賭場潰し
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/07 17:26



■オープニング本文

「‥‥最近、堅気の皆様に迷惑をかけている不届きな輩がいましてねぇ‥‥」
 そうギルドにやってきて切り出したのは身なりの良いご老人。
 60代ほどのそのご老人は、聞けば芳野に居を構えるご隠居さんとか。
 それなりに名のある芳池酒店という酒屋を始め、手広く商売をしている豪商だという話。
「芳野は華やかな町ですから、少々ハメを外してしまうことは無いとは言えませんな」
 そういってぽんと煙草盆に煙管の灰を落として続ける老人。
「ですが、それも限度がありまさぁな。賭け事とはいえ、そこにはそれ相応の決まりがある‥‥」
 そういって、老人が部下に目配せをすれば、じゃらりと置かれる袱紗に包まれたお金。
「‥‥決まりを守れない迷惑な賭場。一つ潰してくださいやせんかね?」
 にっこりと微笑む好々爺然としたその老人。しかしその目は鋭い光を放っているのだった。

 後日、ギルドには依頼が張り出された。
 依頼の内容は単純明快、とある賭場をそこを運営してる人間もろともたたきつぶすこと。
 なお、老人が依頼を持ち込んだときに、すでにそこに対する調査ができあがっていたとのこと。
 情報によれば、その賭場はイカサマだらけとか。
 普通では勝てず、たとえ幸運にも勝てたとしても、脅されて身ぐるみ持って行かれるとか。
 志体持ちの構成員が結構な数いるらしく、暴力に任せて人を連れてきて金を奪うことも多々あるという。
 ギルドの調査でも、この賭場は完全に真っ黒と判明。
 被害を訴える声も多いとのことで、老人の依頼は無事こうして依頼として火の目を見たのである。
 おおっぴらではないものの、芳野の伊住穂澄領主代行も依頼については承知してるという話。
 開拓者は、それぞれこの賭場に乗り込み、詐欺師どもを捕縛するなり叩き斬るなりして良い模様である。

 さて、どうする?


■参加者一覧
静月千歳(ia0048
22歳・女・陰
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
紫焔 遊羽(ia1017
21歳・女・巫
荒屋敷(ia3801
17歳・男・サ
長渡 昴(ib0310
18歳・女・砲
モハメド・アルハムディ(ib1210
18歳・男・吟
鉄龍(ib3794
27歳・男・騎
猪 雷梅(ib5411
25歳・女・砲


■リプレイ本文


 賭場が開くのは決まって夕刻。その日の仕事を終えた人間が帰路につく頃に丁度その賭場は開くのだ。
 賭場というものは看板があるわけでは無い。
 近くの酒場や、ちょっとした盛り場、人づての噂で初めて賭場の話を伝え聞くのである。
 それは今回依頼に関わるイカサマ賭場も同じだ。
 そしてその後はおきまりの話。
 最初の数回はちょこちょこ買ったりとんとんだったりと客は楽しい思いをするわけだ。
 だが、徐々に客は勝てなくなっていく。
 そして、気付けばいつの間にか金が足りなくなって、どうにかしようにも後の祭り。
 あとは豹変した賭場の男達に、暴力で脅され不幸なお話の始まり、となるわけで‥‥。

 悪事を重ねた賭場に裁きを。
 そんな依頼を受けた開拓者たちは、まだ早い時間の内からその準備に余念がないようだった。
「やはり賭け事で身を滅ぼす人はどの国でも多いようですね。ルアバはルアバであることが良いのです」
 異国生まれの開拓者、モハメド・アルハムディ(ib1210)はそう言って。
 聞けば彼の氏族では賭け事は禁忌だとか。
 そんな彼にとって賭け事を行う上に人を不幸にする賭場はどう映っているのだろうか?
「アルハムディさん、分かりました。どうやらあの場所は成金商人の別宅として建てられたようです」
 物思いにふけっていたモハメドに声をかけたのは静月千歳(ia0048)だ。
 彼女は、賭場にほど近い古びた店で、その賭場の建物の来歴を聞いてきたよう。
「ショクラン、ありがとう。‥‥商人の別宅ですか。となると逃げ道の一つや二つ‥‥」
「ええ、用意してあってもおかしくありませんね。すこしと探してみましょうか」
 そういって、静かに2人は目標の賭場の周りを探るのであった。
 そして数十分後。
「これはおそらく逃げ道としてあらかじめ用意されているようですね。」
「ナァム、なるほど。塀の一部が着脱式になっているのですね」
 モハメドは、私も向こうに同じような場所を見つけましたよと付け加えながらそういって。
 どうやら何カ所か逃げ出すための道を確保していたようで、2人はその仕掛けを外し封鎖して。
「賭博だけでもよからぬ事なのに、悪事を成してこうして逃げ道も用意するとはまったくハラームの極み」
「ええ、全く迷惑な輩ですね」
 そういいながら、静かに2人は役目を果たすのであった。


 夕刻。華やかな歓楽街で知られる芳野の街は今日も賑やかで、それはこの賭場の周辺も同じだ。
 そんな中を進む2人連れの姿が。
「賭場ってぇのは勝負を楽しむ場だってぇのに‥‥」
 頭一つ抜けた長身で、煙管片手に進む黒髪の美丈夫は、犬神・彼方(ia0218)だ。彼女は、
「それぇを分からない無粋な輩を懲らしめるとぉしようかぁね」
 そういってにやりと連れ合いの女性に微笑めば。
「まったくや。おいたする子は‥‥お仕置き、せなね?」
 むっと頬をふくらませて応えたのは紫焔 遊羽(ia1017)。彼女はまるで恋人のように立つ犬神を見上げ、
「ずるっこして儲けようやなんて、絶対‥‥許さへんよっ」
 そう告げるのであった。
 そんな2人が向かうのはやはり依頼の賭場だ。
 なかなかに羽振りの良い伊達男と、それにお熱のまだ若い女性という組み合わせの2人。
 2人は怪しまれることもなく賭場へ踏み込むと、ぐるりと当たりを見回すのだった。

 どうやらいま賭場では丁半博打の真っ最中。
 とりあえず賭けるための札を金を払って借りつつ、周囲を見やれば、町人や職人らしき姿がちらほら。
 それに混じって、酒臭さを周囲に振りまいて上機嫌な青年が1人。
「いやぁ、こんなべっぴんさんが来るなんて、良いトコ見つけちゃったぜ〜」
 贔屓にしようかな、とわきわき手を怪しくうごめかせている遊び人の青年は荒屋敷(ia3801)だ。
 けっこう勝っているようで、それも上機嫌に拍車をかけているようにも見えるのだが。
 実際は、こうして1人を勝たせておけば、周りも賭け事に熱が入ろうというもの。
 ますます上機嫌で、荒屋敷は賭博に熱中しているようであった。
 そしてもう1人、こちらは静かに振られる賽子を見つめている女性が1人。
 入り口で立派な長脇差を預けていたところを見るとどうやら任侠な世界の住人のようであった。
 彼女も実は開拓者の1人だ。
 長渡 昴(ib0310)は、あることを見極めるために賭け事に加わりながらも鋭い視線を向けて。
 ともかく、先ほど新しく加わった犬神と紫焔も席について、いよいよ丁半博打は盛り上がるのだった。

 そんな一同の姿を冷静に見つめる小さな姿があった。
 それは、静月の放った人魂だ。彼女は最後の打ち合わせをしながら、場にいる人数を数えていた。
「ひのふのみの‥‥開拓者以外のお客は全部で6名ですね。加わっているのは4名で見てるのが2人」
 静かにそういう静月の言葉に、
「‥‥なら、最初の作戦通りでよさそうだな。私は正面から逃げようとするヤツを撃って‥‥」
 けらけらと笑いながら、猪 雷梅(ib5411)がそう言えば、
「そして俺は、囮役の援護のために正面からの突入だな、囮のやつら、あんまり無茶してないといいんだが」
 と鉄龍(ib3794)は、脳裏に紫焔遊羽の顔を思い浮かべながらそういって。
 いよいよ作戦も大詰め、猪は罠を張るために一足先に身を隠し、鉄龍も移動開始。
「それではアーニー、私も‥‥」
「ええ、裏に回りましょう」
 そしてモハメドと静月は裏からの逃亡を警戒するために配置について。
 あとは、囮役の動きを末だけ。開拓者達は静かにその時を待つのであった。


「よっしゃっ! また当たったぜ! ほらほら、俺を信じないから外すんだぜ?」
 わいのわいのと盛り上がる賭場、勝っているのは荒屋敷だ。
 彼と違う方に賭けて外してしまった一般客に声をかけたりと盛り上がっているようで。
「あらあら、あの兄さんまた勝ちよったわぁ。皆かっこえぇて‥‥なぁ、彼方さん♪」
「ほぉう、そういうこぉとなら俺もそろそろぉ勝たなくちゃな。ひとぉつ大きく張らせて貰おうかぁ」
 にやりと紫焔の言葉に応えて笑顔を見せる犬神は、ずしりと札の山を丁に賭けて。
「おや、そこのにぃさんがそうくるなら俺は半に賭けなきゃな!」
 といって荒屋敷は半に札の山を。ますます場は熱を帯びて注目を集めて。
 そして、結果は丁。今回ばかりは荒屋敷もがっくりと肩を落としているようにみえて。
「ゆぅ、賭け事強い人めっちゃ好きやわぁ。だから、彼方さんが一番かっこえぇで!」
 大いに賑わう場、見れば賭場の人間もその盛り上がりに引き込まれるように皆顔をだしているのだった。

 賭場は盛り上がれば盛り上がるほど、金をかけてしまう人間が増えてしまうものだ。
 それは楽しく盛り上がった場であればみな強気で賭けてしまうということで。
 つまり、盛り上がれば盛り上がるほど、賭場にとって儲かる場になりやすいということだ。
 盛り上がりは設けにつながる。それを知る賭場の一味らは思わず全員顔を出してしまったのだった。
 その隙を逃がす開拓者達ではなかった。静かに目配せで合図をすると、一気に行動に移った。
 転がす前のサイをぱっと奪う長渡。彼女は静かにサイをぱきりと噛み割ると、
「‥‥お兄さん方、ちょっとサマの仕方が露骨じゃありませんかね」
 彼女の手の中からこぼれたサイコロの中には金属片。おもりで目を操るいわゆるグラサイであった。
「っ! てめぇら何言いがかりをつけてやがんだ!」
「これだけじゃありませんよ。そのツボ、糸使ってますね?」
 壺振りの手からぱっと壺を奪うと、ぶちりと糸を千切る長渡に、一気に賭場は騒然となったのである。

「ちょいとお客さんがた、大ごとにしたくなきゃ‥‥」
 そういって、とりあえず手近にいた紫焔に手を伸ばす大柄な男。
 だが、その手をびしりと打ち据えたのは犬神の煙管だった。
 煙管といっても、それは戦闘にも使える喧嘩煙管だ。ぐぅっと手を押さえる男。
 いつの間にか立ち上がっていた長渡は手に長脇差を取り戻して構えていて。
 それを見た賭場の一味の頭目格、
「‥‥お前等、ただの客じゃねぇな。‥‥そうか‥‥あの爺の依頼を受けてきた開拓者か!」
 そういって、ずらりと頭目が獲物を抜けば、部下たちもそれぞれ獲物を抜いて。
「おいお前ら! かまわねぇからコイツらを斬り倒して逃げるぞ!!」
 その言葉と共に、賭場の中で一気に乱戦が始まるのだった。


「くそ、くたばりやがれっ!」
 そうってドスを振りかざす男。さすがに志体持ちだけあってなかなかの腕前のよう。
 まっすぐ長渡を狙って突進してこようとしたのだが、次の瞬間響く銃声。
 懐から抜いた短銃で男の膝頭を狙うと、そのまま長渡から近づいて長脇差で首筋を峰打ち。
 意外な手練れの開拓者であることを見た賭場の一味は一瞬ひるむのだった。
 だが、すでに一味たちは開拓者がこの場には4名しか居ないことに気付いていた。
 他の客たちは泡を食って入り口に向かうか腰を抜かしてへたり込んでいる様子で。
 ならば、数ではこっちが圧倒的に有利だと頭目は考えて。
「おい、まずはあの女を狙え! 開拓者だろうが、ガキはガキだ! 囲んじまえ!!」
 矛先は紫焔であった。
 開拓者であることは分かるが手には武器もなく、扇を手にしていることで巫女だとばれたのだろう。
 殺到する数名の凶刃。
 もちろん紫焔を守るようにして犬神は構えていた。
 しかし紫焔が身をもって他の客を守るために移動しており僅かに距離が出来ていたのだ。
 犬神にも腕利きの敵が数名殺到し身動きが取れない一瞬。
 荒屋敷が発気を使おうにも僅かに間に合わないかと思われたのだが、
「ギリギリ間にあった‥‥かな?」
 がっきりと凶刃を受け止めたのはダーククレイモアの刃。鉄龍が間一髪間に合ったのである。
「騎士様やて、助けてくれはるやろと思っとったで」
 信頼の笑みを浮かべる紫焔は、そのまま神楽舞「攻」で鉄龍を援護すれば、
「逃がさんとってや?」
「ああ。だが体を張るのは俺の仕事だろ、あんま無茶しなさんな」
 と一言言い置いて乱戦に突入。あっという間に相手の刃をはじき飛ばすと、
「‥‥よくも刃を向けたな。しばらくそこで寝てな!」
 そのまま左拳を叩き込んで、敵を昏倒させるのだった。
 そして、もう1人紫焔に刃を向けた賊に対しては、武器受けから流れるように蹴りで反撃。
 腹部を蹴り抜かれて悶絶する相手を左手1本でぎりぎりと持ち上げるとそのまま閉め落とすのだった。

「ちくしょう、なんなんだあいつ等!」
 逃げようとする賊の1人、その背中にどんと飛び降りたのは、隠れていた荒屋敷だ。
 首筋にぴたりと短刀を当てて、
「‥‥降参したら? 逃げようとすると痛い目を見るよ」
 とちょうど視線を向ければ。
「イカサマは儲かるんだろーが、何事もほどほどってな。‥‥あ? 分かんねぇか?」
 入り口から逃げようとした賊の1人は銃声と共につんのめって。どうやら足を打ち抜かれたようだ。
 みれば、丁度入り口から姿を見せたのは猪。硝煙たなびくマスケットを片手に、
「だからぁ、てめーら、やりすぎたんだよ。バァカ」
 にやにやと笑みを浮かべて、さらにもう片脚を打ち抜いて。
「オラ、逃げんなよ。狙いはずれちまうだろ‥‥お? そっちのヤツも撃っとくか?」
 そこでやっと猪は荒屋敷が引き倒している賊の1人に気付いたのだが、
「いや、その必要はなさそうだ。今の脅しで気絶しちまったからな」
 ほれと荒屋敷が蹴り転がせば、本当に賊はくたりと気絶していて。
「なんでぇ、根性がねぇな。‥‥あとお前、足撃たれたぐらいで騒ぐんじゃねぇよ」
 じたばたと痛みにうめくもう1人の賊にそう言い捨てる猪であった。

 すでに、賭場の中でも決着は付きつつあった。
 ダーククレイモアで暴れる鉄龍に、煙管1本でもう2人なぎ倒した犬神。
 敵の頭目格のヤツも紫焔が力の歪みで隙を作れば、鉄龍の一撃に昏倒したようで。
「‥‥お? もう終わりか?」
「おお、荒屋敷かぁ。いぃや、1人か2人裏かぁら逃げたかもしれねぇな」
 賊を縄でグルグル巻きにしながら犬神がそう言えば、丁度そこに聞こえてきたのは裏庭からの叫び声。

「‥‥大人しくしろと言っても、聞いてくれませんよね」
 問答無用で、逃げようとする賊の1人に斬撃符を放つ静月。
 足を強かに切られて、叫んだ賊は身動きが取れなくなりあっさりと捕まるのだった。
 しかしさらに別の道から逃げようとする男が居たのだが、そこに楽の音が。
「ヤッラー、やはり改心させるわけにはいきませんね。ならば‥‥」
 モハメドの奏でる夜の子守歌に、なすすべ無く最後の1人は眠らされてしまうのであった。
 全員見事に捕まえることに成功した開拓者達。
 一般の客が開拓者に対してびびってしまったこと以外は無事成功であった。


「なぁ、こいつら橋にでも、『無銭賭博』って書いたフンドシ一丁で吊すってのはどうだい?」
 なぜだか嬉々として荒屋敷が、依頼人の住倉月孤にそういえば、
「ほぉ、そんな趣向もたまには良さそうですな。ようござんす、一つ私が手を貸しましょう」
 にやりと笑う住倉月孤。数日後、この寒空の下、町外れの橋に吊された男達の姿があったとか。
 ともかく、無事依頼は成功し、さらには噂が広まり非道の賭博は減ったとのこと。
「いやはや、やはり開拓者の方々は頼りになりますな。これからも贔屓にさせて頂きましょう」
 そういう月孤から開拓者達は報酬を受けとって、無事依頼を終えるのだった。