手負いの死龍
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/12 20:23



■オープニング本文

 開拓者の戦いは、危険と隣り合わせだがその分華やかでもある。
 華麗な技術、卓越した身のこなし、華やかな戦果、どれも華々しく見る者を魅了する。
 だが、時には開拓者も泥臭い戦いを強いられるときがある。
 それは、今回のような場合だ。

 理穴の魔の森外縁部。
 大アヤカシの征討に成功し魔の森は減少傾向にあるとはいえ予断を許さぬ危険地帯にて。
 非常に大きな被害をもたらしかねないアヤカシの姿が確認された。
 それは死龍だ。
 不死者らと同じように死した龍の骸に瘴気が宿りアヤカシと化した凶悪な敵。
 そんな敵が、今回は2体確認されすぐさま撃破のために理穴の戦力や開拓者がかり出されたのだが‥‥。
 なんと、戦闘で翼を破壊して地上に追い込んだものの、森の中に逃げられてしまったのである。
 再生力の高い死龍、翼を失ったといえどもどこに逃げたのかも分からず。
 結局、そうした追跡が得意な開拓者の出番となったのである。

 任務は一つ、魔の森の周辺領域であるまだ危険な森林部にて、死龍を追跡すること。
 なお季節は冬、開拓者は防寒の備えと数日にわたる追跡をこなせる実力を有していることが望ましいとか。

 さて、どうする?


■参加者一覧
緋桜丸(ia0026
25歳・男・砂
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
紫焔 遊羽(ia1017
21歳・女・巫
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
慄罹(ia3634
31歳・男・志
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔


■リプレイ本文

●雪中にて
 森は雪に覆われて、しんと静まりかえっていた。
 ここは魔の森の近く。獣たちはおろか、鳥の声すら遠く寂寥とした景色が広がっている。
 木々は葉を落とし、枝だけを雪の中に伸ばしていて。
 そして降り積もる雪と冷たい風が、ただただ森の中を吹き抜けていくのである。
 だが、そんな森の中を進む一団があった。
「‥‥きゃっ!」
 雪に足を取られて、転びかけた鈴梅雛(ia0116)、そこに手をさしのべたのは緋桜丸(ia0026)だ。
「‥‥おっと。お嬢さん、怪我はないかい?」
 彼は優しく鈴梅を支えると、外套の裾に付いた雪を払ってあげて。
「あの、ありがとうございます。ひいなは、大丈夫です」
 どうやら足をくじいたりはしていないようで、鈴梅の言葉に良かったと緋桜丸は笑みを見せるのだった。

 一行は、死龍を倒しに向かう開拓者の一団であった。
「‥‥死龍か。傷を負わせてるとはいえ野放しにはしてられねぇな‥‥」
 先頭を進んでいた慄罹(ia3634)は、そう呟いて。
 それもそのはず。彼は、周囲を注意深く監察しながら進んでいたのだが、見つけたのは木々に残る爪痕だ。
 熊や他の獣が残せそうにない巨大な爪痕や、雪に埋もれつつも微かに残る這いずった痕。
 それを、開拓者達は追っているのであった。
「どうですか? なにか痕跡は見えるでしょうか?」
「‥‥ふむ、どうやら進んでいる方向であっているようじゃ。少し先にもへし折られた木が見える」
 ジークリンデ(ib0258)が木の上に声をかければ、木登りをして遠くを見ていた輝夜(ia1150)が答えて。
「以前のように、輝桜が居ればよかったのじゃがの」
「ああ、龍のお名前ですね。たしかに、そうですが‥‥」
 ひょいと木の枝から降りた輝夜はそう言いながら、木々の梢を見上げて。
「じゃが、この森の中ではちと厳しいか」
「ええ、空からでは逆に見つけるのが厳しい上に、降りるのも大変そうですね」
 ジークリンデがそう言うのに、輝夜も頷いて。
 そして、一行はまた静かに龍の残した痕跡を追いながら、森の中をすすむのだった。

 雪の降り積もる森の中の行軍は非常に大変だ。
 身体が埋まるほどの雪ではないとはいえ、膝が埋まる以上に積もっていれば楽には進めず。
 必然的に風や木々の影などによって雪が少ない場所を選んで進むこととなるわけである。
 森の中の地形も様々だ。
 高低差が邪魔をすることもあれば、倒れた巨木が道をふさいでいることもある。
 知力体力に優れた開拓者達だからこそ、こうした苦しい追跡行を行うことが出来るのだが‥‥。
「ちっ、またか! 雑魚に用はねぇんだよっ!」
 慄罹が棍を振るい、突然現れた狼型のアヤカシを蹴散らした。
 魔の森に近いこの地域ではアヤカシの姿も多いようで、時折遭遇してしまうのであった。
「お相手しとる間あらへんのに‥‥もぉっ!」
 紫焔 遊羽(ia1017)はそう言って、前衛に援護を飛ばして。
 しかし、さすがに歴戦の開拓者達だ。あっという間に不意の遭遇戦は終わった。
 一行は、殆ど消費することなく雑魚アヤカシ達を倒したのだが、自国は丁度夕暮れ。
「‥‥今日は、ここまでだな。野営の場所を探すとしようか」
 紬 柳斎(ia1231)の提案に、皆頷いて足を止めるのだった。

●夜の帳
「‥‥この大地の上に立つ私の何たる小さな事か‥‥」
 ほう、と白い息を吐いて遠くを見ているのは皇 りょう(ia1673)だ。
 野営の準備を整えた一行は、交代で見張りを立てて休息を取るようで。
 不寝番を最初に引き受けた皇は、まずは周囲の見回りをしているのであった。
「‥‥武の頂は遙か天の彼方‥‥か」
 周囲の気配を伺いつつ、ふっと天に瞬く星に視線を向けながら、彼女は静かに刀の柄に指で触れて。
 今回、死龍を倒せる面々ということで、集まった開拓者は腕利きばかりだ。
 もちろん、それは皇も例外ではない。だが、そんな彼女をしてもアヤカシ達は強力なのだ。
 静かに彼女は気を引き締めて、仲間のもとに帰るのだった。

 熾した火を囲んで、まだ開拓者たちは起きていた。
 雪深い中で、木々の影になったちいさな空間で火を熾し、暖を取りつつ食事の時間だ。
 持ち込んだ保存食でも、そのまま食べるよりは多少調理した方が身体も温まるというもので。
 芋がら縄を煮出した簡単な味噌汁や、粥をすすりながらやはり思うのは敵のこと。
「‥‥修羅の一件から俄かにアヤカシたちの動きが大きくなってきているようですね」
 そうジークリンデが言えば、一同も静かに頷いて。
「この件が直接関わりのあるものでは御座いませんが、脅威になる前に芽を摘んでしまわねばなりませんね」
「死んだ龍に取り憑くとは‥‥アヤカシも手段を選ばず‥‥何でもアリだな」
 ジークリンデの言葉に緋桜丸は、そう言いながら、ふと視線を仲間に向けた。
「そういえば、死龍と戦ったことのあるお嬢さんがいたんだったな。どんなヤツか説明してくれないか?」
「ひいなは、死龍と戦うの、これで二度目です」
 鈴梅だけでなく、輝夜なども死龍との戦いについて話に加わって。
 それぞれは身体を休めつつ、静かに闘うときのための策を考えるのであった。
 
●遭遇と選択
 はじめに開拓者達が気付いたのは、音だった。
 しかし、なにかが聞こえたわけではない。
 静かすぎたのだ。
 魔の森外縁部とはいえ、微かに周囲からは生き物の出す音が聞こえるモノだ。
 多くは鳥たちの鳴き声なのだが、それが全く聞こえない。
 全てが雪に吸い込まれたかのような、不気味な静寂の中、静かに痕跡を追いかける開拓者達。
 そして、すぐに彼らは目標を発見したのだった。
「おっと‥‥あれが死龍、ってやつか」
 最初に気付いたのは、慄罹だ。
 今度は彼が木に登って遠くまで見渡していたのだが、その視線の先にゆっくりと動く巨体が。
 見まごうことなく死龍の姿がそこにあったのである。
 すぐさま開拓者達は戦闘準備を整え、死龍の姿を追って。
 だが、気になることが一つ。
「ふむ、やはり一匹だけか。妙じゃな、もう一体はどこに‥‥」
 接近した一行は、地上からの目視で死龍を確認。だが、輝夜が言うように一体しか見あたらない。
 だが、そこでも抜かりは無い開拓者達であった。
「‥‥いいえ、右の方に、もう一匹も居ます‥‥こちらに気付いて居るみたいです!」
 瘴索結界を張っていた鈴梅が声を上げて。
「死したとは言え元は龍、油断は出来ぬな。もう一匹は囮役か!」
 紬はそういいながら装備を構え、他の面々も荷を下ろし咄嗟に散開。
 みれば、最初に発見した龍の方も、こちらを向いて向かってきていて。
 どうやら知恵は低いながら一匹を囮にして、待ち構えていたのである。
 開拓者一行は最初の作戦通り、二つに分かれた。
 片方は、右方から迫り来る一体の足止め役だ。まず先頭を行くのは皇。
「‥‥手負いとはいえ、さすが龍の一種! 私の剣がどこまで通じるか‥‥我等に武神の加護やあらん!」
 雄々しくそう叫びつつ、彼女は刀を抜き放って。それを追うのは紫焔と輝夜だ。
 そして、もう一体へと残る5名は一気呵成にもう一方の死龍へと立ち向かい。
「‥‥墜ちて地を這った龍は空を二度と飛べぬと思い知らせてくれよう。この刀にかけてな」
 ずらりと長大な斬龍刀を抜き放ちながら、紬がそういって。
 いよいよ戦いが始まったのだった。

 開拓者はその人員を二つに分けた。
 これは、本来なら下策であろう。
 相手は龍の体躯を持つ強大なアヤカシだ。
 可能であれば、こちらの最大戦力を当てて、各個撃破を狙うのが上策と言えるだろう。
 だが、今回は2方向から同時に攻められている状況だ。
 その場合の備えをしていたというのは、さすが歴戦の開拓者である。
 最低限足止めを維持できる兵力を維持しつつ、残る最大戦力で可及的速やかに片方を撃破する。
 その作戦はこの場合考え得る最高の戦術であったと言えるだろう。
 それを可能にしたのは、それぞれが熟達した開拓者であることと、個々の高い戦闘力だ。

「死してなお弄ばれて、はよ‥‥‥お休みさせてあげな‥‥な」
 足止め班の要は前衛の2人ではなく、ぐっと扇を握りしめてそう呟いた紫焔であった。
「あないな…姿、‥‥はよ、どないかしたらな。さぁ、お手伝いさせて貰うわな!」
 悲痛な表情でそういうが、すぐ気持ちを切り替え、きっと龍を睨み付けて、神楽舞「武」を舞う紫焔。
 その援護を受けて、前を行く皇と輝夜は連携して足止めに取りかかった。
「まずは足止めから‥‥参る!」
 皇は、片手に刀を持ったまま、もう一方の手で鎖分銅を取り出して。
 その一端には、紫焔から渡された縄が結びつけられていた。
 それを振りかざすと、まず皇は斜陽で死龍を幻惑、生まれた隙を利用して肉薄すると鎖分銅を足に!
 絡みつく鎖分銅、すぐにもう一端の縄を近くの木に巻き付けると、即席の罠が完成して。
「これで機動力は封じたな‥‥輝夜殿、私が時間を稼ぐので、翼を!」
「うむ、その素っ首叩き落としてくれる‥‥と言いたいところじゃが、今はこちらで我慢しておいてやろう」
 斬龍刀を抜き放って、疾駆する輝夜はそう答えて、龍の背後に回って。
 足止め組は、最低限の兵力で足止めと翼封じという二つを成し遂げようとしているのであった。

 一方、もう一体の龍を撃破せんとする本隊は、怒濤の攻撃を仕掛けていた。
「‥‥仕掛ける隙を作ります!」
 まず直撃したのは、ジークリンデのアークブラストだ。
 轟音を上げて直撃する雷の魔法。本来であれば天から下る神鳴る雷撃の威力は凄まじいの一言。
 機先を制して、放たれた強烈な電撃に死龍は一瞬動きを止めて。
 しかし、その隙は一瞬だ。元来死龍のような死した骸がアヤカシとなったものは痛みに強い。
 だが、歴戦の開拓者にはその一瞬の隙で十分であった。
「くっ、さすが死龍‥‥」
 その隙に接近していた慄罹は、龍の足の1本を棍で攻撃。しかし1発目だけの攻撃では効果は薄い。
 死龍は、すぐに反撃として爪を振りかざして慄罹を攻撃するのだが、それを慄罹は回避。
 なんと、棍を使って棒高跳びのように爪の一撃を飛び越えたのである。
 片脚の一撃を外した龍は、またしても隙を見せてしまっていて。
 そこに接近したのは、両手に刀を抜き放った緋桜丸である。
「躾がなってねぇな。‥‥おイタはいけませんってなぁ!」
 足の爪の攻撃で体制の崩れた死龍に残されたのは牙と尻尾による攻撃だ。死龍は緋桜丸を尾で迎撃。
 だが、緋桜丸は大柄な体躯にも関わらず、木を足場に駆け上がり尻尾を回避。
 木に直撃して動きの止まった尻尾に向かって飛び降りると、
「いい加減観念して、大人しく寝てな! 喰らえよ我が牙、緋剣零式‥‥紅霞ッ!!」
 暴れ回る尻尾を十字組受で凌ぐとそのまま両手の刃によって、払い抜け。
 紅い閃光のように走り抜ければ、なんと尻尾はその一撃で断ち切られてしまうのであった。
 その一撃に龍は羽を広げて対抗。開拓者達は、即座に距離を取って回避。
 しかし羽は武器であると同時に逃走手段でもあった。
 見れば、皮膜の翼は所々傷を負っているものの、辛うじて飛べるほど回復しているようで。
 だが、これもまた開拓者達の予想の範囲内であった。
「‥‥拙者の前では決して龍は飛ばせぬさ。それがこの刀を振るう者の役割よ」
 すでに回り込んでいた紬は、手にした斬竜刀「天墜」を振るって咆哮で気を引いて。
 飛び上がろうとした瞬間、緋桜丸が断ち切った尻尾を足場に飛び上がり、その背に向かって柳生無明剣。
 剣閃が通り過ぎた次の瞬間、飛び上がりかけた死龍は翼を片方失い、轟音を上げて地面に叩きつけられて。
 一気に戦況は開拓者有利に傾いたのだった。
「ジークリンデさん、援護します」
 鈴梅の舞う神楽舞「心」で援護されたジークリンデはさらにアークブラストを連射。
 身動きの取れない死龍はあっという間に体力を減らして。
 そして、緋桜丸が片脚を叩き斬れば、もう一方の足を慄罹が霊破斬で破壊。
 そして、攻撃手段を殆ど失った死龍の首に、紬の刃が叩き込まれるのだった。

 足止め班は、なんとか踏ん張っているものの、苦戦を強いられていた。
 足に絡んだ鎖分銅も、縄の耐久力のためかついには引きちぎられて。
 なんとか片方の翼には輝夜の刃が届き、飛行だけは封じたところ、なんと龍は走って逃走しようとしたのだ。
 逃げようとする龍の前に立ちふさがるのは皇だ。
「ここは通さん!」
 気迫とともに、爪の一撃を辛うじて躱しつつ放った白梅香。
 だが、与えた被害は浅く、爪の一撃に皇は吹き飛ばされかけてしまって。
「‥‥大丈夫ですか? 今、癒しますから」
 鈴梅の閃癒で、皇はなんとか復活。同時に逃げようとしてる死龍を止めたのは、紫焔だった。
「何処へいかはるんやろか、逃させんでっ!」
 力の歪みを使って足を攻撃し、逃がさないように援護。
 そこに、一方を倒した開拓者達がぎりぎり間に合ったのだった。
 ジークリンデのアークブラストがまず叩き込まれ、紬の刀が死龍の足を抉る。
 慄罹が棍を縦横に振るって、翼の攻撃をいなせば、そこに復活した皇の刃が走る。
 緋桜丸が牙の一撃を十字組受で受け止めつつ、隙を作れば死龍の首に輝夜の刃が迫る。
 あっというまに戦況は逆転。逃げる間もなく死龍は倒されるのだった。

●戦い終えて
「‥‥ゆっくりお休み下さいまし‥‥?」
 龍に黙祷を捧げているのは紫焔だ。
 一行は死した死龍を荼毘に付し、同時にちいさな墓を作っていた。
「‥‥長く留まると危険なので、きちんとは出来ませんが」
 鈴梅がそう言うとおり、ここはまだ危険な死の森付近だ。
 しかし、龍は開拓者達の相棒でもある。
 やはり思うところあるのか、二度とその身体が瘴気に取り付かれないよう火葬として火を放って。
 そしてちいさな石を積み上げて、墓を作りそこに皆は小さく手を合わせるのだった。
 灰となった死龍を手厚く葬ることは出来ない。
 しかし、これでもう二度とこの龍たちがアヤカシとなることは無いだろう。
 こうして、開拓者達は現場をあとにして、帰路につくのだった。
 依頼は無事成功。雪の中、強力なアヤカシを討伐するという難しい任務は無事達成されたのだった。