対盗賊訓練依頼
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/09 21:12



■オープニング本文

「盗賊をやっていただけませんか?」
 武天の芳野の若き領主代行、伊住穂澄からそんな依頼をうけたギルド受付の庄堂巌が唖然としたり。
 しかし、事情をちゃんと聞いてみれば、別段それは「盗賊をしろ」というものではなく。
「なるほど、対盗賊の訓練ってわけですな」
「はい、おじ様の部下の方々とともに協力して毎年この時期に訓練を行っているのです」
「ふむ、普段は盗賊役も東郷殿や伊住殿の部下が?」
「ええ、ですが今年は大々的に、という話になりましたのでお手伝いを頼むことにしたのですよ」

 哀しい話であるが、こんな時代でも盗賊というものはいるもので。
 商業の街である武天の芳野では盗賊による被害も多いというのが現状である。
 そのため、領主代行を務めている伊住穂澄は部下と共に対盗賊の訓練を行うとのこと。
 なお、本来の領主は伊住穂澄の叔父、東郷実将である。
 彼は武天国内の盗賊・凶賊事件に対する広範囲な追跡・捕縛の任に着いている武官である。
 広範囲にわたって捜査を行うために、姪の伊住穂澄嬢が領主代行を務めているとのことだとか。
 東郷実将の部下は少数精鋭ながら対盗賊の専門家で、そのため今回も共同での訓練を行うのである。

「なるほど、それでは人質役はそちらの人員と言うことでよろしいので?」
「ええ、開拓者の皆様には盗賊役をやって貰うつもりです。戦闘力の高さを期待しておりますので」
 そういって、詳細はこちらの方にと書類を手渡す伊住穂澄。
 彼女に一礼して、ギルドの庄堂巌はてきぱきと依頼の文面を纏めて行くのだった。

 一方、依頼を出した伊住穂澄嬢は、ふと思い出したことが合って首を傾げていた。
「そういえば、お祖父様も今年は協力する、と仰ってたんですけど、おじ様の方にいってるのかしら」
 なにやら行き違いがあったりもするようだが、それはまた別の話。
 盗賊として、開拓者の力を見込んでの協力要請。
 有事に備えての訓練こそ、日々治安を守る者たちにとっての重要な責務というわけで。

 さて、どうする?


■参加者一覧
暁 露蝶(ia1020
15歳・女・泰
モハメド・アルハムディ(ib1210
18歳・男・吟
藤丸(ib3128
10歳・男・シ
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
エドガー・リュー(ib4558
16歳・男・サ
アーニー・フェイト(ib5822
15歳・女・シ
コトハ(ib6081
16歳・女・シ
ユーナ・パルミー(ib6649
15歳・女・砂


■リプレイ本文

●訓練概要
 盗賊と対するのは通常、領主の配下による治安維持部隊だ。
 だが、それぞれ領地を治める領主たちでは解決できない巨悪も存在する。
 それは広い地域に被害を及ぼし、点々とその位置を変える盗賊団や凶賊集団。
 そうした者たちを相手にするには、一領主では荷が重いというわけである。
 そんな存在を捕らえる任に着いているのが、芳野領主である東郷実将だ。
 今回の依頼主である伊住穂澄の叔父は、盗賊の追跡の専門職なのである。
 そのため、今回芳野領主代行である伊住穂澄は、叔父の協力も受けて合同訓練を行うというわけで。
「皆様、よろしくお願い致します。‥‥盗賊の被害は昨今ますます増えています」
 集った開拓者たちに対して依頼の概要を伝えながら言う伊住穂澄は眉根を寄せて。
「増加する盗賊に対抗するには、やはり弛まぬ訓練が一番。盗賊扱いするのは申し訳ありませんが‥‥」
 少々申し訳なさそうな伊住穂澄、しかし集まった開拓者達はやる気満々のようで。
「改めて、よろしくお願いしますね」
 そういって、頼もしそうに見やるのだった。

 さて、訓練の開始前に盗賊に関わる知識を一つ。
 昨今跳梁跋扈する盗賊たちには大別して二種類が存在するらしい。
 一つは、現在増加している凶悪な賊たちだ。
 急ぎ働きとも呼ばれるこの盗賊は、強引に押し入り証拠を残さぬために住人を皆殺しにすることも多いという。
 時には火を放つこともある極悪非道の輩であり、志体を持つ盗賊の増加に伴いますます被害は増えているとか。
 そしてもう一つは、悪党ながら矜持を曲げぬ盗賊たちだ。
 こちらは、難儀するところからは盗まず、殺生や乱暴もしないと決めているとか。
 といっても、こちらも盗賊は盗賊。人から金品を盗む悪党には違いないとしっかりと肝に銘じねばならない。

「盗賊役かー、楽しそうー」
 ターバンを巻いて、訓練用に確保された崖沿いの屋敷を眺めている少年が一人。
 どうやら、周辺の下見にやってきた羽喰 琥珀(ib3263)のようである。
 といっても、ターバンと顔の包帯のせいで怪しさ全開なのはご愛敬。
 本来であれば街の只中にある家屋や店を盗賊は狙うはずなので、こうして偵察をするのは良くあることだ。

 今回の開拓者たちの仕事は盗賊役だ。
 訓練は実際の盗賊が現れた時を想定して、いくつか段階を踏んで実戦さながらの訓練が行われるようで。
 まず、崖下の待機所にて訓練を受ける捕縛側が待機中。
 しかし、いつ盗賊が行動に移るのかは全く知らされないのである。
 屋敷の中には住人役の人間たちがいて、彼らが何らかの知らせを発することによって捕縛側の行動が開始。
 つまり、開拓者達の行動によって、どんな切っ掛けで捕縛側が動くかもまた流動的と言うことなのだ。

 そして、訓練当日の夜。
 訓練を受ける捕縛側は、東郷実将の部下の歴戦の捕り手数名と、伊住穂澄の部下十数名であった。
 伊住穂澄の部下たちは盗賊の捕縛に関して言えば、まだまだ未熟。志体持ちも数名だけという陣容だ。
 それぞれが捕り物道具を準備しているものの、緊張は隠せないようで。
 そんな中闇に紛れて開拓者達はこっそりと行動を開始していたのであった。

●偽の凶盗
「それじゃ張り切っていきましょう!」
 くるくると薔薇色の髪を纏めて黒い頭巾の押しこみつつ、そういったのは暁 露蝶(ia1020)だ。
 開拓者達は潜入のための準備をしているようであった。
「うむ、訓練だからといって負けるのは趣味じゃない。やるからにゃ勝たんとな!」
 こちらも張り切っている様子のエドガー・リュー(ib4558)。
 今回、身軽な者が多く集まったようで、見れば結構な数の獣人たちがいるようであった。
「育ててくれた皆と別れてから初めての仕事だし、頑張ろう‥‥」
 ぐっと拳をにぎってそういっているのはユーナ・パルミー(ib6649)、彼女も獣人だ。
 アル=カマルから来たユーナはこれが初仕事とか。
 決意も新たに、なにやら袋を沢山用意しているようであった。
 もちろん、獣人以外も負けてない。
「まさにシノビの本懐のような任務ですね」
 淡々と、普段の侍女服姿ではなくシノビ装束で作戦開始に備えるのはコトハ(ib6081)。
 そして、シノビの本懐という言葉を聞いて、
「うん、確かにそうだね。つまりあれだ。シノビ的にがんばればいいんだな!」
 と、改めてシノビである自分を確認して黒猫の面をすっぽりかぶるのは藤丸(ib3128)。
 こっそりと準備を整えた一行は、いよいよ作戦開始にうつるのだった。
「押し込み強盗はやったコトねぇけど任せといてよ。盗賊ワイルド・キャットの出番ってねっ」
 にししと悪戯っぽく笑いながら、火炎瓶を袋に詰めているのはアーニー・フェイト(ib5822)。
 そんな、アーニーの様子を見て、暁はふと。
(‥‥‥何だか嫌な予感がするのは、何故かしらね?)
 そんな思いを胸に抱えつつとりあえず踏み出す暁。
 果たしてその予感は当たるのか、波乱の夜が幕をあけるのであった。

「‥‥ヤー、皆さん。とりあえず見付からずに到着できましたね。裏口はこちらのようです」
 ひたひたと夜の山道を移動した一行は、モハメド・アルハムディ(ib1210)の案内で裏口へ。
 そこをシノビの技でこっそりと開けると、まずはそれぞれの配置に移動するのであった。
 案内をしたモハメドはこっそりと音を立てぬように庭で待機、どう罠を仕掛けるかと思案顔をしているようだ。
 そんなモハメドとともに周囲の警戒をしているのがコトハとアーニーであった。
 アーニーは、追っ手が来たときのために荒縄を結び、屋敷の塀沿いにおける罠を作成。
 そして、コトハは超越聴覚に集中して、不意の遭遇や内部での動きにも注意を払っているようである。
(‥‥‥こっちは終わったから、手伝ってやるよ。これを結べばいいのか?)
(ショクラン、ありがとう。今はこうして縄を張るぐらいが限界ですね。逃走のときはご注意を)
 罠を張り終わったアーニーは、モハメドの方にも手を貸したようで。なんとか簡単な罠はできあがったよう。
 同時に、屋敷の内部でも他の開拓者が作戦行動に移っているようであった。

「大人しく金目のモンのとこまで案内しなっ」
 刀を突きつけて、そう宣言したのは羽喰であった。
 ちくちくと人質となった屋敷の住人の頬を刀で突きつつ、金目の物を出させる作戦のようだ。
 そう、盗賊たちが苦労するのはこうした忍び込んだ先での人の扱いなのである。
 今回は、羽喰が脅し、暁が人質となった住人を縛り上げるという算段のよう。
 これはそれなりに上手く行っているようであった。
 だが、盗賊たちが人質の対処で苦労する点、それは取りこぼしがある可能性が多いということだった。
 それ故に、本格の盗賊たちは住人に気づかれないように隠密の技を磨き、誰一人気付かないままに盗む。
 そして、凶賊らは誰一人証拠を残さないように、全員声も上げさせずに殺してしまうと言うわけだ。
 確かに縛り上げる手間よりは殺す方が楽だろう。
 凶賊の中には、口に粘土を押し込んで、あっというまに何十人も皆殺しにする賊もいるというのだ。
 さすがに開拓者達はそういった選択を擦るわけもなく、手間のかかる作戦を選んでしまったのだが‥‥。
「‥‥ん? 中に砂なんか詰めて、どうするんだ、それ?」
「こんなのでも立派な囮になるんだよねー‥‥当たると痛いし」
 金品を集めている途中のエドガーがユーナに聞けば、帰ってきたのはそんな答えだ。
 なるほどと頷いた二人は、更に暁の目利きに従って高そうなものを優先して袋詰めしていくのだが‥‥。
 気付いたのは、コトハとアーニー、そして藤丸の三人がほぼ同時。
 それは、こちらに向かってくる一団の足音であった。

「アーニー様、正面の方向から足音が近付いてきております。予想より早いですね」
「げ、監視する前にもう来ちゃったのか。まだ5分たつかたたないかなのに‥‥」
 慌てて対処に移動するコトハとアーニー。
 そしてまだ屋敷内部の面々はそれぞれ別行動を開始した。
 退路となりうる裏口への道を確保したまま、陣取るのは藤丸。
 そして、暁、ユーナ、エドガー、羽喰の四名はそれぞれ荷物を手に逃走の構え。
 最後にモハメドがリュートを奏で始めて。
 その音が響き始めると同時に、掲げられる高張り提灯。
 静かな夜は一転して追い追われる緊張の戦場と化したのだった。

●逃走劇
「ヤー、皆さん。援護します。ヤッラー! 行って下さい!」
 仲間たちに声をかけると共に響くモハメドのリュートの音色、奏でるのは黒猫白猫だ。
 味方の逃走を助ける軽快な音色だった。
 その音に背中を押されるように、四方八方に逃げる開拓者達。
 たしかにこうして包囲されそうな場合、盗賊たちはばらばらに逃げることが多い。
 各自囲いを斬って開け、というわけだ。
 今回もそれは同じ。まず逃走の中で活躍したのはエドガーだった。
「こっちだ、こっち! 一人が怖くて追いかけても来れんのか?」
 挑発しながら使うのは咆哮、それに引き寄せられるように数人の捕り手がエドガーを追う。
 だが、さすがに捕り手たちもさるもの、咆哮に抵抗し他の開拓者を追う者も多いようだ。
 しかしエドガーのもくろみの一部は成功したと言って良いだろう。
 彼は仲間が逃げる時間を稼ぐための捨て石となったのであった。
 なんとか追っ手をまこうにも、追跡に優れた捕り手たちにすぐに取り押さえられるエドガー。
 彼は、降参とばかりに両手を挙げつつ、仲間たちがどうなったかを思うのであった。

「悪いけど、簡単に捕まる気は無いよ。逃げ切る気満々」
 そう宣って、逃走を開始したのはユーナだ。
 そこに詰め寄る高張り提灯を掲げた捕り手たち。ユーナはそこに迷うことなく銃撃!
「早く拾わないと火事になっちゃうよ‥‥って、それずるいな!」
 捕り手たちが持ってたのは高張り提灯に、がんどう提灯と呼ばれる落としても平気な提灯ばかり。
 これにはさすがに困ったなと思いつつ、転生の脚力で逃げようとするのが、さすがの抵抗もそこまで。
 木造建築の多い天儀では、火事対策は万全であったようで、
「あうぅ‥‥逃げ足には自信あったのに‥‥」
 しょんぼりと耳を倒して、尻尾を丸めた姿のユーナであった。

「ぬぅぅ!! 多勢に無勢だい!!」
 狼煙銃で追っ手の目をくらまそうとした羽喰はなかなか作戦が上手く行かずに苦戦していた。
 だが、まだまだ少年にしか見えない羽喰であったがその剣力はなかなかのもの。
 しかし、数で二倍を超える捕り手側の執拗な連係攻撃に羽喰もついには抵抗で力尽きて。
 見事な居合の技で、追っ手を凌ぐのもそこで終わり。これにて開拓者は三名捕縛されたのだった。
 そして、続いてつかまったのはモハメドだ。
 黒猫白猫で仲間を援護したあと、夜の子守歌で捕り手を眠らせていたようだ。
 しかし、捕り手たちの数は多く数名を眠らせても抵抗されてしまえば効果は無くて。
 あっさりとモハメドも捕まってしまったのであった。
 ばらばらに逃げると言うことは、こういう場合に相互の援護が出来ないという問題があるようで。
 しかし、開拓者側からすればちゃんと逃げ切る者がいれば成功と言えるだろう。
 さて、残る四名はどうなっているのかというと。

「にしし、ワイルド・キャットはそんな事じゃ捕まらないよ!」
 身軽に捕り手の間を駆け抜けながら、縄を使って牽制するアーニー。
 狙い通り、狼煙銃で目くらましをしてから縄での妨害は功を奏しているようであった。
 だが、どうやらすでに捕まった開拓者も多いようで、追っ手の数は増してきているよう。
 そうなれば囲まれかねないと言うことで、アーニーは煙遁と早駆を使って包囲を突破しようとするのだった。
 まずはまきびしを投げ、牽制してからなんと火炎瓶!
 これには追っ手側も慌てて対処せざるを得なかった。
 ココは山中の砦屋敷だが、これがもし市内であれば死者が出かけない危険行為だ。
 いくら延焼に注意しても、危険は変わりなく咄嗟に火を消すために行動する追っ手たち。
 だが、先手を打ったのは追っ手の中の猛者たちだ。
 放った水流刃で一気に火を消すと、別の追っ手が地奔でまきびしを排除。
 追いついたシノビが飯綱落としでアーニーを捕獲、あっという間の決着であった。
 さすがのアーニーも高位のサムライとシノビにかかっては逃げ切れなかったのである。
 同時にコトハも窮地に立たされていた。
「訓練だからとナメていたら怪我をしますよ?」
 その確かな殺意にじりと下がってしまう包囲。
 一瞬隙を見つけたコトハは単身逃げだそうと、荷袋を捕り手に投げつけ、
「たちのお相手、ありがとうございます。これはお返ししますよっ!」
 そういって、三角跳で塀を跳び越え脱出を計るのだった。
 だが、そこはアーニーが連携していたはずの場所、一瞬遅くアーニーは捉えられていて。
 惜しくもコトハは奮戦ならず、捕縛されてしまったのである。

 そして最後に残っていたのは藤丸と暁。
「先に行って! 俺はここで足止めを‥‥うん、これも戦闘力だから!」
 捕り手に囲まれた藤丸、だがそれは藤丸の誘いだった。
 灯りが大丈夫と見るやいなや藤丸は、なんと畳返し! 役に立たない技と思われがちな畳返しだが効果抜群。
 ひっくりかえる畳に視界をふさがれ、長い捕り物道具が邪魔になって追っ手は大混乱だ。
 慌てて逃げようとする藤丸と暁、しかし、時すでに遅しというわけで周囲は囲まれていて。
「‥‥あっちゃ〜、一足間に合わなかったか‥‥うん、降参!」
「しかたありませんね」
 藤丸と暁もあと一歩というところで捕まってしまうのだった。

●そして酒宴が
「やっぱ最後は酒だな。騒いで楽しんでこその人生よ!」
 さて、いろいろと混乱はあったものの、無事訓練は終わったようで。
 エドガーが言うように、反省会を兼ねた宴会が開かれることとなったのである。
「おじ様も常々、酒を酌み交わしてこそ生まれる縁もある、と仰ってますから」
 ということで全員一緒に賑やかに宴会となったようで。
 今回、開拓者の敗因は、いくつかある。
 人質を捕縛する面子が少なかったことにより見逃しがあり追っ手が予想以上に早かったこと。
 また、逃げるときの連携がなかなか取れず、各個捕縛されてしまったこと。
 そして、捕り手側の心眼や超越聴覚をはじめ、各種技能を警戒していなかったことが上げられるだろう。
 だが、どうやら突発的で予想外の行動をする盗賊対策には最低限なったようで。
 とにかく、これにて依頼終了。あとは朝まで宴会が盛り上がり続けるようであった。