岩龍退治
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/04 19:22



■オープニング本文

 武天のとある廃坑山、そこに新たなアヤカシが見付かったとの報告があった。
 新種、といっても既存のアヤカシの亜種であると言えるかも知れないそのアヤカシは岩の龍だ。
 岩巨人などと呼ばれる、核を中心に岩が寄り集まって巨人を形成するアヤカシの亜種。
 今回発見された岩の龍は、翼は無いものの岩が集まった巨大な龍の姿をしていたのであった。
 調査によって分かったのは、非常に高い防御力と侮れない攻撃力を持っていること。
 現在、まだ一体しか確認されておらず、発見場所から動いてはいないようだ。
 だが、人里に現れれば必ず甚大な被害をもたらすであろう事が予測されるわけで。
 可及的速やかに退治することが求められているのである。

 そして一つ難点が。
 今回は場所が鉱山跡であり、開けた場所ではあるものの朋友の使用許可が下りなかったのである。
 雨が続いた昨今の気候で、鉱山として地盤が弱った山での激しい戦闘は危険が大きいとの判断だとか。
 そのため、身軽な開拓者達のみでこの岩の龍を退治しなければならないというわけである。

 その戦闘力は未知数ながら、非常に強いという予測が成されるこの岩の龍。
 しかし、なんとしても倒さねばならないのだ・

 さて、どうする?


■参加者一覧
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
御凪 祥(ia5285
23歳・男・志
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
九条・亮(ib3142
16歳・女・泰
郭 雪華(ib5506
20歳・女・砲
椿鬼 蜜鈴(ib6311
21歳・女・魔


■リプレイ本文

●胎動
 名も無き岩の龍。それが瘴気から転じてこの世に現れたとき、はじめに感じたのは愉悦だった。
 身に満ちる力。知恵を持たないアヤカシだからこそ、純粋に力を振るう喜びこそが岩の龍の根源となる。
 軽く尾を振るえば、粗末な坑道は砕け散り、力をこめて山を進めば何者も彼を止めることは出来ない。
 だが、力の愉悦と同時にもう一つ、強い強い渇望が岩の龍の根源にはあった。
 それは飢え。決して満ちることのない強い強い飢餓感だ。
 だが、それももうじき満たされる。
 岩の龍は感じていたのだ。もうすぐ、自身の元に彼の餓えを満たす者たちが現れることを。
 そして、八名の開拓者は岩の龍と対峙する。

「ふむ、鉱山跡とな。なんぞ宝石でも取れたのかのう?」
 ぷかりと煙管を吹かせながら椿鬼 蜜鈴(ib6311)が言えば、
「確かに武天には貴石の鉱山も多いな。ここもそうだったのかも知れないな」
 首を傾げて応える紬 柳斎(ia1231)。彼女たちは、鉱山跡を目指して山道を歩いている途中であった。
「鉱山といえども廃坑ならば、もう何も取れぬのかのう?」
 残念だとばかりに口を尖らせて言う椿鬼、そんな彼女の様子を見て商人の娘である郭 雪華(ib5506)は、
「廃坑になったと言うことは、取り尽くしたと言うこと‥‥素人の僕たちが探しても宝石は見付からないよ」
 淡々と言われて、それもそうじゃ残念じゃのと椿鬼は空を仰ぐのだった。
 こうして軽口を叩きながら、依頼に向かう彼ら。それは油断しているからではない。
 二十歳に届かない若い開拓者も多い一行ではあったが、彼らとて幾つもの死線をくぐってきた開拓者だ。
 他愛ない会話は、これから来る戦いに向けての儀式のようなものだ。
 常に張り詰めた弓の弦は切れやすく、硬すぎる刀は折れやすい。
 より強く、鋭く精神を集中させるために、今はほんの少しだけ緩めているのに過ぎないのである。

 一行は、特に障害も無く現場の鉱山跡へと到着した。
 ぐるりと露天掘りされた採掘場跡を見下ろす位置に立てば、低めの崖の下、眼下に大きな塊が一つ。
 それは岩で構成された巨大な龍の様なアヤカシだった。
 改めて見ればその大きさはかなりのもの。しかし感知能力は高くないようだ。
 警戒していた開拓者達は気付かれていないようだ。層と分かれば先手を取る好機だ。
 開拓者達は、予定通り前衛後衛と別れて作戦行動に移るのだった。

「ふむ、足場は多少悪いようじゃな。だが、気をつければ大丈夫じゃろ‥‥湿気は酷いがな」
 ぱたぱたと自身に風を送っていた扇を仕舞って、椿鬼がそう言って配置について。
 後衛の面々は崖の上だ。術を使うものは射程距離を保ちながらそれぞればらけて岩龍を見下ろす。
 その中でも一番遠く、高い位置に陣取るのは郭。長い銃を手に位置について、
「ここなら良いね‥‥戦場全体を感じるのに十分な距離があるから‥‥」
 そう呟いて、彼女は距離を詰めつつある前衛たちの背中を見送るのだった。

 そして前衛たちは、先手を取るために注意を払いつつ、崖を滑り降りていた。
 それほど崖は高くない。しかし、ある程度後衛たちの射線を確保する役には立つだろう。
 一同の先頭を行くのは槍を手にした御凪 祥(ia5285)だ。
 彼は知己であるアルティア・L・ナイン(ia1273)の方を向いて声をかける。
「大丈夫か? アルが前衛の中で一番装甲の薄いからな」
 そう心配されるアルティア。しかし彼はふっと笑いを浮かべて、
「確かに非力なボクとは相性があんまり良く無さそうだね‥‥でも、出来ることで貢献するよ」
 とういって前に視線を向ければもう岩の龍は眼の前だ。
 一同はそれぞれ自身の武器が仲間と干渉しないように、一定距離をとって分散。
「長引かせると厄介だね! 大変そうだけど‥‥やっちゃいますか!」
 耳をぴんと立てた虎の神威人、九条・亮(ib3142)が気合い十分にそう言って。
 一斉に開拓者たちは武器を構え、突貫するのであった。

●激戦
 前衛が行動を開始するのと同時に、その援護のために後衛が動く。
 だが、岩の龍は開拓者達の動きに気付いたようで、ぐぅっと体を起こすと咆哮を上げて尻尾を振るった。
 慌てて前衛が距離を取り直す。巨大な重量と硬度はそれだけで危険なのだ。
「‥‥大きくて硬い、となれば厄介だろうが‥‥」
 崖の上で魔杖「ドラコアーテム」を構えたオラース・カノーヴァ(ib0141)は、慎重に距離を測って。
「それなら、動きを止めてしまえば良いだけだ」
 まずオーラスが使用したのはアイヴィーバインド。魔法の蔦が地面から伸び上がり岩龍の足に絡みつき。
 そして続いて放たれたのは吹雪。ブリザーストームの氷雪が岩龍に襲いかかるのだった。

「的が大きいし、動きが止まれば‥‥‥」
 遠方より、静かに狙いを定めていた郭はオーラスの魔法で動きが止まった瞬間引き金を引いた。
 放たれた弾丸は、狙い過たず右前腕に命中。だが岩の装甲にめり込む程度で止まった様子だ。
「‥‥硬い‥‥なら、まずは前衛の援護を‥‥」
 そんな彼女の視線の先には、一気に攻勢に移った前衛たちの姿があった。
「御凪殿も無茶をするね‥‥。まあ‥‥それでも志体があるだけマシだろうけど‥‥」
 彼女がそう言って見るとおり、前衛たちはかなりの危険の中で懸命に戦っていた。
「崩落でもしたらことだからな。まずは機動力を殺させて貰おう」
 琥龍 蒼羅(ib0214)は、まず後衛の攻撃が集中している右前腕へと接近しようとしていた。
 だが、岩龍は足で踏みつけようとしてきたり、体で押しつぶそうとしてきたりとそれを妨害する。
 一進一退の攻防、しかし連携においては開拓者に一日の長有りだ。
「邪魔させんぞ。アル、合わせてくれ!!」
 十字槍を手に距離を詰めたのは御凪、友人のアルティアに声を飛ばして連携だ。
「まったく、無茶を言う‥‥でも、期待には応えなければね」
 そういうとアルティアは、右手に剣・左手に鞭を構えて。まずは鞭を一閃、びしりと岩龍の鼻っ面を一撃。
 もちろん岩龍にとっては痛くも痒くもない攻撃だが注意を引いたのは確かだ。
 轟と吼えるとアルティアを狙って尾の一撃を振るう。
 それをアルティアは、まるで舞うかのようにひらりと回避。
 あらかじめ予測していたからこそ可能な回避で、生み出したのは一瞬の隙。
 そこを合わせる御凪、槍を軸に剣舞を舞うかのように間合いを詰める。
 まずは雷鳴剣で牽制、そして続けざまに斜陽で一撃、岩龍を幻惑し時間を稼ぐ。
 二人の協力が生み出したのは僅かな時間だ。だが、仲間にとってそれは十分過ぎる時間となった。
「御凪殿とナイン殿が作った好機‥‥無駄にはしない‥‥」
 まずは遠方から郭の弐式強弾撃。狙ったのは御凪の攻撃を受けて踏ん張る岩龍の右前足の関節だ。
 強烈な一撃が命中。びしりと岩の表面にヒビが。
 だが、まだ不十分。破壊するには至らなかったのだが、もちろんそこは仲間が連携して詰める。
「ふふん。普通に当てた所で被害は上がらぬが、目くらましにならどうじゃ?」
 合わせたのは椿鬼。岩龍が反応するより早く、目を狙っての魔法の一撃。
 そしてそこまでお膳立てが整えば、この絶好の好機を逃す者は居ない。
「斬竜刀の名は、伊達ではない」
 自分が命を預ける愛刀を手に、足へと接近していたのは琥龍。なんと長大な斬竜刀を用いての居合一閃!
 自ら鞘を置き去りにするような速度で、踏み込んで振り抜いた一撃は郭の穿った関節を一撃。
「見切り、断ち切る‥‥抜刀両断」
 その言葉の通り、斬竜刀の長い刃は関節を一気に両断。
 岩の龍は足を一本失い、轟々と吼えその身をのたうたせるのだった。

 だが、岩龍はそれでも貪欲に開拓者を狙って攻撃する。
 まずは、居合を振り切った形のままの琥龍。近ければ当たるとばかりに尻尾を大きく振るっての一撃!
 しかしそれを遮る影、奇しくも琥龍の愛刀と同じ銘の斬竜刀を構えているのは紬だ。
「天墜に斬れぬ龍などない。斬ってみせるさ、この刀に誓って‥‥」
 唸りをあげて振るわれる巨大な岩の塊。ただの尾の一振りが、まるで攻城兵器のようだ。
 地面を抉り叩きつけられる尾。それを紬は飛び退り回避すると、真っ向から尾を一撃。
 岩で出来ていながら撓る尾は半分程まで抉られながら、まだ耐えた。
 だが、次の瞬間オーラスが作り出した魔法の蔦が尾の先端に絡みつく。
 その隙を逃がさず振り下ろした刃を、今度は切り上げる。地面につく寸前から反転して天を割く鬼切の一撃。
 一閃で、尾は真っ二つにへし折れて、これで前足一本と尾を失った岩龍。
 これでいける、そう一同は思ったのだが‥‥まだまだ岩龍は切り札があった。

●決着
 腕を失い機動力を削られ、岩龍は苦戦の中で起死回生の策を考えていた。
 といっても、知恵の余り働かないアヤカシだ。考えることは一つ。どの敵が厄介か、だ。
 眼前で回避し続け牽制するアルティア。たしかに注意を引かれてしまうが、攻撃が当たらない。
 他にも足下でうろちょろと、今度は後ろ足を狙って攻撃してきている前衛たち。
 こちらも厄介だが、それよりも先に倒せそうな敵にやっと岩龍は気がついた。
 それは、遠方にいる二人の魔術師であった。
 銃使いは、遠すぎる。だが、魔術師までなら切り札が届く。
 そう決めた岩龍は、轟々と吼えると口を大きく開けるのだった。

 もちろん開拓者達はこれを好機と考えていた。他の龍のように炎の吐息を吐くのだろうか。
 その時こそが好機と身構えた開拓者達。
 だが、彼らは度肝を抜かれることとなった。岩龍が吐き出したのは岩の塊だった。
 体内から岩を吐き出すだけ、溜めもなく発射が早すぎるのである。
 そして発射された岩が向かったのはオーラスと椿鬼のいる場所当たり。
「しまった!」
 思わず誰かが声を上げたのだが、
 もうもうと上がる土煙が晴れるとそこには岩の壁が。
「はて、岩に岩を当てれば割れると言うが‥‥割れたのはおんしのだけじゃったな」
 にやりと微笑む椿鬼。彼女の石壁が間に合ったのだ。
 即座にオーラスは前衛を回復させつつ戦闘を続行、椿鬼も石壁を活用しつつ魔法で牽制。
 だが、岩龍は諦めなかった。もう一発、岩を発射しようと口を開けて。
 しかし今度はそれは果たされなかった。接近したのは九条。
「二回目はさせないよ! これでも食らえ!!」
 瞬脚で距離を詰めて、下から顎を勝ち上げる空気撃!
 姿勢を崩しつつ、顎まで閉じさせられた岩龍の岩石砲は不発。顎の一部を砕きつつ炸裂。
 それこそが待ち望んでいた好機であった。

 まずはオラースがブリザーストームで顎を破壊された岩龍の動きを止める。
 そして、顎に向かってアルティア、紬、御凪が焙烙玉を放り込む。
 そこに飛び込むのは御凪の雷鳴剣に、郭の銃弾。そして、
「之は之は大きい花火が上がりそうじゃのう」
 全く同時に叩き込まれた椿鬼の火球!
 次の瞬間、鉱山全体をびりびりと揺るがすほどの轟音と共に、大爆発。
 岩龍は、顎から胴にかけての大部分の装甲を爆破されて、いよいよ追い込まれるのだった。
 しかし、まだ当たれば一撃で致命的な攻撃力は健在だ。
 あと一息、そんな局面でとどめを刺したのは軽量級の前衛2人だった。

「落盤が起きる前に‥‥これで決めるよ!」
 岩壁を活用して飛び上がった九条は、装甲を失った頭部へと攻撃。
 空気撃を頭に叩き込めば、さすがにぐらりと傾く岩龍。
 だが、岩龍は敵を近づけまいと奮闘。そのため、一名、前衛の姿が見えないことに気付かなかったのだ。
「工夫すれば、僕の一撃も痛打になり得るんだよ。──串刺しだ、とね」
 友人の御凪をはじめ、前衛たちが引きつけた隙に岩龍に危険度は少ないと思われていたアルティアが移動。
 なんと、ジプシーの技を使って高く高く飛び上がっていた。
 そして、体重をかけてその背中に深々と突き刺さる一本のナイトソード。
 それを引き抜き、一気に引き裂けば、とうとう岩龍の背中の装甲すら剥がれ落ちるのだった。

「そろそろ‥‥本命を狙いにいけそうだね。‥‥あれが核‥‥狙い撃つ‥‥」
 ターゲットスコープを駆使して狙いを定める郭。
 とうとう装甲が剥がれ落ちた岩龍の核が見付かったのだ。場所は胴体の中央。
 分厚い装甲の奧に、赤く明滅する岩の塊が。そこに郭は射撃を集中。
 同時に、前衛の仲間たちも一気に連携、郭の射撃が途切れれば、自身が核を狙って。
 紬の柳生無明剣、琥龍の紅蓮紅葉、御凪の天辰それぞれの死力を尽くした大技が次々命中。
 アルティアは再び牽制し、九条は空気撃で隙を作る。
 そして、オーラスが魔法で岩龍の動きを止めれば郭の銃弾と椿鬼の魔法が核を抉り、とうとう核は粉々になって。
「‥‥終わった、か?」
「‥‥そうみたい、あれだけ硬かったのに‥‥倒してしまえばあっさりと消えていく‥‥。何だか虚しくなるね」
 オーラスの問いかけに、郭はしみじみとそう応えるように、彼らの眼前で岩龍は瘴気へと還って。
 残ったのはただの岩の塊。強敵はこれにて潰えたのだった。

「上手く策が嵌ったようだな。もっと苦戦するかと思っていたよ」
 オーラスが思わずそう言ったように、開拓者達はかなり有利に勝利を収めたのだった。
 それもそのはず、ぬかるみや崩落に注意し、敵の強みをことごとく封じたからこそ勝てたのである。
「しかしまぁ‥‥出来れば岩は今度からあまり斬りたくはないものだ」
 はぁと、紬は疲れたように刀を鞘に戻しつつそういえば、なんでと聞く九条に、
「‥‥刀は無事でも、この腕がしびれるからな」
 そういって、力の入らない腕をかざしてみせる紬に、全くだと御凪や琥龍も賛同して。
 終わってみれば開拓者達の快勝。見事な作戦勝ちを収めた一行は、意気揚々と凱旋するのだった。