船上で水難が災難
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/05 20:36



■オープニング本文

 その船は海上で立ち往生していた。
 大きな帆を広げてはいるものの、風が全く吹かなければ船は動かない。
 さすがに天気には敵わない、と凪いだ海面を見つめるしかないのであった。

「まぁ、船旅ならたまにこういう事もあるからな。明日の朝になりゃ風も戻ってくるだろうさ」
 そう言うのは船長だ。酒を大量に積んだ大型船には15名ほどの船員がいた。
 この輸送船は天儀の海岸沿いを、重量ある酒などを積んで輸送する交易船なのだ。
 一応納期はあるものの、天候ばかりはどうしようも無いと笑い飛ばす船員たち。
 きっとこういう状況にもなれているのだろう。
 たまたま船に同乗していた貴方たちはそんな船員を頼もしく思うのだった。

 しかし、夜半。暑い日差しは収まったとはいえ、じっとりと湿気た温い空気の中に漂う不穏な気配。
 最初に声を上げたのは、見張りの船員であった。
「‥‥‥あ、アヤカシだぁぁぁ!!!」
 ばしゃばしゃと水面を波立たせて、船に這い上がろうとする影、それは異形の姿だ。
 魚のような鱗をぬらぬらと光らせて、月明かりに浮かび上がるのは魚人のようなアヤカシだ。
 それが群れを為して船に這い上がろうとしているというわけだ。
 船にいる水夫たちは、志体を持たない一般人だ。この状況には対処できるわけがない。
 残された唯一の希望、それはたまたま同乗していた貴方たち開拓者だ。
 朝まで生き残らねば船は沈んでしまうだろう。そうなれば生き残れるか分からない。
 だが、周りは全て敵。孤立無援の船上、どうやら辛い戦いになりそうである。

 さて、どうする? 


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
百舌鳥(ia0429
26歳・男・サ
紫焔 遊羽(ia1017
21歳・女・巫
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
長渡 昴(ib0310
18歳・女・砲
トカキ=ウィンメルト(ib0323
20歳・男・シ
葛籠・遊生(ib5458
23歳・女・砲


■リプレイ本文

●戸惑う船上
「‥‥‥あ、アヤカシだぁぁぁ!!!」
 上がった船員の悲鳴と同時に、飛び出す数名の姿。
 それは船に同乗していた開拓者達であった。
 普段は腕っ節自慢の船乗りたちも、アヤカシが相手では腰がひけるというもの。
 なにせ相手は、人を喰らう怪物たちなのだ。立ち向かって勝てる相手ではない。
 それ故に、逃げ場のない船の上で取り乱して右往左往する船員たち。
 それを一喝したのは長渡 昴(ib0310)ら、開拓者の声だった。
「海の男がおたおたすんな! アヤカシは私たちが相手をする、だから持ち場に戻れ!」
 船乗りの生まれだという騎士の長渡、思わず男言葉で船員を叱咤。
 そして、そのまま甲板に這い上がろうとしてきたアヤカシ相手を盾ごと体当たり、そして長脇差を一閃。
 同じようにアヤカシを前に、タワーシールドとナイトソードを構えるレヴェリー・ルナクロス(ia9985)は、
「貴方達は海の男でしょう! 狼狽えないで‥‥!!」
 戦装束に身を固めた凛々しい女騎士の一喝、それはアヤカシを前にして一歩も引かない説得力に満ちていた。
「さぁっ! 此の私が相手になるわ!」
 盾でがっしりと敵の攻撃を受け止めると、最低限の動きで相手の姿勢を崩し、鱗の隙間に刺突で反撃。
 中々に体力がありそうな半魚人アヤカシ相手に、一歩も引かない戦いを繰り広げるのだった。
 彼女たちの様子を見て、算を乱しかけていた船員たちはぐっと踏みとどまる。
 それを見た百舌鳥(ia0429)は、
「そうそう、海の男ってーのは、かっこ良くあって欲しいもんだ」
 にやりと笑いながらそういって、自身も両手に刀を抜き放つ。
 月光の下、ふらりとアヤカシに近づくと、咆哮で引きつけ変幻自在の二刀流で攻撃、海に叩き返す百舌鳥。
 そして百舌鳥の後ろから声をかけるのは紫焔 遊羽(ia1017)だ。
「さて隊ちょ‥‥て、ここではちゃうな、百舌鳥さん。どないして切り抜けよかいな?」
 扇を構えて前衛を神楽舞「武」で強化しつつ尋ねる紫焔、それに百舌鳥はアヤカシを斬り倒してから、
「‥‥そうだな、今のうちに船員にいろいろ言っておくといいんじゃねーかな?」
「了解、ほな頑張ってや! ‥‥船員さん、海の男や言うからには、男見せる所やで!」
 そう言いながら、船の甲板に集まっている男達の元に合流する紫焔。
 そんな船員たちのところに居たのは小さな女の子、鈴梅雛(ia0116)だった。
「‥‥今は、どういう状況ですか?」
 くしくしと目を擦っているのはどうやら寝起きのよう、しかし状況を把握しようとしているようで。
 一時、前衛たちが当座の敵を迎え撃っている間に、開拓者達は船員に対して作戦を伝えることとなったのである。

「‥‥分かった、とりあえずは帆を傷つけさせねぇように畳むのと、灯りの手配だな」
 剣戟の音が響く中、舵取と呼ばれる航海の指揮を執る壮年の男がそう開拓者達に応えた。
 すでに、若衆は船頭の指示のもと、帆柱に取り付き帆を畳み始めている。
 だが、やはり逃げ場のないこの状況で不安が募るのだろう。
 そんな水夫たちに対して、開拓者達は次々に言葉をかけるのだった。
「長渡の者が乗った船沈める時ゃ、死んだ時よ!」
 船乗りとしての矜持もあるのか、長渡はそう請け負いながら刃を振るう。
「文字通り大船に乗ったつもりで構えて居て。私達が戦い続けていられるように」
 仮面の女騎士、レヴェリーはそう言って信頼を見せることで、水夫たちに訴えた。
 そして行動することで、船員たちを奮い立たせるのはまだ若い開拓者達の奮闘であった。
「船が沈んだら、元も子もありません。次はひいなが行きます。まだ始まったばかりですから」
 剛胆さを誇る海の男が怯える中で、鈴梅はそう言って仲間の開拓者達と肩を並べて。
「貴方達は、私たちがきちんとお守りします。‥‥信じていてください」
 そして耳をへしょっと伏せつつも、そう請け負う葛籠・遊生(ib5458)は、月明かりの中銃撃を重ねて。
 有無を言わさず船員たちに命令するのではなく、協力関係を気付きながら信頼を勝ち得る。
 まず開拓者達はそのことに成功するのだった。
 そうなれば船員たちも普段の勇気を奮い起こす。あるものは船行灯を抱えて灯りを灯し、ある者は見張りに。
 船員たちは開拓者と声を掛け合い、船室に入って船の整備を整え、いつでも動けるように連携を整えるのだった。

●終わらぬ激戦
「‥‥なにやら外の様子が変ですね。普通じゃない様子‥‥アヤカシですか!」
 ずぎゃーんと隠れていた積み荷の間から飛び出すペケ(ia5365)に、樽を固定していた船員がびっくりしたり。
 しかし、今は1人でも人手が欲しいとき。ペケも状況を聞いてすぐに戦闘に参加する。
「このピンチに嬉しい密航者ペケです!」
 きっぱり言われて、思わず船員も密航者が居たなんて‥‥とぽかんとしてみたり。
「でも、目から感謝汁出すのは、無事に帰り着いてからにしましょう♪」
 と笑顔で言ってみたり。しかしこんな暢気な対応でも、緊張を和らげる効果はあったようだ。
 そんな彼女は甲板上で遊撃対応。葛籠と連携して全方位を警戒しながら、敵を牽制だ。
「葛籠さん、ボス的な存在は居ませんか? 集団で攻めてくる連中なら居ないとおかしいはずです」
 甲板に飛び上がってきたアヤカシを破山剣でざっくり切りつけ、飛び退りながら苦無でだめ押し。
 前衛をもこなしながらペケがそう葛籠に聞けば、
「まだ、そういうのは居ませんね。‥‥こっちからは上がらせません!」
 縁に手をかけて登ってこようとしていた一体を葛籠は蹴りつけてから、至近距離からの銃撃で仕留める。
 序盤戦は、なかなか開拓者有利で進んでいるようであった。

 そして、その善戦の背景には術者たちの奮戦もあった。
「いやーついてないですねー」
 マシャエライトを使って周囲を明るく照らしつつ、のんびりとトカキ=ウィンメルト(ib0323)。
 遠方の敵や、前衛と戦っている最中のアヤカシをサンダーで援護。
 そして、時には自分の前の敵をエレメンタルサイズで直接攻撃。
 術者は前衛たちと違って、練力が枯渇すれば戦闘を継続できない事が多い。
 だが、
「船に沈まれちゃ困りますしね」
 そう言いながら、トキカが振るうのは長大なエレメンタルサイズだ。
 接近戦も時にはこなすことで、前衛を援護しつつ練力を節約しているのであった。
 そして同時に彼は、船員に船底になにか異音が無いか。船に損傷が無いかを気にかけているよう。
「死角からのアヤカシの侵入や船の損傷も怖いですからね」
「まだ大丈夫です。ひいなも結界で調べてますし」
 そんなトキカの心配に、紫焔と交代で前線の援護から一度退いた鈴梅が応えた。
 どうやら、船底や直接船体に攻撃を仕掛けてくるようなアヤカシはまだいないようだ。
 アヤカシ達はあまり知能が高くないようで、ただ愚直に船に這い上がって人間を狙っているようで。
「んー‥‥ならば大丈夫そうですね。ですが数が多いので、これから少しずつ辛くなりそうですね」
 そう言って再び前衛の援護に廻るトキカ。まだまだ戦いは終わらないようであった。

「よりにもよってこんな時にアヤカシとは‥‥これも巡り合わせという物でしょうか」
 レヴェリーの援護をしながら、思いを馳せているのは朝比奈 空(ia0086)だ。
 魔術師の彼女も、今回ばかりは腰に蒙古剣を履いて、接近戦も辞さない構え。
 はじめ彼女も薄い月明かりでは不安だと、マシャエライトを使おうと思っていたようだ。
 だが仲間による船員たちへの叱咤激励が効いたようで、灯りはトキカのマシャエライト含めて十分のよう。
 それならばと練力を温存。アヤカシのみに効果のあるホーリーアローで前衛を援護していくのだった。
 すでに戦いが始まって2時間は経過していた。
 前衛をはじめ、後衛である彼女らもそろそろ疲れを感じ始めていた。
 今回、船の外周がそれほど広くないこともあって、守りは簡単であった。
 だが、数が多い。それはつまり休む間もなく戦闘を続けていくしかないと言うことであった。
 高まる疲労、これが続けば小さな失敗が増えていくことだろう。
 だが、そこにおいても開拓者達は用意周到に準備していた。
 交代で引く朝比奈。代わりに小休止をとっていたトキカが前衛の援護に廻る。
 その隙に、朝比奈は船中央の船室に降りて、水分補給と軽食を取るのだった。
 ほっと一息ついて、船室に降り立てば、渡されたのは水と暖かい握り飯。
 船について熟知した長渡が、あらかじめ船員最年少の見習いの青年に握り飯の用意を頼んでいたようだ。
 水樽から汲んだ真水と握り飯を軽く口にして、数分の小休止。
 だが、こうした小さな休憩を取ることが長く戦いを続けるためには重要なのだ。

 そして、休憩を回しながらも奮戦する最後の1人。
「エースの座は渡さないわよ♪」
 妖刀「血刀」を手に、術を飛ばしつつ戦う霧崎 灯華(ia1054)だ。
 初期は術による援護で戦っていた彼女も、前衛が交代に入ったときには前衛も務める奮戦ぶりであった。
「この程度でヘコたれる訳? 冗談じゃないわ、一気に行くわよ!」
 一度押されてしまえば崩れかねない防衛戦、そこで彼女はあえて好戦的に前に出て士気を維持しているようだ。
 だが、そんな彼女の前に新手が現れた。
 それは、今まで戦っていた半魚人のようなアヤカシと同じ姿ながら、二回りほど大きな個体だった。
 掌が吸盤のようになっているのか、ぺたりと船の壁面を這い上がり、ぬうっと姿を現す巨大な半魚人アヤカシ。
 ぎしぎしと船がきしむほどの重量感とともに現れた数、なんと4体。
 経過時間、ここまでで4時間。そろそろ疲労度はピークを迎えつつあるこのときに強敵が出現したのだった。

 だが、開拓者達は全く諦めなかった。
 疲労度をこまめに回復するように休憩を取り、信頼関係を気付くことで船員たちの協力も得た。
 そして何より、全員で防衛するという意思統一が成されてたことも重要だ。
 もし、1人でも潜って調査に行ったり、別の行動を取っていた場合は、連携は崩れていたかも知れない。
 だが、今回は全員が連携し、長時間の戦闘にも耐えられるような策を取っていた。
「此処は通さない。通りたくば――私を屍にしていきなさい!」
 裂帛の気合いと共にレヴェリーが盾を構えて巨大アヤカシを相手に立ち向かう。
 同時に仲間たちも一気に攻勢に出るのであった。

●昇る朝日
 巨大アヤカシ相手に戦いが始まると同時に、長渡は船長に対して問いかけていた。
「船長、天候の見立てに変化は?」
 そう言いながらも、黄金短筒を取り出して巨大アヤカシの脇から登ろうとしていた雑魚アヤカシを銃撃。
 そんな奮闘の様子を見ながら船長は、風の匂いを嗅いで、
「‥‥わからん。だが、もしかすると少しは早まるかもしれんな、湿気が強まってきておる」
「わかった。それならすぐに開帆出来るように控えさせてくれ。ここは絶対に守るから」
 そうとだけ告げて、再び前衛に戻る長渡。彼女を船員たちは信じて準備し、その時を待つのだった。

 四体の巨大アヤカシに対して前衛は分散しつつも持ちこたえて居た。
「必ず護ってみせる!」
 盾を手に守りの構えはレヴェリー。残り少ない練力を振り絞りつつ、シールドノックで相手の体勢を崩す。
 そこを連携するのが空。練力を温存していた朝比奈は、
「ゆっくりと相手する暇は無いので‥‥一瞬で終わらせます」
 高位の魔術師のみが習得しうる魔術の秘奥、ララド=メ・デリタの一撃。
 生み出された灰色の光球は巨大なアヤカシの頭部を灰と化してとどめを刺すのだった。これで一体。

 轟と振るわれた巨大アヤカシの一撃を受けつつも不動で耐える百舌鳥。
「効かねぇな。じゃ、今度はこっちの番だ、覚悟はいいかい?」
 にぃと口の端をつり上げて、血の滴るままに反撃して、二刀流で連続攻撃。そんな彼を癒し援護する紫焔。
「‥‥もう少し、皆‥‥辛抱して下さいまし!」
 力の歪みで援護しながら少しでも傷を癒して、そして後衛も援護。
「やっぱり出てきましたね、ボス的なやつら!」
 奔刃術で、雑魚たちをなぎ倒すのはペケ。後衛に敵が近づかないように援護すれば、
「後ろがお留守ですよっ」
 葛籠が、巨大アヤカシを強弾撃を見舞って。百舌鳥の刃で傷ついていたアヤカシが消滅し、二体目撃破。
「しかたありませんね」
 と前に出るトカキ。エレメンタルサイズで雑魚をなぎ払いつつ、サンダーを巨大アヤカシに。
 そしてひるんだ隙に、今度は霧崎が切り札発動。
 黄泉より這い出る者と呼ばれる陰陽師に秘術によって呪いを送り込まれた巨大アヤカシは、そのまま消滅。
 これで残るはたった一体。
 そして、傷ついた皆を癒したのは鈴梅の閃癒。紫焔の閃癒も合わされば、前衛たちはなんとか復活。
 最後の一体を、連携して海に叩き返すことに成功するのだった。
 そして、ゆっくりと日が昇り始めていた。
 経過したのは5時間ほど。まだ風は無い、が船長は帆を広げるように命令。
 ここまで船員を1人も失うことなく、護りきった開拓者の働きがあったからこそすぐ帆は開いた。
 同時に吹き始めた弱い風をとらえ、船は進み始めるのだった。
 鈴梅の瘴索結界、そしてペケの煙幕で警戒しつつ、一行は朝日の下で脱出するのだった。
「‥‥もう、大丈夫みたいです。でも、流石に疲れました」
 鈴梅は、結界になにも引っかからなかったとやっと安心した顔を見せて。
 その言葉を聞いて、
「‥‥はふ‥‥お、終わった‥‥?」
 思わずぱたっと甲板に転がる葛籠。疲労が限界だったようだ。そんな彼女を膝枕してあげつつ紫焔は、
「ご苦労様やで‥‥さて百舌鳥さん、ちょいと今回危うげやったんちゃう?」
 やっと一息ついて、百舌鳥を見ながらそんなことを言ってみたり。
「はん、危なくなんて無かったと思うぜ。なあ霧崎」
 と、こちらは油断無く周囲を見渡していた霧崎に話題を振ってみれば、
「‥‥そうね、でも倒した数では私の方が上よ♪」
 と何故か胸を張って主張されてみたり。

 ペケは水蜘蛛の術を使って、ぴょんと水面に降り立っては船に戻り、船外壁に問題が無いか確認中。
 しかし問題は無かったようで、
「やっぱりちゃんと団結すれば、あっさり帰れるもんですねー」
 そういって、油断していたら密航の話を問われてそっぽを向いたり。もちろん今回の働きで不問とされて。
 そして、やっと腰を下ろして、昇る朝日に眼を細めるのはレヴェリー。
「ふぅっ。‥‥朝日が、眩しいわね」
 そんな彼女に、トキカは
「お疲れ様でした‥‥と」
 そう声をかければ、船員が2人に水と握り飯を持ってきて。
 長い長い夜は明け、船は無事港へ向かう航路に乗って。大変な依頼を見事開拓者は乗り越えたのだった。