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■オープニング本文 ●「からくり」 アル=カマル、神砂船の船室より発見された、人間大の動く人形。 陶磁器のように美しい肌は、継ぎ目ひとつ無い球体を関節に繋がれて、表情は無感動的ながらも人間さながらに柔らかく変化する、不思議な、生きた人形。 あの日、アル=カマルにおいて神砂船が起動され、「からくり」の瞳に魂が灯ったその日から、世界各地で、ぽつり、ぽつりと、新たな遺跡の発見例が増えつつあった。何らかの関連性は疑うべくもない。開拓者ギルドは、まず先んじて十名ほどからなる偵察隊を出した。 「ふうむ‥‥」 もたらされた報告書を一読して、大伴定家はあご髭を撫でる。 彼らは、足を踏み入れた遺跡にて奇怪な姿の人形に襲われたと言うのである。しかも、これと戦ってみた彼らの所見によれば、それらはアヤカシとはまた違ったというのだ。 なんとも奇怪な話であるが、それだけではない。 そうした人形兵を撃破して奥へと進んでみるや、そこには、落盤に押し潰された倉庫のような部屋があり、精巧な人形が――辛うじて一体だけ無事だったものだが、精巧な人形の残骸が回収されたのだ。 「‥‥まるで、今にも動き出しそうじゃのう」 敷き布の上に横たえられた「人形」を前に、大伴はつい苦笑を洩らした。 ●武天の山中にて 開拓者ギルドの依頼調役、庄堂巌は発見された依頼の調査に赴いていた。 協力を頼んだのは、ギルドに所属する開拓者数名。まずは前調査を行おうというわけである。 ギルドの上の方から伝わってきた情報によれば、新たに発見される遺跡が同時多発しているという。 おそらく、なにかが切っ掛けとなって遺跡の隠匿が解除されたのだろう。 とすると、この新しい遺跡もおそらくはその「からくり」に関わるものであるに違いない。 そして、遺跡に踏み込んだ先遣隊の面々は‥‥。 数時間後、ひいこらいいながら遺跡から脱出したのであった。 「ふぅむ、内部の地図はある程度出来たが‥‥もう一度作戦を練り直さにゃならんな」 脱出した庄堂は、疲弊した協力者たちを見ながらそう言って。 「‥‥ならば、いっそ依頼として出すか。俺らは別の遺跡の調査に行かなきゃならねぇしな」 げっ、という顔の協力者たちの抗議をさらりと聞き流しつつ、庄堂はそう言うのであった。 こうしてギルドに出された依頼は遺跡の調査だ。 いくつかの障害がすでに判明しているのだが、それを無事乗り越えて最深部を調査しろと言うわけで。 さて、どうする? |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
音有・兵真(ia0221)
21歳・男・泰
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
彩音(ia0783)
16歳・女・泰
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
椿 幻之条(ia3498)
22歳・男・陰
山奈 康平(ib6047)
25歳・男・巫 |
■リプレイ本文 ●いざ行かん 武天の山中、ぽかりと入り口を開けた新たな遺跡の前に、八人の開拓者達の姿があった。 初夏の暑い日差しのなか、どこかひやりとする風が遺跡の奧から吹いてくる。 その風に髪をなびかせ、奧を伺うのは妙齢の女性‥‥にしか見えない男性、椿 幻之条(ia3498)だ。 「人形の隠された遺跡、ねぇ‥‥いままでどうして見付からなかったのかしら?」 「ふむ、アル=カマルの神砂船で見付かった人形と関わりがあるのかも知れないな」 幻之条の言葉に、音有・兵真(ia0221)はそう応えて首をかしげて。 「といっても、神砂船では動力室にいたので、それが何か見たことは無いのだが」 そう言う音有は、好奇心からこの依頼に参加したようだ。 今回の依頼は、同時多発的に発見された人形に関わる遺跡の調査だ。 開拓者たる者、やはり好奇心がうずくようで、準備は万端。いよいよ調査開始である。 「さて、それではそろそろ入るとするか。誰でも良い、灯りを頼む」 片手に杖、片手に筆記具を持ってそう山奈 康平(ib6047)がいえば。 「あら、それならあたしが一つ持つわね。でも、先頭は任せたわよ?」 幻之条がそういって、松明に火を付けて。そして先頭を任せたと言われて、応えるのは羅喉丸(ia0347)だ。 「うむ、承知した。一応、事前調査の報告の写しは貰ってきたのだが、あまり役に立ちそうにはないな」 「そうなの? 一応、二つ目の罠までは進んだらしいじゃない」 首を傾げる幻之条。だがそれに首を振って応える羅喉丸。 「それが、詳しい話を聞いたところ、どうやら人魂などで奧を調べただけらしい」 聞けば落とし穴や釣り天井、さらに人形兵の存在を辛うじて確認しただけで、調査は殆ど出来なかったらしい。 それもそのはず、調査のために学者肌の陰陽師などを中心とした調査隊だったとか。 「それなら、しかたないわね。じゃあ、注意しながら行きましょうか」 ほうと溜息をつきつつ、そう幻之条が促せば、一同はゆっくりと遺跡へと踏み込むのだった。 ●第一の罠 明らかに人口的な遺跡の内部を進みつつ三笠 三四郎(ia0163)はぐるりと辺りを見回して言った。 「厳重な罠に人形兵‥‥盗掘を怖れてのことでしょうが、嫌に警戒が厳重なのが気になりますね」 そんな言葉に音有は持ってきたシャッター付カンテラで足下を照らしながら。 「うむ、賊よけなのだろうが、それ以外もあるのかも知れないな」 と応えて。事前調査によればしばらく奥に進むまでは罠は無いよう。 「この遺跡にはアヤカシは居ないのですね」 アヤカシも遺跡の醍醐味だと思いますが、と松明で周囲を照らしながら彩音(ia0783)が言えば。 「ふむ、他の遺跡ではアヤカシが出たところもあると聞くが、ここの調査では見付かっていないようじゃの」 輝夜(ia1150)はそういって、先を進む仲間たちの背中に視線を向けるのだった。 ちょうど、一同は事前調査で分かっていた落とし穴があるとされている場所にやってきていた。 といってもこの第一の罠の落とし穴。 場所が全て判明しているわけではないが、あることは分かっているわけだ。 そうなれば落とし穴としての効果は半減どころは殆ど無いわけで。 「ふむ、まあ落ちても引き上げてやるから、安心しな」 にっと笑みを浮かべて緋桜丸(ia0026)が示したのは縄だ。 万が一の時のために、先行する面々は命綱を付けて罠の位置を確かめるよう。 こうなれば、もう怖い者無しである。 「‥‥単純な落とし穴なら、床を叩いたときの音でわかるんですけどね」 かつかつと六尺棍で地面を探っている羅喉丸を見ながら、三笠は言うが。 「ふむ、事前調査の話ではここに落とし穴があるはずなんだがな、音ではわからんな」 羅喉丸が首を傾げるように、どうやら音での判別はつかないようであった。 「遺跡の罠では、通過人数や重量で起動する代物もあると聞きます。こいつもその手の代物でしょうね」 「となれば、やはり踏んで確認するしかない、か」 それなら身軽な自分が行こうと、羅喉丸は言って。 以降は、羅喉丸と音有が中心になって、時には穴に落ちかけるのを緋桜丸や三笠が支え。 「っと、危ない危ない」 白墨で印を付けていた音有が、時間差でぱかっと開いた穴に落ちかけたりしたのだが。 「さすがに壁に落とし穴はないだろ」 穴の壁面に手足をついて踏ん張って体を支えたり。 こうしてあらかじめ分かっていたとは言え、開拓者達は準備万端に第一の罠を乗り越えるのだった。 といっても、泰拳士が先行し落とし穴を体を張って調査する役目を果たせたことがまず一つ。 そして、それを支える膂力をもつサムライたちの働きが功を奏したと言えるだろう。 軽々と第一の罠を通過した一行は、いよいよ第二の罠の場所へと差し掛かったのだった。 ●第二の罠 「嫌に大げさな罠ですが‥‥天井に刃がついていたりしないのは助かりますね」 入り口に入らずに、通路から罠の部屋を覗きつつ三笠がそう言って。 一行は、釣り天井の罠が仕掛けられているという部屋の前に揃って、突入する機をうかがっていた。 手に松明を持っているのは彩音と幻之条の二人。そしてカンテラを音有が所持。 「万が一分断されても嫌ですから、皆さんで一気に踏み込みましょう」 彩音の提案に皆が頷いて、作戦は決まった。 音有のカンテラを彩音が保持、彩音と輝夜が罠解除と灯り持ち、残りは全員天井を支えるという作戦だ。 「? わたくしは天井を支えなくて良いのですか?」 泰拳士ながら、支え担当から外れた彩音が不思議そうに聞くのだが、それには一同顔を見合わせて 「‥‥うむ、我と汝はおそらく背が届かないじゃろ」 輝夜の言うとおり。というわけで、作戦が決行されるのだった。 落とし穴の通路から、突き当たりの小部屋に飛び込む一同。 先頭はもちろん鍵開け担当の輝夜が早駆で。それを追う灯り担当の彩音。 そして、追いかける他の面々。全員が部屋に入ると同時に、ごごんと重々しい音がして天井が降下! ゆっくり下がってくるとはいえ、その圧迫感はなかなか。だが、それを支える6名の開拓者。 強力や鬼腕を使って体力をさらに強化して支える緋桜丸や三笠。 そのほか泰拳士の羅喉丸や音有も全力で支えれば、ぎしぎしときしみながら天井は降下を停止して。 もちろん、体力で他の面々に劣るとはいっても、山奈と幻之条の二人も天井を支えて。 そして、その隙に輝夜は出現したカギを相手に奮闘するのだった。 「‥‥これは気を抜けないな。大丈夫か幻之条?」 「なんとか‥‥平気よ。でも、本当に重いわね‥‥」 思わず緋桜丸は知人の幻之条を気遣って。さすがに慣れない力仕事のようで、眉をしかめる幻之条。 「重いから‥‥早く解錠してね‥‥」 と思わずカギ相手に奮戦している輝夜に視線を向けるのだが。 丁度輝夜は、すっくと立ち上がって、カギを前に刀を抜き放ったところだった。 彩音の旋風脚の連打から、輝夜の豪快な斬撃の連打がカギに叩き込まれ、とうとう放ったのは影の一撃。 カギの脆い箇所を穿つように突き立てられた刀の一撃に、ばきんと音を立ててカギは粉砕。 天井の圧力は不意に消え、ゆっくりと戻っていくようで、それを見上げてほっと息をつく一同であった。 「結局、カギは解錠ではなく、破壊して開けたのだな」 「うむ、少々予定とは違ったが、結果は同じだから構わんじゃろ」 ふふんと輝夜が言えば、まあそれもそうかと山奈が肩をすくめて。 「それにしても、こうして破壊しても元に戻るとか、何者かが直すんだろうか? マメなことだ」 「遺跡は我々がまだ知らない技術が眠っていることもあるようだからな‥‥今回のからくりもそうだが」 山奈の言葉に、三笠がそう言えば、一同は改めて息を整えると奧へとすすむのだった。 ●人形兵との戦い 「どうやら、向こうから出迎えてくれる、というわけではないようだな」 片手に刀、片手に短筒を構えて身構える緋桜丸はそういって、奧の入り口を見つめていた。 おそらくそこに人形兵と呼ばれる敵がいるらしきことは分かったのだが、動きが無いようで。 「飛び道具でこちらを狙い撃ち、というよりはマシだが、こちらが入っていくしかないようだな」 乱戦に持ち込むしかないようだ、と羅喉丸は改めて一同の意見を確かめて。 「では、まず名乗りを上げて反応を見させてもらうつもりじゃ。良いか?」 聞いたのは輝夜だ。 彼女はアル=カマルにおける一件の情報から、確かめたいことがある様子。 「ええ、了解したわ。さて、藪をつついて出てくるのは鬼か蛇か。出来ればお宝がいいわよねぇ」 ふっと妖艶に微笑む幻之条の言葉に一同は覚悟を決めて。 人形兵が待つという広間に、一気に飛び込んでいくのだった。 「我が名は輝夜、サムライ‥‥の魂を持った焼ネギ屋、兼、シノビじゃ」 輝夜の名乗り、だがしかしカグヤの名にも何ら反応を示さない人形兵たち。 単純に侵入者を排除すると言った様子で、がしゃりと音を立てて動き始めるだけであった。 どれもが鎧武者のような姿で武装しており、それが一斉に距離を詰めて襲いかかって来るようで。 みれば、どれもが精巧に作られた人形のような外見。だが、それが無言で襲いかかってくるのは不気味だった。 「長期戦になると辛そうですね。一気に決めましょう!」 両手に不動明王剣を構えて咆哮でおびき寄せようとする三笠。 他の開拓者達もそれを合図に一気に人形兵に立ち向かうのだった。 無言で武器を振るう人形兵たち。まだまだ情報は少なく、未知の部分が多い敵だ。 だが、ギルドを通じて得られる情報はいくつかあったようで。 「自爆する人形も報告されているのじゃ。それに、相手は人形。あり得ない動きにも気をつけるのじゃぞ!」 檄を飛ばす輝夜。その言葉の通り、鎧武者風の人形兵に混じって奇っ怪な動きを見せるものが数体。 ある一体は、逆さまに体を反らせ、四肢でまるで虫のように壁を這い回って回り込もうとしていた。 「奇っ怪な動きをするな。だが背後は突かせんよ」 瞬脚でそれを回り込んだのは音有。正拳突で一体を痛打。 そして、不足しがちな前線を支えるため突貫して敵を押し戻すのは羅喉丸。 強烈な崩震脚を放ってから、瞬脚で体勢を立て直し、弱った人形兵を各個撃破の構えだ。 そんな羅喉丸に放たれたのは矢の一撃だ。どうやら人形兵の中に飛び道具を持つ者もいるよう。 だが、羅喉丸は他の人形兵の残骸を盾にそれを躱す。 そこを狙う彩音。弓を手に飛び道具持ちを狙って攻撃して、牽制。 そして、一撃離脱しながら輝夜は人形兵を各個撃破していた。 そんな一同の中心にあって、最も数多くの人形兵と切り結んでいるのは緋桜丸だ。 苦無で牽制し、弐連撃を中心に戦う三笠と違い、緋桜丸は刀と銃の二刀流。 「人形なら大人しく座っていろ」 首をとばしても動き続ける鎧武者風の人形兵をさらに刃の一撃で真っ二つにして。 そして、その残骸に紛れて近づこうとしている自爆人形には銃を向け。 「‥‥額に印、隠れても無駄だ」 自爆人形の特徴を見抜いて、遠い間合いで射撃。巻き起こる爆風をものともせずに鬼神の如く戦うのだった。 「さて、貴方達の事を隅々まで拝見させて頂くわ。召・氷竜」 残った数少ない人形兵に向かって、幻之条が放ったのは氷龍。 一直線に放たれた凍てつく吐息が、人形兵の動きを鈍らせて、そこに集中する仲間の攻撃。 「ふむ、燃えるのかを試す暇もなかったか」 思わず、山奈が呟くほどあっというまに人形兵は物言わぬ破片と粉砕されたのだった。 といっても今回は戦闘に長けた面々が多く集っていたからこそこうして勝てたのだろう。 人形兵たちは、かなりの強敵。前衛の皆は相応に怪我をしてようで、それを山奈が癒して。 そして、一行はいよいよ、さらに奥へと進みからくりと呼ばれる生きた人形を探すのであった。 ●物言わぬからくりたち 「汝は一体何者じゃ? 何故、何の為にここにおる‥‥答えは無し、か。拍子抜けじゃのう」 つまらなそうに呟く輝夜。それもそのはず、彼らはからくりを首尾良く見つけ出したのだったが、 「たしかに人形ながら生きているようだが‥‥寝ているのだろうか」 音有が言うように、遺跡の奧で見付かったからくりたちは、寝台のような場所に寝かされ眠っているようだった。 といっても、本当に眠っているのか、これがどういう状態なのかはわからず。 「ふむ、聞きたいことがあったのだがな」 残念そうな羅喉丸だが、今回ばかりは仕方なし。一同は、からくりたちを回収し来た道を戻るのだった。 「‥‥この様子から見て、この遺跡はこのからくりたちを隠すために作られたようにかんじますね」 人形兵は、それを守るためなのでは、と三笠が首を傾げていれば。 「からくりを、何故朝廷は集めているのか‥‥」 同じように緋桜丸も背負ったからくりに視線を向けながらそう呟いて。 そんな一同を、地図を手にした山奈と幻之条が先導し、一行は無事遺跡から脱出するのだった。 まだまだ謎の多いからくりと人形兵の遺跡。 その謎は、これから徐々に明らかにされていくことだろう。 |