巨大な敵
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/07 20:41



■オープニング本文

 新年の気分も抜けきらない一月の中頃、ギルドに一つの依頼が舞い込んだ。
 それは、緊急のアヤカシ退治であった。
 ギルドの依頼は、依頼人が持ち込むものもあれば、ギルドから出されるものもある。
 今回は後者、ギルドによって出されたアヤカシ討伐依頼のようである。

 倒すべきアヤカシは、岩人形と呼ばれるものだ。
 岩で出来た大きな人型のアヤカシで、その膂力と回復力が武器である。
 しかし、頑丈さにおいては脅威であるものの、知能はそれほど高くなくつけいる隙も多い。
 なかなかの強敵ながらも熟練の開拓者が複数で連携し対処すれば、十分に勝機はあるのだ。
 しかし、今回その依頼書には朱墨で注意書きが添えてあった。

 「注意:通常の個体よりもさらに巨大であるために、危険性・緊急性ともに高し」

 アヤカシの事前調査を行ったギルドの依頼調役、庄堂巌によれば通常個体の倍ほどの巨体とか。
 現在は、武天の山間部の谷底で足止めを食っているよう。
 どうやら、その巨体が邪魔して、谷底から這い上がれない模様とか。
 しかし、放置するわけにはいかない。
 強敵であるが、開拓者達はなんとしてもこの脅威を排除しなければならないのである。

 さて、どうする?


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
ロウザ(ia1065
16歳・女・サ
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
鶯実(ia6377
17歳・男・シ
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
風和 律(ib0749
21歳・女・騎
アル・アレティーノ(ib5404
25歳・女・砲


■リプレイ本文

●索敵
「みんな いそぐ! はやく いく!」
 武天の山中を急ぐ数名の開拓者。その先頭を行くのはロウザ(ia1065)だ。
 険しい山道もなんのその、ロウザは強敵との遭遇にわくわくのよう。
 そんなロウザは足取りも軽く山道を突っ切っていたのだが、不意にぴたりと足を止めて。
「ロウザさん、どうかしましたか?」
 ロウザの後について進んでいたシノビのペケ(ia5365)がそう聞けば、ロウザは頷いて。
「うん 見つけたぞ! わかった! あいつ いし だ!」
 にかっと笑いながら言うロウザの視線の遙か先。
 谷底にはうずくまるようにして標的が鎮座しているのだった。

 今回の依頼は単純なアヤカシ退治だ。
 そのため、一行はすでに知らされていた情報から簡単な作戦を立ててきていて。
「むむむっ、デカイって聞いてはいましたが‥‥ド迫力ですね、巨大岩人形」
 ペケはなにやら束ねた縄を準備しつつそう言って。
 一同は、すでに岩人形の間近まで忍び寄っていた。
 岩人形はその巨体故にこの谷底で足止めを食っているようで。
「こんなもんが人里に乱入したら、面白すぎて全く洒落になりませんよ」
「こういうゴツいやつ大好きなんだけどねー。でも洒落にならないのはたしかだね」
 ペケに賛同しつつ、でっかいなーおおきいなーと感嘆しているのはアル・アレティーノ(ib5404)。
 彼女もペケに手を貸して縄を数本束ねて用意しているようで。
 今回の作戦の要はこの手製の太い縄。それを何本も束ねて、長く繋いでかなりの量を用意しているようで。
 一同は岩人形を刺激しないように手早く準備を進めるのだった。
 一方、静かに岩人形の様子をうかがっている面々もいた。
「‥‥だめだな。やはり核は見付からないな」
 琥龍 蒼羅(ib0214)は、そういって振り向けば、
「そうですか。でも、こんな大きな岩人形は初めてです‥‥暴れられたりしたら、すごく危なそうですね」
 そう鈴梅雛(ia0116)が答えた。
 相手はその巨体故に、攻撃力・耐久力両方の高さが予想できる。
 となれば、急いで弱点を突いて倒さなければ、相手の攻撃力の高さから不利を強いられるだろう。
 そのため、琥龍や鈴梅は弱点の核を探していたのだが見付からないようで。
「大抵のゴーレムであれば、核を破壊すれば倒せるのですが‥‥内部にあるのでしょうか?」
「ああ、おそらくは‥‥そして、内部にあるとなれば末端ではなく、やはり頭部か胴体だろうな」
「では、やはり最初の作戦の通り、罠をしかけるしかありませんか‥‥」
 ぐっと拳を握る鈴梅。それもそのはずである。
 アルやペケが用意している罠に巨大な岩人形をはめると言うことはその誘導役が必要と言うことだ。
 つまり強力な敵の攻撃に身をさらす囮役が必要と言うことで、それを鈴梅は心配しているのだが。
「ふむ、やはり時間稼ぎが必要か。まあ、敵の攻撃を受けるのが騎士の本懐だ。文句もない」
 しかし、不安げな鈴梅に風和 律(ib0749)がそう答えて。
「騎士の不屈、貫いてみせるまでだ」
 頼もしい風和に、鈴梅は小さく笑みをむけるのだった。

「でかぶつとの総力戦‥‥しかもアタシが目立てるポジション‥‥いーわね、盛り上がってきたじゃないっ」
 そう言ってにやりと微笑むのは、鴇ノ宮 風葉(ia0799)だ。
 準備を完了した一行はいよいよ作戦開始と相成って、鴇ノ宮も意気揚々とそんなことを言って。
 だが、そんな彼女を心配げに見やるのは、鶯実(ia6377)だ。
「主〜、無茶はしないで下さいよ?」
「あによ、アタシじゃ不満だってーの? 他人の心配より、アンタこそ真面目に戦いなさいよね」
 きっぱりとやり返されて、鶯実は肩をすくめ、
「ええ、もちろん足手まといにならないように、頑張りますよ」
 飄々と言い返して、鶯実は煙管の灰をぽんと落とすと、戦闘準備を整えるのであった。

●遭遇
「そんじゃま、いっちょやりますか♪」
 銃を銃架でささえて設置しながら、アルがそう言うと同時に一同は一気に行動を開始した。
 後方に配し、銃を構えるアルの側には鴇ノ宮。符を構え臨機応変に対応する予定で。
 その僅か前方に、小柄な鈴梅の姿。戦闘力が低めの巫女とはいえ援護のための距離を保っての位置取り。
 そして、その前方で、一気に他の5名が散開。いよいよ戦闘開始である。
「いくぞ! おおあばれだ!!」
 一番先頭を行くのはもちろん野生娘のロウザだ。
 バトルアックス片手に一直線に敵の元へ、すると岩人形もこちらに気付いたようでゆっくりと動き出す。
 咆哮を上げるわけでもなく、ただずしりと身体を持ち上げ、一歩踏み出したのだが。
 ずしんと巨大な岩が地を叩く音が響けば、その脅威は推して知るべしで。
 真っ向から攻め寄るロウザ、それを迎えて大きく開いた手を伸ばす岩人形。
 なんとロウザはそれを真正面から迎撃! ガチンと凄まじい音がして斧が岩人形の手に激突して火花を散らす。
「わはは! やっぱりおまえ かたい! それ じゃくてん!!」
 おそらくは硬度があるからこその脆さについて言っているのだろう。
 ともかく、ロウザはなんと岩人形の至近距離に立ちふさがったまま、乱打戦へと持ち込むのだった。

 もちろん、彼女単独では数合と持たないだろう。
 そこを援護するのは周囲の面々だ。
 得意の刀を今だけは鞘に収め、かわりに手裏剣を手に琥龍は援護の構え。
 抜刀の技法そのままに、高速度で放たれる手裏剣でもってロウザの後方からの援護射撃だ。
 同時に、周囲を舞う二つの影。シノビの2人は縦横に戦場を動き罠の準備についていた。
「鬼さんこちら、手のなる方へ〜♪」
 誘導役の鶯実、的確に放たれる手裏剣で岩人形の注意をひきつつ、紙一重の立ち回り。
 つかず離れずの距離を保って、時折岩人形の放つ豪快な一撃を辛くも早駆と木葉隠で回避して見せて。
「‥‥デカい図体の割になかなか身軽ですね‥‥これは骨が折れます」
 もう1人のシノビ、ペケは足に縄を絡ませようと狙っていて。
 しかし、巨大な岩人形はその足の大きさも並ではない。
 まるで巨大な2本の柱のような足、それがかなりの速度で動き、時には蹴りを放つ。
 それに縄を絡めようとするのはかなりの難易度で、頑丈で太い縄を用意したことで更に難しいようで。
 しかし、悠長に事を構えている暇は無い。
 攻めのロウザと守りの風和で前衛を固め、今は何とか凌いでいるのだが、それも限界があるだろう。
 そこで、一気呵成にペケは罠を仕掛けるために、合図の焙烙玉を放ったのだった。

「よっし、これこそがスナイパーの仕事ってね!」
 遠方からの援護射撃、合図と同時にアルの狙撃が岩人形の顔面に命中。
 そこに感覚器官があるのかどうかは怪しいが、身体の上端を撃たれたことで岩人形は僅かにぐらつく。
 同時に、一気に近づいて足止めするかのように足関節へ手裏剣を放つのは琥龍だ。
「狙い撃つ‥‥」
 鶴の鳴き声のような音を発して放たれた手裏剣が足を穿てば、岩人形の歩みが止まって。
 その隙に、一気にペケは縮まる輪の形に結んだ縄を引っかけて引こうとするのだが、
「ぺけ きおつける!!」
 ロウザの声が飛ぶ。なんと岩人形は、ペケに気付いていたようで、真上から岩の拳を叩きつける!
 だが、そこに一瞬早く割り込んでいたのは風和だ。
「攻撃の始点が分かっていれば、受け流せる!」
 超重量級の拳をなんと風和は受け流した!
 頑丈な大剣を利用してのソードブロック、盾のように地に突き立てた剣の背で攻撃を受け流す技の冴え。
 そしてペケは風和の援護を受けて、一気に縄を引こうとしたのだが、
「‥‥くっ、片脚が‥‥」
 縄は岩人形の片脚だけを捉え、片脚は外れてしまった。
 作戦失敗か、と思われたのだが、まだ皆は諦めていなかった。

●激戦
「まだまだー! 休まず行くよ〜」
 砲術士のアルは、砲術士のみが可能な速度の再装填で射撃を連射。
 まずは捉えた方の足を動けなくするように膝頭を狙っての同一点射撃。
 同時に、ソードブロックで拳の一撃を受け流した風和は、次の行動に移っていた。
「膝を潰せば‥‥すぐには動けまい!」
 オーラドライブを発動させたまま、縄にかからなかった方の足の膝を狙ってのグレイヴソード。
 足を両断せんばかりの強烈な一撃に、再度岩人形の動きが止まる。
「ペケくん、今です!」
 声を発したのは鶯実、次の瞬間ペケは奔刃術で高速移動しつつ縄をかけ損なった足にもう一度縄をかける。
 そして、同時に鶯実が岩人形の足下にいる風和の手を取ると、早駆を使って離脱。
 いつも通りには行かなかったようで、大きく距離を取れなかったが、鶯実と風和が岩人形から離れると。
「ちから くらべる!! がるううううう!!!」
 ペケから縄を受けとったのはロウザだ。
 強力と鬼腕を全開で、その膂力を発揮するロウザ。踏みしめている地面が凹むほどの力比べだ。
 だがしかし、両足を束ねられて強力な縄が絡んだ岩人形に勝ち目は無かった。
 一端傾けば、あとは一瞬。辛うじてペケ、鶯実、風和そして琥龍が離れ終わった次の瞬間。
 轟音を立てて、巨大な岩人形は地面に引き倒されたのだった。

「わはは! だいせいこー!!」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶロウザだが、その手には縄を全力で引いたため血が滲んでいて。
 しかし、即座にそれをいやしたのは鈴梅だった。
「怪我、大丈夫ですか? すぐ治しますから」
 閃癒を使って一同の傷を多少回復させる鈴梅。
 直撃を喰らっていないとはいえ、一同攻撃を回避しても飛び散る岩やその余波で怪我を負っていたのだ。
 しかし、鈴梅の援護で一同は再び万全の体制、そして一気に開拓者の反撃が始まったのだった。

「さぁ、回復が追いつかないぐらい一気にたたみかけるよ!」
 アルは再び射撃を連射、頭部に胸部へと連続で射撃を叩き込めば、
「‥‥いま胸を庇ったな。ならば邪魔なのは右腕だ」
 手裏剣を巨大な野太刀に持ち替えた琥龍は、その斬龍刀「天墜」を片手に一気に距離を詰めると、
「見切り、断ち斬る‥‥。斬竜刀・抜刀両断」
 倒れ込んでも戦意を失わずその腕を振り回していた岩人形の片腕を見事に両断するのだった。
 すでに、その両腕は開拓者達の攻撃を何度も受け、脆くなっていたのもあるだろう。
 長大な刀の刃が通過した次の瞬間、見事な切れ味を見せて斬り飛ばされる岩人形の右腕。
 そして、同時にその左腕には風和とペケが。
 倒れ込んで動きの制限された岩人形の腕に、風和の剣とペケのポールハンマーが命中。
 こちらも波状攻撃で破壊され、ついに岩人形の胴体を守る腕は両方とも使用不能に。
 そこで、真っ向から突貫したのはまたしてもロウザ。
 戦斧を手に、飛び上がると岩人形の胸に向かって大車輪の一撃!
 身体ごと一回転して放った渾身の一撃は、頑丈な岩人形の身体にも亀裂を走らせて。
「それ おわりのしるし! おまえ くだけちる!」
 高らかに吼えるロウザ。それに答えるように、鶯実が
「主〜、でかいのドカンとお願いしますよ〜」
 といえば、
「やっとあたしの出番ね! 待ちくたびれたわ!」
 鴇ノ宮がそう言いながら術の射程まで近づけば、丁度胸部の岩が剥がれて中の核が見えて。
「さぁて、アタシの一撃が何処まで届くか、アンタの身で試したっていーわよね?」
 にやりと笑って、符を引き抜く鴇ノ宮。陰陽符は、黒炎を上げて灰と化し、
「‥‥答え? 聞いてないわよそんなの!」
 そして最強の一撃である、神楽舞「心」と隷役で強化された蛇神を叩き込むのだった。
 現れた巨大な蛇の姿の式神が、まっすぐに岩人形の胸を穿てば、攻撃で脆くなった胸部を貫通。
 見事核を粉砕して、岩人形はその動きを止めるのだった。

●急速
「皆さん、怪我はありませんか? 軽い怪我でも、遠慮無く言って下さいね」
 無事、岩人形を倒した一同は、戦闘後しばしの休憩中で。
 みんなの間をくるくると忙しげに歩いて、怪我を癒しているのはもちろん鈴梅だ。
 直撃は一つもなかったが、もしそれを受けていればただではすまなかっただろう。
 全員が無事に済んだことに鈴梅はほっと息をつきつつ、小さな怪我を一生懸命治療していて。
「まっ、確かにデカくて強かったけどあたしらの敵じゃなかった、ってことかな?」
 上機嫌なアルはそう言いながら銃を整備していて。
 遠距離からの見事な射撃で援護したアルは、倒れ伏してただの岩の塊に戻った岩人形を見つつ、
「でも、でかすぎて狙いをあんまりつけなくて良かった、ってのは不満点だな」
 そんなアルの軽口に、やっとみんなは力を抜いて笑いあうのだった。

 今回は巨大とはいえ単独だったからこそ、上手く罠にかけて動きを制限することが出来た。
 その結果、見事に弱点を突いて、核を破壊することが出来たのだが、これが複数ならどうだったろう。
 最近、ますます激しさを増すアヤカシ達の侵攻に、一同は改めて気を引き締めて。
 だが無事強敵を倒した一行は、今だけは心安らかに帰路につくのだった。