無人島の怪
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/15 21:21



■オープニング本文

 貴方は偶然その無人島にやってきていた。
 修行の途中、ちょっとした息抜き、たまたま聞いた噂に引かれて‥‥理由は人それぞれ。
 たまたま顔を合わせた8名の開拓者、これも奇縁と無人島で一晩を明かすことにしたようで。
 幸い、人は住んでいないものの、かつてこの島で海苔作りに使われていた小屋がある。
 まだ夜は肌寒い小さな無人島、貴方たち一行は小屋で火を熾して夜を明かすことにして。
 それまでの冒険の話、この島にまつわる奇妙な噂、そんな話が盛り上がる中、1人がふと気付いた。
 それは、不気味な静けさだ。
 そろそろ夜が明けるこの時間になれば、白んだ空に鳥の歌が響くはず。
 だが、この島は静かすぎる。
 打ち寄せる波音も何処か不気味で、意識の底に淀むような不協和音を響かせて。
 空気も音が広がるのを邪魔するように、どこかねっとりと肌にまとわりつく寒さを帯びていた。
 そんな中、みるみるうちに視界を埋める朝靄。
 数歩先も見えない濃密な朝靄の中、初めて貴方たち開拓者は奇妙な音を聞いた。
 ずるずると重そうに何かを引きずる水っぽい音と、ぺたりぺたりと岩肌に触れる気味悪い濡れた音。
 耳にするだけで、気持ち悪さを感じるような湿った重たい音が響いたのだ。
 同時に空気に混じるのは生臭い匂い。
 魚のようでもあり、蛙のようでもあり。吐き気を催す不快な臭気が辺り一帯に漂ったのである。

 貴方たちはこの島からの脱出を決意した。
 まだ朝早く朝靄に視界を遮られた中での脱出だ。
 周囲にじわりじわりと増える気配は、不気味な魚と蛙の両方のような怪しいアヤカシの姿。
 島に残された船はただ一つ。波止場に止められた船を目指して、今不気味な脱出行が始まった。

 さて、どうする?


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
ドクトル(ib0259
29歳・男・魔
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
シュネー・E(ib0332
19歳・女・騎
レティシア(ib4475
13歳・女・吟
春吹 桜花(ib5775
17歳・女・志
コトハ(ib6081
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●無人島にて
「ほー、あれが世に聞く魚人でやんすか?」
 春吹 桜花(ib5775)の言葉は明るく響く。だがそれは周囲の暗い様子を払うほどではなかった。
 朝方、集った八名の開拓者達は朝靄の中を歩むアヤカシ達の姿を見た。
 風に混じる臭気、不気味な足音、そしてアヤカシ達の上げるうめくような音。
 言葉にならない怪しい呻きは空気に満ちて、
「‥‥歌っている、の?」
 ふるりと身を震わせるシュネー・E(ib0332)。
 自らの思いつきに怯えるように我が身を抱きしめながらシュネーは身をすくめて。
 だがしかし、怯え震えているわけにはいかないのだ。
「‥‥生き残るためには進むしかないようだな」
 羅喉丸(ia0347)はそういってシュネーの肩に手を置いて励まして。
 こうして一同は、決死の脱出行に挑むことになったのである。。

 その時より半日ほど前。
 まだ日が高く昇る昼過ぎの無人島に流れ着いたのは難破したシュネーであった。
「‥‥君、大丈夫ですかな?」
「ん‥‥ここは?」
 シュネーを揺り起こしたのはドクトル(ib0259)だった。
 ギルドの記録をたどり調査に赴いていたドクトルは海岸線沿いを散策中にシュネーを発見したのだ。
「おお、無事なようですな。ここは‥‥名も無き無人島。私はちょっと調査に来た開拓者のドクトルですぞ」
 その言葉にほっと胸をなで下ろすシュネー。
「‥‥無人島‥‥でも、開拓者がいるなら不幸中の幸いだわ。島を出るのに同乗させてもらえる?」
「ええ、それはもちろん構いませんぞ。ですがもう少し調査をしたいことがありまして‥‥」
 同じく調査に来ている開拓者がいるのだとドクトルがいえば。
「おや、その女性はどうしたんだ?」
 たまたま来る途中の船で一緒になったオラース・カノーヴァ(ib0141)がひょっこりと顔をだして。
 かくかくしかじかと説明するドクトル、頷くオーラス。
「ふむ、ならば調査が終わったら一緒に戻ろうぜ。良かったなたまたま開拓者がいて」
 にっと笑みを浮かべるオラースに、やっとシュネーは安堵の息をつくのだった。

 同時刻、修行目的で島を訪れていた羅喉丸は無人島の岩場をすたすたと歩くシノビ装束姿の人物をみかけた。
 シノビは修行中のコトハ(ib6081)だ。
 妙に生物の姿が少ないのを不思議がるコトハ、羅喉丸は修行で居合わせるとは奇妙な縁だと話していれば。
「‥‥おや。どうやら我々以外にもこの島には人がいるようですね」
 聴覚に優れたコトハが気付いたのは、明るい歌声と笑い声だ。
 そちらに向かえば、にこやかに歌うレティシア(ib4475)とそれを聞く春吹桜花の姿があった。
 予想外の客に驚くレティシアだったが、2人が修行目的だと聞くと頷いて、
「そうなんですか。私はとある楽譜を求めてこの島に来たんですけど‥‥ハズレだったみたいです」
 どうやら目当ての物は手に入らなかったようで、残念がるレティシア。
 そして同行していた桜花は、ふらりと風来坊らしくこの島にやってきただけらしく。
「しかし、お二方。来しなに聞いた話では、明日以降は天気が荒れるそうでやんすよ?」
 島を離れるなら今日明日がいい、と言う桜花。
 そういうわけで、一行四名は帰ろうと決めてとりあえず波止場近くまで戻ろうとしたのだった。

 シュネーを連れたドクトルとオラースはとりあえずの拠点とした小屋に戻ってきて。
 シュネーに暖かい物をと一休みさせれば、そこにやってきたのは先ほどの四名だ。
 情報交換する一行、今丁度ドクトルやオーラスが調査のために乗ってきた船があるという。
 ならばまとまって戻るのが良いだろう、そういって一行はこの場所で夜を明かすことに決めたようだ。
 すでに日は落ちかけている。
 急いで波止場に向かっても夜の海を渡ることになるわけでそれは避けたい。
 一同の意見は一致し、静かに体を休めながら朝を待つことになったのであった。
 だが、そんな静寂を破る足音が一つ。
 慌ただしく駆けてくる男の足音は小屋までやってきて、転げ込むように中に。
 ロック・J・グリフィス(ib0293)は、なにか大事そうに手に持ったまま小屋にやってきて。
「‥‥おお、俺以外にもこの島に財宝探しに来てる人がいたんだな!」
 財宝探し? と他の面々が首をかしげる中、ロックは自分がこの島に来た目的の一端を告げるのだった。
「‥‥ふむ、伝説の船乗りの宝、とな。それで何か見付かったのか?」
「いや、それがさっぱりだ。そんな痕跡はなかった」
 羅喉丸の言葉に首をふるロック。だが、ロックは全部を語ったわけではなかった。
 彼の手にあるのは、島の裏手のほこらで見かけた怪しげな像。
 人の手による物か、さっぱりわからないが風化したその像はなにやら怪しげで曰くありげなもので。
 それをこっそり隠し持ったまま、開拓者最後の1人としてこの面々に加わるのだった。

「妙に静かすぎると思いませんか?」
 最初に異変に気付いたのはコトハであった。夜が更け、明け方が近づいてきつつある時間。
 皆は、海の近いこの場所、日が昇ってくれば気温も上がり、鳥たちの声が聞こえるだろうと思っていた。
 だが、代わりに聞こえるのは変わらぬ潮騒と、遙か遠方から響く微かな音。
 うめくような、唱うような怪しげな音と、そして濃すぎる霧。
 そこで開拓者達はやっと、彼らが非常に危険な状況にあるということに気がついたのだった。
 そして、物語は冒頭に戻る。

●逃走
「一体、こいつらは何者なんだ?!」
 ロックのハーフムーンスマッシュで包囲を切り開き、一行はとりあえず小屋から逃げ出した。
 向かうは船がある波止場。だが、どこもかしこも怪しげなアヤカシの姿が。
「‥‥この音、まるで耳の奧に染みこんで来るみたい‥‥不安や畏怖を掻き立てるような音だけど‥‥」
 何処か惹きつけられる、という言葉を飲み込んでレティシアは走るのだった。
 レティシアは吟遊詩人だ。音に鋭敏な感覚を持っているがために、なおさら響く音に恐怖を感じるのだった。
 深い濃霧の中、先頭をすすむのは羅喉丸やコトハだ。
「何者かの足音が複数近付いてきております‥‥あちらに迂回しましょう」
 コトハはアヤカシに見付からないように道を探し、不意の遭遇であれば羅喉丸が蹴散らす。
 だが、まさしく五里霧中の状況で一同の疲労はます一方だ。
「このアヤカシをカエルギョと呼びやす! 蛙と魚でカエルギョ〜♪」
 そんな中でも明るく先を行く春吹、周辺を警戒する彼女はふと海岸沿いに海草を見つけた。
「‥‥これだけ海草があったら海苔も沢山作れそうでやんすな〜」
 暢気な春吹だったが、それを見てドクトルは眉根を寄せて。
「観察するに、これは海草が打ち上げられているのではなく、潮が退いているだけのような気もしますな」
「ん? ということは、どういうことでやんす?」
「つまり、急がないとここは水没ですぞ」
 その言葉にさらに急ぎ始めたのは戦闘のコトハであった。
「? どうしたんですか、コトハさん」
「いえ、ごく個人的な理由で海は嫌いでございます」
 改めて、海から距離を取りつつ波止場を目指せる場所を探すコトハ。
 そんな様子を見て、魚人アヤカシを杖の攻撃で撃退しながら、オラースがはたと、
「ふむ、もしかしておまえさん、泳げないのか?」
「人には、それぞれ得手不得手というものがございます。それが個性というものでございましょう?」
「‥‥たしかにその通りだな」
 ならなおさら急がないとな、とオラースが言えば、一同は改めて急ぐのだった。

 お互いに声を掛け合い、時には軽口を叩き、なんとか一行はその正気をつなぎ止めていた。
 だが、それも限界はある。周囲は敵ばかり、巻き込まれた状況は狂気に満ちている。
 そんな中で、漂流し消耗していたシュネーが一番最初に音を上げることとなったのだ。
「‥‥くっ、数が多い‥‥それに、気味が悪い‥‥何、この感じは‥‥」
 季節は春だというのに肌寒い気温、それだけでなく霧はべったりと湿気を帯びていて不快。
 ただよう魚のような臭気もそれに拍車をかけるようで、悪寒を感じたシュネーはついに、
「‥‥来ないで‥‥ッ! 朝は来ないの? どうにかなりそわかう‥‥速く‥‥速くこの島から!!」
 思わず駆けだしてしまうシュネー。そのままはぐれてしまえば敵の餌食だ。
 だが、彼女の足を止めたのはレティシアの楽の音だった。
 響く落ち着いた曲目は「再生されし平穏」。鎮静作用のある楽曲は、辛うじてシュネーを踏みとどまらせた。
「‥‥あなた、疲れているんですよ」
 岩場に膝をついたシュネーに一行は追いついて周囲を警戒、その間レティシアはシュネーの手を取って。
「なんとしても、生きて帰りましょう」
「ええ‥‥生きて‥‥必ず生きて皆でこの島を‥‥ッ!」
 落ち着きを取り戻したシュネーは再び剣を取って、冷静さを取り戻して一同は再びすすむのだった。

「‥‥そういえば来る時にあった人に魔除けの呪文を教えてもらったんだったな。確か、いあいあはす‥‥」
 ふと先頭を進んでいた羅喉丸はそんなことを思い出して。といってもそんなことにこだわる彼ではない。
「いや、呪文に頼るとは情けない。困難が目の前に立ち塞がるのなら我が双拳で砕いて進むまでだ」
 その言葉通り、彼らは障害をたたき壊して一歩一歩波止場に近づいていった。
 だが、アヤカシの数も増える一方。
 そして、アヤカシはどうやら魚人だけではないようだった。
「わっ! いまナニかが足に絡みついたでやんす!」
 術者を守るため縦横に動いていた春吹は吃驚して刀を振って。すると斬り飛ばされたのは海草の破片だ。
「大丈夫か? ただの海草のようだが‥‥」
 とロックが言った次の瞬間、海岸線にころがっていた海草の中から、なにか海草に似たものがもち上がった。
 海草のようにくすんだ黒色をしていながらも自在に動くそれは触手だ。
 ずるぅりと這い上がりながらそれは一気に開拓者達へ向かってきて。
「っ!! みんな、走れ!!」
 慌ててロックが声をかければ、ロックと春吹は砂ごと触手を斬り飛ばして距離を取って、一気に逃走。
 開拓者一行は岩場を乗り越えて、一瞬でも速く波止場に向かうために走るのだった。

 追ってくる魚人と触手。眼前に岩場の裂け目があれば。
「足場が無いよりはマシなはずですぞ」
 ストーンウォールで足跡の足場を作るドクトルに、
「では、私が先行して手摺代わりに荒縄を張りましょう。身軽さに自信がない方は、先をお急ぎ下さいっ!」
 コトハが援護して、レティシアらとともに一気に岩場を越えて進んで。
 追いすがる触手の群は、オラースがトルネード・キリクがなぎ払い、一行はやっと波止場にやってきた。
 なんとか間に合った。あとは船に乗り込んで岸を離れればいい。
 だが、そこには先客の姿が合った。
 一見したところ、それは逃げ遅れた住人か、もしくは居合わせた船頭といったようす。
 なぜこんな時にこんな所に、そんな疑問がよぎるものの、
「‥‥羅喉丸さん、これで長い夜が明けたんですよね!」
 思わず喜びの声を上げるレティシア。だが、次の瞬間その人物の姿はぐにゃりと歪み砕けた。
 そこに現れたのは後ろから追いすがる魚人アヤカシと同じような姿ながらさらに大きなアヤカシの姿だ。
「邪魔するなら、打ち砕いて進むまでだ!」
 思わず足が止まりそうになる開拓者一行だったが羅喉丸は、ぐいとさらに踏み出して。
 強烈な踏み込みで味方から距離をとり、敵陣突入。
 そのまま、崩震脚を破軍による気力全開で発動。岩場に設けられた桟橋がひしゃげかけるほどの威力!
 アヤカシ共がはじき飛ばされ、船まであと少し。
 開拓者達は最後の希望に向かって全力であがくのだった。

「ブリザードストーム!」
 響く二つの声は、ドクトルとオラースの魔法。海面ごと凍り付かせて足止めをして。
「落ち着いて‥‥隙を見せれば数に呑まれる!」
「あっしが居合で切り抜けるでやんす!」
 落ち着きを取り戻したシュネーが陣頭指揮を執り、春吹は盾で敵を押しとどめつつ居合で反撃。
「船は確保しました! 援護いたしますので、お急ぎ下さいっ!」
 コトハが船の舫いを解きながら船を確保、次々に開拓者はとびのって、
「‥‥狂気にはそれを上回る狂気で対抗するのみ、ですっ!」
 そして、レティシアはファナッティック・ファンファーレを高らかに奏でて。
 ここぞとばかりの反撃に詰め寄っていたアヤカシの群もひるみ退いて、開拓者は一気に船に乗るのだった。
 しかし、攻撃を逃れた海草の触手が一つ、ロックの体に伸びて。
 慌てて切りつけるロック。触手は交わすものの、かすった先端が掴んだのは島で手に入れた像だ。
「‥‥まさかあいつら、これをねらって‥‥」
 動き出す船、魔術師たちの魔法で発生した風を受けて岸から離れる船、それをただみるだけのアヤカシ。
 そして、開拓者達は波間に揺れる触手とその奧に、なにか巨大な姿が‥‥。
 魚人型のアヤカシ達が上げるうなり声に合わせるように、霧の合間に見えるのは大きな影か‥‥。
 それが本当だったのか、霧に映ったただの影だったのか、それは分からない。
 混乱と恐怖の中から何とか開拓者達は生還するのだった。

●ギルドにて
「当分は波の音も聞きたくないな」
 やっとギルドまで戻ってきた一行は、報告書に忙殺されていた。
 オラースが挿絵を記せば、ドクトルは個人的に気付いた点を注釈し。
「今でも俺は、あれが一瞬の狂気の中に見た、ただの幻だとそう信じたい」
 空賊騎士ロック・J・グリフィスの署名のもとには、微かな恐れと共にそんな記述がシルされたのだった。
 出来た報告書の内容は真に迫った恐怖を物語る物であり、また確かな狂気を伝える物だった。
「‥‥読むのは構いませんが‥‥戻れなくなるかもですよ?」
 レティシアの言葉の通り、非常に注意深く扱われることになるこの度のアヤカシの報告書。
 もしかすると、次の事件も近いのかも知れない。