激流を下れ!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/26 22:29



■オープニング本文

 理穴は森の多い土地柄、材木も貴重な商品であった。
 その産地の一つで、問題が発生した。
 豊かな森は山中深くにあり、通常そこで切り倒した木は筏にして川を下らせるのが普通であった。
 川の下流にある係留所でその筏をばらし、材木にするのだが、今回問題が発生したのは川だ。
 両岸を峻険な崖に囲まれたその川はかなりの長さに及び、途中には急流も。
 その途中に、アヤカシの群れが居着いてしまったのである。
 アヤカシからすれば、待っているだけで上流から人が筏に乗ってやってくる格好の餌場というわけで。
 急遽、それを退治しなければいけなくなったわけである。

 通常、川を筏で下る場合、専属の運び手がその筏を操って川下の渓流場所へと向かう。
 しかし、いままで数度の襲撃があったために現在、動ける運び手がいないそう。
 つまり、今回は筏を操るのもその途中でアヤカシを撃破するのも開拓者でやることになりそうだ。

 激流を川下り、そしてアヤカシ退治とくれば、なかなか厳しい依頼となるだろう。
 さて、どうする?


■参加者一覧
空(ia1704
33歳・男・砂
荒屋敷(ia3801
17歳・男・サ
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
鉄龍(ib3794
27歳・男・騎
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂


■リプレイ本文

●秋の川下り
「紅葉の川下りと洒落込めりゃいいのにさ、アヤカシ退治に‥‥男ばっかりてのは一体どうなってんだよ」
 勇ましく白い褌姿にさらしを巻いて、筏の様子を確かめているのは荒屋敷(ia3801)だ。
 短刀を一度抜きはなって矯めつ眇めつ確認してから、ぐいと鞘ごとさらしにねじ込む様子は勇ましく。
「こういう暑苦しいのは夏にやって欲しかったぜ!」
 と宣っていたり。確かに、少々涼しくなってきたこの秋空の下、褌とさらし姿は少々寒いのかも。
 しかしそんな荒屋敷の言葉に、首を傾げて笑みを浮かべた女性が1人。
「あら、男ばっかりってのは聞き捨てならないわね?」
 レヴェリー・ルナクロス(ia9985)が、笑いながらそう言って。
 ちなみにレヴェリーは、筏師と呼ばれる職人たちに話を聞いているところであった。
「はぁ、お嬢ちゃんが筏師をやるのかい。大丈夫かね?」
「やるからには確りと役目を全うするつもりよ。そのために、いくつか教えて貰えるかしら?」
 と、どうやら筏繰りと川の様子についての話を聞くつもりのようだ。
 はじめは少々不安げな筏師たちであったが、
「なんとお嬢ちゃん、水棹じゃなくその槍を使いなさるのか!」
「ええ、手になじんだものの方が使いやすいもの」
 といって優に背丈を越える長い斧槍を振るう彼女を見て感心したのか、親身にいろいろと教えてくれて。
 どうやら無骨な筏師たちは、腕っ節が強いことに対して敬意を払うよう。
「準備は少々過剰な位にしておいた方が、丁度良いものね」
「おうともよ。こちとら命を賭けて仕事しとるんだからな。備えあればなんとやら、ってやつだ」
 そういって笑う筏師たち、開拓者達は無事信頼を勝ち得たようであった。

「やっぱり足場は不安定だが‥‥やるしかないな」
 川面につなぎ止められて、ゆらゆらと揺れている筏の上で、鉄龍(ib3794)はそういって。
 なかなかに重装備な彼はどうやら筏中央に陣取って守りの要となるようで。
 手には重厚な盾と黒灰色の長剣。それを装備したまま一歩二歩と踏み込みを試してみて。
「ふむ、剣を振るうのに支障はないな。あとはどれほど揺れるかだが‥‥」
 と、そんな鉄龍のところに髭の男がふらりと、やってきた。
「いやはや、川下りなんざ久しぶりだなぁ‥‥ほれ、これを筏の真ん中の方に置いといてくれ」
 髭の男はアルバルク(ib6635)。持ち込んだ荒縄の束を放り投げては自分も足場を確かめて。
「‥‥一番広いこの筏なら、まぁ5人でも不便はなさそうだが」
 そういって、にっと笑みを浮かべて。
「ちょいとばかりスリルが多めかもしれねぇがね」
 と言うのであった。そんな2人の所に、荒屋敷とレヴェリーが合流。
 それを見て、木陰からふらりと立ち上がったのは開拓者最後の1人、空(ia1704)だ。
「また随分と厄介な依頼だが‥‥仕方無ェな」
 弓を手にひらりと筏に飛び乗って、いよいよ準備は完了。
「船頭は任せたぜ」
「ええ、皆の安全を預かる立場だもの、最大限頑張るわ」
 空の言葉に、斧槍を水底についてゆっくりと筏を岸から離しながらレヴェリーが応えれば。
「‥‥急流とか岩だとかの位置はある程度、分かってるのか?」
「注意すべき場所はあらかじめ聞いておいたわ」
「ふむ、なら大丈夫そうだな。意表をつかれるのと準備があるのとでは全然違うからな」
 まったくだと頷く一同に、任せてと応えるレヴェリー。
 一行を乗せた筏は、筏師たちに見送られながらゆっくりと川を下り始めるのだった。

●川にもまれて。
「また、少し揺れるわよ‥‥次は右っ、気をつけて!」
 段差になって渦を巻く流れの中で、ハルバードでがつんと岩をつくレヴェリー。
 その勢いで筏は岩から離れ、がくんと勢いよく段差を落ちて大きく揺れ動いた。
「よっと‥‥さすがに優雅な船旅とは行かねえな‥‥船頭がおねえちゃんってとこはいいんだが」
 だんと筏に脚で踏みしめて釣り合いを取りながら、アルバルクはそういって。
 とりあえず、一行は問題なく川下りをこなしているようであった。
「それにしても、中々にうまいもんだな、コツでも掴んだか?」
 アルバルクの問いかけに、レヴェリーは筏の先頭に立ったまま、川面を見据えて。
「そうね‥‥先手先手に動くこと‥‥二手、三手先を考えて筏を動かすことが肝要みたいね」
 そう言いながら、ぐいと筏の横から斧槍を差し入れて、水底を突き放すと流れに乗って動く筏。
 複雑に動く水流にゆらゆらと揺れながらも、上手く岩や崖を回避して筏はすすむのだった。
 この調子ならば安全だろうと思う一同。しかし、
「‥‥楽しい楽しい筏下りはここまでみてぇだな。ほれ、鳥が飛んで来らぁ‥‥肉食っぽいやつがな」
 アメトリンの望遠鏡をのぞき込んでいたアルバルクの言葉通り、川下には幾つもの影が。
「いや、鳥だけじゃ無いみたいだな! おら、蛇ども! こっちだっ!!」
 同時に反応したのは荒屋敷。どうやら渦巻く水面の下に影を見つけたよう。
 咆哮を上げながら、地断撃を放って牽制の一撃。同時に筏はさらなる急流へと下っていって。
「かかってこい!」
 筏と併走しながらざばっと飛び上がってきた蛇アヤカシを相手に構える鉄龍。
 危険な激戦が始まるのだった。

「ふん‥‥こいつらは知能は低いようだな‥‥的が‥‥動くな‥‥ッ!」
 戦弓「夏侯妙才」を構えて矢を放つ空、放たれた矢はまず飛んでくる鳥たちを続けざまに射貫いた。
 だが彼の呟きに、筏を操りながらレヴェリーは首を傾げて。
「確かに、動物型ですからそんなに知能は高くないようですが‥‥」
「ああ、コイツ等がもっと頭が切れるようなら、筏を狙うだろうからな。俺なら、そうする」
 そう言われて成る程、と納得するレヴェリー、強烈に崖を突いて反動で筏を川の中心に押し出して。
 今回の戦いにおいて、もちろん要となるのは筏を操るレヴェリーであった。
 準備万端な彼女はしっかりと筏の動きを制御しているのだが、それには理由があった。
 一つは、あらかじめ準備を整えてきたことだ。筏師たちから教えを受け、川の知識も得てきた。
 不慣れながらも十分に筏を操れているのはそのためだと言えるだろう。
 だがもう一つの理由は、
「よし、蛇は任せたぜ。代わりに鳥はこっちに任せな」
 アルバルクは短銃をサリックで再装填し、次々に鳥を撃ち落としていって。
 アルバルクと空が鳥型を担当し、鉄龍と荒屋敷の2人が蛇型を担当するというこの布陣。
 その盤石の援護によって、レヴェリーは危険にさらされることなく筏を操れているのであった。
 偶然か、はたまた必然か。今回一つの筏に収まる人数であったことも幸運だったのかもしれない。
 相互に援護し合うことで、守りを固めた一行は戦闘を優位に進めているのだった。
「ふん、蛇の数が少なくて助かったな‥‥単発な攻めならば恐るるに足らん」
 牙をむき出しにして、川面から飛び出してくる蛇アヤカシを盾で受け止める鉄龍。
 そのまま盾を鈍器のように振るい強打、そのまま踏み込んで長剣を一閃。
 二枚に下ろされたアヤカシは瘴気に還りながら、水面へと消えていくのだった。
 同じように、蛇を相手にしている荒屋敷、こちらは軽装で身軽に動きつつ。
「っと! 出てくる場所が分かってるなら怖くないな!」
 飛び出した蛇の牙をひらりと躱して、懐の短刀を逆手に突き刺して。
 そのまま蛇を踏みつけ筏に磔にすれば。
「‥‥ありゃ、たしかこの木って売り物なんだっけ?」
 だんっ、とマキリを使って蛇アヤカシを撃破した後にはくっきりと刃の跡が。
 しまった、と首をひねる荒屋敷だったが。
「大丈夫ですよ。表面は削ってから材木として使うようですから、へし折ったりしない限りは」
 筏が安定したのを見計らってざばりと斧槍を自ら引き上げたレヴェリー。
 そのまま、勢いよく空中に向かって刺突を放てば、その先には一気に急降下してきていた鳥型。
 真っ向から斧槍の一撃でそのアヤカシをはじき飛ばせば、そこを狙うのはアルバルクの銃撃。
 何とかアヤカシの群れをとりあえず撃退した一行は、筏の安定も相まってほっと息をついて。
「ふむ‥‥これで仕舞いか?」
 がしゃりと盾を構え直した鉄龍はそういってレヴェリーに問いかけて。
 だが、その問いにレヴェリーは首を振った。
「‥‥いいえ。聞いた話では、もう少し先にこの川で一番の急流があるという話よ」
 そういって、水しぶきで濡れた髪をかき上げながら、ふるふると水滴を落として。
「そこにもアヤカシが居るらしいわ。まだ、もう少し手間がかかりそうよ」
 そういって、水着の上に胸鎧を身にまとった凛々しい様子で、再び斧槍を握りしめるレヴェリー。
 開拓者一行は、最後の一戦に向けて身構えるのだった。

 今回、筏が一つだったことは守りながら闘う開拓者にとって、良い方向へと働いた。
 だが、そこには一つ落とし穴があった。
 人数が少ないと言うことは、1人当たりに受け持つアヤカシの数が増えると言うことだ。
 そのしわ寄せはどこに来るのか。
 それは、防御の要となっていた鉄龍へと向いてしまったようである。

●激流を越えて
 どうどうと勢いよく流れる水。
 ここまでは無事に筏を操ってきていたレヴェリーも、少々不安を覚えながら懸命に筏を操って。
 そして、同時に遅い来るのは最後のアヤカシの集団。
 これまでは優位に戦いを進めてきた一行であったが、最後の攻撃はまさに怒濤の勢いであった。
 もともと鳥型アヤカシの攻め方は数で押すという攻め方。
 それがここに来て、開拓者を苦しめることとなったのだ。
「数が多いな‥‥貫けッ!」
 矢を二連で放つ空、その技の冴えはさすが弓術士といったところだ。
 連続して放たれた矢は鳥アヤカシの両翼を射貫いて見事にアヤカシは消滅。しかし、
「後ろだっ、空!!」
 咄嗟に懐に仕舞ってあったダーツを放つ荒屋敷。
 その一撃をひらりと避けた鳥アヤカシは、そのまま無防備な空を後ろから急襲するかに見えたのだが。
「‥‥燃えロ‥‥」
 くるりと視線だけ向けた空の手はシノビの印を形作っていた。
 次の瞬間、不知火の業火に包まれ消滅するアヤカシ。なんとか空は猛攻をしのいだようだった。
「鳥はまだまだ居るが‥‥蛇にも気をつけろ! 足下を狙ってくるぜ」
 そういって、片手に短銃を構えたままアルバルクはダマスクスブレードを抜き放った。
 砂迅騎は銃だけではなく刃の扱いにも長けた戦士だ。
 鳥は短銃で撃ち落とし、近くよってくれば刃の錆として。
 そして、這い上がってこようとする蛇アヤカシにはダナブ・アサドを使って一気に切り払う。
 精霊力に寄って強化された攻撃力によってアヤカシは撃破されるに見えたのだが、
「っ!! 揺れるわよ、気をつけて!!」
 咄嗟に警告を放つレヴェリー。
 アルバルクの一撃を受けた蛇アヤカシは、最後の悪あがきのように筏に絡みついてその進路をねじ曲げた。
 向かった先には大きな岩だ。
 咄嗟にオーラを纏ったレヴェリーはそのまま、岩を斧槍で強打。進路をなんとか元に戻す。
 だが、蛇アヤカシの執念か、筏の端が大岩をかすり、急流の中がくんと揺れる!

 丸太の隙間に脚をかけ、端に寄らないように気をつけていたアルバルクは踏みとどまった。

 大きく体勢を崩しつつも、筏に結びつけた縄を命綱に堪えるレヴェリー、はっと仲間の安否を気遣った。

 揺れで振り落とされそうになる荒屋敷、まさかの時のための縄にはっしとつかまって姿勢を低くした。

 だが、丁度その大揺れの瞬間、鉄龍は大型の鳥アヤカシの一撃を受け止めていた。

 がくんと揺れた瞬間、足場が無くなり踏ん張れない鉄龍。そこにアヤカシの一撃が。
 ふわりと浮く体、しかも不幸なことに鉄龍は今回一番の重装備だ。
 アルバルクと荒屋敷は咄嗟に鉄龍に縄を投げようと用意していた縄に手をかけた。
 だが、それより早く鉄龍は、まず盾を筏に向かって投げ放っていた。
 ガランと筏の上を滑る盾、それが丸太の隙間に引っかかって止まる。
 そして、鉄龍の盾を持っていた手が伸びた先は、彼に体当たりしたアヤカシだった。

 一瞬の交差、がっちりと首根っこを掴まれたアヤカシは大いに慌てたようだ。
 必死の羽ばたきは、なんと一瞬鉄龍の体を支え、ふわりと宙に浮かび上がった。
 だが、そのあがきも一瞬。がくんと失速して、落ちかかる鉄龍とアヤカシ。
 瞬き一つの間の判断。鉄龍は手を離して長剣を一閃、鳥アヤカシを切り捨てる。
 そこに縄を投げようとするアルバルクと荒屋敷だったが、間に合わない!

「貸し一つなァ!」

 すでに動いていたのは、空だった。
 筏から空中に身を躍らせる空、そのまま鉄龍へと手を伸ばす。
 アヤカシの羽ばたきで僅かに時を稼いだのが功を奏したのか、伸ばした手は辛うじて届いた。
 そして、空はそのまま鉄龍を、筏に向かって勢いよくぶん投げる!
 鉄龍は筏にその分だけ近づき、辛うじてアルバルクの投げた縄に手が届いた。
 そのままどぼんと川に落ちるもの、あいている手で確りと縄を掴んでいるので問題は無いだろう。
 限界までレヴェリーが筏を制動しているのも鉄龍を救ったようで、鉄龍はすぐに筏の端に片腕をかけて。
 だが、空はどうなる? 荒屋敷が投げようとする縄も届かないかに見えた、
 筏から引き離されるかに見えた空は、水面を“蹴った”。
 シノビの技、水蜘蛛。その妙技によって、水面を地面のように蹴って、一歩二歩と跳躍。
 そのまま荒屋敷の縄を空中で掴み、体を引き寄せればそのまま、どさっと筏に転がり込んで。
 と、同時に鉄龍も何とか筏にざばりと体を引き上げて、やっとレヴェリーは、
「‥‥ッッはぁ〜‥‥‥寿命が縮まりましたわ」
 止めていた息を吐いて、安堵するのだった。


●下流にて
「‥‥魚食うか?」
 焚き火に当たりながら、川魚を串焼きにしているのは荒屋敷だ。
 水に落ちた鉄龍をはじめ、川下りをした一同は全員濡れ鼠のようで。
「ふぅ‥‥ひやっとする瞬間もありましたけど、皆無事でよかったわ」
 ほうと胸をなで下ろすレヴェリーをはじめ、下流で開拓者達を待っていた別の筏師たちも安堵したようで。
 無事開拓者達は1人もかけることなく、危険な依頼を成功させたのであった。