の胸に残る、遠くに微かに残る温もりの記憶。母の記憶がそうさせているのだった。


 瑠璃子、斑鳩、ルンルン、熾弦の乳を見た後、風鬼は死んだ魚の様な目で真沙羅の胸を見る。
 やはり圧倒的な戦力差。
 お子様二人と、ボイン教信者のラグナは外したとしても、込み上げるものでもあるのだろうか。
「断じて悔しくなんか――」
 こっち見んな。