妖刀「巨乳殺し」
マスター名:東雲ホメル
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/20 08:08



■オープニング本文

 万商店の裏口にて、鶺鴒は暁に頼まれた商品の確認をしてもらっている最中だった。
「妖刀、ですかぁ〜?」
 暁がそういう商品を手に入れて欲しいと頼まれたのだと、うっかり口を滑らせてしまったのだ。
「そうそう、何でも……あ、やべ……」
「何がやばいのでしょうかぁ〜? 口止め料さえ頂ければ口外致しませんよぉ〜」
 暁は項垂れた。目の前の女はそういう輩なのだ。金さえ積めば、何とかなってしまうのだけれども。
 しかし、繁盛している万商店とて無用な出費は避けたいもの。自身の小遣いなんてもっての外だ。
「どうしますぅ? どうしちゃいますぅ?」
(「悪魔や……! 守秘義務を徹底すべきやったんや……! この人はそういう人なんや……!」)
 ぐぬぬ、と自然に声が漏れ、暁は頭を抱える。
「ほらほらぁ〜、早くしないとぉ〜――」
「あぁぁぁぁぁ!!」
 と、咄嗟に声を上げた瞬間だった。

 暁に電流走る。

 妙案。それは一つの妙案だった。
「あ、あの、せ、鶺鴒さんにその仕事を紹介しようと思ってたんだ!」
 勿論、そんな事はないのだが…出費を抑えて、かつ依頼を完遂する妙案だ。
 ほぅ、と唸って鶺鴒が踵を返して、暁に歩み寄ってくる。
(「釣れたー!! ぃよぉるぅぁああああ!! シノビの一本釣りなら任せろぉ!!」)
「で、その妖刀なんだけれども、何でもきょ――」
「きょ〜?」
「……巨乳」
「はい〜?」
「巨乳殺しって言うんだってさ……何でも巨乳の人に対して絶大な切れ味を誇るらしいよ……」
「はぁ〜」
「対巨乳艦隊用決戦刀とも言うらしい……うん……」
 暁は深く後悔した。猛省どころの騒ぎではない。天儀の大地を貫く勢いで穴を掘りたかった。
 暁、一生の不覚。彼はこの日を忘れないだろう。羞恥心で耳まで真っ赤にしている。
「あ〜」
 微妙な表情の暁を眺めて、鶺鴒は要らぬ事を思いつく。そして、気付かれぬ様ににやりと笑う。
「お好きなんですかぁ〜?」
「……へ?」
「ですからぁ〜、お好きなんですかぁ〜?」
「なん……だと……?」
 鶺鴒はわざと屈んで、分かり易く自身の胸を寄せる。陰殻西瓜も真っ青だ。
「いや、ちょ……そういう事ではなくてでしゅね……あ、いえ、ですね……」
「お嫌いなんですかぁ〜?」
 にじり寄る鶺鴒から、目を逸らしながら、一歩ずつ後退する暁。
「いや、好き嫌いではなくてれすね……ですね……あの、ぼかぁー未だ齢十四でして……」
「年齢は関係無いですよぉ〜。触って確かめてみますぅ〜? 良い物ですよぉ〜」

 暁に二度目の電流走る。

「あ……いや、まぁ、鶺鴒さんが言うのであれば? えぇ、仕方無いなぁ」
 努めて表情は崩さぬ様にしたが、鶺鴒はシノビだ。もしかすれば、全てお見通しなのだろう。
 しかし、暁少年は大人の階段を一つ上るべく、鶺鴒の言葉に従った。
「は〜い、手を差し出して下さいねぇ〜」
「え? あ、あぁ……こう、かな? まぁまぁ、僕も吝かではないですよ?」
「はいっ、どうですぅ〜?」
 すべすべである。
「すべすべ、柔らか……いや、意外と冷たくて硬いですね……まるで西瓜みたいだって西瓜だよぉ!?」
 薄目で触ったモノを確認するや否や、暁は声を荒げて飛び上がる。
「西瓜じゃないか!!」
「えぇ、そうですねぇ〜」
 してやられた。暁はまたも後悔した。悪魔の囁きやったんや、と小声で呟いて後悔した。
 耳と尻尾をピンと立たせて、目じりに涙を薄っすらと浮かべて鶺鴒を見上げる。
「謀ったな……僕の……僕の……」
「僕のぉ〜?」
「僕の純情を返せ! あ、やっぱりいいや! 料金発生しそう! うわぁぁぁぁぁぁん!」
 暁は律儀に依頼の内容が書かれた紙を投げ捨て、商品と共に万商店内に走り去ってしまった。
 鶺鴒はひらひらと舞う紙を抓むと、口元に手を当てて笑いを堪える。
「意地悪し過ぎましたでしょうかぁ〜。ぷーくすくす」
 依頼が終わったら、謝りに行った方が良いだろう。
 そんな事を思いながら、鶺鴒は胡散臭い妖刀を回収すべく、紙に目を落とす。
「女性の鍛人の作った妖刀ですかぁ……あらぁ〜? アヤカシも出るんですかぁ〜?」
 女鍛人の刀塚。巨乳殺しは其処に眠っていると言うのであった。
 お約束の如く、こういう類の話にはアヤカシが付いて回るのが常。
 先ずは開拓者ギルドにて仲間集めを行わねば。鶺鴒はそうして、開拓者ギルドへと向かったのだ。


■参加者一覧
神町・桜(ia0020
10歳・女・巫
川那辺 由愛(ia0068
24歳・女・陰
風鬼(ia5399
23歳・女・シ
ルー(ib4431
19歳・女・志
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫
ヴィオラッテ・桜葉(ib6041
15歳・女・巫
熾弦(ib7860
17歳・女・巫
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎


■リプレイ本文

●刀塚―女鍛人、小守平乃―

 巨乳と聞いて、とまで言ったかは分からない。
 しかし、鶺鴒に同行する開拓者は、疾風迅雷の如く集まったのは確かだった。
 これも乳と言う神の産物の賜物か、はたまた暁きゅんの人徳か。
 鶺鴒はパンと手を叩くと、前方に見える刀塚を指差して声を上げた。
「あぁ〜、アレですよぉ〜」
 何も無い、平坦な土地のど真ん中にぽつりと建っている未だ新しい刀塚。
 その周りには既にアヤカシ、金の眷属の姿があった。小鬼の様だ。
「何と言うか、その…女性の意地や執着と言うものは凄まじいものだな…」
 暑い訳ではないが、ラグナ・グラウシード(ib8459)は頬を伝った汗を拭う。
 それも仕方の無い事。ラグナはちらと横目で、並ぶ開拓者の姿を見る。
「女鍛人が生きておれば、わしの為に巨乳殺しの薙刀も作ってもらったのじゃがっ」
「女鍛人の気持ちはすごーっく分かるわ…けどねぇ? 出来ればあたしが欲し…うん」
 神町・桜(ia0020)と川那辺 由愛(ia0068)は妙に真剣に呟いている。
「ま、それは置いといて、由愛は一番小さいから女鍛人の抑えにはピッタリじゃな!」
「!?」
 由愛は自身の胸元を押さえ、驚愕の表情を見せた所で、風鬼(ia5399)が口を挟む。
「星四つの大型が三人、星三つの中型が一人、星二つの小型が私、星一つの薄型が一人…」
 何の査定だ。そう言わんばかりに桜と由愛は風鬼の方を向く。
「子供と男は除くとして…あ、桜さんを子供扱いするなって?」
「言うてないわい」
「いやぁ、失礼。じゃ、桜さんは星無しの超薄型で」
「やったね、服の形が崩れないよ――って、如何いう事じゃ!」
 声を荒げる桜を置き去りにして、風鬼は脱兎の如く逃げる。
「兎も角、物騒な物が何時までも出回っていても、落ち着かないし…女鍛人も解放してあげたいし」
 そんな三人の様子を見て、熾弦(ib7860)は苦笑しつつ言う。
「いつもお世話になってる万屋の看板少年もピンチって聞いたけれども」
「いや、うん、ピンチって訳じゃあないんだ。傷付いてはいるかもしれないけれど」
 ルー(ib4431)は暁の件について、恩返し出来れば、と思っていたのだが――
 一部始終を見ていた熾弦の話を聞くと、何とも言えない表情になって笑う。
「ま、まぁ、アヤカシが出てるから、戦うのは無駄ではないよね」
「とすると、アレが件のアヤカシ化した女鍛人でしょうか…」
 ヴィオラッテ・桜葉(ib6041)は視線を刀塚の頭の方へと向ける。
 その先には、何時の間にか現れた女鍛人の姿が在った。
 ヴィオラッテは遠目に観察をすると、自分の胸元に目線を落とす。
 自身に有って、相手に無い物。控え目ではなく、何も無いとは如何いう事か。
(「斬られたくない…これ以上、肩こりを酷くされたくもありません…!」)
 白刃が視界に入ると、ヴィオラッテは無意識に自身の肩を揉む仕草を取る。
 師曰く、肩こりと巨乳の関連性は断言出来るものではない、と言う。
 しかし、それでも巨乳の女性が多く肩こりに悩まされている事も事実。
 そんな悩みを知ってか知らずか由愛は、査定の結果に囚われていた。
(「あぁ〜妬ましい…妬ましいわ…!」)
 頭を抱えるヴィオラッテに、ルー、熾弦、鶺鴒を並べれば――大豊作である。
 地方の農村で派手な大収穫祭が行われるくらいにたわわに稔っている。
 農民大歓喜。
 そう思えば、どんどんと視線は鋭くなる一方だ。
(「まさか…由愛さんも…いえ、まだそうと決めるには早急ですよね」)
 ファムニス・ピサレット(ib5896)は由愛の様子を窺いながら、悩まし気な声を上げる。
(「巨乳殺し…鍛えた方は巨乳の方に相当な恨みがあったのでしょうか?」)
 しかし、怨嗟の結果と言えども、巨乳を斬り捨てるなんてもっての外である。
 巨乳は、大きなおっぱいは、じっくり眺めて、触って、それから――
「こう、徐に、指をむぐぅ」
「それ以上は駄目ですよぉ〜」
 鶺鴒に後ろから口元を押さえられて、じたばたともがくファムニス。
 しかし、突如として大人しくなり、鶺鴒の方に身体を預けてしまった。
(「この後頭部の感触は…! 幸運の助三郎…らきすけと言うやつですか…!?」)
 あっ、と思う間に鼻血を垂らし、息遣いを荒くするファムニス。
 彼女の中の野獣が目を覚ましつつあったのだ。
「これは…案外苦労するかもしれないな…」
 そういう訳も有って、ラグナは天を仰いで唸った。

●散る火花、揺れる乳

 縄張りに入ると金の眷属が奇妙な声で鳴き、鋭利な爪を袖口から覗かせた。
 伸縮自在とは言え、それは届く範囲の話であるらしく、それ以上の動きは見せない。
「川那辺さん」
「何かしら?」
「あの爪で え ぐ ら れ る と痛そうですなあ」
「名指しで言わなくても良いじゃない! 泣くわよ!」
 そんな会話の一方、女鍛人は刃の切っ先を開拓者に向けて、何かの数を数えている。
 ラグナは勿論、何となく桜と由愛、ファムニスは外された様な感じであった。
「あの、お手伝い頂けますでしょうか?」
 ヴィオラッテの問いに、鶺鴒は快諾の意を示した。
「えぇ〜、その為に来たのですからぁ〜」
「費用はそっち持ちでお願いしまさぁ」
 風鬼は鶺鴒の横に歩み寄って言うと、鶺鴒はころころと笑って続ける。
「割に合わなかったらぁ〜、搾れる所から搾りますよぉ〜」
 如何やら妖刀の回収を命じた依頼主の事らしい。
 その会話に割り込んできた者が居た。
「搾ル…? 何ヲ搾ル…? 貴様! 私ニハ搾ル所ガ無イト言ウノカ!」
「凄い被害妄想だ!?」
 凄まじい殺気を感じ取ったラグナは数歩前に出ると、大剣を構えて衝撃に備える。
 女鍛人が勢い良く跳び上がったのだ。
 鈍く重い音と思わぬ強い衝撃。
 そもそも刀鍛冶がアヤカシ化したのだ。膂力が有ったとしても驚く事ではない。
 更に強烈な感情を力に変換しているとすれば、何の不思議も無い。
「貴様! ヤハリ男! 小ヨリ大カ!」
「誤解だぁ! そこまでは望んでいない!」
 何故か必死になって否定をするラグナ。その背中に何故か突き刺さる敵意。
 その主は、ゆっくりと息を吐くと静かに言葉を紡ぐ。
「ったく、無様な姿を晒して…大人しくなさい!」
 ラグナを弾いて、三尺三寸ほど後ろに飛んだ女鍛人の腕に絡みつくのは注連縄。
 符を虚空に放って、その式を呼び寄せたのは由愛だった。
「其方は任せたよ」
 熾弦はラグナと由愛にこの場を任せて、仲間と共に金の眷属の方へと向かう。
 すると、それを拒むかの様に眷属達は次々と絶壁を大地から噴出させる。
「全く、凸凹が無い」
「絶壁…私のじゃ、斬るに至らなさそう」
「わしゃ、申し訳程度には有るわ! 何じゃ、着るに至らないとは!? この服も着れるだろ!」
 此方でも桜の被害妄想が爆発していた。
 そして、その矛先は金の眷属に向く。
「ふん、やはり貴様等には用は一切無いのじゃ! さっさと倒れるが良いわ!」
 用が有るとすれば、女鍛人の持つ巨乳殺しの一振りのみ。
 桜は薙刀を振り上げると、風鬼とルーの援護を受けて絶壁をすり抜ける。
 精霊力の走った薙刀は、上手く眷属を捉えると、爪と交わって火花を散らす。
「やはり、物理的な防御力は高そうだけれど」
 熾弦はそう言って、扇で宙空を仰ぐ。
 すると、標的となった眷属の腕が空間ごとぐにゃりと捻られる。
 奇声を発しながら絶壁の陰に隠れた所を見れば、やはり術には弱いらしかった。
 その絶壁に螺旋を描いた鉛弾が、鈍い音と共に突き刺さる。
 ルーの手応えとしては、堅牢であるものの破れないものではないと言うものであった。
「それにしても、妙なだるさが…」
 女鍛人の術か、とは思いもしたが、聞いた通り自身の何かが重くなった感覚はない。
 気を張っていても、常にだるさが身体に纏わり付いているのだ。
「おっぱい力を低下させる結界式ですかぁ〜」
「おっぱい力って、何…?」
 熾弦が呆れた様に聞くも、鶺鴒は「さぁ〜」と曖昧な答えを返すだけだった。
 しかし、看過出来ないものである事は間違いない。
 ファムニスは横目でヴィオラッテの揺れ具合を確認しつつ、舞う。
 さっさと片付けて、おっぱい力を奪うと言う結界式をどうにかせねばならないのだ。
(「ちょっと近寄って、ちょっと手を伸ばせば――静まれ! 私の左手!」)
 暁きゅんではないが、可愛い顔をした人間には強い野性が秘められているのか。
 ファムニスはアヤカシだけではなく、己自身とも戦っていた。
 そんな中、戸惑いながらヴィオラッテは白霊弾を従者へと撃ち込む。
 両手を構えると、胸が寄せられて、更に強調される事には気付いていないらしい。
 知覚出来ていない事ほど強力無比で、それ以上に残酷な事はない。
 ヴィオラッテのそれは明らかに勝者のものであった。
 当人の意思や思想が如何あれども。

●胸とは二つにして重くなるもの

 七人が眷属と喧々諤々とやり合っている間。
 ラグナと斬り結んで、それでも尚、女鍛人、その勢いは落ちなかった。
 寧ろ、徐々にその殺気が研ぎ澄まされてきている様にさえ思える。
 由愛の下から複数の蜂型の式が飛び、女鍛人を襲う。
 眷属の特性から言って、物理的な攻撃よりもこういった攻撃の方が有効らしい。
 女鍛人の動きが瞬息の間、止まる。所謂、好機である。
 ラグナは襤褸衣姿の女鍛人に向かって突撃を敢行し、直前で剣を振るい上げる。
「己の欲に取り憑かれて、そうなったか…哀れな!」
「胸モ哀レデス…貴様ァ!」
「誤解だぁ!? そんな事は言っていない!」
 妖刀ごと弾き飛ばされた女鍛人は、何やらぶつぶつと独りごちる。
「ゴニョ巨乳ゴニョ破裂シロゴニョB以上ハ全部破裂シロ」
「途中、巨乳破裂しろって言った!? 最後の方ははっきりB以上破裂しろって言った!?」
 ラグナが勢い良く乗り切った直後、明らかに場の空気が変わった事に気が付く。
 空気が纏わり付く感覚。地面に向かって引っ張られる感覚。確かな重み。
「やだ何これ初めての感覚怖い…」
 ラグナはそう言ってすぐに後ろに下がる。顔を背けて、耳まで真っ赤にしている。
「ッ!」
 これは想定の範囲外の出来事。何えもんも想定不可能な出来事。
 男だから、そう言ってラグナは高を括っていた。
 しかし、違った。女鍛人の術は、ありとあらゆる「おっぱい」に対して効果が有る。
 例え、それが雄っぱいであろうとも、それが――
「何故!? 重量感だけなの!? 何故!? 大きく出来ないのよぉぉぉぉぉ!!!」
 由愛に火が点いた。理不尽だが、これも運命の齎した結果。
 その声に驚いたのか、ファムニスが前屈みになって転ぶ。
「痛っ…! 最近、擦れると痛いんです…」
 胸の辺りを押さえているが、何がとは言ってはいない。
 膝だろう。そりゃ、転んだら擦れて痛い。膝の先だ、間違いない。
 如何やら女鍛人の術は辺り一帯に効果を及ぼすものらしい。
 ファムニスよりも奥に下がっていたヴィオラッテも青褪めた表情で、舞っている。
 正直な話、これは避けたかった。
 気持ちではあるが、胸も若干大きくなった気がする(その様な効果は有りません)
 視線も先程よりきつくなった気がしてくる。
「突き刺さる様な視線が!? い、嫌です…拒否します…」
 情けない声を上げて、それでも断固とした態度で、じりじりと後退していく。
 断固桜葉。気丈であるのか、それとも情けないのか。
 しかも、運悪く女鍛人はその声に反応してしまったのだ。
 ラグナを押し返し、蜂型の式を振り切ると、女鍛人は全力で跳ねる。
 目標はヴィオラッテ――の乳。
「小守傑作ガ一ツ、巨乳殺シ、参ル!」
 熾弦は力の歪みで眷属の身体を捻じ切ると、すぐに間に割って入ろうとする。
 しかし、その先にはルーの姿。訳有って、どちらも回避出来ずに衝突してしまう。
「お…重い…ゴメン」
「いや…此方も少し馬鹿みたいな移動の仕方をしたから…」
 熾弦は胸の重さを考えて、それを振り子の様にして移動したらしい。
 が、やはり上手くいかず、急な方向転換やブレーキに移れなかったらしい。
 そして、都合によりルーが下、熾弦を上にして向かい合ったまま倒れこんだのだ。
 拉げる。ひしゃげる。形が崩れる。押し潰される事。滅多に無い光景である。
 四つの双丘が互いに、歪に潰し合う光景など、正しく芸術の域である。
「忘れちゃあいけない、此方の大型も」
 救世主、風鬼が女鍛人の背後に付くと一瞬で間合いを詰める。
 利き腕側の肩甲骨に深く突き刺さっていく。
 ラグナとの斬り合いを見る限り、コレに痛覚は無い。
 そうなれば、もがくだけでも充分な結果が得られると踏んだのだ。
「離セ!」
 叫び、風鬼を無理矢理引き剥がす。
 それでも、女鍛人は気が付かない。自身の手から今にも滑り落ちようとしている得物に。
「全く、アヤカシになってしまったのが残念じゃの。此処で再度成仏させてやるのじゃ」
 眷属を一体、薙刀の穂先で穿ち、押し込めると、桜はラグナの突入経路を確保する。
 残りの眷属は、鶺鴒の口から噴き出した火炎で焼かれている。
「と、とにかく、倒してしまえば…このまま射撃!」
 むにむにと動くと、ルーは螺旋弾を女鍛人に向かって放つ。
 そして予め神楽舞の効果を得ていたラグナが大剣を頭上に翳す。
「さぁ、貴女の妄執、断ち切って差し上げよう!」

 瘴気が撒き散らされる中。
「せめてもの供養よ。貴女の怨念、あたしが貰っていくわね」
 由愛は符をこれでもかと胸に押し付けて、瘴気を回収する。
 気合や嫉妬で大きくならぬ様に、瘴気や怨念では乳は育たない。
「知ってるわよ!」

●妖刀の行方

 風鬼はあっけらかんとして言った。
「振り回したいって人が居るなら止めませんが」
 流石にそれは居ないらしく、誰もが首を横に振っていた。
「ま、斬られて重くなっても構わぬしの?」(そんな効果は一切有りません)
 桜は惜しい出会いであったと少しばかり嘆く。やはり、小守の銘の薙刀が欲しい。
 それは叶わぬ事なのかもしれないのだが。
「あの…大きくても良い事は有りませんよ? 肩は凝るし、男性の視線は気になるし」
 何より、下着のサイズが合わない、とヴィオラッテは言うのだ。
 師曰く。そもそも肩凝りの原因の一つに下着の問題が――
「あー、酒よ、酒! 呑むに限るわ!」
 由愛が声を上げて歩き出す。長い前髪の隙間から、覗く瞳はやはり鋭い。
「まぁ、心の傷は癒せないけれども…身体の傷くらいは、ね」
 そう言って苦笑した熾弦の癒しを受けながら、ラグナは思う。
 贅沢は言わない。出来れば掌から零れるくらいで形が良くて色香だけではなく瑞々しさも感じられてしかも肌が綺麗で触り心地が良くて、なんてそんな贅沢は言わない。
 思うだけだ。
「やっぱりお好きなんですねぇ〜」
「っ!? な、何がでしょうかな!?」
 鶺鴒に見抜かれ、声を上擦らせるラグナ。
 最後の最後まで、気の休まらない依頼であった、とラグナは語る。