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■オープニング本文 武州の大規模なアヤカシの争乱は続いている。 しかし、だからといって他が平和になるという訳ではないようだ。 まだ暑さの残る八月の終わり、ギルドにアヤカシ退治の依頼が持ち込まれた。 場所は理穴の南方の街道沿い。小さな村や宿場町がぽつりぽつりとあるいわゆる田舎だ。 その街道沿いには、大きな沼地があった。 沼地のような湿地帯は動植物が多く、一帯は近隣の村々にとっては貴重な狩場でもあるのだが‥‥。 そこにアヤカシが現れたというのである。 発見されたのは数回、薬草を採取していた薬師や狩人が遠目に見かけたとのこと。 貴重な採取や狩の場所にアヤカシがでるとあれば一大事、ということで退治依頼が出されたのである。 討伐対象は、鬼系を中心としたアヤカシ十体弱。 おそらくは湿地内をまとまって行動していると思われるよう。 湿地はかなりの広さがあるものの、目撃証言や殺された動物の痕跡をたどれば追跡は容易いはず。 特殊な環境での追跡と戦闘になると思われるので、その注意が必要になると思われる。 さて、どうする? |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔
巳(ib6432)
18歳・男・シ |
■リプレイ本文 ● 「頭を使ってくるアヤカシほどメンドーなもんはナイナ・・・・二倍気をつけにゃならんシ」 沼を前に、少々うんざりしながら呟いたのは梢・飛鈴(ia0034)。 装備を調えつつ、さて沼に進もうという状況である。 だが、そんな彼女の耳に届いたのは妙に楽しげな声たちだった。 「さすがに俺の装備だと田下駄でも沈むようやけど、嬢ちゃんなら大丈夫みたいやな」 「わ、これなら確かに動きやすそうです」 手に入れた板で田下駄を作ったのは天津疾也(ia0019)。 彼は、それを鈴梅雛(ia0116)に譲ったようであった。 具合を確かめる用に沼地でぺたぺた歩いてみる雛。それを良いぞ良いぞと見守る天津。 そんな二人を、じとっと見つめる梢。 「・・・・ほらほら、雛に疾也、それに飛鈴もそろそろ行かないと」 苦笑しつつそんな彼らに声をかけたのは彼らと親しい水鏡 絵梨乃(ia0191)だ。 彼女の言葉に促され、へいへいと疾也が答えたり。 そんなやりとりを見ながら、煙管をくわえた雲母(ia6295)と椿鬼 蜜鈴(ib6311)は、 「おうおう、賑やかだなぁ」 「ふむ、やはり皆泥にまみれるのが嫌なんじゃろう。ま、文句を言うても詮無いことじゃがな」 そういって、くつくつとのどの奥で笑うのであった。 経験豊富な開拓者の多い今回の依頼。 そんな彼らは沼地の不利をよくわかった上で作戦を立てているようであった。 「地の利は完全にあちらに握られておりますか‥‥」 しかし秋桜(ia2482)がいうように地の利は敵にあるということも事実だが、それも把握済みだ。 「‥‥さて、どのような兵法を用いてくるのか、敵ながら勉強させて頂きましょう」 にこりと微笑む秋桜、どうやら不利な状況であっても開拓者たちは戦意十分なようであった。 ● 沼地を進む一行。彼らはすでに用意周到に作戦を立てていた。 まずは、敵を探索しつつ沼地を進んでいるのだが、その人影は八名に足りなかった。 「沼‥‥。いいねぇ、いかにも何か出そうって感じじゃねぇか」 けらけらと笑いながら歩む巳(ib6432)を先頭に、6名の開拓者が沼地を進んでいた。 2人の姿は足りないのだが、それももちろん作戦だ。 今回の先頭で、もっとも注意すべきのは敵の連携だと彼らは気づいたのである。 強力な遠距離攻撃手段である弓使いの鬼と、近接型の金棒鬼。 それが沼という、潜伏や待ち伏せ、偽装をしやすい地形によって連携することを危惧したのだ。 経験豊富で装備も潤沢な開拓者といえど、強弓の一斉射撃を受ければ危険である。 だが、地の利が敵にある以上、待ち伏せや死角からの攻撃の可能性は非常に高いと踏んだのだ。 つまり遊撃の2名は、そうした敵の策に対する備えなのだ。 「しかし‥‥雛の嬢ちゃんは田下駄があってよかったな。この深さだと足が立たないんじゃねぇか?」 ふらりと振り返った巳、視線の先には田下駄でぱしゃぱしゃ進んでいた雛だ。 今回、じつは秋桜も小柄なのだが、さらに小さい雛。 にまっと笑いながらのからかいの言葉に、くりっと首をかしげる雛は、 「‥‥確かに、足がつかない深さのところもあると思います。風邪を引いてしまいますね」 だいぶ涼しくなってきましたし、とまじめな顔の雛。 「いや、風邪で済むのかどうか‥‥でも、田下駄があってもやっぱり水が跳ねちまうな」 「そうですか?」 かくん、と首をかしげて足下を見やる雛。そんな雛の裾の泥を払ってやったのは、蜜鈴だった。 「ふむ、まぁ、泥に塗れてしまうのは仕方ないのう‥‥依頼が終わったら湯浴みをせねばの」 「あ、湯浴みといえば‥‥」 そう蜜鈴に言いかけた雛だったが、それを制したのは、巳だ。 すっと手をあげて、合図をだせば仲間は即座に意図を察知して、息を潜める。 ひやりと広がる静寂。 昼なお暗い木々の茂る沼地。まばらな木々の間からのぞくのは曇り空。 遠くでなく鳥の声だけが小さく響く中、ぽたりぽたりと服から垂れる水滴の音すら大きく聞こえて。 そんな中、巳はにやりと口元に笑みを浮かべた。 「‥‥さて、かくれんぼの時間は終わりだぜ? 蛇が“鬼”ってのもおもしれぇじゃねぇか‥‥」 そして取り出したのは苦無。それを、何も居ない場所に向かって即座に投げる。 水面に飛び込む苦無。その刹那、聞こえたのは金属音だった。 次の瞬間、沼からざばりと姿を現したのは金棒鬼とその背後の弓鬼。 強弓を引き絞る音を頼りに、蛇は超越聴覚でその居場所を見抜いたのだ。 偽装を見抜いた巳、だがその攻撃は金棒に阻まれた。 そして、敵はまだ二匹だけ。それはつまりまだ敵方が有利ということだ。 「‥‥明らかに数が少ねぇな‥‥待ち伏せか?」 油断無く周囲を見渡す巳、それに答えたのは、 「おう、前方の茂みにも二匹おるようやで」 疾也であった。彼は、そういってきりと弓を引き絞って、 「やれやれ、へんに知恵のあるやつは面倒やなぁ。まあ、どっちが狩る者かをしっかり教えてやるけどな」 といって心眼「集」で見抜いた敵の場所へ矢を放ったのだった。 その言葉とほぼ同時に、二方向から放たれる矢。 最初の一組から放たれた矢は、即座に囮として飛び出していた絵梨乃を狙った。 だが、十二分に待ち構えていた絵梨乃。酔拳の動きで軽やかに矢を回避。 そして、二本目の矢は疾也を狙って放たれた。 だが、狙いは甘く疾也の髪を掠めてあさっての方向に飛んでいく矢。 みれば、すでに弓鬼の肩には疾也が放った矢が突き立っていた。 一瞬の早業、最初の一矢は疾也の勝利。そして、開拓者は一気に敵の殲滅のために動き出すのだった。 ● 鬼たちの必勝手段。それは沼地に隠れ潜んでの待ち伏せだ。 すでに露見した弓と棍棒の組、二つ。そして、戦闘開始と同時にもう一組が別方向から出現。 だが、それに対応したのは早々に潜伏していた開拓者の別働隊だ。 「ふん、ここまで予想通りとは・・・・沼地は面倒だが、まだまだ手応えはないな」 煙管をくわえたまま、自分も沼地のなかからざばりと現れて弓を放ったのは雲母。 鏡弦ですでに敵の場所は補足済み、弓鬼が矢を放つより早く連射の矢が鬼をうがつ。 もちろん、鬼は単独ではない。護衛役の金棒鬼も沼地から現れていたのだが、 「・・・・矢は一本たりとも撃たせるわけには参りません」 金棒鬼が気づくより早く、水面を蹴って奔り寄る秋桜。 シノビの技、水蜘蛛によって水を足場とすれば、地の利はシノビにあり。 気づいたときにはもう遅い。金棒鬼の守りも間に合わず、秋桜は雲母の矢を受けた鬼に肉薄。 「これで、とどめです」 閃く忍刀、腕を切り飛ばされて崩れる弓鬼。 もちろん、残る棍棒鬼も、雲母と秋桜の連携の前にあっという間に倒されるのであった。 一方開拓者本隊はといえば、こちらも奇襲を切り抜け戦闘続行中。 「的となるとはいえ、余り無理は致すな」 蜜鈴はそういって、矢を交わし続ける絵梨乃を援護。 片方の矢に集中できるよう、石の壁を作り出して射線封じの一手。 「助かったよ、蜜鈴! ・・・・一気に仕留めるよ、疾也と雛、ボクの援護よろしく!」 「おう、隙つくったるで!」 「安心して、戦って下さい」 絵梨乃の言葉に、答える疾也と雛。 疾也は、矢を放ち金棒鬼と弓鬼の攻撃を封じ、雛は神楽舞で絵梨乃を強化。 そして絵梨乃は至近距離から放たれた苦し紛れの矢を軽々交わすと、接近しての崩震脚! 泥の中にたたき込まれた一撃は、泥と水を爆発的に噴き上げて、二体を巻き込んで。 そうなればもう後は楽勝だ。満身創痍の鬼二体を始末にかかる開拓者であった。 「・・・・終いだ。――逝け」 水蜘蛛で一気に接近し、最後の弓鬼を背後から急襲した巳。彼がまず最初に気づいた。 まだ数が少ない。 現在現れたのは二匹が三組、合計六匹。まだどこかにいるはずだ。 「ふん、鬼と蛇、どっちが悪知恵が働くか、なんて思ってたが、鬼もなかなかやるじゃねぇか」 そういって耳を澄ませた巳が気づいたのは微かな水音。 場所は、残った最後の金棒鬼の相手をしていた飛鈴と蜜鈴の至近距離だ! 「飛鈴、蜜鈴、後ろだ!!」 とっさに飛び退いた飛鈴と、よけながら火球を放つ蜜鈴。 その背後から現れたのは、ほかの金棒鬼より一回りは大きな鎧姿の鬼とさらなる金棒鬼だった。 だが、巳の警告はまにあった。 「危ないで、飛鈴!」 とっさに鎧金棒鬼の攻撃をそらそうと、矢を放つ疾也。 その矢は金棒をふりおろす腕を守る小手に命中。痛打は与えられなかった模様。 だが、飛鈴めがけて振り下ろされた豪腕の一撃をわずかにそらすには十分であった。 疾也の助力で回避した飛鈴、 「うっかりでもこの一発は貰えンな」 沼の底をえぐるほどの強烈な一撃で飛び散る泥水に眉をしかめつつ飛鈴は呟いて。 だが、回避と同時に彼女は退かず、あえて一歩鎧鬼に接近。 裏一重での回避から、転反攻で鎧の隙間をえぐる極神点穴の連打! もちろん、敵はこの一軍の首領だ。それでひるむ相手では無い。 だが、十分以上の勝機をもって彼女は、大鎧鬼の金棒の一撃を待ち構えるのだった。 そしてその攻防と同時に、鎧鬼と一緒に現れた金棒鬼は蜜鈴を狙っていた。 後衛である蜜鈴にとって、凶悪な攻撃力を持つ金棒鬼の一撃は脅威。 だが、彼女は口元に笑みを浮かべたまま、金棒鬼と対峙しているのだった。 「ほれ、かかって来んのか?」 蜜鈴の挑発に応えるように金棒をふるう鬼。 だが、そのとき金棒の一撃より早く巳と秋桜の苦無が金棒鬼の肩につきたった。 弱まる一撃、それを蜜鈴は雛を守りつつアゾットで受け止めて、いなす。 そして、なんとそれだけではなく至近距離から火球を鬼の顔面めがけて投げつける! 広がる火炎を水に濡れた着物の袖で軽々と散らしつつ、 「わらわは然様にか弱く見えたか? 侮る無かれじゃ」 そういって、燃えながら崩れていく鬼を前に、蜜鈴は不敵に微笑むのであった。 そして、同時にもう一つの決着も付いた。 鎧の金棒鬼、今度はよけられまいと横殴りの一撃。 対する飛鈴、待ち構えていた絶好の一撃に気合いを込めて、軽やかに回避。 それどころか、足下を通り過ぎる金棒を足場にしてそのまま懐へ。 次の瞬間、はじける点穴への連打。 ぐらりと鬼が体勢を崩せば、 「ふむ、ここまでやれバ、後は任せるカ・・・・」 そういって飛び退った飛鈴の言うとおり、遠方より疾也と雲母の矢が次々に鎧の狭間に命中して。 大鎧の金棒鬼もついには倒されるのであった。 ● 「ん、ちゃんと全部倒せたみたいだね。雛は手当てしてくれてありがと」 周囲を見渡す絵梨乃。どうやら彼女の言うとおり、無事依頼は完遂できたようだ。 だが、ほっと一息ついて思い至るのは自分たちの惨状だ。 着物は泥まみれ、田下駄を履いている雛もはねた泥水で汚れた姿で、 「たまには相手になる敵とも戦いたいものだがなぁ・・・・こんな敵は勘弁被りたいな」 きせるをくわえたまま、雲母が面倒そうに自身の姿を見てため息をついて。 「皆泥に塗れて居るのう・・・・帰って湯浴みせねばの」 と、そんなため息が移ったのか蜜鈴もはぁとそんなことを言うのだった。 すると、それを聞いて、はっと顔を上げた雛。 閃癒での仲間の手当も終わったようで、かくんと首をかしげると 「そういえば、ひぃな言い忘れてました。この近くに、温泉があるらしいです」 みんなで行きます? と首をかしげる雛に、大いに驚く開拓者の女性陣。 次に上がったのは大きな歓声だ。 女性開拓者たちは、それは一番いい知らせだと雛を褒めて、帰路を急ぐのだった。 そして、そんな仲間の姿をぽかんと見送る疾也と巳。 二人とも、やれやれと肩をすくめるようにして、苦笑しつつ彼女たちの後を追いかけるのだった。 |