猛暑で一休み!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 普通
参加人数: 16人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/31 19:53



■オープニング本文

 暑い暑い暑すぎる。
 局所的に猛暑な今年の夏、それはここ武天の芳野でも同じであった。
 広い天儀、同じ夏でも暑いところもあればそうでもないところもあるという。
 だが、ここ芳野の景勝地、六色の谷のとある温泉宿は暑さ故に閑古鳥。
 暑いとは言え、谷の中を行けばそれなりに涼しいものだ。
 渓流のせせらぎに足を浸すもよし、木陰を吹き抜ける涼風に身を任せるもよしだ。
 だが、なにせそこに行くまでにはこの猛暑のなか山をえっちらと登る必要があるということだ。

 さて、困ったのは宿の主人。元大工の辰蔵は今年もはりきっていろいろと仕入れたようだ。
 だが時期が悪かったのか閑古鳥。
 このままでは仕入れる予定の食材も腐ってしまうし、大赤字間違いなし。
 うんうんうなっていたらその背中を張り飛ばしたのは女将として働く妻のおせんだ。
「さすがにこう暑いとね? 折角なら無料招待でもしたらいいじゃないの!」
 ということで、そうと決まればあとはとんとん拍子。
 開拓者に縁があるという桂の湯。この夏、開拓者限定で無料開放中との話である。
 仕入れた食材などもどうせ捨てるくらいならと赤字覚悟の大盤振る舞い。
 といっても実は人件費は削減とかで料理は自前でがんばってとか。
 宿には主人の辰蔵と女将のおせん。あとはほんの僅かな従業員のみがいるとのこと。
 暑さでへばっているのなら、友と仲間と恋人と、一緒に温泉旅行は如何だろう。

 さて、どうする?


■参加者一覧
/ 井伊 貴政(ia0213) / 鴇ノ宮 風葉(ia0799) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / ペケ(ia5365) / 夏葵(ia5394) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / アルーシュ・リトナ(ib0119) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 御陰 桜(ib0271) / 十野間 月与(ib0343) / 十野間 修(ib3415) / ウィリアム・ハルゼー(ib4087) / アムルタート(ib6632) / 玖雀(ib6816


■リプレイ本文


 開拓者御用達の桂の湯。そこに赴く開拓者達の思いは様々のようだ。
「まったく‥‥旅館の主は恩返しがしたいのかこの暑い山道を歩くという苦行をさせたいのか、どっちよ!?」
 暑い! とうだるような山道を歩きながら吼えるのは鴇ノ宮 風葉(ia0799)だ。
 暑いならマフラーをどうにかすればいいのでは、と思わないではないがそれはそれ。
 そんな彼女の前を歩き、時には手を貸したり荷物を持ってあげながら先導するのは女性、と見まごう青年。
「ほらほら、もう少しだから‥‥あんまり暑いとか遠いって言うと、抱っこして運んじゃうんだからなっ」
 にこにこと笑顔の天河 ふしぎ(ia1037)はこの暑さでも涼しい顔。
 どうやら暑さよりも共に歩めることの嬉しさが勝っているようだ。
「あー、もー…あんたが嬉しそうにするから歩かざるをえないじゃない‥‥」
「うん、そりゃ嬉しいからね♪ でも懐かしいよね、あの時は風葉が女将で」
「‥‥懐かしがってんじゃない、この体力バカ!」
 ふんっ、とそっぽを向かれてみたり。といってもやっぱり仲良しのようで、2人は更に進んで。
 そしてやっと見えたのは大木とその根元の桂の湯。
「やっとついたわね。さ、さっさと荷物を置いて涼みに行くわよ!」
 元気を取り戻した鴇ノ宮を追いかけながら、元気になったようで良かったと天河は笑みを浮かべて。
「わ、待ってよ風葉! 今行くよー」
 そういって2人分の荷物を抱えなおす天河であった。

 さて、宿は開拓者達でなかなかに賑わっていた。
 本来身軽な開拓者達だ。ふらりと思い立って宿を訪れる者や、良い機会だと親しい者と訪れる者。
 そして、こんな時だからこそ、もっとも愛情を向ける相手と共に宿を訪れる者も居た。
「あらあら、新婚さんなんですか! でしたら離れの一室を用意させて頂きますね♪」
 威勢の良い桂の湯の女将、おせんは目を丸くして満面の笑み。そんなおせんが案内するのは、
「それはありがとうございます。そんなに良くして頂いて‥‥」
 応えるのは新妻の十野間 月与(ib0343)、そして妻の様子を見守るのは十野間 修(ib3415)だ。
 実はこの2人、新婚旅行として桂の湯を訪れたようで。
 さて、折角の新婚さん、混浴の家族湯もあるとのことだし、それも良いかなと思っていたのだが。
「‥‥混んでいるようですね」
 新妻の月与、ちょっとしょんぼりなご様子。そんな彼女をみた修。そっと妻の手を取ると、
「それならしょうがない。そういえば、まゆちゃんも来ているようだし、あとで誘って夕涼みにでも行こうか」
 そう励ますのだった。
 さて、2人の話にも出ていたまゆちゃんというのは礼野 真夢紀(ia1144)のこと。
 彼女はどこにいるのかといえば。
「暑いなら道案内付けて、早朝に山登りするとか‥‥」
「ふむふむ」
「温泉より魚釣り目当ての人とか、山を経験したい子供付き家族用に狙う客層をかえてみるのはどうでしょう?」
 宿の主人相手に、この難局を打破する知恵を授けていたり。
 10才ほどの女の子に教えを請う強面の辰蔵、なかなか奇妙な様子だが役に立っているようで。
「そういえば、渓流が近くにあったよね‥‥そこのお水でかき氷はどう?」
「ほう、そいつぁ良い考えだな。しかし、氷はどうやって用意するんで?」
「それはほら、開拓者で氷霊結を使える人に頼むとか」
 おうなるほど、と手を打つ辰蔵に、実演してみせる礼野。
 そうときまりゃ水を用意しなきゃと張り切る辰蔵に対して、さらに料理の種をいろいろと相談していれば、
「ああ、いたいた。まゆちゃん、まだ夕涼みには早いけど、今手が開いてるならちょっと出かけない?」
 そう誘いに来た十野間夫妻に誘われて、またあとでと礼野は辰蔵に後を任せるのだった。


 時刻は昼過ぎ。一番暑い時間だが、宿は意外と涼しかった。
 風通し良く作られた内部、そして周囲に茂った木々が落とす影が涼しい風を生んでいるようだ。
 時折山々を吹き抜ける風が木々をざぁっと揺らせば、そんな音を聞き入りつつ、温泉につかる女性が一人。
「‥‥木陰があって助かりました。秋には紅葉も綺麗そうですね‥‥」
 声の主は、気ままな一人旅中のアルーシュ・リトナ(ib0119)だ。
 さすがにこの時間、広々とした女湯にはほとんど人の姿はなかったようで、貸しきり気分を満喫中。
 さて、ひとしきり温泉を満喫したアルーシュ。長湯を終えれば次は涼みに出るつもりのよう。
 せっかくということで、宿の浴衣を貸してもらって着付けてもらいつつ。
 そして宿を出ようと思ったアルーシュ、彼女と入れ替わりで宿に到着したのは小柄な少女だ。
「わぁ〜、立派な露天風呂! さっそく入らなきゃ! わ〜い温泉〜♪」
 アムルタート(ib6632)の元気な声を聞きながら、アルーシュは木陰の下を伝って川辺に向かい。
「綺麗なところですね‥‥〜♪」
 さらさらと流れる水辺をゆっくりと歩けば、ひときわ涼しげで。
 そっと腰を、水辺の岩に下ろしつつ、ぷらぷらと足を遊ばせて水面をければはじける水飛沫。
 それを目で追いながら、自然とアルーシュは思いついた旋律を小さく歌い始めて。
 すると吟遊詩人の美しい歌に思わず小鳥や小動物が集まって来るのであった。

 そしてその調べがひっそりと響き渡り、それにふと顔を上げた少女の姿が。
 アルーシュがいるあたりから程近い川面に釣り糸をたれていたからす(ia6525)だ。
「ふむ、風情がある‥‥む、また釣れた」
 しばし美しい調べに耳を傾けていれば、釣りも好調のようだ。
 半袖と短パン、さらには麦藁帽子と夏を全力で満喫中のからす、釣りが快調なら今度はお昼だ。
 涼しい河川敷の木陰に火をおこし、くしに刺した新鮮な川魚を焼いて。
 ぱちぱちと魚の油が音を立て、おいしそうなにおいが立ち上る。そんな香りにつられたのか、ふらりと人影が。
「‥‥美味しそうな香りですね」
 声の主は、和奏(ia8807)だ。のんびりと一人で行動していてからすに遭遇したようで。
「うむ、ちょうど昼餉の用意が整ったところなのだ。まだなら、君も如何かな?」
 不意の客をもてなすのも茶人の務め、と思ったかどうかはしらないが、にっこりとからすは魚を勧めて。
 冷茶もあるぞ、というからすに、お言葉に甘えて、と和奏。2人は遅めの昼ごはんに舌鼓を打つのであった。

 その程近い場所にて、思い思いに遊ぶ姿がいくつも見られた。
 十野間夫妻とともに川辺で遊ぶ礼野、木陰の川辺は涼しくてとても快適だ。
 そんな面々を見ながら、のんびり大きな岩の上で寝そべって、思案顔の青年は琥龍 蒼羅(ib0214)。
 ふと見つめたのは礼野が作った小さな氷。ふむとつぶやいた彼の脳裏にひらめいたのは
「‥‥氷を使うのもよいな。涼しげで、なおかつ食の進むような美しさも‥‥」
 そう、今晩の献立であった。そうと決まれば、あとは用意するだけ。
 今のうちに温泉にでも行こうと考えて、琥龍は宿に戻るようであった。
 そして、楽しげに遊ぶ姿はほかにも。
「宿に来るまで暑かった分、心地いいよね♪」
 捨てきれない思いを抱く元恋人の手を引きながらそういう天河。彼は鴇ノ宮は川遊び中のようだ。
「たしかにこれぐらいならマシよね‥‥あによ、そんなにしっかり手をつかまなくても大丈夫よ!」
「でも、滑りやすくて危ないし‥‥」
「あたしよりあんたのが滑って転びそーじゃない?」
 と鴇ノ宮がいたずら心でていていと水をかけたり、それを天河が恥ずかしがったりと楽しんでいるよう。
 その後2人は、のんびりと涼んでいくようであった。

 そんな喧噪を遙か遠くに聞きながら、涼しい木陰の岩陰の淵に足を浸す男が1人。
 遠くを眺める彼の視線はぼんやりと宙をさまよっていた。
 掌では愛用の苦無をくるくるともてあそびつつ、ただただ静かに涼んでいたのだが。
 瞬間、空気が替わるほどの殺気と共に掌中の苦無を投げ放ち、魚を一撃。
 苦無で射貫かれてぷかりと浮かぶ魚をひょいと取り上げながら、その男はぼんやりとたたずんで。
 周囲の鳥たちがばたばたと逃げていく中、消えるような声で玖雀(ib6816)は、
「なんで俺だけが無様にこうして生き残ってんだろうな‥‥」
 ぽつりと、誰にも聞こえない呟きを漏らしたのだった。
 そのまましばらくたたずんでいる玖雀であったが、ふと手の中の魚を思い出して。
「‥‥料理でもするか」
 まだ心は晴れないまでも、人間はご飯を食べねばならないわけで。
 夕暮れに差し掛かり、ゆっくりと赤く染まる宿への道を、玖雀はぶらりと引き返すのだった。


「やっぱり広いお風呂ってイイわねぇ♪」
 日が沈んで夜。まだ昼間の熱気が漂ってはいるものの、そんな時の温泉はまた格別だ。
「桃を連れて来られなかったのは残念だけど、やっぱり温泉はイイじゃない♪」
 のびのびとお湯の中で足を伸ばして寛いでいるのは御陰 桜(ib0271)だった。
 丁度、女湯にはそれほど人の姿は無く、のんびりと家に置いてきた忍犬の事を思いつつお湯に浸かって。
 すると、どこからか良い香りが。
 どうやら夕餉の用意が進んでいるようだ。といっても確か料理は最低限だという話だったが。
「‥‥ずっと浸かっていたいところだけど、ちょっと休憩にシようかしらね。美味しそうな匂いもするし」
 いそいそと温泉から上がる御陰。彼女は食堂として使われる広い座敷へと足を向けるのだった。

 今回、食材は用意されているのだが料理人は不在。故に料理は勝手にどうぞと言う話であった。
 だがしかし、豊富な食材が用意されてあれば、腕を振るいたくなるのが料理人の常だ。
「暑い時期だからね、まずは冷たいものに酢を使った食欲増進、バテ防止の料理をば」
 てきぱきと忙しく動き回っているのは井伊 貴政(ia0213)だった。
 以前も桂の湯にも手を貸した井伊、慣れた様子で厨房を縦横無尽に動き回っているようで。
「これだけ食材があると、腕の振るい甲斐があるな」
 井伊と一緒に厨房を手伝っているのは琥龍。さらには十野間夫妻と別行動中の礼野もお手伝い中。
 ちなみに礼野が作った氷を、琥龍が小刀で削り見事な氷の容器や飾りを作っていたり。
「女将さん、上がった酢の物から持っていってくれるかな? 折角だし、他のみんなにも振る舞おうかと」
 豊富な食材があるならばとのこと、井伊は無償で他の開拓者にも料理を提供しようというわけで。
「あとは冷たい麺類だけど、そればっかりじゃお腹が冷えるからね。温かい料理も用意しておこうか」
 そういって再び調理に向かう井伊。みるみるうちに沢山の料理が用意されるのであった。

 さて、そんな料理に誘われるように御陰やペケ(ia5365)が温泉を上がって食堂へと向かって。
 ちなみにぺけは、肌着がなかなか上手く着こなせないようだが、それはともかく。
「また、あとで温泉にはゆっくり浸かりましょう」
 そういってペケが温泉をあとにした理由は、それはこの暑さを吹き飛ばすほど熱々のカップルがいたからだ。
 それは夏葵(ia5394)とウィリアム・ハルゼー(ib4087)の2人。
 夏葵は、混浴だとはさっぱり聞いてなかったようで、ぶくぶくと恥ずかしがって家族風呂にて赤面中。
 そんな夏葵を後ろからそっと抱きしめるウィリアム。ああ、恋人同士の熱々の様子。
 そこで普段の女装姿ではなく、彼氏としてうっとり呟いたのは、こんな台詞だった。
「きっと成長しますよ‥‥」
「何処さわってるのです!!」
 赤面しつつ涙目の夏葵。なんというか、まぁ恋人同士でじゃれ合っているようで。
 涙目の夏葵を励まそうと、言葉を選ぶウィリアム。
「大丈夫! 小さいのも好きだから」
 ウィリアムは見事に墓穴を掘ったようで。
 夏葵は絶句、しかし揉んだら大きくなるだのなんだのと盛り上がる2人。
 この大騒ぎにはさすがに、ペケも苦笑しつつ温泉を後にしたというわけであった。
「では部屋に戻ってゆっくりと一晩掛けて‥‥」
 さらに、絶句している夏葵に対して、ウィリアムが囁くのは、ちゃんと責任は取りますから、とのこと。
「そういう問題じゃないのです!」
 響く夏葵の声。まぁ、仲良きことは美しきかな、ということで多めに見てあげるのが吉だろう。

 さて、晩ご飯が必要なさそうなお二人はさておき。
 美味しそうな匂いに誘われて、食堂に集まる開拓者達は、用意された料理に驚きを隠せなかった。
 井伊をはじめ、琥龍に礼野、さらには仕留めた川魚を手に玖雀も料理を用意したようで。
 机に並ぶのは、井伊の用意した冷たい料理の数々に、夏ばて対策の酢の物目白押し。
 礼野の料理は試作したお酒をかけたかき氷に、特製ソースで作った焼きそばや、山菜どっさりの麺類。
 川魚を塩焼きにして振る舞う玖雀に、見事な氷の飾りは琥龍の作だとか。
 料理が揃えば後は宴会だ。
 料理人の腕を褒め、用意されていた酒を褒め、そしてあとは音楽と踊り。
「リクエストも受け付けるよ〜♪」
 くるくると廻りながら、さすが本職のアムルタートが見事な舞を見せれば、合わせる歌はアルーシュ。
 琥龍がリュートで伴奏をすれば、ますます宴会は賑わいを見せるのだった。


 そして夜、昼の暑さも収まり涼しい風の中、月を見上げて酒を舐めるのはからすだ。
「うむ、美味い」
 先ほどまでの宴会を思い起こしながら、のんびりと長湯中。
 礼野やペケは改めて温泉でのんびりと。しかし宿の夜の楽しみ方は様々だ。
 涼しくなったからと、改めて足湯をしながら和奏のように景色を愛でる者もいれば。
「畳の上でお布団で寝るのが楽しみだったんです♪」
 山間の宿は熱帯夜とは無縁、温泉宿の布団の心地よさを満喫しアルーシュのように安眠を楽しむ者も。
 そしてもちろん夏葵とウィルのように恋人同士の夜を過ごす者もいるだろうし、
「‥‥お待たせしました」
「その恰好‥‥は。いえ、とても似合っていますよ」
 新婚の月与は、晩酌をしていた夫の前にバラージドレス姿で現れて驚かせてみたとか。
 夫婦水入らずで過ごす二人のような者もいるのである。
 そして月明かりの下で、黒い髪を風になびかせて月を見上げる玖雀は未だ晴れない心を抱えたまま‥‥。

 それぞれが関わりつつも、別々の物語を抱えているのが開拓者達の生き方なのだろう。
 ともかく、宿の一日は終わり、また明日から新しい一日が始まる。
 これにて開拓者達の日常の一幕は終了。宿は、暑い盛りを過ぎれば、再び活気を取り戻すだろう。