巨狼を追って
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/24 17:18



■オープニング本文

 森を駆ける黒い影。
 大きな牛ほどの大きさながら、まるで風のように木々の間を疾駆し、音もなく進む。
 向かう先は、小さな村だ。
 最近魔の森の縮小に伴い、新しく開拓された小さな村なのだろう。
 意気軒昂で働き者ばかりが集う村のよう、だがそれは邪魔でしかない。
 魔の森は確かに縮小してしまっているが、本来であればこのあたりも狩り場なのだ。
 村のモノはすべて自分のモノ。単なる餌にしか過ぎない。
 そう考えた巨大な狼は、高く高く遠吠えをすると、一気に村へと襲いかかるのだった。

 そして数日後、ギルドに依頼が張り出された。
 理穴の小さな開拓村を襲った悲劇。
 数名のけが人と、数少ない家畜を奪われ、村の人々は恐怖しながら堪え忍んでいるという。
 相手は狼型のアヤカシという目撃情報が。
 実際のところ、狼型のアヤカシは群れ集うためある程度の強敵ではあるが、それほど強いアヤカシで無い。
 しかし、今回目撃された一体はそんな予想を覆すものであった。
 大きさは大きな牛ほどもある巨大な狼型アヤカシ。
 おそらく手勢としてつれている様子の通常の狼型アヤカシも、並外れて大きなモノばかり。
 そんなアヤカシたちの長として君臨している巨狼は、かなりの強敵となるだろう。
 しかも、戦いの舞台となるのは敵が本領を発揮する森の中。
 どうやらなかなか厳しい戦いになりそうである。

 さて、どうする?


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
音有・兵真(ia0221
21歳・男・泰
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
奈良柴 ミレイ(ia9601
17歳・女・サ
黒鷹(ib0243
28歳・男・魔
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
実夏(ib6340
16歳・女・シ
ノース・ブラスト(ib6640
19歳・男・魔


■リプレイ本文


 巨大な狼に襲われた村、その住人たちは疲弊していた。
 死者こそ出ていないものの、改めて彼らの住んでいる場所の危険さが露呈したのである。
 このままここに住み続けることが可能なのか‥‥そんな彼らにとって、唯一の希望が開拓者であった。

「森に近すぎたか、早すぎたかだな」
 音有・兵真(ia0221)の言葉を聞いて顔を曇らせる村の住人たち、だがそんな様子を見て首を振る音有。
「なに、そんなときのために我々がいるのだ。さあ、まずは怪我を治した方が良い」
 そういって、彼は持ってきた包帯や薬草を取り出すのであった。

 まず、村の人々はこの場所を追われることを怖れていたのだ。
 アヤカシの被害がいまだ多いことから分かるように理穴は長らくアヤカシとの戦いを続けていた。
 村とは、そんな戦乱続きの中でも彼らが寄る辺として唯一安心できる場所だ。
 自身の手で切り開き、そこに住まう以外に方法は無く、だからこそ村を捨てることは出来ない。
 頼れるのは開拓者達だけである。
 だが、そんな村人たちにとって今回は不安が一つあった。
 それは、てっきり森へと踏み込んで狼退治に行くと思っていた開拓者達が村で守りの戦だというのだ。
「‥‥村で戦うんですか?」
 そんな不安そうな村人の言葉に対して、応えたのは柊沢 霞澄(ia0067)だ。
「相手は知恵も回る様子、こちらが森に出払ってしまえば村を守ることができませんから」
 つまり、村の住人を守りつつ戦うための策だというわけである。
 だが、それでも村にアヤカシが来るというのはなかなか受け入れがたい様子。
 もしこうした場面で村人との信頼関係が気づけなければ、依頼は失敗に終わってしまうだろう。
 しかし、柊沢や音有は怪我をした村人の治療に奔走し、そしてもう一人。
 村人の信頼を勝ち得るために非常に大きな働きを果たした開拓者がいたのである。

「さてさて‥‥まぁ、肩肘張っても疲れるだけだし、リラックスしていこうかね」
 のんきにそう呟いているのは黒鷹(ib0243)、かれはぐるりと村を見回っているところであった。
 開拓者達が相談した結果、村人たちはどうやら村中央の穀物倉庫に隠れることになったようだ。
「しかし‥‥村と言うには小さすぎるな」
 だらりと構えたままそう黒鷹が言うように、たしかに村は小さかった。
 人数も少ないので、そもそも家の数が少ない。それも小さく頑丈ではないものばかりだ。
 なので、村で一番頑丈な村中央の穀物倉庫が今回は避難場所となったようである。
 だが、やはり村人にとって、近くまでアヤカシがくるというのは不安なことだ。
 そんな不安そうな村人たちを前に、準備として黒鷹はひとつの魔術を唱え出すのであった。
 それはストーンウォールの魔術だ。
 頑丈な石の壁を作り出すその魔術、魔術で作られるものとはいえ石の壁は実体で、守りに特化した魔法である。
 長い詠唱のすえに現れるのは見るからに頼もしい石の壁。
 それでぐるりと避難場所となる倉庫を囲ってしまえば、あっというまに簡単な砦の完成である。
 それなりに多くの練力を消費するとはいえ、練力に余裕のある黒鷹、まだ半分は残した状態で拠点が完成。
「やれやれ、これでひとまずは安心か‥‥」
 つかれたとばかりに出来た石壁を眺めると、ふらっと黒鷹は仲間たちに後を任せるのだった。


「さて、こちらにも灯りを用意しておきましょうか。落とし穴を掘る時間は無いですけどね」
 村人の手をかりつつ、村の中に灯りを灯しているのは長谷部 円秀 (ib4529)。
 開拓者たちが村についたのは午前中、それから準備を進めて時刻は早くも夕暮れだ。
 怪我の治療を終わらせ、さらに村人を倉庫に集め、そしてストーンウォールで守りは出来た。
 あとは、夜になれば集まってくるかもしれない狼アヤカシに対して戦えるよう用意するだけであった。
「トラバサミなんかがあると良かったんですけどね」
 とそんなことをいいつつ長谷部が準備をしつつ。
「狼は群れと言えど長を倒せば瓦解するでしょう。大きくとも狼‥‥倒せぬはずもなし」
 そういって灯りの最後の一つに火を灯し。
「村を守りきって見せましょう」
 そういって笑顔を見せる長谷部に、村人たちは改めて安心感を覚えるのであった。
 こうして準備は着々と終わり、あとは狼を迎え撃つべく構える開拓者達。
 開拓者達が急ぎ準備を終えて、静かに待っていれば、聞こえてくる遠吠えの音。
 それに呼応するように次々に小さな遠吠えが加わりそれが徐々に近づいてくるのだった。
 村で守りに構えたことは、どうやら功を奏したようだ。
 開拓者達は万全の体制で、敵を迎え撃つのだった。

 戦い方は簡単だ。襲われる可能性のある村人は全員固い石壁の内側で、狼には手出しが出来ない。
 だがその石壁は倉庫の三方を囲んでいるが、一方は開けてある。
 そこには開拓者全員が待ち構えているのだった。
 ここを抜かれずに敵を撃ち倒せば、開拓者の勝ち。だが、もし取り逃したりすれば依頼は失敗。
 あえて、開拓者たちの身を囮にしての狼退治が、いよいよ始まるのだった。

 狼は大きく分けて3種類存在した。一つは巨大な狼。牛ほどの大きさで、狼の首領格だ。
 残りは、狼アヤカシが数体に、通常の狼が十数匹。一度に襲われてはたまらない数だ。
 だが、開拓者達は丁寧に役割を分担し、それぞれ助け合う形で配置についていた。
 そして、待ち構える開拓者達の耳に聞こえてきたのは呼子笛の音だった。
 息せき切って戻ってきた見張り役の叢雲・暁(ia5363)、
「森の方からぞろぞろ来るよ! ‥‥バラして敷物や防寒具の素材に作り替えるぐらいの気概でいってみよー!」
 そういいながら忍刀を抜き放つ叢雲、そんな彼女の後を追うようにして追ってくる数匹の通常狼が。
 それを迎え撃ったのは、奈良柴 ミレイ(ia9601)だ。
 優美な薙刀を構えてずいと前に出れば、前衛役がそれぞれ壁として前進。
 戦闘開始と共に、開拓者は連携しながら狼に対処するのだった。


「この村の方々のためにも取り逃すことの無いよう、気をつけていかねばな」
 がちんと噛み合わさった牙を木葉隠で回避し、逆に強烈な蹴りを見舞う実夏(ib6340)。
 彼女の役割は通常狼の引きつけ役だ。
 数が最も多い通常の狼の中にあって、さすがに忍びの体術の冴え、かすらせもせずに回避していて。
「狼か、さすがに開拓者の敵ではないが‥‥こうも数が多くてはな」
 だが、数が多ければ思わぬ怪我を負うこともありえる、そんな彼女を助けるのは、強烈な魔法の吹雪だ。
「凍り付け‥‥燃やされるよりはマシだろう‥‥」
 そう呟いて、フローズを放つノース・ブラスト(ib6640)。
 強烈な冷気を、素早い狼もさすがに速度が落ちるようで、これこそが彼らの狙っていた好機であった。
「あとは任せろ、早々に片付ける‥‥纏めて行くぞ」
 音有のその言葉を聞いて、実夏は退きと替わって前に出る音有。
 彼の狙いは広い範囲を巻き込む崩震脚の一撃だ。
 いまだ巨狼は姿を見せてはいないが、ここで減らせればそれだけで有利に。
 仲間が作った好機を逃さず、一気に敵陣に踏み込むと、仲間を巻き込まないように渾身の崩震脚!
 強烈な衝撃波に、まとめてタダの狼は吹き飛ばされていくのだった。
 だが、剣狼や怪狼と呼ばれる狼型のアヤカシはまだ健在、孤立した音有が危険だ。
 そんな彼の窮地を救ったのは、後衛からの魔法だ。
「一瞬だ‥‥痛みを感じる暇も与えない」
 追撃のウィンドカッターを放つノース。崩震脚を食らっていた怪狼はその一撃で首を落とされ瘴気に。
 また、回り込もうとしていた別の剣狼には、倉庫の屋根からサンダーの一撃が。
 ストーンウォール周辺の警戒をしていた黒鷹が放った一撃で、辛うじて生き残っていた通常狼も撃破。
 まだまだ生き残りも多数いるが、ひとまず退路は確保して音有は仲間たちのところまで戻ろうとして。
 だが、そのとき暗い森からついに巨狼が姿を顕したのだった。
 一気に距離を詰めて、開拓者達の近くまでやってきて、強烈な咆哮。
 それは、開拓者のサムライが使うような、思わず恐怖心を掻き立てて、攻撃させてしまうようなものだった。
 ここで、連携を崩されてしまえば一気に危機だ。
 それどころか、後衛が巨狼の咆哮で引き寄せられてしまえば、一撃で最悪の事態もありえる。
 だが、そこで役に立ったのは柊沢の加護結界であった。
 全員の抵抗力を高めるその結界のおかげで、びりびりと大気を振るわせる咆哮に抵抗する開拓者達。
 次の瞬間には、すぐさま反撃を開始していたのだった。

 飛び出した影は二つ。まずは、地面すれすれにまで下ろした刃先から放つ地奔を放つ奈良柴。
 だがそれを軽やかに避ける巨狼。しかし、着地地点には長谷部が待ち構えていた。
「体が大きいだけではまけませんよ?」
 悠々と構えたその両手にそれぞれ武器を構えて、紅蓮紅葉発動。
 そのまま、巨狼の鼻っ柱めがけて、利き手の刀「長曽禰虎徹」を振るう。
 だが、がちんと火花を散らせる刀、なんと巨狼はその刃を刃で弾いたのである。
 さすがに一筋縄ではいかない相手である。今度は巨狼の攻撃、爪と牙の連続攻撃で長谷部は防戦一方。
 辛うじて受け、払い、躱しているのだが、じりじりと長谷部は後ずさるのだった。

 同時にアヤカシ狼たちとの戦いも終盤を迎えていた。
「精霊さん、力を貸して‥‥」
 前衛が2人巨狼との戦いに気を取られている隙にその背を狙う怪狼。
 そこに打ち込まれたのは柊沢の精霊砲だった。回復をこなしつつ支援の一撃。
 残る狼はもう数頭だけであった。
「残り3匹!」
 気合いと共に音有が1匹を撃破。混戦になったので、崩震脚ではなく強固な拳の一撃だ。
 瞬脚で回り込んでからの連打に、その1匹はあっというまに瘴気に返るのだった。
「あと2匹〜!」
 シノビだけが成し得る高速起動での戦闘、奔刃術を駆使して、狼を上回る速度で戦う叢雲。
 手裏剣で動きを止めてから、目にも止まらぬ一撃であっさり撃破。
 これで残った雑魚アヤカシは2匹となった。
 そのうち1匹は、実夏が早駆で接近。蹴りの一撃ではじき飛ばして倒したのだが、1匹はノースに。
 だが、ノースは迫り来る狼を前に、精霊の小太刀を構えると、
「魔術師だからといって、近寄られれば弱いわけではない‥‥」
 そういって抜き放ったのは銃であった。
 小太刀で狼の牙を辛うじて受け止めると、逆の手で抜いた銃を突きつけ銃声一発。
 最後の1匹もこうして倒されるのだった。
 だが、残るのはもっとも強力な巨狼だ。
 歴戦の長谷部も防戦一方だったが、ついに開拓者の反撃が始まるのだある。

 雑魚がいなくなり、邪魔する物がなくなれば、奈良柴の地奔の真骨頂。
 連続して放つ地を走る斬撃はまっすぐに巨狼へと向かって行って。
 再びこれを飛びあがって避けようとする巨狼。だが、その体が急に止まった。
「でっかい犬っころには、少し大人しくしてもらおうかね」
 術を放ったのは黒鷹だ。地面から魔法の蔦を伸ばして敵に絡みつかせる魔法‥‥アイヴィーバインドだ。
 その蔦が、飛び上がろうとした巨狼をつなぎ止めているのだった。
「首輪の方がよかっただろうか?」
 くくっと喉の奥で笑う黒鷹。彼の狙い通り、避けようとした地奔の連打をそのままくらって。
 そして、それだけではなかった。地奔を追うように瞬脚で接近したのは音有だ。
「纏めて持っていけ」
 足を取られて動きの止まった巨狼の横っ腹に密着して残った気力を全て破軍で使っての一撃は強烈。
 分厚い毛皮と肉を通して、骨まで響くほどの音と共に、巨狼にその一撃が炸裂して。
 そしてその隙を逃さず長谷部は逆の手におっていたアゾットで白梅香を発動。
 白い燐光を帯びるその一撃を、巨狼の喉に深々と突き刺すのだった。
「たとえ外が頑丈でも内側は鍛えようがないでしょう? その命‥‥‥もらい受ける!」
 気合いと共にめり込む刃は、見事に致命的な一撃で。
 部下である狼もすでに居ない巨狼は、開拓者の集中攻撃のまえに、ついに倒れるのだった。


 こうして無事に開拓者達は被害を出すことなくアヤカシを退け巨狼を退治したのだった。
 のこったのは大量のオオカミたちの毛皮だ。
「迷って出ることの無いように、ちゃんと弔いましょう‥‥」
 巫女の柊沢が狼や家畜の弔いをすれば、叢雲がオオカミの皮をなめして。
 無事に依頼は終了、被害は出たものの、まだまだこの村は立ち直れそうであった。