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■オープニング本文 暑い、暑すぎる、と嘆く開拓者諸君に朗報。 武天の山岳地帯にて、アヤカシの活動が確認された。 その山は、かなりの高さがあるのだがそれほど険しくはないよう。 裾野が広くなだらかで、周囲一体を展望出来ることからかつては戦略上の拠点としても有用だったとか。 今では、立ち入る者はおらず、近隣の村から時折山麓に人が向かう程度。 だが、その雪で覆われた山頂にてアヤカシが見付かったという。 それは岩人形。岩で構成された巨人のアヤカシだ。 数は最低三体。麓まで降りてこられてしまえば危険、ということでギルドは依頼を出すことにした。 山を登り、岩巨人を撃破せよ。 山岳地帯にあって、街道からほど近い村から徒歩でほぼ2時間。 うっそうと木々の生い茂る森の中にその山はぬうっとそびえ立っていた。 山頂は雲の上、山岳地帯なので多くの山々が峰を連ねているが、その山は頭一つ高いようだ。 開拓者達は経験で、山を登れば登るほど息苦しくなりまた気温が下がることを知っている。 この季節、高山であるその山の山頂付近はまだ雪が残る冬のような気温だ。 防寒の備えが必要となるかもしれないが、その分報酬は高いだろう。 さて、どうする? |
■参加者一覧
和奏(ia8807)
17歳・男・志
ルエラ・ファールバルト(ia9645)
20歳・女・志
利穏(ia9760)
14歳・男・陰
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
ティンタジェル(ib3034)
16歳・男・巫
レジーナ・シュタイネル(ib3707)
19歳・女・泰
アルセリオン(ib6163)
29歳・男・巫
巳(ib6432)
18歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●暑中より森へ 山中のアヤカシ退治。 開拓者であれば、人の少ない秘境や僻地へとアヤカシ退治に赴くことは少なくない。 だが、アヤカシという者は人を喰らわんとするものだ。 全く人がいない場所に現れるわけは無く、人を求めて移動するのが常である。 そのため、今回のこの依頼はちょっと変わっていると言えるだろう。 「今回のように、人の訪れぬような場所にさえも、アヤカシはいるのですね」 そう呟いたのはジークリンデ(ib0258)。暑そうに扇で自分をぱたぱた扇ぎつつそういえば、 「人間を食するアヤカシさんが、人がいるとは思えない高いお山の頂上に‥‥」 改めて不思議ですと首を傾げる和奏(ia8807)。 「‥‥むしろ見つけた方が凄いですね」 「たしかにそうですね」 と、銀髪の魔女と箱入りの志士は、不思議ですねーとのほほん待機中であった。 彼らが待っているのは他の開拓者達だ。 山を登るとなれば備えは必要。それぞれ装備や道具、防寒具などの備えをしているようなのだが、 そこに遅れてやってくる人影が二つ。 1人は、肩を杖でぽんぽんと叩きながら、手にした書付に視線をやる背の高い男だ。 「遅くなってすまない。この村で山に詳しい者からちょっと話を聞いてきたのでな」 下調べをしてきたのはアルセリオン(ib6163)、なかなかに用意周到なようである。 そしてもう1人は、いろいろと買いこんできた様子の利穏(ia9760)。 「わ、みんなもう集まってる‥‥おそくなりました」 なにやら買い物をしていたようで。 「なんだか遠足みたいで楽しそ‥‥‥い、いえっ、何でもありません」 と、思わずそう言いかけつつも、真面目に依頼の準備を始めるのだった。 ちなみに、利穏が手にしているのはどうやらおやつのようで。 今回最年少の利穏がちょっと楽しみになるのも分かるような夏の陽気の山登り。 依頼は和気藹々と滑り出すのであった。 山を登り始める一行。 アルセリオンだけではなく、和奏も村で情報収集は万全のよう。 余り人が訪れない山ではあるが、かつて使われていた山道の場所をたどっての登山となるのであった。 いくつかの目印や遠景から道を探る方法ぐらい開拓者ならば身につけているものだ。 道が整備されているわけではないが、それほど苦労することなく一行はすすむのであった。 行く道の木々を払いながら足取りも軽く、暑さを感じながらも順調に登山は進んでいる。 そんな道中、 「‥‥皆さん、ご相談したいことがあります。あくまで一案ですが‥‥」 志士のルエラ・ファールバルト(ia9645)が切り出したのは今回の作戦についてであった。 長柄の槌を杖のようにして歩きながら、彼女が提案したのは陽動作戦である。 地の利が無い状況において、少しでも有利に戦闘をするために、まず場所を作る。 そして、そのあとそこに岩人形をおびき寄せて闘おうというのである。 待ち伏せによって戦力を集中しようという短期決戦の作戦だ。確かに、良い作戦だろう。 だが、そこには一つの問題があった。囮の危険度が高いということだ。 敵の岩人形は攻撃力の高さにおいて油断ならない相手である。 囮による陽動を行うと言うことは、陽動時その攻撃に身をさらす必要があるということだ。 しかし、他の開拓者たちはその作戦に異を唱えなかった。 「なるほどな‥‥まぁ、危険だが闇雲に動くよりはましだ。いっちょ試してみるか?」 にぃと笑みを浮かべて陽動を受け持とうといったのは巳(ib6432)。 「では、私も陽動を。回復役は必要でしょうし」 同じく陽動班に、と声を上げたのは巫女の青年ティンタジェル(ib3034)。 「三体目撃されていますし、慎重に行動しないとだめですよね‥‥私も陽動に加わらせて下さい」 そして三人目は泰拳士のレジーナ・シュタイネル(ib3707)。 これに提案者のルエラが加わり、四名での陽動と四名での待ち伏せという作戦が決まったのであった。 あとは山を登ってアヤカシを探すだけ。 足取りも軽く、開拓者は一気に五合目を目指して山を登っていくのだった。 ●山の夜と朝焼け 開拓者達が野営地に選んだのは山のおよそ五合目に位置する場所であった。 登山開始より、荷物を抱えておよそ4時間。 昼頃に登り始めた一行は日が沈み始める頃には到着していたようで、すぐに野営の準備を始めるのだった。 「あしたは早朝から動き始めたいですからね。今日は早めに休みましょう」 小型天幕を用意しつつ和奏がそういって。繊細そうな外見だが、手慣れた様子で野営の準備中だ。 彼らが野営地として決めたのは、木々の間の開けた場所であった。 五合目は木々の生える限界点なのだろう。気温は冷え込み肌寒い程度で木々はまばら。 もう少し登れば木々がなくなり、アヤカシに見付かる可能性がある。 ということで、木々の間に隠れつつ、小さな焚き火を起こして野営の準備をしているのであった。 そして、やはり開拓者達の心を奪ったのは木々の間から見える下界の光景だ。 「澄んだ空気、眼下に一望できる風景‥‥良いものですね」 ほうと息をついて下界を眺めていたのは利穏。その言葉に思わず仲間たちも景色を眺めて。 「‥‥すごい。こういうの、見ると‥‥世界は広いんだなって思いますね」 同じように眼下を見下ろして息を呑んでいるのはレジーナ。 そしてアルセリオンも、 「天儀とはなんと水と緑が溢れた土地なのだろうか‥‥」 そういって景色を眺めるのだが、 「‥‥ふん。山の風が淀む前に正しき風の巡りを取り戻さなければな」 そういって、改めてアヤカシへの闘志を燃やすのだった。 十分な水分補給、そして防寒対策。開拓者達はここまで体力を温存していた。 そして、さらには食料。 ジークリンデやらは粗食で十分だとギルドから必要経費で手に入る保存食を食べようとしていたのだが。 「麓の村で分けてもらってきました」 せっかくならと必要経費で食料も買いこんでいたのはティンタジェル。 涼しい中、振る舞われた具材たっぷりの雑炊に一同はほっと一息ついて。 さらには利穏の買ってきていたお菓子も振る舞われたようで、明日に備えて英気を養う一行であった。 見張りは2人交代で一晩中。だが早めに野営を開始したために時間は十分ある。 もし見張りや食料の確保を怠っていれば十全な体勢で次の日を迎えることは出来なかっただろう。 しかし、開拓者達の行動に抜かりは無かったようであった。 そして翌朝。一行は、時間を最大限に使うために朝焼けの中行動を開始した。 声もなく見事な光景を見渡す一同。だが、今日は強敵との戦いが待っている。 気を引き締めて一同は山を登り始めるのだった。 ●準備と戦闘 「雪山‥‥ちょっと懐かしいですね」 そういってくすりを笑うのはレジーナだ。 「昔は、真っ白な山を‥‥よく見上げてました、故郷が内陸だったので登ることはあまり無かったですけど」 そういう彼女が注視しているのは、雪の様子だ。 一行はすでに八合目まで登り切っていた。周囲にはちらほらと雪が。 だが、どうやら雪崩を警戒しなければ行けないほど大漁に残ってはいないようだ。 山頂付近であればもっと雪があるのだろうが、このあたりなら大丈夫と当たりを付けた一行。 「それではまず準備をいたしましょう」 そういってルエラが構えたのはその武器、長柄槌「ブロークンバロウ」だ。 武器を持つ者以外は周囲の警戒をしつつ、まずは整地作業に取りかかる開拓者たち。 場所は八合目と九合目の間あたりにある開けた場所である。 風雪が削ったのはなだらかになった場所で邪魔になりそうな岩をまずは排除。 そして、その中央にジークリンデが作ったのはアイアンウォールで作った鉄の台座だった。 この魔法は、斜面であっても斜面の角度に関係なくまっすぐ真上の伸びるのが特徴だ。 これを利用して平たい場所に並べて鉄壁を作り出すことで、高さ5米の見張り台としたのである。 準備は万端。あとはおびき寄せるだけ。 そして、開拓者達は二班に分かれて行動を開始するのだった。 陽動班は、可能な限り1匹ずつおびき寄せたいと考えていた。 中継役の利穏が見守る中、出発する陽動班。 巫女のティンタジェルを中心に、前衛が志士ルエラ。 両翼をシノビの巳と泰拳士のレジーナが固める陣形で敵の捜索を開始した。 この面子、志士の心眼にシノビの超越聴覚、さらには巫女の瘴索結界と準備は万端。 ここまで作戦を立てていれば、やはり上手く行くもので彼らはすぐにアヤカシを発見するのだった。 「‥‥暑いから少しは涼しくなりたい‥‥と思いましたよ。確かに」 おもわずぽろりとそう零したのはティンタジェル。おもわず防寒具の襟を引き合わせて。 「でもこれ‥‥涼しいを通り越して、寒くありません‥‥?」 そんな呟きにレジーナは、ほうと白い息を吐きつつも 「高い山は、それだけ寒くなりますから‥‥たしかに冬並みの気温ですね」 そういって周囲に目を配って。そんな時、最初に気付いたのはシノビの巳だった。 「‥‥っ! 音がする。あっちの方からだな‥‥」 常時発動する超越聴覚はこういう時の調査には最適。瘴索結界も継続発動するのだが如何せん射程が短い。 巳の言葉に、射程が長いが瞬間でしか効果を発揮しない心眼「集」を発動するルエラ。 すると案の定、一体の岩人形を発見。 「よーし、引き寄せて戻るぞ! っとと、へっ、おーにさんこーちらってか?」 開拓者達に気付いた岩人形が襲いかかってくる。 しかし巳は、けらけら笑いながらも木葉隠で攻撃を回避、一気に4人は来た道を引き返すのだった。 「上手く行きましたね。あとは作戦通り‥‥」 盾を構えて岩人形の攻撃を受けるルエラ。なんと彼女はその剛拳を防盾術で受け流す。 そして、それを援護するのは巳、木葉隠を活用しつつひらひらと回避。 先行して戻る巫女のティンタジェル、そして彼を護るのはレジーナ。 作戦どおり、四名は中継役の利穏のいる場所まで戻ってきたのだった。 このまま上手く行けば、連携役の利穏と一緒に岩人形を誘導するのに成功すると思われたその時。 「‥‥新手が来ます!」 声を出したのは発動していた瘴索結界でいち早く気付いたティンタジェル。 それに即座に対応したのは利穏であった。 なんと、山肌を転げ落ちるようにこちらに向かってくるもう1匹の岩人形が。 巫女のティンタジェルを逃がすための時間を稼ぎつつ、利穏とレジーナが二匹目に対応。 初めて開拓者達は苦戦を強いられることになるのだった。 しかし、開拓者達は粘り強く対応する。 まず利穏は気力を消費しながらも隼人を使い、しっかりと迎撃。 身の丈を越える武天長巻をその重さを利用しつつ豪快に振り回して迎撃。 なんと二匹目の岩人形の脚を1人で止めることに成功する。 「‥‥ここは‥‥通しません!」 一気に2匹に攻められてしまえば、戦線が崩壊する危険があると分かっての奮戦だ。 そして彼を援護するのはレジーナだ。旋蹴落を使って、岩人形の頭を攻撃。 なかなか決定打とはならないが、身軽さを活かしての一撃離脱。 このまま行けばなんとか持たせられると思ったのだが、 「‥‥っ! しまった!!」 どんと山肌を砕く岩人形の拳、その石つぶてで一瞬体制の崩れたレジーナを襲う岩人形の一撃。 なんとかそれを受け流したのだが、威力までは殺せずはじき飛ばされたレジーナの向かう先は、崖だった。 永遠とも思える一瞬、だがそこに伸ばされたのは救いの手。 「掴まれっ!!」 一匹目をルエラに任せて援護に来た巳が投げ飛ばした荒縄は、辛うじてレジーナに届いた。 慌ててそれを掴むレジーナは辛くも滑落から逃れて、戦線復帰。 「助かりました! ‥‥行きますっ!」 恐怖も見せずにレジーナは再び迎撃し、 「その調子だ! そらそらそらぁっ! 攻撃なんざさせっかよ」 巳も加わり3人は懸命に時間を稼ぐのだった。 一方たった1人、岩人形を誘導するルエラ。こちらの方が絶体絶命かと思いきや、 「‥‥ここまでですね」 そういって、小さく笑みを浮かべるルエラ。 彼女は仲間の援護もあって見事岩人形を予定の場所までおびき寄せていたのだ。 「もう大丈夫です。ここからの撃滅、任せていただきましょう」 アイアンウォールの台の上からアークブラストを放つジークリンデ。 「風よ、彼の者に生命の息吹を‥‥」 即座にルエラを回復させたのはアルセリオンだ。油断無く周囲に目を配り、前線を援護すれば 「さすがに岩は斬りにくそうですからね」 そういって、前線に躍り出たのは和奏。だが、その剣技はまさしく絶技。 居合技の秋水から、白梅香。精霊力を帯びた一撃が強固な岩巨人をみるみるうちに削り取っていき、 「‥‥脚に効いてます!」 「ふむ、崖から落とさないように転ばせるとしよう」 弱点を見つけて声を上げたのは迎撃班に合流した巫女のティンタジェル。 そしてその言葉に応えるアルセリオン。2人は連携して力の歪みを放ち、 片脚を失う岩人形は、あっというまに5人の連携で滅ぼされたのだった。 「俺に隙を見せたお前が悪いんだぜ? 全員でかかれば怖かぁねえな」 巳がそう言って、とどめの一撃。 一匹目が倒されてからは、巳・レジーナ・利穏の3人が二匹目を誘導。 多少の怪我は負っていたものの、2人の巫女がそれを治し、二匹目も撃破。 そして、三匹目は油断無く対処されれば楽に滅ぼされ。 「‥‥最低三体ってのが引っかかったが、もういないみたいだな」 巳をはじめ、連携して周囲を捜索したものの、アヤカシは見付からず、一行は下山することとなった。 「やっと終わったな。これでまたこの山にも良い風が吹く‥‥」 瘴索結界を使いながら、仲間の怪我を治療するアルセリオンはそう言って満足げに頷けば。 「討伐完了ですね。皆さん、お疲れ様でした」 同じくティンタジェルも結界で調べながらもやっとほっと一息ついたのだった。 そして、下山する一行が山の頂上付近から見たのは見事な景色である。 五合目で見たのとはまた違う眼下の眺望。 まだ日は高く昇っており、緑に輝く夏の山々はまさに言葉に出来ない美しさだった。 言葉もなく、ジークリンデも和奏もルエラも足を止めてその光景に見入っていて。 「この広い景色の‥‥どこまで、行けるかな、私は」 風に溶けたのはレジーナの小さな呟きだ。 開拓者達はしばしその光景に目を奪われたまま思いを馳せるのであった。 |