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■オープニング本文 その日、まだ少々肌寒い春の朝方。 受付の青年は久々に武天芳野の綾風楼に呼び出しを受けてやって来てました。 「おお、来たか」 「お久し振りです、えぇと、今日は‥‥」 「あぁ、漸くに時間が出来てな、ちょうど良い機会だ、花見でもしようと思うてな」 少しだけ疲れた様子ではあるものの、穏やかな微笑を浮かべていうのは東郷実将、傍らに控えるのは芳野領主代行の伊住穂澄です。 「ちと暫く忙しくてな、ようやっと酒の一つも呑むようになってな」 笑みを浮かべていう実将に小さく溜息をついてから穂澄は口を開いて。 「本日お呼びしたのは、この芳野の桜祭りにおいて、今年は開拓者の方もお誘いして賑やかに執り行おうとおじ 様に具申いたしまして」 「では、ギルドにお祭りに来る方を募集という感じですか? 桜のって言うと、毎年のあれですか?」 「ええ、芳野で毎年この時期にやっている、桜祭りです」 そう言って微か笑むと実将へと目を向ける穂澄。 「町中では川縁の桜の下で宴を開いたり出店があったりと、それなりに賑わうもんだが、確かに開拓者などがいれば、そうそう馬鹿な真似をする奴ぁ出ねぇからな」 こちらとしても手間が省ける、と笑って実将が言うと、穂澄は改めて利諒へと向き直ります。 「祭りの期間中、私たちはこちらの綾風楼に詰めています。一応祭りの期間、こちらの楼はある程度なら出入りは自由になっていますので‥‥」 穂澄の言葉に頷きながら、利諒は依頼書へと筆を走らせるのでした。 「‥‥そういえば、桜の祭りの期間は、今年も花街がにぎわう様だな」 利諒がギルドに戻ってきて、依頼を張り出していれば、手伝ってくれていた職員の庄堂巌がふと思い出したように言いました。 芳野の街は、商業の街として発展しているのですが、同時に非常に立派な花町があることでも知られています。 春の祭典である桜祭りにあわせて、花町は普段以上に華やかな催し物を開くとのことで。 「たまにはそういうところにいくのもいいんじゃないか。男があがるぞ?」 「‥‥僕は、花街よりも桜餅のほうがいいですね」 「はは、やっぱり利諒は花より団子だな!」 庄堂の言葉に、利諒はおせんべいをかじりながらそういったので、庄堂は大いに笑ったのでした。 |
■参加者一覧 / 無月 幻十郎(ia0102) / 劉 天藍(ia0293) / 鴇ノ宮 風葉(ia0799) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 御樹青嵐(ia1669) / 弖志峰 直羽(ia1884) / ルオウ(ia2445) / 黎乃壬弥(ia3249) / ブラッディ・D(ia6200) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 和奏(ia8807) / カジャ・ハイダル(ia9018) / 滋藤 柾鷹(ia9130) / 霧先 時雨(ia9845) / ユリア・ソル(ia9996) / シリル・ロルカ(ib0014) / ニクス・ソル(ib0444) / アリシア・ヴェーラー(ib0809) / リア・コーンウォール(ib2667) / シータル・ラートリー(ib4533) / ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918) / 仙堂 丈二(ib6269) / LIONHEART(ib6556) |
■リプレイ本文 ●華やかなりし祭の日 「よっ、姐さん方、器量よし!」 からからと笑いながら酒を傾ける男は無月 幻十郎(ia0102)だ。 彼はどうやらこの芳野の華やかなお祭りをめいっぱい楽しんでいるようで。 「こうやって呑む酒も美味いねぇ〜」 上機嫌に酒を傾ける無月、転がる大徳利の数はかなりのもの、かなりの酒豪のようだ。 その飲みっぷりにもう一杯と声が飛べば、肴を摘みつつさらに杯を煽り。 余興をと言われれば、横笛を披露する無月。どうやら彼は、宴の夜の楽しみ方を心得ているようであった。 といっても、花街の楽しみ方は人それぞれ。 (華やかだけど‥‥本来の異義を考えるとやっぱり嫌かも‥‥) ふらりと芳野の往来を進みながらそう考えているのは礼野 真夢紀(ia1144)だ。 栄えた芳野の中で花街が占める区域はなかなかに大きく、ちょっとした興味でやってきたようだ。 と、ぼんやり考えながら歩いていた礼野は、向かいから歩いてきていた新造姿の女の子と正面衝突。 「ご、ごめんなさいごめんなさい! えとえと、怪我とかありませんか?」 「わっ、びっくりしたー。うん、大丈夫だよ」 にかっと笑う礼野よりちょっと年上のその女の子、お詫びと礼野がご飯を奢ると言えば、 「大丈夫大丈夫、でも折角ならうちの店においでよ」 と誘う女の子。今日はいつもと違ってお酒とご飯を振る舞ってるからと誘って。そして道すがら、 「‥‥へー、真夢紀ちゃんは開拓者なんだ。最近、活躍してるんだってね」 と明るく話すその少女。そして到着した店は、街一番の女郎屋と評判の桜花楼であった。 礼野はびっくりして、ここで働いてるんだと尋ねれば、 「んー、働いてるというか、わたしはここで育ったんだよ」 そういって、店を紹介する桜花楼の新造であった。 そんな風に盛り上がる花街の中心地近くで、開拓者達の催しだとして賑やかな一角があった。 「‥‥あ、表にでねぇのかって? 俺は裏方だけで十分だ。そら、そっちの皿表に持っていきな」 とある遊女屋を居抜きで丸ごと借りた開拓者達の集団があった。 采配を振るっててきぱき働いているのは仙堂 丈二(ib6269)だ。 「ったく、オレが準備しておかなきゃどうなってたんだか。遊女やんのはすげぇ大変なんだぞ‥‥」 ぶちぶちと言いつつ、遊廓を借りたり調理場で料理をしたりと八面六臂の大活躍。 今日ばかりは、開拓者が運営するという趣の遊女屋、銘は「風世花」だとか。 「あによ、折角綺麗な桜と綺麗な女の子がいるってんだから、もう少し楽しそーな顔しなさいよね?」 お茶と和菓子を手に、他のお客のお酌をしているのは鴇ノ宮 風葉(ia0799)だ。 小柄で細身な彼女、見たところお手伝いといった様子だが、実は風世花を運営する風世花団の団長だとか。 だぼっと着崩した格好で、花魁と言うより元気なお嬢さんといった風情だ。 そんな彼女のお仕事は、お客の話し相手。主にやってくる開拓者のお客たちの相手だとかで。 「ところで、なんで遊廓なんてやってみようとおもったんでい?」 ふらりとやってきていた他の開拓者の質問を聞いて、 「ん? なんとなく面白そうだったから」 けろっと応えた鴇ノ宮だったとか。 「‥‥だから俺は15歳なの! 酒はだいじょうぶな歳なんだって!」 ぼく、お酒大丈夫? と興味本位で来た他の遊女屋のお姉さんにからかわれているのはルオウ(ia2445)だ。 遊女屋がなんだか分かってないようだが風世花のお手伝いをしていて。 「うー‥‥結構むずかしいなー‥‥」 接客をしろとの団長の指示で頑張ってはいるものの、苦戦中でお客のお姉さん方にからかわれているとか。 「まぁ‥‥遊び半分、商売半分、折角の宴なら自分も楽しまなきゃ損ってな」 こちらは黒に赤い椿が映える着物で接客中のブラッディ・D(ia6200)。 色っぽくお酌をしている姿はなかなか好評のようであった。 「おイタのやりすぎはダメ、絶対。問題起こすなら退場だぜ、お客さん?」 といっても歴戦の開拓者だ、ひとにらみでちょっと調子に乗った酔漢も大人しくなるもので。 「‥‥鴇ちゃんには、おさわり禁止なのですよ?」 「ほら、俺が大人しくさせたからネプはも刀を抜こうとしない」 危うく客前で刀を抜こうとしていたネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)をブラッディがすっと止めたり。 「はぅ♪」 慌てて刀をしまうネプ、ちょいと黒いなにかが漏れた気がしたがまぁ、気にしない。 実は男だが、ネプも遊女の出で立ちで、彼女の鴇ノ宮に近寄る男を警戒しつつ接客しているのだった。 「‥…はい? 私、ですか?」 そしてこちらは鎧姿でも侍女服姿でもなく、遊女姿のアリシア・ヴェーラー(ib0809)だ。 どうやらご指名のようで、にっこり微笑んでから客の要望に応えたとか。 賑やかな、開拓者の遊廓。期間限定ながらなかなか繁盛しているようで、仙堂はきりきり舞いであった。 ●密やかなりし恋の夜 「何かと危ない場所も多いし、一緒にいてくれるだろうか?」 「まあ!? 危険がありますのね。では、ご一緒させてくださいまし」 ぽやっとした雰囲気のシータル・ラートリー(ib4533)は、リア・コーンウォール(ib2667)に心配されて。 夕暮れ時の芳野の街を二人で散策中であった。 確かに遊女屋のある花街はそれなりに柄の悪い面々が多いようで。 しかし開拓者が多ければ自然の抑止力に。普段の治安整備も効果があったようで平和そのものであった。 そんなわけで二人は桜の綺麗なとある店先にて一緒にお酒を飲むことにしたようで。 「まるで雪のようですわね。とても素敵♪」 店先の散る桜を眺めつつ、ほうと溜息をついて言うシタール。彼女は、リアの手元の杯に酒瓶を傾けて。 「一つ、差し上げましょうか?」 「ああ、ありがとう。飲めるならば、シータル殿も一杯どうだろう?」 「ええ、ではせっかくですし私も。ありがとうございます」 のんびりと芳野の日が暮れていくのであった。 そしてゆっくりと恋人たちの愛の語らいの時間がやってくる。 「‥‥ちびすけは男装していけよ、他の男に捕まったら俺が暴れるからな」 にやりと言うカジャ・ハイダル(ia9018)の言葉にその恋人の霧先 時雨(ia9845)は、 「ふん‥‥他の女に現を抜かしたら承知しないわよ?」 ちくりとやり返すのだった。 二人はそういって、芳野の花街の宴を楽しみつつ、食事に来たようだ。 ぱっとみは男の二人連れ、だがめざとい者は居るようで。 「あら、カジャさん。最近は見かけないけど、お隣の方は‥‥あら、最近見ないのはそういうことね?」 カジャは馴染みに遊女にそう言われて。お邪魔しちゃ悪いわと退散しようとする遊女にカジャは、 「ああ、自慢しに来たんだ。いい女だろう?」 にやりと言えば、あらごちそうさまとからから笑いながら去る遊女。その背中を見つつ、 じとっと恋人の霧先に嫉妬視線で見つめられてしまうのだった。 その後、食事を終えると花街の端にある小さな宿に部屋を取ろうとする二人、 「料理は無くても、誰にも邪魔されないで、二人きりが、良いわ。今、すぐにっ!」 ぷんすかしつつ、髪を解きながら恋人の手を引く霧先に、 「別にいいが、ゆっくり寝られるとは思うなよ」 にやりと笑顔を浮かべるカジャ。いやはや、ごちそうさまである。 「‥‥二人だけとはいえ‥‥少し目のやり場に困るな」 二人だけの座敷にて、ふいと恋人から眼をそらそうとするニクス(ib0444)。 だが、恋人のユリア・ヴァル(ia9996)は、着物姿をちょっと着崩して。 ユリアは彼氏の前でとっておきの舞を踊り、2人きりの夜を楽しんでいた。 桜の舞う月夜を背景に舞えば、思わずニクスも綺麗だと呟いて、その後は恋人たちのじゃれ合いだ。 「二人っきりの時はいらないでしょ?」 そういってユリアがしなだれかかりながら、ニクスの眼鏡を取れば、 「‥‥油断しすぎ、だな」 と唇を奪うニクス。そして続くのは愛の語らい。 「どこにも行かせはしない。ボクがね」 ニクスの言葉に、ユリアが 「人よしで、へたれで、大馬鹿で‥‥でも愛してるわ、ニクス」 そう返せば、 「ボクも好きだ。ユリア。誰よりもずっと」 そう応えるニクス。全く、春の夜は恋人たちにとって思い出深い一時になるようであった。 ●華やかなりし桜花の宴 「仕事がしたいなら歌と舞を、そうでないなら休んどけ。たまには気を抜いてもいいだろうよ」 馴染みの女郎にそう声をかけてから、小さな女郎屋付きの楼閣の屋根に登るのは竜哉(ia8037)。 ふらりとやってきては、愛でるのは月と花。変わったお客だと思われてはいるようだが、 「ねえ、本当にいいの? 毎度毎度そうしてるけど」 馴染みの女郎が窓から顔を出してそう問えば、 「まー不真面目な客で悪いがね。この場所からの景色が好きなんだよ、俺」 そういって静かに呑む竜哉、そんな彼の視線の先には月と桜と、宴の夜が。 夜になってますます華やかな夜桜とともに、華やかな宴が繰り広げられているようであった。 「皆変わりなく‥‥いや、以前より奥深い艶が増したのかな」 「あら、弖志峰さんはお上手だこと。でも、そんなこといっても手は抜きませんからね」 桜花楼の座敷にて。賑やかに箸拳勝負中の一団があった。 彼らは華夜楼という古道具屋を拠点とする面々だとかで、この桜花楼とは縁があるとのこと。 新造さんや看板女郎らと賑やかに勝負しているのは弖志峰 直羽(ia1884)だ。 「さぁ、今度はこっちの勝ちだ。紅山さん、無粋な事は言わないよね?」 「あら、もちろん勝負で負けたのですから、献杯頂戴致しますわ」 そういってくっと淑やかに杯を傾ける看板女郎の紅山、それを見て弖志峰は、 「桜を纏って尚惹き立つ‥‥可憐で強き華達と、刻を共にできる幸せ、男冥利に尽きるねぇ♪」 そう褒めれば、姐さんばかりずるいと新造たちとの勝負にひっぱられていくのだった。 そしてそんな箸拳勝負を楽しみつつ、鷹揚に構えて杯を傾ける偉丈夫が一人。黎乃壬弥(ia3249)だ。 「たまにゃあこういう命の洗濯も必要だよな」 仲間たちの姿をほほえましく眺めつつ、彼も女郎の一人と箸拳勝負中。 相手は看板女郎の朝霧、後ろでこういう場には不慣れだと御樹青嵐(ia1669)が見学中で。 「いやはや、桜はいいねぇ‥‥」 「おや、黎乃様はもうお酔いでありんすか? でも、その手は食わないのでありんすよ、さあ勝負」 にっこりと微笑む朝霧にやれやれ、こう負け続きじゃあなぁと苦い笑みを浮かべて。 そして勝負、結果はまたしても黎乃の負けで。 「あーこりゃかなわん。ふむ、しかしさすがに酔ったしなぁ、そこの枕なんぞを貸してくれると」 と、にやりと笑みを浮かべた黎乃がさすのは朝霧の膝枕だったが、 「あら、黎乃様のような方にわっちの枕を貸すのは光栄でありんすが、それは勝ってからの話でござんしょ?」 にっこりとやり返される黎乃は、 「‥‥成る程、流石に洗練されてるな」 やれやれと勝負を続けるのであった。 そしてそんな様子を見ていた御樹は、遊びの決まりを承知したようで、同行の弖志峰のもとにいけば、 「青ちゃん、いざしょーぶ!」 弖志峰、大分酒が回っている様子で、それをおもしろがっている新造のお嬢さん方に是非にと頼まれて、 「いいでしょう。では勝負‥‥酔い潰してやりましょう」 細い見た目に似合わぬ酒豪っぷりにあっさりと弖志峰は潰されてしまったのだとか。 そして残るのは御樹、お酒強いのねと新造に囲まれて酌をされて呑んでいれば、 「私はいささかこのような場は慣れてはおりませんが‥‥是非とも粋な遊び方などご教授頂きたいものです」 「あら、それは箸拳とか投扇とかの話かしら? それとも、別の遊びかしら?」 「いや‥‥まぁ色々と教わるのは吝かではありませんが‥‥」 と、言ってから、きゃっきゃと盛り上がる新造たちの華やかさに焦ってしまう御樹であった。 そして宴も最高潮の盛り上がり、やっと起き出した弖志峰の標的変更、今度は劉 天藍(ia0293)だ。 「直羽、ちょっとまてー」 「あとは任せたよ天ちゃん! ‥‥くく、動揺してる動揺してる♪」 舞を踊っていた朝霧や紅山の間に劉の手を引いて飛び込んだ弖志峰は、そのまま劉を置き去りにして。 「あら、折角ですし是非ご一緒に。まずは手をこうしてこうして上から下に〜」 「そうそう、なかなか筋がよいでありんすな。お次は足をこうしてこうからひのふのみ〜でくるりと回りんし」 そして賑わいも続き、やっと逃げ出した劉は、這々の体で。 そんな彼にそっとお茶を差し出す禿が一人。まだ小さい女の子は、大丈夫? と劉を心配すれば、 「ああ、大丈夫。久しぶりだな」 そういって、劉は技を使い、小さな小鳥を式で作ってその禿を喜ばせるのだった。 そして、そんな宴席の片隅で、静かに杯を傾ける女郎と男が1人。 「‥‥久しいな、此度はこちらが厄介になる番だな。宜しく頼む」 「あら、滋藤様でしたらいつでも歓迎ですわ。頼もしいですから」 滋藤 柾鷹(ia9130)ににっこりと返すのは遊女の初雪だった。 また一緒に呑みたくなったから、初雪殿を借りていいかと桜花楼の主人である陣右衛門に尋ねれば、 「ええ、もちろんでございます。初雪も心待ちにしていたようですよ」 とのこと。故にこうして呑むことになったようで。 「‥‥滋藤様? どうなさいました。そんなに眉をしかめて‥‥」 そっと背中に手を添えて尋ねる初雪に、滋藤は儚げに散る桜と遊女を重ねて見たようで、 「‥‥仕事は辛くないか?」 ぽつりとそう尋ねる滋藤の言葉にこもる思いをしっかりと理解した様子の初雪。 ふっと明るく笑みを浮かべるとそっと手を取って、 「心配して下さってありがとうございます。私たちはそうして想って下さる方がいればこそ‥‥」 そうしてふっと窓の外の桜を眺めて、 「こうして華として咲くことも出来るのです。それに儚い桜も素敵ですが、我々は散ったりしませんから」 そういいながら体を寄せて、そっと酒杯を捧げる初雪であった。 心配するほど情が沸いてしまった滋藤だが、対する初雪もそれ以上にそれが嬉しいようで。 賑やかに暮れゆく春の夜は、彼女にとっても楽しい夜となったのだった。 夜更け、小さく響く楽の音があった。シリル・ロルカ(ib0014)の奏でる音色だ。 日中は、宴の輪の中心で、華やかな曲からしっとり穏やかな曲まで。雰囲気に合わせて数々奏でていて。 だが、日が落ちて。宴に彩りを加えてくれたお礼だと用意された桜花楼の人気の無い部屋に彼はいた。 奏でるのは哀桜笛、静かな音色が紡ぐ夜想曲はもの悲しく。 静かに更けていく宴の夜に彩りを加えるのだった。 |