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■オープニング本文 泰国の片田舎にあるとある岩山。そこに1匹のケモノが住んでいた。 その白い毛皮から白猴王とも呼ばれるそのケモノはそれはそれは強い猿のようなケモノである。 ケモノというのはアヤカシのように、人に害をなすこともある強力な存在だ。 だが、瘴気より生まれ出でるアヤカシとは違い、ケモノは血肉有る生物である。 ケモノの中では、開拓者の相棒として働く鬼火玉や猫又が有名だろう。 それらの様に知恵を持ち人の言葉をしゃべるケモノもそれなりいるのだが、この白猴王は知能は高くない。 だが、その大きさや強さが問題なのである。 いつの頃から住み着いたのか分からないが、その大きさはアヤカシでいうならゴーレムほど。 優に人の背丈の三倍近くの体格を誇り、分厚い毛皮は鎧より頑丈。 そして、ケモノであるその白猴王は生きていくためには食物が必要だ。 そのため最近人里まで降りてくると言うのである。 このままでは近いうちに人間が被害に遭うことは間違いないだろう。 そんなわけで、こうしてギルドへとその討伐依頼が出されたのである。 いつものアヤカシ退治とはちょっと趣を異にする依頼だが、強力な猛獣を倒さねばならないこの依頼。 さて、どうする? |
■参加者一覧
シュヴァリエ(ia9958)
30歳・男・騎
レヴェリー・ルナクロス(ia9985)
20歳・女・騎
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
ネネ(ib0892)
15歳・女・陰
猪 雷梅(ib5411)
25歳・女・砲
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔
ミル・エクレール(ib6630)
13歳・女・砂 |
■リプレイ本文 ●聞 「まだ、人への被害は出ていないのか?」 「へぇ。いまんとこは鶏やら牛やらだけですが‥‥いつ、人に被害が出るかと思うと」 白猴王が出るという岩山周辺の田舎村にて、村人に話を聞く開拓者達がいた。 その中で、村人のそんな不安そうな言葉を聞いたシュヴァリエ(ia9958)は、 「いずれは害をなすかもしれない、ね」 と、小さく口の中で呟いて。 「なるほど、姿形を恐れ、未来に起こるかもしれない不確定の要素を恐れる、か」 そんな言葉に、村人はきょとんと首を傾げるのだが。 「何、別に責めているわけではない。実際に被害が出てからでは手遅れなのだからな」 そういって、シュヴァリエは手にした斧槍を握りしめながら、 「しかし何とも‥‥人とは身勝手な生き物だよ」 そう誰にも聞こえないほどの声で呟くのだった。 開拓者達は近隣の村に来ていた。目的は、白猴王に関しての情報集めだ。 といっても、余り多くの情報は集まらなかったようで。 そして、やはり今回の討伐はアヤカシ退治と違うことがどこか引っかかっているようであった。 「‥‥山里深くにいてくれれば良かったのに‥‥でも、今は人々に危害が及ぶ前に倒さなくては」 そう仮面の下の眉根を寄せて思うのはレヴェリー・ルナクロス(ia9985)。 人に敵対するアヤカシと違いケモノは敵ではない。その点が、やはり少々気になるようだ。 だが、迷って足踏みしているわけにはいかないことも彼らは知っていた。 「‥‥新たな憎悪が、悲しみが生まれる前に‥‥」 レヴェリーがそう言って気持ちを切り替えるように、彼らは白猴王を退治しに来たのだ。 「兎に角、今は1つでも多くの情報を集めましょう。私はあっちで訊いてみるわ」 それぞれの思いはあるだろうが、それを抑えて仕事に当たってこそ、一流だと言えるのだろう。 「ふむ、村民からの情報は此処いらかのう?」 ぱたぱたと扇で扇ぎながら、煙管を燻らせる椿鬼 蜜鈴(ib6311)はそういって一同を見回して。 手分けして集まった情報と言えば、白猴王の縄張り一帯のおおよその位置と水場ぐらい。 しかし、まだ被害が出ていない現状、そこまでの接触は無いのである。 となれば、あとは自分たちで探すしかないわけで。 「では、参ろうか」 そういって、開拓者達は二手に分かれて岩山へと進んでいくのだった。 ●探 「立派な獲物だね! 必ず仕留めてみせるよ!」 元気に周囲を見回しているちっこい少女、彼女もまた開拓者であった。 まだ若い、というより幼いその少女はルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)。 老砲術士の技と愛情を受け継いだという彼女にとって白猴王は立派な獲物だ。 そんな彼女と一緒に進んでいるのは皆女性の開拓者達だった。 戦闘を行くのは、騎士のレヴェリー。その後ろに周囲をうかがうルゥミ。 そんなルゥミの後ろをしずしずと歩いている銀の髪の女性はジークリンデ(ib0258)だ。 ルゥミの言葉を聞いて、静かに頷きているジークリンデの手には急ぎ作った簡易の地図が。 ジークリンデは、いくつか水場に狙いを絞りフロストマインによる罠を仕掛ける予定のようであった。 「ルゥミさん、どこの水場に白猴王は来ると思いますか? いくつか水場はありますが」 「うーん‥‥お猿さんだから、あんまり低いところの水場には来ないと思うよ!」 まだ小さいといえども伝えられた技術は本物だ。山の低い方の水場よりも高い方を好むと見たようで。 「そうですか。ではもう少し先の方の水場に参りましょう」 そういってジークリンデはルゥミたちと先を進み、そして班の最後尾を歩くのはこれまた小柄な女性。 「地の利が敵だけにあるのは、マズイし、ちゃんと見ておかないとね」 ミル・エクレール(ib6630)の言葉に、ジークリンデやルゥミたちも頷いて。 一行は罠を仕掛ける水場に向かって進んでいくのだった。 一方、もう一つの班も同じように岩山を進んでいた。 「‥‥猿退治ねぇ、俺のダチにも猿はいるけどなぁ」 けらけらと笑いながら、肩に銃を抱えてのしのし歩くのは猪 雷梅(ib5411)だ。 こちらの班も先頭は騎士のシュバリエで、その後ろに椿鬼と猪という配置のよう。 そんな猪の言葉を聞いて、くびをかくんと傾げるのはネネ(ib0892)だ。 「あら、猪さんはお友達にお猿さんがいらっしゃるんですか?」 「んー? お猿さんはお猿さんでも開拓者をやってるお猿さんだがな」 けらけらと笑いながら答える猪に、不思議そうな顔のネネ。 「そいつぁ、自分の事を赤い花のー、だなんて呼んでるんだが‥‥」 とそう説明し始めようとした猪は、ぴたりと話を止めて。 気付いたのは全員ほぼ同時。開拓者の鋭敏な感覚がとらえたのは僅かな違和感だった。 それは、音。鳥の声が消え、代わりに遠くから気配を殺した音がしたのだ。 まるで獲物に狙いを定めた猛獣が、飛びかかる一瞬前のような。 瞬間、飛びかかってくる白い影。崖上からケモノだからこそ可能な跳躍で一気に飛びかかってきたのだ! 「させんっ!!」 前に出たのはシュヴァリエ。ガードを使い体を盾代わりに前に出る。 同時に構える猪と椿鬼。銃弾と雷撃が同時に放たれた。 雷撃は浅く白猴王の毛皮を焦がし、銃弾は肩口に命中、だが白猴王はひるまない。 どうやら分厚い毛皮と筋肉が多少の攻撃ならば弾いてしまうよう。 「ちっ、硬ぇな! ‥‥って、逃げやがった!」 吼える猪の言うように、白猴王は反転、崖を駆け上り飛び上がり、姿を隠した。 一瞬顔を見合わせる一同、まずは知らせるのが先決とネネが呼子笛を強く吹き鳴らし。 「‥‥先手は打たれましたが、改めて、討伐を開始しましょう!」 ネネの言葉に頷いて、一気に山肌を駆け上がり追撃に移るのだった。 ●戦 響く呼子笛の音に、慌てて周囲を見回す別働隊。 彼女らは丁度水場の一つに罠を張り終わり、そこから離れつつあるところだった。 そんな折、聞こえてきた呼子笛の音に、どこからかと探る一同。 「‥‥アレ、そうかも?」 真っ先に気付いたのはミルだ。バダドサイトで視力を増幅して、発見したのは白猴王の姿。 どうやらまっすぐに水場に向かっているようであった。 その様子を見て、笑みの形に唇をつり上げるジークリンデ。だが、白猴王は直前で急停止。 「‥‥フロストマインに気付いたのかしら?」 そんな馬鹿なと思うジークリンデだったが、 「‥‥匂い‥‥! あたいたちの匂いに気付いたんだよ!」 気付いたのはルゥミ。白猴王が鼻をひくつかせているのに気付いたのだろう。 フロストマインは術者が立つ場所に罠を仕掛ける術だ。そこに人がいたと気付いて警戒したのだろう。 そうなれば、もうあとは罠に頼らず真っ向勝負しかない。 「‥‥現れたなら、あとはもう迎え撃つしかないわね‥‥!」 ハルバードを振りかざし先頭に立つレヴェリー、その言葉に一同は頷いて白猴王を強襲するのだった。 レヴェリーは前衛、後衛を守るように立ちはだかりその後ろには銃を使うルゥミとミル。 そしてその後ろから魔術師のジークリンデが続く布陣だ。 前衛が少ない代わりに後衛の火力は十分。まずは牽制とばかりに銃が火を放つ。 だが、それを跳ね上がって躱す白猴王。さすがの機動力に狙いを定められない一同。 そして白猴王はまたしても距離を取ろうと大きく崖を飛び上がろうとするのだが。 「逃げられては困るからのう。おんしに恨みは無いが、許せ?」 椿鬼の声と共に岩肌に放たれるファイヤーボールが炸裂。舞い散る小石の雨の中、白猴王は急停止。 どうやら、追ってきた第一班が追いついたようだ。 こちらの布陣も、騎士のシュヴァリエを先頭に、中央に回復担当のネネ。 そして魔術師の椿鬼と砲術士の猪が後衛として控えるという形だ。 じりじりと挟み込む形で接近する前衛2人に、今度こそはと狙い定める後衛の面々。総力戦の形である。 まずは小手調べとばかりに、轟と軽く吼えると大きな石を投げつける白猴王。 だが、その軌道上にはレヴェリー。 「私が居る限り攻撃は通させない!」 気合い十分な言葉と共に、ハルバードを使って石を受け流して弾く! 反撃とばかりに今度は後衛からの銃撃。重なって放たれたのは猪とルゥミ、ミルの三連射だ。 だが、これを跳ね上がり躱す白猴王。 「でかい図体でちょこまかしやがって‥‥ったく。めんどくせえ」 思わず呟く猪だが、次なる狙いはどうやら3人とも一緒だったようだ。 機動力の要である足に狙いを定めて、3人とも足狙いの一斉射。 これは効果があったよう、白猴王は怒りの咆哮を上げるのだった。 いける、そう開拓者が思った一瞬隙を突かれたのかも知れない。 次の瞬間、開拓者達は手負いのケモノほど恐ろしいものはないという言葉を思い出していた。 全身のバネを使って、一気に距離を詰めた白猴王。 柱のような巨大な腕を振るって叩きつけたのは前衛の2人だ。 それぞれガードやオーラドライブを使って持ちこたえる2人。だが、威力までは殺せない。 ずいと後退を余儀なくされる2人、その瞬間を狙っての強烈な咆哮が響き渡る! びりびりと全身を振るわせるような強烈な音の破壊力、思わず身がすくみそうになるのを必死でこらえる一同。 しかし、その隙を狙っている開拓者達もいたようだ。 「腹が減ったであろ? わらわの酒を分けてやろうてな?」 響く咆哮の中、椿鬼が取り出したのは麓の村で分けて貰った酒だ。 それを勢いよく放り投げて狙うのは白猴王の口。 そして同時に放つのはまたしても火球だ! すぐにその思惑を理解した後衛たち。 自身の腕を強く噛んで、震えを止めたルゥミ。 そして自身の唇を強く噛み、血を滲ませながら構えた猪。2人は同じく長い銃を構えて。 「うるっせえんだよ。させるか猿野郎。よぉく味わえよ?」 血の滲む唇でにやりと笑いながら言う猪に合わせるように、2人は同時に銃撃。 狙い過たず、銃弾は飛んでいく酒瓶を割り酒を白猴王の顔にブチ撒けて。 そしてそのまま銃弾は白猴王の牙をへし折ったのだった。 さらに次の瞬間着弾する火球。ごうと燃え上がる炎。咆哮は収まり、反撃の好機だと思った次の瞬間。 やはりケモノは恐ろしかった。顔面を焼かれ毛皮を炎にまかれながら、突進してきたのだ! 今度は体ごとの突進、地面に叩きつけるようにして振るわれた拳がレヴェリーをはじき飛ばし。 振るわれた牙の一撃がシュヴァリエを吹き飛ばす。 狙うのはその後衛に立っていた小さい影、ルゥミとネネだった。 ケモノの瞬発力であれば瞬き一つの時間で凶悪な牙が彼女たちを捕らえるだろう。 だが、最後の瞬間まで開拓者達は目を背けない! 割って入ったのはミルだ。淡々と体をすべり込ませると剣を抜き短銃を構える。 短銃の一撃は至近距離から白猴王の体を穿つ。だが止まらない白猴王。 だが、諦めていないのはみんな一緒だった。 咄嗟に雷撃を放つ椿鬼。そして、ネネすらも目をつぶらずに力の歪みを放って。 そして生まれたのはほんの僅かな時間、だが開拓者にはそれで十分だった。 爪と牙が届きそうな至近距離、ネネやミル、ルゥミの鼻先に迫る白猴王、その眼前に現れたのは鉄の壁! 極限の集中でギリギリの場所にアイアンウォールを作り出したジークリンデ。 10秒の詠唱を必要とするこの魔法、諦めない仲間の援護によって一瞬の差で間に合ったのだ。 その壁にぶち当たる白猴王、がぁん! と豪快な音と共に急停止。 一帯何が起こったのか、混乱する一瞬。その一瞬が命取りであった。 「‥‥余所見をするとは、余裕なのかバカなのか」 間際まで近寄っていたのは騎士2人。斧槍を手に流し斬りを放つシュヴァリエ。 そして、同時にスタッキングで間際まで近づいていたのはレヴェリー。 「これで‥‥終わり!」 ハルバードの一撃に、機動力の要である足を痛打され、白猴王は倒れ伏して。 倒れてもなお、喉の奥で唸りを上げる白猴王であったが、 「‥‥恨んでくれて構わない。でもせめて‥‥この地で安らかに」 そう静かに言うレヴェリー。開拓者達は、それぞれの思いと共にこの悲しいケモノにとどめをさすのだった。 ●遺 「遅かれ早かれ、討伐される運命だったろう。考えて見れば哀れな奴なのかもしれないな」 戦いおわって、シュヴァリエはそう呟いていれば、んーっと体を伸ばしていた猪は。 「やれやれ‥‥やっと倒れたな。酒、飲みてえなあ?」 なんて問いかけられる、ふむ? と鎧姿のままでちょっとびっくりしていたり。 そんな思い思いの気持ちは別に、開拓者達は倒した白猴王をどうするかで思い悩んでいるようであった。 「生命を狩るならば血肉にするのが礼儀でしょう。勝者には勝者の義務があるのです」 というのはジークリンデ、さすがにこの意見に賛同するものはあまりいなかったようで頷くものも。 「皮は売れるかの? 只退治するだけでは命に対して失礼じゃからの。肉も食することができるやもしれぬし」 こうした態度も、命への敬意からくるもののようで。だが、別の意見もあった。 「瘴気の元になるようなことだけはないようにしませんと。しっかりと弔いが出来ればいいのですが」 こちらはネネだ。といっても巨大なケモノである。さてどうしたものだろうと首を傾げれば。 「可能なら里の人たちにこの猿、提供したいね。被害も受けたんだし」 そういって重いかな? と確かめているのはミルだ。砂迅騎ならではといえるのかもしれない。 そんな一同の中で、よいしょと矢盾を引っ張り出したのはルゥミだ。 矢盾にすっぽりと隠れてしまっているのが可愛いが、彼女はそれを置いて。 「この盾に乗せて、里に渡して毛皮とかを売って貰って」 小さな彼女の言葉を静かに聞く一同。 「その売り上げで、祠を建てて祀ってって貰うってのはどうかな?」 その提案に、一同はそれがいいだろうと同意するのだった。 どうか安らかに。そう心中で願うレヴェリーの眼前には真新しい祠が。 開拓者達の思惑通り、白猴王はその牙や毛皮の一部を祠に祀られたのだ。 これならば瘴気を得ることもないだろうと一同は安心するのであった 「‥‥やっぱ、猿ならあいつのほうが相手して楽しいかねえ」 猿っぽい友人の姿を思い出している猪に、 「それはどんな方なんですか?」 とネネが聞いたりと賑やかに開拓者達は帰路についた。 そんな一同の荷物には、村で白猴王の牙を加工して作られた御守りがあったという。 悲しいケモノの顛末は、こうして万事上手く収まったのであった。 |