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■オープニング本文 その小さな村は突然の被害に襲われた。 村を囲む、獣除けの柵を破って村を襲ったのは、2匹の鬼。 小鬼のように、村人が寄って集まればなんとか撃退できるものではなく。 その背は人を越え、全身は筋肉で覆われ、その腕の一降りで人の命を奪う。 まさしく化け物であり、村人はそんなアヤカシの恐怖に震えていたのだった。 もちろん、すぐに開拓者が派遣された。 駆け出しの開拓者8名で構成されたその一団は、勇んで鬼退治に出発し‥‥。 次の日、戻ってきたのはたった1人だった。 全身傷だらけ、半死半生の体で戻ってきたそのサムライは言った。 鬼は二匹だけじゃなかった‥‥ 奴らは、俺たちが来るのを待ち受けていたんだ‥‥と。 聞けば、彼ら一団は、たった二匹しか鬼はいないものと考え、まとまって森に分け入り鬼を探したとか。 発見した鬼を追って森を分け入って進めば、待ち構えていたのは鬼の群。 樹上に隠れていた鬼達の突然の襲撃に、驚いた開拓者達はばらばらに追い散らされてしまう。 そして命からがら、村に戻ってきたのはたった1人だけだった。 他の開拓者達の行方はすでにわからず、数日戻ってこないところから見てその生存は絶望であろう。 しかし、開拓者は怖れて逃げ出すわけにはいかない。 ということで、もう一度、鬼を退治せよとの依頼がでたのである。 さぁ、どうする? |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
土橋 ゆあ(ia0108)
16歳・女・陰
俳沢折々(ia0401)
18歳・女・陰
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
玖堂 羽郁(ia0862)
22歳・男・サ
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
蔡王寺 累(ia1874)
13歳・女・志
犬神 狛(ia2995)
26歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●戦いの前夜 「知恵のあるアヤカシは優越感を感じたりするのかしら。良い気分はしないわ‥‥」 夕闇に染まる空の下、土橋 ゆあ(ia0108)はぽつりとつぶやいていた。 村に着いた開拓者達は、まずは作戦通りの準備に取りかかっているところである。 「優越感ですか‥‥一度、開拓者を退けたことで、鬼も優越感を感じているかもしれませんね」 朝比奈 空(ia0086)はそう応えて。 彼女ら開拓者一同は、現在鬼がいるとおぼしき森に面した村の外周に罠をしかけているところであった。 単純な作業ではあるが、これも重要な策の一部で。 「でも、優越感を感じれば知恵も濁るものですし、今度はきちんと倒して、禍根を断ちたい物ですね」 「そうね‥‥知恵があるからこそ迷うということもあるものね」 簡単な鳴子やわざと目に付くような、あからさまな罠の数々を仕掛ける土橋と朝比奈。 これは誘導のための偽の罠である。 こうして鬼の進路を狭め誘導する作戦なのであるが、偽物とはいってもなかなか面倒な物で。 「‥‥肉体労働は苦手だわ」 はぁと溜息をつく土橋、同じく疲れた様子の朝比奈は土橋に竹筒に入った水を手渡したり。 ざぁっと一陣の風が吹いて、彼女たちは眼前にうっそうとしげる森へと目を向けて。 またしても、黙々と罠を仕掛ける作業に戻るのだった。 「村の平和を取り戻す事と、前任の開拓者達の仇を取る為にも‥‥頑張らないとな!」 張り切っているのは玖堂 羽郁(ia0862)だ。 ざっくざっくと穴を掘り、偽物の中に落とし穴を作っていたりしつつ、そばには白い髪の女性が1人。 「‥‥この罠には、もうちょっと葉っぱで隠して‥‥」 眠そうな瞳で罠を見やりつつ、書き付けを残したり、村人に注意を促したりのは俳沢折々(ia0401)だ。 突貫工事の罠作成、男も女も開拓者は皆協力しての作業であるのだが、手を動かしつつ、ちょっとした会話も。 「折々ちゃんと同じで、俺の姉ちゃんも陰陽師なんだ」 と玖堂が言えば、俳沢も笑顔で顔を上げて。 「ほう、さぞかしお姉さんとは仲良しのようだね」 姉について語る玖堂のうれしそうな顔を見て、俳沢はにんまりそういうが、そうだよとあっけらかんと玖堂は応えて。 「だから、慣れてるからさ。呼吸は俺が合せるんで、援護よろしくなっ!」 「うむ、期待には応えさせてもらうよ。今度はこっちが鬼に一泡吹かせる番だからね」 いつ鬼が来るかわからない村では、開拓者達は希望で。 警戒を緩めないまま、開拓者達はこうして作業を急ぐのであった。 さて、開拓者達が急ぎ準備を進めているのは、こうした罠ともう一つ、のろしがあった。 今回の策の要は、開拓者を二班に分けての連携である。 前任の開拓者達は、数では優位に立っていたのだが、攪乱されたがために各個撃破の憂き目にあった。 今回は、真逆に鬼達を誘導し、挟撃しようとする作戦なのだが‥‥。 「鬼達がいい気になって同じ手を使ってくれるといいんですけどね‥‥どこまで知能があるのかな?」 小さな体で、藁束を運んでいた相川・勝一(ia0675)はそういって、遠くを眺め。 のろしのための草の束を村のいくつかの場所を選んで接地しつつ、心配するのは鬼達の対応で。 「鬼が新しい作戦を練ってなければこれでいけると思うけど、さて‥‥」 わざとこちらの人数を囮と待ち構える班に分けての挟撃策には危険性があった。 こちらの人数を分割することによって、分散された戦力を各個撃破される可能性だ。 それが心配なので、こうして何重にも準備を重ねて、策を尽くすのである。 人の中においては、志体を持ち超人的な力を有する開拓者達。 しかし、彼らもアヤカシの圧倒的な力の前には、屈することもあるもので。 だからこそ知恵を振り絞って策を練るのである。 瘴気から生まれ、滅びをもたらすアヤカシに勝てる点があるとしたら、それはこうして協力できること。 村の人々まで手伝って、開拓者は準備を進めるのであった。 「ま、うだうだ考えてもしかたねぇよな。それだけ、倒し甲斐ががあると思っておくか!」 心配げな顔をしていた相川の方をばんばんと叩いて、元気づけるのは樹邑 鴻(ia0483)だ たとえ厄介な相手にしろ、開拓者の仕事はアヤカシの撃破だ。 そう考えて、相川も気持ちを新たに準備を進めるのであった。 ●囮は森へ 「手の内見せた鬼なんざ怖くねーよな!」 呵々大笑、ずんずんと森を進むのは酒々井 統真(ia0893)だ。 彼を始め、森を6名の開拓者が一団となって進んでいた。 前日までに、準備を済ませた彼ら開拓者は、次の日、鬼達を警戒しつつも二班に分かれて行動を開始。 こちらはその二班のうち、囮をつとめる班である。 「鬼なんて大したことないよな! 調子に乗った鼻っ柱、へし折ってやる」 酒々井は、大声でそう話しつつ森を行き。 策はこうだ、彼ら囮となる開拓者達は前任者と似たような行動を取りつつ、鬼を誘導。 強気に装うことで、鬼達を村へと誘い出そうというのである。 もちろん、村人達は村の中でも頑丈な建物に避難させ、守りには前任の開拓者の生き残りと嵩山薫を。 一歩間違えば、鬼達は囮班をまとめて襲い、村を襲うという各個撃破の憂き目にあうかもしれない。 だが、そこで怖れるわけにはいかないのである。 「‥‥頭の切れる鬼など酒の肴にもなりそうにないよなぁ」 紬 柳斎(ia1231)は油断無く周囲を伺いつつ、そうつぶやいて。 酒々井には土橋、紬には朝比奈とそれぞれ前衛と後衛が協力し合い隊列を組み、そしてもう一組。 「む、ちと枝が邪魔じゃ‥‥でかいのも困りもんじゃのう」 高い身長が禍したのか、張り出した枝に頭をぶつけそうになっている犬神 狛(ia2995)と、 「‥‥大丈夫ですか? しっかりしてくださいね」 蔡王寺 累(ia1874)がその横を歩みつつ、心配そうに眉根を寄せて。 「おう、悪い悪い‥‥わしもおぬしぐらいの背なら頭を気にせんのでもいいのだがのう?」 にっと笑う犬神に、たいして蔡王寺は眉間に指で押さえつつ、やれやれといった顔で見やるも。 そのとき、ざわり、空気が変わった。 ざわざわと梢を揺らす風、地面から立ち上る森独特の香気。 だが、ぴたりと鳥の声が聞こえなくなっていた。 「‥‥傾注、右前方に、何かいますね‥‥確認を」 一行の中心にいた蔡王寺の小さくも凛とした声は響き。 開拓者一行は、一瞬にして戦闘態勢へと移り変わっていた。 告げられた方向を見やれば、そこにはたった1匹だけ鬼がいて。 鬼達は威嚇するように吠えると、じりじりと木々の間で距離を測っていた。 そしてほぼ時を同じくして、空に昇る一条の狼煙、それは村へ鬼がやってきたという合図だった。 どうやら鬼達は、こちらの囮組の戦力が大きいのを見て、彼らを攻撃することなく、村へ向かったよう。 だが、それも策の内である。 唯一の誤算は、一匹の鬼が囮役の前に立ちはだかったこと。 「なんと、足止めか! やはり統率しておる鬼はそれなりに手練のようじゃな」 にやりと笑みを浮かべる犬神、そしてすっと前に進み出る蔡王寺。 牙を剥いて威嚇する鬼に対して、蔡王寺は静かに怒気のこもった視線を向けて。 「アヤカシが足止めのつもりでしょうが‥‥生かして帰すつもりが無いのは、こちらも同じなんですよ」 そして、そんな蔡王寺とともに犬神は、 「ここはわしらに任せて先にいけ! 山犬の牙を見せてやろう」 その言葉と共に、犬神と蔡王寺は足止めの鬼へと向かい、他の4名は村へと一直線に走りだしたのだった。 ●戦いの趨勢 「どうやら囮組はうまくやったようだな」 警戒をしていた樹邑は、戦いの予感ににやりと笑みを浮かべるとぐっと拳を握りこんで。 村のもっとも警戒していた場所にのこのこと姿を現した鬼は五匹。 うち一頭はとくに体が大きくおそらくは群の頭目格だろう。 「あ、うまくいったんですね‥‥仮面つけないと!」 あわあわと仮面を引っ張り出してつけているのは相川だ。 樹邑が着火した狼煙に応えて、玖堂と俳沢も急ぎ駆け付けれて。 どうやら鬼の戦力はこっちに集中しているようだ。 他の狼煙に火がつけられた様子も、さらなる伏兵が居る様子もなく。 つまり、開拓者の待機組は、眼前の鬼達の対処だけをすればいいのだ。 戦力でも数でも劣る開拓者、だが彼らの表情には絶望は無く。 全ては策のうちである。 戦闘の鬼が吠え声を上げながらずいと脚を進めれば、そこには落とし穴があったようで脚をとられて。 「ふむ‥‥鬼ゆえに 総身に知恵が まわりかね‥‥んー、駄作か」 俳沢は戦闘の高揚の中、ぽつりと口に出しつつ、どうも気に入らないようで。 するりと符を用意しながら、鬼達を見据えて。 「‥‥やはり戦わねば、いんすぴれーしょんはわかないようだな」 とにやり。 罠があると知って躊躇する鬼達に対して、開拓者達は罠の位置を熟知しているのだ。 そして、戦いの火ぶたを切って落としたのは意外な人物で。 轟! と地を割る衝撃の刃、放ったのは相川だ。 「行け! 地断撃! ふはははは! さあ、鬼退治と行こうか!!」 仮面をつけた相川はすでに別人、高らかに哄笑をあげつつ、先制攻撃を命中させた相川。 さらに接近しつつ、戦闘の鬼にしかけ、それと同時に動き出したのは樹邑。 長巻を使う相川が中距離だとするなら、拳を武器とする樹邑は至近距離が本文。 「拳舞のお時間だ。死ぬまで付き合え‥‥!」 相川の影のように併走し、鬼の死角に回り込めば、相川の攻撃に遭わせて足を蹴り払って。 罠と待ち構えた開拓者の先制攻撃に機を失った鬼達へ、さらにたたみかけて。 「ふふ、迷えば迷うほど、君たちは選択肢を失っているのだよ」 俳沢の斬撃符による一撃が鬼の出鼻をくじき、 「お前ら全員、地獄にご案内だ!」 軽やかに罠の間を駆けて、手傷を負わせる玖堂。 相川と樹邑の組と同じく、距離を巧みに使い、こちらは遠距離と近距離の組み合わせ。 罠で思うように攻められない鬼達に対して、自在に距離を取って戦う待機組の4名は時間を稼いで。 鬼の頭目が大きな咆哮で、手下の鬼達を一度立て直そうとした瞬間、 「‥‥歪みに飲まれなさい‥‥」 朝比奈が放った力の歪みが鬼の脚を捻り、その瞬間、だんと地を強く蹴り、刀を振るう紬。 「間に合ったようだな!」 森の中にて。 身の丈では鬼と並ぶ犬神は、両手の刀を縦横に振るって。 しかし木々が邪魔して決定打を与えられないでいた。 だが、木々の間を縫って、静かに移動した蔡王寺、抜きはなった業物を一閃。 がくんと脚を切られた鬼が体勢を崩せば。 「許しは請わん‥‥」 左右から連続して叩き込まれる刃は鬼の首を刎ね。 ぐらりと傾く鬼の体と、どすんと転がる鬼の首は、あっという間に瘴気と化し、消えていって。 彼らもすぐさま狼煙の上がる村の咆哮に森を駆けるのであった。 そして、彼らが森を獣のように駆け抜けて村へとたどり着いたそのときには‥‥。 「もらったぁ!」 朝比奈と紬の先制攻撃で態勢を崩し、痛手を負った鬼の頭目。 そいつに向かって一直線に、砲弾のように飛び込んで一撃を見舞ったのは酒々井だ。 疾風脚を使っての一撃は全体重を乗せて鬼をぶっ飛ばし。 頭目を撃破されて、浮き足立つ鬼達、しかし近くの鬼が豪腕を酒々井に向かって振るおうとするが、 「‥‥させませんよ」 まるっとしたカマイタチの式が飛来、土橋の援護の一撃が鬼を切り裂いて。 「あとは掃討だな。頭を失った鬼など烏合の衆であろうよ」 いつのまにかその鬼の背後に位置取った紬、体勢を崩した鬼を太刀で一刀のもとに切り伏せ。 一方他の鬼はといえば、 「‥‥そんな攻撃当たるかよ、これでもくらいな!」 豪腕の一撃を回避した樹邑、懐に入り込んでぴたりと掌を鬼の脇腹に当てて。 そのままで、どしんと地面を踏み込む強烈な震脚、寸剄によって弱点を打ち抜かれた鬼は膝をつき。 「こんな武器でも動きさえ止まってれば当てるのは楽なのだ! これで止めだ!」 そこに相川の長巻一閃、重さと長さを利用した一撃は、鬼を袈裟懸けに叩ききるのだった。 8名の開拓者は、それぞれ2人ずつ組を作り、精緻な連携であっという間に鬼を撃破し。 森から、犬神と蔡王寺が駆けだしてきたときには、ちょうど最後の鬼が倒されたところであった。 玖堂が刀を振るって鞘に収めれば、罠の中、残ったのは鬼が握っていた粗末な武器だけで。 「ふ、正義は勝つのだ!!」 仮面をつけたままの相川の高らかな宣言で、やっと開拓者達は肩の力を抜くのだった。 ●弔い 開拓者たちは数日残って村の安全を確保しつつ、彼らは前任の開拓者達の遺品を探していた。 心眼を使って蔡王寺が周囲にまだ鬼の残党が居ないか探しつつも、二日目。 森の中で放り捨てられた開拓者達の武器や装備の一部だけが見つかって。 それらは遺品の一部は村の片隅に、彼らの墓代わりに埋葬されることになったのだった。 「‥‥まずい酒だ。なればこそ、アヤカシを斬らねば‥‥」 村人も共に、花が添えられた墓の前に紬は村でもらった酒を備えて。 開拓者達は、物言わぬ同胞達の過去に思いを馳せて。 同時に、自分たちの来るかもしれない未来を思っていた。 だが危険と隣り合わせながらも、アヤカシをこうして倒すことが開拓者の仕事である。 「鬼討ちて 森に残るは 悔いか形見か‥‥」 静かに俳沢の詠んだ句が風にながれて。 去来する思いと共に、彼ら開拓者は村を後にするのだった。 |