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■オープニング本文 空に浮く島、天儀。 しかし島といえどもその陸地は広大で、山もあれば海もある。 そして、しっかりと山があれば、そこに温泉が湧くのも道理で。 武天の中心地、此隅から一日ほど小さな街道を進んだ先に、知る人ぞ知る秘湯があった。 噂では、万病に効き、湯治のために訪れる人も少なくはないというのだが。 山間の小さな村が近くにはあるだけ、それも街道のはずれのはずれ。 そんなところで、ちょっとした騒動が持ち上がった。 秘湯の近くで鬼がでるようになったのだという。 見かけられたのは小鬼だとか。 しかし小鬼といえどもアヤカシはアヤカシ。 そんな話が広がれば、ぱたりと湯治客も来なくなるのはもちろんである。 しかし村の人間からすれば、村を訪れる湯治客が減るのもそれはそれでつらい話で。 なんとか鬼を追い払って、以前のような活気を取り戻したいと思ったわけである。 そんな経緯で開拓者に秘湯周辺の鬼を退治するように依頼がでたというわけなのだ。 さて、どうする? |
■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
那木 照日(ia0623)
16歳・男・サ
立風 双樹(ia0891)
18歳・男・志
暁(ia0968)
14歳・女・サ
斑鳩(ia1002)
19歳・女・巫
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
嵩山 薫(ia1747)
33歳・女・泰
御陵 彬(ia2096)
18歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●小鬼を追って 「また小鬼か‥‥最近は出現頻度が増しておるようじゃな」 そういうのは輝夜(ia1150)だ。 依頼の村へとやってきた開拓者達は、まず情報収集を始めていた。 村と秘湯はそれなりに近く、村人達が山の地理は知り尽くしていたので無事必要な情報は手に入ったようである。 「ありがとうございました。アヤカシへの対処は任せてください、依頼はきっちり果たしますから」 礼儀正しく頭を下げる少年は立風 双樹(ia0891)。 「やっぱり、何事もはじめが肝心‥‥聞き込みがうまくいって良かったわね」 そしてそんな若者達を見て、にっこりと微笑むのは嵩山 薫(ia1747)だった。 開拓者達はその戦闘力においては、常人を遙かに凌駕する。 だからこそ開拓者達は若い者が多くとも、アヤカシと戦うことが出来るのだ。 だが、その優れた力ゆえに驕ってしまい、情報の重要性をおろそかにする者がいるのも事実だ。 しかし、今回の開拓者達にはその心配は無かったようである。 村でじっくりと聞き込み、どこで小鬼達が目撃されているのかは調べが付いた。 そして、森の中の地理もしっかりと知る、そうした小さな積み重ねをしっかりと行ったのである。 たとえ、体力や運動能力で優れる開拓者達であろうと、山林の地形はなかなか険しいもので。 そこは、やはり村に住む人間達の知恵を借り、地の利をも得たのである。 開拓者達に万事抜かりは無い。 目指すは鬼退治、そして‥‥温泉のために。 ●分け入って山の中 「‥‥やっぱり、温泉の近くに、集まっているのでしょうか?」 村から秘湯の近くまで続く、細くて狭い山道をてこてこ歩きながら、ふとそんな問いを口にしたのは鈴梅雛(ia0116)だ。 今回の8名の中で、もっとも小柄。開拓者という過酷な職業には似つかわしくないほど、かわいらしい女の子である。 しかし、彼女もしっかりと開拓者の一員であり、自分の脚で険しい山道を登り、周囲を見回せば。 「村の人達から話を聞いたところだと、温泉の近くを流れてる渓流をすこし下った先でよく見かけられているみたいですよ」 釣りをする老人から聞きました、と応えるのは斑鳩(ia1002)だ。 彼女たち開拓者は、まず温泉近くまで山道を歩き、そこからはさらに山を分け入って渓流に下りてその周囲を探索することにしたようで。 「ふむ。さすがに人気はまるで感じられないわね」 嵩山が言うように、秘湯付近は人の気配もなく。 さらさらと近くを流れる渓流のかすかな音と、山を吹き抜ける風がざわざわと木々の梢を揺らす葉擦れの音だけが聞こえるだけで。 狭くくねった獣道のような山道を進めば、そこは細い渓流が。 山から麓にある村まで綺麗な水を運ぶ渓流なのだが、こうした水場には生物が集まるもので。 「‥‥アヤカシは、やっぱり人や生物を餌として気配をとらえて寄ってくるんですよね」 平和そうな渓流沿いを苦下りながら鈴梅がぽつりとつぶやけば、それには立風が頷き、 「うん、だからこそ、アヤカシは敵、アヤカシは奪うもの‥‥狩り尽くさないといけないんだ」 武器を帯びて戦いの場には立つには幼く見えるような彼らも開拓者なのだ。 決めた覚悟も、帯びる決意も年齢には関係なく、彼らもまたアヤカシのはびこる厳しい時代を生き抜く人々の1人なのである。 そして暫く渓流沿いを進めば左右のうっそうと茂る木々に視線を向けて。 「‥‥来た、小鬼だ‥‥」 ぽつりと、暁(ia0968)は刀に手をかけて脚を止めて。 同じように開拓者達は後衛を中心に守るように陣形をとり、いよいよ、がさがさと音を立てる藪に目を向けて。 待ち構えていればぞろぞろと飛び出してくる子供ほどに小柄で醜悪な小鬼達。 その中にはしっかりと武装しているような重武装の小鬼もいて、さらには一匹、大将格が。 ぎゃあぎゃあと何事かを大きく叫べば、小鬼達はじりじりと開拓者達へと向かってくるのだった。 群はかなりの数、小鬼一匹一匹は弱いといえども、見れば開拓者達の倍以上の数がいるようだったのだが‥‥。 たん、地面を踏みしめる力強い足音。 最初に動いたのは、守られるように陣形の中心に立つ3名の巫女だった。 御陵 彬(ia2096)は、普段なら柔らかな微笑みを浮かべている顔ををきりりと引き締めて。 伴奏もなく、鬼がじりじりと迫る中でも彼女らの舞は揺るがずに、ゆっくりと動き。 ぱしん、布が風をはらみ鳴り響き。斑鳩は泰国の衣装に身を包み、すらりと伸びた手足を舞わせて。 そして、ふわり。鈴梅は舞手のために作られた扇を手に、軽やかに舞い。 「‥‥応援しますので、頑張って下さい!」 三者三様の神楽舞が開拓者達の背中を押して、いよいよ戦いは始まった。 ●圧倒的な‥‥ 「アヤカシに前口上など必要ないわ――無へと帰しなさい!」 斑鳩の護衛をしつつ、拳を振るう嵩山。 手甲の一撃は軽やかに、だが力強く小柄な小鬼達を打ち据えてはじき飛ばして。 他の開拓者を力づける巫女達の舞とも違い、泰拳士の舞は敵を攪乱し打ち倒すための舞で。 粗末な棍棒を振るう小鬼の一撃を、とんと手甲で弾きながら、精妙な歩法で間合いを詰め。 交差しながら、脚を払いつつの掌打の一撃、全てが連関した一瞬の動き。 小鬼は空中で一回転し、なすすべもなく地面にたたきつけられるのだった。 「ここは‥‥通しませんよ‥‥」 しゃらんと珠刀を抜いた那木 照日(ia0623)は、ゆっくりと構えて。 女性と見まごうばかりの容姿に、風に踊るつややかな黒髪。 しかし、地に着くほど下段に構えると力をためて、地を裂く衝撃波を放つ地断撃を豪快に放った。 するとその一撃は距離を測っていた先頭の小鬼へと向かい、強烈な衝撃波がその小鬼を打ちのめす。 「貴様らを生かしておく道理は無い。一匹たりとて逃さない。全て此処で切り捨てる!」 裂帛の気合いと共に、舞を舞う鈴梅を守る位置に立つのは立風。 まだ幼さが残ると言っても良い年齢だろうが、その気迫はすさまじいものがあり。 「‥‥誰も奪わせない。お前達なんかに、これ以上唯の1人だって‥‥」 攻め寄る小鬼を刀で迎え撃ちながら、立風の言葉は強く響き、他の開拓者達も一歩も退かず応戦するのであった。 重武装の小鬼の中には、どこから手に入れたのか、粗末な武器でしっかりと武装しているものもいて。 数に任せて、なんの技術もなく、ただただ刀や武器を振るってくるのだが、如何せん数が多い。 一対一以上の数で襲いかかられれば、どうしても死角は生まれてしまうもので。 重武装の小鬼が振るった刀の一撃が、浅く暁の胴に当たってしまった。 「あっ! 暁さん!」 斑鳩が舞いつつも、思わず回復が必要かと声をかけるが、 「‥‥ん、この程度なら大丈夫。倒れは、しない」 自分を攻撃した重武装の小鬼に、お返しとばかりに一撃を入れ、さらには力任せに振るう攻撃で小鬼たちをなぎ倒し。 「僕らはこの仕事を続けていく。お前で終わりじゃ、ないんだ」 小鬼達を圧倒する暁であった。 「我が愛刀、「獅子刀」の錆になりたい者は掛かって来るがよい」 輝夜は小柄ながらも、しっかと珠刀を構える様子は凛と様になっていて。 数を減じてきた小鬼達の群に、いよいよ開拓者たちは切り込んでいけば、すでに戦いの趨勢は決まっていた。 なんだか妙に食欲をそそる名前の愛刀を手に、小鬼を倒す輝夜。 獣が獲物を追い立てるように、暁色の髪をなびかせて戦場を疾駆する暁。 そして疾風脚で間合いを詰めて、逃げようとした臆病な小鬼を打ち据える嵩山。 決死の抵抗を見せた小鬼の反撃を、危なげもなくさばき、炎をまとった一閃で倒す立風。 そして、最後まで配下を盾にしていた小鬼達の大将格、赤小鬼の前には那木。 「あなたの相手、は‥‥私が、することに、なりました‥‥」 ぴたりと刀を構える那木、逃げ出す赤小鬼。 その眼前に回り込んだのは暁。大上段から繰り出した強烈な一撃は赤小鬼をとらえるものの鎧に阻まれるのだが。 すでに、小鬼達の頭の命運は尽きていた。 「‥‥これで、終わりです‥‥」 強烈な一閃、地断撃が赤小鬼をとらえれば、小鬼は瘴気へと化して地に溶け消えて。 後に残るのは、小鬼達の粗末な装備だけであった。 「‥‥小鬼退治が終わったから、温泉に入っても良いのですよね?」 鈴梅の言葉に、みんなはふっと気を緩め、武器を納めて村への帰路につくのだった。 ●念願の温泉?! もちろん開拓者達に抜かりは無く、その後逃げ延びた小鬼が居ないか周囲の探索は行ったようで。 心眼を使う立風を中心に、のんびりと温泉近くの調査をすれば、無事に温泉のあたりは安全だと判明して。 その間を利用して、しばらく使われてなかった温泉は、村の人達の手によって、綺麗に片付けられたのだった。 暫くぶりの温泉、その一番湯は、もちろん功労者である開拓者達のために、と村の好意で開放された。 「フフ‥‥開拓者になったおかげで、また再び此処との縁が出来るなんてね」 手にした杯には、馥郁たる香りを漂わせる酒。 疲れた体を癒すのは、お湯の温もりか酒の温もりか、のんびりと酔いを楽しむのは嵩山だ。 夕暮れ過ぎて、山間の秘湯には、遠くからぼんやりと照らす灯りと輝く月だけが明るく。 いくつかの仕切りや岩で区切られた温泉の一番広い浴場では、開拓者の女性陣がのんびりと羽を伸ばしていた。 ひろびろとした温泉には、綺麗な湯がたたえられ、邪魔するものは誰もいない。 「貴女も少しいかが?」 「あ、いただきます‥‥」 嵩山が勧めれば、それを受け取る御陵、ほにゃっと笑顔を浮かべて、お酒を楽しんで。 一方ほかの面々はというと。 「‥‥たくさん動いた後なので、気持ち良いです」 「そうですね‥‥でも、鈴梅さん。なんでその岩と岩の隙間にすっぽり収まってるの?」 狭いところが落ち着くらしい鈴梅を見て、可愛いと笑うのは斑鳩だ。 「背中流して上げましょうか?」 「あ、あの‥‥お願いします」 と、ほのぼののんびりな様子なのであった。 だがしかし、お湯を前に洗い場でうろうろと。まるで水が嫌いだけど、どうしようと悩む猫のような子が1人。 「あ‥‥暁様、どうかなさいました?」 お酒も入って、にこにこと微笑んでいた御陵が気づいたのは、そろそろと逃げようとしていた暁だった。 「‥‥お湯は、苦手。身体から何か抜けていくような、気がする‥‥」 と、言えば、なるほど戦場に身を置くものの心構えなのだろうか、とみんなは思ったようだが。 「それに、大丈夫。三日ぶりに体洗ったから‥‥」 暁の言葉に、ぴしっとちょっと空気が変わって、ちょっと酒乱気味の御陵やらお姉さん気分の嵩山に掴まったりしたとかしないとか。 ともあれ、みんなは思い思いの楽しみ方をして‥‥。 しかし、まだ姿が無いものも数名。 「‥‥‥‥いや、ちょっとほこりっぽいですけど‥‥まあ、仕方ないですよね‥‥」 秘湯周辺で健気にも警戒というか見回りに当たっているのは立風だ。 女性陣が多いので、彼は遠慮してしまったようで、きっと女性陣が出た後は温泉に入る機会もあるのだろうが、今はじっと我慢の子。 しかし、 「ほら、暁様、ちゃんと髪の毛を洗いませんと、傷んでしまいますよ?」 「うー、なんだか力が抜けていく気がす、る−‥‥」 「ふう。秘湯で呑む酒はまた格別ね‥‥」 御陵と暁がどたばたとしていたり、嵩山がくつろいでいる声が聞こえたり。 「やっぱり運動した後は、温泉気持ちいいわね」 「はい、そうですね‥‥あ、今度は私が背中を‥‥」 鈴梅と斑鳩の声が聞こえたり。 そして、後1人。 「‥‥ふむ、さすが秘湯、というだけはあるようじゃな‥‥」 くつろぐ輝夜の声、だが、次の瞬間、 「‥‥む、何奴じゃ!」 なぜか持ち込んでいた葱を一閃、温泉の周囲の壁を越えて、飛んでいった葱は 「ああ、修行がたりません‥‥ひゃっ!!」 女性陣の声に、年頃の男の子としていろいろ懊悩していた立風の襟元にすぽっと入り込んだとか。 そういえば、後1人いたのだが‥‥。 流れる黒髪、小柄で細身な体、そして神秘的な橙の瞳。 那木は、女性陣とは区切られた小さな別のお湯にひとりでのんびりと使っていた。 なぜなら男性だからである。 ‥‥良く考えたら、こっちになら立風も一緒に入れたのではないだろうか。 それはともかく。 「あわ‥‥次は‥‥祀と二人で‥‥」 月の下、雰囲気の良い温泉を見て、なにやら計画があるようで。 その後の言葉は聞こえなかったものの、彼は彼なりに立風と同じように年頃の悩みがあるようだ。 こうして、開拓者一行は暫くの間、温泉をたっぷりと心置きなく楽しめたようで。 依頼は無事成功、秘湯も無事に再び賑わいを見せるのだった。 |