鯖とロリータ
マスター名:東雲ホメル
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/26 17:03



■オープニング本文

 神楽の都。燕子は南の大路に面する飯屋で、焼いた鯖を睨んでいた。
 普段、魚など口にしないのだが、ふと気が向いて食べる事にしたのだ。
 が、先程からその鯖の身を箸で抓んで固まったままだ。
 年に似合わぬしかめっ面のまま、無言のまま、燕子は「警戒」していたのだ。
 何に警戒していたのか、と言われれば、燕子自身も「分からない」と答えるだろう。
 しかし、彼女には確かにその気配を感じ取る事が出来たのだった。
 燕子は目だけを左右に泳がせて、周囲の客の様子を伺う。
 特に変わった様子など有る筈もなく、皆目の前の飯に夢中になっている。
 つまりは、燕子だけに向けられた何かしらの感情がその空間に介在しているのだ。
「実に不快だ……こう、死んだ魚の目を覗き込んでいる様な、そんな感じだ……」
 勿論、鯖は切り身である為、頭などは無い。実際に覗いている訳ではない。
「と言うか、後ろから物凄い生臭さを感じる……」
 燕子はうんざりした様に息を吐くと、三つ程拍子を取って、素早く振り返る。
「!?」
 そうして、その気配、いや、視線の正体に気が付いたのだった。
 自身の後ろの席に座った、ローブを着て、そのフードを目深に被った人物。
 胡散臭さの塊の様な人物の、その素顔がちらりと見えたのだ。
「……さ、鯖……?」
 その魚顔に思わず言葉を溢してしまった。
「やべぇサバ! 気付かれたサバ!」
「っ!?」
 鯖顔の人物は、燕子が自身の正体に気付いた事を悟るや否や、あっと言う間に店を出て行く。
「おい、お前!! 待て!!」
 虚空を掴む様に手を伸ばしてみるが、鯖顔が聞く耳を持つ訳も無く――
「何……怖い……」
 珍しく子供の様な口調で呟く燕子であった。

 近頃、そういうアヤカシが出るとの報告が有ると言う。
 ギルドを訪れた燕子は、先程の鯖顔の事を思い出しながら納得した様に頷く。
 飯屋や魚河岸、釣り人の周辺等、目撃場所は多数で、目撃情報から一匹や二匹ではないと言う。
 しかも、ふざけた姿をしているにも関わらず、被害はふざけたものではない。
 その鯖顔が現れた場所では、必ず特定の人種が消えていると言うのだ。
「誘拐、か?」
「うん。しかもアレよ……必ず、ロリ、いや、年齢の低い女の子が攫われてるのよ」
 ギルドの職員で燕子の友人、大路神子は眼鏡を外して、疲れた様に目頭を押さえている。
「何だ? ロリコンか?」
「燕子ちゃん……その言葉、何処で覚えたのよ?」
「お前の持ってる薄い本だけど?」
「はぁぁぁぁぁ……!! 駄目よ、勝手に読んじゃ!!」
 まぁ、それは如何でも良い。そんな気分で、燕子は机の上の依頼書を手に取った。
 そして、何となくこの依頼を受けなければならない様な気がしていた。
「それと神子。好みについてはとやかく言わんが……」
「な、何よ?」
「あたしは百合の気は無いからな?」
「分かってるわよぉ!!」
 大路神子、今年の夏で二十七になる。


■参加者一覧
ヘラルディア(ia0397
18歳・女・巫
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
リィズ(ib7341
12歳・女・魔
甲真優(ib7843
16歳・男・泰
ミーリエ・ピサレット(ib8851
10歳・女・シ
多由羅(ic0271
20歳・女・サ
ビシュタ・ベリー(ic0289
19歳・女・ジ


■リプレイ本文

 砂利を踏みしめて大路を行く幼女が一人。
 名をリィズ(ib7341)と言うのだが、幼いのは外見だけで――
「にしても、ロリコンの鯖って意味不明だね」
 アヤカシとは言え、と呆れてしまう様な存在が跋扈していると言う。
 彼女は今まで生きてきて、そんな者に出会った事など無かった。
 そう、この二十数年でただの一度もだ。
 顔には出さないが、まさかそんな珍妙な者に出くわすとは思っていなかった。
 そんな彼女は大路を堂々と歩いている事には訳が有る。
「何だか妙な依頼だな」
「小っちゃい子は攫うんじゃなく、愛を囁いてモノにするんだって、ご主人様が言ってた♪」
「……そ、そうか」
 角からリィズの背中を見守りながら、ラシュディア(ib0112)は自身の下から覗く幼女に頷いた。
 彼はロリコンの気は無いので、いまいちピンと来ない言い分であると思う。
「早く助けようね! 燕子ちゃん!」
「そうだな。あたしも野放しにはしておきたくないしな」
 その幼女、ミーリエ・ピサレット(ib8851)は腕を組んで壁に寄りかかった燕子に声を掛ける。
 リィズから付かず離れずの位置。彼女の跡をつけるべく、三人は其処に潜んでいた。
「そろそろ目撃場所だよっ」
 ミーリエが広げた地図に描かれた印は、確かにこの付近に有った。
 無言で頷き合った三人は散会し、大路を挟む様に歩き、其々「後続」に目印を残していた。
「さぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 此処に降ります一匹の熊――」
 そうして暫く歩いていると、大路の脇に人だかりが出来ているのが見えた。
 この人だかりの中心に居る獣人の女、ビシュタ・ベリー(ic0289)。
 何を隠そう、この女もこの任に就いている開拓者の一味だ。
 リィズをつける一人でもあるのだが、ラシュディアやミーリエ、燕子とは明らかに違う。
 彼女の行動は通りを歩く「一般人」を惹きつけているのだ。
 ラシュディアやミーリエ達は、その人だかりの横を通り過ぎて行くのだった。

「どうも、この感じは妙に気持ち悪く感じますね」
 そう言って溜息を吐いたのはヘラルディア(ia0397)は、自身の傷の具合を確かめる。
 あまり芳しくない、と言うのが正直な所ではある。
 だが、こんなに理不尽な事を放っておく事も出来ずにいた。
「まぁま、無理は禁物だぜ」
 ヘラルディアの前を行く村雨 紫狼(ia9073)は、気持ちゆっくりと歩きながら笑った。
「リィズちゃんさんなら確実に釣れるって、鯖だけに。それに鯖が街中を闊歩してるんだ、きっと臭うぜぇ〜」
 鯖だけに、と付け足して、先に行った仲間が残した道標を回収する。
「そうですね。それまでは私達も行動を起こせないですしね」
「そう、なんだけどな……鯖野郎……何のつもりか知らねぇが許せねぇ」
 甲真優(ib7843)は頷きながらもギリッと歯を鳴らした。
 子供好きな彼にとっては、子供に危害を加える存在など到底許せるものではないのだ。
 だからこそ、こうして我慢している時間がとてつもなく歯痒かった。
「か弱い幼女を狙うとは、許し難きアヤカシですからね」
 多由羅(ic0271)も、苛立った気配は見せないものの、真優と同じ様な気持ちであった。
 しかも、危険な役目を仲間に任せているのも、彼女にとっては不本意なものであったのだ。
 不安を解消するには、兎に角、どれだけ早くこの依頼を完遂させる事が出来るか。それが重要だった。
「そうだな。いたいけな美幼女達をかどわかす悪逆卑劣なモンスターめっ!!」
(「なんて羨まし――」
「途中から声に出ていますよ?」
 ヘラルディアの指先に灯った火種を見て、紫狼は下手な口笛を吹いて誤魔化す。
 そして、そんなやり取りを交わしている内に事が動いたのであった。

 リィズが人だかりを過ぎてすぐの角を曲がる。
 其方の方向へと向かう人影はリィズを含めれば「五人」だ。
 リィズ、ラシュディア、ミーリエ、燕子の四人の他にもう一人。
「むむっ……」
 物陰に隠れていたミーリエがその人影に気が付くと、例の鯖顔の特徴を思い出す。
 フード付きのローブを目深に被った、如何にも怪しい人物。それが鯖顔の特徴であるのだ。
「如何にも、と言った所だな」
「お魚さんのニオイもするよ」
 すんと鼻を鳴らしたミーリエは、微かに漂ってきたそのニオイを逃さなかった。
 一応、普通の人間に怪しまれない様に上手く隠されてはいるらしい。
 通りの反対側に周ったラシュディアに合図を送ると、彼も頷いて様子を伺う様にしている。
 そして、ミーリエのシノビの一般人を軽く超越した聴覚がその会話を捉える事に成功したのだった。
「そ、そこの道行く、お、お嬢ちゃん」
(「上手く釣れたか」)
 リィズは一呼吸置いて、小首を傾げる様にして、その声の主の方へと振り返る。
「なぁに?」
「お兄ちゃんと、あ、遊ぼうサバ」
(「うぅ、覚悟はしていたけれど……本当にガリガリと来るね……」)
「おにいちゃん、おさかなさん?」
「フヒヒ、そうサバ。鯖サバ」
「えー、おさかなさんとあそぶのぉ〜?」
「きっと楽しいサバよ? こ、こっちサバ」
「ん、じゃあ、あそぶ!」
 リィズは会心の笑みを浮かべて、鯖の後について行く。
 そんな光景を眺めて、ラシュディアは燕子とミーリエに手で合図を送って、追跡を開始する。
「おぉ? 奴さんが釣れた様だぜ」
 離れた位置に隠れていた紫狼が呟く。
 笛の音が一つ聞こえ、多由羅が素早く店仕舞いをして動き出していたのだった。

 鯖顔の男は、先程の笛の音を多由羅の見世物に使われたものだと思い込み、特に警戒する事は無かった。
 だからこそ、ラシュディアは難無く追跡を成功させる事が出来た。
 町外れの廃寺。
「此処なら人気も少ないし、誘拐してくるのにはうってつけの場所だな」
 わざわざ小さい女の子だけを狙って誘拐するのだ。ロクな事ではないだろう。
 ラシュディアの考え通りに、何かの生贄にされるのならばこうした場所でなければならないだろう。
「全員揃ったぞ」
 燕子がそう言うと、先ずはラシュディアとミーリエが、入り口に立っていた二匹の鯖顔の見張りを始末しに動く。
 ぱたぱたと無防備にその視界に飛び出したミーリエに、見張り達はギョっとして驚く。
 が、そうして気を取られたが最後だった。
 三角跳にて死角に飛び込んだラシュディアが、その背後から忍刀を突き立てる。
「ギョ」
 短い断末魔は、その刃が急所を突いた事を告げていた。
 そして、もう一匹はと言うと――
「ギョギョー!? 幼女に縛られるぅ〜サバァ〜!!」
 あっと言う間にミーリエに縛られて、他の開拓者達に囲まれてしまっていた。
「さて」
 暗剣を引っ込めて、燕子は地面に伏せられた鯖顔を見下ろす。
「な、何するサバ!? これ以上ご褒美をくれても、何も無いサバよ!?」
「……駄目、ですね」
 何故か嬉しそうな鯖顔を蔑みつつ、ヘラルディアは溜息を一つ吐いた。
「あの太腿だ。気持ちは分からなくも――」
「何か?」
「笑顔で火種を向けないでくれよぉ!」
 紫狼は泣いて真優の後ろに隠れる。ヘラルディアの笑顔には、名状し難き恐ろしさが在ったからだ。
「貴方達の目的は何ですか? 正直に答えて頂きたいのですが」
 多由羅がすらりと抜いた水龍刀が、鯖顔の頬をひたひたと叩く。
「は、ははぁ〜んサバ……お、お前ら、開拓者サバか。なら、魚に口無し。喋る事なんて無いサバよ」
 その言葉を受けて、ビシュタが鞭で地面を叩き、乾いた音を響かせる。
 鯖顔はミーリエを上に乗せたまま、びくりと身を震わせる。
「フヒ、それになぁサバ、もう遅いかもしれないサバ……おっと、これ以上は……」
 鯖でも笑うと分かるもんだなぁ、と思いつつ、紫狼は後ろを指差す。
「そろそろ我慢の限界みたいだぜ?」
「ギョギョ!?」
 指と首を鳴らして、あからさまに怒気を含んだ視線で鯖を睨みつけている真優が其処に居た。
「疑わしきは罰せず、なんてよく言ったもんだが……お前達は例外だ!」
 つまり、どの道、退治される他ない。今回はそれに加えて、真優の怒りを買っている。
 鯖顔はこの後に起こる事に考え居たって、青い肌を更に青くさせる。
「ま、待つサバ!! 言うサバ!! じ、実は幼女を誘拐してた訳は――」

 リィズが連れて来られたのは、廃寺の地下だった。
「さぁ、こ、此処が遊び場所だサバ」
 階段を下りた先はぽっかりと開けた空間。
 その中心には奇妙な魔方陣と大きな水溜りの様なものが在った。
「アレは……」
「鯖神様を蘇らせる儀式サバよ」
「鯖神様?」
「そうサバ……鯖のサバトを経て行われる、鯖神様の復活サバ!」
 リィズはその言葉を聞いて合点がいった。
 鯖顔が幼女を誘拐していたのは、ラシュディアが予想していた通り「生贄にする為」だったのだ。
「未だ儀式は執り行われていない様だな。ボクの他に誘拐した子達は?」
「それは其処に……って、雰囲気変わったサバか? 随分ませた喋り方な気がするサバ」
「そりゃ、ボクは二十後半だからね」
「!?!?」
 驚きで固まった鯖顔を尻目に、リィズは鯖顔に示された方向に向かう。
「ちょ、ちょっと待つサバ! 出会え、出会え! 合法ロリだサバ!!」
 そんな叫びと共に現れたのは一匹の鯖。
「フヘヘ、鯖神様は合法ロリも好物サバ。寧ろ、合法の方が――っ!? お前、如何したサバ!?」
 鯖顔は叫び声を上げて、加勢に来たはずの仲間の惨状を確認した。
「に、逃げるサバ……ボコボコにされるサバ……」
 びちゃりと水音を立てて倒れたボコボコの鯖顔の背後には、青筋の立った真優が居た。
「子供を生贄にするだって? 冗談だよなぁ?」
 更にその後ろから、他の開拓者もぞろぞろと姿を現す。
 既に何匹か倒して来たのだろう。上から加勢が来る様子は微塵も無かった。
「ま、未だだサバ! 我々の戦力は未だ尽きていないサバよっ!!」
 物陰からぬるりと飛び出した鯖顔が、ミーリエ目掛けて一直線に進む。
「幼女幼女幼女!! 幼女のかほりサバ!!」
 しかし、そのぬめった手がミーリエに届く事はない。
 紳士として、幼女に危害が加えられるのは見過ごす事など出来ない。
 それに作戦に関して言えば、真面目に取り組む事を心情としている。
「邪魔するってんなら、俺の二天の鯖に……いや、錆にするまで!」
 地面に崩れ落ちる鯖顔は、無念そうにミーリエに手を伸ばすと瘴気となって霧散していく。
 紫狼はその二刀を振るうと、他に隠れている鯖に対して威嚇を始める。
「今の内に女の子達を助けに行くのだ!」
 ミーリエと燕子はラシュディアと共に、リィズの下へと駆け寄ると、牢の中の様子を伺う。
「……何と言うか」
「まったく、本当に理解し難いアヤカシだね」
 ラシュディアとリィズは深く溜息を吐く。
 可愛い桃色の壁紙に、ふかふかのベッド。
 メルヘンちっくな家具で埋め尽くされている牢など、何処の世界に在るのだろか。
 誘拐された女の子達はベッドの上で静かな寝息を立てている。
 ガチャと音が鳴れば、それはミーリエが鍵を破った証拠である。
「どうやら、届出と此処に居る子供の数は一致している様だな」
 燕子の言葉を聞いて、ラシュディア達は安堵するのだった。

 鞭が空気を裂いて、鈍く光る鱗を叩く。
 ビシュタが腕を振るうと同時に、ビチッと音を立てて鯖顔の身体が跳ねる。
 フードが完全に取れて、口をパクパクと動かしている様子が窺える。
 あんなものが窓から覗いていたら、確かに正気ではいられないかもしれない。
「本当に鯖神なんてものが復活するのかね?」
 鞭で責めながら、パクパクしている鯖に丁寧に尋ねる。
「ひぅんサバ! 復活するサバ!」
「本当の事を言わないとあんな感じになるかもね」
 ビシュタが指した方向には、多由羅に捌かれた鯖が刺身の様に落ちている。
 また別の方では、更に大量の鯖の切り身が落ちている。
 近くには「やれやれ」と言った感じで、余裕を持った雰囲気で紫狼が佇んでいた。
 しかも、何とか付けた傷もヘラルディアが回復させる為に無意味に終わってしまっている。
 つまり、鯖単機では開拓者達には到底適わないのだ。
「ほ、本当だサバ……弱った鯖神様に幼女を喰らわせて、復活を図ろうと……」
 弱った鯖顔は、ビシュタにそれだけ伝えると瘴気となって空間に溶けていく。
 鯖顔の瞳からは、何も読み取る事は出来なかったが嘘は言っていない様に思えた。
「ぐぐ、こうなったら最後に幼女に触るだけ触って捌かれるサバ!!」
「うおらぁ!!」
 リィズとミーリエに突進する鯖顔に、鉄槌と言わんばかりの勢いで、真優が拳を叩き込む。
 鯖は鰓の部分を殴られたらしく、ビチビチ跳ね回って悶絶している。急所らしい。
「ヒギィサバァァァァ!! 鬼畜外道サバァァァ――あっ……」
「精神衛生上、良くないモノはさっさと片付けてしまった方が、ね」
 リィズのホーリーアローを受けた鯖顔は、市場で並べられている商品の様に動かなくなる。
 とても買えたものじゃないのだが。
「に、逃げるサバか?」
「そうするサバ! 幼女は此処じゃなくてもいっぱい居るサバ!」
「鯖神様とやらがどうなっても良いのかぁ!? つーか、幼女は全員俺に感謝するだろうなぁ!!」
 地下空間に響く声は紫狼のものだった。
「幼女に感謝されてチヤホヤされて――グギョッ」
「幼女の笑顔を独り占めだなんて――メギョッ」
 何時の間にか、鯖顔の後ろに回りこんでいたラシュディアとミーリエ。
「やっぱり邪悪以外の何者でもなかったな」
 何度目かも分からぬ溜息を吐いて、ラシュディアは事件の決着を感じていた。

「大丈夫か? 怪我は無ぇな?」
 打って変わって、真優は心配そうに誘拐されていた女の子の一人に声を掛ける。
「うん! お父さんとお母さんに会えなくて寂しかったけど、お魚さんも皆も居たし!」
 そんな言葉を聞いて、リィズとヘラルディアは何とも言えない気分になっていた。
 誘拐されていた女の子達は、特に怪我も無く、精神的に病んでいるという訳でもなかったのだ。
 紫狼は、そんな二人にロリコンの何たるかを語ろうとしたが、ラシュディアに肩を叩かれて止める事にした。
「そう言えば、今回の騒動の元凶は如何なったのでしょうか?」
「あぁ、ギルド側が処理してくれたみたいだ」
 多由羅の言う元凶とは、勿論「鯖神様」の事なのだが――
 どうにも地下の水中深くに沈んでいて、それなりの装備が無いと処理出来なかったのだ。
 しかも、眠った状態であっても、かなりの大きさであった為にギルド側でも梃子摺ったらしい。
「おなかいっぱいになっても未だ残ってそうなのだ!」
「まぁ、儲かるだろうな」
 ビシュタは同い年くらいに見えるミーリエと燕子の会話を聞きながら、密かに笑うのであった。
 どうも片方は鯖の様に生臭い考え方をする子だ、と。
(「うーん、お腹空いたな」)
 そうして、彼女は自身の空腹に気が付くのだった。