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■オープニング本文 春の夢は現か幻か。楽しい夢もあれば、悲しい夢もある。 開拓者たる者、万人が正義の味方ではないし、そもそも、開拓者は正義というわけでもない。 開拓者達は言わば『剣』である。 振るう者が変われば、またその有りようも変わるわけで。 持てる力は、アヤカシを屠り開拓を進めるという方向を向いているものの、それが何時変わるかは分からない。 開拓者の中には道を違えてしまうものもいると聞く。 かつて開拓者としてアヤカシを倒していた正義の剣は、今はかつての仲間に向けられているとか。 そう言った者たちは、『墜ちた英雄』と、呼ばれるのがふさわしいだろう。 ‥‥夢にもいろいろ種類がある。悪夢もまた夢だ。 貴方なぜ開拓者になった? 正義のため、人を救うため、民を守る盾と成らんがため。 だがしかし、その決意は永劫続くと言えるのだろうか? 志が折れたとき、目標を喪ったとき、死を覚悟したとき、貴方が墜ちてしまう可能性はないのだろうか? これはそんなお話だ。 力有る開拓者として名を馳せている貴方は、並ぶ者無き正義の剣として有名だ。 数多のアヤカシを屠り、あまつさえ国さえ救い、英雄と呼ばれることに異論を挟む者は居ないだろう。 だが、英雄とて歪み墜ちる者。その日は唐突にやってきた。 仲間を守り、人々を助けるための力は今やかつての仲間たちに向けられている。 だが、貴方は貴方の正義に従って進まねばならないのだ。 たとえ、屍山血河を築こうとも貴方は歩み続かねばならない。 それは修羅の道、しかしもう後戻りはできない。 さて、どうする? ※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
浅井 灰音(ia7439)
20歳・女・志
以心 伝助(ia9077)
22歳・男・シ
贋龍(ia9407)
18歳・男・志
アルクトゥルス(ib0016)
20歳・女・騎
ベルナデット東條(ib5223)
16歳・女・志
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
猪 雷梅(ib5411)
25歳・女・砲
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●伝説 「討伐軍か‥‥何度来ても同じ事。また皆殺しにして、串刺しの骸となって晒されるだけ」 帝国辺境の古城にて、白皙の美貌を誇る男がそう呟いた。 秘術によって我が身を吸血鬼と化した偉大な吟遊詩人、Kyrie(ib5916)である。 刃向かう者は、強く美しき者ならば眷属に、そして気に入らなければ糧に。 そうして彼は生きてきたのだ‥‥もう、何十年も。彼は老いることを否定し闇の眷属となったのである。 キリエは眷属を従えて、いざ戦いの場へ。‥‥否、虐殺へと赴くのだった。 「酷いわよねー、こんな美少女捕まえて山姥なんて」 一人、無人の森を往く少女が。それもそのはず、そこは魔の森だ。 アヤカシが跳梁跋扈する死の森を歩むのはリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)。 かつては大アヤカシすら屠った天才は、ある日人類に牙を剥いた。 そもそも初めから彼女の目的は不老不死だ。裏切りなんて片腹痛いと彼女は言って。 「‥‥さあ、楽しいサバトにようこそ♪ 歓迎するわよ、お客様」 精霊の力に瘴気、果ては魂までを喰らい我が力とする人食いの魔女。 そんな名で呼ばれる彼女の住まう森にまたこうして獲物がやってきたようで。 「‥‥もっともっと、こんな数じゃ全然足りないわ」 数百名の討伐軍を見ながら、そう彼女は言ってのけたのだった。 「災牙君‥‥君はどことなくだけど僕の昔の相棒に似てるね‥‥いや何でもない、忘れて下さい」 男は、隣に立つモノにそう声をかけた。彼の隣に立つのは二足歩行の蜥蜴アヤカシだ。 ふっと笑って正面を向く男は、贋龍(ia9407)。かつて仲間に裏切られてアヤカシの配下となった男だ。 喪った左腕は瘴気の腕、彼が率いるのはアヤカシの軍勢である。 彼の軍勢を迎え撃とうと立ちはだかる人類の軍勢、その正面には知ったる顔が。 「‥‥おやおや、これは懐かしい顔ぶれですね。家族会議でもするつもりですか?」 クスクスと楽しそうに笑う贋龍。どうやら人類の軍勢に自身の母と弟の姿を認めたらしい。 だが、それがなんだというのだ‥‥すでに彼には絶望しかない。 相棒の鋼牙を失い、アヤカシに身を投じる理由となったのは人類のせいなのだ。 腹心の部下である災牙に往くぞと一声かければ、咆哮を上げる災牙。 怒濤の如く、二つの軍勢はぶつかるのだった。 ●伝説の終焉 「これで、もう家族はいなくなりましたね」 倒されたアヤカシと人間たちで満ちる戦場で贋龍は言った。 左腕からは瘴気で出来た巨大な刃が生み出され、開拓者を纏めてなぎ払う。 瘴気から無限の武器を生み出す腕で全てを屠った贋龍。 「龍斗! 正気に戻ってくれ!!」 そう呼びかけてきた弟ももう骸に。その母と並ぶようにして伏しているのが見える。 だが、もうなにも思わない。彼は瘴気を操る腕を掲げると、 「さぁ、僕達の長い戦いの幕開けですね‥‥ククク‥‥ハハハ」 掲げた手から生み出される瘴気は、彼の母にも弟にも宿りアヤカシの傀儡と化して。 彼が向かうのは都、数多の国を滅ぼす悲劇の始まりであった。 魔女の放つ黒い蛇の大群。触れればその場所から魂まで喰われてしまう。 魔女が纏う白き蛇の群れ。白い蛇は彼女の怪我を癒し欠損を癒してしまう。 そして、彼女が操る毒蜂の群れはあらゆるものを麻痺させ、残るのは彼女の餌たる魂だけ。 魔女は、その技で数多の街を消し、喰らい尽くした。そして‥‥ 「‥‥‥これで私は永遠の存在になれる。やった、やったのよ、あはははははっ」 喰らい続けた魂は、彼女を満たしついに彼女は永劫を生きる存在となったのであった。 遠く異国の地で、老いを否定して吸血鬼となった伝説の吟遊詩人がいるという。 とうとう魔女と呼ばれたリーゼロッテも同じく不老不死の存在となったのだ。 彼女はなぜ不老不死を求めたのか? それは彼女にももう思い出せなかった。 いまだに彼女を追い求め滅ぼそうと追っ手がかかる。そんな日々にはもう飽いた。 たった一瞬だけ満足した彼女は、誰も知らない森の奧へと姿を消したのだった。 物憂げに奏でられるヴィオロンの音色。キリエの奏でるのは死の旋律だ。 配下は音色一つで不死の軍勢として立ち上がり、刃向かう敵は音色が生み出す重力波で粉々に。 敵を倒しつくし続け、彼の永劫の生は続くはずであった。しかし、 「‥‥見惚れていたか」 彼が見つめているのは、一人の騎士。 金の髪に白皙の美貌、双眸に揺るぎなき意志を湛えた一人の若き騎士であった。 なぶるように彼を追い詰めたキリエの胸を貫く彼の双剣。 「‥‥我が審美眼に最期まで狂いはなかったか‥‥」 生きるのにすら飽いた彼の最期の言葉は、あくまでも美を追究する偉大な吟遊詩人のものであったという。 ●失意の果てに 開拓者として、数多の依頼をこなしてきた。 それもこれも、罪無き人や大切な仲間を守るための戦いだ。だが、世界はそんなに優しくなかった。 裏切られ、自害を迫られ、逃げ出せば仲間たちは全て殺されていて。 残ったのは絶望と、人の本性が悪だという確信。残されたのは自ら死を選び、この世界に別れを告げること。 しかし、それも師との約束により叶わぬ夢だ。 ならば、彼は世界の敵となるしかなかった。これが以心 伝助(ia9077)の物語。 当代一というシノビの技を前に、いかなる防備も敵ではなかった。 如何に守りを固めようと、標的は殺し彼を倒そうとするものは全て罠と彼の刃によって斃れた。 焼いた里の数、数百。暗殺した貴人、数百。その課程で屠った人間の数、数千。 それが、最凶の忍びたる彼の戦果。そして‥‥ 「殺して、殺して、殺し尽くして、そして『最後の一人』を殺したら‥‥そしたら、また皆に会えやすよね?」 頬の傷に触れて、つかの間在りし日を思い出しながら彼は呟く。 しかし、彼は人類の敵だ。血の滴る刃を手に、彼はまた闇に消えていくのだった。 いつか最後の一人、すなわち彼自身を殺してくれる相手を求めて‥‥。 ●反乱 ジルベリアの辺境にて、反乱を起こした氏族があった。 理由はアヤカシの洗脳、国家との軋轢、果ては酒の増税に反対してというものまで様々。 だが、真相は全く分からず。 その反乱の先陣にあって、敵を恐怖に叩き込む女騎士がいた。 かつては英雄と呼ばれたアルクトゥルス(ib0016)、彼女の先祖と同じ白羆と呼ばれる剛の騎士だ。 オーラを漲らせた彼女の体は、防壁も塹壕も全てぶち抜き、群がる雑兵は片手のなぎ払いで殲滅。 ただ前に、愚直に進む彼女の通った後には、何一つ残らないほどの戦果であった。 だが、全ての反乱軍が彼女ほど強くなかった。 本国、ギルド連合軍の奇襲により反乱軍本隊が壊滅。氏族長以下死傷者多数。 補給を立たれてしまえば、如何に一騎当千といえども限界が訪れたのだった。 「刑死も救護所のベッドで死ぬのも御免被るよ!」 生け捕ろうとする敵の中で一人斧槍を振るう彼女、仲間は全て倒され残るは彼女一人だ。 数十人の高位の騎士が彼女を取り囲んでいるのだが、一歩も引かないアルクトゥルス。 「腐っても騎士の首だ! 私の首級挙げたかったら気合入れて掛ってきな!」 だが、それでも数の暴力には勝てずについに膝をつくときがやってきた。 「‥‥戦馬鹿共の最期を精々語り継げ」 一瞬の隙に敵の刀を奪うと、それを自身の胸に深々と突き刺したのであった。 かつて教会であっただろう廃墟にて、ジルベリア全土を恐怖させた騎士は命を落としたのだった。 崩れそうな教会の塔の鐘が鳴り響く中、語り継がれる物語がまた一つ生まれたのである。 ●仲間との物語 「いつから、こんな事になってしまったのでしょうね」 余りに強すぎる力、それは恐怖される。そんなこと、知っていたはずなのに‥‥ 英雄たる開拓者の力、それは常軌を逸していたようだ。 朝比奈 空(ia0086)は、精霊力を行使する技術を追求し、果てに自身を精霊化する技を身につけた。 眼に見えるほど渦を巻く精霊の力は、触れるだけでアヤカシを消し去る。 怪我を癒そうと思えば、失った部位すら再生し、振るう術は簡単に山を消し飛ばす威力。 強すぎる力は恐怖され、彼女は危険な存在として負われる日々となったのであった。 負われながらも増していく力、そしてある日、彼女は自身の存在が完全に精霊化しつつあることに気付いた。 思い返すのはかつての友のこと、そんな彼女の耳に風の噂が。 「‥‥お前らが勝手な思いを俺の背に乗せるなら、俺が勝手に捨てても文句は言わせねぇ」 英雄としてかつて朝比奈と一緒に戦った酒々井 統真(ia0893)は、一つの依頼を聞いてそう言った。 依頼内容は、朝比奈の討伐だ。だが、酒々井は拒否。 手を貸して当然と宣う開拓者、彼らを酒々井はすでに仲間と感じることが出来なくなっていた。 結果、彼は開拓者達を全て倒し、反旗を翻した。 崩震脚一発で家屋数棟を倒壊させ、行方をくらました酒々井。その話は遠く朝比奈の元に届いたとか。 「‥‥やっぱり」 朝比奈は酒々井が人類を裏切ったことをしり、ふっと微笑んで。 しかし、彼女に残された時間はもう無かった。精霊となり、光と化しながら最後に小さく 「‥‥‥さようなら」 そう儚い笑顔を浮かべながら、朝比奈は消えていったのだった。 そして酒々井は。 「おーおー、大層な戦力だ。一暴れに丁度いい」 かつて大アヤカシすら屠った英雄は、初めて全力で拳を振るった。 「英雄視までされた力を葛藤なく振るえるのが人相手ってのは、皮肉なもんだが‥‥遠慮は、しねぇ」 拳風だけで数十人を倒し崩震脚は岩盤すら砕く。連打でアーマーを砕き、ただ一人で万軍を倒す酒々井。 討伐軍を全部倒し、ただ戦場でたたずんでいる彼女のところに現れたのは、顔見知りであった。 「やれやれ、英雄の末路は破滅がお約束なのか?」 見据える相手はベルナデット東條(ib5223)、その相手にベルと酒々井は呼びかけながら。 「ま、こういう救いがない感じも踏み外した奴らしくていいじゃねぇか」 そう告げて構えを取るのだった。 ベルナデット東條、彼女は大切な人の命を奪われてしまったときに声を聞いたのだ。 『君はアヤカシの呪いで幻惑を見ているんだ。今呪いを解くよ。さぁ、今こそ立ち上がり、敵を倒すんだ!』 そして記憶と共に失われていた左目は開き、代わりに右目が見えなくなった。 見えるのは新しい世界、今度こそ彼女は大切な人を守らねばならないと強く決意して刀を取ったのだ。 彼女が行く先には、アヤカシの姿ばかり。否、それはアヤカシに見える人間であった。 だが、彼女に彼らの声は届かない。 「来い‥‥貴様らの血で、この地を真紅に染めてやる!」 居合一閃であらゆるものを屠りつつ、彼女はただ一人その地獄をすすむのだった。 そして、たどり着いたのは酒々井のもとだった。 「まだいたのか‥‥消し去ってやる!」 居合の神技と拳脚の絶技の交錯。お互い致命の一撃を何度も繰り返し、決死の戦いは続いた。 だが、とうとう斃れたのは酒々井だ。神速の居合が酒々井を深々と切り裂いた。 血を吐く酒々井、その血を浴びてヴェルナデットは顔を拭えば、初めて見えなかった右目が開く。そして、 「‥‥酒々井殿‥‥? あ‥‥わ、ワタシ」 初めて、相手が大切な友だと気付くのだった。 「悪ぃな、ベル。お前も堕ちちまったのを良い事に、勝手な幕引きに使っちまって‥‥」 血の海に沈みながら、素直で正しかったお前に、戻してやれなくてと呟く酒々井の声は届かず。 「そうか‥‥私、アヤカシになって‥‥あは、アハハハハ!!」 そして高らかに哄笑するヴェルナデットは、初めて両方が見えるようになった眼から血の涙をこぼし。 いつまでも笑っているのであった。 ●人類の黄昏 そんな人々の惨状を見ながら、ただただ妖艶に微笑む女が一人。 「ふふ‥‥人間達が慌てふためいているようだね」 アヤカシ達の手を患わせずとも、人々は自滅するように相争っていた。 それを満足げに見るのは無貌餓衣の眷属と化した浅井 灰音(ia7439)だ。 全身を覆う怪しげな紋章と蒼い肌は彼女が人ではない証。そんな彼女の前には一人の元英雄が立っていた。 「よぉ、灰音の姐さん。報酬分にゃまだちいと足りねえが、あと2、300人は殺しとこうかねえ?」 けらけらと笑うのは猪 雷梅(ib5411)だった。 彼女もかつては英雄と呼ばれた砲術士。だが濡れ衣で処刑されかけた彼女にはもう居場所が無かった。 「英雄なんて呼ばれて、少しはマシな人間になれたと思ってた‥‥ははは!」 刑場の人間を全て倒し脱走した彼女は高くわらって。 (俺が、あの人みたいになれるわけねえじゃねえかよ) そんな言葉は飲み込んだまま、彼女はアヤカシの手先となった浅井の依頼に応えているのだ。 かつては山賊だった猪。山中での戦闘はお手の物。 「遠路はるばるご苦労さん! ‥‥さようなら、だ」 銃を手にあらゆる敵を撃ち倒していく猪、もう彼女を止める術は無かったのである。 だが、ある日灰音の元にとある開拓者の一団がやってきた。 倒そうかと言う猪を制して、迎撃する灰音。どうやら敵とは顔見知りのようだ。 あっという間に一人を残して灰音は開拓者を全滅させると、 「誰かと思えば‥‥貴方だったんだ」 そう声をかけるのだった。 「正気に戻って、だって? 私は至って正気だよ」 相手をなぶりながら応える灰音はとうとうその開拓者を一刀のもとに倒し、だがその骸を抱えると、 「お休みなさい、と言いたいところだけど、このまま死体として腐らせるのももったいないね‥‥」 そう言ってその場を後にする灰音。どうやら主にその力を授けて貰い眷属とするようだ。 「さてと‥‥雷梅さん、後は任せたよ? ふふ‥‥あははははっ」 その後ろ姿を見て首を振る猪。 「はっ‥‥化け物の考えてる事ぁ、よく分からねぇな」 ただそう呟いて、猪は再び戦場へと戻るのだった。 「おらあ! 止めてんじゃねえよ! その程度で、俺を殺せると思ってんのかあぁ!」 吼える猪。彼女は開拓者の罠にはまり死地にあった。だが、彼女は暴れ続けていた。 英雄級の開拓者の攻撃すらしのぎ逆襲する猪、しかし罠は卑劣で、さらに灰音は不在だ。 ついには片腕を失い足を打ち抜かれて地に這うのだった。 (ほら見ろ。やっぱり俺は、こういう生き方しかできねえ‥‥あぁ、でも。もしもアンタが‥‥生きてたなら) 走馬灯の様に、主の顔を幻視しつつ、猪は手を伸ばそうとした。 だがその手はもう無い。それがおかしくて笑いながら。 (‥‥あのまま一緒に‥‥居られたなら‥‥きっと) 消えゆく最後の吐息。そんな彼女のもとに足音が。 それは開拓者のものだったのか、それとも灰音のものだったのだろうか。 だが、悪夢はこれにて終わり。春の夜の夢はこれにて幕引きである。 |