屍人たちの夜
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/05 20:29



■オープニング本文

 突然の冷たい雨に、貴方は雨宿りを出来る場所を探していた。
 そもそも、山越えをすれば早く神楽の都に帰れるからと険しい道を選んだのが間違いだったのだ。
 しかし、悔やんでももう遅い。貴方は雪交じりの冷たい雨に必死で山道を進むしかなくて。
 だが、そんな時、不意に目に入ってきたのは明かりだ。
 すこし道筋から離れたところに人家の明かりが見えたのである。
 貴方は足を速めて、急いで進めば、そこには古びた屋敷の跡が。
 ちらちらと暖かそうな明かりがともるその屋敷に貴方は飛び込むのであった。

 見れば、廃墟同然の屋敷のようで、どこもかしこもぼろぼろだ。
 だが、そこには数人の先客の姿が。
 どうやら皆、開拓者のようでそれぞれの装備を手に火に当たっているようであった。
 噂によれば、この屋敷。十数年前に物好きの金持ちが建てた別荘だとか。
 しかし、この辺りはアヤカシがちょくちょく現れるようで、今ではだれも近づかないとのこと。
 だが、開拓者にとってそんな危険は日常茶飯事だ。
 そんなことより、冷たい雨を避けて火に当たることが出来れば御の字というもので。
 しばし、一同は火に当たりながらゆっくりと身体を休めているのだった。

「‥‥‥なあ、なんか音がしないか?」
 唐突に1人の開拓者がそう言った。
 耳を澄ませば、どうやら雨は上がっているよう。
 しつこくぱらぱらと続いていた雨音も静まりかえっているようで、皆一様に聞き耳を立てて。
 すると、聞こえてくるのはなにかを引きずる不気味な音だ。
 ずるりずるりと聞こえる音は、屋敷の周りの四方八方から沢山響いてくるようで。
 次の瞬間。
「‥‥っ! 屍人!!」
 ばりんと音を立てて壁から突き出される無数の手!
 がつんがつんと壁を破ろうとする屍人たちが振りかざす斧や刀!
 うめき声を上げて、屋敷の中に入りこもうとする無数の屍人に狂骨、屍狼の群、群、群!!
 そして、遠くからゆっくりとやってくるのは首無しと呼ばれる巨大なアヤカシの姿が‥‥。
 貴方は、なんとかこの場所を切り抜けて朝を迎えねばならないようだ。

 さて、どうする?
 ‥‥‥屍人たちの仲間入りをしないように、生き延びられる?


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
チョココ(ia7499
20歳・女・巫
アルクトゥルス(ib0016
20歳・女・騎
デニム・ベルマン(ib0113
19歳・男・騎
言ノ葉 薺(ib3225
10歳・男・志
十 水魚(ib5406
16歳・女・砲


■リプレイ本文


「一雨凌いで、これから一杯引掛けようかって時にこれかよ‥‥」
 重量級の斧槍「ヴィルヘルム」を振り回しながら、這い寄る屍人をぶった切る騎士が1人。
「空気読みやがれコンチキショウ!」
 猛然と暴れアヤカシを蹴散らしながら、アルクトゥルス(ib0016)そう吐き捨てて。
「まったくだ。のんびりと帰って、酒を呑むつもりだったのに」
 アルクトゥルスの隣に並んで刀を振るうのは紬 柳斎(ia1231)。
 こちらも業物の刀を振るい押し寄せる屍人の群を撫で切りにしていて。。
 開拓者達はとにかく武器を振るいながら、なんとか体勢を立て直そうとしているのだ。
 そう、余りにも突然なアヤカシの出現に彼らは混乱していたのだった。

「と、泡くっとる場合じゃないわな。誰か、この屋敷に立てこもれる場所心当たりあらへんか?」
 秋水清光を振るいながら天津疾也(ia0019)はすぐさまそう尋ねて。
 すると、応えたのは小柄な人影。自分の背丈より高い武器を構えた獣人の少年だ。
「夕刻頃ぐるっと見回った時に見ましたが、奥座敷があるようですよ」
「そこは立てこもりに使えそうか?」
「‥‥そうですね。資材を集めれば使えないことは無いかと」
 見た目の割に大人びた雰囲気の言ノ葉 薺(ib3225)の言葉に、天津は頷いて。
「ほな、そこに立てこもるとしようか。突破して抜けるのも朝の方がええし、時間を稼がなな」
 だが、天津の言葉に対して、首を縦に振らない者もいた。
「こいつら! 人間じゃねぇ!」
 恵皇(ia0150)はそう言いながら、拳で屍人たちをなぎ倒しつつ、天津に対して言い放つ。
「こんなところに朝までいられるか。俺は出てくぞ!」
「アヤカシの数がどれだけいるのかわからんのに無謀過ぎやないか?」
「そうかもしれねぇが、だからといって立てこもって助かるかわからねぇじゃねえか!」
 朝になったら大丈夫という保障も無いし、と恵皇は言って。
「だから、俺は行くぜ。止めないでくれ!」
 そういって、恵皇は飛び出していくのだが‥‥。
「‥‥無理無理無理無理!」
「ほらな? 俺が行った通りやろ」
「‥‥たしかに、1人でここを突破するよりも、籠城の方がまだ生きる目がありそうだな‥‥」
 肩で息をしながら、恵皇はそう答えるのだった。

 開拓者達の次の行動はとりあえず奥座敷での籠城と決まった。
 そのために必要なのは資材と、なによりも体勢を整えるための時間だ。
「‥‥大人しく、宿場で一泊しておけば良かったですわね」
 そう呟いたのは美しい毛並みの尻尾と耳をもつ狐の獣人砲術士、十 水魚(ib5406)だ。
「お父様に頼まれたお遣いの帰りに無理をしたのが失敗でしたわ」
 嘆息しながらマスケットで入り込もうとしている屍人を射撃しつつ、十がそう言えば。
「たしかに、こんな事になるとは思いませんでした。ですが、こんなところで斃れるわけにはいきません!」
 そう言いながら、果敢に敵を切り払っているのはデニム(ib0113)という若い騎士だ。
 十もデニムもまだ経験豊富と言えない開拓者である。
 受けた依頼もまだ片手の指で数えられるほど。だが、しかしそんな彼らも立派な開拓者だ。
「幸い、腕に覚えのある方々と一緒のようですし、協力してこの夜を乗り切りましょう!」
「‥‥火薬が雨で濡れていなかったのがせめてもの救いですわね」
 屋内で戦うのは苦手ですけど、と思いながら十は狙いを付けて銃弾を放った。
 彼らは十二分にそれぞれの役目を果たして時間を稼いでいるのであった。
 だが、あと少しで体勢が整い移動するという段階になって、正面玄関からうぞうぞと屍人と狂骨の一団が。
「団体様の、ご到着のようですわね」
 思わず十がそう言うほど、それはぞっとするほどの数の大群であった。
 だがしかし、その一団を迎え撃つ仲間の姿が。平突で先頭の屍人を貫きそのまま横薙ぎに剣を振るう天津。
「よっしゃ、ここは俺らに任せてぇな! 資材を使って阻塞を作りながら奥座敷に後退やな」
「ならば先陣は僕が!」
「任せたぞ、殿は拙者たちが務めよう! 帰ったら酒を呑むのだ‥‥こんなところでやられていらるか!」
 先陣をデニムに任せて、もう1人殿に立ちはだかったのは紬。
 咆哮を使い敵を引きつけ、不動の構えで敵を迎え撃って。
 一同は、生き延びるために奥座敷目指して移動を開始するのであった。


「怪我は大丈夫ですか? 私一人じゃどうにもなりませんし、くれぐれも無理はしないで下さいね」
 今回唯一の回復担当、巫女のチョココ(ia7499)はそういってデニムや言ノ葉の怪我を看ていた。
 奥座敷を目指しつつ一行は移動して居る途中だ。
 途中の壁材や襖、畳の残骸を組み合わせて、廊下の数カ所を封鎖しつつの移動では時間がかかる。
 殿を戦闘力の高い天津や紬が担って、かなりの数を蹴散らしているのだが敵は減る様子もなくて。
「はてさて、ただの百鬼夜行であればまだ楽なのですけどね」
 なにか裏でもありそう、と言ノ葉が疑うほどの敵の数は脅威であった。
 開拓者達は、廊下に簡易の防壁を作りそれを壁にして徐々にアヤカシ達の集団を分断する策に出ていた。
「よし、これぐらいでもう十分だろう! 天津殿、紬殿! 次の場所まで移動するよ!!」
 狭い廊下で、殿の2人が取りこぼしたアヤカシを撃破しつつ声を上げたのはアルクトゥルスだ。
 大振りな斧槍を器用に振るって、突きを中心にアヤカシ達を撃破、時間を稼いでいるのである。
「了解や。ほな、移動させてもらうで!」
「援護しますわ」
 天津と紬が移動を開始すれば、防壁の内側からは十が銃撃で援護して隙を作る。
 そして開拓者一同は、奥座敷に向けて一気にまとまって移動をし始めるのだった。
 だが、あと少しで奥座敷という所で、後ろに追いすがるアヤカシたちの姿が。
 弓を構えた言ノ葉と、銃を構えた十が援護すれば、なんとか間に合うと思われたその時。
 不意に一同の中程で守られていたチョココは足首をがっしりと捕まれて、つんのめりそうになった。
「‥‥っ! 壁を破って‥‥」
 一瞬動きが止まりそうになる開拓者達、だがそこで反応したのはデニムだ。
「己の務めも果たさぬ内に、君たちの仲間になるわけにはいかないっ!」
 骨の手を壁からつきだして、チョココの足を掴む狂骨の腕をデニムは両手の刃でなぎ払う!
 同じように次々に突き出される腕を、一気に切りつけつつ、自身の体を盾のように使うデニム。
 骨の手ががりがりとデニムの鎧を擦り、小さな傷を沢山作るのだがデニムは首尾良くチョココを助けて。
「こちらです。この隙間から急いで‥‥」
 言ノ葉の先導で、一同は奥座敷になだれ込むのだった。
「あとは任せな! この壁を崩して、あとはつっかえ棒をすれば‥‥」
 そして最後に立ちふさがったのは恵皇、崩れた梁の一部らしき太い材木を片手に寄ってきた狂骨を一薙ぎ。
 眼前の狂骨たちを蹴散らすと、そのまま室内に戻り梁をつっかえ棒に、完全に入り口を塞ぐのだった。


「デニムさん大丈夫ですか?」
「ええ、守り抜くのは騎士の誉れ。その為に負う傷もまた、誇りですから」
 チョココの治癒を受けながらデニムはそういって胸を張った。
 受けた怪我もたいしたことは無いようで、チョココの術で回復したようで、
「こちらこそ、護衛の任を務められず申し訳ありませんでした」
 とデニムは頭を下げるのだが、
「‥‥‥私みたいな清純な正統派は最後まで生きると相場が決まっているの‥‥」
 とぽつり呟くチョココであった。

 一行が籠城を始めてから数刻が立っていた。
 おそらく夜明けまでもう少しだろう。だが、いまだに散発的なアヤカシの攻撃は続いていた。
「次は私が見張りに立とう。 引き籠ってばかりってのは性に合わないんだがなぁ‥‥」
 ちょっと不満げに腰を上げたのは今まで休んでいたアルクトゥルス。
 入れ替わりで休憩する紬はそんなアルクトゥルスに、
「そう愚痴らずに。帰ったら皆で餡蜜でも食べよう」
 と励ますのだった。

 とにもかくにも、一行は僅かばかりの休息を取ることが出来た。
 周囲はいまだアヤカシ達に囲まれていて油断は出来ない状況だ。
 だが、朝になれば道も確認しやすくなるだろうし突破するのも容易になるだろう。
 開拓者達はその時をじっと待ちながら、油断無く警戒し続けるのであった。


「夜が明けてきたみたいですわね。そろそろ、脱出しましょうか?」
 十は、天井付近の壁の割れ目から見える東の空を見て、仲間たちにそう言った。
 一同はその言葉に目を向けると確かに空はうっすらと紫色に染まっていて。どうやら夜明けは近いようだ。
「そうと決まったら一刻も早く‥‥」
「待って下さい」
 動き出そうとする一行を止めたのはチョココだ。
「終わったと思ったら‥‥はイヤですからね」
 そういってチョココは瘴索結界を発動。周囲のアヤカシの気配をうかがうのだった。
 その間に、さてどうやってここから抜け出そうかと一行は話し合っていたのだが、
「‥‥皆さん、どこから逃げるかは考えなくても良さそうです」
 その言葉と共に、チョココは壁を指さして。
「あちらに壁のすぐ外に、多数のアヤカシが‥‥どうやら壁を破るようです」
 その言葉に、一同は一気に戦闘態勢を整えて、身構えるのだった。

「やっぱり最後は数の暴力に屈して追い込まれてナンボだな」
 不敵な笑みを口元に浮かべて、恵皇は壁にヒビが入るのをじっと見つめていた。
 ごぎりと首の骨を鳴らし、ばきぼきと指の関節を鳴らして待ち構えていればヒビは広がって。
「‥‥戦って戦って戦って戦って‥‥気付いたらお天道様が上って来る。そう言うもんじゃないかな」
 ついにヒビから漆喰の壁は崩れ落ち、そこからどっと侵入してくるアヤカシの群。
 それを迎え撃つために、一気に開拓者たちは駆け出すのだった。

「さて、悪いが今宵の清光はまだまだ斬りたらんようやで」
 秋水清光を抜き放ちながら、秋水の技で纏めて屍人を撫で切りにする天津。
 その横を一気に駆け抜けるのは恵皇だ。極神点穴の一撃で、動きの速い屍狼を撃破しつつ突貫。
 彼が狙うのは奧で道をふさいでいる首無しだ。
「雑魚は任せて!」
 恵皇の突貫を遮ろうとする狂骨たちを斬り倒したのは紬だ。後続のための壁となりつつ血路を開くようで。
「すまん、助かった!」
「なに、感謝するなら帰った後、酒を奢ってくれ」
 そういって、紬は柳生無明剣を一閃、屍人の群を纏めてなぎ払って、道が出来た。
 そして、その隙を逃さず、後続からも援護が。
「あれは私には少々荷が勝ちすぎですわね。どなたか、倒してきて頂けませんか?」
 十はそういって、強弾撃の一撃を、アヤカシの頭上越しに首無しを狙って発射。
 突進しようとしてきていた首無しはそれで足並みを乱されて停滞するのだった。
 そして、いつの間にか敵陣中央に突貫していたのは恵皇だけではない。
「これだけ壁が無くなれば、思う存分武器が振るえるな!」
 アルクトゥルスは壁が崩壊したことで出来た空間を活かして敵陣中央で暴風と化して。
 使う獲物は命中力に難のある斧槍だ。
 だがしかし、体力がある代わりに鈍重な屍人や狂骨相手には命中力の低さは問題ない。
 逆に、その凄まじい攻撃力で、たった1人で数十の敵をなぎ倒しているのだった。
 そして、その隙を逃さず連携したのはデニムと言ノ葉。
「先導を頼みます。恵皇殿が狙っているあのデカブツの体勢を崩させたいので」
「承知しました。護りは騎士の務め‥‥僕にかまわず進んで下さい!」
 先導するのはデニムだ。両手の刃を果敢に振るって、屍狼の群をなぎ払う。
 その横をすり抜けて、敵の攻撃を回避しつつ、デカブツ‥‥首無しに肉薄する言ノ葉は、
「灼狼の牙――さあ、耐え切れますか?」
 首無しの豪腕の一撃をひらりと回避すると、その足に五月雨の連打を放つのだった。
 炎魂縛武で強化された連打は、首無しの高い耐久力を穿ち、足を痛打。たまらず倒れる首無し。
 そこを逃さず接近した恵皇は、任せろとばかりに瞬脚で間合いを詰めると、極神点穴。
 高い生命力を誇る首無しも、防御が意味を成さない神業の一撃に、なすすべ無く斃れるのであった。

「今や、みんな突破するで!」
 平突でもう一体の首無しを屠った天津は、協力していたアルクトゥルスとともに壁の穴から外にとびだして。
 みれば、言ノ葉は武器を弓に持ち替えて援護の構え。
 紬はチョココを護りながらそれに続き、十も銃で牽制しつつ移動開始。
 そして、殿をデニムが務めながら一気に開拓者達は宿の包囲を突破するのだった。
 最後振り返ったデニムは、言ノ葉に頼みますと言えば、開拓者達が見守る中、言ノ葉が火矢を放ち。
 それは、あらかじめデニムが用意しておいた油に引火、ゆっくりと屋敷は燃え始めるのだった。
 周囲に燃え移るものも無い山中の屋敷はおそらく多くのアヤカシとともに燃え落ちることだろう。
 ごうと上がった炎にたなびく煙に眼を細め、デニムは静かに黙祷して。
 そして、やっと朝の晴れ空のしたで、もう安心だという確証と共に開拓者達は足を止めるのだった。
「やはり外を歩くなら太陽の下が一番ですね」
 言ノ葉がぽつりと言った言葉に、皆頷いて。
 なんとか恐怖の夜から生還したことに、ほっと安堵するのであった。