殲滅のために 二隊
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/14 17:17



■オープニング本文

 強さとはなんだろうか。それは開拓者にとっては命題の一つだと言っても良いだろう。
 もちろん、アヤカシの強さも同じ。
 その膂力か? 技の鋭さか? 特殊な能力の恐ろしさか?
 今回の敵は、そのどれでもない。
 しかし、だからこそ強い敵。それを開拓者は討たねばならないのだ。

 理穴のとある廃村。
 十数年前に魔の森の範囲内に飲み込まれてしまってからは寄る人間のいなかった場所。
 そこが、魔の森の縮小によって此度再発見されたという。
 立地は悪くない。
 森と森の間の平野部にあり、近くには綺麗な川が流れている。
 そして、狭くはない平地や丘も多く、再度開拓を行えば再び街道沿いの町として栄えることだろう。
 だが、そこはアヤカシの巣窟であった。
 強いアヤカシがいるわけではない。だが、数が多くしつこかった。
 近くの川は徐々にかつての姿を取り戻しているとはいえ、周囲一体に氾濫し沼地を形成。
 建物が残る廃村の跡も、半分ほどその沼に飲み込まれてしまっているようであった。
 そして、廃村に溢れているのは下級アヤカシの群れであった。
 かつて激しい戦闘があったことを物語るように、狂骨たちの群れがそこに。
 それだけではない。アヤカシがアヤカシを呼ぶように、怪狼や剣狼といった下級の獣アヤカシ。
 そして、沼地には厄介な増殖能力を持つ、余り情報のない粘泥状のアヤカシがいるという。
 さらに、空中を舞うのは大毒蛾の群れ。
 個々はそれほど強いというアヤカシではないだろう。
 だが、これだけ集まればそれを駆逐するのは並大抵の力では無理だろう。
 そこで、ギルドは2隊の開拓者を派遣してその殲滅に当たることとした。
 こちらの第二部隊は作戦の要。連携や立ち回りが重要となるだろう。
 目的はアヤカシの殲滅。それも完璧な殲滅だ。


■参加者一覧
剣桜花(ia1851
18歳・女・泰
雲母(ia6295
20歳・女・陰
只木 岑(ia6834
19歳・男・弓
志宝(ib1898
12歳・男・志
コトハ(ib6081
16歳・女・シ
ニッツァ(ib6625
25歳・男・吟
スゥ(ib6626
19歳・女・ジ
アルウィグィ(ib6646
21歳・男・ジ


■リプレイ本文


 開拓者の仕事は様々だ。
 緊急の任務もあれば、のんびりと荷運びを手伝う長閑な任務もある。
 だが、今回は滅多にない依頼、それなりの時間をかけて一帯に潜むアヤカシを殲滅する依頼だ。
 時間と手間、なによりも根気を要する難しい依頼だが、依頼を受けた開拓者はやる気十分だ。
 気力十分な開拓者達は、意気揚々と依頼にとりかかかるのであった。

「こちらには巫女がいませんので、負傷者が出たときはお任せしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんですよ。‥‥そのために、まず拠点として丘を奪取するのですね?」
 地上戦を担当する第二隊は、まず初めに第一隊と共同作戦をとった。
 目的は拠点として活用しうる、村近くの丘を確保すること。
 作戦開始に際して、剣桜花(ia1851)は第一隊の巫女、鈴梅雛に協力を要請していた。
 第一帯はそれぞれ相棒を連れての大規模な小隊だといえるだろう。
 それに比べて第二隊は、開拓者単独での作戦、だが広い範囲の索敵と殲滅を行うには向いた面子だ。
 前衛を守り重視に配置して、遠距離攻撃に長けた面々が主攻撃を担当。
 つまり、機動力ではなく殲滅力を活かした作戦というわけである。
 作戦の効果の程、それはすぐさま試されることとなったのであった。

 まずは小手調べ、丘を奪取するための戦闘開始だ。
「んんー‥‥いいねぇ、殲滅、電撃、打撃に防衛、包囲に突破に掃討‥‥」
 ぷかりと煙管をふかしながら雲母(ia6295)が言えば、
「では、撤退戦は?」
 ふと聞いて見たのは剣や雲母と面識のある只木 岑(ia6834)。
「‥‥退却と撤退は、好きではないな」
 咥え煙管のまま、にやりと応える雲母。苦手と言わない当たりに自信の程がうかがえる。
 まず先行して上空戦力の排除は、周辺の索敵に出発した第一隊を見送りながら、第二隊も行動開始。
 ゆっくりと丘を目指しての進軍するのであった。

 相棒と協力して戦闘可能な第一隊が地上と空中の両方から大型の敵を排除し、そこを第二隊が進軍。
 寄ってくる敵を引きつけて排除し、ゆっくりと移動する。
 それを繰り返すだけで、当初の目標である丘の奪取はすんなりと進んだのだった。
 一隊が周辺警戒に努めている間に、二隊は辛うじて残っていた資材を利用して簡単な拠点を設営。
 これにて、掃討作戦に入るための準備は全て整った。
 一つの目的は果たしたと言え、まだまだ本番はこれから。
「‥‥ここまでひどい現場も、なかなかないですよね」
 丘の裾野から村の跡にいたるまであちらこちらで散見されるアヤカシの姿。
 それを見て見て志宝(ib1898)は思わずそう呟き、隣のコトハ(ib6081)も、
「省エネ戦闘をしないととても持ちませんね‥‥なかなか難易度が高いですね」
 と呟くのだった。だが、溜息をついていても始まらない。
「‥‥たしかに大変です‥‥でも、だからこそやりがいを感じますよね?」
 志宝が刀を抜き二刀流で構えれば、コトハも同じようにマキリを構えて微笑むのだった。


「ニッツァ‥‥♪ お仕事の時間だよ‥‥♪」
「ほいだら一仕事しょーかー? スゥいくでー? あんじょー踊りやー♪」
 一対の短剣を構えて舞うように振るう少女とそれを援護するようにリュートを奏でる青年。
 二隊の中にあって、声を掛け合いながら助け合っているのはスゥ(ib6626)とニッツァ(ib6625)だ。
 同じキャラバン育ちの家族も同然な間柄だとか、連携の巧みさにも納得である。
 今回の作戦において、広範囲に分布する敵を排除するためには、根気強く戦い続ける必要があった。
 そのため、戦闘は長時間に及ぶ。朝早くに作戦を開始し丘を奪取した開拓者達はいまだ戦い続けていたのだ。
 神経を張り詰め、疲労もたまる長時間の戦闘、そう言うときにもっとも重要なモノこそが連携力である。
「俺は後ろからの支援しか出来ひんから堪忍やでー」
 そう良いながらニッツァが奏でるのは怪の遠吠え。
 アヤカシにだけ聞こえる音楽が響けば、知能の低い狂骨や狼系がぞろぞろと寄ってくるわけで。
 それを迎え撃つ開拓者達は、何回目か分からない戦闘に突入するのだった。
「スゥさん、まだいける?」
「うん、志宝、もうすこしがんばろ? スゥ‥‥精一杯お手伝い、する」
「わかった。だけど無理しないようにね‥‥さて、団体さんのご到着ですね」
 志宝がスゥに声をかければ、ふうと息を整えたスゥは、とんとんと軽く跳ねながら短剣を構えなおす。
 まだ大丈夫というスゥの言葉を信じて、再度前衛役の面々は敵を迎え撃つのであった。

「剣様、雲母様、お二人の力を信用しております。壁に集中いたしますのでアヤカシの殲滅はお願い致しますね」
 きっぱりと言い放つのはコトハだ。機動力に長けた彼女は、遊撃する前衛。
 周辺警戒をしながら、主攻撃を担う後衛のために時間を作る役割だ。
「丘の下方からこちらにむかって四足歩行と思われるアヤカシが6体ほど接近してるようでございます」
 聴覚で得た情報で警告を飛ばせば前衛が身構えて、今回四足といえば狼系。
 剣狼数匹を戦闘に突っ込んでくるアヤカシ狼の姿がすぐに近づいてくるのだった。
 それを迎え撃つのは前衛たちだ。
「この数相手に、無理をする気は起きませんね」
 そういって、敵の鼻っ柱に鞭を振るうのはアルウィグィ(ib6646)だ。
 遠方で、龍を駆り空中の大毒蛾を撃破している一隊の開拓者を見ながら、無茶は禁物と突出せず仲間と連携。
 鞭を使って中距離で攻撃出来る彼がまず牽制役として敵の出鼻をくじくのである。
「スゥー! 志宝さん! 敵さん今度もまっすぐこっちに来よるでー、注意しぃや!」
 武勇の曲を奏でながら警告するニッツァ、その声にこっくり頷いてスゥは敵に向き合って、
「だいじょうぶ‥‥、当たらないから‥‥♪」
 ふっと体を沈めると舞うようにアヤカシ狼の牙を回避、すれ違いざまに短刀の一撃を食らわせて、
 ひらひら、くるりくるりと舞ながら敵の攻撃を惹きつけるスゥ、そんな彼女を援護するように志宝は、
「させる‥‥かっ!」
 小柄な体躯をめいっぱい使って振り切る二刀流の刃でアヤカシを攻撃。
 そして前衛がアヤカシ達の足が止まれば。
「あとは任せな‥‥」
 煙管を咥えたまま、前衛に飛びかかろうとしていたアヤカシ達を射貫く矢は雲母の一撃。
 攻撃力に遙かに勝る雲母の矢の雨が、あっというまに前衛を襲わんとしていた敵を貫いていくのだった。
「んー、いいなぁ‥‥このしらみ潰す感じの掃討戦がたまらん」
 にやりと笑みを浮かべる雲母。この面子において確かに最大の攻撃力は彼女の役割であった。
 だが、もちろん彼女だけの力で上手くいっているわけではなくて、
「逃がしませんよ。スゥさん、志宝さんと追撃をお願いします!」
 逃げだそうとしていた敵を縫い止めたのは只木の矢だ。
 こちらは牽制や援護のための射撃攻撃。逃げようとしていた狂骨数匹に対して牽制の矢で時間を稼いで。
 全方位戦闘のため、即射を使い八面六臂の忙しさなのだが、討ち漏らしもなく。
「‥‥日がかげってきました。そろそろ一度戻るとしましょうか」
 声をかけたのは剣だ。彼女は機動力と攻撃力を両立しうる前衛として周辺警戒と攻撃を兼ねていて。
 単独で襲ってきた剣狼を返り討ちにしながら、仲間たちを合流。夕日の沈むのを前に一行は丘へともどるのであった。


 拠点となったのは最初に安全確保をした丘だ。
 残された僅かな資材を活かして、簡単な陣地を作りいくつかの天幕を設置。簡易の拠点と化しているようで。
 そこをどたばたと走る姿を、周辺警戒中の只木は見送って。
「巫女様、お願い‥‥ニッツァが怪我をしたの!」
「スゥ、そないに慌てなくても‥‥怪我いうても軽いし、スゥかて怪我しとるやろ?」
 ニッツァを引っ張って巫女の鈴梅のところに連れいていくスゥであった。
 作戦が上手くいったため怪我は軽微。といっても家族のように大事に思うお互い、小さい怪我でも心配なようで。
 鈴梅雛はてきぱきと怪我を治療するために準備して、
「巫女さん堪忍なー? ウチのひぃさん治したってー」
「大切な、家族‥‥なの。ニッツァが痛いと、スゥ苦しい‥‥から」
 お互いに大事に思う姿を見て、大丈夫ですよと鈴梅は笑顔を浮かべながら治療してくれたようであった。

 そして、拠点の中では一息ついて見張り以外は交代で仮眠をとったり食事をしたり。
 そんな中で、月明かりに浮かび上がる周囲をみやる女装したジプシーが一人。アルウィグィであった。
「ここなら見晴らしもよいですね」
 ひょいと登ったのは周辺の警戒のために使っている櫓の残骸だ。
 櫓の上には、見張りをしていた只木が。アルウィグィは只木に味噌汁の入った椀を渡して、
「どうぞ。先ほどからすさんが皆さんに振る舞っていましたので、貰ってきました」
 あたたまりますよ、とアルウィグィが言うので只木はそれを受けとって。
 見張りを続けながら、芋がら縄の入った味噌汁をすするのだった。
 周囲を警戒しながら不寝番をたてて、さらに散発的に襲ってくるアヤカシを凌ぐ夜。
 長く感じられた夜もあっというまに過ぎていき、朝がやってきて。
 開拓者達はいつ終わるとも知れない戦いにまたしても挑んでいくのだった。


 そして数日後、戦いはいよいよ佳境を迎えるのだった。
 数日かけて村周囲のアヤカシ達の殲滅は完了したよう、といってもアヤカシは瘴気から自然発生することも多い。
 油断は禁物ではあるが、目的の大部分は果たしつつあるのだった。
 空のアヤカシ達は第一隊の空戦担当、龍を相棒にした仲間たちが殲滅。
 そして広い範囲に散らばったアヤカシ達はきっちりと一隊の他の面々が対処したようで。
 第二隊の面々は、我が身を囮として、群れをなしていたアヤカシの大部分を返り討ちにしたのであった。
 残るのは村の沼部分に存在する粘泥状のアヤカシ達だ。
 これを倒せば残る敵は殆どいないだろうという予測の元、開拓者達は二隊合同での作戦で。
 まず先陣をきったのは、剣桜花であった。
「巻き込まれないように注意して下さいね! いきますっ!!」
 瞬脚で敵陣に飛び込んで、破軍を使っての崩震脚。泰拳士が得意とする連携による強烈な範囲攻撃だ。
 沼地の水を激しくはじき飛ばしながら広がる衝撃波、それが収まるのを待たずに突貫する龍たち。
 術や炎が地表と沼地を舐めて、次々にアヤカシが撃破されて。
 二隊の残る面々は、最後の仕上げと沼地に進んでいくのだった。

「鏡弦で討ち漏らしが無いか確認します」
 只木の鏡弦と志宝の心眼がこういう時は非常に役立つようで、索敵をしつつの進軍だ。
 見つけた敵をうつのは雲母の弓や、
「かしこまりました。お任せ下さいませ」
 コトハが指示を受けて機動力を活かしての殲滅。
「スゥ、余所見しとったあかんでー? ウチのひぃさんに手ぇ出された困んねや。はよ往生しぃ」
 時折反撃を仕掛けてくるアヤカシも居るが、ニッツァは曲を奏でつつ、合間にダーツでスゥの援護をすれば、
「ありがと‥‥鬼ごっこなら、負けないよ」
 逃げようとするアヤカシの残党を、仲間たちの援護を受けつつ滅ぼしていくのだった。
 そして、数刻が過ぎ開拓者達はなんとか敵を全滅させたようで。
「‥‥こちらの国の人たちの実力を、間近で見れる良い機会でしたが、これがこちらの開拓者の実力ですか」
 自分もその一員として働きながら、驚きの声を思わず漏らすアルウィグィ。
 幾度かの戦乱においても、大勢で連携した開拓者達の強さは折り紙付きで。
 今回も、一同は連携し助け合うことで、難しい任務を無事に乗り越えたのだった。

「‥‥村の弔いも出来たし、いつかまたここが開拓されるといいね」
 志宝がいえば、手伝っていたスゥやニッツァもそうだと頷いて、
「人住めるようなったらデニの皆で来たらななー」
 と、ニッツァが言えばスゥもこっくりと笑みを浮かべ。
「‥‥いつもお二方の指導も厳しいんですよね‥‥」
 一仕事終えて、力を抜いた只木は、雲母や剣に、
「ダメだなぁ、ちゃんと当てないと、なぁ?」
 やら
「敵に当てられない弓術師とか‥‥」
 と弄られていたり。ともかく、厳しい依頼はこれにて終了。
「なかなかにハードな仕事でしたが、なんとか無事に終えられましたね」
「ええ、一隊の方々も無事なようで、やっと休めますね」
 アルウィグィとコトハは、やっと武器を納めると、一同と共に帰路につくのだった。