海の幸を一緒に
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/07/22 01:23



■オープニング本文

「わしゃ、食べたいと思ったときに食べに行くことにしておるんじゃよ」
 そんなことを、のたまいつつ煙管をふかす老人が1人。
 彼の名は、岩城鉄右衛門。手広く商売をしていた老人で、なかなかの資産家だとか。
 今は子供達に仕事を任せ、隠居生活を満喫している道楽者だという話で。
 聞けば、今回は暑気払いもかねて、ちょっとした小旅行をするつもりのようで。
 だが、聞けばかなりわがままなご老人という話で‥‥。
「聞いた話じゃ、開拓者ちゅうもんはいろいろと便利ちゅうことじゃの?」
「えー、いやその、便利というか依頼をしていただければ、ですが‥‥」
「なんじゃ、もちろん依頼はするぞ? ま、一人旅が寂しいなんぞ、そのままの依頼をだしたら、さすがに恥ずかしいしのう‥‥護衛ってことにしとくかの」
 引きつった笑顔の受付もなんのその、にぃっと笑みを浮かべた鉄右衛門翁は。
「1人でうまいもんを食いに行ってもつまらんもんじゃ、護衛がてらに、ちぃと儂の道楽に付きおうてくれんかのう」

 さて、どうする?


■参加者一覧
柄土 仁一郎(ia0058
21歳・男・志
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
美咲(ia0808
17歳・女・巫
フィー(ia1048
15歳・女・巫
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
煉夜(ia1130
10歳・男・巫
九重 紗音(ia1141
15歳・女・サ
水月(ia2566
10歳・女・吟


■リプレイ本文

●初めまして
「‥‥護衛は名目じゃが‥‥大丈夫かのう?」
 なんだか笑みを浮かべているのは依頼人、岩城鉄右衛門老人。
 彼が見やっているのは開拓者達だ。
 それもそのはず、なんだか面子が総じて若い上に女性が多いのだ。
 じーっと、鉄右衛門が見つめると、
「‥‥ん‥‥!」
 フィー(ia1048)はしゅたっと手を挙げて挨拶。
「‥‥まぁ、なんとかなるじゃろう」
 わしわしとフィーの頭を撫でながら、呵々大笑する鉄右衛門であったり。

 さて、出発の少し前、顔合わせしてからいろいろと準備が進む中、開拓者達はそれぞれの準備に奔走していた。
「ご老人、今回は宜しくお願いします」
「うむ、こちらこそよろしく頼むぞ。なぁに、そんなに気張らんでも良いんじゃよ」
 柄土 仁一郎(ia0058)は改めて礼儀他正しく挨拶すれば、その背をばんばん叩く鉄右衛門。
 どうやらこの若くて立派な体格をした志士が今回は最年長のようだ。
 しかし、今回はこんな依頼、まとめ役が必要という物でもないので、柄土ものんびり構えているようで。
「‥‥それで、ご老人はどんな商売を‥‥」
「うむ、最初は小さな店から始めたのだがな‥‥」
 出発までの少しの間、なんだか話題が弾んでいるようであった。

 一方、いろいろと忙しく準備している様子の面々も。
「あ、美咲さま。お醤油を取っていただけますか?」
「これかな? はい、煉夜さん。‥‥釣り、楽しみですね」
 美咲(ia0808)と煉夜(ia1130)は朝早くから起き出してみんなの弁当を作っているようである。
「楽しみだね、ミッサー‥‥あ、卵焼き味見〜」
 ひょーいぱくっ、と卵焼きの味見をしたのは九重 紗音(ia1141)。
 どうでしょう、と心配げに見やる美咲と煉夜に向かって九重は、ぐっと親指を上げてにっこり笑顔。
 ということで、朝も早くから、頑張る3人なのであった。
 どうやら、なかなかに豪華なお弁当が、たっぷり作られているようで。
 お品書きは美咲が主導して決め、夏にふさわしい品が並んでいるのであった。
 詳しいお弁当の内容は、3人が大事そうに抱えている重箱を開くときまでの秘密と言うことで。
 いよいよ出発の時間である。

●海にて
「さて、残りはお酒ね‥‥みんなをビックリさせるような物入手して満足させてやるんだから」
 霧崎 灯華(ia1054)は、そう言って海岸沿いを歩いていた。
 開拓者と鉄右衛門老人は船で沖に出たようだが、彼女は別行動。
 他のおいしい物を探してくる、と彼女は特産品と酒探しに奔走しているようである。
 本当の護衛依頼ならば別行動は許されないのだろうが、鉄右衛門老人は快諾。
 頼んだぞ、と送り出してくれたそうである。
「‥‥一人旅で身につけた交渉術の見せ場ね。ごめんくださーい!」
 そういって霧崎は古びた酒屋にはいっていくのであった。

 さて、他の開拓者は、無事海までやってきていた。
 時刻はまだ午前中、寄せては引く波の音と、海からの潮風がほどよく夏の陽気を払ってくれる。
 そんななか、彼らは大きな一艘の釣り船に乗せられていた。
「釣具に船に‥‥至れり尽くせりだな」
 柄土がつぶやくように、全員の手には、しっかりと竹で作られた釣り竿が握られていた。
 しかし漆の塗られた竿を手に、各人は思案顔、どうやら釣りに親しんでる人間は少ないようだ。
 ということで、にわかに鉄右衛門老による釣り教室が始まったようで。
「よいか、嬢ちゃん達。釣りでは焦ってはならんぞ。まずは、こうして‥‥」
 ということで、各人は慣れない釣りを始めるのだが。

「ほう、お嬢ちゃん、なかなか様になっとるじゃないか」
 そんな鉄右衛門の言葉に、にこっと笑って応えるのは水月(ia2566)だ。
 そんなことありませんとばかりにふるふる首を振りつつも、慣れた様子で。
 ゆらゆらと揺れる船の上、緑の瞳は波間に揺れる糸の先を追って。
 姿勢は、しっかりと背筋を伸ばしてゆったりと不動、彼女は経験者のようである。
「ふむ、どうやらお嬢ちゃんは大物狙いじゃな」
「‥‥この辺りには、ヌシとかは居ないんでしょうか?」
 にかっと笑顔の鉄右衛門に対して、かくりと首をかしげて尋ねる水月。
「ヌシ? ふぅむ、聞いたことは無いが、それなりの大物もかかるようじゃよ。晩ご飯は期待しとるぞ」
 自分も釣り竿を垂れながら、そう励ます鉄右衛門に、こくこくと頷いて頑張りますと笑顔で応える水月だった。

「仁一郎さんは、釣りとかするの?」
「ん? まぁ、一通りはな‥‥ほら、出来たぞ」
 水鏡 絵梨乃(ia0191)は柄土と並んで、釣り竿を構えて。
 柄土に水鏡は釣り竿を組み立ててもらって、さぁ釣りを始めようというところのようで。
「さて、絵梨乃さん。餌は俺がつけようか?」
「いや、大丈夫だよ。私はこれを餌に使うから」
「‥‥その黄色いのは、やっぱり‥‥」
「そ、芋羊羹」
 しゃきーんと取り出したのは好物の芋羊羹であった。
 大丈夫だろうか、と首をかしげつつも並んで釣り竿を垂れれば。
「お、引いてるッ! この重さはきっと大物だ」
「おわっ、急に立ったら危ないぞ! そら、手を貸すぞ!」
 どたばたと2人は大立ち回り、どうやら芋羊羹は意外に食いつきが良いようで。
 ひっくり返りそうになりながら、必死で引き上げれば、なかなか大きなお魚を釣り上げて。
「ほら、お魚さんも芋羊羹のおいしさが分かるんだね」
 もきもきと自分の芋羊羹をかじりつつ、釣り上げた大物を自慢げに見せる水鏡に柄土は、
「‥‥それなら俺も芋羊羹で釣ったほうが良さそうかな」
 と、言って2人で笑いあうのであった。

「なかなか筋が良いじゃないか。2人とも」
 鉄右衛門、初心者2人を前にご満悦。
 彼の前で、獲物相手に四苦八苦しているのは、煉夜と九重だ。
「あ、かかった、かかった!!」
「こりゃ、そんなに竿を振ったら逃げてしまうぞ?」
「‥‥あー、ほんとだ〜、餌とーらーれーたー‥‥」
 しおしおとしょんぼりしている九重。一方真剣な顔をして一生懸命竿を握っている煉夜の方には動きが。
「う、わわ、引いてます! お、落ちそうです〜!」
 ぐいぐいと大物の予感、鉄右衛門や九重も手伝ってくれて引き上げたのは大物で。
 そして船の中でびちびち暴れる大物を掴んだのは美咲だ。
「わ、これは大物ですね。晩ご飯の料理のしがいがあります‥‥」
 針を外すと、用意された籠の中にぽい。どうやら彼女は地道に獲物を結構捕らえているようで。
 こんな風に和気藹々と釣り船は進むのであった。

「しっかしのう‥‥こんな開拓者が来るとは思っておらんかったぞ?」
 釣り船の中で開拓者達に向かって言う鉄右衛門。
 きょとんとした顔をして、周りの開拓者達は鉄右衛門を見るのだが。
「‥‥美味しいもの‥‥食べれる‥‥から‥‥」
 フィーは、だから来たんだよ、と不思議そうに見上げれば、たまらず鉄右衛門は吹き出して。
「いや、な? きっと、荒くれ者だとか、血気盛んなガキどもが来ると思っとったんじゃがな」
 そういうと一同を見やって。
「こうして、礼儀正しい者や、綺麗な嬢ちゃんばっかりが集まるとはな、意地悪もできんじゃないか!」
 と、呵々大笑する鉄右衛門であった。
 思わず、そんなこと考えてたのかと苦笑する開拓者だが。
 ぐー‥‥きゅるるる‥‥。響く音は、フィーのお腹から。
「‥‥お腹‥‥すいた‥‥‥」
「はっはっは! それじゃ昼飯にしようじゃないか!」
 こうして、鉄右衛門の鶴の一声、釣りを中断してお昼を取ることに。

「はい、こちらはおにぎりで梅干しが入っています。こちらが干物で、胡瓜はこちら‥‥」
 美咲が重箱入りのお弁当を開ければ、暑さ対策もばっちりのお昼ご飯がずらり。
「はい、フィーさん。これもどうぞ」
 はらぺこのフィーに、煉夜はうさぎさんに切った梨を渡したり。
「みんな、いい嫁さんになれそうだな。ワシの娘達を思い出すぞ」
 おにぎりを囓りつつそんなことを言う鉄右衛門老。
 その言葉に、女性陣に加えてなぜか煉夜も、そんな〜と照れつつ喜んでいたりするのであった。

●宴会
 昼ご飯を食べたあともしばらくは釣りに興じた開拓者、日が落ちれば海沿いの旅籠に戻ってきて。
 後はつった魚を酒の肴に宴会である。
「まったくのう、変な開拓者が来れば無理難題をふっかけようと思っとったのに‥‥孫に囲まれとる気分じゃよ」
 とぶちぶち言いつつも、顔は笑顔の鉄右衛門。
 さて、まずは料理である。
 もちろん基本的な品は、全部宿の板前が用意したようだが、美咲は自ら料理した魚も振る舞っているようだ。
「ほら、評判のお酒をちゃんと仕入れてきたわよ」
 霧崎は、狙いの酒を仕入れてきたようで、歓迎されたようだが、酒を飲む人間はそう多くないようだ。
 霧崎の仕入れてきた酒を手に、柄土はまずは鉄右衛門に勧めて。
「ご老人、まずは一献‥‥」
「おお、すまんな‥‥しかし、良く手に入れてきたな、さすがじゃのう」
 と、酒好きの鉄右衛門は霧崎の仕事にもご満悦のようで。
「ではでは、この素敵な出会いをもふらさま辺りに感謝しつつ‥‥乾杯!」
 水鏡のお気軽な乾杯の音頭に合わせて、宴会は始まり、酒盃やら飲み物を煽る一同。
 それからは、それぞれがお膳に豪奢な食事をのせて、わいのわいのとご飯の時間だが。
「これ‥‥わたしが釣ったの」
 鉄右衛門にお披露目、何匹かつれた大物のうち一匹は水月がつり上げたもので。
 美咲の手で、尾頭付きのまま塩焼きになって、大皿の上に。
「ほう、こりゃ見事じゃな! さすがじゃのう」
 くしくしと頭を撫でてもらって、なんだか水月もご満悦の様子で。
 そして、お腹も満ちてくれば、鉄右衛門はにやりと笑顔で、芸はないのか、と言ってみれば。
 開拓者達はそれぞれ待ってましたと応えて。

 一番手は、柄土と九重だ。
「取り出しましたるはこの独楽。真剣の刃渡りをご覧入れましょう」
 なんだか器用な柄土は曲独楽の芸を披露、すると九重も対抗して、
「あ、それなら私も!」
 手伝いの手を休めて、抜き払った太刀の先でくるくるとお皿を回してみて。
 はじめの芸は、どきどきはらはらみんなの心を掴んだようで、鉄右衛門老も拍手喝采。
 続く芸は、派手に一発。
 座敷から見える庭に、あらかじめ用意してもらったのは瓦だ。
 そして十数枚積み重ねられた瓦の前に立つのは水鏡。
 構えて、するどい呼気と共に、
「これぞ、水鏡流酔拳の奥義‥‥‥瓦割りッ!」
 振り上げたのはなんと踵、一直線に振り下ろされた踵の一撃は瓦の山を真っ二つに叩きわって。
 鉄右衛門老も、嫁の貰い手とか大丈夫かのう? とはやし立てつつも拍手するのであった。

 さて、派手な宴会芸も一段落。
 しっかり芸を披露した柄土と水鏡は、
「さて、絵梨乃さん。はじめるかい?」
「うん、はじめよう!」
 2人の前には、なみなみと酒の入った徳利がずらり、どうやら飲み比べが始まるようである。
「うむ、この酒はなかなか美味いな‥‥」
 大きな杯でぐいぐいとふたりして酒豪っぷりを発揮しつつ、宴会はさらに盛り上がっていく。

「‥‥それでは、私が楽を‥‥」
 美咲が取り出したのは横笛。まだ暑さの残るこの季節の夜に、涼やかな笛の音が響いて。
 そして、一同の前に立つのは、煉夜だった。
 彼が舞うのは踊りとも演舞とも付かない独特の動きで。
 力強く、躍動感のある動きは、場を盛り上げて。
 一転、笛の音が穏やかで妙なる調べを奏でれば、踊り手は交代、フィーと水月だ。
 ふわりと、座敷に吹き込んだ柔らかい風が、2人の髪を揺らして、ゆっくりと舞が始まって。
 静かに、柔らかに、ゆったりと舞が続けば、一同は目を奪われるようで。
 そのまま、静かに楽の音が止まり、フィーと水月は一礼。
「‥‥んゅ‥‥‥ちゃんと‥‥舞えた‥‥」
「おお、すばらしかったぞ!」
 鉄右衛門は、彼女たちの心からの歓待に、嬉しそうな笑顔と拍手で応えるのだった。

 そして夜も更け。
「大勢もいいけど、やっぱりあたしは一人の方が落ち着くわ‥‥」
 そんなことを言いながら、霧崎は1人屋根の上で、酒盃を嘗めていて。
 ふと見れば、縁側に鉄右衛門の姿があった。
 その手には、九重からもらった、この小旅行の思い出を綴った書き付けだ。
 ぼんやりとした月明かりと、部屋から漏れる薄明かりの下、鉄右衛門はその書き付けを楽しそうに眺めていて。
「‥‥ふん、たまにはこういう息抜きもいいもんじゃのう‥‥」
 そう、つぶやいてから、屋根の上の霧崎に向かって。
「ま、潮風に当たりすぎるのもほどほどにな。わしゃ先に休ませてもらうぞ」
 といって部屋に入るのであった。

●別れ
「‥‥今回は良い席を有難う御座いました」
 深々と礼をする柄土、一行は都まで戻ってきていた。
 やっとついたと、ぷっかり煙管をふかす鉄右衛門であるが、その顔は嬉しそうに笑顔で。
「‥‥あの、最後にお願いが‥‥」
 おずおずと、依頼の終わりに際して、切り出すのは美咲。
「皆、良くやってくれた。今回の旅行は久々に楽しかった‥‥ん? どうしたんじゃ、嬢ちゃん」
「‥‥お祖父ちゃんって呼んでもいいですか?」
 今度は、鉄右衛門がきょとんとする番で。
「ふむ、そうじゃのう、ワシもこの数日は可愛い孫と遊びに行った気分じゃったの」
 と、にっこり笑って。
「ワシがじいちゃんでいいなら、そう呼んどくれ。また遊びに行こうな」
 どうやら、頑固な鉄右衛門老人も、すなおに好奇心と好意を向けてきた開拓者たちには形無しのようで。
 最後まで心底、喜んでいたようである。
 最後の最後まで別れを惜しむ開拓者と鉄右衛門老。
 次に、また鉄右衛門老人が旅の同行者を求めるのは遠いことではないかもしれない。