寒いときこそ激辛料理!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/05 22:17



■オープニング本文

 武天にあるとある街、芳野。
 商業の栄える街の常として、芳野は常に活気に溢れていた。
 そして今日も、そんな芳野の商店街の一角、料理屋の並ぶその場所で‥‥。
「おぅ、三郎! 今帰ったぜ〜」
「兄ちゃん、やっと帰ってきた! で、今日の仕入れはどうだった?」
 三郎と呼ばれたのは、細身の青年。いかにも板前然とした様子の彼は三郎。
 芳野の片隅で、煮売り酒屋を営む兄弟の弟であった。
 そして兄ちゃんと呼ばれたのは、堂々たる貫禄のひげ面の男。
 彼は三郎の兄で、通称熊二郎で彼もまた料理人である。
 どうやら兄の熊二郎、仕入れにいっていたようで、後ろの大八車には荷物が満載。
 しかし‥‥、
「やっぱり市場も活気があってなー。そうそう、今日は魚が安かったから大目に買ってきたぞ!」
「‥‥ねぇ、兄ちゃん。その積んである赤いやつは‥‥」
「あと、やっぱりこの季節鍋だな! 鍋料理用にニラやら葱やらも大目に買ってきたしな!」
「‥‥‥確かに、理穴のトウガラシを買ってきてと頼んだけど‥‥」
「いやー、こう寒いとやっぱりあったけぇもんが食いたくなるのもわかるきがするわなー」
「‥‥‥‥どうみても、それ一山どころじゃないよね? ‥‥なんでそんなに沢山‥‥」
「あとは、酒だな! 温かい鍋を肴にきゅっと一杯! ‥‥かー、染みるねぇ!!」
「‥‥‥兄ちゃん?」
「‥‥‥ハイ‥‥」
「‥‥‥どうしたの、これ?」
「‥‥‥いや、あそこの店の売り子のねえちゃんが美人でよ‥‥」
「‥‥‥で?」
「‥‥‥いや、トウガラシも大目にあれば、寒さの吹き飛ぶ鍋料理が出来るって‥‥」
「‥‥‥本当は?」
「‥‥‥うん、辛すぎて売れ残ったらしい」
「‥‥‥‥‥そう。じゃ、辛い鍋食べ切れたら賞金って催しやるから、賞金は兄ちゃん小遣いからね」
「‥‥‥‥‥‥‥あい」

 ということで、芳野の片隅で、「激辛鍋を食べ切れたら賞金!」てな話がもりあがっているそうな。
 基本は鱈の鍋。刻んだ白菜、春菊に椎茸やら豆腐やらをたっぷり放り込んだ滋養に溢れる季節のお鍋。
 そこに刻んだトウガラシを一掴み。さらに粉にした理穴特産の激辛トウガラシをこれでもかと投入。
 真っ赤に染まった鍋は、人呼んで地獄鍋。
 挑んだ挑戦者は数知れず、殆どは涙と鼻水にまみれてまいったと敗退したとのこと。

 この寒い季節、お祭り騒ぎもかねて、そんな料理が最近話題の煮売り酒屋に遊びに行っては如何?


■参加者一覧
更紗・シルヴィス(ib0051
23歳・女・吟
マテーリャ・オスキュラ(ib0070
16歳・男・魔
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
シータル・ラートリー(ib4533
13歳・女・サ
ベルナデット東條(ib5223
16歳・女・志
赤い花のダイリン(ib5471
25歳・男・砲
光河 神之介(ib5549
17歳・男・サ
アリエス・フランクール(ib5641
24歳・男・砲


■リプレイ本文

●辛い一日の始まり
 開拓者たちは、普通の人とは一線を画す超人的な才能をもっているものである。。
 それは、知力体力だけではなくて、そう胃袋までも‥‥。

 その日、芳野の片隅にある話題の三熊酒屋。
 今日も今日とてほどほどに盛り上がっているようなのだが‥‥。
「あの。とても辛いお鍋を振舞っていただけるお店がある、と聞いたのですがここでしょうか?」
「へい、らっしゃい。一応、食べ切れたら賞金が出るっつー地獄鍋ってぇのをやっとりますが‥‥」
 現れたのは異国風の少女、そんな少女をじーっと見て思わず店の熊二郎は、
「おまえさんが、挑戦するんで?」
「はい。名前を申し上げていませんでしたわ。ボク、シータルですの。宜しくお願いしますわね♪」
 シータル・ラートリー(ib4533)はぺこりとお辞儀して、不安げな熊二郎を見上げるのだった。

 そんな感じでこの日は波乱から始まったのだった。
 まず最初は小さな勘違いから。
「あのー。予選の前に名前の登録などをしなくても、よろしいんですの?」
「ああ、いやいや。予選とかじゃなく、単にうちで一番辛いと名乗ってるだけだからなぁ」
 がははと笑う熊二郎に、やっと勘違いに気付いたシータル。
「あら、そうでしたか。天儀中の香辛料が味わえると思ってましたのに、残念ですわ」
 と笑顔のままだが少々残念そうだ。
 ともかく、彼女は意気揚々と激辛の地獄鍋を注文するわけで‥‥。
「はい、お待ちどーさま。でも大丈夫?」
「ええ、美味しそうです。いただきますわ♪」
 料理を持ってきたものの心配そうな三郎を余所にシータルは、ゆっくりと食べ始めるのであった。
 さて、そんな様子を見ているのは、他の客たちだ。
 賞金は魅力、しかし今まで敗れた人間数知れずとしっているため、挑戦を躊躇していたのだが。
「‥‥なぁ、あの女の子以外と普通に食べてるぞ?」
「‥‥まぁ、女の子だし、店主も手を抜いたのかも知れないが、今ならいけるかも‥‥」
「‥‥おい、こっちにも地獄鍋だ!」「こっちも!!」
 にわかに、地獄鍋が大人気となったのであった。

 一方その頃、市場をてくてく歩く姿が。
「挑戦! 激辛名物鍋! ‥‥の前に、どんなトウガラシなのか聞いてまわろっと」
 蒼井 御子(ib4444)も、どうやら挑戦する模様なのだが、そのまえに下調べするようで。
 どうやら、そこまで大量に流通してるものではないよう。あまり商品を見かけることはなかった。
 しかし、たまたま行商人から格安で買ったという商人に巡り会って。
「‥‥おやお嬢ちゃん。こいつに興味があるのかね?」
「うん、辛い唐辛子を探しててねー‥‥ふぇぇ、眼に染みるよーな辛さなんだよっ」
 匂いをかいだだけでしびれるようなその唐辛子、聞けば辛すぎて買い手が見付からなかったとか。
 前に店主の娘さんが上手いこととある煮売り酒屋に大量に売りつけたとのことだが、売れ残ったのがこれ。
 どうやら更に辛い品種だとかで。
「じゃ、これを一束もらえるかなっ?」
「こりゃ売り物にならんから、ただで持ってて良いぞ。虫除けぐらいにゃなるかもしれないがな」
 ということで、蒼井は無事究極に激辛なトウガラシを手に入れて、いざ三熊酒屋に向かうのだった。

●続々とやってくる挑戦者たち
 ちょうどお昼頃、三熊酒屋の周辺は大いに盛り上がっていた‥‥いろんな意味で。
「おい、熊二郎! いんちきしてやいねーだろうなぁ! 女の子だけ辛くなくしてるとか」
「そんなわけあるか! その証拠にあのお客さんは、自分でトウガラシ足してるぞ!!」
 たしかに、早めに店にやってきていたシータルは、通常の辛さにちょいと追加でトウガラシを入れていたり。
 どうやら香辛料は得意のよう。さらに自前の別の香辛料を足しながらとゆっくり食べてるようで。
 さて、彼女を見て挑戦した他の男達と言えば、ふがいなくも次々脱落。
 涙と鼻水とともに轟沈していったのだが。
「‥‥地獄と謳っている以上、並みの激辛では無いですよね」
 そこに新しい客の姿が。それも珍しい姿のお客であった。
 それはジルベリアに伝わる侍女用お仕着せ服、いわゆるメイド服で。
 メイド服姿の彼女は、更紗・シルヴィス(ib0051)。どうやら彼女も挑戦者のようで。
 新たな挑戦者の姿にざわめく店内。それを尻目に彼女は奥の方に陣取ると。
「地獄鍋を一つ、よろしくおねがいいたします‥‥周りの反応を見る限りでは、期待できそうですね」
 そういって、できあがりを待つのであった。
 そして運ばれてくる真っ赤な鍋。彼女はそれを満足げに眺めると、まず一口。
「‥‥調理は大雑把ですが、これはこれで、中々味わいがありますね。あ、粉トウガラシを追加できます?」
 平然と食べ始める更紗、これを見てまた新たに無謀な挑戦者が増えていくのだった。

「俺の名はダイリン! 人呼んで赤い花のダイリン様よ!」
 そんな状況の中どーんとやってきたのは赤い花のダイリン(ib5471)だ。
「ここの店で何か面白い事をやってるって聞いたんでな、俺も参加させて貰えるかい?」
 どっかりと大きな卓に腰を下ろすダイリン。
「寒い日は辛いモノで決まりだな まぁ、どれだけ辛かろうが辛党の俺にとってはそんな問題じゃねぇな!」
 意気揚々ともう1人やってきた大柄な男性の姿は光河 神之介(ib5549)。
 そして、彼らのあとから、ゆっくりと、
「ジルベリア程じゃないけど天儀の冬も結構寒いよね。美味しい激辛鍋で心も体も温めてもらうとするかな」
 辛さに敗れた他の客の様子を楽しげに見ながらアリエス・フランクール(ib5641)が。
 彼は、死屍累々な店内をみて
「俺はこんな無様な姿を晒したりしないよ。完食宣言、してもいい?」
 といって場をわかせてみたり。
 男性客3人は、普通に大きな卓に腰を下ろして、地獄鍋の到着を待つのだった。

 そしてさらに増える開拓者達。
「おや、みなさんもうお集まりでしたか。僕も興味がありますし、挑戦させて頂きましょう」
 そういってやってきたのはマテーリャ・オスキュラ(ib0070)だ。
 怪しげな風貌で自分も地獄鍋を一つと注文してから、手にはなにやら怪しげな皿が。
「‥‥ああ、これですか? 折角ですし、ジルベリアのピリ辛料理を作ってきたんですよ」
 よろしければこちらも、と卓に置けば見た目がどうにも怪しげだ。
 変な色の汁、渦巻く怪しげな蒸気、そしてうにうに動いてるような気がする料理本体。
 はじめは誰もが手を付けようとはしなかったのだが、食べてみると意外と普通。
 辛い物好きの客たちには意外と好評なのであった。

●完食者と撃沈者
「激辛鍋について取材に来ましたっ!」
 元気いっぱいにそういっているのは、店に遅れてやってきた蒼井だ。
「まずは、見事完食した人達に取材をっ‥‥どうでしたか?」
「美味しい唐辛子ですので、私も料理に使いたいと思いほどでしたよ」
 落ち着いてお茶を飲みながらそう答えたのは見事完食した更紗。
 メイド服姿の彼女は、他にも激辛料理を考えて欲しいなんて言いながら店を後にして。
 続いて蒼井が取材したのは、もう1人の完食者、こちらも女性で。
「どんな味でした?」
「‥‥‥」
 無言のまま、しばらく考えてから、手元の紙片には、
『呂律が回らなくなりましたけど、とても美味しかったですわ』
 とのこと。

 一方店の方は、いつも以上の盛り上がりで。
「普通に挑戦するんじゃ面白くねぇな。俺の分は辛さ倍だ!!」
 おおとどよめきが走る店内、こうしてダイリンの分はただでさえ赤い鍋が凄い色。
「‥‥‥え、何これめっちゃ赤‥‥いや、一度やると言った以上、引き下がる訳にはいかねぇ!」
 意地でも食いきってやると挑戦するダイリンに、
「辛くて旨い‥‥だが目や鼻がなんかいてぇ! ‥‥だがこの刺激がまたたまらねぇんだよな」
 こつこつと箸を進めるのは光河、
「これは‥‥熱くて痛いですね‥‥しかし、ベースのスープは出汁がよく出ていて美味しい‥‥です」
 そして、怪しげ料理を持ってきたマテーリャもなかなか順調に食べていくのだった。
 マテーリャは、果汁入りの甘い飲み物を持参したよう。周りの分も差し入れとして提供するのだが、
「甘い物を持ってきてくれた奴がいるのか?そいつは助か‥‥あぁいや、やっぱ今はいいわ」
 手に取りかけたダイリンは途中でその手を止めて。
 見れば、甘さで辛さをこらえようとした他の客、逆にその後の鍋の一口で地獄をみているようで。
「‥‥‥そ、それより水だ! 水くれ、水!」
 と、ダイリンは滝のように汗をかきながら、完食目指して鍋をかっこんだり。

「申し訳ありません、完食できませんでした」
 最初に降参したのは、マテーリャであった。具材は何とか完食間近だったのだが、そこまでだったようで。
「‥‥それにしても本当に辛いですね。どんな調味料を使ったのですか」
 唐辛子に興味津々なマテーリャ。
「普通の奴は悲鳴を上げるほどなのか‥‥なんだか心配になってきたぜ」
 一方不安げ光河は、なんとか食べきって。
「達成感があってうれしいぜ !これでもふ助に何かお土産でも買って行くか」
 とご満悦。
 そして、最後にダイリンは、眼を血走らせながらも、なんとか完食したようで
「ぃよっしゃぁ! なんとか食べきったぞ!! ‥‥ぁー、口が麻痺してなんだかよく分からん」
 とりあえず酒だ酒、と豪儀に追加注文をするのであった。

「取材も終わったし、ボクも地獄鍋一つ下さい!」
 三者三様の様子を取材し終わった蒼井、自分も果敢挑戦。
「って、赤! 市場で見たときよりも赤っ! ‥‥でも、匂いは良い感じ、かな? これなら‥‥」
 そういってひょいと一口たべたところ、脳天貫く地獄の辛さで、声にならない悲鳴を上げて。
「‥‥‥いちばんいいおみずをたのむ」
 なぜか良い笑顔で降参するのだが、そんな様子をみて思わずアリエスは
「大丈夫? すごい悲鳴だったけど」
「‥‥うん、予想の壁を突き抜ける辛さだったからびっくりして‥‥」
 といいつつ、アリエスは自分の鍋をぺろりと完食。汗一つ書かないその様子に蒼井も驚くのだった。
「うん、刺激的な辛さだけど素材の味を殺してなかったね。とっても美味しかったよ」
 そういって持参した大福を皆に振る舞うのだった。

 そして、皆が大福を片手に休んでいれば、最後のお客の姿が。
 ベルナデット東條(ib5223)は、地獄鍋の香りにすでに腰が退け気味なのだが。
「‥‥これが甘い匂いだったら天国であっただろうが‥‥、この目にしみるほどの匂い‥‥」
 無事に帰れるであろうかと内心心配する東條は、不安そうに店内に踏み込むのだった。
 皆が見守る中、東條も地獄鍋を注文。そして運ばれてくる真っ赤な鍋に、
「これが、とまとすーぷだったら、まだよかったのに‥‥‥」
 と絶句するのだが、いよいよ意を決して食べ始める東條。
 みるみるうちに汗をかいて眼を血走らせつつも、頑張って食べていたのだが‥‥、
「うぅ‥‥ぐすん‥‥辛いよ〜‥‥ひっく」
 と、唐突に泣き出しながら、しかもなかなかの勢いで食べ続けるのだった。
 店内に残っていた開拓者達はみな唖然とさせたまま、東條は見事地獄鍋を完食するのだった。

●閉店後
 閉店後、そこはまた別の地獄絵図が繰り広げられていた。
「‥‥一体どれ程の殺人料理を出したのか、身を持って味わって頂く」
 けろっとしてそう熊二郎と三郎に言うのは東條。どうやら泣いたことはさっぱり記憶にないようで。
 それはともかく、地獄鍋には復讐と相成ったわけである。
 食べられた人間も食べきれなかった人間も、店主たちも同じ気持ちを味わって貰わねばと特製鍋を作成。
 結果、アリエスらの手によって特別製の激辛鍋が完成したのであった。
 蒼井が手に入れた特別に激辛のトウガラシ、光河の生姜やらカブやら。
 そして、なぜかアリエスが投入した大福やらで煮えたぎるぐつぐつの怪しげな鍋。
 匂いをかいだ光河が、
「うがああぁーー! 今になって激辛が戻ってきた−!」
 と悶絶したり、
「でも、こっちも良い匂い‥‥一口だけなら‥‥‥(ぱたり)」
 と味見をしてみた蒼井が一口で昏倒したりと大わらわの中で、熊二郎と三郎は鍋の餌食となるのだった。
 ちなみに、熊二郎。今回の発端の彼は、大の甘党。泣きながら鍋を食べるハメになって。
 そして三郎は、アリエスなみの辛党。平然と辛い鍋を食べて、妙にアリエスと友情が芽生えかけたり。
「‥‥そういえば天儀には『闇鍋』なる風習があると聞きました。これがそうなのですね‥‥」
「‥‥マテーリャさん。たぶんこれはちがうと思うよ?」
 興味津々のマテーリャに思わずつっこむ復活した蒼井。
「では、これを食べても鍋将軍にはなれないのですか?」
「‥‥うん、これは単なる罰ゲームさ。おや、熊二郎さんが大福大当たり? おめでとうー」
 アリエスがそう答えていれば、泣きながら鍋をつついていた甘党の熊二郎がなぜか大福を鍋から発見して。
「これに懲りたら美人に鼻の下を伸ばしちゃダメだよ」
 そういわれて、三郎にもうんうんと頷かれれてみたりで。
 そしてその後もダイリンが振る舞う桃の酒とともに、三熊酒場は閉店後も大いにもりあがるのだった。