下衆の極み
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
EX :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/11 19:30



■オープニング本文

 男は森を走っていた。
 かつてはシノビとして一度は修行をしたこともある。
 だが、辛い訓練は肌に合わず。彼は逃げ出した。
 与えられた志体を人のために使わず、彼は全てを投げ出したのだ。
 それから、良くある話。
 生まれ持った志体という恵まれた才能は、単に彼個人の快楽のために使われた。
 奪い、盗み、犯す。人より優れた力は全て、我を通すために使われたのだ。
 だが、そんな彼に追っ手がかかった。
 派手に罪を重ね、ついに犯罪者としてその地方の領主に追われることとなったのだ。
 追っ手は執拗だった。追っ手には開拓者も含まれていたらしい。
 同じように、罪を重ねていた仲間とともに彼は必死に逃げた。
 仲間はたった二人だ。人を斬ることを好む人斬りサムライに、流れてきた人殺しの弓使い。
 そんな彼らが逃げ込んだのは、理穴のとある山中だった。
 まだアヤカシの噂の絶えない深い森と山。そこに逃げ込めば何とかなるだろう。
 そんな幻想と共に彼ら三人の犯罪者は、追っ手に怯えながら森の中に逃げ込んだのだったが‥‥。

 そんな夢は、一瞬で消え失せた。
 出会ったのはアヤカシ。それも強力な鬼の群れ。
 人斬りサムライは、刀を抜こうとした瞬間に頭を砕かれ、弓使いは棍棒の一撃で赤い染みになった。
 そして、大鬼の棍棒が迫る瞬間。生き残ったただ一人の男は、こういった。
「ま、待ってくれ!!! ‥‥て、手を組もう。俺ならお前たちの役に立つことが出来る!!」

 ‥‥元来、アヤカシは人間と協力することは殆ど無い。
 アヤカシにとって人は単なる食料だ。殺し食らう対象でしかない相手と仲良くする者がいるだろうか?
 だが、男は言葉巧みに鬼に言った。自分が居れば、より楽に獲物を捕らえることが出来る。
 そして、鬼たちの頭目格は、それも良いだろうと決めた。
 それは単なる一時の遊びのようなものだ。男が役に立たなくなれば食らえばいい。
 だが、利用価値があるならば、その間だけは活かしてやって良いだろう。
 人が人を裏切る様こそ、絶望をも糧とするアヤカシたちにとっては、美味なる光景だから。
 そんな思いと共に、鬼の群れは男を殺さずにおいたのだった。


 それから男は名を変え身を隠し理穴の方々に現れたようだ。
 小さな村に現れては、村の弱点や警備の様子を全て鬼たちに伝え、村を滅ぼす手伝いをした。
 村々を旅する商人たちをおびき寄せては鬼たちの餌とする手伝いをした。
 時には、開拓者を罠にかけて、鬼たちの群れの中で孤立させ、全滅させたこともあった。
 そんな外道、下衆の極みの男の名はジャエン。かつては蛇円と呼ばれたが今では邪炎と呼ばれる男。
 今までは鬼たちの武力を背景に、完全に人の敵となった男だ。

 そんな男の尻尾をついに開拓者ギルドは掴んだ。
 今まで、彼が関わった事件は関係者が全滅していたため、彼も死んだと思われていたのだ。
 だが、数少ない生き残りの証言などから彼の関与が関わる事件の背景がやっと掴めた。
 今、彼は理穴の小村に現れて、開拓者を募っているようだ。
 正確には、村の人間をたきつけて、ギルドに依頼を出させようとしているのである。
 彼が村に伝えたのは、自分が開拓者の一員であり、どうやら弱いアヤカシの群れが近場にいるということ。
 小鬼がほんの数匹だが、追加で開拓者に依頼を出せば、無事片付くだろうと吹き込んでいるようだ。
 おそらく、新米・駆け出しの開拓者たちを村におびき寄せそれを鬼たちの罠に連れて行くつもりだろう。
 その後、村を襲って全てを闇に葬り去るのが、彼らのやり口だ。
 となれば、今回はその罠にあえて飛び込み、ジャエンと鬼を撃滅せねばならない。
 初めて訪れた反撃の機会、この機を逃してはならないのだ。

 さて、どうする? 


■参加者一覧
緋桜丸(ia0026
25歳・男・砂
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
緋炎 龍牙(ia0190
26歳・男・サ
シュラハトリア・M(ia0352
10歳・女・陰
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
只木 岑(ia6834
19歳・男・弓
浅井 灰音(ia7439
20歳・女・志


■リプレイ本文

●罠
「いやいや、良く来てくれた!」
 にこやかに笑顔で開拓者達を迎える男、ジャエン。
 ひょろりと背の高い中肉中背の男、言われなければシノビであるとは分からないだろう。
 その顔に張り付いているのは笑み。快活に開拓者を迎えて労をねぎらうその様子はいかにもな好人物である。
 だが、開拓者六名は知っていた。
 こいつが、自分が生き延びるために他人をアヤカシへ差し出す男だと言うことを。
 ジャエンの笑顔に笑顔で応える開拓者達。だがその心中には燃える怒りがあった。

 ジャエンは笑顔のまま、やってきた新米開拓者たちを見回した。
 地味な女泰拳士に青い髪を一つにくくった女騎士。そしてその2人に隠れる小柄な陰陽師の少女。
 大柄な2人の男はそれぞれ太刀や剣を手にし、一緒に居るのは弓を手にした弓術士の青年。
「初めまして、よろしくお願いします。援護でがんばります」
 力の入った様子は弓術士の青年、只木 岑(ia6834)。いかにも新米といったようすだ。
「オゥ、やって来たぜェ! 鬼は何処よ?!」
「なーっはっは! この俺様に任せておけば大丈夫だ。大船に乗ったつもりでいてくれ」
 一方、鷲尾天斗(ia0371)と恵皇(ia0150)は、威勢良く大口を叩いて虚勢を張っているよう。
 装備も武器も、微妙にちぐはぐでジャエンからは慣れてないと見られたようだ。
「依頼には、6人しかあつまらなかったの‥‥」
 2人の女性開拓者の間に隠れるようにして、そうジャエンに告げるのはエルと名乗った少女。
 必ず女泰拳士か女騎士に寄り添って、いかにも新米風なのはシュラハトリア・M(ia0352)。
 そして、女騎士と女泰拳士は、いかにもジャエンを頼りにするかのように振る舞って。
 2人は、それぞれ変装した浅井 灰音(ia7439)と梢・飛鈴(ia0034)。
 この六名の偽装がジャエンに見抜かれなかったのには、いくつかの要素が影響していた。
 その要素は人数が少なかったこと。強力な鬼が控えていることから、ジャエンには油断があった。
 一つは、彼は自身の悪行が露見しているとは思っていないという点だ。
 しかしばれてしまうかも知れないと常に注意しているのも事実。
 故に彼は証拠を消すために村々を幾つも滅ぼしているのだ。
 だが、今回おびき寄せた開拓者はどれも新米で、しかも人数は少なめ。
 目先のことに捕らわれる性格であるジャエンにとって、人数が少なければやりやすいと映ったのである。
 その結果として、いつも以上に油断が大きくなったのだ。

 挨拶を済ませつつ、ふと開拓者達は離れた場所に2人の青年が立っていることに気付いた。
「ジャエンさん、あの2人は?」
 そう尋ねる浅井。もちろんこれも演技なのだがそんなことに気がつくジャエンではない。
「ああ、彼らは開拓者が来ていると聞いてやってきた武器商人だ」
「武器商人が?」
「ああ、開拓者相手に商売をってことらしくてな。見上げた商売根性だな」
 そういって笑うジャエン。彼は、商人が来ていることにも気をよくしていた。
 実は、開拓者達を始末したあとジャエンは鬼たちをけしかけて村を襲わせる予定なのだ。
 彼はいままで自分に関わる証拠を消すためにそういうことを繰り返してきたのである。
 そこに金になる武具を抱えた商人がやってきているとすればそれは美味しい話だ。
 いくらアヤカシの手下として生きているといっても、金は必要。
 村を襲えば、証拠も消せたうえに金になる武具が手に入るという一石二鳥だ。
 そんな予想にジャエンは、多少なりとも浮かれていたのであった。

 浮かれるジャエンを余所に、商売のアテが外れたとばかりに立っている2人。
 黒髪にメガネ、そっくりな様子の2人は、双子の商人だと名乗ったとか。
「こちらの商品は買い手が決まっているのでダメですよ」
 質の良い刀を手に取ったジャエンに対し、愛想良くそういっているのは緋桜丸(ia0026)。
「‥‥さ、お仕事お仕事っと」
 その後ろで在庫の確認とばかりに2人が背負っていた櫃の中身を確認しているのは緋炎 龍牙(ia0190)だ。
 確かに良く似た二人であった。双子と言われれば確かに納得である。
 だが、実際のところ商人としては多少若すぎる2人だ。本来ならば警戒されたかも知れない。
 しかしこの時点でジャエンは、開拓者六名を罠にはめることを考えていたのだ。
 別口の商人はあくまで添え物。この二つに関わりがある可能性を考えていなかったのである。
 いままで、一度も失敗をしたことがないという事がジャエンの油断を招いたのだ。
 その結果、ジャエンは開拓者を連れて何の警戒もせずに現場へ。
 去っていく7人の姿を目で追いながら2人は、ずっしりと重い櫃を背負って、しばし様子をうかがうのであった。

●反撃
 森を進む一行。
 戦闘を行くのは粋がっている鷲尾。しかしずるずると剣を引きずって行く様はなんとも不格好だ。
 そして先導役を務めるジャエンには主に梢と浅井の2人が話しかけていた。
 今まで経験した依頼はどうだの、開拓者としての心得はこうだのと他愛もない会話だ。
 もちろんそれもジャエンが開拓者を罠へと誘い込むための布石だ。
 今までも、こうして開拓者を鬼の元に導いたことは何度かある。今回もそれと同じだとジャエンは思っていた。
 そして、予定通り鬼たちが潜む森の奧にて。
 姿を現したのは、もちろんジャエンと連む凶悪な鬼たちであった。
「‥‥話に聞いていたのよりも何だか強そうですね‥‥」
 まだ全部の姿は見えないものも明らかに小鬼より格上の鎧鬼が数体。
 鎧鬼と言えば、新米相手であれば、一体の討伐でも依頼になるほどのアヤカシである。
 それが数体同時に現れたことで、どよめく開拓者達。
 浅井のように話と違うと怯えるものがいれば、距離をとる梢。
 恵皇は太刀を慣れない様子で構えて、シュラハは仲間の近くに身を寄せる。
 そして弓使いの只木は森の木々の間をこちらにやってくる相手に狙いを付けられないように慌てて。
 まさしく俎上の鯉、罠にかかった獲物といった様子であった。
 そして、ジャエンからすれば一番虚勢を張っていた鷲尾は、なんと怯えるように地面に座り込んだのだった。
 見た目では剛胆そうな鷲尾が、
「イヤ‥‥もう駄目ェ‥‥」
 なんとも弱々しい声を上げて、へたりこむ。
 この様子には、さすがにジャエンも思わず笑みさえ浮かべるのだった。
 見事に開拓者を罠にはめる、いつの間にかジャエンはそうすることを喜ぶほどに墜ちていたのだ。
 だが、次の瞬間。ジャエンの腕をそっと掴む浅井。
 弱々しくすがってくるような調子、だがジャエンはそれを振り払って逃げようとした。
 シノビの技と脚力を持ってすれば、新米たちから一足飛びで距離をとることは簡単。
 あとは新米たちがアヤカシに食われるのを待てばいいだけ、そう思った次の瞬間。
 迫り来る強大なアヤカシ達を前に、右往左往していた新米たちはぴたりと狼狽を辞めた。
 浅井は掴んでいた腕に力をこめて、とんと押し出す先にはへたり込んだ鷲尾。
 その鷲尾は、その状態から剣を手に、座敷払の一閃!
「‥‥ギャハハハァ! 臓物ブチ撒けろォ! オィ!!」
 狂笑を上げて、振るわれた刃はジャエンの膝を凪ぐ。ジャエンはここでやっと罠に気付くのだった。
 逃げようとするジャエン、その耳元で囁く浅井。
「騙される側の立場‥‥理解できた?」
 言葉を聞いて、ぞっとするジャエン。今まで騙して殺してきた自分が今度は騙され滅ぼされる番だ。
 そう言われた気がして、必死であがくジャエン。
 切り裂かれた足の怪我を無視してなんとか逃げ去ろうとするジャエンだったが、それに追いすがる影が二つ。
 瞬脚で距離を詰めた梢が、ジャエンの足を狙っての絶破昇竜脚!
 同時に同じく瞬脚で距離を詰める恵皇、こちらは梢の蹴りと全く同時に強烈な拳の一撃を叩き込んで。
 斬られたのと逆の足を強烈な連撃でへし折られるジャエンに梢は、
「‥‥さて、もう駆け出しのフリをする必要も無くなったシ、何時もの様にやらせてもらおカイ」
 そういって鬼たちに向き直り、
「とりあえず、一発は殴ったからな。残りはあとだ」
 同じように恵皇も鬼たちに向き直って構えるのだった。
 だが、実際の所戦況は不利であった。敵はジャエンが蹴散らされたことを見ても意に介していない。
 普段の装備と違えば、この強力な鬼たちは強敵だ。そんな中でも苛烈に戦うのは鷲尾。
「ギャハ、貰っていくぜェ!」
 敵の鎧鬼は、鎧や武器ごと具現化した鬼たちだ。
 その鬼に素手で近づくと自身に白梅香を使用しての格闘攻撃。強烈な浄化力で武器ごと腕を引きちぎる!
 敵の鬼以上に鬼のような戦い方で、鬼を退けようとする鷲尾。だが敵の方が数は多く不利は揺るがなかった。

「‥‥くそっ! だがお前等も無事じゃすまねぇぞ! 装備も無しに、鉄甲鬼や鎧鬼に勝てるかよっ!」
 傷口を押さえつつ吼えるジャエン。開拓者が不利なことを見て、自身の状況も忘れてあざ笑ったのだ。
 だが、そこに走り込んでくる2人の姿。
「猛ろ我が牙、その身を喰らい尽くせ! ‥‥紅霞・焔!」
「‥‥邪魔だ、月光閃‥‥」
 櫃を背に、二刀流で鎧鬼を2人の連携で斬り倒す緋桜丸と緋炎。
 彼らは鷲尾が地面に付けていた印を追って駆け付けたのだ。
「てめぇらは商人の! ‥‥そうか、開拓者だったのか、良くも騙しやがったな!」
 2人は、仲間と合流するとあっというまに装備をそれぞれに渡して、なおも騒ぐジャエンには、
「‥‥少し大人しくしていてくれないかな? 君は後でゆっくり相手してあげるよ」
 商品の安物の刀をジャエンの腕に突き刺す緋炎。
 商人として愛想良く笑みを浮かべていた顔に、種類の違う酷薄な笑みを浮かべて告げて。
 鷲尾らが稼いだ時間で一同は再武装。普段通りの装備とあれば怖いものはない。
 なにせ、彼らは一流と言っても良いほどに経験を重ねた開拓者ばかりなのである。
「さぁて、鬼退治と洒落込もうぜ!」
 ジャエンの腕に突き刺さった刀をぐいと踏みつけて地面に縫い止めつつ緋桜丸がそう言えば。
 他の開拓者達も一気に反撃に出るのだった。

●末路
「邪魔する奴は、拳一つでKOさ」
 再武装することなく戦っていたのは鷲尾だけではなかった。拳布のみで鎧鬼らと渡り合うのは恵皇だ。
 軽装でも回避で敵の攻撃をよけ、反撃の拳で敵の鎧ごと粉砕する恵皇には鬼たちも敵わない。
 瞬脚で距離を取り、敵の攻撃は回避して転反攻、そしてとどめの極神点穴。
 そして稼いだ時間で仲間たちは再武装し、あっというまに反撃の準備が整うのだった。
 鎧鬼担当として暴れ回るのは恵皇に緋桜丸と緋炎。
 そして、もう1人は腕にしっくりとなじむのを確かめるように剣を振るう浅井だ。
「久々に使ったショートソードも悪くないけど、やっぱりこっちが私らしいね」
 手になじむヴィーナスソードを振るって、手近な鎧鬼に向かいつつ、まずは短銃での射撃で牽制。
 そしてあっという間に近づくと右手の剣の一撃。銃と剣で縦横に戦って、彼女は隙を作り出したのだった。

「あのおじちゃん、きっと今が食べ時だよぉ」
 けらけらと笑みを浮かべながら、蛇神を放つシュラハ。
 彼女は呪縛符で敵の首魁である鉄甲鬼を牽制しながら周囲の鎧鬼を術で撃破していた。
 まだ幼い容姿ながら、その技の冴えは凶悪。
 にっこりと笑いながら彼女は、
「‥‥アヤカシさん達と仲良くするのは憧れるけどぉ‥‥やり方がマズいよねぇ?」
 小さな声で呟いて、さらにもう一体のアヤカシに今度は斬撃符を叩き込んで仲間を援護するのだった。

 浅井の奮闘やシュラハの援護、そして恵皇や緋桜丸、緋炎は鎧鬼たち相手に優勢であった。
 これは実際は驚くべき事である。
 鎧鬼は開拓者複数名であたることもおおい強力な鬼だ。
 それを彼らは連携し、各個撃破することで効率良く倒しているのだ。
 そして、それによって生まれた隙を突くのが鷲尾と梢、そして只木だった。
「‥‥理穴でこれ以上アヤカシをのさばらせるわけにはいかない」
 静かな気合いとジャエンへの怒りも合わせて、只木は愛用の弓「天」の弦を引き絞った。
 鎧鬼は仲間が引き受けてくれている。それを信じて、狙うのは敵の首魁鉄甲鬼。
 熟練の弓術士のみが習得しうる強射「弦月」で狙い定めるのは鎧に包まれた鬼の目だ。
 まっすぐ放たれた矢は、見事鉄甲鬼の目を射貫いて、苦しみの咆哮を上げる鬼。
 そこに接近したのは、鷲尾と梢だった。
「オマエらの寿命ラストオーダーの時間だァ! 最後まで楽しませろよなァ! アァ!」
 槍を手に、狂眼を光らせて、紅蓮桜を発動しての一撃は苦しむ鉄甲鬼の鎧をはじき飛ばす。
 鉄甲鬼の特徴は、強力な攻撃力と同時にその分厚い装甲による防御力だ。
 だが、只木の弓に鷲尾の槍がみるみるうちにそれを削っていく。
 そして、そこにとどめをさしたのは梢だった。
「ま、悪いがアンタはついでダ」
 絶破昇竜脚で姿勢を崩してから、脳天に旋蹴落の一撃。
 見事な連携で中級アヤカシとして猛威を振るう鉄甲鬼は崩れ去るのであった。

 その後、残りの鬼たちはあっという間に滅ぼされた。
 実は彼我の戦力差はそれほど多くなかった。
 だが、開拓者達を動かしていたのは強い怒りだった。それがこの一方的な戦いの原動力となったのだろう。
 そして残るのは、ジャエンただ1人。
 もしただの人間ならもう事切れていただろう。
 だが、彼は常人より生命力で勝る志体を持っていた。今回限りは、不幸なことに。
「‥‥三下が小賢しく人様陥れるからこうなるんだ。連れは全部先に行って待ってるぜ」
 にたりと笑う鷲尾の言葉に、荒い息をついて睨み返すジャエン。
 だが、彼はずるりと赤黒いぬめぬめした蛇が自分の首に巻き付いたのを見て息を呑んだ。
「‥‥おじちゃん、鬼に食べられてた方が幸せだったんじゃない?」
 にっこり微笑むシュラハの蛇神がジャエンの体を這い回る。
 恵皇は一発殴ったし興味無しといった様子、只木もジャエンの言葉なんか聞きたくないと背を向けて。
「ムカツク奴は、面倒だなぁ‥‥あとは任せたヨ」
 ひらひらと手を振って、愛用のもふらの面をかぶり直す梢。
 その言葉に背を押されるように、浅井は
「人でありながらアヤカシに組する‥‥か。もはや人でありながら人ではないといった所かな?」
 そういって、冷徹な視線を向けてぽつりと
「私は一切容赦する気はないよ、そう言うのは‥‥」
 といえば、緋炎が地面に刺さった刀を抉りながら引き抜いて、
「フフ、今回は君の始末も含まれているのでね‥‥さよならだ、と言いたい所なんだが」
 続けるのは緋桜丸。
「だが、簡単にはやらねぇ。今までの罪たっぷり背負ってもらわなきゃな!」

 そして、後日。ジャエンは戦闘中に死亡したとだけ報告がなされた。
 下衆は、その悪行の報いを受けたのである。